説明

中空糸濾過膜

【課題】中空糸濾過膜を実使用する際、長さ方向に生じる濾過性能の不均一性を緩和することにより、分離性能をより安定化できる中空糸濾過膜を得ることを目的とする。また、本発明は、そのような中空糸濾過膜を充填することにより、濾過性能の不均一性を緩和できる中空糸濾過器、および該中空糸型濾過器を用いた被処理液の濾過方法を提供すること。
【解決手段】多孔質の中空糸濾過膜において、該中空糸濾過膜は、長さ方向に3等分割して各切断糸の透水量を測定したとき、中央部Cが端部Aおよび端部Bよりも高い固有透水量を有する中空糸濾過膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質の中空糸濾過膜に関する。より詳しくは、その長さ方向において、中央部が両端部よりも高い透水量を有する中空糸濾過膜に関する。
また、本発明は、該中空糸濾過膜を組み込んだ中空糸濾過器および該中空糸濾過器を用いた被処理液の濾過方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸濾過膜は、工業用プロセスフィルター、浄水用フィルター、理化学・検査用フィルターおよび血液浄化器等において、被処理液または被処理気体から目的物を分離・濃縮・精製するための機能素子として組み込まれ、様々な分野において広範囲な用途に利用されている。
これらの中空糸濾過膜において、機能素子としての能力を高めるために、様々な観点から検討が成されている。特に、透過性能については、優れた透過性能(単位時間や単位面積あたりの濾過速度等)、優れた選択分離性(シャープな分子量分画性等)あるいは経時的安定性(ライフタイム等)を改善するために、膜の素材・組成・物性・形状・構造といった要素因子、さらには各要素因子を随意に組み合わせたり、制御することにより目的の膜を得る方法(例えば、製膜方法、後処理方法あるいは改質方法等)についても検討されている。
【0003】
中空糸濾過膜の透過性能については、通常、複数本〜数万本の中空糸濾過膜の束が筒状容器に充填され、中空糸型濾過器として用いられる使用形態を考慮すると、束を構成する個々の中空糸濾過膜の均一性が重要となる。具体的には、束内の各中空糸濾過膜間に透過性能のバラつきがないことと、各中空糸濾過膜が長さ方向全体において過不足なく濾過に寄与できることが夫々重要である。
前者の束内の均一性については、例えば、束の乾燥時に、束の中心部と周縁部の膜に生じる透過性能の差異を小さくする技術(特許文献1)や、中空糸濾過膜を束の状態で表面改質する際に生じるグラフト重合ムラ、すなわち親水化の不均一性を改善する技術が開示されている(特許文献2および3)。
【0004】
一方、後者の長さ方向の均一性については、中空糸濾過膜を表面改質して透過性を改善する際、反応ガスを束の一方向から吸引することにより、長さ方向に不足なく反応させる技術が開示されている(特許文献4)。また、特に引用はしないが、製膜から乾燥までを途中で切断することなく連続処理される工程を経た膜は、途中で切断してバッチ処理される膜に比べて、長さ方向および束内の何れにおいても均一性が高いことは周知である。
このように、中空糸濾過膜においては、膜の透過性能を最大限発揮するために、束内の膜間や膜の長さ方向において均一化するという観点が重視されており、専ら、どの部位においても均一な透過性能を有する中空糸濾過膜を得ることに注意が払われていた。
【0005】
ところが、中空糸濾過器を用いて実際に濾過を行う際には、中空糸濾過膜に特有の現象が起こる。すなわち、一般的に、内直径が数百μm〜数mmの中空部を有し、かつ数十cm以上の長さの中空糸膜に通水すると、中空部を流れる液体の流動抵抗によって中空部の長さ方向に圧力損失が生じる。その結果、長さ方向において膜間圧力差も減少するため、実際の濾過量は中空糸の長さ方向に向かって減少する。
従来技術のように、中空糸濾過膜または中空糸濾過器全体で測定して得られる濾過量は長さ方向の平均値を見ているだけであり、実際には、長さ方向に濾過が過剰の部分と不足の部分が生じていることになる。この不均一性のパターンは、上記の他に、内圧濾過や外圧濾過あるいはデッドエンド濾過やクロスフロー濾過によって異なるが、何れにおいても、実際に濾過を行う際には長さ方向に一定の濾過量が得られていないことになる。この現象により、濾過が過剰の部位では、目詰まりにより局所的なライフタイムの低下を招いたり、本来は透過し難い対象物が大きな濾過流束に伴って一部透過してしまうことがある。一方、濾過が不足の部位では、透過すべき対象物が十分に透過しないこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−239348号公報
【特許文献2】特開2004−244501号公報
【特許文献3】特開平4−293939号公報
【特許文献4】特開平05−209071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、従来技術のように、中空糸濾過膜を設計・製造する段階においてのみ透過性能の均一化を追求しても、実際に使用する際にはその均一性が十分活かされていない点が問題だと気付き、これを解決しようと考えた。
したがって、本発明は、中空糸濾過膜を実使用する際、長さ方向に生じる濾過性能の不均一性を緩和することにより、分離性能をより安定化できる中空糸濾過膜を得ることを目的とする。
また、本発明は、そのような中空糸濾過膜を充填することにより、濾過性能の不均一性を緩和できる中空糸濾過器、および該中空糸濾過器を用いた被処理液の濾過方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、多孔質の中空糸濾過膜において、長さ方向に3等分割したときの中央部の固有透水量が、両端部の固有透水量より高い中空糸濾過膜を用いることによって前記課題を解決することを見出し、以って本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
多孔質の中空糸濾過膜であって、該中空糸濾過膜を長さ方向に3等分割したときの中央部の固有透水量が、両端部の固有透水量よりも高い中空糸濾過膜。
【0010】
本発明によって課題が解決される理由は明らかではないが、本発明の中空糸濾過膜においては、固有透水量を長さ方向で「低→高→低」となるように設計することにより、膜間圧力の不均一性の影響を打ち消して、濾過性能の不均一性を緩和するものと推測されるが、これに限定されない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、中空糸濾過膜において濾過が過剰の部位が生じるのを防ぎ、目詰まりによる局所的なライフタイムの低下や、本来は透過し難い対象物が大きな濾過流束に伴って一部透過してしまうことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の中空糸濾過器の一例を示す断面図である。
【図2】中空糸濾過膜の実効透水量を測定する中空糸濾過器の一例を示す断面図である。
【図3】実効透水量測定用中空糸濾過器の仕切手段の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の濾過方法を行う濾過装置の流路構成の一例を示す図である。
【図5】中空糸濾過器をデッドエンド内圧濾過するときの圧力と透水量の分布を示す模式図である。
【図6】中空糸濾過器をクロスフロー外圧濾過するときの圧力と透水量の分布を示す模式図である。
【図7】中空糸濾過膜の固有透水量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の中空糸濾過膜は、多孔質構造を形成し、かつ、限外濾過や精密濾過膜の孔径サイズを形成し得る得る高分子材料を素材するものであれば、いかなる素材でも用いることができる。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレナフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等の非結晶性樹脂等が使用できる。
【0014】
本発明の中空糸濾過膜は、最大孔径が10〜100nmであることが好ましく、より好ましくは10〜70nm、最も好ましくは10〜50nmである。最大孔径が10nm未満では、グロブリン等の生理活性物質の透過性や濾過速度が低くなる傾向がある。反対に、100nmを越えると、膜透過阻止によりウイルス等の除去したい微粒子を実用的なレベルで除去することができない。ここで言う最大孔径とは、ASTM F316−86に準拠したバブルポイント法で測定した値である。
【0015】
本発明の中空糸濾過膜は、長さが0.1〜0.7mであることが好ましく、より好ましくは0.15〜0.5mであり、特に好ましくは0.2〜0.4mである。中空糸濾過膜の長さが0.1m未満の場合は、濾過時に長さ方向の透水量分布が生じ難いか無視し得る程の僅かなレベルとなるため、本発明の効果を発揮できない。また、中空糸型濾過器に成型する際の取り扱い性が悪く、生産効率も良くない。反対に、長さが0.7mを超える場合は、後述する実効透水量を制御することが困難となる。
【0016】
本発明の中空糸濾過膜は、限外濾過膜や精密濾過膜において一般的である内径を有していれば良い。製造時や濾過時の中空部の圧力損失の大きさを考慮すると、内径が100μmより大きければいかなる内径でも構わない。好ましくは100〜2000μmであり、より好ましくは200〜1000μm、特に好ましくは300〜500μmである。内径が2000μmよりも大きくなると、同じ膜面積の中空糸型濾過器を成型する場合に、濾過器の嵩が大きくなるため実用性の面から好ましくない。
【0017】
以上の説明から、本発明の中空糸濾過膜は、内径D(mm)に対する長さL(mm)の比であるL/D(−)が50〜7000であることが好ましい。この程度に細長い形状であれば、数千〜数万本を糸束として中空糸型濾過器に組み立てた際、大きな膜面積の割にはコンパクトな大きさとなり、使い勝手が非常によい。また、濾過する際に高い線速度を確保できる傾向にあるため、特にクロスフロー濾過においてはファウリングを抑制できて濾過効率に優れる。L/Dのより好ましい範囲は150〜2500であり、特に好ましくは400〜1333である。
【0018】
本発明の中空糸濾過膜は、長さ方向に3等分割したときの、中央部が両端部よりも高い固有透水量を有することが必要である。従来技術では、中空糸濾過膜の透過性能を均一化するために、長さ方向においても均一であること(=透水量がほぼ一定であること)が求められていたが、本発明では敢えて不均一としている。
【0019】
前記固有透水量とは、従来技術のように、中空糸濾過膜全体を用いて測定される「長さ方向の概念を持たず、平均化された透水量」(中空糸濾過膜全体の透水量)ではなく、「長さ方向の概念を導入し、部分的に見た透水量」(中空糸濾過膜の長さ方向の特定部位の透水量)のことである。
中央部及び端部の固有透水量は、具体的には以下のように測定される。先ず、中空糸濾過膜を長さ方向に3等分割し、濾液排出口を有する筒状容器に充填した後、両端部をポッティング加工する。次に、中空糸濾過膜の中空内部に連通する被処理液の導入(出)口を有するヘッダーキャップを筒状容器の両側に取り付けて、中空糸濾過膜の両端部及び中央部を充填した3種類のミニモジュールを作成する。該ミニモジュールの構造は、第1図に示す本発明の中空糸濾過器の構造と同様である。次に、各ミニモジュールの両側に取り付けたヘッダーキャップのうち、一方の口を閉止した状態で、他端から純水を導入して定圧デッドエンド内圧濾過を行う。得られた純水の透過量から、次式(1)に基づいて、長さ方向における3箇所の固有透水量を算出する。
固有透水量(m3/m2・s・Pa)
= 透過量(m3)/(膜面積(m2)×濾過時間(m2)×濾過圧(Pa)) (1)
【0020】
本発明においては、中央部が両端部よりも高い固有透水量を有することが必要である。限外濾過や精密濾過に適した孔径・透水量を有する中空糸濾過膜においては、固有透水量を、長さ方向に「低→高→低」となるように予め設計しておくことにより、以下の利点(イ)〜(ハ)を生み出す。
(イ)中空糸濾過膜を内圧濾過に用いた場合、通常、中空糸濾過膜の被処理液の入口側で高い膜間圧力差が生じて濾過が過剰となるが(第5図(A)を参照)、固有透水量を本発明のように設計しておくと、入口側では膜間圧力差は高いが透水量は低いので、両者の影響が相殺され、入口側端部と中央部の濾過量を同等に揃えることができる(第5図(B)を参照)。そうすることにより、従来、濾過が過剰の部位で生じていた目詰まりにより局所的なライフタイムの低下が改善される。
(ロ)中空糸濾過膜を外圧濾過に用いた場合、通常、中空糸濾過膜の濾液の出口側(中空糸濾過膜の両端部側)で高い膜間圧力差が生じて濾過が過剰となるが(第5図(A)を参照)、固有透水量を本発明のように設計しておくと、出口側では膜間圧力差は高いが透水量は低いので、両者の影響が相殺され、出口側端部と中央部の濾過量を同等に揃えることができる(第6図(B)を参照)。そうすることにより、従来、濾過が過剰の部位で生じていた目詰まりにより局所的なライフタイムの低下が改善される。
(ハ)内圧濾過と外圧濾過の何れの場合においても、透過率が小さく、本来は膜透過が殆ど阻止されるはずの対象物が、局所的に大きな濾過流束に伴って一部透過してしまう懸念が払拭される。
【0021】
中央部の固有透水量が少なくとも一方の端部の固有透水量よりも10%を越えて高いことが好ましい(すなわち、中央部の固有透水量>少なくとも一方の端部の固有透水量×110/100)。この程度に差を設けておくと、実際に濾過する際に、ポンプの流量や流量調整バルブ類により調整を行い易い。より好ましくは15%を越えて高いことであり、特に好ましくは20%を越えて高いことである。上限については特に制限しないが、必要以上に差が大きいと、実使用時に被処理液や膜間圧力差を極端に高めることになり、濾過膜や被処理液中の溶質に影響を与えかねない。したがって、中央部の固有透水量は、端部の固有透水量の200%程度とすることを上限の目安としておけばよい。
【0022】
本発明においては、中央部が両端部よりも高い固有透水量を有していればよく、端部どうしの高低関係は限定されない。しかしながら、両端部の固有透水量が同等(統計的に有意差なし)であると、中空糸濾過膜が長さ方向に対称となるので、取扱性に優れる利点がある。例えば、該膜を用いた中空糸濾過器の製造工程においては、中空糸濾過膜(の糸束)を筒状容器に充填する際に端部の方向性を確認する手間が省かれるため、生産性に優れている。また、中空糸濾過器に充填した後も、該濾過器の方向性を確認する必要がないため、取扱性に優れる。したがって、両端部の固有透水量が同等であることがより好ましい。
【0023】
本発明の中空糸濾過膜は、筒状容器に充填してデッドエンド内圧濾過を行ったときの端部A、端部Bおよび中央部Cの各実効透水量FAE、FBEおよびFCEの関係が以下の(a)FAE≧FCE>FBEまたは(b)FCE>FAE>FBEであることが好ましい(ただし、中央部Cとは、中空糸濾過膜の濾過有効部を長さ方向に3等分した場合の中央部に相当する部分をいい、端部A、Bとは、それぞれ、中空糸濾過膜の前記中央部Cより被処理液導入側に位置する端部、中空糸濾過膜の前記中央部Cより被処理液導入側とは反対側に位置する端部をいうものとする。)。
なお、濾過有効部とは、中空糸濾過膜の表面が露出している部分をいう。
【0024】
前記実効透水量とは、実使用されている状態における中空糸濾過膜の長さ方向の特定部位の透水量である。すなわち、従来技術のように、実使用されている状態の中空糸濾過膜全体を用いて測定される「長さ方向の概念を持たず、平均化された透水量」ではなく、「実使用されている状態で、長さ方向の概念を導入し、部分的に見た透水量」のことである。
端部A、中央部C及び端部Bの実効透水量は、具体的には以下のように測定される。先ず、第2図および第3図に示すような、内部を3室に区画された、分割式の実効透水量測定容器2に中空糸濾過膜(の糸束)3を充填し、液漏れなく濾過ができるように中空糸濾過膜の両端部をポッティング加工した後、中空糸濾過膜の中空内部に連通する被処理液の導入(出)口を有するヘッダーキャップを筒状容器の両側に取り付けて実効透水量測定用の中空糸濾過器1を作成する。この容器2は分割式の外筒2Aと外筒2Bからなっており、外筒2Aと外筒2Bはその間に糸束3を挟み込みながら互いに係合して一体の容器となる。該容器には、夫々の小室に連通する濾液排出口(5A、5Cおよび5B)が取り付けられている。外筒2Aと外筒2Bの内壁には中空糸濾過膜の端部Aと中央部C、中央部Cと端部Bそれぞれの境界部に相当する位置に仕切り手段4が設けられ、これにより容器内が3室に区画されている。仕切り手段4は、糸束外周部と容器内周部との隙間を塞ぐものであれば特に限定されず、板状体、紐状物、膨潤性樹脂等を用いるとよい。
次に、実効透水量測定用中空糸濾過器の両側に取り付けたヘッダーキャップのうち、一方の口を閉止した状態で、他端から純水を導入して定圧デッドエンド内圧濾過を行なう。このとき、被処理液の導入圧力を一定にするために、導入口の最小内径を4.0mmとする。3本の濾液排出口5A,5Cおよび5Bから得られた純水の各透過量から、次式(2)に基づいて、長さ方向における3箇所の実効透水量を算出する。
実効透水量(m3/m2・s・Pa)
= 透過量(m3)/(膜面積(m2)×濾過時間(s)×濾過圧(Pa)) (2)
【0025】
なお、中空糸濾過膜が既に通常の中空糸型濾過器に組み立てられている場合は、その外筒部分を慎重に切除し、両端の樹脂層部が付いた状態の中空糸濾過膜(の束)を取り出す。しかる後、該中空糸濾過膜(の束)を実効透水量測定容器に充填し、隙間を液密にシールして測定する。
【0026】
中空糸濾過膜の前記実効透水量は、定圧デッドエンド内圧濾過を行うときには、端部A、端部Bおよび中央部Cの各実効透水量FAE、FBEおよびFCEの関係が、「FAE≧FCE>FBE」であることが好ましい。各実効透水量がこの関係にあると、被処理液の入口側における高い膜間圧力差に起因する濾過過剰が軽減された状態になっているといえる。
また、各実効透水量FAE、FBEおよびFCEの関係は、「FCE>FAE>FBE」であってもよい。各実効透水量がこの関係にあると、被処理液の入口側における高い膜間圧力差に起因する濾過過剰が不足なく相殺された状態になっているといえる。
上記何れの場合も、FAEとFCEとの差が±10%以内であればより好ましい。中空糸濾過膜がこのような実効透水量の分布を有することにより、従来、濾過が過剰の部位で生じていた目詰まりによる局所的なライフタイムの低下が改善される。特に好ましくは、各実効透水量の関係が「FAE=FCE>FBE」の場合である。
ここで、FCEとFAEとの差とは、{(FCE−FAE)/FCE}×100をいう。
【0027】
前記固有透水量を有する中空糸濾過膜を得る方法は特に限定されないが、例えば、製膜工程で処理する方法や、製膜後に表面改質する方法が挙げられる。
前者の一例としては、中空糸濾過膜を複数本まとめて糸束とし、これを離散しないようにフィルム等で巻いた状態でマイクロ波乾燥させる方法が挙げられる。このとき、両端部が過剰乾燥となって膜収縮が進むようにすると、長さ方向の中央部Cが端部Aおよび端部Bよりも高い固有透水量を有するようにできる。
後者の一例としては、基材膜の透過性能を低下させる物質(例えば、親水性物質(モノマー、ポリマー))を両端部にコーティングする、共有結合させる、モノマーをグラフト重合する等の方法がある。その際、反応槽に縦方向に中空糸濾過膜を浸漬して反応させた後、該膜を上下反転させて再度浸漬することにより、両端部付近の固有透水量を低下させることができる。あるいは、反応槽に水平方向に中空糸濾過膜を浸漬すると、両端から中央に向かって反応が進むので、両端部付近の固有透水量を低下させることができる。例えば、親水性モノマーを用いて、ラジカル開始型のグラフト重合により疎水性膜を親水化する場合は、反応速度が速い結果、両端部から中央部に向って親水性の勾配を付け易い(=固有透水量に勾配を付け易い)ので、この方法が特に好ましい。
【0028】
本発明の中空糸濾過器は、前記中空糸濾過膜を筒状容器内に一本以上充填してなるものである。このような中空糸濾過器の一例を第1図に示す。具体例としては、一本以上の中空糸濾過膜(複数本の場合は、「糸束」とも称する)3と、該中空糸濾過膜を充填した、容器外部へ濾液を排出するための濾液排出口5(ノズルと称することもある)を有する筒状容器6と、該筒状容器の両端部に該中空糸濾過膜の両端部を液密に固定すると共に中空糸濾過膜の開口部7を有し、かつ中空内部と中空外部を隔離しているポッティング部8と、該ポッティング部に被冠された、中空内部に連通する被処理液の導入(出)口(ノズルと称することもある)を有するヘッダーキャップ9を含んでなるものが挙げられる。
なお、第1図では両端に中空糸濾過膜3の中空内部に連通する被処理液の導入(出)口を有するクロスフロー用濾過器の一例を示しているが、デッドエンド濾過用濾過器とするときは、予め連通口の一方を盲端に成型しておくとよい。
【0029】
前記中空糸濾過器の詳細構造や製造方法については特に限定はなく、公知の中空糸型工業用フィルターや中空糸型人工透析器等の構造や製造方法を採用することができる。但し、中空糸濾過器の長さは、充填された中空糸濾過膜の濾過有効部の長さが0.1〜0.7mとなるように成型されていることが好ましい。また、中空糸濾過膜の充填状態は、膜がU字型に曲げられているよりも、直線状に充填されている方が好ましい。
【0030】
次に、前記中空糸濾過器を用いて被処理液を濾過する方法について、図面を参照しながら説明する。
第4図は、濾過装置10の流路構成および付属部品の配置の一例を示す図面である。第4図において、被処理液貯留部12は、入口側流路20によって中空糸型濾過器11の被処理液導入側に接続されており、入口側流路20には、液体移送手段23、入口側圧力計22および入口側圧力調整手段21が設けられている。一方、中空糸型濾過器11の濾液排出口は、濾過側流路30によって濾液貯留部13に接続されており、濾過側流路30には、濾過側圧力計32および濾過側圧力調整手段31が設けられている。
ここで、液体移送手段23は送液ポンプであれば何れでもよく、送液量や日処理液の種類に応じて適宜選択すればよい。また、入口側圧力調整手段22とは、入口側流路の一部において、内部抵抗を連続的に加減できる開閉バルブであれば何れでもよく、適宜選択すればよい。入口側圧力計21としては、ブルドン管圧力計やディジタルマノメータ等を例示できる。他の圧力調整手段も同様である。
【0031】
第4図において、実線で示す流路部分はデッドエンド濾過を行う場合の流路の一例である。デッドエンド濾過においては、被処理液貯留部12の被処理液を液体移送手段23によって移送し、中空糸濾過器11の被処理液導入側に導入する。このとき、中空糸濾過器11は、導入した被処理液が全量濾過されるように、被処理液導入側とは反対側の端部が盲端あるいは遮断されている。導入された被処理液は濾過され、中空糸濾過器11の濾液排出口から濾過側流路30を通って濾液貯留部13に回収される。導入する被処理液の流量や濾過量は、液体移送手段23、入口側圧力調整手段22および濾過側圧力調整手段32の何れか一つ以上によって適宜設定される。
一方、クロスフロー濾過を行う場合は、点線で示す流路を追加して被処理液を循環させる。その場合、中空糸濾過器11の被処理液導出側は、出口側流路40によって被処理貯留部12に接続されており、出口側流路40には、出口側圧力計41および出口側圧力調整手段42が設けられている。クロスフロー濾過においては、被処理液貯留部12の被処理液を液体移送手段23によって移送し、中空糸濾過器11の被処理液導入側に導入する。このとき、中空糸濾過器11に導入した被処理液の一部が濾液排出口から濾過側流路30へ濾過され、残りが被処理液導出側から出口側流路40の方へ導出されるように、濾過側圧力調整手段32と出口側圧力調整手段42のバランスによって調整される。導出された被処理液の一部は、出口側流路40を通って被処理液貯留部12に回収され、循環しながら濾過が行われる。導入・導出する流量や濾過量は、液体移送手段23、入口側圧力調整手段22、出口側圧力調整手段42および濾過側圧力調整手段32の何れか一つ以上によって適宜設定される。
なお、図示はしないが、中空糸濾過膜の一端から、その中空内部へ被処理液を直接導入する方法が内圧濾過であり、中空糸濾過膜の外周面から中空内部へ被処理液を透過させて導入する方法が外圧濾過である。
【0032】
本発明の濾過方法を実施する際は、液体移送手段23の流量、入口側圧力調整手段21の開閉度及び濾過側圧力調整手段32の開閉度のいずれか一つ以上を調整することにより、中空糸濾過膜の中央部Cの実効透水量FCEと、端部Aおよび/または端部Bの実効透水量FAE、FBEとの差を±10%以内になるように設定することができる。その際、流量と圧力については、何れか一方で実効透水量を十分調節できる場合はそれでもよく、必要に応じて流量と圧力の双方で実効透水量を調節するとよい。クロスフロー濾過の場合は、出口側圧力調整手段42の開閉度を調整することもある。
なお、各実効透水量を調節するにあたっては、実使用するものと同じ中空糸濾過膜を調節用にもう一本準備する。そして、この中空糸濾過膜を実効透水量測定用容器に充填して、各実効透水量を測定しながら流量と圧力の最適値を確認し、予めそれぞれの設定値を定めておくとよい。
【0033】
第5図は、中空糸濾過器を用いてデッドエンド内圧濾過するときの圧力と透水量の分布を示す模式図である。
第5図の(A)は従来技術を示している。固有透水量を長さ方向に均一化した中空糸濾過膜を用いると、中空糸濾過膜の被処理液の導入口側端部で膜間圧力差が最も高くなる結果、被処理液の導入口側端部の実効透水量が中央部の実効透水量に比して高くなる。このことは、被処理液の導入口側端部で目詰まりによるライフタイムの低下や、透過阻止すべき物質の透過を引き起こす懸念があることを意味する。
【0034】
一方、第5図の(B)は本発明の中空糸濾過膜を用いた場合を示している。中央部の固有透水量が両端部に比して高い中空糸濾過膜を用いると、中空糸濾過膜の被処理液の導入口側端部で膜間圧力差が高くなっても、被処理液の導入口側端部の固有透水量の低さが実効透水量の増加分を相殺する結果、被処理液の導入口側端部の実効透水量Fを中央部の実効透水量と同等にできる。このことは、被処理液の導入口側端部で目詰まりによるライフタイムの低下や、透過阻止すべき物質の透過を抑制することを意味する。
被処理液の導入口側端部での目詰まりによるライフタイムの低下や、透過阻止すべき物質の透過を抑制するためには、中空糸濾過膜の中央部Cの実効透水量FCEと、端部Aまたは端部Bの実効透水量FAE、FBEとの差を±10%以内に設定することが好ましい。
なお、本図面では、デッドエンド濾過の場合を図示したが、クロスフロー濾過を行う場合も、この場合と同じ傾向を示す。
【0035】
第6図は、中空糸濾過器を用いて外圧濾過し、中空糸濾過膜の両端部から濾液を導出するときの圧力と透水量の分布を示す模式図である。
第6図の(A)は従来技術を示している。固有透水量を長さ方向に均一化した中空糸濾過膜を用いると、中空糸濾過膜の両端部(濾液の出口側)で膜間圧力差が最も高くなる結果、両端部の実効透水量が中央部の実効透水量に比して高くなる。このことは、両端部付近で目詰まりによるライフタイムの低下や、透過阻止すべき物質の透過を引き起こす懸念があることを意味する。
【0036】
一方、第6図の(B)は本発明の中空糸濾過膜を用いた場合を示している。長さ方向の中央部の固有透水量が両端部に比して高い中空糸濾過膜を用いると、中空糸濾過膜の両端部(濾液の出口側)で膜間圧力差が高くなっても、両端部の固有透水量の低さが実効透水量の増加分を相殺する結果、両端部の実効透水量を中央部の実効透水量と同等にできる。このことは、両端部付近で目詰まりによるライフタイムの低下や、透過阻止すべき物質の透過を抑制することを意味する。
両端部における目詰まりによるライフタイムの低下や、透過阻止すべき物質の透過を抑制するためには、中空糸濾過膜の中央部Cの実効透水量FCEと、端部Aおよび端部Bの実効透水量FAE、FBEとの差を±10%以内に設定することが好ましい。
【0037】
第6図から明らかなとおり、本発明の中空糸濾過膜を用いて外圧濾過により中空糸濾過膜の両端部から濾液を導出する場合は、中空糸濾過膜の長さ方向全体にわたって均一に濾過できることになる。したがって、本発明の中空糸濾過膜は外圧濾過に用いるのに特に適している。
なお、第6図は中空糸濾過膜の両端部から濾液を導出する場合を示しているが、外圧濾過により中空糸濾過膜の一端(例えば、端部A)から濾液を導出する場合は、図面左側の端部のみから濾液が排出される。
【0038】
以上説明したとおり、本発明の中空糸濾過膜、中空糸型濾過器および濾過方法は、工業用プロセスフィルター、浄水用フィルター、理化学・検査用フィルターおよび血液浄化器等において、被処理液から目的物を分離・濃縮・精製する様々な分野において、広範囲な用途に利用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。実施例は本発明を限定するものではない。実施例および比較例にて用いた測定方法は次の通りである。
【0040】
(1)固有透水量
中空糸濾過膜25本を長さ方向に3等分割し、両端部をポッティング加工して濾過有効部6.5cm×25本のミニモジュールを3種類作成する(夫々を端部A、端部Bおよび中央部Cとする)。このとき、被処理液の導入圧力を一定にするために、被処理液の導入口の最小内径を4.0mmとする。
各ミニモジュールの両側に取り付けたヘッダーキャップのうち、一方の口を閉止した状態で、他端から温度25℃の純水を導入し、濾過圧力0.294MPaの定圧デッドエンド内圧濾過を行う。得られた純水の透過量から、前出の式(1)に基づいて、長さ方向における3箇所の固有透水量を算出する。
【0041】
(2)実効透水量
第2図に示すような分割式かつ内部を3室に区画できる実効透水量測定容器に中空糸濾過膜1100本を充填し、両端部をポッティング加工して実効透水量測定用の中空糸濾過器を作成する。このとき、被処理液の導入圧力を一定にするために、被処理液の導入口の最小内径を4.0mmとする。
該中空糸濾過器に1L以上の純水を通水して膜を十分に湿潤化した後、両側に取り付けたヘッダーキャップのうち、一方の口を閉止した状態で、他端から温度25℃の純水を導入し、濾過圧力0.1MPaの定圧デッドエンド内圧濾過を行なう。このとき、濾液側のノズルが全て下向きになるように濾過器を固定しておく。得られた純水の透過量から、前出の式(2)に基づいて、中空糸濾過膜の長さ方向における3箇所の実効透水量を算出する。
【0042】
<中空糸基材膜の製造>
[製造例1]
ポリフッ化ビニリデン樹脂(SOLVAY社製、SOFEF1012、結晶融点173℃)49wt%、フタル酸ジシクロヘキシル(大阪有機化学工業(株)製工業品)53wt%からなる組成物を、ヘンシェルミキサーを用いて70℃で攪拌混合した後、冷却して粉体状としたものをホッパーより投入し、二軸押出機(東洋精機(株)製 ラボプラストミル MODEL 50C 150)を用いて210℃で溶融混合し均一溶解した。
続いて、中空内部に温度が130℃のフタル酸ジブチル(三建化工(株)製)を11ml/分の速度で流しつつ、内直径0.8mm、外直径1.05mmの環状オリフィスからなる紡口より吐出速度17m/分で中空糸状に押し出し、40℃に温調された水浴中で冷却固化させて、50m/分の速度でカセに巻き取った。
その後、99%メタノール変性エタノール(今津薬品工業(株)製工業品)でフタル酸ジシクロヘキシル及びフタル酸ジブチルを抽出除去し、付着したエタノールを水で置換した後、水中に浸漬した状態で高圧蒸気滅菌装置(平山製作所(株)製 HV−85)を用いて125℃の熱処理を1時間施した。熱処理時、収縮を防ぐために膜を定長状態に固定した。その後、オーブン中で60℃の温度で乾燥することにより多孔質中空糸膜を得た。
得られた多孔質中空糸膜は長さ32.5cm、内径330μm、膜厚49μmであった(何れの数値も15本の平均値)。この膜を基材膜として、後述するグラフト重合による表面改質を行った。
【0043】
[製造例2]
中空内部に流すフタル酸ジブチルの流速を12ml/分としたこと以外は、製造例1と同様の方法で多孔質中空糸膜を製造した。得られた中空糸膜は、長さ32.5cm、内径350μm、膜厚47μmであった(何れの数値も15本の平均値)。この膜を基材膜として、後述するグラフト重合による表面改質を行った。
【0044】
<中空糸濾過膜の製造>
製造例において製造した中空糸基材膜にグラフト重合による表面改質を行って、中空糸濾過膜を製造した。
[実施例1]
製造例1で得られた中空糸濾過膜に対し、グラフト法による親水化処理を行った。
反応液として、ヒドロキシプロピルアクリレートを8.2容量%となるように、t−ブタノールの25容量%水溶液に溶解させ、45℃に保持した状態で、窒素バブリングを20分間行ったものを準備した。
まず、製造例1で得られた中空糸濾過膜1100本を、離散しないように端部を固定して糸束とした。次に、窒素雰囲気下において、該糸束をドライアイスで−60℃に冷却しながら、Co60を線源としてγ線を、25kGy照射した。
γ線照射後の糸束を容量35Lの反応容器中に充填した後、気泡管水平器を用いて該糸束が水平状態であることを確認した。反応容器内部を真空度100Pa以下で10分間静置した後、糸束の水平状態を崩さず、かつ、糸束が完全に浸漬するように、反応液30Lを貯留容器から反応容器内に導入することにより、反応液を該糸束の両端から同時に中空部内に導入させた。反応液を導入する際、貯留容器側を0.1MPaに加圧した。その後、糸束が反応液に完全に浸漬された状態で、45℃、60分間グラフト重合を行った。
重合後の糸束をイソプロピルアルコールで洗浄し、水に浸漬した状態で高圧蒸気滅菌装置を用いて125℃の熱処理を1時間施した。その後、60℃真空乾燥を8時間行い、糸束の固定部を外して、中央部が適度に親水性化されると共に、端部が過度に親水性化された親水性の中空糸濾過膜を得た。なお、適度に親水性化された中空糸濾過膜の透水性能は向上する一方、過度に親水性化された中空糸濾過膜の透水性能は低下する。
得られた中空糸濾過膜を長さ方向に3等分割し、端部1、端部2および中央部のミニモジュールを作成して各々の固有透水量を測定した。表1に示すとおり、この中空糸濾過膜は、中央部が両端部よりも高い固有透水量を有していた。固有透水量のこのような分布状態を、比較例1および2も含めて第7図にグラフで示す。
【0045】
[比較例1]
製造例1と同様に、基材膜として、長さ70cm、内径330μm、膜厚49μmの多孔質中空糸濾過膜を作成した。この中空糸濾過膜を、実施例1と同様にグラフト法により親水化処理を行って真空乾燥した後、一端から10.0cm、他端から27.5cmそれぞれ切除し、長さ32.5cmの中空糸濾過膜を得た。
得られた中空糸濾過膜を長さ方向に3等分割し、端部1(10.0cm切除した側)、端部2(27.5cm切除した側)および中央部のミニモジュールを作成して各々の固有透水量を測定した。表1に示すとおり、この中空糸濾過膜は、右側端部が中央部より僅かに高い固有透水量を有していたが、長さ方向で実質的に固有透水量に差異はなかった)。
【0046】
[比較例2]
製造例1で得られた中空糸濾過膜に対し、反応容器内部を真空度100Pa以下で10分間静置するかわりに、反応容器内部に窒素を大気圧化で10分間ブローした後、そのまま大気圧下で糸束が完全に浸漬するように、反応液30Lを貯留容器から反応容器内に導入する以外は、実施例1と同様のグラフト処理を行い、端部のみが適度に親水性化された中空糸濾過膜を得た。
得られた中空糸濾過膜を長さ方向に3等分割し、端部1、端部2および中央部のミニモジュールを作成して各々の固有透水量を測定した。表1に示すとおり、この中空糸濾過膜は、端部1および端部2が、中央部よりも明らかに高い固有透水量を有していた。
【0047】
【表1】

【0048】
[実施例2]
実施例1で得られた中空糸濾過膜1100本を筒状容器に(端部1が端部A、端部2が端部Bに、それぞれ位置するように)充填して図3に示す中空糸濾過器を作成した。このとき濾過有効部長は30cmであった。中空糸濾過膜を十分に湿潤させた後、この濾過器に被処理液の注入側から0.1MPaの圧力で純水を濾過し、濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を測定した。但し、透過側のノズル(濾液排出口)は下向きにして測定した。濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を表2に示す。
なお、端部1と中央部の固有透水量の関係[(F端部1−F中央部)/F中央部×100(%)]は-14.7%であるところ、実効透水量の関係についてみると[(FAE−FCE)/FCE×100(%)]=-9.87%と、その絶対値が小さくなっており、このことから、中空糸濾過膜の固有透水量を本発明のように設計しておくことによって、その実効透水量を長さ方向に均一に近づけることができることが確認できた。
【0049】
[実施例3]
製造例1で得られた中空糸濾過膜500本を、離散しないように端部を固定して糸束とした。次に、窒素雰囲気下において、該糸束をドライアイスで−60℃に冷却しながら、Co60を線源としてγ線を、25kGy照射した以外は実施例1と同様のグラフト処理を行った。ここで、端部1、端部2および中央部の各固有透水量は、それぞれ3.40×10-11、3.32×10-11、3.93×10-11[m3/m2・s・Pa]であった。
次いで、この中空糸濾過膜を用いた以外は、実施例2と同様にして中空糸濾過器を作成し、濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を測定した。濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を表2に示す。
なお、端部1と中央部の固有透水量の関係[(F端部1−F中央部)/F中央部×100(%)]は-13.49%であるところ、実効透水量の関係についてみると[(FAE−FCE)/FCE×100(%)]=9.70%と、その正負が逆になっており、このことから、中空糸濾過膜の固有透水量を本発明のように設計しておくことによって、その実効透水量を長さ方向に均一に近づけることができることが確認できた
【0050】
[実施例4]
製造例1で得られた中空糸濾過膜1250本を、離散しないように端部を固定して糸束とした。次に、窒素雰囲気下において、該糸束をドライアイスで−60℃に冷却しながら、Co60を線源としてγ線を、25kGy照射した以外は実施例1と同様のグラフト処理を行った。ここで、端部1、端部2および中央部の各固有透水量は、それぞれ8.30×10-11、7.85×10-11、9.60×10-11[m3/m2・s・Pa]であった。
次いで、この中空糸濾過膜を用いた以外は、実施例2と同様にして中空糸濾過器を作成し、濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を測定した。濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を表2に示す。
なお、端部1と中央部の固有透水量の関係[(F端部1−F中央部)/F中央部×100(%)]は-13.54%であるところ、実効透水量の関係についてみると[(FAE−FCE)/FCE×100(%)]=4.77%と、その正負が逆になっており、このことから、中空糸濾過膜の固有透水量を本発明のように設計しておくことによって、その実効透水量を長さ方向に均一に近づけることができることが確認できた。
【0051】
[実施例5]
製造例1で得られた中空糸濾過膜1200本を、離散しないように端部を固定して糸束とした。次に、窒素雰囲気下において、該糸束をドライアイスで−60℃に冷却しながら、Co60を線源としてγ線を、25kGy照射した以外は実施例1と同様のグラフト処理を行った。ここで、端部1、端部2および中央部の各固有透水量は、それぞれ7.60×10-11、7.22×10-11、8.85×10-11[m3/m2・s・Pa]であった。
この中空糸濾過膜を用いた以外は、実施例2と同様にして中空糸濾過器を作成し、濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を測定した。濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を表2に示す。
【0052】
[比較例3]
比較例1で得られた中空糸濾過膜1100本を筒状容器に充填した以外は、実施例2と同様にして中空糸濾過器を作成し、濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を測定した。濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を表2に示す。
【0053】
[比較例4]
比較例2で得られた中空糸濾過膜1100本を筒状容器に充填した以外は、実施例2と同様にして中空糸濾過器を作成し、濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を測定した。濾過有効部を長さ方向に3等分したときの各部位での実効透水量を表2に示す。
【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の中空糸濾過膜は、工業用プロセスフィルター、浄水用フィルター、理化学・検査用フィルターおよび血液浄化器等において、被処理液から目的物を分離・濃縮・精製する等の様々な分野において、広範囲な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
2 実効透水量測定容器
2A 外筒
2B 外筒
3 中空糸濾過膜
4 仕切り手段
5 濾液排出口
5A 濾液排出口
5B 濾液排出口
5C 濾液排出口
6 筒状容器
8 ポッティング部
9 ヘッダーキャップ
10 濾過装置
11 中空糸型濾過器
12 被処理液貯留部
13 濾液貯留部
20 入口側流路
21 入口側圧力調整手段
22 入口側圧力計
23 液体移送手段
30 濾過側流路
31 濾過側圧力調整手段
32 濾過側圧力計
40 出口側流路
41 出口側圧力計
42 出口側圧力調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の中空糸濾過膜であって、該中空糸濾過膜を長さ方向に3等分割したときの中央部の固有透水量が、両端部の固有透水量よりも高い中空糸濾過膜。
【請求項2】
筒状容器に充填してデッドエンド内圧濾過を行ったときの端部A、端部Bおよび中央部Cの各実効透水量FAE、FBEおよびFCEの関係が以下の(a)または(b)となる、請求項1に記載の中空糸濾過膜。
(a)FAE≧FCE>FBE
(b)FCE>FAE>FBE
ただし、中央部Cとは、中空糸濾過膜の濾過有効部を長さ方向に3等分した場合の中央部に相当する部分をいい、端部A、Bとは、それぞれ、中空糸濾過膜の前記中央部Cより被処理液導入側に位置する端部、中空糸濾過膜の前記中央部Cより被処理液導入側とは反対側に位置する端部をいうものとする。
【請求項3】
前記実効透水量FAEとFCEとの差が±10%以内である請求項2に記載の中空糸濾過膜。
【請求項4】
濾過有効部の長さが0.1〜0.7m、内径が100〜2000μmである請求項1〜3の何れかに記載の中空糸濾過膜。
【請求項5】
表面改質によって得られたものである請求項1〜4の何れかに記載の中空糸濾過膜。
【請求項6】
前記請求項1〜5の何れかに記載の中空糸濾過膜を、筒状容器内に一本以上充填してなる中空糸濾過器。
【請求項7】
被処理液貯留部、
被処理液貯留部と濾過器の被処理液導入側を接続する入口側流路、
入口側流路に設けた液体移送手段および入口側圧力調整手段、
濾過器の濾液排出口と濾液貯留部を接続する濾過側流路、
濾過側流路に設けた濾過側圧力計および濾過側圧力調整手段、
を含んでなる濾過装置を用いた被処理液の濾過方法において、
濾過器として前記請求項6に記載の中空糸濾過器を用い、
液体移送手段の流量、入口側圧力調整手段の開閉度及び濾過側圧力調整手段の開閉度のいずれか一つ以上を調整して、前記中空糸濾過膜の中央部Cの実効透水量FCEと、端部A、端部Bの実効透水量FAE、FBEの少なくとも一方との差を±10%以内に設定する、濾過方法。
ただし、中央部Cとは、中空糸濾過膜の濾過有効部を長さ方向に3等分した場合の中央部に相当する部分をいい、端部A、Bとは、それぞれ、中空糸濾過膜の前記中央部Cより被処理液導入側に位置する端部、中空糸濾過膜の前記中央部Cより被処理液導入側とは反対側に位置する端部をいうものとする。
【請求項8】
被処理液貯留部、
被処理液貯留部と濾過器の被処理液導入側を接続する入口側流路、
入口側流路に設けた液体移送手段および入口側圧力調整手段、
濾過器の濾液排出口と濾液貯留部を接続する濾過側流路、
濾過側流路に設けた濾過側圧力計および濾過側圧力調整手段、
被処理液貯留部と濾過器の被処理液導出側を接続する出口側流路、
出口側流路に設けた液体移送手段および出口側圧力調整手段、
を含んでなる濾過装置を用いた被処理液の濾過方法において、
濾過器として前記請求項6に記載の中空糸濾過器を用い、
液体移送手段の流量、入口側圧力調整手段の開閉度、出口側圧力調整手段の開閉度、及び濾過側圧力調整手段の開閉度のいずれか一つ以上を調整して、前記中空糸濾過膜の中央部Cの実効透水量FCEと、端部A、端部Bの実効透水量FAE、FBEの少なくとも一方との差を±10%以内に設定する、濾過方法。
ただし、中央部Cとは、中空糸濾過膜の濾過有効部を長さ方向に3等分した場合の中央部に相当する部分をいい、端部A、Bとは、それぞれ、中空糸濾過膜の前記中央部Cより被処理液導入側に位置する端部、中空糸濾過膜の前記中央部Cより被処理液導入側とは反対側に位置する端部をいうものとする。
【請求項9】
濾過方式が内圧濾過方式である請求項7又は8に記載の濾過方法。
【請求項10】
濾過方式が外圧濾過方式である請求項7又は8に記載の濾過方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−509(P2011−509A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143765(P2009−143765)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】