説明

中空状ナノファイバーの製造方法および中空状ナノファイバー含有組成物

【課題】 直径が細く、均一な物性を有する中空状ナノファイバーを高純度で効率的に合成する。
【解決手段】 担体に担持した金属触媒と、炭素含有化合物を接触させる前に、予め金属触媒に減圧、一定温度下に、一定時間保持する熱処理を施すことにより、直径が細く、均一な物性を有する中空状ナノファイバーを高純度で効率的に合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空状ナノファイバー、特にカーボンナノチューブと定義される領域の中空状ナノファイバーの製造方法および中空状ナノファイバー含有組成物に関し、さらに詳しくは、直径が細く、物性が均一な中空状ナノファイバーを効率的に合成する製造法およびこれにより製造された中空状ナノファイバー含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブは、高い機械的強度、高い導電性を有することから、燃料電池やリチウム2次電池用負極材として、また、樹脂、金属や有機半導体との複合材料からなる高強度樹脂、導電性樹脂、透明導電フィルム、金属電解粉、セラミック複合体、電磁波シールド材の材料として期待されている。さらに、L/D(長さ/直径の比)が大きく、直径は数nmであることから、走査型トンネル顕微鏡用プローブ、電界電子放出源、太陽電池素子、ナノピンセットの材料として期待されており、また、ナノサイズの空間を有することから、水素などの吸着材料、医療用ナノカプセル、MRI造影剤の材料として期待されている。いずれの用途の場合にも、カーボンナノチューブとしては、直径が細く、物性が均一な単層や2層のカーボンナノチューブが有利であり、グラファイト層の欠陥が少ない方が特性的に優れている。
【0003】
従来、カーボンナノチューブの製造方法として、アーク放電法やレーザー蒸発法、化学気相成長法などが知られており(非特許文献1参照)、なかでも、グラファイト層に欠陥の少ない高品質なカーボンナノチューブを安価に製造する方法として、触媒化学気相成長法が知られている(非特許文献2参照)。さらに触媒化学気相成長法では、カーボンナノチューブの層数を、単層、2〜5層に制御して製造できることが知られている(非特許文献3参照)。
【0004】
上記のようにグラファイト層に欠陥の少ない高品質なカーボンナノチューブの製造に有利であり、またカーボンナノチューブの層数の制御が可能な触媒化学気相成長法では、触媒を担体に担持して行なう方法が知られている(非特許文献4参照)。その担体としては酸化物がよく用いられる。しかし、カーボンナノチューブの物性を均一にすることが難しく、特に直径の細い単層、2層カーボンナノチューブを効率的に合成することが困難であることが課題であった。
【非特許文献1】斉藤弥八、坂東俊治、カーボンナノチューブの基礎、株式会社コロナ社、p17、23、47
【非特許文献2】ケミカル・フィジックス・レターズ(Chemical Physics Letters)303(1999),117-124
【非特許文献3】ケミカル・フィジックス・レターズ(Chemical Physics Letters)360(2002),229-234
【非特許文献4】田中一義[編]、カーボンナノチューブ−ナノデバイスへの挑戦−、株式会社化学同人、p74−76
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述した従来の触媒化学気相成長法における欠点を解消し、直径が細く、物性が均一な中空状ナノファイバーを効率的に合成する製造方法および中空状ナノファイバー含有組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の製造方法は、担体に担持した金属触媒と、炭素含有化合物を接触させて中空状ナノファイバーを合成するときに、担体に担持した金属触媒を、予め圧力0.01Pa〜100000Pa、温度200〜950℃における一定温度で、5〜120分保持して熱処理を行なった後、炭素含有化合物と接触させる中空状ナノファイバーの製造方法である。
【0007】
なお、本発明の製造方法においては、金属触媒を担持する担体には、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライト、ケイ素を主成分とするメソポーラス材料のいずれかが、金属触媒には、V、Mo、Fe、Co,Ni,Pd、Pt,Rh,W,Cuのうち少なくとも1種の金属が、また炭素含有化合物には、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジエチルエーテル、一酸化炭素のうち少なくとも1つが、好ましく使用される。
【0008】
また、本発明の製造方法においては、金属触媒を温度200〜950℃における一定温度に保持する間に、その熱処理雰囲気中に、窒素、アルゴン、水素のいずれかまたはこれらの混合ガスを流すこと、金属触媒と炭素含有化合物を接触させる温度が600〜950℃であることが好ましい製造方法である。
【0009】
また、本発明の製造方法においては、製造される中空状ナノファイバー含有組成物の主成分がカーボンナノチューブ、特に2層カーボンナノチューブであることが好ましく、とりわけ直径1.0〜3.0nmの2層カーボンナノチューブが、中空状ナノファイバーの総本数の50%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、炭素含有化合物を接触する前の金属触媒を、予め減圧、一定温度下に熱処理を施したことにより、直径が細く、物性が均一な中空状ナノファイバー、特にカーボンナノチューブを効率よく合成することができる。
【0011】
また、本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、純度が高く、直径が細く、均一な物性を有する2層カーボンナノチューブを主成分とするものであり、電荷の集中が得やすく、印加電圧を低く抑えることができる。本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、電子放出材料、電池電極材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、中空状ナノファイバー、特にカーボンナノチューブと定義される領域の中空状ナノファイバーの製造方法および中空状ナノファイバー含有組成物に関し、さらに詳しくは、担体に担持した金属触媒と、炭素含有化合物を接触させて中空状ナノファイバーを製造する際に、予め金属触媒を減圧、一定温度にて一定時間保持して熱処理を行なった後に、炭素含有化合物と接触させることを特徴とする。
【0013】
担体に担持した金属触媒を、炭素含有化合物と接触させる前に、予め減圧、一定温度にて一定時間保持する熱処理を行なうことにより、熱により金属触媒の活性化が進行すると共に、一定の大きさの金属触媒の凝集塊が生成するために、これより生成する中空状ナノファイバーの物性を均一にすることができると推測される。
【0014】
本発明の製造方法において金属触媒を担持する担体は、特に限定されないが、主成分として2A族元素、4A族元素、3B族元素、4B族元素を含むものが好ましく、さらにはシリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライト、およびケイ素を主成分とするメソポーラス材料からなる群から選ばれることが好ましく、特にゼオライト、またはケイ素を主成分とするメソポーラス材料のいずれかであることが好ましい。なかでも、ゼオライト、またはケイ素を主成分とするメソポーラス材料は、チタン、ホウ素、およびジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つをケイ素との原子比で0.01以上含んでいることが好ましい。
【0015】
ゼオライトとは、分子サイズの細孔径を有する結晶性無機酸化物からなるものである。ここに分子サイズとは、世の中に存在する分子のサイズの範囲であり、一般的には、0.2nmから2nm程度の範囲を意味する。さらに具体的には、結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、あるいは結晶性メタロアルミノフォスフェート等で構成された結晶性マイクロポーラス物質のことである。
【0016】
結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、結晶性メタロアルミノフォスフェートとしては、特に種類は制限されないが、例えば、アトラス オブ ゼオライト ストラクチュア タイプス(マイヤー、オルソン、バエロチャー、ゼオライツ、17(1/2)、1996)(Atlas of Zeolite Structure types(W. M. Meier, D. H. Olson, Ch. Baerlocher, Zeolites, 17(1/2), 1996))に掲載されている構造をもつ結晶性無機多孔性物質が挙げられる。また、本発明の製造方法に使用するゼオライトは、本文献に掲載されているものに限定されるものではなく、近年次々と合成されている新規な構造を有するゼオライトも含む。ゼオライトの好ましい構造は、入手が容易なFAU型、MFI型、MOR型、BEA型、LTL型、LTA型であるが、これに限定されるものではない。
【0017】
ゼオライトは、その骨格が4面体の中心にSi又はAlやチタン等のヘテロ原子(Si以外の原子)、4面体の頂点に酸素を有するシリケート構造を有している。従って、4価の金属がその4面体構造の中心に入るのが最も安定であり、高い耐熱性が期待できる。したがって、理論的にはAl等の3価の成分を実質的に含まないか、或いは少ないゼオライトの方が、耐熱性が高い。これらの製造法としては、従来公知の水熱合成法などで直接合成するか、後処理で3価の金属を骨格から抜く方法が好んで用いられる。
【0018】
本発明の製造方法に使用する担体は、MCM−41構造を有するメソポーラス材料であることが好ましい。本発明の製造方法に使用するメソポーラス材料は、2〜50nm程度の直径を有する細孔を持つ材料である。界面活性剤と無機物質の協奏的な自己組織化により合成される。メソポーラス材料は大きい比表面積と高い安定性など、触媒や吸着剤としての優れた基本物性を有する。この様な材料のメソポーラス細孔は、担体上でカーボンナノチューブを合成する際に金属担持する細孔として有用である。代表的物質としてメソポーラスシリカが挙げられる。メソポーラスシリカの結晶構造は特に限定されないが、好ましくは、モービル社が開発したヘキサゴナル構造をもつMCM−41、キュービック構造をもつMCM−48、層状すなわちラメラ構造をもつMCM−50があり、特に規則的な六角形の細孔が平行に配列したMCM−41構造が好んで用いられる。
【0019】
またゼオライト等にメソポーラス細孔を形成することも可能であり、酸またはアルカリ処理を施して、メソポーラス細孔を形成させる方法もある。本発明の製造方法に使用するゼオライトは、このようなメソポーラス細孔を有するゼオライトであってもよい。
【0020】
酸処理とは、酸化物を酸に接触させる処理であり、使用する酸は特に限定されないが、フッ化水素酸、硫酸、塩酸、硝酸またはこれら混合物が好ましい。
【0021】
酸処理よる酸化物のメソポーラス細孔形成法は特に限定されない。例えば0.01〜1.00Mの酸の水溶液中に、1〜100gの酸化物を含浸し、温度0〜100℃で充分に攪拌して分散混合した後、水洗し、温度50〜200℃で乾燥することによりメソポーラス細孔を形成することができる。
【0022】
またアルカリ処理とは、酸化物にアルカリを接触させて、メソポーラス細孔を形成する方法であり、いくつかのアルカリによる処理を挙げることができる。使用するアルカリは特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムまたはこれら混合物が好ましい。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0023】
アルカリ処理による酸化物のメソポーラス細孔形成法は特に限定されない。例えば0.01〜1.00Mのアルカリの水溶液中に、1〜100gの酸化物を含浸し、温度0〜100℃で充分に攪拌して分散混合した後、水洗し、温度50〜200℃で乾燥することによりメソポーラス細孔を形成することができる。
【0024】
液体窒素温度での窒素の物理吸着から、本発明で用いる担体の比表面積および細孔分布を求めることができる。BET法として知られる手法を用い、減圧下に置いた担体に窒素を徐々に投入し、高真空から大気圧の窒素の吸着等温線をとり、大気圧まで到達したら徐々に窒素を減らしていき、窒素の脱着等温線をとるようにすればよい。本手法により求めた比表面積が300m/g以上であれば、その担体は多孔質であることを示し、外表面上に触媒粒子を担持しやすいことを意味する。
【0025】
細孔径が2nmから10nmの領域を含むメソポーラス部分の細孔径分布を求めるためには、通常脱着等温線を使用して計算する。細孔径分布を求める理論式としては、Dollimore-Heal法(以下、D−H法と略称)が知られている。本発明で定義する細孔径分布は窒素の脱着等温線からD−H法で求めたものである。一般に細孔径分布は、横軸に細孔径をとり、縦軸にΔVp/ΔRp(Vp:吸着した窒素を液化させた場合の体積、Rp:細孔の半径)をとることで求められるが、本発明における細孔容量は、このグラフの面積から求めることができる。細孔分布測定で2nmから10nmの領域に少なくとも一つ以上のピークを有することで、その担体がメソポーラス細孔を有することを意味し、メソポーラス細孔径に近い大きさの金属粒子を担持しやすいことを意味する。
【0026】
また、本発明は、金属触媒を担持する担体が基板の上に製膜されていてもよい。ここで、基板の種類は特に限定されるものではないが、担体を塗布する面は1mm以上あることが好ましく、1cm以上あることがさらに好ましい。その材質はガラス、石英ガラス、シリコン、金属、酸化物があげられる。基板上への担体の製膜方法は特に限定されないが、例えば、粉末状に合成した担体を後からコーティングしてもよいし、基板上にその場合成してもよい。この製膜された担体上に2層カーボンナノチューブを合成することで、2層カーボンナノチューブ基板を得ることができる。
【0027】
本発明の製造方法に使用する金属触媒の種類は、特に限定されないが、好ましくは3〜12族の金属、特に好ましくは5〜11族の金属が用いられる。中でも、V,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Pd,Pt,Rh、W、Cu等が特に好ましく、さらに好ましくは、Fe,Co,Ni,Mo,Mnが用いられる。ここで金属とは、0価の状態とは限らない。反応中では0価の金属状態になっていると推定できるが、広く金属を含む化合物又は金属種という意味で解釈してよい。また金属は微粒子であることが好ましい。微粒子とは粒径が0.5〜10nmであることが好ましい。金属が微粒子であると細いカーボンナノチューブが生成しやすい。
【0028】
担体に担持する金属は、1種類だけでも、2種類以上を担持させてもよいが、好ましくは、2種類以上を担持させるようにした方がよい。2種類の金属を担持させる場合は、Fe,Co,Ni,Mo,Mnから選ばれる金属を含むことが特に好ましい。
【0029】
担体に対する金属の担持方法は、特に限定されない。例えば、担持する金属の塩を溶解させた非水溶液中(例えばエタノール溶液)又は水溶液中に、担体を含浸し、充分に分散混合した後、乾燥させ、窒素、水素、不活性ガスまたはその混合ガス又は真空中で高温(300〜600℃)で加熱することにより、担体に金属を担持させることができる(含浸法)。
【0030】
本発明の製造方法に使用する金属触媒の担持量は、多いほどカーボンナノチューブの収量が上がるが、多すぎると金属の粒子径が大きくなり、生成するカーボンナノチューブの直径が太くなる。金属担持量が少ないと、担持される金属の粒子径が小さくなり、直径が細いカーボンナノチューブが得られるが、収率が低くなる傾向がある。本発明の製造方法における最適な金属担持量は、担体の細孔容量や外表面積、担持方法によって異なるが、担体に対して0.1〜20重量%の金属を担持することが好ましい。2種類以上の金属を使用する場合、その比率は限定されない。
【0031】
このようにして得られた担体に担持した金属触媒を、管状炉に設置された石英製、アルミナ製等の耐熱性の反応管内に保持する。管状炉は縦型、横型等が有るが保持方法は石英、アルミナ等のセラミックス製ボートや不織布、フェルトなどの上もしくは、内部に保持するなどの方法がある。
【0032】
本発明の製造方法は、担体に担持した金属触媒を炭素含有化合物と接触させる前に、予め圧力0.01Pa〜100000Pa、好ましくは0.1Pa〜10000Paの減圧下、温度200〜950℃、好ましくは300〜900℃の範囲内の一定温度で、5〜120分の間、好ましくは10〜60分の間保持する熱処理を施すことである。
【0033】
従来、触媒化学気相成長法を利用した中空状ナノファイバーの製造では、金属触媒を担持した担体を反応温度まで一定の速度で昇温させる方法が一般的であったが、本発明の製造方法では、炭素含有化合物を接触させる前に、触媒金属を減圧の状態で温度200〜950℃内の一定温度で5から120分保持することが重要である。
【0034】
圧力0.01Pa〜100000Pa、温度200〜950℃で熱処理をすることで、担体に担持した金属触媒の活性化が進行すると考えられる。圧力上限は、50000Paまでが好ましく、さらに好ましい圧力の上限は、10000Paである。好ましい温度は、250℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。温度が下限値よりも低いと、金属触媒の活性化の進行が遅くなり、温度が上限値よりも高いと、金属触媒の凝集や担体の熱による劣化など好ましくない変化が発生する場合がある。
【0035】
また、熱処理の時間は、5分以上、好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上保持する。熱処理の時間を、5分以上、金属触媒を昇温することなく、ほぼ一定の温度に保つことが重要である。また熱処理時間は、最大で120分であり、好ましくは100分以下、さらに好ましくは90分以下である。熱処理時間が長すぎると生産性の悪化を招くだけでなく、金属触媒の凝集や担体の劣化など好ましくない変化が発生するおそれがある。
【0036】
また、本発明の製造方法における熱処理をする際は、窒素、アルゴン、水素またはこれらの混合ガスを上記圧力を保てる状態で、その熱処理雰囲気中に金属触媒と接触するように流すことが好ましい。
【0037】
さらに、金属触媒を担持した担体の熱による前処理は、反応器の中で実施しても良いし、熱処理を実施した後、金属触媒を担持した担体を反応器に充填する方法を採用しても良い。炭素含有化合物と接触させる反応器の中で、熱による前処理を実施する場合は、反応器の構造を利用して、前処理を実施するのが好ましい。たとえば、反応器が縦型の場合、セラミックス製の耐熱性不織布、フィルターなどに金属触媒を担持した担体を把持し、そのまま加熱し、一定の温度、圧力に保ち、一定時間放置する。このとき、圧力が規定範囲内となるよう、アルゴンなどの気体を流して調整するのが好ましい。また、圧力を一定にした後、温度を上げる方法なども採用できる。
【0038】
反応器が横型の場合は、金属触媒を担持した担体をセラミックス製の耐熱性の容器などに入れ、熱による前処理をすることができる。
【0039】
減圧での熱処理をする装置としては、耐圧/耐熱性で不活性な容器等が好ましく使用できる。
【0040】
本発明の製造方法において、熱処理を施した金属触媒と炭素含有化合物とを接触させる温度は、好ましくは600〜950℃、さらに好ましくは700℃〜900℃の範囲がよい。温度が600℃よりも低いと、カーボンナノチューブの収率が悪くなり、また温度が950℃よりも高いと、使用する反応器の材質に制約があると共に、カーボンナノチューブ同士の接合が始まり、カーボンナノチューブの形状のコントロールが困難になる。
【0041】
本発明の製造方法において、熱による前処理が終了した後、炭素含有化合物を接触させながら反応器を前記の反応温度にしてもよいし、前処理終了後、反応器を反応温度にしてから、炭素含有化合物の供給を開始しても良い。また、反応温度に加熱した炭素含有化合物を、金属触媒に接触させても良い。
【0042】
本発明の製造方法に使用する炭素含有化合物は、特に限定されないが、好ましくは炭化水素又は一酸化炭素を使うとよい。
【0043】
炭化水素は芳香族であっても、非芳香族であってもよい。芳香族炭化水素は、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン又はこれらの混合物などを使用することができる。また、非芳香族の炭化水素では、好ましくは、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチレン、プロピレンもしくはアセチレン、又はこれらの混合物等を使用することができる。また、炭化水素は、酸素を含むもの、例えばメタノール若しくはエタノール、プロパノール、ブタノールのようなアルコール類、アセトンのようなケトン類、及びホルムアルデヒドもしくはアセトアルデヒドのようなアルデヒド類、トリオキサン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルのようなエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類又はこれらの混合物であってもよい。これらの炭化水素の中でも、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、およびジエチルエーテルが、より好ましく、メタン、エタン、アセチレン、エタノール、プロパノール、およびジエチルエーテルがさらに好ましく、特にメタン、アセチレン、エタノールが最も好ましい炭素含有化合物である。
【0044】
本発明の製造方法により得られる中空状ナノファイバーは、その主成分がカーボンナノチューブであることが好ましく、2層カーボンナノチューブであることがさらに好ましい。カーボンナノチューブが主成分であるとは、製造された中空状ナノファイバーの総本数の50%以上が、カーボンナノチューブであるものとする。
【0045】
本発明の製造方法により得られる中空状ナノファイバー含有組成物は、直径1.0〜3.0nmの2層カーボンナノチューブが、中空状ナノファイバーの総本数の50%以上であることが好ましい。
【0046】
すなわち、本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、透過型電子顕微鏡で観察し、任意に選択した100本のカーボンナノチューブ中、好ましくは50本以上が2層カーボンナノチューブである。その測定方法は、透過型電子顕微鏡で100万倍で観察し、150nm四方の視野の中で視野面積の10%以上がカーボンナノチューブで、かつ複数の視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブ中の50本以上が2層カーボンナノチューブであり、上記測定を10箇所について行った平均値で評価するものとする。
【0047】
また、本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、透過型電子顕微鏡で任意に選択した100本の2層カーボンナノチューブ中、好ましくは50本以上、より好ましくは80本以上が、その外径が1.0nmから3.0nmの範囲内にある。その測定方法は、透過型電子顕微鏡で100万倍で観察し、複数の視野中から任意に抽出した100本の2層カーボンナノチューブの外径を測定して、上記測定を10箇所について行った平均値で評価するものとする。
【0048】
2層カーボンナノチューブの直径が1.0nmから3.0nmと細いことは、電荷の集中が起こりやすく、フィールドエミッションの電子源に用いた場合、印加電圧を低く抑える利点が得られる。
【0049】
また、本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、2層カーボンナノチューブが、前記のように担体を製膜した基板から垂直方向に実質的に配向成長していてもよい。2層カーボンナノチューブが、基板から垂直方向に実質的に配向成長していることは、基板断面の電子顕微鏡写真から、任意に選んだ2層カーボンナノチューブの上端と下端を結んだ直線と基板表面とが形成する角度を10本以上について平均し、その結果が90°±10°であることを言う。配向成長することにより、フィールドエミッションディスプレイや太陽電池として良好な電子放出特性を示すことができ好ましい。
【0050】
また、本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、ラマン分光法によりグラファイト化度の評価が可能である。ラマンスペクトルにおいて1590cm−1付近に見られるラマンシフトはグラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm−1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このG/D比が高いほどグラファイト化度が高く、高品質なカーボンナノチューブを意味する。本発明の中空状ナノファイバー含有組成物のG/D比は、好ましくは10以上、より好ましくは15以下である。
【0051】
また本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、合成したままの状態で利用してもよいが、好ましくは担体材料や金属触媒を除いて使用した方がよい。担体材料や金属触媒は、酸などで取り除くことができる。例えば、担体としてゼオライト、金属触媒としてコバルトを使った場合には、フッ化水素酸でゼオライトを、塩酸でコバルトを取り除くことができる。また、水酸化ナトリウム水溶液でもゼオライトを取り除くことができる。さらに、有機溶媒と水との2液を用いた分離方法で、ゼオライトおよびコバルトとカーボンナノチューブを分離して個別に回収することもできる。また、金属触媒の量を高度に取り除きたい場合には、焼成処理を行ってから酸で処理するとよい。それは、金属がグラファイトなどの炭素化合物で覆われているため、一度触媒周りの炭素を焼きとばしてから酸処理すれば、金属を効率よく除去することができるからである。
【0052】
本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、純度が高く、カーボンナノチューブ以外のフラーレン、ナノパーティクル、アモルファスカーボン等の炭素不純物が、ほとんど含まれていない。このため機械的強度、導電性および耐久性に優れた特徴を発揮することができる。
【0053】
また、本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、直径が細くて均一な2層カーボンナノチューブが、主成分であり、電荷の集中が起こりやすく、フィールドエミッションの電子源に用いた場合に、印加電圧を低く抑えることができる。
【0054】
本発明の中空状ナノファイバー含有組成物は、電子放出材料、電池電極材料として有用である。例えば、本発明の中空状ナノファイバー含有組成物をフィールドエミッションの電子源に用いた場合、直径が細く、電荷の集中が起こりやすいので、印加電圧を低く抑えることができる。
【0055】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
【実施例】
【0056】
<実施例1>
(MCM−41の合成)
セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(アルドリッチ社製)3.64gと、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(アルドリッチ社製)1.45gを35℃のイオン交換水28.8mlに加えた後に、ヒュームドシリカ(アルドリッチ社製)2.4gを加え1時間撹拌した。20時間のエージング後に、オートクレーブに移し、150℃で96時間、水熱合成した。水熱合成後に生成物をろ取して、洗浄後に550℃で8時間焼成し、MCM−41を得た。
【0057】
(MCM−41への金属塩の担持)
酢酸鉄(アルドリッチ社製)0.69gと酢酸コバルト・4水和物(関東化学社製)0.93gとをメタノール(関東化学社製)100mlに溶解した。この溶液に、MCM−41を8.8g加え、超音波洗浄機で60分間処理し、80℃の恒温下でメタノールを除去して乾燥し、MCM−41粉末に金属塩が担持された固体触媒を得た。
【0058】
(中空状ナノファイバーを含有する組成物の合成)
内径32mmの石英管の中央部の石英ボート上に、上記で調製した固体触媒0.2gをとり、アルゴンガスを500cc/分で供給しつつ、ロータリーポンプで減圧した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を300℃に加熱した(昇温時間30分)。温度300℃で30分間保持した後、900℃に加熱した。温度900℃になった後、エタノール蒸気を30分間導入した。エタノール蒸気の導入を止めた後に、温度を室温まで冷却し、中空状ナノファイバーを含有する組成物を取り出した。
【0059】
(中空状ナノファイバーを含有する組成物の高分解能透過型電子顕微鏡分析)
上記のようにして得た中空状ナノファイバーを含有する組成物を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、図1に示すように、中空状ナノファイバーはきれいなグラファイト層で構成されており、層数が2層のカーボンナノチューブが80%以上であった。カーボンナノチューブ以外の炭素不純物(フラーレン、ナノパーティクル、アモルファスカーボン等)はほとんど観察されなかった。また、2層のカーボンナノチューブの直径は、平均2.6nmであった。
【0060】
(2層カーボンナノチューブを含有する組成物の共鳴ラマン分光分析)
上記のようにして確認したカーボンナノチューブを含有する組成物を共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン製 INF−300)で測定した結果、G/D比は18と高品質2層カーボンナノチューブであることがわかった。
【0061】
<実施例2>
(ボロシリケートへの金属塩の担持)
酢酸鉄(アルドリッチ社製)0.69gと酢酸コバルト・4水和物(関東化学社製)0.93gとをメタノール(関東化学社製)100mlに溶解した。この溶液に、ボロシリケート(エヌイー・ケミキャット社製)を8.8g加え、超音波洗浄機で60分間処理し、80℃の恒温下でメタノールを除去して乾燥し、ボロシリケート粉末に金属塩が担持された固体触媒を得た。
【0062】
(中空状ナノファイバーを含有する組成物の合成)
内径32mmの石英管の中央部の石英ボート上に、上記で調製した固体触媒0.2gをとり、アルゴンガスを500cc/分で供給しつつ、ロータリーポンプで減圧した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を300℃に加熱した(昇温時間30分)。温度300℃で30分間保持した後、900℃に加熱した。温度900℃になった後、エタノール蒸気を30分間導入した。エタノール蒸気の導入を止めた後に、温度を室温まで冷却し、中空状ナノファイバーを含有する組成物を取り出した。
【0063】
(中空状ナノファイバーを含有する組成物の高分解能透過型電子顕微鏡分析)
上記のようにして得た中空状ナノファイバーを含有する組成物を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、図2に示すように、中空状ナノファイバーはきれいなグラファイト層で構成されており、層数が2層のカーボンナノチューブが80%以上であった。また、2層のカーボンナノチューブの直径は、平均2.8nmであった。
【0064】
(2層カーボンナノチューブを含有する組成物の共鳴ラマン分光分析)
上記のようにして確認したカーボンナノチューブを含有する組成物を共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン製 INF−300)で測定した結果、G/D比は12と高品質2層カーボンナノチューブであることがわかった。
【0065】
<実施例3>
(電界電子放出源の作成)
100mlビーカーに実施例1にて得られたカーボンナノチューブを50mgおよびアセトン100mlを入れ、超音波を30分間照射した。本分散液を、これとは別に銅板を入れたビーカーに入れ、静置してアセトンを自然蒸発させることにより、表面にカーボンナノチューブを堆積させた銅板を得た。
【0066】
(電界電子放出能の評価)
得られた銅板をカソードにし、アノード電極と対向させ、この2極管構造物を評価用チャンバーに導入し、電界電子放出能を評価した。その結果、本実施例で得られたカーボンナノチューブは、良好な電界電子放出能を示した。
【0067】
<比較例1>
温度900℃に加熱した反応管に実施例1で作成した金属触媒を投入し、アルゴンガスを500cc/分で供給しつつ、ロータリーポンプで減圧した。その後すぐにエタノール蒸気を30分間導入し反応を行ったが、カーボンナノチューブの純度は低く、カーボンナノチューブ以外の不純物(フラーレン、ナノパーティクル、アモルファスカーボンなど)が多く混入していた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1で得られたカーボンナノチューブ含有組成物の高分解能透過型電子顕微鏡写真図である。
【図2】実施例2で得られたカーボンナノチューブ含有組成物の高分解能透過型電子顕微鏡写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に担持した金属触媒と、炭素含有化合物を接触させて中空状ナノファイバーを合成する中空状ナノファイバーの製造方法において、前記金属触媒を、予め圧力0.01Pa〜100000Pa、温度200〜950℃における一定温度で5〜120分保持して熱処理を行なった後、前記金属触媒に炭素含有化合物を接触させる中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記担体が、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライト、およびケイ素を主成分とするメソポーラス材料からなる群から選ばれるいずれか1つである請求項1に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記担体が、ゼオライト、またはケイ素を主成分とするメソポーラス材料のいずれかである請求項2に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記担体が、チタン、ホウ素、ジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを、ケイ素との原子比で0.01以上含むものである請求項3に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
前記担体が、MCM−41構造を有するメソポーラス材料である請求項3または4に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
前記金属触媒が、V、Mo、Fe、Co,Ni,Pd、Pt,Rh,W,およびCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である請求項1〜5のいずれか1項に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項7】
前記金属触媒が、Fe、Co,およびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である請求項6に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項8】
前記炭素含有化合物が、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジエチルエーテル、および一酸化炭素からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項9】
前記炭素含有化合物が、メタン、エタン、アセチレン、エタノール、およびジエチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む請求項8に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項10】
前記金属触媒を温度200〜950℃の一定温度に保持する間に、該熱処理雰囲気中に窒素、アルゴン、および水素からなる群から選ばれる少なくとも1つのガス、またはこれらの混合ガスを流す請求項1〜9のいずれか1項に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項11】
前記金属触媒と前記炭素含有化合物を接触させる温度が、600〜950℃である請求項1〜10のいずれか1項に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項12】
製造された中空状ナノファイバーの主成分が、カーボンナノチューブである請求項1〜11のいずれか1項に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブが、2層カーボンナノチューブである請求項12に記載の中空状ナノファイバーの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法から得られた中空状ナノファイバーを含む組成物であって、中空状ナノファイバーの総本数に対して、直径1.0〜3.0nmの2層カーボンナノチューブを、50%以上含有する中空状ナノファイバー含有組成物。
【請求項15】
請求項14記載の中空状ナノファイバー含有組成物を含む電子放出材料。
【請求項16】
請求項14記載の中空状ナノファイバー含有組成物を含む電池電極材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−188390(P2006−188390A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1493(P2005−1493)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年12月31日 インターネットアドレス(http://pubs.acs.org/journals/jpcbfk/index.html)にて発表
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】