説明

亀裂のない耐食の硬質クロム及びクロム合金層の堆積方法

【課題】本発明は電解質成分と同様に、基板上にクロム・ベアリング電解質から機能的なクロム層を堆積するための方法に関するものである。
【解決手段】本発明による電解質成分はスルホ酢酸から構成される。本発明による方法は、電流密度が約20から約150A/dmの間で、電流効率が30%より高い状態で行う事ができ、800HV0.1より高い硬度と、200時間を超えて耐食を示す層が堆積される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、亀裂のない耐食の硬質クロムもしくはクロム合金層と、それを堆積する電解質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気めっき方法による表面のコーティングは、数十年に渡って表面処理の分野で何より重要なものであった。ここで、基板表面のコーティングは、硬度、磨耗性もしくは耐食性に関して表面性質の改善になり、また、純粋に基板の装飾的な外見をより魅力的なものにするための美的本質になり得るものである。
【0003】
クロム・ベアリング電解質によるクロムめっき面が、長期間に渡って周知であった。使用する電解質とプロセス・パラメータにより、堆積したクロム層は硬度、耐食性、及び光沢に関して非常に異なった性質を示す。
【0004】
例えば、ベースメタル上にクロム層を堆積するための硫酸イオンベアリング触媒を示す、酸化クロム(VI)ベアリング電解質成分の使用が周知である。堆積は50−70℃の範囲の温度で、電気めっきにより実現される。ここで使用される電流密度は、通常30−50A/dmに設定される。周知の派生電流効率は12−16%になる。
【0005】
ドイツ特許第4302564号に開示してあるように、フッ化物イオンとアルカン・スルホン酸を追加すれば、電流効率は26%まで増加する。
【0006】
一般的に、堆積したクロム層の性質は、特に、堆積が行われた際の堆積速度、使用した電流密度及び温度により異なってくる。ここで、個々のパラメータがそれぞれ影響を及ぼす。すなわち、例えば硫酸ベアリング電解質から、30℃の時に2−8A/dmの範囲の電流密度において光沢クロム層を堆積する事で知られ、40℃の時に3−18A/dmの範囲の電流密度で、また50℃の時にはさらに6−28A/dmの範囲の電流密度において、光沢層が同程度の電解質で得られる。しかしながら、温度30℃前後で、2A/dmに満たない範囲でマット・クロム層の堆積が可能である。温度により、マット層を堆積する電流密度は6A/dmまで増加する。Enthone Inc.社のANKOR(登録商標)1141の例のように、熱クロム処理は周知のもので、700HV0.1の堆積層の取得硬度に対し、70℃の時に10%の電流密度でなければならないものである。この方法では、電流密度の増加は、これらの層の機械的処理と同様、亀裂形成を引き起こす。
【0007】
欧州特許第0073568号から、ハロゲン化ベアリング・コーティング溶液にカルボン酸塩を加える事により、30%前後の電流密度でマットから光沢のあるクロム層の堆積を可能にする、クロム(VI)・ベアリング・コーティング溶液の使用が知られている。この点で、ヨウ素酸カリウムがハロゲン化物のもととなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
周知の事実に基づき、本発明の目的は、高電流密度で、耐食で亀裂のない、硬質クロムとクロム合金を堆積するのに適した方法を提供する事にある。さらに、本発明の目的は、特に30%よりも高い電流密度、かつ高い堆積速度で亀裂のない硬質クロム層の堆積を可能にする、基板上に亀裂のない、耐食の硬質クロムとクロム合金を堆積するための、クロム・ベアリング電解質成分を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、基板上にクロム又はクロム合金層の堆積方法による方法に関して達成され、堆積のために基板がスルホ酢酸及び/又はこの一つの塩及び/又はスルホ酢酸を生成する反応物質と同様に、少なくとも1つの無機酸又は無機酸塩、クロム化合物、ハロゲン酸素化合物、スルホン酸を構成する、電解質成分と接触する。
【0010】
機能的なクロム層の堆積のため、コーティングされた基板と対極の間に電位が印加される。この点で、本発明により、電流密度が約20A/dmから約50A/dmに設定可能である。
【0011】
本発明による方法は温度20℃から90℃の間で行われる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による方法で得られた電流効率は30%である。50A/dmの電流密度では、本発明による方法での堆積速度は1.3μm/minよりも速い。
【0013】
本発明と、本発明による方法による電解質から堆積されたクロム層は硬く、800HV0.1より高い硬度を示す。
【0014】
さらに、本発明により堆積されたクロム層は非常に耐食なもので、200時間を超えて、DIN50021SSにより、25μmの耐食を示す。
【0015】
本発明による電解質から、例えば研磨や擦り合わせのような、適した機械的処理によって光沢クロム層に変換可能である、マットな灰色層が本発明による方法によって堆積される。そういった機械的処理の後、本発明により堆積された層は高い耐食及び硬度を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は下記の表に記載の典型的な実施例により、より詳細に説明されるが、典型的な実施例に限定されるものではない。
【0017】
電解質成分に関し、スルホ酢酸及び/又はこの一つの塩及び/又はスルホ酢酸を生成する反応物質と同様に、少なくとも1つの無機酸又は無機酸塩、クロム化合物、ハロゲン酸素化合物、スルホン酸を構成する、基板上に機能的なクロム及びクロム合金層を堆積するためのクロム・ベアリング電解質成分によって目的が達成される。反応物質は、例えば3−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸、ヒドロキシメタン・スルホン酸、又はアルデヒドメタン・スルホン酸で良い。
【0018】
本発明による電解質成分には、約0.03から約0.3mol/lの間、好ましくは0.05から0.15mol/lの間、さらに好ましくは約0.06から約0.12mol/lの間の濃度中に、スルホ酢酸又はこの一つの塩又はこれを生成する反応物質が有利に含まれる。
【0019】
特に、本発明によると、アルカリ及び/又はアルカリ土類ハロゲン酸素化合物は電解質成分において、適したハロゲン酸素化合物であると分かった。成分には、約0.001から約0.1mol/lの間、好ましくは約0.005から約0.08mol/lの間、さらに好ましくは約0.007から0.03mol/lの間の濃度中にアルカリ又はアルカリ土類ハロゲン酸素化合物を含む事ができる。
【0020】
本発明によると、ヨウ素酸カリウムが電解質成分において、特に適したハロゲン酸素化合物である事が分かった。
【0021】
ハロゲン酸素化合物を追加する事により、電流効率を上げ、改善された層特性を持つようになる。
【0022】
無機酸のように、電解質成分は有利に硫酸から構成される。本発明によると、電解質成分のpH値はpH<1の範囲にとどまる。
【0023】
機能的なクロム層の堆積のための電解質成分には、約0.5mol/lから約5mol/lの間、好ましくは約1mol/lから約4mol/lの間、さらに好ましくは約2mol/lから約3mol/lの間の濃度中に、クロム化合物が含まれる。
【0024】
特に、本発明によると、電解質成分において、三酸化クロムが適したクロム化合物である事が分かった。
【0025】
電解質成分には、スルホン酸として、少なくとも一つのモノ又はジスルホン酸が有利に含まれる。メタン・スルホン酸又はメタン・ジスルホン酸は特に適している。
【0026】
本発明によると、電解質成分において、約0.01mol/lから約0.1mol/lの間、好ましくは約0.015mol/lから約0.06mol/lの間、さらに好ましくは約0.02mol/lから約0.04mol/lの間の濃度中に、スルホン酸を含む事ができる。
【0027】
スルホン酸を追加する事により、堆積の電流効率又は堆積速度を損なう事なく、堆積したクロム層の硬度が高まるようになる。
典型的な実施例
【0028】
基本となる電解質を始めとして、本発明による異なった電解質及び、本発明による、示したプロセス・パラメータでの、これらの電解質から堆積された層を下記の表に記載する。
【0029】
基本となる電解質は、三酸化クロム280g/lと硫酸2.8g/lから構成される。
全ての堆積層は800HV0.1を超える硬度及び、200時間を超えて、DIN5002165による耐食を示す。誘導硬化されたCK45スティールが基材となる。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にクロム又はクロム合金層を堆積する方法であって、前記堆積のために、前記基板が、スルホ酢酸及び/又はこの一つの塩及び/又はスルホ酢酸を生成する反応物質と同様に、少なくとも1つの無機酸又は無機酸塩、クロム化合物、ハロゲン酸素化合物、スルホン酸から構成される電解質成分と接触する。
【請求項2】
前記クロム層の堆積のため、コーティングされた前記基板と対極の間に電位が適用される事を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
約20A/dmから約150A/dmの電流密度が設定される事を特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が20℃から90℃の間の温度で行われる事を特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
基板上にクロム及びクロム合金層を堆積するためのクロム・ベアリング電解質成分であって、スルホ酢酸及び/又はこの一つの塩及び/又はスルホ酢酸を生成する反応物質と同様に、少なくとも1つの無機酸又は無機酸塩、クロム化合物、ハロゲン酸素化合物、スルホン酸から構成される。
【請求項6】
前記電解質成分には、約0.03から約0.3mol/lの間、好ましくは0.05から0.15のmol/lの間、さらに好ましくは約0.06から約0.12mol/lの間の濃度中に、前記スルホ酢酸又はこの一つの塩又はスルホ酢酸で形成される反応物質が有利に含まれる事を特徴とする、請求項5に記載の電解質成分。
【請求項7】
前記ハロゲン酸素化合物はアルカリ及び/又はアルカリ土類ハロゲン酸素化合物である事を特徴とする、請求項5と6のいずれか一つ以上に記載の電解質成分。
【請求項8】
前記電解質成分は、約0.001から約0.1mol/lの間、好ましくは約0.005から約0.08のmol/lの間、さらに好ましくは約0.007から0.03mol/lの間の濃度中に、前記アルカリ又はアルカリ土類ハロゲン酸素化合物で構成される事を特徴とする、請求項7に記載の電解質成分。
【請求項9】
前記電解質成分のpH値はpH<1の範囲にとどまる事を特徴とする、請求項5から8のいずれか一つに記載の電解質成分。
【請求項10】
前記成分には、約0.5mol/lから約5mol/lの間、好ましくは約1mol/lから約4mol/lの間、さらに好ましくは約2mol/lから約3mol/lの間の濃度中に、前記クロム化合物が含まれる事を特徴とする、請求項5から9のいずれか一つに記載の電解質成分。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか一つに記載の電解質成分であって、前記電解質成分はスルホン酸として、モノ又はジスルホン酸又はこの一つの塩から構成される。
【請求項12】
前記成分は、約0.01mol/lから約0.1mol/lの間、好ましくは約0.015mol/lから約0.06mol/lの間、さらに好ましくは約0.02mol/lから約0.04mol/lの間の濃度中に、他のスルホン酸又はその塩から構成される事を特徴とする、請求項5から11のいずれか一つに記載の電解質成分。
【請求項13】
前記層が800HV0.1より高い硬度を持つ事を特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載の方法で堆積されたクロム層。
【請求項14】
前記層が200時間を超えて、DIN50021SSにより、耐食を示す事を特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載の方法で堆積されたクロム層。

【公開番号】特開2007−162123(P2007−162123A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103884(P2006−103884)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(501251806)エンソーン インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】