説明

主成分である酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウム、並びに分散質相からなるセラミックス複合材料

本発明は、セラミックスマトリックスとしての酸化アルミニウムと、その中に分散された酸化ジルコニウムとからなる複合材料、その製造法及びその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスマトリックスとしての酸化アルミニウムと、その中に分散された酸化ジルコニウムとからなる複合材料、その製造法及びその使用に関する。
【0002】
金属合金の分子構造とセラミックス材料の分子構造とは、本質的に異なる。金属結合において、電子は無秩序に比較的わずかな結合力で原子核の周りを回っている。この「ルーズな」構造から、例えば生体環境において常にイオンが放出され;多様な化学反応が可能である。
【0003】
セラミックス分子内では、電子はセラミックス結合において厳密に所定のコース、いわゆる配向性電子軌道に入る。その結合力は極めて高く、分子は極めて安定である。そのためイオンは生じず、化学反応は実質的に不可能である。
【0004】
極端に安定なセラミックス結合によって、材料の塑性変形はほぼ排除される。これにより、一方では硬度が所望の通り極めて高くなるものの、他方では脆性が比較的高くなる。しかしながら、適切な材料設計により高硬度と高靱性とを同時に達成することができる。
【0005】
材料科学において、破壊強度と破壊靭性とは区別される。破壊強度とは、材料が破壊せずに耐える最大の機械的応力を指す。破壊靭性(亀裂靭性とも言う)とは、亀裂進展開始に対する材料の抵抗力を表す。医学技術においては、現在すでに極めて高い破壊強度を有するセラミックス材料が用いられている。これらのセラミックス材料の中には、さらに極めて高い破壊靭性を備えているものもある。そのような材料は、発生している亀裂に対して他のセラミックスよりも極めて良好な抵抗力を示し、かつ亀裂の進展を妨げることができる。
【0006】
このような特性は2つの強化機序に基づくものである。第一の強化機序は、正方晶系酸化ジルコニウム粒子の導入によるものである。該粒子は安定な酸化アルミニウムマトリックス内にばらばらに分布している。該粒子は亀裂の範囲内に局所的な圧力ピークをもたらし、そのようにして亀裂伝播を阻止する。
【0007】
第二の強化機序は、酸化物混合物中に同じく散在して生じる小板状の結晶により達成される。この「プレートレット」は潜在的な亀裂を偏向させ、亀裂エネルギーを分散させ、それによって該エネルギーを散逸させる。これら2つの機能により、従来はセラミックスでは達成し得なかった構成要素ジオメトリーをこのような材料を用いて設計することも可能となる。
【0008】
本発明の基礎をなす課題は、公知のセラミックス材料の特性をさらに改善することであった。
【0009】
本発明はセラミックス複合材料に関し、該セラミックス複合材料は、主成分である酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウム、並びに該複合材料の特性に影響を及ぼし得る1以上の無機骨材からなる。ここで、酸化アルミニウムは、>65%、有利には85〜90%の体積含分を有する主成分を形成し、酸化ジルコニウムは10〜35%の体積含分を有する副成分を形成する。他の添加物(以下で分散質と称する)は、1〜10%、有利には2〜8%、特に有利には3.5〜7%の体積含分を占めることができる。酸化アルミニウムに加えて酸化ジルコニウムも、さらに可溶性成分を含有することができる。可溶性成分として、以下の元素:Cr、Fe、Mg、Ti、Y、Ce、Ca、ランタニド及び/又はVのうち1以上が存在し得る。酸化ジルコニウムは、出発状態において、全酸化ジルコニウム含分に対して大部分が、有利には80〜99%、特に有利には90〜99%が正方晶系相で存在している。本発明による複合材料において、正方晶から単斜晶への酸化ジルコニウムの公知の相変態が強化機序として利用され、それにより亀裂靭性及び強度に有利な影響が及ぼされる。
【0010】
酸化ジルコニウムの正方晶系相の安定化は、本発明による複合材料において、大部分が意想外にも化学的ではなく機械的に行われる。従って、酸化ジルコニウムに対する無機化学安定剤の含分は、従来技術において通常使用される含分を明らかに下回る値に制限されている。従来技術において通常有利に使用される化学安定剤は、Y23である。他の公知の安定剤は、CeO2、CaO及びMgOである。
【0011】
セラミックス複合材料に関する公知の配合の例は以下の通りである:
【表1】

【0012】
本発明による複合材料においては、従来技術において使用される含分よりも明らかに低い安定剤含分が使用される。本発明によれば、このことは、本発明による複合材料において、酸化ジルコニウムが酸化アルミニウム−マトリックス中への埋め込みによって準安定正方晶系相で安定化されるように酸化ジルコニウムを酸化アルミニウム−マトリックス中に埋め込むことによって可能である(機械的安定化)。
【0013】
機械的安定化に関する要件は、酸化ジルコニウム割合が10〜35体積%である場合に、酸化アルミニウム割合が少なくとも65体積%、有利には65〜90体積%であることである。本発明により意想外にも達成可能な機械的安定化に関して特に重要であるのは、本発明による複合材料における酸化ジルコニウム粒子のグレインサイズである。該酸化ジルコニウム粒子のグレインサイズは、(リニアインターセプト法により測定された)平均で0.5μm以下であることが望ましい。平均で0.1μm〜0.2μm、0.2μm〜0.3μm、0.3μm〜0.4μm、又は0.4μm〜0.5μm、有利には0.1μm〜0.3μm、特に有利には0.15μm〜0.25μmのグレインサイズの酸化ジルコニウム粒子は、本発明により機械的に安定化された複合材料のために有利である。
【0014】
本発明による複合材料における化学安定剤の割合(それぞれ酸化ジルコニウム含分に対する割合)は、Y23に関しては≦1.5モル%、有利には≦1.3モル%であり、CeO2に関しては≦3モル%であり、MgOに関しては≦3モル%であり、かつCaOに関しては≦3モル%である。0.2モル%未満の安定剤の全含分は、特に有利である。機械的に安定化された複合材料が化学安定剤を含有していないことが、本発明によれば極めて特に有利である。
【0015】
化学安定剤の使用により安定化されている材料、特にY23により安定化されている材料が、熱水エイジング傾向にあることは公知である。この材料の場合、高められた温度で、例えばすでに体温で、水分子の存在で自発的な相変態が生じる。この、高められた温度での水に対する感受性の原因は、酸化ジルコニウム格子における酸素空孔の形成であり、該酸素空孔は水酸化物イオンにより占有され得る。この現象は「熱水エイジング」と称される。
【0016】
本発明による複合材料は、化学安定剤の使用により、特にY23の使用により安定化されている材料よりも、明らかに低い熱水エイジング傾向を示す。
【0017】
化学安定剤の含分の低減により、本発明による複合材料中の酸化ジルコニウム格子は、これに比例してより少ない酸素空孔を有する。従って、本発明による複合材料は本質的に、高められた温度で水の存在に対して従来技術から公知である材料の場合よりもわずかな感受性で反応し:本発明による複合材料は本質的に熱水エイジング傾向がよりわずかである。
【0018】
主成分である酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウムに加えて、本発明による複合材料は副成分として第三の相を含む。この第三の相は以下で「分散質相」と称され、本発明により以下で「分散質」と称される成分により形成される。
【0019】
本発明の意味合いにおける分散質とは、非弾性ミクロ変形を可能にするプレートレットである。これにより形成される分散質相によって、意想外にも亀裂靭性及び強度の著しい増大がもたらされ、その上さらに、複合材料において分散質相内の微視的レベルでの機械的膨張、即ち非弾性ミクロ変形が促進される。本発明により予定される分散質の粒径は、本発明により使用される酸化アルミニウムないし酸化ジルコニウムのグレインサイズよりも明らかに大きく、有利には1〜5μmである。第三の相を形成する分散質の体積割合は、一般には酸化ジルコニウムの割合よりも明らかに低い。該含分は有利には10体積%までであってよい。2〜8体積%の含分が特に有利であり、3〜6体積%の含分が極めて特に有利である。
【0020】
分散質として、本発明によれば基本的に、化学的に安定でありかつ複合材料を製造する間に高温で焼結しても酸化アルミニウム中又は酸化ジルコニウム中に溶解せず、かつその結晶構造のために微視的レベルでの非弾性ミクロ変形が可能となる全ての物質が使用可能である。本発明によれば、本発明による複合材料を製造する際に、分散質を添加することもできるし分散質をin-situで形成させることもできる。本発明により好適な分散質に関する例は、ストロンチウムアルミネート(SrAl1219)又はランタンアルミネート(LaAl1118)である。
【0021】
分散質相は、微視的レベルで、主成分である酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウムの不均一な膨張に適応する作用を有する。「不均一な微視的膨張」との概念は、例えば熱膨張による、又は外部からかけられた機械的応力による材料の巨視的に均一な膨張と区別するためのものである。不均一な微視的膨張とは、クリスタリットのサイズレベルで生じる局所的事象を表す。これは特に、本発明による複合材料の相応する負荷、及びそれにより開始されかつ本発明により意図される正方晶系相から単斜晶系相への酸化ジルコニウムの相変態の際に引き起こされる膨張を意味する。正方晶から単斜晶への相変態は約4%の体積増加を伴い、かつ文献、例えばD. J. Green, Transformation Toughening of Ceramics, CRC Press Florida, 1989, ISBN 0-8493-6594-5に包括的に記載されている。この相変態は、例えば材料欠陥の近傍での高い局所的な引張応力により誘起され、かつ材料の亀裂靭性の増大、いわゆる変態強化を生じさせる。個々の酸化ジルコニウムクリスタリットの相変態により、その周囲が強度に膨張する。本発明による複合材料におけるこの事象を材料特性の改善に最適に利用し得るために、変態した酸化ジルコニウムクリスタリットの周囲での局所的膨張は、本発明による分散質相の使用により適応される。
【0022】
本発明の意味合いにおける「適応」とは、以下の機序と理解される:本発明により予定される分散質によって、本発明による複合材料に相応する負荷が掛けられた際にある程度酸化ジルコニウムの相変態により生じる、剛性の酸化アルミニウム結晶又は酸化ジルコニウム結晶には阻止されていたであろう局所的膨張ないしひずみが促進される。このことは、本発明によれば特に、本発明により使用可能な分散質によって局所的な剪断変形ないし非弾性ミクロ変形が可能となることにより達成される。この局所的なミクロ変形、ひいては本発明により意図される適応の要件は、本発明により予定される分散質の特別な特性である。本発明により予定される分散質、本発明により予定される分散質結晶は、その結晶構造に基づき、又は内部界面により、剪断変形ないしミクロ変形に対する抵抗力が、従来技術において従来使用されている剛性の酸化アルミニウム結晶又は酸化ジルコニウム結晶よりも明らかに低い。
【0023】
膨張への適応によって、応力変化時の本発明による複合材料における酸化ジルコニウムの相変態の内部応力及び局所的分布は有利な影響を受け、従って亀裂伝播に対するより高い抵抗性(いわゆる亀裂靭性)が効果的に達成される。
【0024】
この本発明による複合材料において意想外にも有効である原理、及び該複合材料の本発明による特性は、従来技術において従来記載されていない。
【0025】
本発明による複合材料の製造は、自体公知の慣用のセラミックス技術を用いて行われる。実質的なプロセス工程は、例えば以下の通りである:
a)規定の組成の粉末混合物を水に加え、場合により沈殿を回避するための液化手段を使用する。
b)溶解機(高速撹拌機)で均質化する。
c)撹拌ボールミルで粉砕し、その際、該粉末混合物の比表面積が増加する(=微粉砕)。
d)場合により有機バインダーを添加する。
e)噴霧乾燥し、その際、所定の特性を有する易流動性の顆粒が生じる。
f)該顆粒を水で湿潤させる。
g)軸方向で、又はアイソスタチックに加圧する。
h)切削によりグリーンマシニングし、その際、焼結収縮を考慮して実質的に最終的なコンターをマッピングする。
i)予備焼成し、その際、理論密度の約98%に収縮する。依然として残留している残りの孔は外側に向かって閉鎖している。
j)高温及び高いガス圧下でのホットアイソスタチックプレスにより、実質的に完全な最終圧密化を行う。
k)いわゆるクリーンバーン(Weissbrand)によって、ホットアイソスタチックプレスによって生じたセラミック中の酸素イオンの不均衡を解消する。
l)グラインディング及びポリシングによるハードマシニングを行う。
m)焼鈍を行う。
【0026】
本発明による複合材料は、例えば、焼結成形体を製造するための、医学技術における動的負荷の際のエネルギー吸収能力を有する部材を製造するための、装具及びエンドプロテーゼを製造するための、例えば股関節インプラント又は膝関節インプラントのための、例えば医学的適用のための穿孔具、摩擦学的、化学的及び/又は熱的に応力のかかる機械部品を製造するために使用することができる。
【0027】
従って本発明は、セラミックスマトリックスとしての酸化アルミニウムと、その中に分散された酸化ジルコニウムと、場合により他の骨材/相とからの複合材料に関し、その際、
・該複合材料が、第一相として少なくとも65体積%の酸化アルミニウム割合と、第二相として10〜35体積%の酸化ジルコニウム割合と、場合により1以上の無機骨材とを含有しており、かつその際、全酸化ジルコニウム含分に対して、酸化ジルコニウムの大部分、有利には80〜99%、特に有利には90〜99%が正方晶系相で存在しており、かつその際、酸化ジルコニウムの正方晶系相の安定化の大部分が、化学的ではなく機械的に行われている。
【0028】
以下の本発明による複合材料は、特に有利である:
・酸化ジルコニウム粒子が、平均で0.1〜0.5μm、有利には平均で0.15〜0.25μmのグレインサイズを有する;
・酸化ジルコニウムに対する化学安定剤の含分が、従来技術においてその都度使用される化学安定剤の含分を明らかに下回る値に制限されている;
・本発明による複合材料における化学安定剤の割合(それぞれ酸化ジルコニウム含分に対する割合)が、Y23に関しては≦1.5モル%、有利には≦1.3モル%であり、CeO2に関しては≦3モル%であり、MgOに関しては≦3モル%であり、かつCaOに関しては≦3モル%である;
・化学安定剤の全含分が<0.2モル%である;
・複合材料が化学安定剤を含有していない;
・酸化アルミニウム及び/又は酸化ジルコニウムが可溶性成分を含有している;
・酸化アルミニウム中及び/又は酸化ジルコニウム中の可溶性成分として、以下の元素:Cr、Fe、Mg、Ti、Y、Ce、Ca、ランタニド及び/又はVのうち1以上が存在している;
・さらに副成分としてもう1つの相(分散質相)が含まれている;
・分散質相内に分散質が含まれており、該分散質によって微視的レベルでの非弾性ミクロ変形が可能である;
・分散質相内に、分散質としてプレートレットが含まれており、該プレートレットの結晶構造のために微視的レベルでの剪断変形が可能である;
・分散質相内の分散質の粒径が、酸化アルミニウムないし酸化ジルコニウムのグレインサイズよりも明らかに大きい;
・分散質の粒径が有利に1〜5μmである;
・分散質相を形成する分散質の体積割合が、酸化ジルコニウムの割合よりも明らかに低い;
・分散質相を形成する分散質の体積割合が、10体積%まで、有利には2〜8体積%、特に有利には3〜6体積%である;
・分散質相を形成する分散質の含分が、全質量100g当たり2〜30ミリモル(mmol)である;
・分散質として、化学的に安定であり、かつ複合材料を製造する間に高温で焼結しても酸化アルミニウム中又は酸化ジルコニウム中に溶解しない物質が使用されている;
・分散質として、ストロンチウムアルミネート(SrAl1219)又はランタンアルミネート(LaAl1118)が使用されている;
・破壊強度が>1300MPaである。
【0029】
さらに、本発明は、
・焼結成形体を製造するための;
・動的負荷の際のエネルギー吸収能力を有する部材を製造するための;
・医学技術における;
・医学技術における人工プロテーゼを製造するための、例えば装具及びエンドプロテーゼを製造するための;
・股関節インプラント及び膝関節インプラントを製造するための
本発明による複合材料の使用に関する。
【0030】
以下に、本発明を試験列をもとに説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない:
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による分散質の種々の含分を有する試験列の結果を示す図。
【図2】化学安定剤の低減により亀裂靭性の増大が達成された試験列の結果を示す図。
【図3】化学安定剤と構造との相互作用を試験した試験列の結果を示す図。
【図4】本発明による複合材料の強度を、マトリックス中の分散質相の含分との関連で試験した試験列の結果を示す図。
【図5】熱水エイジングに対する化学的安定化の影響を試験した試験列の結果を示す図。
【実施例】
【0032】
試験列1:プレートレット形成体との関連における亀裂靭性
図1は、本発明による分散質の種々の含分を有する試験列の結果を示す。分散質形成体はこの場合ストロンチウムであり、全質量100g当たりのミリモル(mmol)で表記される。それぞれ個々のケースにおいて、例えば異なる長さの粉砕時間又は他の可溶性添加剤といった、異なる後処理様式で試験した。各分散質含分に関するそれぞれの試験数を、図1に数nで示す。
【0033】
ビッカーズ圧子痕(HV10)を用いた測定をもとに得られた亀裂靭性を示す。該図は、分散質なし(=プレートレット形成体含分が0である)の亀裂靭性は、分散質の含分がより高い場合の亀裂靭性よりも著しく低いことを明示している。この試験列に関しては、30mmol/100g マトリックスの含分で最も高い亀裂靭性が達成された。しかしながら、極めて低い分散質含分であってもすでに言及に値する亀裂靭性の増大が生じた。
【0034】
試験列2:安定剤含分との関連における亀裂靭性
図2に、化学安定剤の低減により亀裂靭性の増大が達成された試験列の結果を示す。該図に、該図においてF−Iで示されている種々の配合の亀裂靭性を示す。全ての配合に共通して、主成分はAl23及びZrO2(21質量%)である。これらの配合は化学安定剤の種類及び量が相違している:F→安定剤なし、G→Y23 1モル%、H→CeO2 5モル%、I→CeO2 10モル%。安定剤に関するデータは、酸化ジルコニウム含分に対して示されたものである。Ce及びYは公知の通り、酸化ジルコニウムの正方晶系相のための化学安定剤として作用する。安定剤添加の全ての様式において、材料の亀裂靭性が著しく低下することが明確に示されている。
【0035】
試験列3:グレインサイズ及び安定化の変化
図3に、化学的安定化と構造との相互作用を試験した試験列の結果を示す。図3にJ、K及びLで示されている材料は、以下の通りである:
J=ZrO2 24質量%、SrAl1219 3質量%及びY23 1.3モル%を有するZTA;酸化ジルコニウムのグレインサイズは0.3μmである。
K=Jであるが、但し、酸化ジルコニウムのグレインサイズは0.2μmである。明らかに、酸化ジルコニウムグレインサイズの低減によって亀裂靭性が著しく低減され、これは機械的な過安定化と同義である。
L=Jであるが、但し、Y23含分は半分である。機械的な過安定化は、化学的安定化の低減により相殺され、それにより亀裂靭性は再度明らかに高まった。
【0036】
試験列4:分散質相との関連における強度
図4は、本発明による複合材料の強度を、マトリックス中の分散質相の含分との関連で試験した試験列の結果を示す。プレートレット形成性酸化物(この試験列においてはSrAl1219)の添加により、4点曲げ強度が著しく増大する。亀裂靭性と同様に、0〜10mmol/100g マトリックスで強度の大きな飛躍が生じる。27mmol/100g マトリックスまでのさらなる増大により、強度がさらにわずかに増大する。本発明よる分散質の添加により強度は1,300MPa超にまで達し、この強度は分散質なしでは達成し得ない。
【0037】
試験列5:熱水エイジングに対する化学的安定化の影響
図5は、熱水エイジングに対する化学的安定化の影響を試験した試験列の結果を示す。
【0038】
該図は、熱水エイジング(VA=エイジング前、NA=エイジング後)に関する試験結果、即ち、水蒸気に曝した際の単斜晶系相の増加を示す。規格案ISO/DIS 6474−2により、以下の条件を選択した。水蒸気 0.2MPa圧、134℃、10h。配合1と2とは酸化イットリウム含分のみが相違している。
【0039】
配合1:酸化イットリウム 1.3モル%
配合2:酸化イットリウム 0.0モル%
出発状態では、どちらの種類も<10%の単斜晶含分を有する。識別をより良好にするために、単斜晶含分を図5において規格化した。
【0040】
配合1が60%の単斜晶含分の相対的な増加を示すのに対して、配合2は単斜晶含分の変化を全く示さない。これにより、化学的安定化を行わないという本発明による教示により、熱水エイジングに対する本発明による複合材料の安定性に関して本質的な改善がもたらされることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスマトリックスとしての酸化アルミニウムと、その中に分散された酸化ジルコニウムと、場合により他の骨材/相とからの複合材料において、該複合材料が、第一相として少なくとも65体積%の酸化アルミニウム割合と、第二相として10〜35体積%の酸化ジルコニウム割合と、場合により1以上の無機骨材とを含有しており、かつその際、全酸化ジルコニウム含分に対して、酸化ジルコニウムの大部分、有利には80〜99%、特に有利には90〜99%が正方晶系相で存在しており、かつその際、酸化ジルコニウムの正方晶系相の安定化の大部分が、化学的ではなく機械的に行われていることを特徴とする、複合材料。
【請求項2】
酸化ジルコニウム粒子が、平均で0.1〜0.5μm、有利には平均で0.15〜0.25μmのグレインサイズを有する、請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
酸化ジルコニウムに対する化学安定剤の含分が、従来技術においてその都度使用される化学安定剤の含分を明らかに下回る値に制限されている、請求項1又は2記載の複合材料。
【請求項4】
本発明による複合材料における化学安定剤の割合(それぞれ酸化ジルコニウム含分に対する割合)が、Y23に関しては≦1.5モル%、有利には≦1.3モル%であり、CeO2に関しては≦3モル%であり、MgOに関しては≦3モル%であり、かつCaOに関しては≦3モル%である、請求項1から3までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項5】
化学安定剤の全含分が<0.2モル%である、請求項1から4までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項6】
複合材料が化学安定剤を含有していない、請求項1から5までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項7】
酸化アルミニウム及び/又は酸化ジルコニウムが可溶性成分を含有している、請求項1から6までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項8】
酸化アルミニウム中及び/又は酸化ジルコニウム中の可溶性成分として、以下の元素:Cr、Fe、Mg、Ti、Y、Ce、Ca、ランタニド及び/又はVのうち1以上が存在している、請求項1から7までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項9】
さらに副成分としてもう1つの相(分散質相)が含まれている、請求項1から8までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項10】
分散質相内に分散質が含まれており、該分散質によって微視的レベルでの非弾性ミクロ変形が可能である、請求項1から9までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項11】
分散質相内に、分散質としてプレートレットが含まれており、該プレートレットの結晶構造のために微視的レベルでの剪断変形が可能である、請求項1から10までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項12】
分散質相内の分散質の粒径が、酸化アルミニウムないし酸化ジルコニウムのグレインサイズよりも明らかに大きい、請求項1から11までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項13】
分散質の粒径が有利に1〜5μmである、請求項1から12までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項14】
分散質相を形成する分散質の体積割合が、酸化ジルコニウムの割合よりも明らかに低い、請求項1から13までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項15】
分散質相を形成する分散質の体積割合が、10体積%まで、有利には2〜8体積%、特に有利には3〜6体積%である、請求項1から14までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項16】
分散質相を形成する分散質の含分が、全質量100g当たり2〜30ミリモル(mmol)である、請求項1から15までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項17】
分散質として、化学的に安定であり、かつ複合材料を製造する間に高温で焼結しても酸化アルミニウム中又は酸化ジルコニウム中に溶解しない物質が使用されている、請求項1から16までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項18】
分散質として、ストロンチウムアルミネート(SrAl1219)又はランタンアルミネート(LaAl1118)が使用されている、請求項1から17までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項19】
破壊強度が>1300MPaである、請求項1から18までのいずれか1項記載の複合材料。
【請求項20】
焼結成形体を製造するための、請求項1から19までのいずれか1項記載の複合材料の使用。
【請求項21】
動的負荷の際のエネルギー吸収能力を有する部材を製造するための、請求項1から19までのいずれか1項記載の複合材料の使用。
【請求項22】
医学技術における、請求項1から19までのいずれか1項記載の複合材料の使用。
【請求項23】
医学技術における人工プロテーゼを製造するための、例えば装具及びエンドプロテーゼを製造するための、請求項1から19までのいずれか1項記載の複合材料の使用。
【請求項24】
股関節インプラント及び膝関節インプラントを製造するための、請求項1から19までのいずれか1項記載の複合材料の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−514250(P2013−514250A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543772(P2012−543772)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069995
【国際公開番号】WO2011/083023
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(511004645)セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (16)
【氏名又は名称原語表記】CeramTec GmbH
【住所又は居所原語表記】CeramTec−Platz 1−9, D−73207 Plochingen, Germany
【Fターム(参考)】