説明

中空糸膜の製造方法

【課題】乾燥中空糸膜の製造方法において、中空糸膜の乾燥時に中空糸膜の糸切れを解消する。
【解決手段】乾燥時に中空糸膜の静電気を除去することにより、中空糸膜の糸切れや品質の信頼性低下を防ぐ中空糸膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、中空糸膜製造工程において、中空糸膜を走行させつつ乾燥する中空糸膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子からなる中空糸は、様々な目的や用途に開発され使用されている。特に、中空糸状の高分子膜は精密濾過膜、限界濾過膜、逆浸透膜、気体分離膜、窒素富化膜、酸素富化膜、血液浄化膜、人工腎臓、人工肺などの様々な用途で実用化されている。これらの中空糸膜は、一般的に湿式紡糸法、乾式紡糸法、溶融紡糸法で製糸される。
【0003】
上述のように、中空糸膜の製造方法は様々なものがあるが、例えば、湿式紡糸法では、二重環式構造からなる紡糸口金からポリマー流体を吐出させ、凝固浴での凝固、洗浄、乾燥後、巻取られる。
【0004】
特に中空糸膜を走行させつつ乾燥する方法については、中空糸膜つぶれや性能の変動をおさえるため、これまでにも種々の提案がなされている。その主なものとして、湿潤状態にある中空糸膜を溶媒及び水蒸気の濃度を規定した熱風による乾燥処理を行う方法(特許文献1参照)、マイクロ波照射による乾燥処理方法(特許文献2参照)などがある。また、乾燥後の処理方法としてクリンプ処理をする方法(特許文献3参照)などがあるが、乾燥方法を提案した特許がほとんどであった。しかしながら、これらの方法では、乾燥時に中空糸膜の静電気により中空糸膜の擦過や擦過に伴う糸切れの発生という問題があった。
【0005】
また、中空糸膜の電位については、アクリロニトリル中空糸膜(特許文献4参照)やグリセリン添加での静電気除去(特許文献5参照)や乾燥後の静電気除去(特許文献6参照)などがあるが、糸束の電位を規定した提案であり、乾燥工程での中空糸膜の静電気除去を想定した提案はなかった。
【0006】
また、中空糸膜の特性上、特に人工臓器用途で使用する場合には人命に関わるおそれがあるため、界面活性剤やカーボンブラック等の静電気除去剤の膜表面への塗布や膜成分への添加を行った場合には静電気除去剤を完全に除去する必要がある。このため、製品の安全性の面から中空糸膜の静電気除去に静電気除去剤の使用を避ける必要があった。
【特許文献1】特開平11-332980号公報
【特許文献2】特開2003−284931号公報
【特許文献3】特開2001−38171号公報
【特許文献4】特開平06−114249号公報
【特許文献5】特開2000−325761号公報
【特許文献6】特開2000−325760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消せんとするものであり、短時間で大量の中空糸膜を乾燥させることを可能にする中空糸膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
(1)中空糸膜を紡糸後、中空糸膜を走行させつつ乾燥する中空糸膜の製造方法において、該乾燥工程において中空糸膜の静電気を除去することを特徴とする中空糸膜の製造方法。
(2)125℃以上150℃以下の温度に加熱乾燥した熱風を用いて中空糸膜を乾燥させることを特徴とする(1)記載の中空糸膜の製造方法。
(3)該乾燥工程における中空糸膜の電位を−1.0〜+1.0kVにすることを特徴とする(1)または(2)記載の中空糸膜の製造方法。
(4)中空糸膜の膜成分としてポリスルホン系樹脂と、ポリビニルピロリドン(PVP)及び/又はポリエチレングリコール(PEG)とを用いることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
(5)該乾燥工程における中空糸膜の除電方法としてコロナ放電により除電することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
(6)該乾燥工程における中空糸膜の合糸本数が1糸条あたり4〜32本であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
(7)人工臓器に使用することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
(8)人工臓器が人工腎臓であることを特徴とする(7)に記載の中空糸膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、乾燥時に中空糸膜の静電気を除去することにより、糸切れの要因である中空糸膜の擦過をなくすことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に湿式紡糸法による乾燥中空糸膜製造工程の一例を示す。二重環式構造からなる紡糸口金1から中空形状のポリマー流体を吐出させ、凝固浴2、水洗浴3、乾燥装置4を通過後、巻取機5で巻き取る。6は湿潤状態の中空糸膜であり、7は乾燥中空糸膜である。乾燥装置内の除電器8のコロナ放電により中空糸膜の静電気を除去する。乾燥機内の中空糸膜は分繊ガイド9で糸条毎に分繊される。
【0011】
本発明は、中空糸膜を走行させつつ乾燥する製造方法において、中空糸膜の乾燥時において中空糸膜の静電気の除去を行い、糸切れの原因である中空糸膜の擦過を防ぐ。除電が行われない場合、中空糸膜の分繊不良や擦過が生じ、糸切れの頻発や品質の信頼性低下を招く。
【0012】
中空糸膜の乾燥温度は125〜150℃が好ましい。125℃未満であると、中空糸膜の乾燥が不十分のため、中空糸膜のつぶれを誘発する場合がある。一方、150℃を越えると、急激な温度上昇により張力変動が大きいため、膜性能のバラツキが起きる場合がある。
【0013】
乾燥工程での中空糸膜の電位は−1.0〜+1.0kVが好ましい。中空糸膜の電位がこの範囲外にある場合には、静電気除去が十分でないため、中空糸膜同士の反発を抑えにくい傾向がある。
【0014】
本発明で用いられる中空糸膜の膜構成ポリマは特に限定されないが、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン系樹脂と、ポリビニルピロリドン(PVP)及び/又はポリエチレングリコール(PEG)とで構成されていることが好ましい。
【0015】
中空糸膜の除電方法としては、特に限定はしないが、プラスイオンとマイナスイオンを交互にあてることにより中空糸膜の電位を安定させるコロナ放電が好ましい。
【0016】
乾燥時の中空糸膜の合糸本数は1糸条あたり4〜32本であることが好ましい。合糸本数が1糸条あたり4本未満の場合には、分繊作業や設備の面で効率的ではない。また、合糸数を1糸条あたり32本を越えた場合には、乾燥不足が生じ、中空部のつぶれや膜性能のバラツキといった品質の信頼低下がおきる場合がある。
【0017】
中空糸膜の電位が−1.0〜+1.0kVを満たすのであれば、除電器の配置に関して特に限定はしないが、中空糸膜に12秒おきにコロナ放電が照射されるように設置することが好ましい。
【0018】
走行中の中空糸膜を十分に乾燥させるのであれば乾燥条件の限定はしないが、中空糸膜の走行速度は30m/min以上、乾燥時間は3分以下である乾燥条件において、より大きな効果を発揮する。
【0019】
本発明の中空糸膜の製造方法は、水処理(特に浄水)用途や、医療用途における血液浄化膜にも用いることができる。また、大量処理が可能なため、通常産業用途の限外濾過膜や逆浸透膜などの用途にも有効に用いることができる。しかし、添加物の除去を必要としない点で、安全性が重要視される人工腎臓等の人工臓器用に用いられることがより好ましい。
【0020】
本発明における製膜原液及び芯液の組成は特に限定はないが、製膜原液及び芯液の溶媒濃度が高い場合において、特に大きな効果を発揮する。
【実施例】
【0021】
乾燥機内の除電器はSIMCO社製のSS-50を使用し、中空糸膜の電位測定には春日電気製KSD-0303を使用した。
【0022】
(実施例1)
ポリスルホン16 wt%、ポリビニルピロリドン(K-90)6wt%をジメチルアセトアミド78 wt%に加え、90℃、3時間加熱溶解し、製膜原液とした。この原液を外径0.3mm、内径0.2mmの二重環式構造からなる紡糸口金(144錘)から芯液としてジメチルアセトアミド60 wt%と水40 wt%からなる混合溶液を吐出させ、1糸条あたり4本に分繊を行ったまま毎分30.0mの走行速度で350mm・35℃・湿度80%の乾式部を通過の後、40℃の水からなる凝固浴中に浸漬し中空糸膜を形成した。形成後、その後も連続的に90℃の水からなる洗浄浴にて洗浄を行った後、熱風乾燥装置内を熱風温度を150℃に設定し、毎分30.0mの走行速度にて2分間乾燥を行った後、中空糸膜を巻き取った。乾燥機内の除電器の設置位置を中空糸膜の走行距離に対して6m毎に設置した。乾燥装置内の中空糸膜の電位は0.7kVであり、乾燥装置での糸切れは0.07回/時間であった。
【0023】
(実施例2)
実施例1と同様に中空糸膜を形成し、1糸条あたり16本に分繊を行ったまま洗浄浴にて洗浄を行った後、熱風乾燥装置内の熱風温度を125℃に設定し、毎分30.0mの走行速度にて2分間乾燥を行った後、中空糸膜を巻き取った。乾燥機内の除電器の設置位置を中空糸膜の走行距離に対して6m毎に設置した。乾燥装置内の中空糸膜の電位は0.5kVであり、乾燥装置での糸切れは0.06回/時間であった。
【0024】
(比較例1)
実施例1と同様に中空糸膜を形成し、1糸条あたり8本に分繊を行ったまま洗浄浴にて洗浄を行った後、熱風乾燥装置内を熱風温度を150℃に設定し、2分間毎分30mの走行速度で乾燥を行った後、中空糸膜を巻き取った。除電器を設置しなかったため、乾燥装置内の中空糸膜の電位は7.0kVであり、乾燥装置での糸切れは3回/時間であった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】中空糸膜製造工程の概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1 紡糸口金
2 凝固浴
3 水洗浴
4 乾燥装置
5 巻き取り機
6 湿潤状態の中空糸膜
7 乾燥状態の中空糸膜
8 乾燥装置内の除電器
9 乾燥機内の分繊ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜を紡糸後、中空糸膜を走行させつつ乾燥する中空糸膜の製造方法において、該乾燥工程において中空糸膜の静電気を除去することを特徴とする中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
125℃以上150℃以下の温度で加熱乾燥した熱風にて中空糸膜を乾燥させることを特徴とする請求項1記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
該乾燥工程における中空糸膜の電位を−1.0〜+1.0kVにすることを特徴とする請求項1または2記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
中空糸膜の膜成分としてポリスルホン系樹脂と、ポリビニルピロリドン及び/又はポリエチレングリコールとを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
該乾燥工程における中空糸膜の除電方法としてコロナ放電により除電することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項6】
該乾燥工程における中空糸膜の合糸本数が1糸条あたり4〜32本であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項7】
人工臓器に使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項8】
人工臓器が人工腎臓であることを特徴とする請求項7に記載の中空糸膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−231275(P2006−231275A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53043(P2005−53043)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】