説明

乗物用座席のヘッドレスト構造

【課題】座席の後ろ側からヘッドレスト部分に衝撃が加わった際に、衝撃吸収部材の変形を良好に許容して衝撃を的確に吸収することができる乗物用座席のヘッドレスト構造を提供する。
【解決手段】背当て20上部のヘッドレスト部分の内部に設けられた空洞部40と、発泡樹脂により形成されると共に前記空洞部40の後方に配設され、座席の後方から加わるヘッドレスト部分への衝撃により崩壊して前記衝撃を吸収する衝撃吸収部材50とを備える。なお、前記空洞部40の前方に補強板(ヘッドレスト底板28)を配設してもよく、前記空洞部40に弾性を有するクッション材41を配設してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用座席のヘッドレスト構造に関するものであり、詳しくは、バスや列車等の乗物に設置される乗物用座席における背当て上部のヘッドレスト部分の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バス、列車、航空機、船舶等の乗物に設置される乗物用座席の中には、背当ての上部にヘッドレストを備えたものがある。
【0003】
ところで、乗物が衝突事故を起こした際等においては、事故の衝撃によって後ろの座席の利用者が前方に飛び出して前の座席のヘッドレストに頭部をぶつける場合がある。
【0004】
そこで、従前より、例えば特許文献1(特開平9−85755号公報)や特許文献2(特開2004−276806号公報)に開示されているように、後の座席の利用者が前の座席のヘッドレストに頭部をぶつけた場合に頭部が受ける衝撃を和らげることのできる乗物用座席のヘッドレスト構造が種々案出されている。
【0005】
なお、特許文献1に開示の乗物用座席のヘッドレスト構造は、衝撃を受けると崩壊することで衝撃を吸収するエネルギー吸収体をヘッドレストの内部に配設したものであり、特許文献2に開示の乗物用座席のヘッドレスト構造は、背当て上部のヘッドレスト部分において、衝撃を受けると変形することで衝撃を吸収するプレート部材を両サイドフレーム(背当ての縦方向のフレーム)間に掛渡したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように崩壊することで衝撃を吸収するエネルギー吸収体や、特許文献2のように変形することで衝撃を吸収するプレート部材といった衝撃を吸収する部材(以下「衝撃吸収部材」という)を備えたヘッドレスト構造では、衝撃吸収部材に衝撃が加わった場合にこの衝撃吸収部材の変形が良好に許容されなければならない。なお、特許文献1のように衝撃によって崩壊する衝撃吸収部材を備えたヘッドレスト構造であっても、その衝撃吸収部材が衝撃によってある適度変形した後、この衝撃を吸収するように崩壊するものであるため、当然、衝撃吸収部材の変形が良好に許容されなければならない。
【0007】
しかしながら、乗物用座席のヘッドレスト部分には、様々な構成部材が配設されており、衝撃吸収部材の衝撃が加わる側とは反対側に配置された部材によって、衝撃吸収部材の変形が邪魔されて衝撃を的確に吸収できない場合がある。
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、座席の後ろ側からヘッドレスト部分に衝撃が加わった際に、衝撃吸収部材の変形を良好に許容して衝撃を的確に吸収することができる乗物用座席のヘッドレスト構造の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「背当て上部のヘッドレスト部分の内部に設けられた空洞部と、
発泡樹脂により形成されると共に前記空洞部の後方に配設され、座席の後方から加わるヘッドレスト部分への衝撃により崩壊して前記衝撃を吸収する衝撃吸収部材と
を備えることを特徴とする乗物用座席のヘッドレスト構造」
である。
【0010】
上記構成の乗物用座席のヘッドレスト構造では、座席の後方からヘッドレスト部分に衝撃が加わると、発泡樹脂により形成された衝撃吸収部材が崩壊することでこの衝撃を吸収するのであるが、衝撃吸収部材の前方には空洞部が設けられているため、この空洞部によって、衝撃吸収部材の変形が良好に許容される。よって、座席の後ろ側からヘッドレスト部分に衝撃が加わった場合に、衝撃吸収部材が空洞部側に円滑に変形した後、崩壊し、この衝撃吸収部材の崩壊によってヘッドレスト部分に加わる衝撃を的確に吸収することができる。
【0011】
なお、衝撃吸収部材をヘッドレスト部分にその全体が埋没するように配設してもよいが、これに限らず、衝撃吸収部材の背面がヘッドレストの背面側に露呈するようにして、衝撃吸収部材によってヘッドレストの背面が構成されるようにしてもよい。この場合には、発泡樹脂によって形成した衝撃吸収部材の背面側を樹脂コーティングしたり、背面側に樹脂シートや布を貼り付ける等して、衝撃吸収部材の背面の美観を整えるようにすればよい。
【0012】
上述した手段において、
「前記空洞部の前方には補強板が配設されていることを特徴とする乗物用座席のヘッドレスト構造」
とするのが好適である。
【0013】
例えば夜間に高速道路を走行する都市間バス等の乗物では、座席の背当てを大きくリクライニングさせる場合がある。このように座席の背当てを大きくリクライニングさせた状態では、座席の利用者がヘッドレストの正面側に手をついたりすることがあり、ヘッドレストの正面側から加わる力に耐え得るような剛性を確保しなければならないのであるが、ヘッドレスト部分の内部に空洞部を設けると、ヘッドレスト自体の剛性は当然、低下してしまう。
【0014】
そこで、上記構成の乗物用座席のヘッドレスト構造では、空洞部の前方に補強板を設けることで、ヘッドレストの正面側から加わる力に耐え得るような剛性を確保できるようにする。
【0015】
なお、補強板については、ヘッドレストの正面側から見て空洞部を完全に隠蔽するものであってよいが、これに限らず、空洞部の前方に適宜の間隔を介して複数の補強板を配設して、空洞部の一部が露呈するようにしてもよい。
【0016】
上述した手段において、
「前記空洞部には弾性を有するクッション材が配設されていることを特徴とする乗物用座席のヘッドレスト構造」
とするのが好適である。
【0017】
空洞部内に何らの部材も配設せずに空洞部内を完全な空隙としてもよいが、上記構成の乗物用座席のヘッドレスト構造の如く、空洞部内にクッション材を配設すると、衝撃吸収部材が空洞部内側に変形して崩壊した後においてもヘッドレスト部分に座席の後ろ側からの力が継続して加わった場合に、この力を緩衝することができる。
【0018】
ここで、クッション材は弾性を有するものであるため、空洞部内にクッション材を配設しても、衝撃吸収部材の良好な変形が阻害されることはない。
【0019】
なお、クッション材として、例えば衝撃吸収部材よりも弾性に優れた発泡樹脂の小片を用いて、多数のクッション材の小片を空洞部に配設してもよいが、これに限らず、衝撃吸収部材よりも弾性に優れた一体的な発泡樹脂の塊を空洞部内に配設してもよい。
【発明の効果】
【0020】
上述した通り、本発明によれば、座席の後ろ側からヘッドレスト部分に衝撃が加わった際に、衝撃吸収部材の変形を良好に許容して衝撃を的確に吸収することができる乗物用座席のヘッドレスト構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る乗物用座席のヘッドレスト構造に用いる衝撃吸収部材の第一例を示す斜視図であり、(a)は正面側からの斜視図、(b)は背面側からの斜視図である。
【図2】図1に示した衝撃吸収部材を用いて構成した乗物用座席のヘッドレスト構造を示す分解斜視図である。
【図3】図2に示した乗物用座席のヘッドレスト構造における要部の中央縦断面図である。
【図4】本発明に係る乗物用座席のヘッドレスト構造に用いる衝撃吸収部材の第二例を示す斜視図であり、(a)は正面側からの斜視図、(b)は背面側からの斜視図である。
【図5】図4に示した衝撃吸収部材を用いて構成した乗物用座席のヘッドレスト構造を示す分解斜視図である。
【図6】図5に示した乗物用座席のヘッドレスト構造における要部の中央縦断面図である。
【図7】本発明に係る乗物用座席のヘッドレスト構造に用いる衝撃吸収部材の第三例を示す斜視図であり、(a)は正面側からの斜視図、(b)は背面側からの斜視図である。
【図8】図7に示した衝撃吸収部材を用いて構成した乗物用座席のヘッドレスト構造を示す分解斜視図である。
【図9】図8に示した乗物用座席のヘッドレスト構造における要部の中央縦断面図である。
【図10】本発明に係る乗物用座席のヘッドレスト構造に用いる衝撃吸収部材の第四例を示す斜視図であり、(a)は正面側からの斜視図、(b)は背面側からの斜視図である。
【図11】図10に示した衝撃吸収部材を用いて構成した乗物用座席のヘッドレスト構造を示す分解斜視図である。
【図12】図11に示した乗物用座席のヘッドレスト構造における要部の中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る乗物用座席のヘッドレスト構造の実施形態としての一例を、以下、図面に従って詳細に説明する。なお、以下では、方向について、座席の前側を正面、座席の後ろ側を背面として説明する。
【0023】
図1〜図3に、本発明に係る乗物用座席のヘッドレスト構造の第一例を示す。なお、図2においては、図3に示す表皮30及びクッション材41の図示を省略してある。
【0024】
図1に示すように、衝撃吸収部材50は、樹脂を発泡させた発泡樹脂から一体的に形成されている。ここで、樹脂の種類としては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンの他、ポリスチレン、ポリウレタン等を例示することができるが、衝撃吸収部材50は、ヘッドレストの芯となるものであり、通常では容易に変形しない剛性を有する一方で、衝撃が加わった場合には変形したり割れたりヒビが入ったりして的確に崩壊するように、本例ではポリプロピレンを採用し、衝撃吸収部材50をポリプロピレンの発泡体によって形成してある。
【0025】
また、一般的な梱包用の発泡材では、発泡率が20倍以上となっているのに対して、本例の衝撃吸収部材50では、5〜15倍、より具体的には10倍程度の発泡率となっており、衝撃が加わらない通常の状態において、ヘッドレストの芯としての十分な剛性が確保されている。
【0026】
さらに、衝撃吸収部材50は、背面がフラットな平滑面となっているのに対して、正面側に横長の溝51が設けられている。このように衝撃吸収部材50の正面側に溝51を設けることにより、衝撃が加わった場合に衝撃吸収部材50を的確に崩壊させることができる。
【0027】
このような衝撃吸収体50は、図2及び図3に示すように、乗物用座席10の背当て20の上部に一体的に設けられたヘッドレスト部分に配設される。具体的に、左右一対の縦フレーム22、及び、一対の縦フレーム22の上端間に架設された横フレーム23を有し、背当て20の骨組みを構成する背当てフレーム21の上部のヘッドレスト部分において、縦フレーム22の上部及び横フレーム23の全幅に渡って背当てフレーム21の内側に嵌合するようにして、背当てフレーム21の背面側に配設される。
【0028】
なお、本例の乗物用座席10では、ヘッドレストの背面にグリップ24が設けられるため、このグリップ24を取付けるためのグリップ用ステー25をヘッドレストの背面側に臨ませるべく、衝撃吸収部材50の左右には、グリップ用ステー25を挿通させる挿通孔52が開設されている。
【0029】
また、本例では、背当て20の正面側からの力に対して十分な強度を確保するために、背当てフレーム21の正面側の下部に背当て底板27が配設されており、背当てフレーム21の正面側上部にヘッドレスト底板28が配設されている。そして、ヘッドレスト底板28と衝撃吸収部材50との間には、空洞部40が設けられている。すなわち、衝撃吸収部材50は、ヘッドレスト部分の内部に設けられた空洞部40の後方に配設されたものとなっている。
【0030】
なお、ヘッドレスト底板28は、空洞部40の前方に配設されると共に正面から見て空洞部40を隠蔽して、正面側から加わる力に対してヘッドレスト部分の強度を確保するものであり、補強板として機能するものとなっている。
【0031】
また、本例では、背当て底板27及びヘッドレスト底板28の前方、衝撃吸収部材50の上方、衝撃吸収部材50の後方に、通常の公知の乗物用座席10と同様に、ベルベット等の布や革等によって構成された表皮30がウレタンフォーム31を介して張設されている。そして、背当て20の背面においては、ヘッドレストの下方に背面板29が取付けられている。
【0032】
ところで、衝撃吸収部材50の前方に設けられた空洞部40には、弾性を有するクッション材41が配設されている。ここで、本例では、クッション材41としてウレタンチップを用いており、空洞部40に多数のウレタンチップフォームが配設されている。
【0033】
ここで、ウレタンチップフォームは、ポリウレタンを発泡させた発泡樹脂のチップ材を圧縮して板状に成型したもので、衝撃吸収部材50を構成する発泡樹脂とは異なり、弾性に優れ、衝撃によっては崩壊しないものである。このようにウレタンチップフォーム等の弾性に優れたクッション材41を空洞部40に配設することで、衝撃吸収部材50が崩壊した後においてもヘッドレストの後方から加わる力に対して、この力を緩衝させることができる。
【0034】
次に、図4〜図6に、本発明に係る乗物用座席のヘッドレスト構造の第二例を示す。なお、図5においては、図6に示す表皮30の図示を省略してある。
【0035】
このヘッドレスト構造は、主要部において、用いる衝撃吸収部材50の形状が異なること、ヘッドレスト底板28と衝撃吸収部材50との間の空洞部40にはクッション材41が配設されておらず完全な空隙となっていることの他は、前述の第一例のヘッドレスト構造と同様であり、細部の構成については同一の符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0036】
次に、図7〜図9に、本発明に係る乗物用座席のヘッドレスト構造の第三例を示す。なお、図8においては、図9に示す表皮30及びクッション材41の図示を省略してある。
【0037】
このヘッドレスト構造では、衝撃吸収部材50がヘッドレストの下部よりも下方に延出する形態となっている。そして、この延出する部分には、左右方向における中央部分に方形状の挿通孔53が開設されている。この挿通孔53は、テーブル保持具(図示省略)を取付けるための保持具用ステー26を背当て20の背面側に臨ませるためのものである。なお、テーブル保持具は、背当て20の背面に展開・収納自在に設けられたテーブル(図示省略)を背当て20の背面に沿って収納した状態に保持するためのものであり、テーブル及びテーブル保持具は観光バス等で採用されている公知のものである。
【0038】
また、このヘッドレスト構造では、空洞部40にクッション材41(ウレタンチップフォーム)が配設されており、また、空洞部40の前方に配設されるウレタンフォーム31が厚く形成されており、ヘッドレストの前方からの力に対して十分な強度となっている。よって、このヘッドレスト構造では、前述の各例とは異なり、ヘッドレストの正面側からの力に対する強度を補強する補強板としてのヘッドレスト底板28が省略されている。
【0039】
なお、上述した以外の他の主要部の構成については、前述の第一例に示したヘッドレスト構造と同様であり、細部の構成については同一の符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0040】
次に、図10〜図12に、本発明に係る乗物用座席のヘッドレスト構造の第四例を示す。なお、図11においては、図12に示す表皮30及びクッション材41の図示を省略してある。
【0041】
このヘッドレスト構造は、前述の第三例の衝撃吸収部材50において、方形状の挿通孔53に代えて複数(具体的には三つ)の円形状の挿通孔54を開設したものである。このヘッドレスト構造では、テーブル保持具(図示省略)が衝撃吸収部材50の背面に取付けられるものとしてあり、上記各挿通孔54は、テーブル保持具を背当てフレーム21に固定するための取付けボルト(図示省略)を挿通させるものである。
【0042】
なお、上述した以外の他の主要部の構成については、前述の第一例に示したヘッドレスト構造と同様であり、細部の構成については同一の符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【符号の説明】
【0043】
10 乗物用座席
20 背当て
21 背当てフレーム
22 縦フレーム
23 横フレーム
24 グリップ
25 グリップ用ステー
26 保持具用ステー
27 背当て底板
28 ヘッドレスト底板(補強板)
29 背面板
30 表皮
31 ウレタンフォーム
40 空洞部
41 クッション材
50 衝撃吸収部材
51 溝
52 挿通孔
53 挿通孔
54 挿通孔
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】特開平9−85755号公報
【特許文献2】特開2004−276806号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背当て上部のヘッドレスト部分の内部に設けられた空洞部と、
発泡樹脂により形成されると共に前記空洞部の後方に配設され、座席の後方から加わるヘッドレスト部分への衝撃により崩壊して前記衝撃を吸収する衝撃吸収部材と
を備えることを特徴とする乗物用座席のヘッドレスト構造。
【請求項2】
前記空洞部の前方には補強板が配設されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用座席のヘッドレスト構造。
【請求項3】
前記空洞部には弾性を有するクッション材が配設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗物用座席のヘッドレスト構造。

【図3】
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【図6】
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【図9】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−86745(P2012−86745A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236628(P2010−236628)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(309034490)天龍工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】