説明

中空糸膜の洗浄方法及び水処理設備

【課題】凝集沈殿処理の後に膜ろ過処理を行う場合であっても、膜の閉塞を抑制することができ、且つ、コストを削減できる中空糸膜の洗浄方法、及びそれが適用される水処理設備を提供する。
【解決手段】酸洗浄液槽20内の酸洗浄液は、酸洗浄処理時に膜ろ過処理装置16に供給される。そして、膜ろ過処理装置16のケース36内に酸性洗浄液が溜まった際に、ケース36に連通する弁A〜Iが閉じられる。これにより、ケース36内に酸性洗浄液が保持された静置時間が設けられる。酸性洗浄液は、静置時間後に原水槽12に送られ、原水のpH調整に利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空糸膜の洗浄方法に係り、特に上水処理設備の膜ろ過装置に用いられる中空糸膜の洗浄方法、及びそれが適用される水処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
上水処理設備では、まず、河川等から原水を取水し、これを凝集沈殿処理している。凝集沈殿処理は、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等の凝集剤を原水に注入することによって、原水中の懸濁物質を凝集させてフロックを形成し、このフロックを沈殿させている。そして、沈澱後の上澄液を摂取し、砂等でろ過し、さらに殺菌処理を行うことによって、飲用の上水を得ている。
【0003】
近年では、上記の凝集沈殿処理に加えて膜ろ過処理を行う方法が開発されている。膜ろ過処理では、UF膜(限界ろ過膜)やMF膜(精密ろ過膜)を中空の糸状に形成した中空糸膜を利用し、この中空糸膜に原水を通過させることによって、原水中の懸濁物質等を除去している。このような膜ろ過処理は、膜の孔径よりも寸法の大きな物質を除去することができるので、膜の孔径の選択によっては大腸菌等の細菌類まで取り除くことができる。
【0004】
ところで、膜ろ過処理は、膜面に懸濁物質が付着するため、処理時間に伴ってろ過効率が低下し、膜面の洗浄が必要となる。そこで、ろ過運転時とは反対方向に通水する逆洗処理を行うことが知られている。また、逆洗処理を行っても、膜面の閉塞が徐々に進行するので、薬品を膜モジュールに循環させる薬液洗浄処理を定期的に行うことが知られている(例えば特許文献1参照)。このような逆洗処理や薬品洗浄処理を行うことによって、膜面に付着した付着物を膜面から剥離させることができ、膜ろ過処理を長期間にわたって安定して行うことができる。
【特許文献1】特開2004−130307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように凝集沈殿処理の後に膜ろ過処理を行う場合には、逆洗処理や薬液洗浄処理を行っても十分な洗浄効果が得られず、膜面の閉塞の進行が速いという問題があった。これは、凝集沈殿処理で残存する微細な金属フロックが膜ろ過処理した際に膜面が付着するためであり、この金属フロックが膜面に一旦付着すると、逆洗処理や薬品洗浄処理を行っても剥離しにくいという問題があった。また、従来の上水処理設備は、薬液洗浄処理における薬液の使用量が多く、コストが著しく高いという問題や、薬液洗浄処理によって膜面をかえって痛めてしまい、膜面の寿命が短くなるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、凝集沈殿処理の後に膜ろ過処理を行う場合であっても、膜の閉塞を抑制することができ、且つ、コストを削減できる中空糸膜の洗浄方法、及びそれが適用される水処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、凝集沈殿処理した処理水を膜ろ過処理する中空糸膜の洗浄方法において、前記中空糸膜を有する膜モジュールに酸性の洗浄液を所定時間保持して静置する静置時間を設けるとともに、前記静置時間後に前記膜モジュールから排液した酸性洗浄液を、前記凝集沈殿処理前の処理水に返送することを特徴とする。
【0008】
請求項1の発明によれば、酸性の洗浄液を膜モジュール内に所定時間保持する静置時間を設けるようにしたので、中空糸膜の洗浄効果を向上させることができ、且つ、酸性洗浄液の使用量を大幅に削減することができる。特に凝集沈殿処理後の処理水に含まれる金属フロックは、前記静置時間を設けることによって、膜面を損傷することなく溶解させることができ、膜面の閉塞を効果的に抑制することができる。
【0009】
また、請求項1の発明によれば、膜モジュールから排液した酸性の洗浄液を、凝集沈殿処理前の処理水に返送したので、この処理水のpHを下げることができ、凝集沈殿処理に適したpHに調整することができる。よって、凝集沈殿処理時に使用するpH調整剤の使用量を減少させることができ、コストを削減することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記膜モジュール内のpHを1〜3に制御して保持することを特徴とする。このようにpHを制御して静置時間を設けることによって、中空糸膜に付着した金属フロックを効率よく溶解させることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は請求項1又は2の発明において、前記静置時間における前記膜モジュール内のpHを均一に制御することを特徴とする。請求項3の発明によれば、膜モジュール内のpHを均一に制御することによって、金属フロックの溶解の効率をさらに向上させることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3のいずれか1の発明において、前記凝集沈殿処理前の処理水のpHを測定し、該pHの測定値に応じて前記酸性の洗浄液のpHを調節することを特徴とする。したがって、膜モジュール内から排液した酸性の洗浄液によって凝集沈殿処理前の処理水のpHを適切な値に制御することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は前記目的を達成するために、凝集沈殿処理を行う凝集沈殿処理部と、該凝集沈殿処理した処理水を中空糸膜で膜ろ過する膜モジュールと、該膜モジュールで処理した処理水の一部を前記膜モジュールに返送して前記中空糸膜を逆洗する逆洗手段と、前記膜モジュールに酸性の洗浄液を供給して前記中空糸膜を洗浄する酸洗浄処理手段と、を備えた水処理設備において、前記酸性の洗浄液を前記膜モジュールの内部で所定時間保持して静置するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明によれば、酸性の洗浄液を膜モジュール内に所定時間保持して静置する静置時間を設けるようにしたので、中空糸膜の洗浄効果を向上させることができ、且つ、酸性の洗浄液の使用量を大幅に削減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る中空糸膜の洗浄方法及び水処理設備によれば、酸性の洗浄液を膜モジュール内に所定時間保持して静置する静置時間を設けるようにしたので、中空糸膜の洗浄効果を向上させることができ、且つ、酸洗浄液の使用量を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面に従って本発明に係る中空糸膜の洗浄方法及び水処理設備の好ましい実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明が適用される水処理設備の概略構成を示す模式図である。同図に示すように水処理設備10は主として、原水槽12、凝集沈殿処理装置14、供給槽15、膜ろ過処理装置(膜モジュール)16、処理水槽18、及び酸洗浄液槽20で構成される。
【0018】
原水槽12には原水管22が接続されており、この原水管22を介して原水が供給され、貯留される。原水槽12には、pH計24が設けられており、このpH計24によって原水槽12内の原水のpHが測定される。pH計24は、後述の制御装置62に接続されており、pH計24の測定値を示す信号が制御装置62に出力される。
【0019】
原水槽12は、配管26を介して凝集沈殿処理装置14に接続されており、原水槽12の原水が凝集沈殿処理装置14に送水される。凝集沈殿処理装置14は、硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を添加することによって、原水中の懸濁物質、溶存有機物を凝集させてフロックを形成し、沈殿させる装置であり、具体的には、凝集池、沈殿池、処理水の貯留池等で構成される。
【0020】
凝集沈殿処理装置14で凝集沈殿した沈殿物(水酸化アルミニウム等)は、汚泥引抜管28を介して定期的、或いは連続的に引き抜かれ、汚泥処理部30に移送される。汚泥処理部30は、汚泥濃縮槽や汚泥脱水機等から成り、沈殿物を濃縮・脱水する。濃縮・脱水された沈殿物は、必要に応じて焼却或いは廃棄処分される。
【0021】
一方、凝集沈殿処理装置14で得られた上澄み液は、配管31を介して供給槽15に供給されて一旦貯留され、膜ろ過処理装置16で膜ろ過処理を行う際に配管32を介して送水される。配管32には、送液するためのポンプXと、配管32を開閉するための弁Aが配設されており、弁Aは後述の制御装置62によって操作される。また、配管32には、弁Aと膜ろ過処理装置16の間の位置に、ドレン配管34が接続される。ドレン配管34の途中には、制御装置62によって操作される弁Dが配設されており、ドレン配管34の先端は原水槽12に接続される。よって、膜ろ過処理装置16内のドレンをドレン配管34を介して原水槽12に戻すことができる。なお、符号33は、膜ろ過処理装置16にエアを供給するエア供給管であり、このエア供給管33はブロア等のエア供給手段(不図示)に接続される。また、エア供給管33には弁Iが設けられており、この弁Iは後述の制御装置62によって開閉制御される。
【0022】
膜ろ過処理装置16は、密閉された円筒状のケース36を備え、このケース36の下端に前記配管32が接続され、ケース36の上端には処理水管38が接続される。ケース36の内部は、仕切り板40によってケース36内の下部(以下、一次側という)と上部(以下、二次側という)とに仕切られている。仕切り板40には、複数の開口40a、40a…が形成されており、各開口40aを臨むようにして、筒状の中空糸膜42が取り付けられる。したがって、ケース36内の一次側と二次側は中空糸膜42を介してのみ連通され、流体が一次側から二次側に流れる過程において流体中の浮遊物が中空糸膜42によって除去される。なお、図1には、膜ろ過処理装置16の構成を示す模式図として、三本の中空糸膜42のみを示したが、実際には数千本の中空糸膜42が平行に取り付けられる。また、中空糸膜42の下端は閉塞されるとともに、ポリウレタン等の樹脂によってケース36に固定される。さらに、図1には、一つのケース36のみを示したがこれに限定するものではなく、複数のケース36を並列に配置してもよい。
【0023】
中空糸膜42の素材としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂により親水化処理されたポリスルホン系樹脂、架橋または非架橋の親水性高分子が添加されたポリスルホン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂、親水化されたポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどが使用される。また、中空糸膜42は限外濾過膜や精密濾過膜が使用され、その孔径は例えば0. 001〜10μmが好ましく、0. 01〜8μmがより好ましく、0.1〜7μmがさらに好ましい。また、中空糸膜42の外径は、中空糸膜42の強度およびモジュールあたりの膜面積を確保する観点から、200〜3000μmの範囲内に設定することが好ましく、500〜2000μmの範囲内であることがより好ましい。中空糸膜42の厚さは、50〜700μmの範囲にあることが好ましく、100〜600μmの範囲であることがより好ましい。
【0024】
前述したケース36内の一次側の上部(すなわち、仕切り板40の近傍)には、戻し配管46が接続される。戻し配管46は途中で四本に分岐されており、そのうち分岐配管46a、46b、46cはそれぞれ、原水槽12、供給槽15、配管32に接続されており、この分岐配管46a、46b、46cにはそれぞれ弁E、F、Gが配設される。一方、分岐配管46dはエア抜き管としてケース36の近傍に配置されるとともに上方に向けて開口され、弁Hが配設される。これらの弁E〜Hは制御装置62によって開閉制御される。
【0025】
ケース36の一次側の出入り口(すなわち、配管32との接続部と、配管46との接続部)には、pH計44、44が設けられる。このpH計44は後述の制御装置62に接続され、制御装置62にpH計44の測定値の信号が出力される。なお、pH計44の個数や配置は特に限定するものではないが、ケース36内のpHの分布が分かるように分散して配置されることが好ましく、例えばケース36に複数のpH計44を直接取り付けてもよい。
【0026】
ケース36の上端に接続された処理水管38は、弁Bを介して処理水槽18に接続される。よって、膜ろ過処理装置16でろ過処理された処理水は、処理水管38を介して処理水槽18に送液されて貯留され、この処理水が浄水として引き出される。
【0027】
処理水管38には、弁Bよりも膜ろ過処理装置16側に洗浄液配管48が接続されており、この洗浄液配管48に弁Cが配設される。また、洗浄液配管48は途中で分岐され、一方の分岐管48aがポンプYを介して処理水槽18に接続され、もう一方の分岐管48bがポンプZを介して酸洗浄液槽20に接続される。したがって、ポンプYを駆動すると、処理水槽18内の処理水が処理水管38を介して膜ろ過処理装置16に逆流される。また、ポンプZを駆動すると、酸洗浄液槽20内の酸洗浄液が膜ろ過処理装置16に送液される。
【0028】
酸洗浄液槽20の内部には、攪拌翼50を有する攪拌手段が設けられており、必要に応じて酸洗浄液槽20内を攪拌混合できるようになっている。酸洗浄液槽20には、pH計60が設けられており、このpH計60が制御装置62に接続される。また、酸洗浄液槽20の上方には、硫酸が貯留された硫酸タンク52と、水が貯留された水タンク54が設けられる。硫酸タンク52、水タンク54はそれぞれ配管56、58によって酸洗浄液槽20に連通されており、これらの配管56、58にはそれぞれ弁J、Kが配設されている。したがって、弁J、Kを開閉することによって、硫酸タンク52内の硫酸、或いは水タンク54内の水を酸洗浄液槽20に補充することができる。これにより、酸洗浄液槽20内の酸性洗浄液のpHを調整することができる。なお、弁J、Kは制御装置62によって開閉操作され、pH計60の測定値が、所望のpH値になるように制御される。所望のpH値とは、中空糸膜42の膜面に付着した金属フロック(アルミ)を溶解するのに適したpH(通常1〜3)であり、このpH値は、原水槽12のpH計24によって調整される。
【0029】
上述したように、弁A〜KとポンプX〜Zは制御装置62によって集中管理される。制御装置62は、不図示の逆洗処理用タイマと酸洗浄処理用タイマに基づいて弁A〜KとポンプX〜Zを操作し、膜ろ過処理、逆洗処理、酸洗浄処理を切り替えるようになっている。以下に各処理について図2に従って説明する。
【0030】
制御装置62は、まず逆洗処理用タイマの時間t1 と酸洗浄処理用タイマの時間t2 を0にリセットし(ステップS1)、その後、膜ろ過処理を行う(ステップS2)。膜ろ過処理では、図1の弁A、Bが開かれ、弁C〜Iが閉じられるとともに、ポンプXが駆動される。これにより、凝集沈殿処理装置14内の上澄み液が膜ろ過処理装置16に送られ、中空糸膜42を通過してろ過処理された後、処理水槽18に送液されて貯留される。この膜ろ過運転によって、上澄み液に含まれる懸濁物質等が中空糸膜42によって補集され、取り除かれる。また、凝集沈殿処理後に残存する金属フロックも中空糸膜42に付着し、取り除かれる。
【0031】
なお、上記の操作は全ろ過方式の場合であり、クロスフロー方式を選択する場合には、弁Fを開いて液の一部を膜ろ過処理装置16の一次側と供給槽15との間で循環させる。これにより、中空糸膜42の膜面に、クロスフローを与えることができ、膜面の閉塞を抑制することができる。
【0032】
膜ろ過運転を連続して行うと、中空糸膜42の膜面の閉塞が進行するため、一次側と二次側との差圧が上昇し、膜ろ過効率が低下する。そこで、制御装置62は、タイマの時間t1 が、逆洗処理を行うまでの期間αに達したかを判別し(ステップS3)、所定の期間αに達した場合には、さらにタイマの時間t2 が、酸洗浄処理を行うまでの期間βに達したかを判別し(ステップS4)、達していない場合には逆洗処理を行う(ステップS5)。また、所定の期間βに達していた場合には、酸洗浄処理(ステップS6)を行う。
【0033】
逆洗処理では、弁C、E、Iが開かれ、弁A、B、D、F、G、Hが閉じられるとともに、ポンプYが駆動される。これにより、処理水槽18内の処理水が膜ろ過処理装置16のケース36内の二次側に送られるとともに、エアがケース36内の一次側に供給される。二次側に送水された処理水は一次側に流れ、その際に中空糸膜42の膜面を、ろ過運転時と反対方向に逆流する。したがって、膜面に付着した付着物が剥離され、膜面の逆洗が行われる。また、一次側に供給されたエアは気泡となってケース36内を上昇し、これによって中空糸膜42の膜面に剪断力が付与され、膜面が洗浄される。膜面を洗浄した後の洗浄廃液とエアは、戻し配管46(分岐配管46a)を介して原水槽12に戻される。したがって、逆洗によって膜面から剥離した付着物を、凝集沈殿処理装置14によって除去することができる。以上のような逆洗処理運転を定期的に行うことによって、中空糸膜42の膜閉塞を抑制することができ、中空糸膜42の寿命を延長できるとともに、ろ過運転を長期間にわたって安定して行うことができる。
【0034】
ところで、逆洗処理を行うに従って、洗浄効果が低下し、膜閉塞が進行する。特に本実施の形態のように凝集沈殿処理後に膜ろ過を行った場合には、膜閉塞の進行が速くなる。これは、中空糸膜42の膜面に付着した付着物のうち、金属フロックが逆洗処理を行っても膜面に残存するためである。そこで、本実施の形態では、酸性の洗浄液による酸洗浄処理運転を一定期間βごとに行う。
【0035】
図3に示すように酸洗浄処理では、まず酸性洗浄液の注入が行われる(ステップS10)。すなわち、図1の弁C、Eが開かれ、弁A、B、D、F、G、H、Iが閉じられるとともに、ポンプZが駆動される。これにより、酸洗浄液槽20内の酸性洗浄液が膜ろ過処理装置16のケース36内の二次側に供給される。そして、ケース36内が酸性洗浄液で満たされたと判断した後、逆洗処理用タイマの時間t2 を0にリセットし(ステップS11)、その後、静置状態に移行する(ステップS12)。なお、ケース36内が酸性洗浄液で満たされたかどうかの判断は、pH計44、44の測定値が所望のpH値(通常1〜3)になったかどうかで判断される。また、静置状態への移行は、弁A〜Iを閉じることによって行われる。すなわち、弁A〜Iを閉じることによって、酸性洗浄液がケース36内に保持され、ケース36外への酸性洗浄液の出入りのない静置状態になる。静置状態は所定時間γの間、保持される。ここで、静置状態の時間γは、中空糸膜42に付着した金属フロックを溶解するのに十分な時間に設定され、例えば3分〜15分に設定される。なお、静置状態の時間γは常に一定の時間でもよいが、中空糸膜42の使用時間に伴って徐々に長くなるように設定してもよい。
【0036】
静置状態を所定時間γの間、保持した後(ステップS13)、酸性洗浄液の排水を行う(ステップS14)。酸性洗浄液の排水は、弁D、Eを開くことによって行われ、これによって、ケース36内の酸性洗浄液が排水されて原水槽12に送液され、原水槽12内の原水が酸性洗浄液と混合されて原水のpH値が低下する。したがって、通常、7.5〜7.8である原水のpHを下げることができ、凝集沈殿処理に適した範囲(6.8〜7)に近づけることができる。よって、凝集沈殿処理時に使用されるpH調整剤の使用量を削減することができる。
【0037】
酸性洗浄液の排水後、タイマの時間t2 を0にリセットし(ステップS15)、酸性洗浄液の濯ぎ処理が行われる(ステップS16)。濯ぎ処理は、逆洗処理と同様に弁C、E、Iを開き、弁A、B、D、F、G、Hを閉じるとともに、ポンプYを駆動することによって行われる。これによって処理水槽18内の処理水がケース36の二次側に供給されるとともに、エアがケース36の一次側に供給される。そして、ケース36内の二次側から一次側に流れることによって中空糸膜42の膜面が逆洗されるとともにエアによって膜面に剪断力が付与されて洗浄され、ケース36内に残存する酸性洗浄液が取り除かれる。すなわち、ケース36内の濯ぎ洗浄と逆洗洗浄が同時に行われる。このような濯ぎ処理は、ケース36内の酸性洗浄液が完全に除去されるような時間λの間、行われる(ステップS17)。以上の処理によって酸洗浄処理が終了する。
【0038】
なお、上述したフローでは、膜ろ過処理、逆洗処理、酸洗浄処理をタイマによって切り替えるようにしたが、これに限定するものではなく、中空糸膜42の一次側と二次側との差圧を測定し、この測定値が所定のしきい値を超えた場合に処理を切り替えるようにしてもよい。
【0039】
図4は中空糸膜42の膜面に付着した金属フロックの溶解量と、静置時間との関係を示している。同図に示すように、pH4の酸性洗浄液をケース36内に保持しても、膜面に付着した金属フロックを溶解できなかったのに対し、pH1〜3の酸性洗浄液をケース36内に所定時間保持して静置することによって、膜面の金属フロックを溶解することができる。酸性洗浄液を保持する静置時間は、図4に示すように、3分以上(好ましくは5分以上)で十分な効果が得られた。また、15分を越えて保持しても洗浄効果は上がらなかった。したがって、15分を越えて保持しても、酸性洗浄液による中空糸膜42の膜面の痛みが激しくなり、かえって、中空糸膜42の寿命が短くなることが分かる。以上により、酸性洗浄液を保持する静置時間は、3分以上15分以下が好ましく、5分以上15分以下がより好ましい。
【0040】
図5は、中空糸膜42の前後の差圧の経時変化を示している。同図において、点線は酸洗浄処理を行わなかった比較例であり、実線は酸洗浄処理を行った本実施例である。なお、同図は、測定値の大きな変動のみを実線或いは点線で示したものであり、実際には、逆洗処理や酸洗浄処理の前後において、差圧が小さく変動している。
【0041】
同図に示すように、酸洗浄処理を行わなかった比較例では、1カ月程度で差圧が加速度的に上昇し、2カ月経過後には差圧が上がり過ぎて使えなくなった。これに対して、酸洗浄処理を定期的に行った本実施例では、差圧が上昇しなくなり、一定の期間で十分なろ過性能が得られた。したがって、本実施例では、酸洗浄処理を定期的に行うことによって、中空糸膜42の性能を確実に回復させることができ、長期間にわたって安定した処理を行うことができる。
【0042】
なお、図5には示さなかったが、酸性洗浄液を循環させながら中空糸膜42に供給させた場合も測定した。この場合には、差圧の変動は本実施例と似ていたが、本実施例よりも中空糸膜42の痛みが激しく、中空糸膜42の寿命が短かった。また、酸性洗浄液を循環させた場合は、本実施例のように静置時間を設けた場合よりも、酸性洗浄液の使用量が非常に多いという問題や、循環用ポンプの動力費が嵩むという問題もあった。
【0043】
以上説明したように本実施の形態では、酸性洗浄液をケース36内に所定時間保持して静置する静置時間を設けるようにしたので、中空糸膜42の膜面を損傷することなく、膜面に付着した金属フロックを溶解させることができ、中空糸膜42の寿命を延長させることができるとともに、酸性洗浄液の使用量や循環用ポンプの動力を削減でき、低コストでの膜洗浄を行うことができる。
【0044】
ところで、上述した酸洗浄処理において、ケース36に送られる酸性洗浄液のpHは、原水槽12の原水のpH(すなわちpH計24の測定値)によって調整される。具体的には、原水のpHを、凝集沈殿処理に適した6.8〜7と比較し、原水のpHがこれよりも非常に高い場合には、酸洗浄液槽20のpHを低下させて1に近い値になるように調整する。また、原水のpHが前記の適性範囲に近い場合には酸洗浄液槽20のpHを上昇させて3に近い値になるように調整する。これにより、酸性洗浄液の廃液を原水槽12内の原水に混合した際に、原水のpHを6.8〜7により近づけることができ、凝集沈殿処理時のpH調整剤の使用量を大幅に削減することができる。
【0045】
なお、上述した実施形態において、酸性洗浄液の静置の際にケース36内でpHを均一化するようにしてもよい。例えば、二つのpH計44、44の測定値に所定の差が生じた際に弁Iを開き、ケース36内にエアを数秒間供給する。このエアが気泡となってケース36内を上昇することによって中空糸膜42の膜面に剪断力が付与され膜面が洗浄されるとともに、ケース36内が攪拌され、ケース36内のpHが均一化される。これにより、中空糸膜42の膜面に付着した金属フロックの溶解が効果的に行われ、中空糸膜42の洗浄効果が大きくなる。なお、ケース36内のエアは、弁Hを開くことによって分岐配管46dから引き抜かれる。
【0046】
ケース36内のpHを均一化する方法は、エアの供給に限定されるものではなく、酸性洗浄液を循環させるようにしてもよい。酸性洗浄液の循環は、弁C、Eを閉じてポンプZを停止した後、弁A、Gを開いてポンプXを駆動させる。これにより、ケース36内の酸性洗浄液が分岐配管46cと配管32を介して循環され、ケース36内のpHが均一化される。
【0047】
なお、上述したエアの供給や酸性洗浄液の循環を、酸洗浄処理よりも少ない頻度で定期的に行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る水処理設備の構成を示す模式図
【図2】制御方法を示すフローチャート
【図3】図2の酸洗浄処理を説明するフローチャート
【図4】酸洗浄処理の効果を示す図
【図5】膜ろ過処理装置における差圧の経時変化を示す図
【符号の説明】
【0049】
10…水処理設備、12…原水槽、14…凝集沈殿処理装置、15…供給槽、16…膜ろ過処理装置、18…処理水槽、20…酸洗浄液槽、22…原水管、24…pH計、36…ケース、40…仕切り板、42…中空糸膜、44…pH計、52…硫酸タンク、54…水タンク、62…制御装置、A〜K…弁、X〜Z…ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集沈殿処理した処理水を膜ろ過処理する中空糸膜の洗浄方法において、
前記中空糸膜を有する膜モジュールに酸性の洗浄液を所定時間保持して静置する静置時間を設けるとともに、
前記静置時間後に前記膜モジュールから排液した酸性洗浄液を、前記凝集沈殿処理前の処理水に返送することを特徴とする中空糸膜の洗浄方法。
【請求項2】
前記膜モジュール内のpHを1〜3に制御して保持することを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜の洗浄方法。
【請求項3】
前記静置時間における前記膜モジュール内のpHを均一に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸膜の洗浄方法。
【請求項4】
前記凝集沈殿処理前の処理水のpHを測定し、該pHの測定値に応じて前記酸性の洗浄液のpHを調節することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の中空糸膜の洗浄方法。
【請求項5】
凝集沈殿処理を行う凝集沈殿処理部と、該凝集沈殿処理した処理水を中空糸膜で膜ろ過する膜モジュールと、該膜モジュールで処理した処理水の一部を前記膜モジュールに返送して前記中空糸膜を逆洗する逆洗手段と、前記膜モジュールに酸性の洗浄液を供給して前記中空糸膜を洗浄する酸洗浄処理手段と、を備えた水処理設備において、
前記酸性の洗浄液を前記膜モジュールの内部で所定時間保持して静置するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする水処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−102634(P2006−102634A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292669(P2004−292669)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000005452)日立プラント建設株式会社 (1,767)
【Fターム(参考)】