説明

乳酸、ポリ乳酸及び生分解性プラスチック

【目的】 本発明は、乳酸系の生分解性プラスチックの原料としての乳酸を提供することを目的とし、併せて、この乳酸を原料とするポリ乳酸、及びこのポリ乳酸を原料の一部ないし全部として製造した生分解性プラスチックを提供することを目的とする。
【構成】 ココヤシ中のデンプンを原料として、これを乳酸発酵させたことを特徴とする乳酸、この乳酸を原料とするポリ乳酸、及びこのポリ乳酸を原料の一部ないし全部として製造した生分解性プラスチック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として乳酸系の生分解性プラスチックの原料として用いられる乳酸、ポリ乳酸、及びこのポリ乳酸を原料の一部ないし全部として製造される生分解性プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀の化学・技術の進歩において、プラスチックなどの高分子材料が果たした役割が非常に大きいことは、疑いようのないところである。
【0003】
高分子材料は、電気絶縁性、誘電性、軽量性等に優れた機能特性を持ち、更に、安価で且つ板、管、繊維、薄膜等、種々の形状に加工できる成形加工性にも優れていることから、最近では、機械的強度、耐熱性の飛躍的向上を図ったエンジニアリングプラスチックの出現や、複合材料の開発により、高分子類の航空、宇宙、自動車、機械材料等への使用が進められている。
【0004】
このような結果、現在、プラスチック製品が非常に多くなり、終戦直後は年産1万トン程度であったプラスチック製品は、異常ともいえる成長率によって、現在年産500万トンを超えるに至っており、我々の生活周辺においても、種々のプラスチック製品が豊富に存在し、日常生活と密接に関係している。
【0005】
しかしながら、このようなプラスチック製品を廃棄する際には、廃棄物の中から各プラスチックを純粋な状態で分別し取り出すことが困難であるため、回収・再利用が困難であり、又、微生物によって分解されず、空気中、水中などでも安定で、分解したり溶解したりし難く、長期に亘って原形をとどめ、環境中に半永久的に残存するために埋め立て処分等を行うことが好ましくなく、更に、燃焼させると高熱を出し、焼却炉内を傷めたり、空気を多量に必要としたり、有毒ガスを発生したり、コークス化したりして、完全燃焼が困難であるため焼却処分等も困難なのである。
【0006】
プラスチック製品の使用量が増加するにつれて、廃棄物(ゴミ)の中のプラスチック量が増大するのは当然であり、環境問題やゴミ処理問題改善のための規制が厳しくなってきている昨今では、このようなプラスチック廃棄物処理の問題の解決は、避けようのない課題であり、これらプラスチック製品に替わる機能性材料の開発が強く求められている。
【0007】
そこで、プラスチック廃棄物処理の理想的解決法として、自然環境で消滅する生分解性プラスチックが注目されており、大手企業や化学製品メーカーなどにおいて研究・開発が進められてきている。
【0008】
この生分解性プラスチックは、材料・製造方法などから、「微生物産生系」、「天然高分子系」及び「化学合成系」の3種に大きく分けることができる。
【0009】
このうち、微生物産生系の生分解性プラスチックは、代謝によりポリエステルを体内に蓄積する特定の微生物に穀物デンプン等を与え、当該微生物の体内にポリエステルが蓄積されたところで取り出し、これをプラスチック原料とするものである。
【0010】
しかしながら、この微生物産生系の生分解性プラスチックは、生分解性は非常に良好であるが、成形性に劣り、又、独特の臭気があるためその応用範囲が制限されるといった問題がある。
【0011】
又、天然高分子系の生分解性プラスチックは、デンプン、キトサン又はタンパク質などの天然高分子を主原料とし、これらの変成や混合処理を行って、一定の強度が発現するようにしたものであり、生分解性プラスチックの研究分野では最も初期の段階から研究されてきたものである。
【0012】
しかしながら、この天然高分子系の生分解性プラスチックは、一般に水分を吸収しやすく、そのため製造環境の変化によってその物性が大きく左右されるといった欠点がある。
【0013】
そこで、現在、生分解性プラスチックの分野においては、化学合成系の研究・開発が主となっており、中でも、成形性、高剛性、透明性、生体安全性などに優れる乳酸系の生分解性プラスチックが最も期待されており、既に一部は実用化されている(例えば、非特許文献1・2)。
【0014】
【非特許文献1】月刊アスキー 2002年11月号
【非特許文献2】D&M 日経メカニカル 2002年8月号
【0015】
乳酸系の生分解性プラスチックは、デンプンを原料とし、このデンプンを乳酸発酵させて、その発酵物である乳酸(L−乳酸及びD−乳酸)をモノマーとする重合体であり、一般には、乳酸の二量体であるラクタイドの開環重合法、及び直接重縮合法により製造される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、乳酸系の生分解性プラスチックの原料として使用されるデンプンとしては、一般的に、じゃがいも、サツマイモ、とうもろこし又はサトウキビ等の農作物に含まれる穀物デンプンから製造されているが、これらの農作物は、気候や季節によって収穫量が変化し、一年を通じて安定的に供給することが困難であるといった問題がある。
【0017】
又、このような穀物デンプンを発酵させて乳酸を得るには、比較的時間がかかるため、大量生産が難しいという問題もある。
【0018】
更に、このような農作物は食料でもあることから、各国で食糧事情の格差が問題となっている今日、このような食料を工業原料として用いること自体にも根本的な問題がある。
【0019】
そこで、本発明者が前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ココヤシ中のデンプンを原料とする本発明の乳酸を開発するに至り、同時にこの乳酸を原料としたポリ乳酸及びこのポリ乳酸を原料の一部ないし全部として製造した生分解性プラスチックを開発するに至ったのである。
【0020】
即ち、本発明者は、ココヤシに存する胚乳及びココヤシ水には、デンプンが多く含まれており、しかも、穀物デンプンに比べて非常に乳酸発酵が進み易い点に着目し、このようなココヤシを用いれば、比較的短期間に生分解性プラスチックの原料としての乳酸を得ることができるとの知見を得たのである。
【0021】
又、現在のココヤシの利用の殆んどは、スリランカでは、収穫したココヤシの胚乳からココヤシミルクやヤシ油を搾り取るだけで、胚乳の絞りかす及びココヤシ水はほぼ全部廃棄されており、その廃棄量は1日当たり40〜50万tにもおよぶことから、このようなココヤシの廃棄物である胚乳の絞りかす及びココヤシ水を利用すれば、多量の乳酸を得ることができるとの知見を得たのである。
【0022】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであって、乳酸系の生分解性プラスチックの原料としての乳酸を提供することを目的とし、併せて、この乳酸を原料とするポリ乳酸、及びこのポリ乳酸を原料の一部ないし全部として製造した生分解性プラスチックを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的を達成するために、本発明の乳酸は、ココヤシ中のデンプンを原料として、これを乳酸発酵させたことを特徴とするものである。
【0024】
本発明の乳酸の原料として、このような「ココヤシ中のデンプン」を用いた理由は、上述の如く、ココヤシに存する胚乳及びココヤシ水には、デンプンが多く含まれており、しかも、穀物デンプンに比べて非常に乳酸発酵が進み易いことから、このようなココヤシ中のデンプンを用いれば、比較的短期間に生分解性プラスチックの原料としての乳酸を製造することができるからである。
【0025】
又、現在のココヤシの利用の殆んどは、スリランカでは、収穫したココヤシの胚乳からココヤシミルクやヤシ油を搾り取るだけで、胚乳の絞りかす及びココヤシ水はほぼ全部廃棄されており、その廃棄量は1日当たり40〜50万tにもおよぶことから、このようなココヤシの廃棄物である胚乳の絞りかす及びココヤシ水を利用すれば、多量の乳酸を得ることができるからである。
【0026】
従って、本発明としては、特に、ココヤシの廃棄物である胚乳の絞りかす及びココヤシ水中のデンプンを原料として、これを乳酸発酵させることが、廃物利用の観点から好ましい。
【0027】
なお、ココヤシ中のデンプンを乳酸発酵させる方法としては、従来公知の手段、例えば、ジャガイモやトウモロコシなどの穀物デンプンを乳酸発酵させるのと同様の手段を用いることができるのであり、即ち、原料に対して適当量の乳酸菌類を添加し、各乳酸菌類の発酵条件、発酵温度、ココヤシ水のpH、発酵時間等を適宜調整して、当該乳酸菌類の代謝によってココヤシ中のデンプンを乳酸に生成させる手段を挙げることができる。
【0028】
なお、このとき、デンプンをはじめとする各種の栄養素やpH調製のための酸、アルカリ等を適宜加えても良く、又、その醗酵は、混合醗酵でも、連続醗酵でも良いのである。
【0029】
そして、醗酵後は濾過し、所望により、滅菌処理、pH調整、イオン交換樹脂、活性炭カラム、透析膜などを利用し、脱臭、脱色等の精製処理を行っても良いのである。
【0030】
ここで、本発明において用いられる「乳酸菌類」とは、乳酸桿菌科乳酸桿菌属、放線菌科ビフィダス菌属、有胞子桿菌科有胞子乳酸桿菌属、レンサ球菌科ペディオコッカス属、エンテロコッカス・フェカリス、レンサ球菌属、ロイコノストック属等のことであり、前記「乳酸桿菌科乳酸桿菌属菌類」としては、乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)、乳酸桿菌属(Lactobacillus)の菌類:Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus brevis、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus casei、Lactobacillus delbruckii、Lactobacillus fermenti、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus jugurti、Lactobacillus lactis、Lactobacillus plantarumなどを挙げることができる。
【0031】
又、前記「放線菌科ビフィダス菌属菌類」としては、放線菌科(Actinomycetaceae)、ビフィダス菌属(Bifidobacterium)の菌類:Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium lactentis、Bifidobacterium liberorum、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium parvulorum、Bifidobacterium pseudolongum、Bifidobacterium thermophilumなどを挙げることができるのであり、又、前記「有胞子桿菌科有胞子乳酸桿菌属菌類」としては、有胞子桿菌科、有胞子乳酸桿菌属(Sporolactobacillus)の菌類:Sporolactobacillus inulinusなどを挙げることができる。
【0032】
更に、前記「レンサ球菌科ペディオコッカス属菌類」としては、レンサ球菌科(Streptococcaceae)、ペディオコッカス属(Pediococcus)の菌類エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)の乳酸球菌:Pediococcus acidilactis、Pediococcus cerevisiae、Pediococcus halophilus、Pediococcus pentosaceusなどを挙げることができ、前記「レンサ球菌科レンサ球菌属菌類」としては、レンサ球菌科(Streptococcaceae)、レンサ球菌属(Streptococcus)の菌類:Streptococcus cremoris、Streptococcus diacetilactis、Streptococcus faecalis、Streptococcus faecium、Streptococcus lactis、Streptococcus lactis sub−sp. diacetylactis、Streptococcusthermophilus、Streptococcus uberisなどを挙げることができる。
【0033】
加えて、「レンサ球菌科ロイコノストック属菌類」としては、レンサ球菌科(Streptococcaceae)、ロイコノストック属(Leuconostoc)の菌類:Leuconostoc citrovorum、Leuconostoc cremoris、Leuconostoc dextranicum、Leuconostoc mesenteroidesなどを挙げることができる。
【0034】
その他、本発明においては、前記乳酸菌類の同属種を用いることもできるのであり、また、これら任意の交配種のものも使用することができる。
【0035】
そして、本発明における乳酸は、ココヤシ中のデンプンを充分に乳酸発酵させた後に乳酸を抽出することにより得られる。
【0036】
なお、乳酸には、D−乳酸とL−乳酸の光学異性体が存在するが、本発明においては、D−乳酸とL−乳酸の混合物として抽出しても良く、更に、抽出を進めて、D−乳酸とL−乳酸を分別しても良いのである。
【0037】
本発明のポリ乳酸は、上記本発明の乳酸を原料として製造されたことを特徴とするものであり、即ち、上記本発明の乳酸をモノマーとする重合体である。
【0038】
なお、本発明のポリ乳酸は、一般的に、乳酸の二量体(ダイマー)であるラクタイドの開環重合法、及び直接重縮合法により製造される。
【0039】
本発明の生分解性プラスチックは、上記本発明のポリ乳酸を原料の一部ないし全部として製造したことを特徴とするものであり、即ち、本発明のポリ乳酸を単独で用いて製造することもできるし、他の脂肪族ポリエステル或いは他の樹脂とのブレンド物として製造することもできるのである。
【0040】
ここで、他の脂肪族ポリエステルや他の樹脂としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシバリレート、3−ヒドロキシカプロエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、3−ヒドロキシナノエート、3−ヒドロキシデカノエート、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のポリヒドロキシアルカノエート、或いはこれらの共重合体などを挙げることができる。
【0041】
また、本発明の生分解性プラスチックにおいては、所望により、他の樹脂との積層体で用いることもでき、例えば、酸素に対するバリアー性が要求される用途には、エチレン・ビニルアルコール共重合体、メタキシリレンアジパミド(MXD6)のようなガスバリアー性樹脂が積層体の形で使用され、また、水蒸気に対するガスバリアー性が要求される用途には、環状オレフィン共重合体等の水蒸気バリアー性樹脂が積層体の形で使用され、更に、ガスバリアー性を向上させるために、金属酸化物等の被覆層を設けることも可能である。
【0042】
ところで、本発明における生分解性プラスチックは、例えば、農林水産用資材(フィルム、植栽ポット、釣糸、魚網等)、土木工事資材(保水シート、植物ネット、土嚢等)、包装・容器分野(土、食品等が付着してリサイクルが難しいもの)等に利用でき、更に、電気製品、電子機器等の筺体や、電子機器等の部品等に応用できるのである。
【0043】
しかしながら、本発明に係る生分解性プラスチックを電気製品、電子機器等の筺体等に応用すると、さまざまな温度・湿度条件で使用される実環境において、長期信頼性の点で不十分なことがある。
【0044】
これは、ポリ乳酸中のカルボキシル基、水酸基等の活性水素を有する官能基中の活性水素が触媒的に主鎖を加水分解し、耐熱性・耐衝撃性等の物性の劣化を引き起こすからである。
【0045】
従って、本発明の生分解性プラスチックの物性を維持するために、該ポリ乳酸中のカルボキシル基、水酸基、又は、共重合体又は混合物として含有されている生分解性ポリマーのアミノ基または/およびアミド結合の水素と反応性を有する化合物(以降、加水分解抑制剤と略称する。)、例えばカルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、またはオキサゾリン系化合物等を添加することが好ましい。
【0046】
中でも、カルボジイミド化合物がポリエステルと容易に溶融混練でき、少量添加で加水分解性を調整できるため好適であり、また、これら加水分解抑制剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいのである。
【0047】
上記カルボジイミド化合物としては、例えばジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド等を挙げることができる。上記イソシアネート化合物としては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。また、上記オキサゾリン系化合物としては、例えば、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)等が挙げられる。
【0048】
なお、本発明の生分解性プラスチックを加水分解抑制剤で処理する方法としては、加水分解抑制剤をポリエステルの溶融前、溶融時あるいは溶融後に添加し、溶融し混合する手段が一般的である。
【0049】
ここで、加水分解抑制剤で処理した生分解性ポリエステルの長期信頼性及び使用後の生分解速度は、配合する加水分解抑制剤の種類および配合量によりその遅延を調節することができるため、配合する加水分解抑制剤の種類および配合量は、目的とする製品に必要とされる機械的強度に応じて決定すれば良いのであるが、一般的な加水分解抑制剤の添加量としては、生分解性プラスチック全体の約0.1〜5重量%程度であることが好ましい。
【0050】
本発明の生分解性プラスチックにおいては、その物性、耐衝撃性等の機械的強度を補強するために、更に補強材を混合しても良い。
【0051】
この補強材としては、特に限定されるものではないが、無機又は有機系のフィラー等を挙げることができ、前記無機系のフィラーとしては、例えば炭素、二酸化珪素、その他にゼオライト等の珪酸塩類等を挙げることができ、一方、前記有機系のフィラーとしては、例えば天然ゴムや生分解性を有するエラストマー材料等を挙げることができる。
【0052】
なお、上記補強材は、1種または2種以上を混合して用いてもよく、その添加量としては、その種類、目的とする強度等に応じて任意に設定することができるが、一般的には、本発明に係る生分解性プラスチックに対して、約5〜30重量%であることが好ましい。
【0053】
ところで、本発明の生分解性プラスチックを電気製品の筐体として使用するためには、日本工業規格(JIS)やUL(Under−writer Laboratory)規格に定められている難燃規格を満たす必要がある。
【0054】
そのため、本発明の生分解性プラスチックにおいては、その使用の際の安全性を高めるために、難燃系添加剤を加えて、難燃性を付与するのが好ましい。
【0055】
この難燃系添加剤としては、特に限定されるものではないが、例えば水酸化物系化合物、リン酸アンモニウム系化合物、シリカ系化合物等を挙げることができる。
【0056】
水酸化物系化合物は、樹脂が燃焼する際に発生する熱をこれらの材料が吸熱して分解すると同時に水を生じ、吸熱作用と水の発生により難燃性を発現するものであり、又、リン酸アンモニウム系化合物は、燃焼時に分解してポリメタリン酸を生成し、その脱水作用の結果、新しく生成する炭素被膜の形成による酸素遮断によって難燃効果を発揮するものであり、更に、シリカ系化合物は、樹脂に対する無機フィラーの効果により、樹脂に難燃性を与えるものである。
【0057】
上記水酸化物系化合物としては、例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0058】
又、上記リン酸アンモニウム系化合物としては、例えばリン酸アンモニウムもしくはポリリン酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0059】
更に、上記シリカ系化合物としては、例えば二酸化ケイ素、低融点ガラスもしくはオルガノシロキサン等を挙げることができる。
【0060】
なお、これらの難燃系添加物の添加量としては、本発明の生分解性プラスチックの機械的な強度が確保できる範囲で任意に定めることが可能であり、特に限定されるものではないが、具体的な添加量としては、難燃系添加物が水酸化物系化合物である場合は、生分解性プラスチックに対して約5〜50重量%程度が好ましく、また、難燃系添加物がリン酸アンモニウム系化合物である場合は、約2〜40重量%程度であることが好ましく、更に、難燃系添加物がシリカ系化合物の場合は、約5〜30重量%程度であることが好ましい。
【0061】
加えて、本発明の生分解性プラスチックにおいては、その他の公知の添加剤が含有されていてもよく、この添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等の他、滑剤、ワックス類、着色剤、結晶化促進剤、デンプンのような分解性を有する有機物等を挙げることができ、これらは、単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよいが、環境に配慮した無害な化合物であることが好ましい。
【0062】
そして、本発明の生分解性プラスチックは、種々の用途に応用可能であり、例えば、農林水産用資材(シート、フィルム、植栽ポット、釣糸、魚網等)、土木工事資材(保水シート、植物ネット、土嚢等)、包装・梱包材等の容器分野(土、食品等が付着してリサイクルが難しいもの)等の成形物やラジオ、マイク、TV、キーボード、携帯型音楽再生機、パソコン等の電気製品・電子機器等の筐体等の他の用途にも使用できるのである。
【0063】
なお、前記成形物の成形方法としては、例えば、フィルム成形、押出成形または射出成形等が挙げられるのであり、更に詳しくは、前記押出成形は、常法に従い、例えば単軸押出機、多軸押出機、タンデム押出機等の公知の押出成形機を用いて行うことができるのであり、また、前記射出成形は、常法に従い、例えばインラインスクリュ式射出成形機、多層射出成形機、二頭式射出成形機等の公知の射出成形機にて行うことができる。
【発明の効果】
【0064】
本発明は、上記構成を有し、ココヤシ中のデンプンを発酵させることによって得られる新規な乳酸、ポリ乳酸、及びこのポリ乳酸を原料の一部ないし全部として製造される生分解性プラスチックである。
【0065】
即ち、本発明の乳酸は、その原料としてココヤシ中のデンプンを用いたものであり、ココヤシに存する胚乳及びココヤシ水には、デンプンが多く含まれており、しかも、穀物デンプンに比べて非常に乳酸発酵が進み易いことから、比較的短期間に生分解性プラスチックの原料としての乳酸を製造することができるのである。
【0066】
又、現在のココヤシの利用の殆んどは、収穫したココヤシの胚乳からココヤシミルクやヤシ油を搾り取るだけで、胚乳の絞りかす及びココヤシ水はほぼ全部廃棄されており、その廃棄量は1日当たり40〜50万tにもおよぶが、本発明によれば、このようなココヤシの廃棄物である胚乳の絞りかす及びココヤシ水を利用することができのであり、しかも多量の乳酸を得ることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0068】
ココヤシ水及び胚乳の絞りかすに乳酸菌を加え、一定期間経過させて乳酸発酵を進めることにより、乳酸を得た。
【0069】
この得られた乳酸は、D体とL体の混合物であり、まず、この乳酸をプレ重合させることにより、中間物質である3種の立体異性体を含むラクタイド(LL−ラクタイド、LD−ラクタイド、DD−ラクタイド)を得た。
【0070】
次いで、公知の方法によって、このラクタイドに対して減圧蒸留を行い、開環重合させることにより、ポリ乳酸を得た。
【0071】
得られたポリ乳酸は、自然界に存在する微生物により、水と炭酸ガスに分解される完全リサイクルシステム型の樹脂であり、また、そのガラス転移点(Tg)も約60℃とポリエチレンテレフタレートのTgに近いという利点を有していた(生分解性プラスチック)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ココヤシ中のデンプンを原料として、これを乳酸発酵させたことを特徴とする乳酸。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸を原料として合成されたことを特徴とするポリ乳酸。
【請求項3】
請求項2に記載のポリ乳酸を原料の一部ないし全部として製造したことを特徴とする生分解性プラスチック。

【公開番号】特開2006−262770(P2006−262770A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85240(P2005−85240)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(505107631)株式会社上田ホールディングス (14)
【出願人】(505107642)株式会社ユー・イー・エス (5)
【Fターム(参考)】