説明

中空部品の洗浄方法

【課題】中空部品の内部を効果的に洗浄できる方法を提案すること。
【解決手段】中空内部に洗浄液を浸入させ、該洗浄液によって内部表面から異物を剥離させる工程と、中空内部に起泡液を浸入させ、該起泡液の泡界面に前記剥離した異物を分散させる工程と、前記異物を分散させた泡を中空内部から排出させる工程とを有することを特徴とする、中空部品の洗浄方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部品の洗浄方法に関し、特に、洗浄が困難な中空部品の内部の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の部品として、金属パイプを使用した中空部品や、金属素材をプレス加工した半筒体同士を溶接した中空部品が多く用いられている。これらの中空部品は、加工後に、中空内部の汚れ、油、切り粉、塵埃等の異物の除去を行う必要がある。
【0003】
中空部品のような洗浄が困難な部品の洗浄方法として、種々のものが提案されている。 例えば、特許文献1には、貫通穴を有する部品に対し、該部品を停止させ、この停止位置で部品の洗浄部位に応じて洗浄液及び加圧空気を噴出して洗浄することが記載されている。これにより異なったネジ孔の位置、大きさ、形状に対応した洗浄を行っている。
【0004】
また、特許文献2では、洗浄槽中に不溶性粒子を含む洗浄液を投入し、槽の1部に設けた攪拌装置により液中に乱流を引き起こして洗浄している。この方法は、穴、凹凸などの複雑な形状の部品を洗浄するものである。
【0005】
また、特許文献3には、細孔や凹凸を有する複雑な構造の部品の洗浄に際して、部品を洗浄液中に浸漬した状態で、洗浄槽内に設けたノズルから被洗浄物に向け噴流を発生させるとともに、超音波発生手段により、超音波を発振する洗浄方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平3−127672号公報
【特許文献2】特開平4−215880号公報
【特許文献3】特開平3−127672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した洗浄方法は、いずれも部品の表面に存在する穴や凹凸を効果的に洗浄できるものではあるが、中空内部の洗浄には適しておらず、特に、中空内部において剥離された異物を効果的に排出させることができる方法ではないために、内部に異物が残留し、満足のできる洗浄が行えるものではなかった。
【0008】
本発明は、上述した背景技術が有する実情に鑑み成されたものであって、その目的は、中空部品の内部を効果的に洗浄できる方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明に係る中空部品の洗浄方法は、次の〔1〕〜〔5〕に記載の方法とした。
〔1〕 中空内部に洗浄液を浸入させ、該洗浄液によって内部表面から異物を剥離させる工程と、中空内部に起泡液を浸入させ、該起泡液の泡界面に前記剥離した異物を分散させる工程と、前記異物を分散させた泡を中空内部から排出させる工程とを有することを特徴とする、中空部品の洗浄方法。
〔2〕 上記異物を剥離させる洗浄液が、中空部品に使用される燃料の表面張力と同等、若しくはそれより低い表面張力の洗浄液であることを特徴とする、上記〔1〕に記載の中空部品の洗浄方法。
〔3〕 上記異物を剥離させる洗浄液が、加温された状態で用いられことを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載の中空部品の洗浄方法。
〔4〕 上記異物を分散させる起泡液が、中空内部に浸入させた後の中空部品の揺動によって起泡させるものであることを特徴とする、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の中空部品の洗浄方法。
〔5〕 上記異物を分散させた泡を中空内部から排出させる工程が、水を中空内部に導入し、水とともに泡を押し出す工程であることを特徴とする、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の中空部品の洗浄方法。
【発明の効果】
【0010】
上記した本発明に係る中空部品の洗浄方法によれば、洗浄液によって剥離した異物を起泡液の泡界面に分散させ、該異物を分散させた泡を中空内部から排出させるものであるため、部品内部の突起や淀みに影響させず、剥離した異物を泡とともに効果的に中空内部から排出させることができ、清浄度の高い中空部品の洗浄が可能となる。
【0011】
ここで、上記異物を剥離させる洗浄液として、中空部品に使用される燃料の表面張力と同等、若しくはそれより低い表面張力の洗浄液を用いた場合には、表面張力が低いために部材表面と異物との接着界面への浸透力が高く、異物を効果的に剥離することができるとともに、このような洗浄液を用いて中空内部を洗浄しておけば、その異物剥離効果が該中空部品内部を流れる燃料、例えばガソリン、軽油、エタノール等の異物剥離効果よりも高いために、実車にて使用の際に異物が剥離することはなく、燃料噴射装置の動作異常等を有効に防ぐことができる。
【0012】
また、上記異物を剥離させる洗浄液が、加温された状態で用いられる場合には、該洗浄液の表面張力を下げることができ、より浸透力が高くなるために洗浄効果を向上させることができる。
【0013】
また、上記異物を分散させる起泡液が、中空内部に浸入させた後の中空部品の揺動によって起泡させるものである場合には、その起泡の発生過程において異物を泡界面に効果的に取り込むことができ、より良好に剥離した異物を泡界面に分散させた状態で中空内部から排出させることができる。
【0014】
さらに、上記異物を分散させた泡を中空内部から排出させるにあたって、水を中空内部に導入し、水とともに泡を押し出す方法を採用した場合には、効果的に異物を分散させた泡を中空内部から排出させることができるとともに、泡の排出とすすぎとを兼ねたものとなり、洗浄作業工程を単純なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、上記した本発明に係る中空部品の洗浄方法の実施の形態を、詳細に説明する。
本発明に係る中空部品の洗浄方法は、中空内部に洗浄液を浸入させ、該洗浄液によって内部表面から異物を剥離させる工程と、中空内部に起泡液を浸入させ、該起泡液の泡界面に前記剥離した異物を分散させる工程と、前記異物を分散させた泡を中空内部から排出させる工程とを有するものである。
【0016】
上記本発明の洗浄方法の対象となる中空部品としては、例えば、自動車のフューエルインジェクションレール、コモンレール等を挙げることができる。これらの中空部品は、内部に突起等があり、特に異物を排出しにくい構造のものであるとともに、使用の際の動作異常等を防ぐために一定の清浄度が要求される部品であるために、特に本発明に係る洗浄方法の対象となる。
【0017】
また、上記本発明において使用する異物を剥離させる洗浄液としては、中空部品に使用される燃料の表面張力と同等、若しくはそれより低い表面張力の洗浄液であることが好ましい。具体的には、中空部品に使用される燃料がガソリンである場合には、ガソリンの表面張力は19mN/m程度であるため、この場合に使用する洗浄液は、表面張力19mN/m以下の洗浄液であることが好ましい。同様に、中空部品に使用される燃料が軽油である場合には、軽油の表面張力は23〜25mN/mであるため、この場合に使用する洗浄液は、表面張力25mN/m以下の洗浄液であることが好ましい。これは、表面張力の低い洗浄液を用いた場合には、部材表面と異物との接着界面への浸透力が高く、異物を効果的に剥離することができ、また、このような異物の剥離効果が高い洗浄液を用いて中空内部を洗浄しておけば、該中空部品内部を流れる燃料の異物剥離効果よりも高いために、実車にて該中空部品を使用の際に異物が剥離することがなく、燃料噴射装置の動作異常等を有効に防ぐことができるために好ましい。このような、本発明において洗浄液として好適に用いることができる表面張力の低い洗浄液としては、臭素系溶剤(n−プロピルブロマイド)、炭化水素系溶剤(パラフィン、ナフテン)、フッ素系溶剤(HFC、HFE、HCFC)等を挙げることができる。
【0018】
本発明においては、先ず、上記したような表面張力が低い洗浄液が入れられた容器に洗浄する中空部品を浸漬すること等により、該中空部品の内部に洗浄液を浸入させ、該洗浄液によって内部表面から異物を剥離させる。中空部品の洗浄液への浸漬時間や洗浄液の温度は、洗浄する中空部品の種類、また付着している異物の種類等により適宜に調整すればよいが、洗浄する中空部品が自動車のフューエル製品、例えばフューエルインジェクションレールである場合には、通常、浸漬時間は30秒〜600秒程度、洗浄液の温度は10〜90℃程度である。なお、洗浄液の温度は、洗浄効果を向上させるためには使用可能温度範囲内ではできるだけ高温の方が望ましく、一般的には、60℃程度に洗浄液を加温して用いることが望ましく、上記した洗浄液の具体的な表面張力の数値は、この加温時において満たされていればよい。また、必要に応じて、この洗浄液による異物の剥離工程において、中空部品に振動を与える等の洗浄効果を向上させる手段を併用してもよい。
【0019】
続いて、中空部品を洗浄液の容器から取り出し、今度は中空部品の内部に起泡液を浸入させ、該起泡液の泡界面に上記工程において剥離した異物を分散させる。この異物を分散させる起泡液は、中空内部に浸入させた後の中空部品の揺動によって起泡させるものであることが、その起泡の発生過程において異物を泡界面に効果的に取り込むことができ、より良好に剥離した異物を泡界面に分散させた状態とすることができるために好ましい。この際に用いる起泡液としては、例えば、界面活性剤の0.1〜2%濃度程度の水溶液、あるいは分散液が好適に用いられる。この場合の界面活性剤の種類には特に限定はないが、高級アルコールにエチレンオキサイドを付加し、これを硫酸化した高級アルコール系のものが、起泡性や安全性の観点において好ましいものとして例示される。また、起泡のために中空部材に加える揺動(振動)は、加速度2〜6G程度が適当である。
【0020】
続いて、異物を分散させた泡を中空内部から排出させる。この泡の排出工程にあたっては、水を中空内部に導入し、水とともに泡を押し出す方法を採用することが、効果的に異物を分散させた泡を中空内部から排出させることができるために好ましく、また、泡の排出とともにすすぎ工程をも行うことができ、洗浄作業工程を単純なものとすることができるために好ましい。この場合の水の圧力は、水道の水圧程度あればよく、例えば2〜6kgf/cm2程度の圧力で連続的或いは間欠的に導入すればよく、必要に応じて中空部材の揺動を併用することとしてもよい。
【0021】
上記剥離した異物を泡界面に分散させる工程、及び異物を分散させた泡を中空内部から排出させる工程は、必要に応じて2〜3回繰り返して行う。而して、高圧の水の噴射力により、異物を分散させた泡は、部品内部の突起や淀みに影響させず、簡易且つ短時間で中空内部から排出され、効率的に中空内部が洗浄される。
次に、本発明に係る中空部品の洗浄方法の実施例を記載するが、本発明は、何ら下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
図1に概念的に示した中空部材であるフューエルインジェクションレールAの洗浄を行った。
【0023】
洗浄液Bとして60℃に加熱したn−プロピルブロマイド(表面張力19mN/m)を使用し、起泡液Cとして高級アルコール系の界面活性剤の0.15%程度の水溶液を用いた。
【0024】
先ず、上記洗浄液Bを入れた容器1に、図2に示したようにフューエルインジェクションレールAを300秒間浸漬し、表面から異物を剥離させた。
その後、フューエルインジェクションレールAを容器1から取り出し、該フューエルインジェクションレールAに、フィード部2から上記起泡液Cを内部容積の1/3程度まで注入し、図3に示したように加速度4GでフューエルインジェクションレールAを揺動させ、起泡液Cを泡立てて剥離した異物を泡界面に分散させた。
続いて、フューエルインジェクションレールAのフィード部2から、水Wを水道の水圧のままで導入し、図4に示したように水とともに泡をインジェクタカップ3の穴から押し流した。
上記剥離した異物を泡界面に分散させる工程及び異物を分散させた泡を排出させる工程を、2度繰り返した。
【0025】
上記洗浄作業により、フューエルインジェクションレールA内に、100μm以上の異物がゼロの洗浄が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る中空部品の洗浄方法を実施したフューエルインジェクションレールの概念的な断面図である。
【図2】本発明に係る中空部品の洗浄方法において、中空部品の内部に洗浄液を浸入させ、該洗浄液によって内部表面から異物を剥離させる工程を概念的に示した側面図である。
【図3】本発明に係る中空部品の洗浄方法において、中空部品の内部に起泡液を浸入させ、該起泡液の泡界面に剥離した異物を分散させる工程を概念的に示した側面図である。
【図4】本発明に係る中空部品の洗浄方法において、異物を分散させた泡を中空内部から排出させる工程を概念的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 容器
2 フィード部
3 インジェクタカップ
A フューエルインジェクションレール
B 洗浄液
C 起泡液
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空内部に洗浄液を浸入させ、該洗浄液によって内部表面から異物を剥離させる工程と、中空内部に起泡液を浸入させ、該起泡液の泡界面に前記剥離した異物を分散させる工程と、前記異物を分散させた泡を中空内部から排出させる工程とを有することを特徴とする、中空部品の洗浄方法。
【請求項2】
上記異物を剥離させる洗浄液が、中空部品に使用される燃料の表面張力と同等、若しくはそれより低い表面張力の洗浄液であることを特徴とする、請求項1に記載の中空部品の洗浄方法。
【請求項3】
上記異物を剥離させる洗浄液が、加温された状態で用いられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の中空部品の洗浄方法。
【請求項4】
上記異物を分散させる起泡液が、中空内部に浸入させた後の中空部品の揺動によって起泡させるものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の中空部品の洗浄方法。
【請求項5】
上記異物を分散させた泡を中空内部から排出させる工程が、水を中空内部に導入し、水とともに泡を押し出す工程であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の中空部品の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−297621(P2009−297621A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153309(P2008−153309)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(390039929)三桜工業株式会社 (106)
【Fターム(参考)】