説明

予混合圧縮自着火式エンジン

【課題】始動時には,複雑な可変動弁装置を用いることなく予混合気の火花点火による着火を可能にし,始動後は,予混合気の自着火を促進して高い熱効率を得ることができる予混合圧縮自着火式エンジンを提供する。
【解決手段】燃料ガスと空気とを混合して得た予混合気を燃焼室4に供給し,これを高圧縮比の下で自着火を行わせる予混合圧縮自着火式エンジンにおいて,燃焼室4に電極を臨ませる点火プラグ10と,排気行程及び吸気行程間に,排気弁20b及び吸気弁20aが共に閉じた負のオーバーラップ期間θを設けるように作動する動弁装置21と,始動時,負のオーバーラップ期間θ中,点火プラグ10を作動する電子制御ユニット40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,燃料ガスと空気とを混合して得た予混合気を燃焼室に供給し,これを高圧縮比の下で自着火を行わせ,高い熱効率を得るようにした予混合圧縮自着火式エンジンの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる予混合圧縮自着火式エンジンは,例えば特許文献1に開示されるように,既に知られている。予混合圧縮自着火式エンジンにおいて,予混合気を高圧縮比(通常の火花点火式エンジンの圧縮比より高い)の下で圧縮すると,同時多点的に自着火することで,燃焼室全体への火炎の伝播が早く,燃焼が短時間に完了し,熱効率が改善され,低燃費性を良好にしつゝ,NOxの排出量を減少させ得る利点がある。また特許文献1には,排気行程及び吸気行程間に,排気弁及び吸気弁が共に閉じた負のオーバーラップ期間を設け,排ガスの一部を燃焼室に閉じ込め,それを次の吸気行程で吸気される予混合気に混合させながら,予混合気を加熱して,混合気の自着火を促進する技術も記載されている。
【0003】
また予混合圧縮自着火式エンジンでは,冷間時の始動性が悪いため,始動時には点火プラブによる火花点火を必要とすることも知られている(特許文献2参照)。特許文献2に記載のものでは,冷間時,高圧縮比で圧縮された予混合気は,火花点火によるも,着火が困難であるため,始動時には,圧縮比を減少させる可変同弁機構を備えており,エンジンの構造が複雑,高価なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−201127号公報
【特許文献2】特開2007−224808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,始動時には,複雑な可変動弁装置を用いることなく予混合気の火花点火による着火を可能にし,始動後は,予混合気の自着火を促進して高い熱効率を得ることができる予混合圧縮自着火式エンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,燃料ガスと空気とを混合して得た予混合気を燃焼室に供給し,これを高圧縮比の下で自着火を行わせる予混合圧縮自着火式エンジンにおいて,前記燃焼室に電極を臨ませる点火プラグと,排気行程及び吸気行程間に,排気弁及び吸気弁が共に閉じた負のオーバーラップ期間を設けるように作動する動弁装置と,始動時,前記負のオーバーラップ期間中,前記点火プラグを作動する電子制御ユニットとを備えることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,始動前にエンジン本体を予熱する電気ヒータを備えることを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の特徴によれば,負のオーバーラップ期間での燃焼室の圧力は,続く圧縮行程における燃焼室の圧力に比して低いので,始動時,負のオーバーラップ期間中,点火プラグを作動することにより,点火プラグによる火花点火を確実に行い,燃焼室に残留する未燃ガスに着火させ,高温のガスを生成することができる。尚,燃焼室の圧力が高すぎると,要求電圧が上がってしまい,火花が飛び難くなる。而して,負のオーバーラップ期間後,燃焼室に吸入される予混合気と上記高温のガスとが混合することで,予混合気が効果的に昇温するするため,続く圧縮行程において高圧縮比をもって圧縮されると,自着火することになる。したがって複雑,高価な可変動弁装置を用いることなくエンジンを容易に始動することができる。
【0009】
エンジンの始動後,点火プラグの作動を停止するが,負のオーバーラップ期間においては,燃焼室に高温の排ガスが残留するので,それに続く吸気行程で燃焼室に吸入される予混合気が上記高温の排ガスと混合して効果的に昇温することができるため,次の圧縮行程で高圧縮比をもって圧縮され,自着火するので,自着火運転が継続することになり,熱効率の改善,延いては低燃費性の向上とNOxの排出抑制に寄与し得る。
【0010】
本発明の第2の特徴によれば,始動前,予めエンジン本体を電気ヒータにより加熱することで,始動時,燃焼室に吸入される予混合気の温度低下を抑え,負のオーバーラップ期間中,点火プラグの火花点火による高温ガスの生成の促進に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る予混合圧縮自着火式エンジンの縦断側面図。
【図2】上記エンジンの吸気弁及び排気弁の開閉特性線図。
【図3】上記エンジンの電子制御回路図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0013】
先ず図1において,予混合圧縮自着火式エンジン(以下,単にエンジンという。)Eは,例えば発電機等,各種作業機の駆動用に供される。このエンジンEのエンジン本体1は,シリンダボア2aを有するシリンダブロック2と,このシリンダブロック2の上端に連設され,シリンダボア2aに連なる燃焼室4及びそれに開口する吸気ポート5及び排気ポート6を有するシリンダヘッド3と,シリンダブロック2の下端に連設されるクランクケース7よりなっており,シリンダヘッド3の上端には,それとの間に動弁室8を画成するヘッドカバー9が接合される。シリンダヘッド3には,燃焼室4に電極を臨ませる点火プラグ10が螺着され,エンジン本体1には,シリンダボア2a及び燃焼室4を囲繞するウォータジャケット12が形成される。またエンジン本体1の外周には,始動前にそれを予熱し得る電気ヒータ13と,それの近傍でエンジン本体1の温度の所定値以上を検出するエンジン温度センサ14とが付設される。
【0014】
クランクケース7にはクランク軸15が収容,支持され,このクランク軸15に,シリンダボア2aに摺動自在に嵌装されるピストン16がコンロッド17を介して連接される。またクランク軸15には,これをクランキングし得る始動モータ18が連結される。而して,このエンジンEの圧縮比は,通常の火花点火式エンジンの圧縮比より充分高く設定される。
【0015】
シリンダヘッド3には,吸気及び排気ポート5,6を開閉する吸気及び排気弁20a,20bが設けられ,これら吸気及び排気弁20a,20bを開閉する動弁装置21が前記動弁室8に収容される。
【0016】
動弁装置21は,吸気及び排気カム22a,22bを有してクランク軸15と平行にシリンダヘッド3に回転自在に支持されるカム軸22と,このカム軸22と平行にヘッドカバー9に支持される吸気及び排気ロッカ軸23a,23bと,吸気ロッカ軸23aに揺動自在に支持されて吸気カム22a及び吸気弁20a間を連接する吸気ロッカアーム24aと,排気ロッカ軸23bに揺動自在に支持されて排気カム22b及び排気弁20b間を連接する排気ロッカアーム24bと,吸気及び排気弁20a,20bをそれぞれ閉じ方向に付勢する弁ばね25a,25bとよりなっている。
【0017】
クランク軸15には歯付きの駆動プーリ27が,またカム軸22には歯付きの従動プーリ28がそれぞれ固設され,これら駆動プーリ27及び従動プーリ28は,これらに巻き掛けかけられる歯付きのタイミングベルト29により相互に接続され,駆動プーリ27の回転を2分の1に減速してカム軸22に伝達するようになっている。
【0018】
上記動弁装置21による吸気弁20a及び排気弁20bの開閉特性が図2に示される。同図より明らかなように,排気弁20bは,上死点前に閉じ,吸気弁20aは上死点後に開き始めるようになっている。つまり,排気行程及び吸気行程間に,排気弁20b及び吸気弁20aが共に閉じた負のオーバーラップ期間θが設けられる。この負のオーバーラップ期間θを検出するカムアングルセンサ26(図1参照)が前記カム軸22に連結される。
【0019】
再び図1において,前記吸気ポート5には,吸気道30aを有するミキサ30が接続され,このミキサ30には,吸気道30aを通る吸入空気を濾過するエアクリーナ31が接続される。ミキサ30は,吸気道30aを開閉するスロットル弁32と,このスロットル弁32の上流側で吸気道30aに開口する燃料ノズル33とが設けられており,その燃料ノズル33に連なる気化燃料導管34の上流端が圧力調整器35の燃料出口35aに接続される。圧力調整器35の燃料入口側には気化室36が隣接して設けられ,この気化室36の燃料入口36aに,液化燃料を充填した燃料ボンベ37から延出する液化燃料導管34の下流端が接続される。気化室36の一側には電気ヒータ38が取り付けられ,この電気ヒータ38の作動により気化室36に導入された液化燃料を加熱,気化させるようになっている。圧力調整器35は,気化室36から送られた高圧の気化燃料を大気圧に調整する。排気ポート6には排気マフラ19が接続される。
【0020】
上記エンジンEの電子制御回路が図3に示される。電子制御ユニット40は,電気ヒータ13の作動によりエンジン本体1の温度が所定値以上になったとき,それを検出したエンジン温度センサ14の検出信号を受けて,始動可能状態を示すランプ41を点灯するようになっている。また電子制御ユニット40は,始動モータ18作動用のスタータスイッチ42のオン信号と,カムアングルセンサ26による負のオーバーラップ期間θの検出信号とが共に入力されたとき,点火プラグ10を作動するようになっている。
【0021】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0022】
エンジンEの始動に際しては,先ず,電気ヒータ13を作動して,エンジン本体1を予熱する。それによりエンジン本体1の温度が所定値以上になると,エンジン温度センサ14がその旨の検出信号を電子制御ユニット40に入力するので,電子制御ユニット40がランプ41を点灯して,エンジンが始動可能状態になったことを表示する。
【0023】
そこで,スタータスイッチ42をオンにして始動モータ18を作動し,エンジンEのクランキングを行う。このクランキングにより,エンジンEの吸気行程中,燃料ボンベ37から送出された高圧の液化燃料は,液化燃料導管34を経て気化室36に導入され,該室36で電気ヒータ38の作動により加熱,気化される。この気化燃料は,圧力調整器35により大気圧に調整された後,気化燃料導管34を経てミキサ30の燃料ノズル33に供給される。ミキサ30の吸気道30aでは,燃料ノズル33からの噴霧燃料と,エアクリーナ31で濾過された空気との予混合気が生成され,それがスロットル弁32により流量を制御されながら,エンジンEの燃焼室4に供給される。このとき,エンジン本体1は,電気ヒータ13により加熱されているので,燃焼室4での予混合気の冷却を防ぐことができる。
【0024】
またこのクランキング中,即ちスタータスイッチ42のオン信号が電子制御ユニット40に入力されているとき,カムアングルセンサ26が負のオーバーラップ期間θを検出してその検出信号を電子制御ユニット40に入力すると,電子制御ユニット40は,点火プラグ10を作動して火花点火を行う。したがって負のオーバーラップ期間θのみ,火花点火が行われる。
【0025】
ところで,排気弁20b及び吸気弁20aが共に閉じた負のオーバーラップ期間θでの燃焼室4の圧力は,続く圧縮行程における燃焼室4の圧力に比して低いので,点火プラグ10は,印加される電圧が比較的低くても火花を生起させることができ,負のオーバーラップ期間θ,燃焼室4に残留する未燃ガスに着火させ,高温のガスを生成することになる。
【0026】
その結果,負のオーバーラップ期間θ後,吸気弁20aの開きに伴ない予混合気が燃焼室4に吸入されると,その予混合気と上記高温のガスとが混合することで,予混合気の温度が急速に上昇するため,続く圧縮行程において高温の予混合気は,高圧縮比をもって圧縮されると,自着火することになる。こうしてエンジンEを容易に始動することができ,複雑,高価な可変動弁装置を用いる必要がない。
【0027】
エンジンEが始動し,始動モータ18の作動を停止すると,電子制御ユニット40は,始動モータ18用スイッチ42のオフ信号に基づいて,点火プラグ10の作動を停止するので,火花点火は生じない。
【0028】
而して,エンジンEの始動後は,負のオーバーラップ期間θにおいて,燃焼室4に高温の排ガスが残留するので,それに続く吸気行程で燃焼室4に吸入される予混合気が上記高温の排ガスと混合して効果的に昇温することができるため,次の圧縮行程で高圧縮比をもって圧縮され,自着火することができ,自着火運転が継続することになり,熱効率の改善,延いては低燃費性の向上とNOxの排出抑制に寄与し得る。
【0029】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,電気ヒータ13は,エンジン本体1に内蔵することもできる。
【符号の説明】
【0030】
E・・・・・予混合圧縮自着火式エンジン
1・・・・・エンジン本体
4・・・・・燃焼室
10・・・・点火プラグ
13・・・・電気ヒータ
20a・・・吸気弁
20b・・・排気弁
21・・・・動弁装置
40・・・・電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと空気とを混合して得た予混合気を燃焼室(4)に供給し,これを高圧縮比の下で自着火を行わせる予混合圧縮自着火式エンジンにおいて,
前記燃焼室(4)に電極を臨ませる点火プラグ(10)と,排気行程及び吸気行程間に,排気弁(20b)及び吸気弁(20a)が共に閉じた負のオーバーラップ期間(θ)を設けるように作動する動弁装置(21)と,始動時,前記負のオーバーラップ期間(θ)中,前記点火プラグ(10)を作動する電子制御ユニット(40)とを備えることを特徴とする予混合圧縮自着火式エンジン。
【請求項2】
請求項1記載の予混合圧縮自着火式エンジンにおいて,
始動前にエンジン本体(1)を予熱する電気ヒータ(13)を備えることを特徴とする予混合圧縮自着火式エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−247111(P2011−247111A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118749(P2010−118749)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】