説明

二成分ナノ流体吸収液、これを用いた吸収器、該吸収器を含む吸収式冷凍装置、前記二成分ナノ流体吸収液の製造方法及び製造装置

【課題】優れた分散安定性及び物質伝達特性を示す吸収式冷凍システムの吸収液とその製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】二成分流体及びナノ粒子からなる吸収液であって、前記二成分流体は臭化リチウムと水との混合溶液であり、ナノ粒子はカーボンナノチューブまたは鉄など金属材質のナノ粒子である。超音波を用いてこれらの分散性を高める。更に超音波処理を施すに先立って、アラビアゴムなど分散安定剤を添加することにより更に分散安定性を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二成分流体、特に臭化リチウムの水溶液である二成分流体にナノ粒子が添加された二成分ナノ流体吸収液、これを用いた吸収器、該吸収器を含む吸収式冷凍装置、前記成分ナノ流体吸収液の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、流体の熱伝逹特性の向上のために流体に100nm未満のナノ粒子を分散させた、いわゆるナノ流体に関する研究が盛んに行なわれている。
例えば、従来、コンピュータの中央処理装置(CPU)から発生する熱を冷却する水冷式装置の冷却効率を高めるために、高い熱伝導率を有するカーボンナノチューブまたは金属材質のナノ粒子を冷却水に混入して、冷却水の熱伝逹係数をその混入前より2〜3倍に増大させた技術が知られている。
また、既存の一般の冷媒にナノ粒子を注入して熱伝導度と熱容量を向上させたナノ流体を作動流体として、凝縮器と蒸発器における外部空気との熱交換効率を向上させた技術が知られている。
【0003】
しかしながら、この種の従来技術においては、単一成分の冷媒または冷却水にナノ粒子が含まれるだけであり、また前記ナノ流体は物質伝達の側面で増加した流体ではないため、吸収式システムの冷媒への適用には不向きであった。
また、従来のナノ流体適用技術では、分散安定性を確保するための技術がなかったため、長期間にわたっての安定した使用も困難であった。さらには、吸収式システムの冷媒としてナノ流体を用いるためには、特定の吸収液によるナノ粒子の分散安定性の調査と物質伝達及び熱伝逹特性の評価についての多くの研究を必要とするが、未だかかる研究がなされたとの報告はない実情である。
【特許文献1】韓国特許登録第655257号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、吸収式冷凍システムの吸収液、特に臭化リチウム水溶液を用いる吸収式冷凍システムの吸収液であって、優れた分散安定性及び物質伝達特性を示す吸収式冷凍システムの吸収液とその製造方法及び装置を提供することである。
本発明の他の目的は、物質伝達がいずれも向上し、その結果、該吸収器や吸収式冷凍システムが小型化し、長期間にわたっての使用にも安定性を示す吸収器及び該吸収器を含む吸収式冷凍装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、二成分流体及びナノ粒子からなる吸収液であって、前記二成分流体は、臭化リチウムと水との混合溶液であり、前記吸収液には超音波が加えられたことを特徴とする二成分ナノ流体吸収液を提供する。
本発明では、前記二成分ナノ流体吸収液を用いることを特徴とする吸収器を提供する。
本発明では、前記吸収器を含むことを特徴とする吸収式冷凍装置を提供する。
本発明では、二成分流体及びナノ粒子からなる二成分ナノ流体吸収液の製造方法であって、前記二成分流体として臭化リチウムと水との混合溶液を用意する第1のステップと、前記二成分流体にナノ粒子を添加して二成分ナノ流体を調製する第2のステップ、及び前記二成分ナノ流体に超音波処理を施す第3のステップと、を含むことを特徴とする二成分ナノ流体吸収液の製造方法を提供する。
本発明では、二成分流体及びナノ粒子からなる二成分ナノ流体吸収液の製造装置であって、臭化リチウムと水との混合溶液にナノ粒子が添加された二成分ナノ流体を提供する二成分ナノ流体提供部、及び前記二成分ナノ流体提供部から提供された二成分ナノ流体に超音波処理を施す超音波処理部、を含むことを特徴とする二成分ナノ流体吸収液の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、吸収式冷凍システムの吸収液、特に臭化リチウム水溶液を用いる吸収式冷凍システムの吸収液であって、優れた分散安定性、物質伝達特性を示す吸収式冷凍システムの吸収液が得られる。また、前記吸収液は、吸収式冷凍装置、冷温水器などの冷凍システムの吸収器に適用されることで物質伝達を促進し、その結果、吸収器や吸収式冷凍システム自体を小型化することができ、長期間にわたっての使用にも安定性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明による二成分ナノ流体吸収液、これを用いた吸収器、該吸収器を含む吸収式冷凍装置、前記二成分ナノ流体吸収液の製造方法及び製造装置について詳述する。
図1は、本発明の実施例による二成分ナノ流体吸収液の製造ステップを説明するフローチャートである。
図1を参照すれば、先ず、臭化リチウムと水とで二成分のベース流体を調製する(ステップS1)。このとき、前記ベース流体のHO/LiBrの濃度は0wt%超過55wt%以下の範囲にし、55%のHO/LiBr溶液と蒸溜水とを混合して調製する。前記溶液の濃度が0wt%超過55wt%以下、好ましくは、20wt%〜40wt%の範囲で物質伝達特性を一層向上することができる。
次いで、前記調製したベース流体にナノ粒子を添加する(ステップS2)。このとき、前記ナノ粒子としては、カーボンナノチューブ(CNT)または鉄(Fe)、その他、金属のナノ粒子を添加する。
参考までに、図2及び3は、本発明の実施例において添加される鉄ナノ粒子(図2)及びCNTナノ粒子(図3)のFE−SEM写真図である。
図2及び3を参照すれば、それぞれのナノ粒子は粉状の粒子で、塊状になっていることが確認できる。このように塊状の粒子は流体に分散されると凝集して直ぐ沈殿する現象を示す。
【0008】
本発明では、前記ステップS1で用意した二成分流体に前記CNT、鉄、その他ナノ粒子を添加し、前記したナノ粒子の分散性を高めるようにする。
このために、本発明では、後述するように超音波を加えて分散性を高めるようにする。
さらに、本発明では、超音波処理を施すに先立って、分散安定剤を添加してその分散安定性を一層高めるようにする。
前記分散安定剤としてアラビアゴムを用いれば流体の分散安定性を高めることができる。前記アラビアゴムの添加濃度は該アラビアゴムを含む吸収液の全重量に対して0.01〜0.1wt%の濃度にしたときに分散性をより高めることができ、その濃度を0.1wt%にしたときに分散性をより一層高めることができる。
一方、前記ナノ粒子の濃度は、前記ナノ粒子を含む二成分ナノ流体に対して0.001〜0.01wt%の範囲で高い分散安定性を示す。
実験では、鉄の場合は平均粒径が100nmで、CNTの場合は平均直径が10〜40nmで、長さが5〜20μmのナノ粒子を用いた。参考までに、粒子の形状や粒度は電界放射型走査電子顕微鏡(FE―SEM)にて確認した。
次いで、上述したように前記ナノ粒子が添加された二成分流体に超音波を加えてナノ粒子を分散させる(ステップS3)。このとき、超音波のヘルツは、20,000Hzと一定にして分散をさせる。また、このときの振幅は70〜80である。
参考までに、超音波振動による分散は、振動子及びホーンからの超音波をベース流体内に加えた時に生じる超音波空洞化のメカニズムを利用している。
【0009】
前記超音波空洞化メカニズムは、核生成、気泡の成長及び充分に成長した気泡の爆発的破裂の3段階からなる。前記生成された気泡中の温度と圧力は、それぞれ約4,500℃と数百気圧に至り、充分に成長した気泡が破裂する時は、温度が約1,500で圧力が数百気圧に至る衝撃波が発生する。前記衝撃波によってナノ粒子同士の連結が解けてナノ粒子が分散するようになる。
【0010】
前記ステップS3の後、分散した溶液の一部を50mlのバイアル瓶にサンプリングをして標本を抽出し(ステップS4)、該抽出した標本に対してゼータ電位測定装置を利用してゼータ電位を測定する(ステップS5)。
調製した吸収液の分散安定性を定量的数値にて判別する方法としては、濁度とpHを用いる分析方法などがあるが、このような方法は実験誤差が多く発生する。よって、特にゼータ電位を用いて吸収液の分散安定性を判別することが好ましい。
参考までに、ナノ流体の外部から電場を加えると、ナノ粒子はその表面電位の符号と逆方向に移動するが、このときの電場の強さと流体力学的な効果を考慮してナノ粒子の移動速度を求め、該求められた値がゼータ電位である。すなわち、帯電したコロイド粒子が分散されている系に外部から電場をかけると、粒子は電極の方に移動するが、その速度は粒子の荷電量に比例するので、粒子の移動速度を測定すればゼータ電位を決めることができ、このようなゼータ電位は分散安定性を反映するようになる。
ただし、前記ゼータ電位は、pHの影響を大きく受けるが、吸収液として特に臭化リチウム水溶液が用いられる場合は、pHの濃度によってゼータ電位が大きな誤差を示すことはないので、ゼータ電位による分散安定度測定値の信頼度が高い。
本発明では、前記粒子の移動速度を測定するために特に電気泳動−光散乱法を用いる。前記電気泳動−光散乱法では、ドップラー効果を用いて粒子の移動速度を求めている。すなわち、電気泳動している粒子にレーザー光を照射すると、粒子からの散乱光がドップラー効果によって周波数が変化し、該変化量は粒子の泳動速度に比例するため周波数変化量を測定すれば粒子の移動速度が分かる。
【0011】
一般的に、粒子の移動速度は非常に遅いためドップラーシフト(Doppler―Shift)量(〜100Hz)は、入射光の周波数(5×1012)に比べて顕著に小くなる。このような小さな周波数の差を検出する方法としては、入射光の一部と散乱光とを混合させるヘテロダイン法を用いる。
前記ヘテロダイン法では、泳動粒子においてドップラーシフトしている散乱光と泳動していない粒子に相当する参照光を同時に観測する。すなわち、他の周波数の光を混合した時に干渉によって発生するビットを散乱光と強度の変化として測定する。
このようにして測定された散乱強度は、光子相関関係から散乱強度の自己相関関数にて表すことができる。このとき、観測される粒子は、ブラウン運動をしているため該自己相関関数は減衰するコサイン波となる。このようにして得られた自己相関関数をFFT(Fast Fourier Transformation)解釈を用いてパワースペクトルに変換すると、該パワースペクトルからコロイド粒子のドップラーシフト量を求めることができ、該量に基づいて粒子の移動速度を求め、該速度に基づいてゼータ電位を決めることができる。
【0012】
以上の方法に従って二成分ナノ流体のゼータ電位の絶対値を測定した場合、安定領域と不安定領域とが現れる。すなわち、ゼータ電位が0〜30(mV)の範囲では流体が不安定な場合であり、前記範囲以上である場合、すなわち絶対値が30(mV)以上である場合は流体が安定した領域である。
したがって、ゼータ電位を測定した結果、該測定された絶対値が30(mV)以上である場合は、二成分ナノ流体の分散安定性が大きいと判断することができる。
一方、本発明では、前記ステップS5において分散安定性を判断する方式と異なる方式で分散安定性を判断することができる。
すなわち、撮像装置を利用して、所定の時間にかけて流体を放置すると、分散安定性が落ちた流体ではナノ粒子が沈むようになり、そのような散安定性の変化を撮像することにより分散安定性を可視化する(ステップS6)。分散安定性が落ちた流体は実用性に劣り、それを装置に装入した場合、装置を長期間止めてから稼動した際に問題が発生する可能性が残るようになる。したがって、高い分散安定性を示すナノ流体が必要であり、これを可視化して確認している。
本発明では、前記ステップS5とS6のいずれか一方を行なってもよく、両方を行なうことも可能である。
【0013】
一方、前記ステップS5〜S6を行ない、もし測定された分散安定性に満足できない場合には、前記ステップS2に再び戻ってナノ粒子の添加濃度、サイズまたは分散安定剤の添加濃度を調節したり、または前記ステップS3に再び戻って超音波ヘルツを調節したり、或いは超音波処理回数を調節したりすればよい。
本発明による二成分ナノ流体吸収液の製造装置は、二成分ナノ流体提供部と超音波処理部とに大別できる。
【0014】
前記二成分ナノ流体提供部は、二成分ナノ流体を貯留する容器と前記二成分ナノ流体を提供するためのポンプとから構成され、前記超音波処理部は、超音波処理が施される超音波処理空間と超音波発生器を備える。前記超音波処理部には、超音波増幅器がさらに備えられてもよい。
具体的に、図4は、本発明の実施例による二成分ナノ流体吸収液の製造装置を示す概略図である。
図4を参照すれば、本発明の実施例による二成分ナノ流体吸収液の製造装置は、二成分ナノ流体を貯留する容器40と、前記二成分ナノ流体を超音波処理するための超音波処理用密閉空間90と、前記貯留容器40に貯留された二成分ナノ流体を前記超音波処理用密閉空間90に供給するためのポンプ30と、前記超音波処理用密閉空間90に印加される超音波を増幅する超音波増幅器10と、前記超音波増幅器10に所定の周波数の超音波を印加する超音波発生器60と、前記超音波発生器60に所定の電力を供給する電源70とから構成される。ここで、前記ポンプ30には、圧力ゲージ20が接続されて圧力が一定に調節され、前記超音波処理用密閉空間90と貯留容器40との間には弁体50が介在して流量が一定に調節される。
図4に示す装置を基に、本発明の実施例における二成分ナノ流体吸収液に超音波処理を施す過程をより詳述すれば、次の通りである。
先ず、臭化リチウムと水とを所定の濃度にて混合し、これにCNTまたは鉄、その他、ナノ粒子及び分散安定剤を添加して二成分ナノ流体を調製し、これを貯留容器40に投入する。
【0015】
次いで、ポンプ30を利用して所定の圧力下で前記二成分ナノ流体を超音波処理用密閉空間90に供給する。
次いで、超音波発生器60からの超音波を超音波増幅器10を介して増幅した後、前記超音波処理用密閉空間90に印加して、前記超音波処理用密閉空間90内に一時貯留されている二成分ナノ流体に所定の周波数の超音波処理を施す。
一方、前記超音波処理を終えた二成分ナノ流体は、再び貯留容器40に戻ってくる。
前記貯留容器40に戻ってきた二成分ナノ流体は、再び前記超音波処理用密閉空間90に供給される方式で前記貯留容器40と前記超音波処理用密閉空間90を循環し、その結果、前記二成分ナノ流体に対しては超音波処理が2回以上施される。このように超音波処理が2回以上繰り返し施された二成分ナノ流体の場合、分散安定性が向上する。
以下、本発明の実施例及び実験例を通じて本発明をより詳細に説明する。
[実験1:分散安定性測定−ゼータ電位測定]
吸収液の調製
O/LiBrの濃度を0wt%、10wt%、20wt%、30wt%、40wt%、50wt%、55wt%として調製した。それぞれの水溶液の配合を、次の表1に表した。
【0016】
【表1】

【0017】
前記それぞれの濃度にて、CNT及び鉄のナノ粒子をそれぞれ0.001wt%、0.005wt%、0.01wt%添加して総36個のナノ流体サンプルを調製した。このとき、前記CNTナノ粒子の平均粒径は略25nmで、長さは略10μmであった。前記鉄ナノ粒子の平均粒径は100nmであった。一方、前記各サンプルにはアラビアゴムをそれぞれ0.1wt%添加した。以上のサンプルに対して、先ず、図4に示す装置を利用して5回繰り返し超音波処理を施して吸収液を調製した。
ゼータ電位測定
前記のようにして調製されたそれぞれの吸収液サンプルに対して、上述したような電気泳動−光散乱法を用いてゼータ電位を測定した。
図5は、本発明の実施例におけるCNTナノ粒子(図5a)及び鉄ナノ粒子(図5b)を分散させた二成分ナノ流体に対する各濃度によるゼータ電位の絶対値の測定結果を示すグラフである。
図5a及び5bを参照すれば、各水溶液の濃度に関して、CNT及び鉄ナノ粒子の両方におけるそのナノ粒子の濃度が0.001〜0.01wt%であるときにゼータ電位の大半が30(mV)以上であって安定化した状態を示した。特に、CNTナノ粒子の場合に0.01wt%、鉄ナノ粒子の場合に0.001wt%であって、優れた分散安定性を示した。
【0018】
一方、ナノ粒子の濃度が0.001wt%以下である場合に粒子の割合が小さすぎるため、分散安定性の他、物質伝達性能の向上などの効果は期待しにくい。
[実験2:分散安定性の可視化]
前の実験1でのサンプルのうち、二成分流体の濃度が40wt%で、鉄ナノ粒子が0.001wt%添加され、分散安定剤としてのアラビアゴムが0.1wt%仕込まれたサンプルに対して分散安定性を可視化するために、当該サンプルを撮像した。
図6は、本発明による実施例サンプルの分散直後(図6a)及び30日経過後(図6b)の写真図である。
図6a及び6bを参照すれば、分散安定剤としてのアラビアゴムを0.1wt%仕込んだ場合が、分散直後だけでなく30日経過後にも高い分散安定性を示した。
[実験3:熱伝逹及び物質伝達特性の評価]
前の実験1でのサンプルと同様の次のサンプルを調製した。すなわち、カーボンナノ粒子及び鉄ナノ粒子がそれぞれ0wt%、0.01wt%、0.1wt%分散された二成分ナノ流体のうち溶液の濃度が55%で分散安定剤としてのアラビアゴムが0.1wt%添加され、超音波で分散させたサンプル6個を調製した。
【0019】
前記調製されたサンプルに対して、熱伝逹及び物質伝達特性を評価した。
図7は、本発明の実施例による吸収液の熱伝逹及び物質伝達効率を測定する実験装置を示す概略図である。
図7を参照すれば、本発明の実施例による吸収液の熱伝逹及び物質伝達効率測定実験装置は、流下薄膜式吸収性能測定システムであって、大きく吸収器100、補助タンク200、冷凍機300から構成される。
前記吸収器100は、内部に直径15mm、管長さ50cmの伝熱管120が8列に配列されてなり、その内部を冷凍機300からの冷却水が流れる。
前記吸収器100の前面部には強化ガラスからなる可視窓140(横300mm、縦200mm、厚さ10mm)が設けられて、液膜流動を視認できるようにした。前記可視窓140を除いた吸収器100の他の部分は、外部への熱損失を抑えるために断熱されるようにした。
【0020】
実験を行なうに先立って、前記吸収器100を実際の吸収式システムの条件と同一にするために、例えば、真空ポンプであるポンプ500を利用して吸収器100内部の圧力を0.01(bar)に真空引きし、これを真空計にて確認した。
前記吸収器100を含めた全ての装置は、腐食性が強い溶液と外圧に耐えられるようにステンレス及び銅材料などから製作した。
前記吸収器100の下部には、4kWの貫入型ヒーター130を二つ設けて内部にある溶液を加熱して水蒸気を発生させた。
前記水蒸気の発生と同時に吸収器100の下部の溶液を、ポンプ500、例えば、10LPMの化学用マグネチックポンプによって補助タンク200の中に送り込んだ。
前記補助タンク200に送り込まれた溶液は、内部のヒーター130と冷凍装置300からの冷却水によって実験条件に適合した吸収器100の入口の温度に合わせられるようにした。
【0021】
前記補助タンク200内部の溶液は、再び同じ容量のポンプ500によって前記吸収器100の上端内部にある分配器110に送り込み、この溶液を、前記分配器110によって前記吸収器110内部の伝熱管120の上に散布した。前記溶液が前記分配器110に送り込まれる直前に、補助タンクと分配器との間に設けられた電子流量計520にて送り込まれる溶液の流量を測定した。
前記分配器110からの溶液は、前記吸収器100の下部で発生した水蒸気を吸収しながら伝熱管120から垂れ落ちて、伝熱管120の下に設けられた溶液受け150に溜められる。溜められた溶液の温度を測定した後、垂れ落ちる溶液が多くなると、自然に溶液が溶液受け150から溢れ出して吸収器100の下部側に落ちるようにした。
一方、冷凍機300から供給される冷却水は、補助タンク200の方と吸収器100の方に配分され、吸収器100の方に配分される冷却水は、電子流量計520を利用してその流量を測定した。冷却水として30%のエチレングリコールを用い、濃度系を利用してその濃度を測定した。
【0022】
前記冷却水と溶液の流量調節は各部分の入口弁の開閉にて調節し、それぞれの配管毎にバイパス配管を設けてより効率よい流量の調節ができるようにした。
また、各ユニットの入出口の要部にはサーモカップル510を設けて温度を測定した。温度は吸収器と補助タンクに設けられたヒーターのオン/オフ制御と所定の温度にセット可能な3RT級冷凍機300を利用して制御し、流量と温度は、データロガーにて収集しコンピューターでデータ処理を施した。
実験結果の処理に際し、検査体積を決めた後に質量、濃度及びエネルギー平衡を考慮して実験結果を処理した。
【0023】
図8は、本発明の実験3において、鉄とカーボンナノチューブのナノ粒子の各濃度を異にした場合に対して、一般の溶液の吸収率に対する二成分ナノ流体を用いた場合の吸収率の増加具合を比べたグラフである。
図8においてy軸は吸収率の比率を示し、その値が1を超える場合、物質伝達性能が向上したとみることができる。よって、図8を参照すれば、ナノ粒子の濃度が高いほど物質伝達性能の向上が増すことが分かる。鉄を含む二成分ナノ流体よりはカーボンナノチューブを含む二成分ナノ流体の方が物質伝達性能に優れていると示された。
図9は、本発明の実験3による吸収率を測定したグラフであり、図10は、本発明の実験3における冷却水への熱伝逹量変化を測定したグラフである。
図9を参照すれば、CNTナノ粒子を含む二成分ナノ流体の吸収量の上昇具合(図9a)が、鉄ナノ粒子を含む二成分ナノ流体の吸収量の上昇具合(図9b)より大きいことが分かる。
【0024】
すなわち、鉄ナノ粒子を含む二成分ナノ流体の吸収量に関して、一般の溶液である鉄ナノ粒子の濃度が0wt%であるときに比べて、鉄ナノ粒子の濃度が0.01wt%であるときは11%、鉄ナノ粒子の濃度が0.1wt%であるときは52%とそれぞれ吸収量が上昇した。
【0025】
一方、CNTナノ粒子を含む二成分ナノ流体の吸収量に関して、一般の溶液であるCNTナノ粒子の濃度が0wt%であるときに比べて、CNTナノ粒子の濃度が0.01wt%であるときは26%、CNTナノ粒子の濃度が0.1wt%であるときは59%とそれぞれ吸収量が上昇した。
図10を参照すれば、鉄ナノ粒子を含む二成分ナノ流体の熱伝逹量の上昇は、鉄ナノ粒子を含まない場合に比べて大差はなかった(図10a)。CNTナノ粒子を含む二成分ナノ流体の熱伝逹量の上昇もCNTナノ粒子を含まない場合に比べて大差はないと示された(図10b)。なお、CNTナノ粒子を0.1wt%含むときは、CNTナノ粒子が0wt%である場合に比べて、若干高い熱伝逹量を示した。これは、CNTナノ粒子の特性上、熱伝導度が非常に高く且つ体積上では粒子の量が比較的多いので、熱伝逹の側面でもシナジー効果を得ることができるためである。
【0026】
以上のことから、本発明による二成分ナノ流体において、鉄ナノ粒子よりはCNTナノ粒子を含んだ方が、物質伝達特性に優れ、さらに熱伝逹特性においても優れていることが分かった。また、前記物質伝達特性は、CNT、鉄ナノ粒子の両方ともその濃度が0wt%から0.1wt%にいくほど優れている。しかし、ナノ粒子の濃度が0.01wt%を超えると、粘度とシステムの駆動に問題を引き起こすことがある。一方、上述したように、CNT、鉄ナノ粒子の両方ともその濃度が0.001〜0.01wt%であるときに分散安定性が良好であるが、CNTナノ粒子の場合は0.01wt%であるときに、鉄ナノ粒子の場合は0.001wt%であるときに優れた分散安定性を示した。したがって、CNTナノ粒子の濃度は、分散安定性、物質伝達を考慮して、0.01wt%にすることが好ましく、鉄ナノ粒子の濃度は、分散安定性、物質伝達を考慮して、0.001wt%にすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による二成分ナノ流体吸収液の調製ステップを説明するフローチャートである。
【図2】本発明の実施例において、二成分流体に添加される鉄ナノ粒子のFE―SEM写真図である。
【図3】本発明の実施例において、二成分流体に添加されるCNTナノ粒子のFE―SEM写真図である。
【図4】本発明の実施例による二成分ナノ流体吸収液を製造する製造装置である。
【図5a】本発明の実施例において、CNTナノ粒子を分散させた二成分ナノ流体にする各濃度によるゼータ電位の絶対値の測定結果を示すグラフである。
【図5b】本発明の実施例において、鉄ナノ粒子を分散させた二成分ナノ流体にする各濃度によるゼータ電位の絶対値の測定結果を示すグラフである。
【図6a】本発明による実施例サンプルの分散直後の写真図である。
【図6b】本発明による実施例サンプルの30日経過後の写真図である。
【図7】本発明の実施例による吸収液の熱伝逹効率を測定する実験装置を示す概略図である。
【図8】本発明の実験3において、鉄とカーボンナノチューブのナノ粒子の各濃度を異にした場合に対して、一般の溶液の吸収率に対する二成分ナノ流体を用いた場合の吸収率の増加具合を比べたグラフである。
【図9a】本発明による実験3においてCNTナノ粒子を分散させた二成分ナノ流体の吸収率を測定したグラフである。
【図9b】本発明による実験3において鉄ナノ粒子を分散させた二成分ナノ流体の吸収率を測定したグラフである。
【図10a】本発明による実験3において鉄ナノ粒子を分散させた二成分ナノ流体の熱伝逹量変化を測定したグラフである。
【図10b】本発明による実験3においてCNTナノ粒子を分散させた二成分ナノ流体の熱伝逹量変化を測定したグラフである。
【符号の説明】
【0028】
10 増幅器
20 圧力ゲージ
30 ポンプ
40 貯留容器
50 弁体
60 超音波発生器
70 電源
90 超音波処理用密閉空間
100 吸収器
110 分配器
120 伝熱管
130 ヒーター
140 可視窓
150 溶液受け
200 補助タンク
300 冷凍機
500 ポンプ
510 サーモカップル
520 電子流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二成分流体及びナノ粒子からなる吸収液であって、
前記二成分流体は、臭化リチウムと水との混合溶液であり、前記吸収液には超音波が加えられたことを特徴とする二成分ナノ流体吸収液。
【請求項2】
前記二成分ナノ流体吸収液は、分散安定剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の二成分ナノ流体吸収液。
【請求項3】
前記分散安定剤は、アラビアゴムであることを特徴とする請求項2に記載の二成分ナノ流体吸収液。
【請求項4】
前記アラビアゴムの濃度は、該アラビアゴムを含む吸収液に対して0.01〜0.1wt%であることを特徴とする請求項3に記載の二成分ナノ流体吸収液。
【請求項5】
前記臭化リチウムの濃度は、該臭化リチウムと水との混合溶液に対して0wt%超過55wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の二成分ナノ流体吸収液。
【請求項6】
前記ナノ粒子の濃度は、前記吸収液に対して0.001〜0.01wt%であることを特徴とする請求項1に記載の二成分ナノ流体吸収液。
【請求項7】
前記ナノ粒子は、カーボンナノチューブのナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の二成分ナノ流体吸収液。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブのナノ粒子の濃度は、0.01wt%であることを特徴とする請求項7に記載の二成分ナノ流体吸収液。
【請求項9】
前記ナノ粒子は、鉄ナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の二成分ナノ流体吸収液。
【請求項10】
前記鉄ナノ粒子の濃度は、0.001wt%であることを特徴とする請求項9に記載の二成分ナノ流体吸収液。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の二成分ナノ流体吸収液を用いることを特徴とする吸収器。
【請求項12】
請求項11に記載の吸収器を含むことを特徴とする吸収式冷凍装置。
【請求項13】
二成分流体及びナノ粒子からなる二成分ナノ流体吸収液の製造方法であって、
前記二成分流体として臭化リチウムと水との混合溶液を用意する第1のステップと、
前記二成分流体にナノ粒子を添加して二成分ナノ流体を調製する第2のステップと、及び
前記二成分ナノ流体に超音波処理を施す第3のステップと、を含むことを特徴とする二成分ナノ流体吸収液の製造方法。
【請求項14】
前記第3のステップでは、前記超音波処理を2回以上繰り返し施すことを特徴とする請求項13に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造方法。
【請求項15】
前記製造方法は、前記超音波処理を施された二成分ナノ流体の分散安定性を測定する第4のステップをさらに含むことを特徴とする請求項13または14に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造方法。
【請求項16】
前記第4のステップでは、前記超音波処理を施された二成分ナノ流体のゼータ電位を測定することにより前記二成分ナノ流体の分散安定性を測定することを特徴とする請求項15に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造方法。
【請求項17】
前記第4のステップでは、前記超音波処理を施された二成分ナノ流体を撮像して前記二成分ナノ流体の分散具合を可視化することにより前記二成分ナノ流体の分散安定性を測定することを特徴とする請求項15に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造方法。
【請求項18】
前記第4のステップは、前記超音波処理を施された二成分ナノ流体のゼータ電位を測定して前記二成分ナノ流体の分散安定性を測定する第4−1のステップと、及び前記第4−1のステップの後、前記二成分ナノ流体を撮像して前記二成分ナノ流体の分散具合を可視化することにより前記二成分ナノ流体の分散安定性を測定する第4−2のステップと、を含むことを特徴とする請求項15に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造方法。
【請求項19】
前記製造方法は、前記第4のステップの後、前記第2のステップに戻って前記ナノ粒子の濃度またはサイズを調節し、または前記分散安定剤の濃度を調節することを特徴とする請求項15に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造方法。
【請求項20】
前記製造方法は、前記第4のステップの後、前記第3のステップに戻って超音波処理の強度または超音波処理の回数を調節することを特徴とする請求項15に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造方法。
【請求項21】
二成分流体及びナノ粒子からなる二成分ナノ流体吸収液の製造装置であって、
臭化リチウムと水との混合溶液にナノ粒子が添加された二成分ナノ流体を提供する二成分ナノ流体提供部と、及び
前記二成分ナノ流体提供部から提供された二成分ナノ流体に超音波処理を施す超音波処理部と、を含むことを特徴とする二成分ナノ流体吸収液の製造装置。
【請求項22】
前記超音波処理部は、超音波を発生させる超音波発生器と、及び前記二成分ナノ流体提供部からの二成分ナノ流体が一時貯留され、前記超音波発生器からの超音波が印加されて前記一時貯留された二成分ナノ流体に超音波処理が施される超音波処理空間と、を含むことを特徴とする請求項21に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造装置。
【請求項23】
前記超音波処理部は、前記超音波発生器からの超音波を増幅して前記超音波処理空間に印加する超音波増幅器をさらに含むことを特徴とする請求項22に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造装置。
【請求項24】
前記製造装置では、前記二成分ナノ流体が前記二成分ナノ流体提供部と前記超音波処理部を循環して2回以上超音波処理が施されることを特徴とする請求項21に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造装置。
【請求項25】
前記製造装置は、前記超音波処理を施された二成分ナノ流体の分散安定性を測定する分散安定性測定装置をさらに含むことを特徴とする請求項21乃至24の何れか一項に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造装置。
【請求項26】
前記分散安定性測定装置は、前記二成分ナノ流体のゼータ電位を測定することにより前記二成分ナノ流体の分散安定性を測定することを特徴とする請求項25に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造装置。
【請求項27】
前記分散安定性測定装置は、前記二成分ナノ流体を撮像して前記二成分ナノ流体の分散具合を可視化することにより前記二成分ナノ流体の分散安定性を測定することを特徴とする請求項25に記載の二成分ナノ流体吸収液の製造装置。

【図1】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図2】
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【図3】
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【図6a】
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【図6b】
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【公開番号】特開2009−115439(P2009−115439A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299686(P2007−299686)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年5月18日 Korea Energy Management Corporation(韓国エネルギー管理公団)発行の「2次年度総括推進度報告書」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月8日 インターネットアドレス「http://www.icr2007.org/webtool/html/admin/upload/upfiles/2007080808.pdf」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月21日 International Institute of Refrigeration(国際低温学会)発行の「ICR、Beijing2007(CD−ROM)」に発表
【出願人】(506336603)エルエス ケーブル リミテッド (9)
【Fターム(参考)】