説明

主桁とプレキャスト床版の合成構造

【課題】橋梁においては縦横断勾配があり、その設置の調整はハンチ高さを変化させて対応している。ハンチは下面の鋼板を折り曲げて加工していた。パネルごとに縦横断勾配は異なるのでハンチ付きプレキャスト床版の製作は一枚一枚の製作となりコストアップとなる。
【解決手段】両側に高力ボルト挿通孔を穿孔した接続折曲部を形成した連結鋼板を、底鋼板下面からコンクリート中に高力ボルト結合用ナットを埋め込んだプレキャスト床版の底鋼板下面と主桁の上フランジに架け渡し、プレキャスト床版と連結鋼板、主桁の上フランジと連結鋼板をそれぞれ穿孔した高力ボルト挿通孔を介して、高力ボルトで締結し、プレキャスト床版のコンクリート充填孔からコンクリートを充填してなる主桁とプレキャスト床版の合成構造を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の合成桁における主桁と工場で製作されたプレキャスト床版の合成構造に関する。
【背景技術】
【0002】
主桁の断面力は、主桁上フランジ上にスタッドボルトを溶植して、当該部分にコンクリート又はモルタルを打設して主桁と床版を合成した構造である。
【0003】
【特許文献1】特許第2941632号
【0004】
【非特許文献1】鋼・コンクリート複合構造の理論と設計(1)基礎編:理論編 土木学会 33頁
【0005】
プレキャスト床版における課題は、主桁との合成にある。具体的にはプレキャスト床版のハンチに起因する。橋梁においては縦横断勾配がありプレキャスト床版の設置の調整はこのハンチ高さを変化させて対応している。具体的には、プレキャスト床版の下面鋼板を折り曲げて加工していた。パネルごとに縦横断勾配は異なっているので、ハンチ付きプレキャスト床版の製作は一枚一枚の製作となりコストアップとなる。
【0006】
床版打ち替えで合成桁の場合は既設のスタッドボルト、または型鋼を用いたずれ止めを切断して、新たにスタッドボルトを溶植しなければならない。このとき溶植位置は既設位置を外さないと溶植の品質が落ちるため、新たなスタッドボルト配置に苦慮する。
【0007】
床版打ち替えで合成桁の場合であって、交通規制を日々開放して行わざるを得ないとき、主桁とプレキャスト床版の合成構造をその日毎に完成させなければならない。工程上タイトになり品質に問題を残す。
【0008】
従来の主桁との合成構造(ハンチ付プレキャスト床版と主桁との間隙に無収縮モルタルを充填)では間隙(3cm以上)が大きくなると合成効果が低下する。ハンチが高いと疲労でスタッドボルトに曲げ作用してスタッドボルト一本あたりのせん断耐力が低下する。その対応として一本当りのスタッドボルトの許容力を低減して本数を増やしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したようなプレキャスト床版のハンチに起因する課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
基本的には、橋軸直角方向両側略端部に上下面を貫通する高力ボルト挿通孔を主桁方向に適宜の間隔で穿孔した接続折曲部を形成した連結鋼板を、プレキャスト床版の底鋼板下面からコンクリート中に接続折曲部に穿孔した高力ボルト挿通孔から挿通した高力ボルトと螺合する高力ボルト結合用ナットを主桁方向に適宜の間隔で埋め込んだプレキャスト床版の底鋼板下面と、主桁上フランジの略両側端部に上下面を貫通する高力ボルト挿通孔を主桁方向に適宜の間隔で穿孔した主桁上フランジ上面にハンチ状に架け渡し、プレキャスト床版と連結鋼板、主桁上フランジと連結鋼板とを、それぞれプレキャスト床版に埋め込んだ高力ボルト結合用ナットと連結鋼板に穿孔した高力ボルト挿通孔、主桁上フランジと連結鋼板に穿孔した高力ボルト挿通孔を介して高力ボルトで締結し、プレキャスト床版のコンクリート充填孔よりコンクリートを充填することを特徴とする主桁とプレキャスト床版の合成構造を提供する。
【0011】
好ましくは、上記において、主桁上フランジに締結する連結鋼板の接続折曲部に穿孔した高力ボルト挿通孔位置の上方から接続折曲部にナットを添付けした主桁とプレキャスト床版の合成構造を提供する。
【0012】
好ましくは、上記において、連結鋼板の接続折曲部間の主桁方向に適宜の間隔でハンドホールを開口した主桁とプレキャスト床版の合成構造を提供する。
【0013】
この合成構造にあって、主桁の断面応力は、主桁の上フランジとプレキャスト床版間にそれぞれ高力ボルトによる摩擦接合で添接した連結鋼板を設置することによる主桁とプレキャスト床版の合成作用となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、つぎのような効果を有する。
【0015】
請求項1乃至請求項3において、縦横断勾配に対するプレキャスト床版のハンチ高さの調整は、連結鋼板のみを加工することで対応することができる。また、プレキャスト床版一枚一枚について曲げ加工を行わないのでコストの軽減につながる。
【0016】
請求項1乃至請求項2において、床版の合成作用は、主桁上フランジとコンクリートの界面に発生する作用せん断力に対して、主桁上フランジ部の高力ボルト、プレキャスト床版側の摩擦力と連結板の引張及びせん断剛性、埋め込みナットによりなされ、充填コンクリートにより平面保持されることで発揮される。したがって、主桁とプレキャスト床版用のスタッドボルトは不要である。
【0017】
請求項1乃至請求項3において、床版スパンほぼ中央で添接可能なので、床版打ち替え工事において、プレキャスト床版を日々開放で設置することができる。
【0018】
請求項1乃至請求項3において、主桁にスタッドボルトを使用せず、連結鋼板でせん断力を伝達するので、プレキャスト床版と主桁の間隙が大きくなっても合成効果の低下を抑えることができる。
【0019】
請求項2において、主桁フランジに締結される連結鋼板の接続折曲部に穿孔した高力ボルト挿通孔位置の上方から接続折曲部にナットを添接してあるので、主桁フランジの下面からのボルト・ナットの結合を容易にする。
【0020】
請求項3において、連結鋼板の接続折曲部間の主桁方向に適宜の間隔でハンドホールが開口されているので、手をハンドホールから差し入れることができ、主桁上フランジと連結鋼板とのボルト・ナットによる結合を容易にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1乃至図3は、本発明の一実施の形態を示すもので、図1は概略斜視図、図2はプレキャスト床版のコンクリート充填孔間位置での主桁方向を見た断面図、図3はプレキャスト床版のコンクリート充填孔位置での主桁方向を見た断面図である。
【0022】
1はプレキャスト床版、2、3はコンクリート床版下面と主桁4の上フランジとともにハンチ形状を形成する一対の連結鋼板、4は主桁である。
【0023】
プレキャスト床版1はコンクリート1aの下面に底鋼板1bを合成してなり、主桁4相当個所に主桁4方向に適宜の間隔でコンクリート1a上面から底鋼板1bを貫通するコンクリート充填孔1cが穿孔されてなる。
【0024】
このプレキャスト床版1には、底鋼板1bの下面からコンクリート1aにかけて、主桁4方向に適宜の間隔で主桁4の上フランジ4aと底鋼板1bに架け渡される連結鋼板2・3の接続折曲部2a・3aとを締結する高力ボルト用の内ねじが螺設してある筒状のナット5が埋め込んである。
【0025】
連結鋼板2・3は、プレキャスト床版1の長さ方向の長さを有し、橋軸直角方向の両側にプレキャスト床版1の底鋼板1bと主桁4上フランジに接続する接続折曲部2a・3aが折曲して形成されてなる。
【0026】
接続折曲部2a・3aには、主桁4方向に適宜の間隔でプレキャスト床版1と主桁4の上フランジ4aとを高力ボルト6により締結するための高力ボルト挿通孔2b・3bを穿孔してある。また、主桁4の上フランジの高力ボルト挿通孔2b・3bには接続折曲部2a・3a側からナット7が添付してある。接続折曲部2a・2a間、接続折曲部3a・3a間の板幅は、ハンチ高さに応じた幅に加工してある。
【0027】
主桁4は、上フランジ4a、ウエブ4b、下フランジ4cとからなり、上フランジ4aには主桁4方向に適宜の間隔でプレキャスト床版1と主桁4の上フランジ4aとの接続のための連結鋼板2・3の接続折曲部2a・3aの高力ボルト挿通孔2b・3bと合致する高力ボルト挿通孔4dが穿孔してある。
【0028】
このようにしてなるプレキャスト床版1と一対の連結鋼板2・3と主桁4とはつぎのようにして締結される。
【0029】
プレキャスト床版1と連結鋼板2・3とは、プレキャスト床版1に埋め込んである高力ボルト用ナット5と高力ボルト挿通孔2a・3aとを合致させてそれぞれ高力ボルト6を連結鋼板2・3の下面側より挿通して高力ボルト6の外ねじと高力ボルト用ナット5の内ねじとを螺合する。
【0030】
連結鋼板2・3と主桁4とは、連結鋼板2・3のもう一方の高力ボルト挿通孔2a・3aと主桁4の上フランジ4aの高力ボルト挿通孔2b・3bとを合致させて上フランジ4aの下面から高力ボルト5を挿通し、高力ボルト5の外ねじとナット7の内ねじを螺合する。
【0031】
プレキャスト床版1のコンクリート充填孔1c位置には、必要に応じ、主桁4の上フランジ4a上に浮き上り防止用のスラブアンカー8を植設してある。
【0032】
プレキャスト床版1と連結鋼板2・3と主桁4とが締結された後は、プレキャスト床版1を貫通するコンクリート充填孔1cよりコンクリートを充填する。
【0033】
かくして、プレキャスト床版1と主桁4との合成構造が形成される。
【0034】
プレキャスト床版1同士の接続は、例えば公知添接鋼板を用いて行えばよい。
【0035】
図4及び図5は、本発明の別の実施の形態を示すもので、図3は側面図(右側面図又は左側面図)、図5はプレキャスト床版のコンクリート充填孔間位置での主桁方向を見た断面図である。
【0036】
この実施の形態においては、連結鋼板2・3の接続折曲部2a・2a間、3a・3a間の板幅の主桁4方向には、適宜の間隔でハンドホール9が開口してあるところが先の実施の形態と異なる。ハンドホール9が開口することにより連結鋼板2・3の主桁4の上フランジ4aに位置する接続折曲部2b・3bの上面にナット7を添接しなくてもハンドホール9から手を入れて主桁4の上フランジ4a側から挿入された高力ボルト6にナット7を螺合することができる。
【0037】
なお、10は必要に応じてプレキャスト床版1の底鋼板と主桁4の上フランジ間の空間を維持するために嵌挿したスペーサーである。
【0038】
本発明は、上述のようにしてなるので、現場ではつぎの手順で施工される。
【0039】
1.一日で打ち替え可能範囲の既設床版を撤去後、既設スタッドまたはスラブアンカーを撤去する。
2.主桁4の上フランジ4aへの連結鋼板2・3の接続折曲部2a・3aをグラインダー等で所定の摩擦係数が得られるように下地処理を行う。
3.主桁4の上フランジ4aに所定の位置に浮き上がり防止用のスラブアンカー8を溶植する。
4.工場で作製された鋼・コンクリートプレキャスト床版1を所定の位置に設置する。なお、事前に高さ調整用のFRP製のスペーサー10を主桁4の上フランジ4aに両面テープ等にて固定しておく。
5.主桁4の上フランジに床版仮固定に必要な高力ボルト用挿通孔4d(1本/m程度)をあける。
6.連結鋼板2・3を高力ボルト6にて上フランジ4aと鋼・コンクリートプレキャスト床版1に締結する。このとき、上フランジ側の高力ボルト6の締め付けは連結鋼板2・3に施されてハンドホール9を介して行う。完成後の合成構造として必要な高力ボルト挿通孔4dは、床版架設後交通開放した状態で足場等から上向きに孔明し、連結鋼板2・3に設けたハンドホール9を介して高力ボルト6で締結する。
7.新旧の継ぎ目は復工板を施設して交通開放を行う。
8.一単位(ジョイントからジョイントまで)の鋼・コンクリートプレキャスト床版1の架設が完了した時点で相互の連結(添接版)を行う。
9.連結完了後、鋼・コンクリートプレキャスト床版1に施されたコンクリート充填孔1cよりコンクリート打設し合成効果を確実にする。
10.コンクリート養生後、二次施工側の床版を同様に取り替える。
11.二次施工側の架設が完了後、施工分割位置の連結を行う。
12.全ての床版取替えが完了後、橋面工(防水、舗装、伸縮継手)を行い完成させる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態を示す概略斜視図である。
【図2】同プレキャスト床版のコンクリート充填孔間位置での主桁方向を見た断面図である。
【図3】同プレキャスト床版のコンクリート充填孔位置での主桁方向を見た断面図である。
【図4】本発明の別の実施の形態を示す側面図(右側面図又は左側面図)である。
【図5】同プレキャスト床版のコンクリート充填孔間位置での主桁方向を見た断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 プレキャスト床版
1a コンクリート
1b 底鋼板
1c コンクリート充填孔
2 連結鋼板
2a 接続折曲部
2b 高力ボルト挿通孔
3 連結鋼板
3a 接続折曲部
3b 高力ボルト挿通孔
4 主桁
4a 上フランジ
4b ウエブ
4c 下フランジ
4d 高力ボルト挿通孔
5 高力ボルト用ナット
6 高力ボルト
7 ナット
8 スラブアンカー
9 ハンドホール
10 スペーサー
11 添接鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸直角方向両側略端部に上下面を貫通する高力ボルト挿通孔を主桁方向に適宜の間隔で穿孔した接続折曲部を形成した連結鋼板を、プレキャスト床版の底鋼板下面からコンクリート中に接続折曲部に穿孔した高力ボルト挿通孔から挿通した高力ボルトと螺合する高力ボルト結合用ナットを主桁方向に適宜の間隔で埋め込んだプレキャスト床版の底鋼板下面と、主桁上フランジの略両側端部に上下面を貫通する高力ボルト挿通孔を主桁方向に適宜の間隔で穿孔した主桁上フランジ上面にハンチ状に架け渡し、プレキャスト床版と連結鋼板、主桁上フランジと連結鋼板とを、それぞれプレキャスト床版に埋め込んだ高力ボルト結合用ナットと連結鋼板に穿孔した高力ボルト挿通孔、主桁上フランジと連結鋼板に穿孔した高力ボルト挿通孔を介して高力ボルトで締結し、プレキャスト床版のコンクリート充填孔よりコンクリートを充填することを特徴とする主桁とプレキャスト床版の合成構造。
【請求項2】
主桁上フランジに締結する連結鋼板の接続折曲部に穿孔した高力ボルト挿通孔位置の上方から接続折曲部にナットを添付けしたことを特徴とする請求項1に記載の主桁とプレキャスト床版の合成構造。
【請求項3】
連結鋼板の接続折曲部間の主桁方向に適宜の間隔でハンドホールを開口したことを特徴とする請求項1に記載の主桁とプレキャスト床版の合成構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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