説明

乾燥した生物学的物質およびそれらの調製方法

本発明は細胞、タンパク質、ウイルス、核酸、炭水化物、脂質またはそれらの組合せを含む乾燥した生物学的物質を少なくとも1つの膜透過性糖類および少なくとも1つの膜非透過性糖類と一緒に含み、その含水量が5%〜95%である組成物、それらの調製方法、並びにそれらを使用して動物を治療する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つには乾燥した生物学的物質を含む組成物、およびそれらの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞および生体分子のような生物学的物質の従来の保存および保管には通常、特殊な保管媒体、冷凍、液体窒素保管または非常に特殊な緩衝液を必要とする。これらの生物学的物質は通常、自然な分解過程による腐敗および病原体汚染のリスクを防ぐために製造後短時間で使用される。例えば、血小板のような無核細胞は室温でわずかに約5〜7日間の保存寿命しか有しない。さらに、生殖細胞(非特許文献1)、幹細胞(非特許文献2)および肝細胞(非特許文献3)のような有核細胞は高価な保管装置で維持しなければならず、室温での保存寿命には限界がある。
【0003】
細胞の保存寿命を延長させる幾つかの試みがある。これらの方法の幾つかは例えば特許文献1〜9および非特許文献4〜14に記載されている。
【0004】
現在の細胞保存技術は、細胞を乾燥状態で保存するための手段として凍結乾燥に着目することが多い。しかしながら、細胞の凍結は、その過程で氷晶の形成や浸透圧の変化を促進し、結果として細胞内の小器官および膜を崩壊させ、細胞の損失(すなわち一時的な加温効果(transient worming effect))、または細胞機能の低下または有意な減少をもたらす。さらに、凍結乾燥は明らかに細胞残屑から形成される微粒子の生成をもたらす可能性があり、またもたらすことが多い。肝細胞浮遊液の様々な凍結プロトコルが関係する報告で指摘されているように、低い回復および機能の深刻な消失のような殆んど壊滅的な結果になった(非特許文献15)。他の報告では、実験から氷晶と赤血球膜の機械的相互作用が膜の機械的損傷を誘発することがわかった(非特許文献16)。
【0005】
このように、多くの場合、凍結乾燥、フリーズ・ドライ、真空乾燥および/またはオーブン乾燥法の何れかによる生物学的物質を保存および/または保管するための現在のプロトコルは細胞を乾燥し、再構成の際に所望の機能を回復するのに十分ではない。直ちに認識できるように、当該技術分野で治療、診断および研究のための生物学的物質の保存寿命を延長させるような保存および/または保管の代替法のニーズが存在する。したがって、本発明は乾燥または半乾燥状態で細胞の構造および機能を保存するための生物学的物質を保存および/または保管する方法を提供する。これらの方法は再構成および再水和の際に全部または一部の機能を回復する細胞をもたらすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,150,991号
【特許文献2】米国特許第7,135,180号
【特許文献3】米国特許第7,094,601号
【特許文献4】米国特許第6,841,168号
【特許文献5】米国特許第6,723,497号
【特許文献6】米国特許第6,770,478号
【特許文献7】米国特許第5,827,741号
【特許文献8】米国特許第5,629,145号
【特許文献9】米国特許第6,528,309号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】DinnyesらのReprod.Fertil.Dev.,19,719〜31(2007年)
【非特許文献2】De SousaらのReproduction,132,681〜9(2006年)
【非特許文献3】BakalaらのPol.J.Vet.Sci.,10,11〜8(2007年)
【非特許文献4】PuhlevらのCryobiology,2001,42,207〜17(年)
【非特許文献5】MaらのCryobiology,51,15〜28(2005年)
【非特許文献6】MatsuoのBr.J.Ophthalmol,85,610〜2(2001年)
【非特許文献7】McGinnisらのBiol.Reprod.,73,627〜33(2005年)
【非特許文献8】GordonらのCryobiology,43,182〜7(2001年)
【非特許文献9】BhowmickらのBiol.Reprod.,68,1779〜86(2003年)
【非特許文献10】MeyersのReprod.Fertil.Dev.,18,1〜5(2006年)
【非特許文献11】ChenらのCryobiology,43,168〜81(2001年)
【非特許文献12】WolkersらのCryobiology,42,79〜87(2001年)
【非特許文献13】CroweらのArch.Biochem.Biophys.,220,477〜84(1983年)
【非特許文献14】ChenらのCryobiology,30,423〜31(1993年)
【非特許文献15】KoebeらのChem. Biol.Interact.,121,99〜115(1999年)
【非特許文献16】IshiguroらのCryobiology,31,483〜500(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は1つまたはそれ以上の生物学的物質;1つまたはそれ以上の膜透過性糖類;および1つまたはそれ以上の膜非透過性糖類を含み、ここで組成物の含水量が約5%〜約95%である組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
幾つかの実施態様において、生物学的物質は細胞である。幾つかの実施態様において、細胞は無核である。幾つかの実施態様において、無核細胞は血小板または赤血球である。幾つかの実施態様において、細胞は有核である。幾つかの実施態様において、有核細胞は白血球、幹細胞、幹細胞前駆細胞、配偶子、配偶子前駆細胞、肝細胞、筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、赤芽球、白芽球、軟骨芽細胞、膵臓細胞または他の有核細胞である。幾つかの実施態様において、生物学的物質はウイルス、タンパク質、核酸、炭水化物または脂質である。幾つかの実施態様において、膜透過性糖類はトレハロースである。幾つかの実施態様において、膜非透過性糖類はデキストランである。幾つかの実施態様において、膜非透過性糖類は2以上の糖の組合せ(例えばデキストランと50,000ダルトン以上の分子量を有する他の糖類との混合物)である。
【0010】
幾つかの実施態様において、含水量は約15%〜約40%である。幾つかの実施態様において、含水量は約20%〜約25%である。幾つかの実施態様において、含水量は約55%〜約60%である。幾つかの実施態様において、含水量は約60%〜約95%である。
【0011】
幾つかの実施態様において、生物学的物質は血小板であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約15%である。幾つかの実施態様において、生物学的物質は赤血球であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約25%である。幾つかの実施態様において、生物学的物質は白血球であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約50%である。したがって、細胞の種類に依存して、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類は、単独でまたは50,000ダルトン以上の分子量を有する1つまたは複数の他の糖類と組合せたデキストランであり、そして含水量は約15%〜約90%である。
【0012】
本発明はまた、生物学的物質を少なくとも1つの膜透過性糖類および少なくとも1つの膜非透過性糖類と接触させ;場合により生物学的物質を固定剤と接触させ;そして生物学的物質を真空乾燥により最終含水量が約5%〜約95%に乾燥することを含む生物学的物質を保存する方法を提供する。
【0013】
幾つかの実施態様において、生物学的物質は細胞である。幾つかの実施態様において、細胞は無核である。幾つかの実施態様において、無核細胞は血小板または赤血球である。幾つかの実施態様において、細胞は有核である。幾つかの実施態様において、有核細胞は白血球、幹細胞、幹細胞前駆細胞、配偶子、配偶子前駆細胞、肝細胞、筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、赤芽球、白芽球、軟骨芽細胞、膵臓細胞または他の有核細胞である。幾つかの実施態様において、生物学的物質はウイルス、タンパク質、核酸、炭水化物または脂質である。
【0014】
幾つかの実施態様において、膜透過性糖類はトレハロースである。幾つかの実施態様において、膜非透過性糖類はデキストランである。
【0015】
幾つかの実施態様において、含水量は約15%〜約40%である。幾つかの実施態様において、含水量は約20%〜約25%である。
【0016】
幾つかの実施態様において、固定剤はグルタルアルデヒドまたはパラアルデヒドである。
【0017】
幾つかの実施態様において、生物学的物質は真空乾燥により約0℃〜約40℃で約1時間〜約24時間乾燥される。幾つかの実施態様において、生物学的物質は真空乾燥により約32℃〜約34℃で約3時間乾燥される。
【0018】
幾つかの実施態様において、本法はさらに生物学的物質を真空密封容器中、乾燥剤の存在下または不存在下で保存することを含む。幾つかの実施態様において、本法はさらに生物学的物質を再水和させることを含む。幾つかの実施態様において、再水和は生物学的物質を水、次に生理食塩水と接触させることを含む。
【0019】
幾つかの実施態様において、生物学的物質は血小板であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約15%である。幾つかの実施態様において、生物学的物質は赤血球であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約25%である。幾つかの実施態様において、生物学的物質は白血球であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約50%である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】典型的な乾燥工程の模式図を示す。
【図2】乾燥形態で細胞を安定化するための糖取り込みおよび水和工程の模式図を示す。
【図3】新鮮血液細胞と比較した、乾燥した赤血球の水和を示す図であり、両方のパネルの細胞は両凹構造を維持する。
【図4】新鮮血小板と比較した、凍結乾燥(FD血小板)および乾燥(Des血小板)法を使用する血小板粒径プロファイルを示すグラフである。
【図5】トリパンブルーで染色して有核細胞が再構成の際に細胞膜完全性を維持していることを示す図である。
【0021】
本発明は、生物学的物質を別々に、一緒に、または組合せて、乾燥式でまたは半乾燥式で保存および/または保管する方法を提供する。本発明はまた、乾燥状態の生物学的物質を含有する組成物を提供する。
【0022】
本明細書で使用される「生物学的物質」なる用語は細胞および/または生体分子を意味する。
本明細書で使用される「細胞」なる用語は有核細胞(すなわち1個またはそれ以上の核を含有する細胞)または無核細胞(すなわち血小板および赤血球;核を持たない細胞)を意味する。細胞は、個々の細胞、1つまたは複数の組織および/または1つまたは複数の器官の形態であってよい。細胞は任意の器官から誘導されるものであってよい。乾燥する同一試料中に異なる細胞が存在してもよい。さらに、細胞は例えば細胞株およびハイブリドーマのように人間により改変されていてもよい。細胞には動物細胞および/または植物細胞が含まれる。
【0023】
本明細書で使用される「生体分子」なる用語は、任意のタンパク質、核酸、炭水化物、脂質、または他の体液/生体液中で産生するまたは自由に存在する他のこのような分子を意味する。生体分子は単独で、または他の生体分子および/または細胞、例えば血漿産物(すなわち血液細胞、生体分子および塩)、組織および/または器官、例えば内皮細胞、平滑筋細胞および他のタイプの細胞の組合せを含有する血管床と組合せて存在することができる。また、生体分子には例えば抗体およびペプチド、または例えばタンパク質、ペプチドおよび血漿中の他の生物学的有機分子のような生体分子の組成物が含まれる。
【0024】
本発明は、1つまたはそれ以上の生物学的物質;1つまたはそれ以上の膜透過性糖類;および1つまたはそれ以上の膜非透過性糖類を含有し、組成物の含水量は約5%〜約95%である組成物を提供する。
【0025】
幾つかの実施態様において、生物学的物質は細胞である。幾つかの実施態様において、細胞は無核である。無核細胞の例は血小板および赤血球であるが、これらに限定されない。幾つかの実施態様において、無核細胞は約1×103細胞/mL〜約1×1010細胞/mLで存在する。幾つかの実施態様において、無核細胞は約1×109細胞/mLで存在する。
【0026】
幾つかの実施態様において、細胞は有核である。有核細胞の例には、白血球(すなわちT細胞、B細胞、マクロファージ、好中球、リンパ球など)、幹細胞(すなわち成人および/または新生児の、様々な組織または種起源)、幹細胞前駆細胞、配偶子(雄および/または雌)、配偶子前駆細胞、および限定されないが様々な肝細胞、様々な腎細胞、様々な神経細胞、様々な心臓細胞、筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、様々な皮膚細胞、軟骨細胞、赤芽球、白芽球、軟骨芽細胞、膵臓細胞などを含む器官由来の細胞が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施態様において、細胞は例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、3T3線維芽細胞、HEK細胞などのような細胞株である。幾つかの実施態様において、有核細胞は島細胞または臍帯血細胞である。幾つかの実施態様において、有核細胞はヒトの静脈、動脈または毛細血管の内皮細胞などである。本発明で使用される細胞は、限定されないが、爬虫類、両生類、鳥類、魚類、哺乳類などを含む動物から得られ、またはそれらに由来する。哺乳動物はヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ウサギ、ヤギなどであるが、これらに限定されない。本明細書で開示される組成物は、例えばヒト医学および獣医学の両方の応用、並びに研究エンデバーに使用することができる。幾つかの実施態様において、有核細胞は約1×103細胞/mL〜約1×1010細胞/mLで存在する。幾つかの実施態様において、無核細胞は約1×107細胞/mLで存在する。
【0027】
幾つかの実施態様において、生物学的物質はウイルス、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、またはそれらの組合せである。幾つかの実施態様において、生物学的物質は抗体またはペプチドである。幾つかの実施態様において、生物学的物質は抗生物質、ホルモン、酵素、凝固因子等である。幾つかの実施態様において、生物学的物質は約0.001mg/mL〜約50mg/mLで存在する。幾つかの実施態様において、生物学的物質は約5mg/mLで存在する。
【0028】
幾つかの実施態様において、膜透過性糖類は、膜結合、および遊離の細胞質酵素系および他の重大な細胞代謝系および経路を保護するための、トレハロース、グルコース、スクロース、ラクトース、マルトース、他のミコース類などから選択される。さらに、そのような処理は、水除去の際の細胞の体積および形状の変化、細胞質の凝縮および密集、膜相転移、DNAスーパーコイル形成の減損、酸化損傷および代謝停止を確実に最小限に抑えるのを補助する。幾つかの実施態様において、膜透過性糖類はトレハロースである。膜透過性糖類は一般に非還元糖である。そのような糖は本発明で開示される乾燥工程で細胞を安定化するように作用し得る。幾つかの実施態様において、膜透過性糖類は、他の糖類、タンパク質、ポリマーおよび同様に機能する作用物質に置き換えることができる。幾つかの実施態様において、膜透過性糖類は約0.1%w/v〜約12%w/vで存在する。幾つかの実施態様において、膜透過性糖類は約3%w/vで存在する。幾つかの実施態様において、トレハロースはウイルスベクターにより細胞に導入されない。幾つかの実施態様において、トレハロースを細胞に入れさせるために細胞に熱的衝撃を与えない。幾つかの実施態様において、トレハロースを細胞に入れさせるために細胞に浸透圧による衝撃を与えない。幾つかの実施態様において、トレハロースをグリセリンまたはマンニトールと組合せない。
【0029】
幾つかの実施態様において、膜非透過性糖類はデキストラン、スターチ、アミラーゼ、アミロペクチン、グリコーゲン、ポリスクロースなどから選択される。幾つかの実施態様において、膜非透過性糖類はデキストランである。一般的に、50,000ダルトンまたはそれ以上の分子量を有する糖類、例えば一般式Cn(H2O)n-1(式中、nは約200〜約2500である)または(C6105n(式中、nは約40〜約3000である)を有する多糖類を使用することができる。さらに、混合型の糖類、例えばキサンタンガム、グアーガム、スターチガム、ブリティッシュガムなどを膜非透過性糖類として使用することができる。膜非透過性糖類は一般に天然である。幾つかの実施態様において、膜非透過性糖類は他の糖類、タンパク質、ポリマーおよび同様に機能する作用物質に置き換えることができる。幾つかの実施態様において、膜非透過性糖類は血漿タンパク質、例えばアルブミン、可溶性スターチ、グリコーゲン、可溶性キチンおよび可溶性セルロースに置き換えることができる。幾つかの実施態様において、膜非透過性糖類は約0.01%w/v〜約25%w/vで存在する。幾つかの実施態様において、膜非透過性糖類は約3%w/vで存在する。
【0030】
幾つかの実施態様において、細胞または生体分子は、ポリオール(すなわち多価アルコール、例えばグリセリン)の不在下、少なくとも1つの膜非透過性糖類および少なくとも1つの膜透過性糖類で処理される。
【0031】
乾燥条件下または半乾燥条件下で細胞外環境を保護するために、提案することは、確実に細胞が減損状態において生存可能で、代謝的に適合でき、好ましい局所的な水和条件下で維持できるようにするため膜非透過性を使用することである。他の保護剤には、例えばタンパク質などや親水コロイドなどが含まれる。そのような処理/方法は内部および外部膜の両方を安定化することを目的としている。
【0032】
幾つかの実施態様において、本組成物はさらに“流動化剤”など、例えばグリセリンなどと最小量であるが有効量のω−3脂肪酸など(例えばEPA、ALAなど)の極めてマイルドな混合物を含む。膜の可撓性を維持するためには、グリセリンなどの使用は、目標が細胞を“透過”させるのではなく、むしろグリセリンなどとω−3脂肪酸の両方を細胞膜に組み込ませるために、細胞内に送達することにあるので、限定すべきである。さらなる流動化剤には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセリンおよび様々な界面活性剤、例えばツイーン−80が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施態様において、流動化剤は約1nM〜約200mMで存在する。幾つかの実施態様において、流動化剤は約10μM〜約50μMで存在する。
【0033】
幾つかの実施態様において、本組成物は、さらに固定剤、例えばアルデヒド官能基を有する架橋剤、例えばパラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、または2個の末端アルデヒド基を有する他の化合物を含む。固定剤は、対照試薬サイズ模擬体として細胞を使用するのに役立つ体積および形状のような物理的安定性を有する細胞をもたらし、また複数の装置技術にわたって均一性を与える。幾つかの実施態様において、固定剤は約0.01%〜約10%で存在する。幾つかの実施態様において、固定剤は約0.5%で存在する。
【0034】
幾つかの実施態様において、組成物の含水量は約5%〜約95%である。幾つかの実施態様において、含水量は約10%〜約90%である。幾つかの実施態様において、含水量は約15%〜約85%である。幾つかの実施態様において、含水量は約20%〜約80%である。幾つかの実施態様において、含水量は約25%〜約75%である。幾つかの実施態様において、含水量は約30%〜約70%である。幾つかの実施態様において、含水量は約35%〜約65%である。幾つかの実施態様において、含水量は約40%〜約60%である。幾つかの実施態様において、含水量は約45%〜約55%である。幾つかの実施態様において、含水量は約5%〜約30%である。幾つかの実施態様において、含水量は約5%〜約25%である。幾つかの実施態様において、含水量は約5%〜約20%である。幾つかの実施態様において、含水量は約5%〜約30%である。幾つかの実施態様において、含水量は約20%〜約25%または約15%〜約25%である。幾つかの実施態様において、含水量は約25%である。幾つかの実施態様において、含水量は約15%である。
【0035】
幾つかの実施態様において、血小板は残留水分が15%以上に乾燥される。幾つかの実施態様において、赤血球は残留水分が25%以上に乾燥される。幾つかの実施態様において、B細胞は残留水分が約50%〜90%以上に乾燥される。
【0036】
幾つかの実施態様において、生物学的物質は血小板であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約15%である。
【0037】
幾つかの実施態様において、生物学的物質は赤血球、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約25%である。
【0038】
幾つかの実施態様において、生物学的物質は白血球であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約50%である。幾つかの実施態様において、生物学的物質はタンパク質、ウイルスまたは血漿であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約5%〜約10%である。
【0039】
本発明はまた、生物学的物質を少なくとも1つの膜透過性糖類および少なくとも1つの膜非透過性糖類と接触させ;場合により生物学的物質を固定剤と接触させ;そして生物学的物質を真空乾燥により最終含水量が約5%〜約90%に乾燥することを含む生物学的物質を保存する方法を提供する(図1を参照)。
【0040】
保存される生物学的物質は、本明細書で開示される任意の細胞または生体分子であってよい。膜透過性糖類は、本明細書で開示される任意の膜透過性糖類であってよい。膜非透過性糖類は本明細書で開示される任意の膜非透過性糖類であってよい。固定剤は、本明細書で開示される任意の固定剤であってよい。含水量は本明細書で開示される任意の範囲または数値の含水量であってよい。
【0041】
一般的に、本法は細胞または生体分子を濃縮し、そして細胞または生体分子を膜透過性糖類および膜非透過性糖類で構成される脱水塩緩衝液に懸濁することを含む。さらに、乾燥工程の前に細胞を固定剤で固定して物理的安定性を与えることができる。次に、細胞/生体分子媒体組成物は、乾燥器を使用して乾燥される。
【0042】
幾つかの実施態様において、細胞は、適切な緩衝液で遠心および再懸濁の工程を通して洗浄される。膜透過性および膜非透過性糖類を細胞に加える。幾つかの実施態様において、プリン系ATP“サルベージ経路”(purine-based ATP“salvage pathway”)を介して細胞ATPを増加させるために、低濃度のアデノシンを加える。幾つかの実施態様において、細胞の酸素フリーラジカルを効果的に除去するためにスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を加える。幾つかの実施態様において、膜流動化剤、例えばグリセリンなどと最小量であるが有効量のω−3脂肪酸など(例えばEPA、ALAなど)の極めてマイルドな混合物を加える。幾つかの実施態様において、アデノシンは約1 nM〜約100mMで存在する。幾つかの実施態様において、アデノシンは約70μMで存在する。幾つかの実施態様において、SODは約1nM〜約5mMで存在する。幾つかの実施態様において、SODは約1μM〜約3μMで存在する。
【0043】
幾つかの実施態様において、細胞は真空乾燥により約0℃〜約40℃で乾燥される。幾つかの実施態様において、細胞または他の生物学的物質は約1時間〜約4時間、または約1時間〜約8時間、または約1時間〜約12時間、または約1時間〜約16時間乾燥される。幾つかの実施態様において、細胞は真空乾燥により約32℃〜約34℃で約3時間乾燥される。氷晶形成の発生を軽減するために、細胞の凍結および解凍を回避すべきである。水分子は大気圧付近(すなわち約760mmHg)または大気圧より減少した圧力(すなわち約760mmHg未満、または約560mmHg)で、約0℃〜約40℃で除去すべきである。水の除去速度は細胞の種類に応じて制御すべきである。水の除去速度は、細胞構造の全崩壊を引き起こすほど余りに早くすべきではなく、しかし細胞の完全性および代謝を損ない、乾燥工程を無にしかねないほど、細胞活性を促進するのに余りに遅くすべきではない。最終の水分量は、細胞の種類および最終使用に依存して約5%〜約95%である。
【0044】
そのような処理を受けることになる細胞は、真空乾燥または対流式オーブン乾燥のような乾燥工程を介して乾燥することができる。細胞は、窒素を充填して穏やかに加熱した湿度が5%未満の乾燥器を移し、組成物が特定利用のニーズにふさわしい水分レベルを含有するまである期間にわたって徐々に乾燥され得る。他の適切なガスには、ヘリウム、アルゴンまたはキセノンのような本質的に不活性なガスが含まれるが、それらに限定されない。工程の終了時またはその近辺で、ガスをチェンバーに導入して残留する遊離酸素を追い出すことができる。幾つかの実施態様において、工程は合理的に達成可能な限り低い周囲湿度(例えば約50%)で開始する。しかしながら、乾燥中に人工的な加湿は必要ではなく、真空乾燥器はチェンバーの湿度を非常に低く(すなわち約5%)維持する。幾つかの実施態様において、真空乾燥により乾燥チェンバーに酸素は存在しない。
【0045】
幾つかの実施態様において、本法はさらに細胞を真空密封容器中、乾燥剤の存在下または不存在下、そして窒素または他の不活性ガスの存在下または不存在下で保管することを含む。乾燥剤は当業者によく知られており、商業的に入手でき、その例としてシリカゲル、硫酸カルシウムおよび塩化カルシウムが挙げられるが、それらに限定されない。乾燥剤は、湿度の問題を軽減し、保管期間中に細胞により放出される水分および気体を吸収させるために含ませることができる。乾燥した細胞は真空下で保管して長期保管することができる(図2を参照)。幾つかの実施態様において、細胞または生体分子は再水和およびその後の使用の前に少なくとも7日間保管することができる。幾つかの実施態様において、細胞または生体分子は再水和およびその後の使用の前に少なくとも10日間保管することができる。幾つかの実施態様において、細胞または生体分子は再水和およびその後の使用の前に少なくとも14日間保管することができる。幾つかの実施態様において、細胞または生体分子は再水和およびその後の使用の前に少なくとも21日間保管することができる。幾つかの実施態様において、細胞または生体分子は再水和およびその後の使用の前に少なくとも28日間保管することができる。幾つかの実施態様において、細胞または生体分子は再水和およびその後の使用の前に少なくとも45日間保管することができる。幾つかの実施態様において、血小板および/または赤血球は45日間以上保管することができる。
【0046】
幾つかの実施態様において、本法はさらに細胞を再水和させることを含む。幾つかの実施態様において、再水和は細胞を水、場合により次に生理食塩水と接触させることを含む。幾つかの実施態様において、細胞に加えられる液体の体積は乾燥工程の前の組成物の液量に等しい。細胞および生体分子は上記の濃度に再水和させることができる。水、または水および生理食塩水の代りに、限定されないがHEPES、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、トリス緩衝液など、または他のそのような溶液を含む様々な生理学的緩衝液を使用することができる。
【0047】
再水和工程を行なうための時間および温度は、室温または最高で37℃の温度で、約5分間〜約200分間である。再構成の最適な時間および温度は、細胞の種類および最終の使用に依存することになり、使用者により決定され得る。幾つかの実施態様において、約22℃〜約37℃の温度を再水和に使用することができる。再水和時間は手順要因、予想される細胞またはタンパク質の性能、残留水分および乾燥した物質の容積に応じて変えることができる。幾つかの実施態様において、再水和の時間は、所望の使用の約1時間〜約24時間前である。
【0048】
幾つかの実施態様において、再水和した細胞の生存率は約10%以上、約20%以上、約25%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上または約99%以上である。
【0049】
幾つかの実施態様において、本法は血小板をトレハロースである少なくとも1つの膜透過性糖類およびデキストランである少なくとも1つの膜非透過性糖類と接触させ;場合により血小板をグルタルアルデヒドまたはパラアルデヒドである固定剤と接触させ;そして血小板を真空乾燥により最終含水量を約15%に乾燥することを含む血小板を保存する工程を含む。
【0050】
幾つかの実施態様において、本法は赤血球をトレハロースである少なくとも1つの膜透過性糖類およびデキストランである少なくとも1つの膜非透過性糖類と接触させ;場合により赤血球をグルタルアルデヒドまたはパラアルデヒドである固定剤と接触させ;そして赤血球を真空乾燥により最終含水量を約25%に乾燥することを含む赤血球を保存する工程を包む。
【0051】
幾つかの実施態様において、本法は白血球をトレハロースである少なくとも1つの膜透過性糖類およびデキストランである少なくとも1つの膜非透過性糖類と接触させ;場合により白血球をグルタルアルデヒドまたはパラアルデヒドである固定剤と接触させ;そして白血球を真空乾燥により最終含水量を約50%に乾燥することを含む白血球を保存する工程を含む。
【0052】
幾つかの実施態様において、本法はタンパク質、ウイルスまたは血漿をトレハロースである少なくとも1つの膜透過性糖類およびデキストランである少なくとも1つの膜非透過性糖類と接触させ;場合によりタンパク質、ウイルスまたは血漿をグルタルアルデヒドまたはパラアルデヒドである固定剤と接触させ;そしてタンパク質、ウイルスまたは血漿を真空乾燥により最終含水量を約5%〜約10%に乾燥することを含むタンパク質、ウイルスまたは血漿を保存する工程を含む。
【0053】
本発明はまた、本明細書で開示される生物学的物質を投与することを含む生物学的物質を必要とする動物を治療する方法を含む。幾つかの実施態様において、動物は血液疾患に罹っているヒトであり、それによってヒトは血液製品(すなわち全血、赤血球、血小板、血漿、1つまたは複数の凝固因子など)を必要としている。その必要性は、特定の生物学的物質を産生しない、またはその産生量が不十分である疾患、病態または障害を有するヒトから生じる。あるいは、その必要性は、傷害、例えば失血を特徴とする外傷から生じる。本明細書で開示される再水和した真空乾燥生物学的物質はそのような動物に投与することができる。適切な疾患、病態または障害と相関している任意の生物学的物質が必要とされる。典型的な疾患、病態または障害には貧血、失血および血友病があるが、それらに限定されない。
【0054】
本発明はまた、上記のような生物学的物質を必要とする動物を治療するための本明細書で開示される任意の組成物を提供する。本発明はまた、特定の生物学的物質と関連がある疾患、病態または障害を治療するための薬剤、例えば無菌薬剤の製造に使用するための本明細書で開示される生物学的物質を含む任意の組成物を提供する。一例として、薬剤はそれを必要とする患者を治療するための全血、赤血球、血小板、血漿、1つまたは複数の凝固因子などを含有する無菌組成物である。幾つかの実施態様において、再水和している真空乾燥細胞は、新鮮細胞と似た表面マーカープロファイル、例えば血小板表面マーカーを示す。
【0055】
2007年9月24日に出願された米国仮出願番号60/974,806はその全体が参照により本明細書に加入される。本明細書で開示される本発明がより効果的に理解されるように、実施例を下記に示す。当然ながら、これらの実施例は単に例示のためのものであり、本発明を限定するものとして解釈すべきではない。これらの実施例全体を通して、分子クローニング反応および他の標準的な組換えDNA技術は、特に断りがないかぎり、商業的に入手できる試薬を使用して既知方法に従って行なった。
【実施例】
【0056】
〔実施例1〕赤血球(RBC)の乾燥
全血から赤血球を単離し、洗浄する工程は当該技術分野でよく知られている。したがって、多くの方法を使用して洗浄赤血球を生成し、それらを本明細書で開示される乾燥工程に付すために調製することができる。下記はどのようにして本工程が典型的に行なわれるかの一実施例として資することが意図されている。
血液はクエン酸ナトリウム、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのような抗凝固剤を使用して無菌的に得た。10mLアリコートの全血を15mLの円錐チューブに入れ、次に100gで30分間遠心して多血小板血漿を取り出した。
RBCを洗浄するために、全血中RBC容積を測定し、最低その3倍量の生理食塩水(0.9%NaCl)を加えた。例えば、血中RBC容積が1mLである場合、最低3mLの生理食塩水を加えた。チューブを数回反転させることにより細胞を懸濁した。100gでさらに30分間遠心を行なった。その生理食塩水上清を除去し、捨て、洗浄工程を再び繰り返した。
RBCの乾燥準備品を得るために、濃縮脱水緩衝液(cDHB)を新しく調製した。cDHBを作るために、100mMのHEPESを含有する生理食塩水溶液(0.9%NaCl)を使用し、それに200μMのアデノシン、100mMのグルコース、10mMのK2HPO4、10%デキストラン−70および12%トレハロースを加えた。全血中RBC容積を測定し、4倍して、最終所望容量を得た。最終容量は生理食塩水を2/4容で、及びcDHBを1/4容で加えることにより得た。最後の1/4容は細胞ペレットである。例えば、血中RBC容積が1mLである場合、最終容量は4mLとなる。この容量とするために、2mLの生理食塩水および1mLのcDHBを加えた。チューブを数回反転させることにより細胞を再懸濁した。RBCを緩衝液中、32℃〜37℃で1時間、あるいは4℃で24時間または最長で48時間インキュベートした。
RBCを乾燥するために、空の容器の質量(風袋質量)を測定した。一般的に、細胞およびタンパク質に反応しない任意の材料で作られたバイアルが、この目的のために使用することができる。1mLのRBC溶液を乾燥するために、10mL容量の背の高いバイアルを使用することができる。これは真空環境下でバイアルの壁を上る溶液の“ウィッキング”を考慮してのことである。例えば、RBC溶液の1mLアリコートをバイアルに入れ、次いでそれを再び秤量した(脱水前の質量)。脱水チェンバーの温度を32℃〜37℃に調整し、RBC溶液のアリコートを−560mmHgの開放系で90分以上真空脱水した。最終含水量は約15%であった。
次の式に従って含水量(%)は計算される:
含水量(%)=[(脱水後のバイアルの質量−空のバイアルの質量)/(脱水前のバイアルの質量−空のバイアルの質量)]×100%
【0057】
〔実施例2〕固定剤を使用する赤血球(RBC)の乾燥
RBCは、実施例1に記載のように処理して調製した。血中RBC容積を測定し、この容量を4倍して最終容量とした(上記実施例1に記載のようにして)。最終容量は生理食塩水を2/4容で、及び固定剤緩衝液を1/4容で加えることにより得た。例えば、血中RBC容積が1mLである場合、最終容量は4mLである。この容量とするために、2mLの生理食塩水および1mLの固定剤緩衝液を加えた。チューブを数回反転させることにより細胞を懸濁した。RBCを固定剤緩衝液中、34℃で1時間、または4℃で24時間もの長時間インキュベートした。
固定剤を使用して固定剤緩衝液を調製するために、固定剤の最終濃度が0.5%になるように固定剤をcDHBに加えた。使用前に固定剤緩衝液を冷所で4℃に少なくとも30分間保管した。
固定剤を使用するRBCの乾燥のために、細胞を100gで30分間遠心して固定剤緩衝液を除去した。血中RBC容積を測定し、4倍して最終容量とした。最終容量は生理食塩水を2/4容で、及びcDHBを1/4容で加えることにより得た。例えば、血中RBC容積が1mLである場合、最終容量は4mLである。この容量とするために、2mLの生理食塩水および1mLのcDHBを加えた。チューブを数回反転させることにより細胞を懸濁した。
RBCを上記実施例1に記載のようにして乾燥した。
バイアルを真空下および/または窒素ガス下で密封した。試料は、適切なガスと共に、ならびに保存中細胞により放出される水分または気体を調節および吸収する乾燥剤を入れて真空下でパックした。乾燥したRBCバイアルを4℃または室温で保管した。
最終含水量に依存するが、一般的には0.75mLの水を再構成に使用した。推奨量の蒸留水をピペットで穏やかにバイアルの壁面に移し、重力により乾燥した細胞と接触させた。再構成のための時間および温度は、室温または最高で37℃の温度で、5分〜200分の範囲であった。所望の再構成の時間および温度は、細胞の種類および最終使用に依存することになる。一般的に、再構成したバイアルは、15分毎に穏やかに回転させながら平面上で2時間放置して細胞を再水和させた。図3は新鮮赤血球と乾燥後に再構成した同じ細胞の典型的な構造の外観を示す。再構成した細胞は機能性赤血球の特徴であるよく知られている両凹形状を維持した。
【0058】
〔実施例3〕多血小板血漿(PRP)の乾燥
全血由来のPRPの単離工程は当該技術分野でよく知られている。したがって、乾燥工程に付すために多くの方法を使用してPRPを生成し、調製することができる。下記はどのようにして本工程が典型的に行なわれるかの一実施例として資することが意図されている。
血液はクエン酸ナトリウム、ヘパリン、EDTAなどのような抗凝固剤を使用して無菌的に得た。10mLアリコートの全血を15mLの円錐チューブに入れた。全血を100gで30分間遠心して白血球および赤血球からPRPを分離した。血液細胞を含有する遠心分離チューブからPRPを赤血球または白血球を含まない新しいチューブにデカントした。cDHBを実施例1に記載のようにして調製した。全PRP容積を測定し、cDHBとして細胞1/4容を加えた。
例えば、PRP容積が4mLである場合、1mLのcDHBを加え、次いで試験チューブを数回反転させることにより混合した。PRP溶液を10分毎に混合しながら34℃で1時間インキュベートした。
PRPを乾燥するために、空の容器の質量(風袋質量)を測定した。また、細胞およびタンパク質に反応しない任意の材料で作られたバイアルをこの目的のために使用した。1mLのPRP溶液を乾燥するために、10mL容量のバイアルを使用した。例えば、PRP溶液の1mLアリコートをバイアルに入れ、それを秤量した(脱水前の質量)。脱水チェンバーの温度を32℃〜37℃に調整し、−560mmHgの開放系で90分間以上真空脱水した。最終含水量は約15%であった。実施例1の式を使用して最終含水量(%)を計算した。
図4は新鮮PRP(新鮮血小板とラベルを貼った)、および乾燥(Des血小板)または凍結乾燥(FD血小板)後に再構成した同じ細胞の典型的な粒径分布を示す。見てわかるように、本発明工程を使用して乾燥した血小板の粒径分布は新鮮血小板のものと類似していたが、一方凍結乾燥した血小板の粒度分布は、断片化した血小板、および新鮮血小板と比較した場合かなり小さい血小板を含んでいた。
【0059】
〔実施例4〕固定剤を使用する血小板の乾燥
実施例3に記載のようにしてPRPを処理して調製した。cDHBを実施例1に記載のようにして調製した。全PRP容積を実施例3に記載のようにして測定し、cDHBを1/5容で加えた。例えば、PRPの最終容量が4mLである場合、1mLのcDHBを加え、試験管を数回反転させることにより混合した。PRP溶液を10分毎に混合しながら34℃で1時間インキュベートした。
PRPを固定するために、グルタルアルデヒドを加えて0.01%の最終濃度とし、そのPRPを10分毎に混合しながら34℃で1時間インキュベートした。次に、PRPを実施例3に記載のようにして乾燥した。
バイアルを真空下および/または窒素ガス下で密封した。試料は、適切なガスと共に、ならびに保存中細胞により放出される水分または気体を調節および吸収する乾燥剤を入れて真空下でパックした。乾燥したPRPバイアルを4℃または室温で保管した。
最終含水量に依存するが、一般的には0.85mLの水を再構成に使用した。推奨量の蒸留水をピペットで穏やかにバイアルの壁面に移し、重力により乾燥した細胞と接触させた。再構成のための時間および温度は、室温または最高で37℃の温度で、5分〜400分の範囲であり得る。一般的に、再構成したバイアルは15分毎に穏やかに回転させながら平面上で2時間放置して細胞を再水和させた。
【0060】
〔実施例5〕非接着性有核細胞の乾燥
もともと非接着性である細胞にはB−細胞、または結合表面から細胞を分離するEDTAまたはトリプシンのような物質で処理された細胞がある。典型的な細胞の種類には幹細胞(成人および新生児の、様々な組織または種起源)、幹細胞前駆細胞、配偶子(雄および雌)、配偶子前駆細胞、内皮細胞、赤芽球、白芽球、軟骨芽細胞、肝細胞などがあるが、それらに限定されない。本実施例において、B−細胞および幹細胞を遠心工程により洗浄し、新鮮な培地に懸濁した。膜透過性糖類、例えば非還元糖トレハロース(5〜250mM)を細胞培地に加えた。また、代りに、リソソーム膜安定剤、例えばコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム=ソル・メドロール(Solu−Medrol)(10μM)を細胞培地に加えた。また、代りに、膜の“流動化剤”、例えばグリセリン(0.1μM〜20mM)と、最小量であるが有効量のω−3脂肪酸(0.1〜10μM)のマイルドな混合物を細胞培地に加えた。細胞を37℃で一晩インキュベートした。
本実施例の緩衝液は20〜60mMのNaCl、1〜5mMのK2HPO4、70μMのアデノシンおよび2〜5mMのグルコースのような塩成分を含む0.1MのHEPESである。また、5〜250mMのトレハロースを緩衝液に加え、さらに膜非透過性糖類、例えば0.1〜5w/v%の中性デキストラン70(分子量70キロダルトン)を緩衝液に加えた。また、代りに、細胞の容積、粒径および形状を安定させるために0.1〜0.5%のグルタルアルデヒドのような固定剤をその工程に加えた。細胞を乾燥前に37℃で1時間インキュベートした。細胞を遠心工程を通して、5〜250mMのトレハロースおよび0.1〜5w/v%の中性デキストラン70を含有する培地で洗浄した。1,000細胞/mL〜100,000,000細胞/mLの濃度で細胞を緩衝液に懸濁した。
細胞を50μL〜1000μLの容量のcDHBに、または乾燥するのに適した任意の容量および濃度で懸濁した。細胞を5%以下の相対湿度で乾燥器に移し、35〜45℃に加熱した。乾燥器を窒素ガスでフラッシュし、乾燥工程の間中、窒素ガス下で維持した。脱水速度を水分の蒸発が約0.1〜100.0μL/分になるように調節した。脱水速度は細胞の種類に応じてより速めまたはより遅めであってよい。乾燥した細胞中の水分の相対的レベルが再構成の際の細胞が機能するのに適していた場合、その乾燥工程は完全であるとした。細胞の残留水分は5%〜95%である。乾燥した細胞はその水分レベルが5%〜20%の細胞であるが、一方半乾燥細胞は、20%より高い水分レベルの細胞である。
細胞を真空下、さらに場合により窒素ガス下で密封した。試料は、適切なガスと共に、ならびに保存中細胞により放出される水分および/または気体を調節および吸収する乾燥剤を入れて真空下でパックした。乾燥した細胞を4℃または室温で保管した。
最終含水量に依存するが、一般的には0.75mLの水を再構成に使用した。推奨量の蒸留水をピペットで穏やかにバイアルの壁面に移し、重力により乾燥した細胞と接触させた。再構成のための時間および温度は、室温または最高で37℃の温度で、5分〜200分の範囲であり得る。再構成の最適な時間および温度は細胞の種類および最終使用に依存することになる。一般的に、再構成したバイアルは15分毎に穏やかに回転させながら平面上で2時間放置して細胞を再水和させた。図5は新鮮細胞および再構成した細胞の顕微鏡画像を示す。見てわかるように、本発明工程を使用して乾燥した細胞の粒径分布は新鮮細胞のものと類似していた。さらに、細胞は、青色色素取り込みの不足により指示されるように、生存していた。
【0061】
〔実施例6〕接着性有核細胞の乾燥
典型的な細胞の種類には幹細胞(成人および新生児の、様々な組織または種起源)、幹細胞前駆細胞、配偶子前駆細胞、内皮細胞、赤芽球、白芽球、軟骨芽細胞、肝細胞などがある。本実施例において、内皮細胞を、細胞が結合しおよび適当な密度に増殖することを可能にする適切な容器中で成長させた。次に、5〜250mMのトレハロースを細胞培地に加え、細胞を37℃で一晩インキュベートした。
培地を結合した細胞から吸引し、乾燥緩衝液(例えば20〜60mMのNaCl、1〜5mMのK2HPO4、70μMのアデノシンおよび2〜5mMのグルコースのような塩成分を含む0.1MのHEPES)を加えた。また、5〜250mMのトレハロースを緩衝液に加え、0.1〜5w/v%の中性デキストラン70を緩衝液に加えた。別法として、細胞の容積、粒径および形状を安定させるために0.1〜0.5%のグルタルアルデヒドのような固定剤をその工程に加えることができる。細胞を乾燥前に37℃で1時間インキュベートした。
緩衝液を吸引し、5〜250mMのトレハロースおよび0.1〜5質量%の中性デキストラン70を含有する細胞培地を加えた。細胞を5%以下の相対湿度で乾燥器に移し、35〜45℃に加熱した。乾燥器を窒素ガスでフラッシュし、乾燥工程の間中、窒素ガス下で維持した。脱水速度を水分の蒸発が約0.1〜100.0μL/分になるように調節した。脱水速度は細胞の種類に応じてより速めまたはより遅めであってよい。乾燥した細胞中の水分の相対的レベルが再構成の際の細胞が機能するのに適していた場合、その乾燥工程は完全であるとした。細胞の残留水分は約5%〜約95%である。乾燥した細胞はその水分レベルが5〜20%の細胞であるが、半乾燥細胞は、水分レベルが20%〜95%の細胞である。
細胞を真空下および/または窒素ガス下で密封した。試料は適切なガスと共に、ならびに保存中細胞により放出される水分または気体を調節および吸収する乾燥剤を入れて真空下でパックした。乾燥した細胞を4℃または室温で保管した。
最終含水量に依存するが、一般には0.75mLの水を再構成に使用した。推奨量の蒸留水をピペットで穏やかに容器の壁面に移し、重力により乾燥した細胞と接触させた。再構成のための時間および温度は、室温または最高で37℃の温度で、約5分〜約200分の範囲である。再構成の最適な時間および温度は細胞の種類および最終使用に依存することになる。一般的に、再構成した細胞は15分毎に穏やかに回転させながら平面上で2時間放置して細胞を再水和させた。
【0062】
〔実施例7〕タンパク質、核酸およびウイルス(高分子)の乾燥
本実施例において、様々な血漿タンパク質、ウイルスおよび複合タンパク質を試験している。高分子の乾燥は、トレハロース(5〜250mM)および中性デキストラン−70(1%〜6%w/v)を、最終使用者によって高分子について規定される緩衝液に加えることにより行なった。使用される緩衝液は最終使用者により決定され、生理食塩水またはPBSのような任意の所望の緩衝液であってよい。高分子を乾燥するために、空の容器の質量(風袋質量)を測定した。一般的に、細胞およびタンパク質に反応しない任意の材料で作られたバイアルをこの目的のために使用した。1mLの高分子溶液を乾燥するために、10mL容量のバイアルを使用した。例えば、高分子溶液の1mLアリコートをバイアルに入れ、そのバイアルを再び秤量した(脱水前の質量)。脱水チェンバーの温度を32℃〜37℃に調整し、−560mmHgの開放系で90分間以上真空脱水した。最終含水量は約5%〜15%であった。
バイアルに蓋をかぶせ、窒素雰囲気下で真空下で密封した。バイアルを4℃または周囲温度で保存した。推奨量の蒸留水をピペットで穏やかにバイアルの壁面に移し、重力により乾燥した細胞と接触させた。一般的に、0.85〜0.05mLの水を再構成に使用した。再構成したバイアルを頻繁に混合しながら34℃で30分間放置した。
【0063】
〔実施例8〕固定剤と一緒のおよび固定剤なしの全血の乾燥
全血容積を測定し、計算された最終容量の1/5容をcDHBとして加えた。cDHBを作るために、100mMのHEPESを含有する生理食塩水溶液(0.9%NaCl)を使用した。この溶液に、100mMのグルコース、10mMのK2HPO4、10%w/vデキストラン−70および12%w/vトレハロースを加えた。
全血溶液を10分毎に混合しながら34℃で1時間インキュベートした。代りに、全血を固定するために、グルタルアルデヒドを加えて0.1%の最終濃度とし、全血を10分毎に混合しながら34℃で1時間インキュベートした。全血を乾燥するために、空の容器の質量(風袋質量)を測定した。一般的に、細胞およびタンパク質に反応しない任意の材料で作られたバイアルをこの目的のために使用した。1mLの全血溶液を乾燥するために、10mL容量のバイアルを使用した。例えば、全血溶液の試料1mLをバイアルに入れ、バイアルの質量を再び秤量した(脱水前の質量)。脱水チェンバーの温度を32℃〜37℃に調整し、−560mmHgの開放系で90分間以上真空脱水した。最終含水量は約25%であった。
【0064】
本明細書で開示されたものの他に本発明の様々な改変は前記説明から当業者に明らかであろう。そのような改変もまた、添付した特許請求の範囲内であるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたはそれ以上の生物学的物質;1つまたはそれ以上の膜透過性糖類;および1つまたはそれ以上の膜非透過性糖類を含み、ここで組成物の含水量が約5%〜約95%である組成物。
【請求項2】
生物学的物質は細胞である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
細胞は無核である請求項2記載の組成物。
【請求項4】
無核細胞は血小板または赤血球である請求項3記載の組成物。
【請求項5】
細胞は有核である請求項2記載の組成物。
【請求項6】
有核細胞は白血球、幹細胞、幹細胞前駆細胞、配偶子、配偶子前駆細胞、肝細胞、筋細胞、腎細胞、内皮細胞、上皮細胞、赤芽球、白芽球、軟骨芽細胞または膵臓細胞である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
生物学的物質はタンパク質、ウイルス、核酸、炭水化物または脂質である請求項1記載の組成物。
【請求項8】
膜透過性糖類はトレハロースである請求項1〜7の何れか一項記載の組成物。
【請求項9】
膜非透過性糖類はデキストランである請求項1〜8の何れか一項記載の組成物。
【請求項10】
含水量は約15%〜約40%である請求項1〜9の何れか一項記載の組成物。
【請求項11】
含水量は約20%〜約25%である請求項1〜9の何れか一項記載の組成物。
【請求項12】
生物学的物質は血小板であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約15%である請求項1記載の組成物。
【請求項13】
生物学的物質は赤血球であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約25%である請求項1記載の組成物。
【請求項14】
生物学的物質は白血球であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約50%である請求項1記載の組成物。
【請求項15】
生物学的物質を少なくとも1つの膜透過性糖類および少なくとも1つの膜非透過性糖類と接触させ;場合により生物学的物質を固定剤と接触させ;そして生物学的物質を真空乾燥により最終含水量を約5%〜約90%に乾燥することを含む生物学的物質を保存する方法。
【請求項16】
生物学的物質は細胞である請求項15記載の方法。
【請求項17】
細胞は無核である請求項16記載の方法。
【請求項18】
無核細胞は血小板または赤血球である請求項17記載の方法。
【請求項19】
細胞は有核である請求項16記載の方法。
【請求項20】
有核細胞は白血球、幹細胞、幹細胞前駆細胞、配偶子、配偶子前駆細胞、肝細胞、筋細胞、腎細胞、内皮細胞、上皮細胞、赤芽球、白芽球、軟骨芽細胞または膵臓細胞である請求項19記載の方法。
【請求項21】
生物学的物質はタンパク質、ウイルス、核酸、炭水化物または脂質である請求項15記載の方法。
【請求項22】
膜透過性糖類はトレハロースである請求項15〜21の何れか一項記載の方法。
【請求項23】
膜非透過性糖類はデキストランである請求項15〜22の何れか一項記載の方法。
【請求項24】
含水量は約15%〜約40%である請求項15〜23の何れか一項記載の方法。
【請求項25】
含水量は約20%〜約25%である請求項15〜23の何れか一項記載の方法。
【請求項26】
固定剤はグルタルアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドである請求項15〜25の何れか一項記載の方法。
【請求項27】
生物学的物質は真空乾燥により約0℃〜約40℃の範囲の温度で約1時間〜約4時間乾燥される請求項15〜26の何れか一項記載の方法。
【請求項28】
生物学的物質は真空乾燥により約32℃〜約34℃の範囲の温度で約3時間乾燥される請求項15〜26の何れか一項記載の方法。
【請求項29】
さらに生物学的物質を真空密封容器中、乾燥剤の存在下または不存在下で保存することを含む請求項15〜28の何れか一項記載の方法。
【請求項30】
さらに生物学的物質を再水和させることを含む請求項15〜29の何れか一項記載の方法。
【請求項31】
再水和は生物学的物質を水、場合により次に生理食塩水と接触させることを含む請求項30記載の方法。
【請求項32】
生物学的物質は血小板であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約15%である請求項15記載の方法。
【請求項33】
生物学的物質は赤血球であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約25%である請求項15記載の方法。
【請求項34】
生物学的物質は白血球であり、膜透過性糖類はトレハロースであり、膜非透過性糖類はデキストランであり、そして含水量は約50%である請求項15記載の方法。
【請求項35】
生物学的物質を必要とする動物を治療するための乾燥した生物学的物質を含む組成物の使用。
【請求項36】
生物学的物質と関連がある疾患、病態または障害を治療する薬剤の製造に使用するための乾燥した生物学的物質を含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−540456(P2010−540456A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526056(P2010−526056)
【出願日】平成20年9月23日(2008.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/077302
【国際公開番号】WO2009/042560
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(510079374)ヘメミクス・バイオテクノロジーズ・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】