説明

乳化組成物およびこれを含有する皮膚外用剤

【課題】水や石油エーテルなどに不溶なβ−グリチルレチン酸にアルキルジメチルアミンオキシドを配合することにより、保存安定性に優れた乳化組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(Rはアルキル基)で表されるアルキルジメチルアミンオキシド、β−グリチルレチン酸および水からなる乳化組成物とする。特に、Rがラウリル基あるいはミリスチル基であることが望ましい。アルキルジメチルアミンオキシドの配合量が1〜10重量%、かつβ−グリチルレチン酸の配合量が0.3〜3.5重量%であり、さらに、アルキルジメチルアミンオキシドの配合量が5〜10重量%、かつβ−グリチルレチン酸の配合量が1〜3.5重量%であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水や石油エーテルなどに不溶なβ−グリチルレチン酸を安定に含有させた乳化組成物およびこれを含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルジメチルアミンオキシドはカチオン性を有する界面活性剤であり、洗浄剤の増泡剤や皮膚刺激緩和剤など、洗浄を目的とした製剤に使われている(非特許文献1)。さらに、経皮吸収促進剤としての効果があることも知られている(特許文献1)
【0003】
アルキルジメチルアミンオキシド水溶液は、塩化ナトリウムを添加することによって系全体の粘性を上げ、ひも状ミセルを形成することが知られている(非特許文献2)。また、桂皮酸を添加することによってひも状ミセルやベシクルを形成することも知られている(非特許文献3)。アルキルジメチルアミンオキシドは、イオン性をもつ分子と相互作用することが古くから知られており、アニオン性界面活性剤と相互作用し、シャンプーなどの洗浄剤の増粘、増泡効果にも役立つ(非特許文献1)。しかしながら、β−グリチルレチン酸を溶解させるために、アルキルジメチルアミンオキシドを配合させて用いることは開示されていない。
【0004】
一方、β−グリチルレチン酸は急性や慢性の皮膚炎に対し著しい効果があるといわれており、多用薬としての臨床報告も国内外で多くみられる。化学構造が類似しているコルチゾン(副腎皮質ホルモン)に比べて作用は緩和であるため、化粧品では古くから使われている(非特許文献4)。また、抗炎症、抗アレルギー、細菌発育阻止、5α−リダクターゼ活性阻害などの作用により、育毛効果があることも知られている(非特許文献5)。β−グリチルレチン酸は高級アルコールやエタノールには溶解することが知られている。しかし、水や石油エーテルなどには不溶のため、製剤上の制約があり配合には制限があった。β−グリチルレチン酸を高級アルコールやエタノールに溶解させて界面活性剤で乳化あるいは可溶化させる方法があるがいずれも経時的に析出する。
【0005】
【特許文献1】:特許1731960号
【非特許文献1】:化粧品ハンドブック、日光ケミカルズ、p.221(1996)
【非特許文献2】:J.Jpn.Oil.Soc.、Vol.41、No.8、616−621(1992)
【非特許文献3】:J.Phys.Chem.、99、6046−6053(1995)
【非特許文献4】:化粧品原料辞典、日光ケミカルズ、p.145−146(1991)
【非特許文献5】:化粧品ハンドブック、日光ケミカルズ、p.475(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、保存安定性に優れたβ−グリチルレチン酸を含有する乳化組成物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの解決課題に対し検討した結果、アルキルジメチルアミンオキシドを配合することによりβ−グリチルレチン酸を可溶化あるいは乳化させた乳化組成物が保存安定性に優れることを見出した。すなわち、本発明は、化学式1で表されるアルキルジメチルアミンオキシド、β−グリチルレチン酸および水を配合した乳化組成物としている。
【発明の効果】
【0008】
【化1】

【0009】
本発明に用いられる化学式1(Rはアルキル基)で表されるアルキルジメチルアミンオキシドは、Rがラウリル基あるいはミリスチル基から選ばれる。本発明の乳化組成物を皮膚外用剤に使用する場合には、ラウリルジメチルアミンオキシドの市販品として、ソフタミン L(東邦化学(株)製、商品名)、アロモックスDM12D−W(C)(ライオン(株)製、商品名)、ユニセーフA−LMR(日油(株)製、商品名)等、ミリスチルジメチルアミンオキシドの市販品として、アロモックスDM14D−N(ライオン(株)製、商品名)、ユニセーフA−MM(日油(株)製、商品名)等が挙げられる。また、混合品として、BALOX12(ラウリルジメチルアミンオキシド67%、ミリスチルジメチルアミンオキシド25%、セチルジメチルアミンオキシド8%:ロンザジャパン(株)製、商品名)、BALOX14(ラウリルジメチルアミンオキシド38%、ミリスチルジメチルアミンオキシド52%、セチルジメチルアミンオキシド10%:ロンザジャパン(株)製、商品名)等がある。
【0010】
乳化組成物を構成するアルキルジメチルアミンオキシドの配合量は1〜10重量%程度が望ましく、特に5〜10重量%が望ましい。配合量が1重量%よりも低い場合は沈殿が生じることがある。10重量%を超えると系全体の粘度が上昇し、撹拌効率が悪くなることがある。
【0011】
β−グリチルレチン酸は日本薬局方外医薬品規格や医薬部外品原料規格2006に収載されている。本発明で用いるβ−グリチルレチン酸は、甘草から得られるグリチルリチン酸の加水分解によって得られるものが挙げられる。本発明の乳化組成物を皮膚外用剤に使用する場合には、市販品として、β−グリチルレチン酸(丸善製薬(株)製、商品名)、NIKKOL グリチルレチン酸(日光ケミカルズ(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0012】
また、β−グリチルレチン酸の配合量は、0.3〜3.5重量%程度が望ましく、特に1.0〜3.5重量%が望ましい。0.3重量%よりも低くなると皮膚外用剤に配合する際に製造効率が悪い場合もある。3.5重量%を超えると分離する場合がある。
【0013】
次に本発明の乳化組成物を製造するには、アルキルジメチルアミンオキシドを予め水に溶解させた後、β−グリチルレチン酸を添加し混合することにより得られる。
【0014】
その一例を具体的に説明すると、アルキルジメチルアミンオキシドを水に溶解し、β−グリチルレチン酸を加えおよそ60℃に加温しながら、ホモミキサーで乳化する。乳化後は30℃まで冷却し、乳化組成物を得ることができる。なお、微生物等の汚染を考慮し、防腐剤やpH調整剤等の溶質を添加してもよい。
【0015】
また、本発明の乳化組成物は、使用時に水性の製剤(精製水、あるいは化粧水、美容液、ジェル、乳液、クリーム等の製剤)に配合して使用する皮膚外用剤とすることができる。使用時に水性の製剤(精製水、あるいは化粧水、美容液、ジェル、乳液、クリーム等の製剤)に配合する場合には、乳化組成物として必ずしも必要ではないが、β−グリチルレチン酸の経時的な析出を防ぐために非イオン性界面活性剤を配合してもよい。他に、化粧品に配合される油性基剤、脂肪酸、アルコール、水性基剤、酸化防止剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、pH調製剤、水溶性ポリマー、シリコーン油、紫外線吸収剤、ビタミン類、アミノ酸類、糖類などを配合してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
乳化組成物の調製
ラウリルジメチルアミンオキシド30重量%水溶液(ソフタミン L)3.3g(ラウリルジメチルアミンオキシド 0.99g)にβ−グリチルレチン酸0.3g及び精製水96.4gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【実施例2】
【0018】
ラウリルジメチルアミンオキシド30重量%水溶液(ソフタミン L)16.7g(ラウリルジメチルアミンオキシド 5.01g)にβ−グリチルレチン酸1.75g及び精製水81.55gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【実施例3】
【0019】
ラウリルジメチルアミンオキシド30重量%水溶液(ソフタミン L)33.3g(ラウリルジメチルアミンオキシド 9.99g)にβ−グリチルレチン酸3.5g及び精製水63.2gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【実施例4】
【0020】
ミリスチルジメチルアミンオキシド25重量%水溶液(アロモックスDM14D−N)20g(ミリスチルジメチルアミンオキシド 5g)にβ−グリチルレチン酸1.25g及び精製水78.75gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【実施例5】
【0021】
ミリスチルジメチルアミンオキシド25重量%水溶液(アロモックスDM14D−N)40g(ミリスチルジメチルアミンオキシド 10g)にβ−グリチルレチン酸2.5g及び精製水57.5gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【実施例6】
【0022】
混合アルキルジメチルアミンオキシド(ラウリルジメチルアミンオキシド38%、ミリスチルジメチルアミンオキシド52%、セチルジメチルアミンオキシド10%)30重量%水溶液(BALOX14)33.3g(混合アルキルジメチルアミンオキシド 9.99g)にβ−グリチルレチン酸2.5g及び精製水64.2gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【実施例7】
【0023】
ラウリルジメチルアミンオキシド30重量%水溶液(ソフタミン L)33.3g(ラウリルジメチルアミンオキシド 9.99g)にβ−グリチルレチン酸4.0g及び精製水62.7gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【0024】
(比較例1)
ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル(平均付加モル数9:NIKKOL BL−9EX)5gにβ−グリチルレチン酸1.25g及び精製水93.75gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【0025】
(比較例2)
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油(平均付加モル数40:NIKKOL HCO−40)5gにβ−グリチルレチン酸1.25g及び精製水93.75gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【0026】
(比較例3)
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(平均付加モル数60:NIKKOL HCO−60)5gにβ−グリチルレチン酸1.25g及び精製水93.75gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【0027】
(比較例4)
ポリオキシエチレン(30)フィトステロール(平均付加モル数30:NIKKOL BPS−30)5gにβ−グリチルレチン酸1.25g及び精製水93.75gを加え、60℃まで加温した後、シルバーソン社製ホモミキサーにて8,000rpmで5分間乳化した。乳化後、30℃まで冷却し乳化組成物とした。
【0028】
乳化組成物の保存安定性は、40℃にて2週間静置後の状態を観察した。外観上、β−グリチルレチン酸が透明に溶解したものは◎、青白色に溶解したものは○、沈殿したものは×とした。
【0029】
【表1】

【0030】
乳化剤あるいは可溶化剤として使われる代表的な界面活性剤と比較すると、アルキルジメチルアミンオキシド(実施例1〜7)以外の界面活性剤(比較例1〜4)を使用したものすべて沈殿を生じた。また、実施例1〜7では沈殿はみられず保存安定性に優れていたが、実施例7でわずかな分離がみられた。ただし、4週間後でもその分離は変化がなく沈殿がみられなかったため製剤上問題ないと判断した。
【0031】
次に、実施例3を配合した皮膚外用剤について示す。
【実施例8】
【0032】
配合成分 配合量(重量%)
(1) EDTA−2Na 0.05
(2) クエン酸 0.01
(3) 1,3−ブチレングリコール 2.0
(4) グリセリン 1.0
(5) ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
(6) ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.1
(7) 香料 0.03
(8) 酢酸トコフェロール 0.001
(9) エタノール 3.0
(10)パラオキシ安息香酸メチル 0.15
(11)実施例3の乳化組成物 5.0
(12)水 残 量
合計 100
【0033】
(比較例5)
配合成分 配合量(重量%)
(1) EDTA−2Na 0.05
(2) クエン酸 0.01
(3) 1,3−ブチレングリコール 2.0
(4) グリセリン 1.0
(5) ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
(6) ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.1
(7) 香料 0.03
(8) 酢酸トコフェロール 0.001
(9) エタノール 3.0
(10)β−グリチルレチン酸 0.175
(11)パラオキシ安息香酸メチル 0.15
(12)水 残 量
合計 100
【0034】
上記実施例8の化粧水は透明な外観を有し、5℃、室温、40℃における保存安定性はいずれも良好であった。比較例5は調製直後に白濁し、沈殿が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

化学式1(Rはアルキル基)で表されるアルキルジメチルアミンオキシド、β−グリチルレチン酸および水からなる乳化組成物。
【請求項2】
化学式1(Rはアルキル基)で表されるアルキルジメチルアミンオキシドのうち、Rがラウリル基あるいはミリスチル基であることを特徴とする請求項1記載の乳化組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の化学式1で表されるアルキルジメチルアミンオキシドの配合量が1〜10重量%、かつβ−グリチルレチン酸の配合量が0.3〜3.5重量%である請求項1または2記載の乳化組成物。
【請求項4】
請求項1または2記載の化学式1で表されるアルキルジメチルアミンオキシドの配合量が5〜10重量%、かつβ−グリチルレチン酸の配合量が1〜3.5重量%である請求項1または2記載の乳化組成物。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項記載の乳化組成物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。

【公開番号】特開2011−184412(P2011−184412A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54010(P2010−54010)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】