説明

中空担体の表面上でセルロースを産生する微生物の培養および少なくとも35%の酸素レベルを有するガスの供給による中空セルロース管の調製プロセス

本発明は、微生物によって産生される中空セルロース管の調製のための改良された方法、およびこの方法によって調製される中空セルロース管に関する。本方法は、中空担体の外面上で行われるセルロースを産生する微生物の培養、および中空担体の内側での酸素含有ガスの供給を特徴とし、酸素含有ガスは大気中酸素よりも高い酸素レベルを有する。本発明の中空微生物セルロース管は、改善された機械特性を特徴とし、尿道、尿管、気管、消化管、リンパ管または血管等の内部中空器官を置換または修復するための外科的手順において使用されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物によって産生される中空セルロース管の調製のための改良方法、およびこの方法によって調製される中空セルロース管に関する。本発明の中空微生物セルロース管は、尿管、気管、消化管、リンパ管または血管等の内部中空器官の代替として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
例えば、軟骨組織および脂肪形成(lipoplastic)のための組織移植同様に、腹壁、皮膚、皮下組織、器官の組織移植、消化管の組織移植、ならびに食道、気管および尿道の組織移植等の外科的な適用において、生体材料として微生物によって産生されたセルロース(以下、「微生物セルロース」と呼ぶ)を使用することは、例えば特開平3−165774から周知である。更に生産プロセスにおいて、微生物セルロースを例えば薄膜、棒、円柱および板などの形状で、それぞれの適用向けに形成できることは、(例えば特開平8−126697、ヨーロッパ公開公報186495、特開昭63−205109、特開平3−165774から)公知である。
【0003】
更に、人工血管が酸素透過性の中空支持体(例えば、セロハン、テフロン(商標)、シリコン、セラミック材、不織布、繊維)上に培養される微小管腔の代用血管として、成形した生体材料を使用することは、特開平3−272772およびヨーロッパ公開公報396344から公知である。中空微生物セルロースを産生する前述のプロセスは、酸素透過性の中空支持体の内面および/または外面上でセルロースを合成する微生物の培養を含み、該支持体は、セロハン、テフロン(商標)、シリコン、セラミック材から、または不織布材および織布材から構成されている。酸素透過性の該中空支持体は培養液に挿入される。セルロースを合成する微生物および培養基を、中空支持体の内側および/または外側に追加する。培養は、更に中空支持体の該内側および/または外側に酸素ガス(または液体)を追加して行われる。0.01〜20mmの厚さのゼラチン状のセルロースは、中空支持体の表面上に生ずる。
【0004】
ヨーロッパ公開公報396344に記載されている中空微生物セルロースを産生する別のプロセスは、異なる直径の2つのガラス管によって製造するものである。ガラス管を互いに挿入し、微生物の培養を2つの管壁間の空間において30日以内に行う。その結果が、中空筒状体の微生物セルロースであり、そのイヌの代用血管試験により、血液適合性および抗血栓特性について評価した。イヌの下行大動脈および頚静脈の一部を、2〜3mmの内径を有する人工血管に置き換えた。1か月後に人工血管を摘出し、血餅の付着の状態に関して調べた。縫合の範囲において血餅の沈着があり、血餅のわずかな付着が人工血管の内側表面全体にわたって観察された。
【0005】
国際公開公報01/61026、および(Klemm他、Prog. Polymer Sci. 26 (2001) 1561-1603)は、筒状ガラス基質内でのセルロースを産生する細菌の培養により成形した生体材料を、具体的には顕微手術に適用するために、直径1〜3mm以下の代用血管として産生する方法について記述している。この方法は、劣った機械特性(例えば低破裂圧力)のため、大血管の代替物としてはあまり適さない、水平層構造を備えた微生物セルロースを産生する。
【0006】
国際公開公報89/12107は、気液界面で微生物セルロースを産生する様々な方法について記述している。バブリング、撹拌によって細菌が利用可能な酸素の濃度を増加させることにより、または雰囲気ガス環境において酸素の圧力または濃度を増加させることにより、セルロースの収率を改善できることが示唆されている。
【0007】
米国特許公報6017740およびそれに対応するヨーロッパ特許公報0792935は、通気し、撹拌した発酵タンク内での細菌セルロースの産生プロセスについて記述している。増加した酸素圧および含量の使用により、微生物セルロースの収率を増加させることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−165774
【特許文献2】特開平8−126697
【特許文献3】ヨーロッパ公開公報186495
【特許文献4】特開昭63−205109
【特許文献5】特開平3−165774
【特許文献6】特開平3−272772
【特許文献7】ヨーロッパ公開公報396344
【特許文献8】国際公開公報01/61026
【特許文献9】国際公開公報89/12107
【特許文献10】米国特許公報6017740
【特許文献11】ヨーロッパ特許公報0792935
【発明の概要】
【0009】
本発明は、中空担体の外面上でセルロースを産生する微生物を培養することにより中空微生物セルロース管の再現性のある調製を可能にする、中空微生物セルロース管の調製のための改良方法を提供することを主な目的とする。本方法は、中空担体の内側での大気中酸素よりも高い酸素レベルのガスの供給によって実行される培養を特徴とする。結果として生じる微生物セルロース管は、高機械抵抗、高破裂圧力、高貫入抵抗を特徴としている。
【0010】
本発明によれば、微生物によって産生されたセルロースを含む中空セルロース管が提供される。中空微生物セルロース管は、高酸素透過性を特徴とする非多孔質材で構成される中空担体の外面上で、セルロースを産生する微生物を培養することにより得られる。
【0011】
酸素は、産生される微生物セルロースの収率における限定因子であることが報告されている(Schramm & Hestrin J. Gen. Microbiol. 11 (1954) 123-129)。これに反して、Watanabe他(Biosci. Biotechnol. Biochem. 59 (1995) 65-68)は、大気よりも高い気相中の酸素分圧が細菌セルロースの産生を阻害することを報告している。
【0012】
本発明者は、優れた機械特性を備えた微生物セルロースの産生を可能にする、セルロースを産生する微生物に対する適切なレベルの酸素の連続供給を特徴とする中空微生物セルロース管を産生する新たな方法を考案した。本発明の方法によって提供されるような、セルロースを産生する微生物に対する適切なレベルの酸素の連続供給は、セルロースの収率を増加させるだけでなく、より重要なことには、改善された機械的特性を備えた微生物セルロース管の産生をもたらす。このことは、実施例2において更に記載されているように、増加した酸素比で本発明に従って産生された微生物セルロースチューブの破裂圧力の著しい増加から明白である。
【0013】
最も重要なことには本発明の方法は、(実施例1および図5において図示されるように)セルロースが管の壁に対して平行に層になり、(実施例2において実証されるように)内側の層が高貫入抵抗を生ずる高密度を有する、中空微生物セルロース管を提供する。
【0014】
それゆえ、本発明に従って産生された微生物セルロース管は、当技術分野において記載される方法に従って産生された微生物セルロース管と比較して、優れた機械特性を有する。
【0015】
本発明の方法は、前述の方法と比較して、より短い培養期間を更に可能にする。
【0016】
例えば、Klemm他(WO01/61026A1、Prog. Polymer Sci. 26 (2001) 1561 -1603)によって記述された方法は、劣った機械特性を備えた管を生じ、管の壁に対して垂直に層になったセルロースを備えた微生物セルロース管をもたらす。この方法における培養期間は14日間である。
【0017】
産生される中空微生物セルロース管は、任意の大きさ、直線状、先細りおよび/または分岐したものであってもよい。
【0018】
本発明は、生体との適合性に優れた機械特性を有し、人工血管等の人工管として使用可能な人工生体管を提供することを別の目的とする。
【0019】
細菌セルロースチューブの管腔での内皮細胞の培養は、内皮細胞の融合層が7日後に形成されることを示し(実施例3)、生物医学的適用および心臓血管での適用において、特に人工血管等の人工管として使用される本発明の微生物セルロース管およびチューブが、非常に良好な生体適合性および適応性を有することを証明する。本発明の管およびチューブは切開でき、そのように形成されたパッチは、例えば心臓血管への適用に際し自生血管を修復するためのパッチとして使用される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】発酵管を示した図である。A)(1)ガス注入口、(2)接種チューブ、(3)プラグ、(4)酸素透過性材料で構成される中空担体、(5)パイレックス(商標)ガラス管、(6)セルロースを産生する細菌を含む培養培地、(7)プラグ。B)(1)ガス注入口および中空担体のホルダー、(2)接種チューブ、(3)ガスケット、(4)酸素透過性材料で構成される中空担体、(5)パイレックス(商標)ガラス管またはステンレス鋼のチューブ、(6)培養培地。
【図2】微生物セルロースチューブの画像を示した図である。A)長い直線状チューブ。B)分岐チューブ。C)異なる直径の複数のチューブの横断面図。
【図3】A)酸素100%で増殖した微生物セルロースチューブのSEM(走査電子顕微鏡)画像、B)酸素35%で増殖した微生物セルロースチューブのSEM画像。
【図4】A)酸素35%で増殖した微生物セルロースチューブの内面のSEM画像、およびB)酸素35%で増殖した微生物セルロースチューブの外面のSEM画像。
【図5】SEMで観察した細菌セルロースチューブの横断面図。A)酸素20%で増殖した微生物セルロースチューブ、B)酸素35%で増殖した微生物セルロースチューブ、C)酸素50%で増殖した微生物セルロースチューブ、およびD)酸素100%で増殖した微生物セルロースチューブ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一つの実施形態は、中空担体の外面上にセルロースを産生する微生物を培養することにより、中空微生物セルロース管を調製するための改良方法である。酸素含有ガスは中空担体の内側に設けられる。
【0022】
本方法は更に、大気中の酸素よりも高濃度の酸素レベルを有する酸素含有ガスを特徴とする。培養は、酸素レベル21%〜100%、35%〜100%、50%〜100%、60%〜100%、70%〜100%、80%〜100%、または90%〜100%の範囲で行われるのが好ましい。使用されるガスの残りの部分は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の任意の不活性ガスであってもよい。酸素の比率は容量百分率(v/v%)で表される。
【0023】
培養は100%の酸素レベルで行われるのが好ましい。
【0024】
酸素分圧を更に増加させるために、ガスを大気圧よりも高い圧力で(例えば、0.2、0.5、1.0、2.0または5.0バール以上に大気圧を超えた圧力で)供給することができる。
【0025】
本方法は、培養基内に垂直に位置する中空担体上に、セルロースを産生する微生物を培養することによって行われるのが好ましい。
【0026】
酸素含有ガスは、中空担体の上部、中空担体の下部、または中空担体の上部および下部の両方から同時に供給することができる。適切な発酵管の例は図1において概説される。
【0027】
本発明の微生物セルロース管の産生方法は、更に、10日未満(7日未満等)の培養期間、または5日もしくはそれ未満の培養期間を特徴とする。
【0028】
該方法は、酸素透過性の非多孔質材で構成される中空担体上にセルロースを産生する微生物を培養することによって実行されるのが好ましく、この材料は高い酸素透過性を有しているのが好ましい。
【0029】
透過性(P)は、拡散係数(D)および溶解度係数(S)の積である。
【0030】
【数1】

【0031】
材料の酸素透過性は、材料の極性、結晶度およびガラス転移温度(Tg)に依存する。酸素は疎水性ガスであり、従って非極性材料は極性材料よりも高い酸素溶解度を有し、その結果より高い酸素透過性を有する。低い結晶度の材料は、高い結晶度の材料よりも高い酸素透過性を有している。従って、低Tgの材料が好ましい。
【0032】
ジメチルシリコンは、様々なガスが迅速にそれを透過可能な能力を有する。この現象は、主として、シリコン鎖の柔軟なシリコン−酸素−シリコン連結部位、およびシリコンゴムにおける結晶度の欠如に起因する。技術的に言うと、非多孔質材を介する透過のプロセスは、実際には3段階の活性である。多孔質材が分離方法としてサイズ排除を使用する一方、非多孔性膜が透過の発生を許容するプロセスは、目的に対してはるかに複雑な手段である。これらの工程は、材料への吸着、材料を介する拡散、および透過性ガスによる材料からの脱離である。透過率は、透過性ガスの拡散係数および溶解度係数の積である。ジメチルシリコンに対するガスの溶解度係数は、大部分のポリマーの溶解度係数に匹敵するが、シリコンを介する拡散率は、他のどの膜ポリマーよりもほぼ一桁大きい。従って、ジメチルシリコンのガスの急速な運搬は、溶解度ではなく高拡散率に起因する。
【0033】
中空担体を構成する材料の酸素透過性は、好ましくは0.1・10-7(cm3/cm2/cm/s)以上、1・10-7(cm3/cm2/cm/s)以上、2・10-7(cm3/cm2/cm/s)以上、より好ましくは5・10-7(cm3/cm2/cm/s)以上、更により好ましくは10・10-7(cm3/cm2/cm/s)以上である。これらの値は、酸素圧1atmで1秒に厚さ1cmの1cm2標本を透過する酸素の量を表わす。従って、中空担体を構成する材料の酸素透過性は、0.1・10-7(cm3・cm/cm2・s・atm)以上、1・10-7(cm3・cm/cm2・s・atm)以上、2・10-7(cm3・cm/cm2・s・atm)以上、より好ましくは5・10-7(cm3・cm/cm2・s・atm)以上、および更により好ましくは10・10-7(cm・cm/cm2・s・atm)以上である。
【0034】
中空担体を構成する材料のガラス転移点(Tg)は、好ましくは30℃未満、より好ましくは20℃未満、より好ましくは0℃未満、より好ましくは−20℃未満、および更により好ましくは−100℃未満である。
【0035】
中空担体の壁を介する酸素の運搬が、中空担体の壁の厚さにも依存することは確かである。中空担体の壁の厚さは、好ましくは1mm未満、0.5mm未満、好ましくは0.2mm未満、または更により好ましくは0.1mm未満である。
【0036】
要約すれば、中空担体の壁を介する1cm2あたりの酸素の運搬は、供給される酸素含有ガスの酸素レベル、供給される酸素含有ガスの圧力、中空担体を構成する材料の酸素ガス透過性の積を、中空担体の壁の厚さで割ったものである。
【0037】
本発明者が示すように、微生物セルロース管の機械特性は、中空担体の壁を通した酸素運搬のレベルに依存する。より高い酸素運搬が高い機械強度の微生物セルロース管をもたらす。
【0038】
微泡の拡散を介してではなく酸素の分子拡散を介して、中空担体の内側から外側への酸素交換が行われる必要がある。セラミック材、織布、ePTFEのような多孔質材は、中空担体の材料を介した微泡の通過を可能にする。中空担体の外側での気泡の形成は、微生物セルロースの形成を妨害し、よって形成された中空微生物セルロース管の欠陥をもたらす。
【0039】
中空担体は非多孔質材によって構成されるのが好ましい。非多孔質材とは、細孔、チャンネルおよび亀裂のない材料を意味する。中空担体は、ジメチルシリコン、ビニルメチルシリコン、フルオロシリコン、ジフェニルシリコン、またはニトリルシリコン等のシリコン重合体によって構成されるのが好ましい。シリコン重合体はポリシロキサンとも呼ばれる。
【0040】
中空担体の外面上に微生物によって形成されたものは、中空担体の外面のレプリカである内面を有するので、中空担体の外面は、細孔および亀裂または他の不規則性のない平滑表面を有することが好ましい。
【0041】
好ましくは、本方法は、分岐した中空担体上にセルロースを産生する微生物の培養することによって行われ、分岐した中空微生物セルロース管の産生に至る。
【0042】
本発明によれば、微生物によって産生されたセルロースを含む中空セルロース管が提供される。中空微生物セルロース管は、好ましくは本発明の方法のいずれかによって産生可能である。
【0043】
本発明は、管壁に平行な、層を成したセルロースからなることを特徴とする中空微生物セルロース管を更に提供する。
【0044】
本発明の中空セルロース管は、高貫入抵抗を特徴とする微生物セルロースから構成される。貫入抵抗は、好ましくは250N/mm2以上、300N/mm2以上、500N/mm2以上、およびより好ましくは700N/mm2以上たとえば1000N/mm2以上である。
【0045】
本発明の中空微生物セルロース管は、微生物セルロースチューブの形態が好ましい。
【0046】
本発明は、本質的に微生物セルロースからなるチューブを提供することを別の目的とする。好ましくは、本発明の微生物セルロースチューブは、本質的に本発明に記載の微生物セルロース管からなる。
【0047】
本発明の中空微生物セルロース管は、任意の大きさ、直線状、先細りおよび/または分岐したものであり得る。中空微生物セルロースの大きさおよび構造は、中空担体の大きさおよび構造によって決定される。
【0048】
分岐した中空担体を使用することにより、分岐した微生物セルロースチューブを得ることができる。先細りの中空担体の使用によって、先細りの微生物セルロースチューブを得ることができる。
【0049】
本発明の微生物セルロースチューブは、高破裂圧力を特徴とする。破裂圧力は、好ましくは100mmHg以上、150mmHg以上、250mmHg以上、300mmHg以上、400mmHg以上、500mmHg以上および、より好ましくは800mmHg以上である。微生物セルロースチューブは、本発明の方法によって産生可能である。
【0050】
本発明の微生物セルロースチューブは高貫入抵抗を特徴とする微生物セルロースから構成される。貫入抵抗は、好ましくは250N/mm2以上、300N/mm2以上、500N/mm2以上、より好ましくは700N/mm2以上たとえば1000N/mm2以上である。
【0051】
本発明の微生物セルロース管および微生物セルロースチューブは、動物または人体の管を置換する外科的手順において、例えば、人工血管、尿道、尿管、気管、消化管またはリンパ管として使用することができる。
【0052】
本発明の微生物セルロース管および微生物セルロースチューブは切開でき、動物または人体の管(例えば、血管、尿道、尿管、気管、消化管、またはリンパ管)を修復するために、外科的手順において使用される微生物セルロースのパッチを形成できる。
【0053】
従って、本発明は、本質的に本発明に記載の切開した微生物セルロース管からなる人工生体パッチを提供する。
【0054】
本発明の更に別の目的は、生体との非常に優れた適合性および優れた機械特性を有する人工血管を提供することである。本発明の人工血管は、本発明の方法によって産生することができる。本発明の人工血管は、本発明の微生物セルロースチューブからなっていてもよい。
【0055】
本発明において、任意のセルロース生産微生物を使用可能である。例えば、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)、同パスツリアヌス(A. pasturianus)、同アセチ(A. aceti)、同ランセンス(A. ransens)、サルシナ・ベントリクリ(Sacrina ventriculi)、バクテリウム・キシロイデス(Bacterium xyloides)、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属細菌、およびリゾビウム属細菌が挙げられる。好ましくは、アセトバクター・キシリナムNCIB 8246 ATCC(米国培養細胞系菌保存機関)23769、アセトバクター・キシリナムNQ5 ATCC53582、またはアセトバクター・キシリナムBPR2001 ATCC7000178等であるが、これらに限定されないアセトバクター・キシリナム(グルコンアセトバクター・キシリナスとも呼ばれる)の株が使用される。
【0056】
セルロースは、上記の微生物を使用して、一般的な細菌培養法によって形成および蓄積される。すなわち、微生物を、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じて、アミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の栄養培地に添加し、20〜40℃で培養を行う。
【0057】
中空微生物管を調製する本発明の方法は、中空担体の外面上におけるセルロースを産生する微生物の培養を含む。より具体的には、中空担体を培養液中に浸し、セルロースを産生する微生物および培養培地を中空担体の外側に供給し、培養は中空担体の内側での酸素含有ガスの導入によって行う。培養がこの様式で行われるならば、厚さ0.01〜20mmを有するゼラチン状のセルロースが担体の表面上に形成される。中空担体を取り除き、専らセルロースから構成される中空形状品を得ることができる。
【0058】
このように調製されたセルロースは微生物の細胞または培養培地成分を含んでいるので、セルロースは必要に応じて洗浄することができ、この洗浄は、希アルカリ、希酸、有機溶媒および湯を単独または任意に組合せて使用することにより行われる。
【0059】
培地として、グリセロール、エリトリトール、グリコール、ソルビトールおよびマルチトール等の多価アルコール、グルコース、ガラクトース、マンノース、マルトースおよびラクトース等の糖、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、寒天、デンプン、アルギン酸塩、キサンタンガム、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、コラーゲン、ゼラチンおよびタンパク質等の天然および合成の高分子物質、ならびにアセトニトリルジオキサン、酢酸およびプロピオン酸等の水溶性極性溶媒が使用できる。これらの培地は、単独もしくは2種類以上の混合物の形態で使用することができる。更に、適切な溶質を含む溶液を培地として使用することができる。適切な培地の例は、ヘストリン―シュラム培地(Schramm他Biochem.J. 67 (1957) 669-679)(グルコース 20g/l、酵母抽出物 5g/l、ペプトン 5g/l、Na2HPO4 2.7g/l、クエン酸*H2O 1.15g/l(pH5))、CSL培地(Matsuoka他Biosci. Biotechn. Biochem. 60 (1996) 575-579)(フルクトース40g/l、KH2PO41g/l、MgSO4*7H2O0.25g/l、(NH42SO43.3g/l、ビタミン混合物1%、塩混合物1%、CSL(コーンスティープリカー)20ml/l、乳酸塩0.15%(pH5〜5.5))、ソン(Son)培地(Son他Biotechnol. Appl. Biochem. 33 (2001) 1-5)(グルコース15g/l(NH)、2SO42g/l、KHPO43g/l、MgSO4*7H2O0.8g/l、FeSO4*7H2O5mg/l、HBO33g/l、ニコチン酸アミド0.5g/l、乳酸塩6%)、またはATCC培地(酵母抽出物5g/l、ペプトン3g/l、マンニトール25g/l、寒天15g/l)である。
【0060】
3.5〜6の間の任意のpHは、本発明の方法の実施に適している。
【0061】
培養培地は、循環させて新しい培養培地と断続的に交換可能である。
【0062】
中空微生物セルロースが人工血管として使用される場合、前述のように調製された中空微生物セルロースを生体内の血管に直接代用することができるか、または中空微生物セルロースには特定の前処理を施すことができる。例えば、中空微生物セルロースの表面に対する内皮細胞の付着は、前処理として言及できる。
【0063】
中空微生物セルロースは、生体(特に血液)との非常に優れた適合性を有しており、高表面配向特性および高機械強度を有する。
【0064】
本発明は、人工血管として本発明に記載の微生物セルロース管を使用して、外科的手順を実行する方法を更に提供し、この方法は、レシピエント管を切断すること、およびレシピエント管を微生物セルロース管に取り付けることを含む。1つの好ましい実施形態において、レシピエント管は血管であり、最も好ましくは動脈である。
【0065】
本発明は、管(自生の管)を修復するために、本発明に記載の微生物セルロース管を切開することによって得られる微生物セルロースパッチを使用して、外科的手順を実行する方法を更に提供し、この方法は、レシピエント管に対して微生物セルロースパッチを付着することを含む。1つの好ましい実施形態において、レシピエント管は血管であり、最も好ましくは動脈である。
【実施例1】
【0066】
発酵
チューブの発酵は、酸素透過性材料としてシリコンチューブ(直径4×0.5mm;50ショア;レボ・プロダクション(Lebo production)社、スウェーデン)を使用することによって、70mlのガラス管中にチューブを沈めて行なった。大気圧で、異なる酸素濃度(すなわち、21%(空気)、35%、50%および100%)のガス混合物を、酸素透過性材料内に供給した。複合培地(CSL)(Matsuoka他Biosci., Biotechnol., Biochem. 60 (1996) 575-579)、およびSon他(Bioresource Technology 86 (2003) 215-219)によって記述されたわずかに修飾した合成培地を、発酵培地として使用した。グルコースおよびフルクトースの消費、ならびにpHは、標準的な酵素キット(R−バイオファーム、フード・ダイアグノスティックス(Food Diagnostics)社、スウェーデン)を使用して測定した。生合成に使用した菌株は、アセトバクター・キシリナム亜種スクロフェルメンタス(sucrofermentas)BPR2001、トレードナンバー:1700178(商標)であった。株は米国培養細胞系保存機関から購入した。6つのセルロースを形成するコロニーをラフ(Rough)フラスコ内で2日間培養し、3.7・105cfu/mlの細胞濃度を産出した。生じたBCハイドロゲルから激しい振盪によって細菌を遊離し、2.5mlを各発酵管へ追加した(図1)。発酵は5日後に完了し、前培養からのBCチューブおよびハイドロゲルは0.1MNaOH中で4時間60℃煮沸することによって精製し、その後ミリポア(Millipore)(商標)の水中で煮沸を繰り返した。BCチューブを、20分間のオートクレーブ(120℃、1バール)によって蒸気滅菌し、特性評価および凍結乾燥を行うまで冷蔵庫に保存した。重量変化が記録されなくなるまで50℃のオーブンでチューブを乾燥した後に収率を記録した。
【0067】
セルロース収率は、複合培地の酸素比の上昇によってわずかに増加する(表1を参照)。
【0068】
【表1】

【0069】
2100%での収率は、O220%およびO235%での収率より著しく高い。これはWatanabe他(Biosci. Biotechnol. Biochem. 59 (1995) 65-68)が報告した結果と相反する。

形態
走査電子顕微鏡(SEM)
チューブの内面、外面および断面の形態を検討するために、SEMを使用した。ヘト(Heto)社パワードライ(PowerDry)PL3000を使用して−52℃で24時間凍結乾燥する前に、材料を液体窒素中で凍結した。後でLEO982ジェミニ(Gemini)電界放射型SEMが行う分析の前に、乾燥した材料を金で被覆した。
【0070】
微生物セルロースチューブの画像は図2において見ることができる。より長い;より狭い;より広い;より短いシリコン支持体へ変化させると、その結果として、それぞれより長い;より狭い;より広い;またはより短いセルロースチューブを生ずる。それゆえ、Klemm他(Progress in Polymer Science 26 (2001) 1561-1603;WO 01/61026)によって報告された静的方法に従って産生された細菌セルロースの場合と異なり、長さの制限はない。更に、この発酵技術は速く、チューブの産生に約7日を要し、加えて先細りのチューブおよび分岐したチューブの産生を可能にする。
【0071】
細菌セルロースチューブの内側および外側のSEM画像は、図4において見ることができる。すべての細菌セルロースチューブは、平滑な内面および多孔性の外面を有する。より平滑な表面がECの付着および増殖を改善することが確認されており、従ってチューブの平滑な内面は有利な特性である(Xu他J. Biomed. Mater. Res. Part A, 71 (2004) 154-161)。チューブの外層のより開いた構造は、組織の内部増殖、従って身体内へのBC管の内部増殖に有利である。
【0072】
異なる酸素レベルで産生されたチューブの断面像は、層状構造を示す(図3および図5を参照)。層を成した部分の厚さは、供給ガス中の酸素レベルに応じて変化する。この部分は酸素レベル低下に応じて薄くなり、酸素100%と比較して酸素35%で約1.5倍薄く、酸素20%でおよそ2.5倍薄くなる(図5A、BおよびDを参照)。
【0073】
これは、例えばKlemm他(Prog. Polymer Sci. 26 (2001) 1561-1603)によって以前に記述されたように、増殖中の細菌セルロースが静止したときに得られる水平な層状構造と比較することができる。恐らく、血流に誘導される負荷が血管壁に対して水平なので、管の壁に平行な層を有しているほうが有利である。
【実施例2】
【0074】
機械特性
破裂圧力の測定
水柱を介して圧力を加えることによって、圧力を増加した流れを確立した。すべてのチューブを、上部、中部および下部の3箇所で検査した。管を高圧(1バール/10秒)にさらした。破裂が生じたときの圧力を記録した。

テクスチャーおよび貫入抵抗。
【0075】
テストは、TA−XT2iテクスチャーアナライザー(ステーブル・マイクロ・システム(Stable Micro Systems)社、サリー、イギリス)で行なった。チューブサンプルは、はさみにより一回の切断動作で切開した。サンプルをサンプルホルダーの穴を覆って置き、ホルダーにしっかりと固定した。直径2mmのプローブおよび5kgの荷重測定装置を使用した。貫入力は0.1mm/秒の速度で測定された。次にピーク力を記録し、異なる材料と比較した。テストは、酸素50%および酸素100%で培養したチューブで行ない、それぞれ1500Nおよび3800Nのピーク値を有していた。貫入抵抗は、各検査チューブについて、それぞれ477N/mm2および1260N/mm2であると計算することができる。

結果
機械特性の異なる2つの評価(すなわち破裂圧力および貫入抵抗)を行った。破裂圧力の結果は、収率で見られるものと同様のパターンに従う(表2を参照)。
【0076】
【表2】

【0077】
破裂圧力測定は、酸素レベルの増加に応じてチューブの強度が増すこと(すなわちより高い圧力で破裂すること)を明確に示している。酸素21%および35%で作製されたチューブは、酸素50%および100%で作製されたチューブとは著しく異なる。チューブがもし大気圧を超える酸素比で産生されるならば、チューブは例えば250mmHgの血圧を保ち、酸素100%の比率で産生される場合、880mmHgの最高値に達する。チューブが一定の圧力を保つためには、高密度の内層が必要とされることを、我々は提唱する。空気/培地境界面で内層がより高い密度であること、層の増加、および酸素比の増加は、酸素比の増加に応じた破裂圧力の増加に対する答となり得る。
【実施例3】
【0078】
細胞播種
内皮細胞(HSVEC)を、ヒト伏在静脈の健康的な部分から単離した。静脈は、冠動脈バイパス手術からの予備部分であるか、または拡張蛇行静脈の手術を受ける患者から採取されたもののいずれかであった。HSVECは酵素技術を使用して単離した。細胞をBCチューブの腔側に播種し、空気95%/CO5%の加湿雰囲気および37℃の静的条件下で7日間培養した。細胞を3.7%ホルムアルデヒド内に固定し、核は4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)(シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社)で対比染色した。
【0079】
細菌セルロースチューブの管腔上での内皮細胞の培養から7日後に、内皮細胞の融合層が得られることを示す。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図3A】

【図3B】

【図4A】

【図4B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空担体の外側表面上でのセルロースを産生する微生物の培養および中空担体の内側での酸素含有ガスの供給による中空セルロース管の調製方法であって、大気中酸素よりも高い酸素レベルを有する酸素含有ガスを特徴とする方法。
【請求項2】
酸素レベルが、35%〜100%の範囲、50%〜100%の範囲、または80%〜100%の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸素レベルが100%である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
酸素含有ガスが大気圧よりも高い圧力で供給される請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
更に、0.1・10-7(cm・cm/cm・s・atm)以上、より好ましくは、1・10-7(cm・cm/cm・s・atm)以上、および更により好ましくは、10・10-7(cm・cm/cm・s・atm)以上の酸素ガス透過性を備えた非多孔質材を含む中空担体上で実行される培養を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
更に、30℃未満(20℃未満等)、より好ましくは0℃未満(−20℃未満等)、および更により好ましくは−100℃未満のガラス転移温度を備えた材料を含む中空担体上で実行される培養を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
中空担体が培養基内での垂直に位置する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
中空担体の壁の厚さが、1mm未満、0.5mm未満、好ましくは0.2mm、または更により好ましくは0.1mm未満である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によって産生される、中空セルロース管。
【請求項10】
層を成したセルロースを含むことを特徴とする微生物セルロースを含む中空セルロース管。
【請求項11】
管の壁に平行なセルロース層を特徴とする請求項10に記載の中空セルロース管。
【請求項12】
微生物セルロースを含む中空セルロース管であって、微生物セルロースが、250N/mm2以上、または300N/mm2以上、またはより好ましくは500N/mm2以上(700N/mm2以上等)、または1000N/mm2以上の貫入抵抗を特徴とする中空セルロース管。
【請求項13】
基本的に請求項8〜12のいずれかに記載の微生物セルロース管を含むチューブであって、250mmHg以上(300mmHg以上または500mmHg以上等の)、またはより好ましくは800mmHg以上の破裂圧力を特徴とする、チューブ。
【請求項14】
直線状、先細りおよび/または分岐したものである請求項13に記載のチューブ。
【請求項15】
実質的に請求項8〜12のいずれかに記載の微生物セルロース管を含む人工生体管。
【請求項16】
実質的に請求項13〜14のいずれかに記載のチューブを含む人工血管。
【請求項17】
実質的に切断して開いた請求項8〜12のいずれか記載の切開した微生物セルロース管を含む人工生体パッチ。

【図5】
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【公表番号】特表2010−505460(P2010−505460A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529718(P2009−529718)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060451
【国際公開番号】WO2008/040729
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(509089904)アルテリオン アーベー (1)
【氏名又は名称原語表記】Arterion AB
【住所又は居所原語表記】Arvid Wallgrens Backe 20, SE−413 46 Gothenburg, Sweden
【Fターム(参考)】