説明

乳成分の改質方法及び飲食品

【課題】 乳成分に対する加熱時間の短縮を容易にするとともに乳特有の臭気成分の生成を抑えつつ乳成分の改質を行うことが容易な乳成分の改質方法及び乳特有の臭気成分が低減された飲食品を提供する。
【解決手段】 乳成分の改質方法は、乳成分を含む液体を蒸気処理することにより乳成分の改質を行う方法であって、前記蒸気処理は前記液体に過熱水蒸気を接触又は混合させる処理からなる。乳成分としては生乳、殺菌乳、加工乳、粉乳、乳脂肪、クリームなどが挙げられる。蒸気処理は常圧又は加圧状態、且つ不活性ガス雰囲気下で行われるのが好ましい。飲食品は、前記改質方法により改質された乳成分を含有し、2−メチルブタナールやフルフラールなどの乳特有の臭気成分が低減されて風香味に優れている。飲食品としてはミルクコーヒー、カプチーノ、ミルクココア、ミルクティー、クリームスープ、クリームシチュー、ヨーグルト、ケーキ、菓子などが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳成分の改質を行って品質を高めるための乳成分の改質方法、及びその方法によって改質された乳成分を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
滅菌、脱臭、コク感を出すなどの目的で乳成分を改質する際には、加熱処理が行われるケースが多い。一般に、乳成分に対する加熱時間が長いと、その成分中に含まれる有機物が長時間高温に曝されるため、酸化反応が起こりやすくなって2−メチルブタナールやフルフラールなどの乳特有の臭気成分の生成が促進される。そこで、例えば特許文献1の起泡性水中油型乳化組成物の製造方法では、乳成分の滅菌に際して、加圧水蒸気を用いることによって加熱時間を短縮する技術が提案されている。この特許文献1の製造方法は、例えば、濃厚なコク感が持続する水中油型ホイップクリームを効率よく製造するために利用される。この製造方法では、水、蛋白質、脂質を予備混合した後、均質機で均質化する滅菌前の調製工程と、均質化したクリームに直接加圧水蒸気を混合し、数秒間保持した後、フラッシュポットにおいて真空引きを行い、水分調整を行う滅菌工程と、均質機にて均質化した後、冷却機にて冷却する冷却工程とが実施される。そして、この製造方法では、前記滅菌工程におけるフラッシュポット圧力を真空に近い状態ではなく0〜0.5MPaに制御することによって、低沸点成分である呈味物質の揮発が少なくなるとともに、加圧による蛋白変性が促進されるため、濃厚なコク感が持続するクリームが得られる。
【特許文献1】特開2000−116350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、本発明者らの鋭意研究により、乳成分に対する加熱時間を大幅に短縮することにより、臭気成分の生成を抑えながら乳成分の改質を効果的に行うことに成功した結果なされたものである。その目的とするところは、乳成分に対する加熱時間の短縮を容易にするとともに、乳特有の臭気成分の生成を抑えつつ乳成分の改質を行うことが容易な乳成分の改質方法、及び乳特有の臭気成分が低減された飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の乳成分の改質方法は、乳成分を含む液体を蒸気処理することにより乳成分の改質を行う方法であって、前記蒸気処理は前記液体に過熱水蒸気を接触又は混合させる処理であることを要旨とする。
【0005】
この方法によれば、乳成分を含む液体は、過熱水蒸気と接触又は混合されることにより、瞬時に加熱されて所望の改質が十分に達成可能な状態となる。即ち、過熱水蒸気は、対流伝熱作用及び放射伝熱作用が高いため、乳成分を含む液体の温度をその中心部まで短時間で上昇させる。その結果、乳成分の改質に伴う加熱時間が容易に短縮可能となる。そして、前記加熱時間が短縮されると、乳特有の臭気成分の生成が抑えられる。
【0006】
請求項2に記載の乳成分の改質方法は、請求項1に記載の発明において、前記蒸気処理を常圧で行うことを要旨とする。
この方法によれば、乳成分を含む液体を常圧で蒸気処理する場合、たとえば常圧よりも高い圧力で蒸気処理する場合のように耐圧容器や耐圧配管が必要ないため、蒸気処理に用いられる容器や配管の仕様が限定されないという利点がある。
【0007】
請求項3に記載の乳成分の改質方法は、請求項1に記載の発明において、前記蒸気処理を常圧よりも高い圧力で行うことを要旨とする。
この方法によれば、乳成分を含む液体を常圧よりも高い圧力で蒸気処理すると、その後に実施されるフラッシュ冷却(減圧による冷却)を行う際の冷却速度が飛躍的に向上する。このため、乳成分を含む液体が高温状態になっている時間が容易に短縮可能となり更に、気化熱を利用して冷却する為に冷却エネルギーを低減する等の利点もある。
【0008】
請求項4に記載の乳成分の改質方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記蒸気処理を不活性ガス雰囲気下で行うことを要旨とする。
乳成分を含む液体は、蒸気処理時に加熱されるため、そのときに酸素と反応して酸化劣化しやすい。これに対し、請求項4の方法では、蒸気処理を不活性ガス雰囲気下で行うことにより酸化劣化が顕著に抑えられ、乳成分を風香味的に優れた品質に改質することが容易となる。
【0009】
請求項5に記載の乳成分の改質方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記蒸気処理は前記液体中に含まれる揮発性成分の低減を目的としていることを要旨とする。
【0010】
この方法によれば、乳成分を含む液体の改質に際して、乳特有の臭気成分の多くが低減されるため、乳成分が風香味的に優れた品質へと改質され、更に、処理した乳をその他の素材と混合した場合に乳以外の素材の持つアロマやフレーバー等を阻害しないものとなる。
【0011】
請求項6に記載の飲食品は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の乳成分の改質方法により改質された乳成分を含有することを要旨とする。
この飲食品は、乳成分に対する加熱時間の短縮を容易にするとともに、乳特有の臭気成分の生成を抑えつつ乳成分の改質を行うことが容易な乳成分の改質方法によって改質された乳成分を含有しているため、乳特有の臭気成分が低減されて風香味に優れている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乳成分に対する加熱時間の短縮を容易にするとともに、乳特有の臭気成分の生成を抑えつつ乳成分の改質を行うことが容易な乳成分の改質方法、及び乳特有の臭気成分が低減された飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の乳成分の改質方法を具体化した一実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の乳成分の改質方法は、過熱水蒸気を用いて、乳成分を含む液体を蒸気処理するものである。この改質方法は、乳成分を含む液体を所定条件で加熱することにより、乳成分を含む液体に殺菌、滅菌、脱臭などを行ったり、乳成分を含む液体にコク感、フレッシュ感、口当たりの良さ、後味の良さなどを付与したりして、乳成分を改質することを目的とする。そして、この改質方法では、過熱水蒸気を用いて蒸気処理することにより、乳成分に対する加熱時間の短縮を容易にするとともに、乳特有の臭気成分の生成を抑えつつ乳成分の改質を行うことができる。前記乳特有の臭気成分としては、2−メチルブタナール(2-Methyl Butanal)やフルフラール(Furfural)などの揮発性成分が挙げられる。なお、一般に乳成分を含む液体では製品化までの過程で均質化処理が行われるケースが多いが、本実施形態の改質方法は前記均質化処理の前及び後のいずれのタイミングで行っても構わない。
【0014】
前記乳成分としては生乳、殺菌乳、加工乳、粉乳(脱脂粉乳、全脂粉乳)、乳脂肪、クリームなどが挙げられ、前記乳成分を含む液体としては生乳、殺菌乳、加工乳、粉乳の水分散液(懸濁液)、乳脂肪の水分散液(懸濁液)又はクリームの水分散液(懸濁液)が挙げられる。また、本実施形態では、前記乳成分を含有する飲食品原料も液状であれば改質可能である。本実施形態の改質方法では、乳特有の臭気成分のみを効率的に低減させるために、前記乳成分を主成分とする液体、即ち乳成分が全固形分中に10重量%以上含まれた液体が好適に用いられる。
【0015】
前記飲食品原料としては、ミルクコーヒー、カプチーノ、ミルクココア、ミルク入り紅茶などのミルクティー、乳清飲料、乳酸菌飲料などの飲料品や、クリームスープ、クリームシチュー、ヨーグルトなどの液状の食品が挙げられる。また、前記飲食品原料中には、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルなどの乳化剤、重曹などのpH調整剤、カラギーナンなどの安定剤、砂糖などの甘味料、糖アルコール、糖質、ミネラル、ビタミン、香料などの各種添加物や、コーヒー成分、茶成分(紅茶、ウーロン茶、緑茶)、ココア成分、果汁、野菜汁などの飲食品素材が含有されていてもよい。
【0016】
前記蒸気処理は、前記乳成分を含む液体に過熱水蒸気を接触又は混合させることにより実施される。前記接触させるとは、乳成分を含む液体を液滴として、或いは霧状に噴霧し、その噴霧された液体(液滴)に対して過熱水蒸気を吹付けることを意味する。また、前記混合させるとは、乳成分を含む液体を容器内に溜め、その容器内の液体中に過熱水蒸気を吹込むことを意味する。このとき、吹込まれた過熱水蒸気が前記液体中でバブリングしていても構わない。
【0017】
水蒸気は、水の沸点未満の温度(常圧(1気圧、1.013×105Pa)では0℃以上100℃未満)で液体の水が蒸発することにより生成される蒸気である。一方、飽和水蒸気は、水の沸点(常圧では100℃)で沸騰状態の水が蒸発することにより生成される蒸気である。また、加圧水蒸気は、常圧よりも高い圧力条件下で生成された飽和水蒸気であり、沸点上昇により100℃を超える温度に加熱されている。
【0018】
これに対し、過熱水蒸気は、前記飽和水蒸気に対して圧力を上げることなくそのまま熱を加えることにより生成される蒸気である。この過熱水蒸気は、液体の水をボイラーや電磁誘導加熱などを用いて沸騰させることにより生成した飽和水蒸気を、バーナー、電気ヒーター又は電磁誘導加熱装置で加熱することにより得られる。前記飽和水蒸気を加熱する際には、飽和水蒸気を加圧しながら加熱してもよいが、加圧後の減圧によって過熱水蒸気の温度変化が制御しにくいなどの理由から加圧せずに加熱するのが好ましい。前記電磁誘導加熱装置は、通常、セラミック又は金属製の発熱体を周波数100Hz〜100kHzの電磁誘導加熱により加熱し、該発熱体の表面に飽和水蒸気を接触させつつ加熱することによって過熱水蒸気を生成させる。
【0019】
蒸気処理する際の過熱水蒸気の温度は、常圧で100℃より高く、好ましくは常圧で100℃超500℃以下、より好ましくは常圧で107℃超500℃以下、さらに好ましくは常圧で140〜400℃である。過熱水蒸気が500℃を超える場合には、乳成分に対する熱の影響が大きいため乳成分の品質劣化を招くおそれが高いうえ不経済である。一方、過熱水蒸気は、常圧(1気圧)で107℃に転移点を有しており、該転移点より高い温度にあるときに熱力学的に極めて安定状態となっている。前記転移点では、飽和水蒸気を加熱する際に、加えた熱量の大半が物質の状態変化のために費やされ(潜熱)、該物質の温度上昇が引き起こされにくい状態となっている。なお、前記熱力学的に安定状態であるとは、蒸気状の水(過熱水蒸気)に熱を加えると、その水の温度が、加えられた熱量に比例して上昇する状態を指す(顕熱)。ちなみに、水の場合、前記転移点は常圧で100℃(いわゆる沸点)にも存在し、このときの潜熱は沸騰時の気化熱として利用される。
【0020】
この蒸気処理における蒸気量は、乳成分を含む液体1L当たり好ましくは0.3〜30kg/h、より好ましくは0.6〜20kg/h、さらに好ましくは1.2〜10kg/hであるとよい。蒸気量が0.3kg/h未満の場合には、乳成分を含む液体の改質を十分に達成することができないおそれがある。逆に30kg/hを超える場合には、過熱水蒸気を発生させる装置内の内圧が高くなることから、圧力制御を実施するための装置コストが高くなったり、またそのための装置スペースも大掛かりなものとなったりするために適さない。
【0021】
また、この蒸気処理では、乳成分を含む液体が所定温度に加熱される。このときの好ましい加熱温度、即ち加熱前の初期温度と加熱後の温度との温度差ΔTは、好ましくは20〜100℃、より好ましくは30〜80℃である。温度差ΔTが20℃未満の場合には、十分に乳成分の改質が出来ず、逆に温度差ΔTが100℃を越える場合には、加熱臭及び変化臭の発生が起こることがある。
【0022】
この蒸気処理は、バッチ式処理または連続処理が可能である。いずれの処理においても、蒸気処理を行うための装置(処理装置)を容器内又は配管内のいずれに設置しても構わない。バッチ式処理は、好ましくは容器内に設置される処理装置により実施され、連続処理は、好ましくは配管内に設置される処理装置により実施される。更に、この蒸気処理完了後の乳成分を含む液体は、乳成分が高温になっている時間を短縮するために、直ちに熱交換機による冷却を行うか、或いはフラッシュ冷却などの減圧操作にて冷却するのが好ましい。
【0023】
また、この蒸気処理は、常圧よりも低い圧力で行われても構わないが、常圧(1気圧)又は常圧よりも高い圧力に加圧した状態(加圧状態)で行われるのが好ましい。乳成分を含む液体を常圧で蒸気処理する場合、蒸気処理するための容器または配管の仕様が限定されないという利点がある。たとえば、高い圧力で蒸気処理する場合には、密閉された耐圧容器や耐圧配管内で蒸気処理する必要がある。これに対し、製造設備上、耐圧容器や耐圧配管を設置することが困難な場合には、常圧で蒸気処理を実施するのが好適である。また、加圧状態で蒸気処理を行う場合には、乳成分が高温になっている時間を短縮するために、引き続き耐圧容器内または耐圧配管内を減圧することによりフラッシュ冷却を行うのが好ましい。
【0024】
このフラッシュ冷却は、密閉された耐圧容器内や耐圧配管内から気体を抜き取って該容器内や該配管内を急激に減圧することにより、容器内や配管内の気体が断熱膨張を引き起こすとともに、乳成分を含む液体中の水分を蒸発させて気化熱を奪い、容器内や配管内を急冷する。なおこのとき、乳成分を含む液体中から水分が蒸発することから、蒸気処理における過熱水蒸気の吹付け又は吹込みによって付加された余分な水分が取り除かれ、乳成分を含む液体の濃度調整も同時に図られ得る。
【0025】
また、この蒸気処理は、空気中で行われても構わないが、乳成分の酸化劣化を抑えて風香味的に優れた乳成分を得るために、窒素ガスや希ガスなどの不活性ガス雰囲気下(いわゆる脱酸素状態)で行われるのが最も好ましい。さらにこのとき、溶存酸素量の低い乳成分を含む液体又は脱酸素状態の乳成分を含む液体に過熱水蒸気を接触又は混合させることによって、容器内または配管内の不活性ガス雰囲気を容易且つ継続的に維持することが可能となる。またこのとき、前記加圧状態で蒸気処理を行う場合には、不活性ガスにて容器内または配管内を加圧するのが好ましい。なお、蒸気処理を不活性ガス雰囲気下で行う場合には、本実施形態の乳成分の改質方法を始めとしてその他全ての製品化の過程(均質化処理などの殺菌前の調製工程、冷却工程、包装工程など)でも同様に不活性ガス雰囲気下で行われるのが最も好ましい。
【0026】
この改質方法によって改質された乳成分を含む液体は、そのまま包装容器内に封入してもよく、或いは希釈、濃縮又は乾燥(粉末化)させてもよい。また、前記液体は、乳化剤、pH調整剤、安定剤、甘味料、糖アルコール、糖質、ミネラル、ビタミン、香料などの各種添加物、コーヒー成分、茶成分、ココア成分、果汁、野菜汁などの飲食品素材と混合した後に包装容器内に封入してもよく、或いは前記混合後の液体を希釈、濃縮又は乾燥(粉末化)させてもよい。前記乳成分を含む液体又は前記混合後の液体を乾燥する際には、公知のフリーズドライ法やスプレードライ法などが利用され、粉末状の乳成分、又は粉末状の乳成分含有飲食品素材が得られる。
【0027】
本実施形態の飲食品は、上述した改質方法により改質された乳成分を含有するものであり、ミルクコーヒー、カプチーノ、ミルクココア、ミルク入り紅茶などのミルクティー、乳清飲料、乳酸菌飲料などの飲料品や、クリームスープ、クリームシチュー、ヨーグルト、ケーキ、菓子などの食品が挙げられる。これらの飲食品は、乳成分の風香味を高く維持するために、密閉状態の包装袋や包装容器内に封入された状態で製品化されるのが好ましい。前記密閉状態の包装袋や包装容器としては、缶、瓶、PET容器、紙製容器、プラスチック容器、アルミ包材などが挙げられる。
【0028】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の乳成分の改質方法は、過熱水蒸気を用いて乳成分を含む液体を蒸気処理するものである。過熱水蒸気を用いた蒸気処理は、乳成分に対する改質を行う際の加熱時間を容易に短縮可能とすることから、乳特有の臭気成分の生成を抑えることが容易となる。過熱水蒸気の伝熱は、対流伝熱の他に放射伝熱が加わるため、飽和水蒸気よりも熱効率が顕著に高い。さらに、過熱水蒸気は、水蒸気の一種であるので対流伝熱も早い。過熱水蒸気は、低温の物質に触れると凝縮し、そのとき物質に熱を与えて品温を上げるという水蒸気本来の性質と、加熱空気のように物質を加熱する性質とを持っていることから、短時間で乳成分を含む液体の温度を上昇させて乳成分の改質を行うことができる。特に、乳成分を含む液体の温度をその中心部まで短時間で上昇させる効果は、長時間かけて液温を上昇させる場合と比較して、熱による乳成分の変質が抑えられやすくなる点で特筆すべきである。
【0029】
さらに、過熱水蒸気は有機物を酸化させにくいため、酸化臭を発生させるおそれも少ない。一方、過熱水蒸気は、被処理物の品温が100℃を超えると、接触した物質の乾燥を急速に早める作用を有している。このとき、乳成分を含む液体中において、比較的揮発しやすい臭気成分が過熱水蒸気中に瞬時に溶解及び一体化され、過熱水蒸気とともに蒸発して液体中から失われることから、乳特有の臭気成分の低減を図ることも可能である。即ちこの場合、乳特有の臭気成分の生成を抑えつつ、臭気成分の除去を図ることが可能となる。また、過熱水蒸気を用いた蒸気処理では、飽和水蒸気を用いた処理よりも処理時間が大幅に短縮可能であることから、処理効率が高いうえ蒸気量が少なく済むことから経済的である。
【0030】
・ 本実施形態の飲食品は、過熱水蒸気を用いた蒸気処理を施すことによって改質された乳成分を含有している。このため、この飲食品では、乳特有の臭気成分が低減されるとともに、乳特有の臭気成分がその他の好ましい香りを阻害しにくいため、風香味的に大変優れている。
【実施例】
【0031】
<牛乳の改質>
(実施例1) 初期温度25℃の市販牛乳2000mLを容器内に注ぎ込んだ後、常圧で該容器内に170℃の過熱水蒸気(蒸気量30kg/h)を10秒間吹込んで混合させ、牛乳の温度を61℃まで昇温(温度差ΔT=36℃)させた。その直後容器内を冷却した。
【0032】
(実施例2) 初期温度25℃の市販牛乳2000mLを容器内に注ぎ込んだ後、常圧で該容器内に170℃の過熱水蒸気(蒸気量30kg/h)を20秒間吹込んで混合させ、牛乳の温度を87℃まで昇温(温度差ΔT=62℃)させた。その直後容器内を冷却した。
【0033】
(比較例1) 何も処理をしない市販牛乳を比較例1とした。
(比較例2) 初期温度22℃の市販牛乳2000mLを容器内に注ぎ込んだ後、常圧で該容器内に100℃の飽和水蒸気(蒸気量30kg/h)を30秒間吹込んで混合させ、牛乳の温度を66℃まで昇温(温度差ΔT=44℃)させた。その直後容器内を冷却した。
【0034】
(比較例3) 初期温度23℃の市販牛乳2000mLを容器内に注ぎ込んだ後、常圧で該容器内に100℃の飽和水蒸気(蒸気量30kg/h)を45秒間吹込んで混合させ、牛乳の温度を97℃まで昇温(温度差ΔT=74℃)させた。その直後容器内を冷却した。
【0035】
<ミルク入りコーヒー飲料の作製1>
実施例1,2及び比較例1〜3の改質された牛乳と、コーヒー抽出液と、重曹とを混合させることによりミルク入りコーヒー飲料を作製した後、金属缶にホット充填後、123℃で26分間レトルト殺菌した。なお、前記コーヒー飲料中には、コーヒー焙煎豆50gを熱水抽出することにより得られた400mLのコーヒー抽出液に対し、前記各例の牛乳が350g/L、重曹が1.4g/Lとなるように混合されている。
【0036】
<揮発性成分の分析1>
実施例1,2及び比較例1〜3の牛乳が混合されたミルク入りコーヒー飲料の香気量(揮発性成分の量)を分析した。分析は、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS;HEWLETT PACKARD社製GCsystem HP6890Series)を使用し、固層マイクロ抽出(SPME)樹脂にミルク入りコーヒー飲料の香気成分を吸着させ、SPME法により香気成分の量を測定した。分析条件としては、スプリット方式で注入、キャピラリー(DB−WAX)カラムを使用、ヘリウムガスを1.0mL/分にて流しながら40℃で3分ホールド→5℃/分で240℃まで昇温→240℃で5分ホールドして香気成分の分離・定量を実施した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

表1より、実施例1,2は、比較例1,2と比べて、一般に加熱臭・変化臭と言われる2−メチルブタナール及びフルフラールの両成分がどちらも少なくなり、且つ総香気量も減少していた。また、比較例3は、実施例1とほぼ等量の臭気成分を含んでいるが、乳成分が水蒸気と接触していた時間が35秒(4.5倍)も長かった。よって、過熱水蒸気による蒸気処理は、飽和水蒸気による処理と比較して、短時間で乳成分の改質(臭気成分の低減)が図られたことが明らかとなった。
【0038】
<全脂粉乳の改質>
(実施例3) 市販の全脂粉乳240gを2000mLの熱湯に溶解させて冷却することにより全脂粉乳の水分散液を作製した。その水分散液を容器内に注ぎ込んだ後、常圧で該容器内に170℃の過熱水蒸気(蒸気量30kg/h)を20秒間吹込んで混合させ、前記水分散液を90℃まで昇温(温度差ΔT=60℃)させた。その直後容器内を冷却した。
【0039】
(比較例4) 市販の全脂粉乳240gを2000mLの熱湯に溶解させて冷却することにより全脂粉乳の水分散液を作製した。この水分散液を比較例4とした。
(比較例5) 市販の全脂粉乳240gを2000mLの熱湯に溶解させて冷却することにより全脂粉乳の水分散液を作製した。その水分散液を容器内に注ぎ込んだ後、常圧で該容器内に100℃の飽和水蒸気(蒸気量30kg/h)を45秒間吹込んで混合させ、前記水分散液を99℃まで昇温(温度差ΔT=68℃)させた。その直後容器内を冷却した。
【0040】
<ミルク入りコーヒー飲料の作製及び揮発性成分の分析>
実施例3及び比較例4,5の改質された全脂粉乳の水分散液を用いて、上記<ミルク入りコーヒー飲料の作製1>と同様にミルク入りコーヒー飲料を作製した。次に、これらのミルク入りコーヒー飲料について、上記<揮発性成分の分析1>と同様に香気量(揮発性成分の量)を分析した。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

表2より、実施例3は、比較例4と比べて、2−メチルブタナール及びフルフラールの両成分がどちらも少なくなり、且つ総香気量も減少していた。また、比較例5は、実施例3とほぼ等量の臭気成分を含んでいるが、乳成分が水蒸気と接触していた時間が35秒(4.5倍)も長かった。よって、過熱水蒸気による蒸気処理は、飽和水蒸気による処理と比較して、短時間で乳成分の改質(臭気成分の低減)が図られたことが明らかとなった。
【0042】
<加圧した状態での蒸気処理>
(実施例4) 市販の全脂粉乳240gを2000mLの熱湯に溶解させて冷却することにより全脂粉乳の水分散液を作製した。その水分散液を耐圧容器内に注ぎ込んだ後、該容器内を0.1MPaに加圧した。該容器内に0.1MPaに加圧した170℃の過熱水蒸気(蒸気量30kg/h)を20秒間吹込んで混合し、前記水分散液を90℃まで昇温(温度差ΔT=60℃)した。その直後容器内を冷却(フラッシュ冷却)した。その結果、この実施例4で得られた全脂粉乳の水分散液は、実施例3で得られた全脂粉乳の水分散液と同等の品質であったことが確認された。
【0043】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記乳成分は、生乳、殺菌乳、加工乳、粉乳、乳脂肪又はクリームであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の乳成分の改質方法。前記乳成分は、生乳、殺菌乳、加工乳、粉乳、乳脂肪又はクリームであり、前記乳成分を含む液体は、生乳、殺菌乳、加工乳、粉乳の水分散液、乳脂肪の水分散液、クリームの水分散液、又は前記乳成分を含有する液状の飲食品原料であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の乳成分の改質方法。
【0044】
・ 前記揮発性成分は2−メチルブタナール及び/又はフルフラールであることを特徴とする請求項5に記載の乳成分の改質方法。
・ 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の乳成分の改質方法により改質された乳成分。このように構成した場合、乳特有の臭気成分が低減された乳成分が提供され、様々な飲食品素材として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳成分を含む液体を蒸気処理することにより乳成分の改質を行う方法であって、
前記蒸気処理は前記液体に過熱水蒸気を接触又は混合させる処理であることを特徴とする乳成分の改質方法。
【請求項2】
前記蒸気処理を常圧で行うことを特徴とする請求項1に記載の乳成分の改質方法。
【請求項3】
前記蒸気処理を常圧よりも高い圧力で行うことを特徴とする請求項1に記載の乳成分の改質方法。
【請求項4】
前記蒸気処理を不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の乳成分の改質方法。
【請求項5】
前記蒸気処理は前記液体中に含まれる揮発性成分の低減を目的としていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の乳成分の改質方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の乳成分の改質方法により改質された乳成分を含有することを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2006−204148(P2006−204148A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18779(P2005−18779)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(591134199)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】