二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法,及びその培養物
【課題】本発明は,放線菌に属する微生物とミコール酸を細胞表層に含有する微生物とを共培養して,放線菌に新たな二次代謝産物を生産させ又はその生産量を増大させる二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法及びその培養物を提供する。
【解決手段】本発明は,ミコール酸を含有する微生物が放線菌に外部より刺激し,それに放線菌が応答して二次代謝生合成遺伝子クラスターの遺伝子発現を活性化するが,放線菌に対して異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持し,その作製した放線菌とミコール酸とを共培養し,放線菌に新たな二次代謝産物を生産させ又はその生産量を増大させる。
【解決手段】本発明は,ミコール酸を含有する微生物が放線菌に外部より刺激し,それに放線菌が応答して二次代謝生合成遺伝子クラスターの遺伝子発現を活性化するが,放線菌に対して異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持し,その作製した放線菌とミコール酸とを共培養し,放線菌に新たな二次代謝産物を生産させ又はその生産量を増大させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,放線菌とミコール酸含有微生物との共培養を用いた異種微生物由来の天然物である二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法及びその培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物培養において,純粋培養は基本的技術とされている。抗生物質スクリーニングにおいても,純粋培養された菌株からこれまでに多くの有用物質が発見されている。医薬品をはじめ,天然物からの抗生物質スクリーニングには,純粋分離された菌株を使用するのが一般的である。
【0003】
従来,放線菌は,多様な天然物即ち二次代謝産物を生産する微生物として知られており,これらの二次代謝産物の一部は,抗生物質をはじめとする医薬品,農薬,或いは生理活性物質として利用されている。放線菌をはじめとして原核微生物の二次代謝生合成遺伝子は,染色体上でクラスターをなしており,数百から数十キロ塩基にわたって染色体にコードされている。放線菌は,一菌株あたり,約30の二次代謝生合成遺伝子クラスターを有していることが最近のゲノム解析により明らかになっている。これまでにゲノム解析が終了したものにおいては,例えば,ストレプトマイセス・エバーミチリス(Streptomyces
avermitilis)MA-4680 は32種類,ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces
coelicolor A3(2)) は25種類,ストレプトマイセス・グリセウス (Streptomyces
griseus) IFO13350は34種類, 及びストレプトマイセス・ビンチャンエンシス
(Streptomyces bingchengensis) BCW-1 は23種類の二次代謝生合成遺伝子クラスターが存在していることが報告されている。また,これらの二次代謝産物の内訳は, エス・エバーミチリスを例に取ると,ポリケチド化合物が12種類,ペプチド化合物が8種類,テルペン化合物が6種類,及び色素,シデロフォア等が6種類となっている。
【0004】
また,宿主ベクター系の確立した放線菌宿主を用いて,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子発現系を構築することにより,生合成遺伝子の遺伝子組換えが容易になる利点もあるため,このような二次代謝生合成遺伝子全長の異種放線菌への移植による抗生物質の生産例がストレプトマイセス属(Streptomyces)を中心に多数報告されている(例えば,非特許文献1参照))。
【0005】
また,本発明者は,純粋培養時にはほとんど生産しない,このような二次代謝産物を効率的に生産する培養法として,複合培養法を開発し,先に特許出願した(例えば,特許文献1及び特許文献2参照)。
【0006】
また,複合培養法は,放線菌とミコール酸含有微生物とを混合して培養することにより二次代謝産物を放線菌に新たに生産させる又はその生産量を増大させるという天然物即ち二次代謝産物製造方法である。ミコール酸を含有する微生物と放線菌とを共培養すると,放線菌純粋培養時には確認できなかった二次代謝産物の生産が確認される。これは,ミコール酸を細胞表層に含有する微生物が放線菌の二次代謝生合成遺伝子クラスターの転写調節スイッチをオンにし,遺伝子発現を誘導させるためであり,このため二次代謝産物の新規生産や生産量の増大がおこる。これまでに調べられた9割以上の放線菌が複合培養することにより,二次代謝産物のパターンに変化が生じることが明らかになっている(例えば,特許文献1及び特許文献2及び非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−207385
【特許文献2】特許第4365843号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H. Onaka, S. Taniguchi, H.Ikeda, Y. Igarashi and T. Furumai,pTOYAM Acos, pTYM18, and pTYM19, actinomycete-Escherichia coli integrating vectors for heterologous gene expression. The Journal of Antibiotics, 56: 950-956 (2003).
【非特許文献2】H. Onaka, Y. Mori, Y. Igarashi, T. Furumai, Mycolic acid- containing bacteria induce natural-product biosynthesis in Streptomyces species.Appl. Environ. Microbiol. 77(2): 406 (2011).
【非特許文献3】日本放線菌学会編,放線菌の分類と同定,P179-191日本学会事務センター。
【非特許文献4】H. Onaka, M. Nakaho, K. Hayashi, Y. Igarashi, T. Furumai, Cloning and characterization of the goadsporin biosynthetic gene cluster from Streptomyces sp. TP-A0584. Microbiology, 151: 3923-3933 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら,従来の純粋培養法では,1種あたり30種類以上存在する二次代謝生合成遺伝子クラスターのうち生産が確認されている抗生物質は数種類であり,例えば,エス・グリセウスについては生産物が確認できているのは,4種類であり,8 割以上の二次代謝産物は生産が確認できていない。そこで,天然物即ち二次代謝産物の探索においては,残りの8割以上の二次代謝産物を効率的に生産させる手法が求められている。また、二次代謝生合成遺伝子全長の異種放線菌への移植による抗生物質の生産においては,しばしば異種放線菌内で移植した二次代謝生合成遺伝子が発現しなかったり,発現したとしても,その生産量が少ないことが多々ある。そのため,異種宿主内で効率的に二次代謝生合成遺伝子を発現させる工夫が求められている。
【0010】
この発明の目的は,予め異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを,放線菌の染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持させることにより,その放線菌を用いてミコール酸を含有する微生物と共培養して,放線菌の二次代謝能を活性化することにより,放線菌に予め組み込んでおいた異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子を発現誘導させ,新たな二次代謝産物を生産させる又はその生産量を増大させる二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法,及びその培養物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,作製した前記放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養し,前記放線菌に新たな二次代謝産物を生産させる又は前記二次代謝産物の生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物スクリーニング方法に関する。
【0012】
また,この発明は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,作製した前記放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養することにより,前記放線菌に培養液中に新たな二次代謝産物を生産させる又は前記二次代謝産物の生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物製造方法に関する。
【0013】
更に,この発明は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持して作製した少なくとも一種の放線菌と,少なくとも一種のミコール酸含有微生物とを共培養して,培養液中に二次代謝産物を蓄積させたことを特徴とする培養物に関する。
【0014】
この発明において,前記放線菌はストレプトマイセス属(Streptomyces)であることが好ましい。更に,前記ストレプトマイセス属の放線菌がストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans )であることが好ましい。また,前記ミコール酸含有微生物は,ツカムレラ(Tsukamurella) ,コリネバクテリウム(Corynebacterium) 属,ロドコッカス(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,及びマイコバクテリウム(Mycobacterium) 属のいずれかに属する微生物であることが好ましい。
【0015】
この発明は,上記のように,純粋培養では発現しない遺伝子を発現させることが可能である複合培養法を異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌に適用することにより,ゲノム解析により明らかにされた異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを効率的に生産させることができるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】pTOYAMAcosのプラスミドマップを示す図である。
【図2】レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターをpTOYAMAcosにクローニングして作製したpTYMcos−rebのプラスミドマップを示す図である。
【図3】スタウロスポリン生合成遺伝子クラスターをpTOYAMAcosにクローニングして作製したpTYMcos−sta10のプラスミドマップを示す図である。
【図4】ゴードスポリン生合成遺伝子クラスターをpTOYAMAcosにクローニングして作製したpGSBc1のプラスミドマップを示す図である。
【図5】pTYMcos−rebを染色体DNA中に組み込んだエス・リビダンス(S.lividans)の純粋培養及び複合培養時のレベッカマイシン生産量を示すグラフである。
【図6】pTYMcos−sta10を染色体DNA中に組み込んだエス・リビダンス(S.lividans)の純粋培養及び複合培養時のスタウロスポリン生産量を示すグラフである。
【図7】pGSBc1を染色体DNA中に組み込んだエス・リビダンス(S.lividans)の純粋培養及び複合培養時のゴードスポリン生産量を示すグラフである。
【図8】pTYMcos−sta7を染色体DNA中に組み込んだエス・リビダンス(S.lividans)の純粋培養及びツカムレラ・プルモニスとの複合培養時のそれぞれの培養液のブタノール抽出液を高速液体クロマトグラフィーによって分析したプロファイルである。
【図9】図8において複合培養時特異的に検出されたピークのUVスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明は,特許第4365843号及び特開2009ー207385号公報に記載されている方法,即ち少なくとも1種のミコール酸を含有する微生物及び少なくとも1種の放線菌を同一の培養容器内にて共培養する方法において,予め異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを放線菌の染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持させたものを作製し,次いで,その作製した放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養して,その放線菌に新たな天然物即ち二次代謝産物を効率的に生産させる或いはその生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法,及びその培養物に関するものである。
【0018】
ところで,二次代謝生合成遺伝子は,ゲノム上でクラスターを構成しているので,生産が確認できない二次代謝産物の生合成遺伝子全長をクローニングすることが可能である。クローニングした遺伝子を別の放線菌へ形質転換することにより,異種微生物由来の生産が確認できない二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ,又はプラスミドで保持した放線菌を作製することができ,この結果,形質転換した放線菌を宿主として異種微生物由来の二次代謝生産を行わせることが可能である。
しかしながら,宿主を替えてもクローニングした遺伝子が宿主内で発現しなかったり,生産量が少ないことが多々ある。そのため,異種宿主内で効率的に二次代謝生合成遺伝子を発現させる工夫が求められている。
【0019】
複合培養は,放線菌に属する微生物とミコール酸を細胞表層に含有する微生物とを共培養する培養法であり,複合培養を行うと放線菌の二次代謝パターンが純粋培養時に比べて変化し,新たな二次代謝産物の生産もしくは二次代謝産物の生産量が増大する。この現象,即ち,複合培養現象は,ミコール酸を細胞表層に含有する微生物が放線菌を外部より刺激し,放線菌がそれに応答して二次代謝生合成遺伝子クラスターの遺伝子発現を活性化することにより生じたものと考えられる。本願発明は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌を用いて複合培養を行うことにより,外来二次代謝産物の新規生産や生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法,及びその培養物である。
【0020】
まず,本発明者は,それぞれ異なる放線菌由来のスタウロスポリン,レベッカマイシン,又はゴードスポリン生合成遺伝子クラスターをストレプトマイセス・リビダンスの染色体DNA中にそれぞれ組み込み,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ放線菌を参考例に示すとおりに作製した。
次いで,作製した放線菌をミコール酸を細胞表層に含有する微生物であるツカムレラ・プルモニス,ロドコッカス・エリスロポリス,又はコリネバクテリウム・グルタミカムと共にそれぞれ複合培養を行い,それぞれの培養液からスタウロスポリン,レベッカマイシン,ゴードスポリンを抽出し,その生産量を実施例1に示すように測定した。
その結果を,図5,図6,及び図7に示す。これらの図において,図5,図6,及び図7において,+Tp,+Cg,+Reは,それぞれツカムレラ・プルモニス(Tp),コリネバクテリウム・グルタミカム(Cg),及びロドコッカス・エリスロポリス(Re)と複合培養した際の生産量を示す。なお,培養条件は本文中実施例に示す。
【0021】
その結果,図5に示すように,レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだエス・リビダンスは,純粋培養時には,1mg/Lの生産量であったのに対して,3種の微生物,ツカムレラ・プルモニス,ロドコッカス・エリスロポリス,又はコリネバクテリウム・グルタミカムと複合培養した時には,それぞれ,14mg/L,12mg/L,及び28mg/Lと最大28倍程度まで生産量を増大させることができた。
【0022】
同様に,図6に示すように,スタウロスポリン生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだエス・リビダンスは,純粋培養時には,19mg/Lの生産量であったのに対して,3種の微生物と複合培養した時には,それぞれ,78mg/L,70mg/L,及び103mg/Lと最大5倍程度まで生産量を増大させることができた。
【0023】
また,図7に示すように,ゴードスポリン生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだエス・リビダンスは,純粋培養時には,39mg/Lの生産量であったのに対して,2種の微生物と複合培養した時には,それぞれ,143mg/L,及び82mg/Lと最大3.5倍程度まで生産量を増大させることができた。
以上の結果から,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ放線菌において,複合培養によって,その生産量が増大することが示されるに至った。
【0024】
この発明による新たな二次代謝産物についての説明を記載すると,次のとおりである。新たな二次代謝産物は,ストレプトマイセス・エスピーTP−A0274(Streptomyces sp.TP-A0274)由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターをpTYMcos−Sta7を用いて染色体上に組み込んだ放線菌とミコール酸含有微生物であるツカムレラ・プルモニスとを複合培養することによって,実施例2に示すような高速液体クロマトグラフィーによる溶出位置と紫外線吸収波形により同定される新たな二次代謝産物の生産を確認した。その結果を,図8に示す。図8及び図9に示すように,ストレプトマイセス・エスピー
TP−A0274(Streptomyces sp. TP-A0274 )由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターをpTYMcos−Sta7を染色体上に組み込んだエス・リビダンスは,純粋培養時には検出できなかった10分,10.5分,13分に溶出されるピークが高速液体クロマトグラフィーにより検出できた。
以上の結果から,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ放線菌において,複合培養によって,放線菌に新たな二次代謝産物を生産させる又はその二次代謝産物の生産量を増大させることが示されるに至った。
【0025】
−天然物即ち二次代謝産物のスクリーニング方法−
この発明による二次代謝産物のスクリーニング方法は,まず,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,その作製した放線菌を用いて複合培養を行い,培養液中に二次代謝産物が含まれているかを確認することに特徴を有するものである。
二次代謝産物は,例えば,抗菌性抗生物質,制ガン性抗生物質,抗寄生虫物質,酵素阻害剤等になることができる。
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターにおける,由来となる異種微生物は,組換え宿主内で発現可能な遺伝子を有する微生物であることが好ましい。特に,宿主が放線菌であるため,宿主内での遺伝子発現を考慮すると,放線菌であることが好ましい。 具体的には,二次代謝産物を生産する主な放線菌としては,アクチノマイセス
(Actinomyces ),ノカルディア(Nocardia),ロドコッカス(Rhodococcus ),ミクロモノスポラ(Micromonospora),アクチノプラネス(Actinoplanes),ダクチロスポランギウム(Dactylosporangium ),ノカルディオイデス(Nocardioides),シュードノカルディア(Pseudonocardia),アクチノビスポラ(Actinobispora ),アミコラトプシス
(Amycolatopsis ),サッカロモノスポラ(Saccharomonospora ),アクチノシネマ
(Actinosynnema ),アクチノキネオスポラ(Actinokineospora),ストレプトマイセス(Streptomyces),キタサトスポラ(Kitasatospora ),ストレプトスポランギウム
(Streptosporangium ),ミクロビスポラ(Microbispora),ミクロテトラスポラ
(Microtetraspora ),ノノムラエ(Nonomuraea),ノカルディオプシス(Nocardiopsis),アクチノマデュラ(Actinomadura),キネオコッカス(Kineococcus ),キネオスポリア(Kineosporia ),ルシバリエリア(Lechevarieria ),及びサーモビスポラ
(Thermobispora )由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターであることが好ましい(非特許文献3参照)。
また,対象となる二次代謝生合成遺伝子クラスターは,宿主放線菌で発現可能であれば,ゲノム解析により新たに推定される未知の二次代謝生合成遺伝子クラスター,及び既知の二次代謝生合成遺伝子クラスター等のような二次代謝生合成遺伝子クラスターを用いることができる。その中で,好ましくは,ポリケチド化合物,ペプチド化合物,テルペン化合物,シキミ酸経路由来化合物,アルカロイド化合物,フラボノイド化合物等の生合成遺伝子クラスターを挙げることができる。
【0026】
また,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌における宿主となる放線菌は,複合培養により二次代謝に変化が生じる放線菌であり,特に,特許第4365843号,及び特開2009ー207385号公報に記載の天然物スクリーニング方法に使用されたストレプトマイセス属放線菌が好ましい。特に,ストレプトマイセス属放線菌の中では遺伝子操作系の確立している種である,例えば,エス・リビダンス,エス・セリカラー,又はエス・エバーミチリスなどが特に好ましい。
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌において,染色体上に組み込む又はプラスミドで保持する方法は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスター全長を組換え宿主で複製可能なコスミドベクター(例えば,非特許文献4に記載されているpTOYAMAcos)を用いて,定法に従ってクローニングし,定法(例えば,プロトプラスト法やプラスミド接合伝達法)に従って宿主放線菌に形質転換したものを用いることができる。
【0027】
組換え宿主放線菌と共培養をする微生物は,特許第4365843号,特開2009ー207385号公報,又は非特許文献2に記載されているミコール酸を含有する微生物ならば,どのような微生物を用いてもよい。ミコール酸を含有する細菌のうち,複合培養現象が確認されているものは,コリネバクテリウム(Corynebacterium) 属,ロドコッカス
(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,ウィラムジア(Williamsia)属,マイコバクテリウム(Mycobacterium) 属,及びツカムレラ(Tsukamurella)属であるため,特に,これらのミコール酸を含有する微生物と複合培養することが好ましい。また,培養液中に二次代謝産物が含まれているかの確認は,二次代謝産物の種類に応じて,公知の方法を用いて行うことができる。例えば,公知の方法の一つとしては,培養液を有機溶媒抽出し,その抽出物をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって測定することにより確認する方法が考えられる。
【0028】
−天然物即ち二次代謝産物の製造方法−
この発明による二次代謝産物の製造方法は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ,又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,その作製した放線菌とミコール酸含有微生物とを複合培養を行い,培養液中に産生される二次代謝産物を採取することを特徴とするものである。
ここで使用される異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ,又はプラスミドで保持した放線菌は,上記スクリーニング方法で二次代謝産物を生産することが確認された菌であることが適当である。
対象となる二次代謝生合成遺伝子クラスターも上記スクリーニング方法で宿主放線菌において遺伝子発現することが確認されたクラスターであることが適当である。
二次代謝産物の培養方法,及びその条件も,上記スクリーニング方法で説明したものと同様であるが,所望するターゲットの二次代謝産物の生産量が多くなるように最適化して行われることが好ましい。二次代謝産物の培養方法では,所定量の二次代謝産物が生産され,培養液に蓄積された時点で終了し,培養液から二次代謝産物を採取する。二次代謝産物の採取方法は,二次代謝産物の種類に応じて,公知の方法から適宜選択して行うことができる。
【0029】
−培養物−
この発明は,異種微生物由来二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ,又はプラスミドで保持した放線菌を作製した放線菌を用いて複合培養を行い,培養液中に産生される二次代謝産物も含有するものである。この発明で得られる培養物は,この発明の製造方法において,所定量の二次代謝産物が産生され,培養液に蓄積された時点で,培養を終了して得られる培養液であることができる。又は,この培養液を更に加工や処理を施して,二次代謝産物含有物として利用することができる。
【0030】
次に,この発明を,実施例により更に詳細に説明をすると,次に記載する事項を参考にすることができる。
( 参考例)
ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) への異種放線菌由来の抗生物質生合成遺伝子クラスターの導入
1.レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターを含むシャトルベクターの作製
1−1:材料・試薬
pTOYAMAcos (大腸菌・放線菌シャトルコスミドベクター)
レチェバリエリア・アエロコロニジェン(Lechevalieria aerocolonigenes ATCC39243) の染色体DNA
1−2:プラスミドの作製
レベッカマイシン生産菌であるレチェバリエリア・アエロコロニジェン(Lechevalieriaaerocolonigenes ATCC39243)の染色体をSau3AIにて部分消化し,
pTOYAMAcosのマルチクローニングサイト内のBamHIへ挿入し,染色体コスミドライブラリーを作製した(図1) 。Ngt (N-glycosyltransferase)遺伝子をプローブとし定法に従ってコロニーハイブリダイゼーションを行い,レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターを取得し,pTYMcos−rebをクローニングした(図2,DDBJAccession Number AB071405)。
2.スタウロスポリン生合成遺伝子クラスターを含むシャトルベクターの作製
2−1:材料・試薬
pTOYAMAcos
ストレプトマイセス・エスピーTP−A0274(Streptomyces sp. TP-A0274) の染色体DNA
2−2:プラスミドの作製
スタウロスポリン生産菌である ストレプトマイセス・エスピーTP−A0274
(Streptomyces sp. TP-A0274) を前述のとおり部分消化し,コスミドライブラリーを作製した。rebD遺伝子をプローブとし,定法に従ってコロニーハイブリダイゼーションを行い,スタウロスポリン生合成遺伝子クラスター全長(図3)を含むpTYMcos−
Sta10及び未知の二次代謝生合成遺伝子クラスターを含むpTYMcos−Sta7をクローニングした(図3,DDBJ Accession Number
AB071406)。
3.ゴードスポリン生合成遺伝子を含むシャトルベクターの作製
3−1:材料・試薬
pTOYAMAcos
ストレプトマイセス・エスピーTP−A0584(Streptomyces sp. TP-A0584) の染色体DNA
3−2:プラスミドの作製
ゴードスポリン生産菌であるストレプトマイセス・エスピーTP−A0584
(Streptomyces sp. TP-A0584) の染色体をSau3AIにて部分消化し,図1に示す
pTOYAMAcosのマルチクローニングサイト内のBamHIへ挿入し,染色体コスミドライブラリーを作製した。godA遺伝子をプローブとして,定法に従ってコロニーハイブリダイゼーションを行い,ゴードスポリン生合成遺伝子クラスターをを含む
pGSBc1を構築した(図4,DDBJ Accession Number
AB025012,非特許文献4参照)。
4. 遺伝子導入
構築したプラスミドpTYMcos−reb,pTYMcos−Sta10,
pTYMcos−Sta7,pGSBclを,プラスミド接合伝達性大腸菌エッシェリキアコリS17−1を用いてストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) の染色体上に組み込ませ,形質転換体を取得した(大腸菌の形質転換,放線菌への接合伝達法については従来公知の方法でよい)。
【実施例1】
【0031】
5. 異種放線菌由来の抗生物質生合成クラスター遺伝子による形質転換体を用いた複合誘導による抗生物質生産の増大
異種放線菌由来の抗生物質生合成クラスター遺伝子を形質転換したストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) をV−22液体培地で30℃2日間振とう培養した。 ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis ),ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)を培養した場合は,V−22液体培地(0.1%澱粉,0.5%グルコース,0.3%NZ−case,0.2%酵母抽出物,0.5%トリペプトン,0.3%K2 HPO4 ,0.5%MgSO4 ・7H2 O,0.3%CaCO3 ,pH7.0)で30℃,それぞれ2日間,一方,コリネバクテリウム・グルタミカム
(Corynebacterium glutamicum)を培養した場合は,V−22液体培地で30℃,1 日間振とう培養した。
A−3M培地(0.5%グルコース,2.0%グリセロール,2.0%澱粉,1.5%ファーマメディア,0.3%酵母抽出物,1.0%HP−20,pH7.0)に形質転換ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) を3%,ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis ),ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus
erythropolis),又はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)はそれぞれ1%植菌し,7日間30℃で振とう培養した。
培養液を等量のブタノールで抽出し,ブタノール層をロータリーエバポレータにて濃縮後,ジメチルスルホキシドにて溶解し,高速液体クロマトグラフィーにて解析を行った。その際,クロマトグラムのそれぞれの生産物ピーク面積を標品と比較して定量を行った。用いた評品はスタウロスポリン,レベッカマイシン,及び/又はゴードスポリンである。スタウロスポリン,レベッカマイシンは,ジメチルスルホキシドで10mg/mlの濃度に溶解し,HPLCにインジェクトした。スタウロスポリン,レベッカマイシンは市販品を使用した。
ゴードスポリンは,非特許文献4に示す方法で精製した評品を,25mg/mlの濃度にジメチルスルホキシドで溶解し,HPLCにインジェクトした。
【0032】
HPLC(HP1100,Agilent )は,C18Reininカラム(Φ4.6×100mm)を使用し,カラム温度30℃,移動相には0.1%H3 PO4 バッファー(pH3. 5) およびアセトニトリルを用い,流速1.2ml/minで溶出した。溶出は0 から3分まで15%,3分から6分まで40%までの勾配,6分から12分まで40%,12分から19分まで55%までの勾配,19分から22分まで85%の勾配になるようにアセトニトリル濃度を調整して行った。スタウロスポリン及びレベッカマイシンの存在は290nmのUV吸収で検出し,ゴードスポリンの存在は230nmのUV吸収で検出した。
【0033】
高速液体クロマトグラフィー解析の結果,レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターを組み込んだエスリビダンスは純粋培養時には1mg/Lの生産量であったのに対して,ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis ),ロドコッカス・エリスロポリス
(Rhodococcus erythropolis)もしくはコリネバクテリウム・グルタミカム
(Corynebacterium glutamicum)と複合培養した時はそれぞれ,14mg/L,
12mg/L,28mg/Lと最大28倍程度まで生産量が増大した。
【0034】
スタウロスポリン生産においてはスタウロスポリン生合成遺伝子クラスター
pTYMcos−Sta10を組み込んだエスリビダンスは純粋培養時には19mg/Lの生産量であったのに対して,ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis ),ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis),又はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)と複合培養した時はそれぞれ,78mg/L,70mg/L,103mg/Lと最大5倍程度まで生産量が増大した。
【0035】
ゴードスポリン生産においてはゴードスポリン生合成遺伝子クラスターを組み込んだエスリビダンスは純粋培養時には39mg/Lの生産量であったのに対して,ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis )もしくはロドコッカス・エリスロポリス
(Rhodococcus erythropolis)と複合培養した時はそれぞれ,143mg/L,82mg/Lと最大3.5倍程度まで生産量が増大した。
【実施例2】
【0036】
1. 異種放線菌由来の抗生物質生合成クラスター遺伝子による形質転換体を用いた複合誘導による新たな二次代謝産物の生産
異種放線菌由来の抗生物質生合成クラスター遺伝子pTYMcos−Sta7を形質転換したストレプトマイセス・リビダンスをV−22液体培地で30℃で2日間振とう培養した。
ツカムレラ・プルモニスは,V−22液体培地で30℃で,それぞれ2日間振とう培養した。
A−3M培地に形質転換ストレプトマイセス・リビダンスを3%,ツカムレラ・プルモニスを1%植菌し,7日間にわたって30℃で振とう培養した。
培養液を等量のブタノールで抽出し,ブタノール層をロータリーエバポレータにて濃縮後,ジメチルスルホキシドにて溶解し,高速液体クロマトグラフィーにて解析を行った。その際,クロマトグラムのそれぞれの生産物ピークを形質転換ストレプトマイセス・リビダンスの純粋培養時のピークと比較して定量を行った。
【0037】
HPLC(HP1100,Agilent )は,C18Reininカラム(Φ4.6×100mm)を使用し,カラム温度30℃,移動相には0.1%H3 PO4 バッファー(pH3. 5) およびアセトニトリルを用い,流速1.2ml/minで溶出した。溶出は,0分から3分まで15%,3分から6分まで40%までの勾配,6分から12分まで40%,12分から19分まで55%までの勾配,及び19分から22分まで85%の勾配になるように,アセトニトリル濃度を調整して行った。二次代謝産物の存在は290nmのUV吸収で検出した。
【0038】
高速液体クロマトグラフィー解析の結果,図8に示すように,pTYMcos−
Sta7を組み込んだエス・リビダンスとツカムレラ・プルモニスと複合培養した時には10分,10.5分,13分にpTYMcos−Sta7を組み込んだエス・リビダンスのみの純粋培養時には検出できなかったピークが検出できた。また,10分,10.5分,13分のピークに該当するUVスペクトルは図9に示してある。以上の3つのピークはUV吸収スペクトルよりpTYMcos−Sta7を組み込んだエス・リビダンスとツカムレラ・プルモニスとを共培養した時にのみ新たに生産が確認できる二次代謝産物である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明は,抗生物質等の生理活性物質のスクリーニング,及びその製造方法に用いて有用であり,また,それらで得られる培養物を有効に利用することができる。
【技術分野】
【0001】
この発明は,放線菌とミコール酸含有微生物との共培養を用いた異種微生物由来の天然物である二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法及びその培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物培養において,純粋培養は基本的技術とされている。抗生物質スクリーニングにおいても,純粋培養された菌株からこれまでに多くの有用物質が発見されている。医薬品をはじめ,天然物からの抗生物質スクリーニングには,純粋分離された菌株を使用するのが一般的である。
【0003】
従来,放線菌は,多様な天然物即ち二次代謝産物を生産する微生物として知られており,これらの二次代謝産物の一部は,抗生物質をはじめとする医薬品,農薬,或いは生理活性物質として利用されている。放線菌をはじめとして原核微生物の二次代謝生合成遺伝子は,染色体上でクラスターをなしており,数百から数十キロ塩基にわたって染色体にコードされている。放線菌は,一菌株あたり,約30の二次代謝生合成遺伝子クラスターを有していることが最近のゲノム解析により明らかになっている。これまでにゲノム解析が終了したものにおいては,例えば,ストレプトマイセス・エバーミチリス(Streptomyces
avermitilis)MA-4680 は32種類,ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces
coelicolor A3(2)) は25種類,ストレプトマイセス・グリセウス (Streptomyces
griseus) IFO13350は34種類, 及びストレプトマイセス・ビンチャンエンシス
(Streptomyces bingchengensis) BCW-1 は23種類の二次代謝生合成遺伝子クラスターが存在していることが報告されている。また,これらの二次代謝産物の内訳は, エス・エバーミチリスを例に取ると,ポリケチド化合物が12種類,ペプチド化合物が8種類,テルペン化合物が6種類,及び色素,シデロフォア等が6種類となっている。
【0004】
また,宿主ベクター系の確立した放線菌宿主を用いて,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子発現系を構築することにより,生合成遺伝子の遺伝子組換えが容易になる利点もあるため,このような二次代謝生合成遺伝子全長の異種放線菌への移植による抗生物質の生産例がストレプトマイセス属(Streptomyces)を中心に多数報告されている(例えば,非特許文献1参照))。
【0005】
また,本発明者は,純粋培養時にはほとんど生産しない,このような二次代謝産物を効率的に生産する培養法として,複合培養法を開発し,先に特許出願した(例えば,特許文献1及び特許文献2参照)。
【0006】
また,複合培養法は,放線菌とミコール酸含有微生物とを混合して培養することにより二次代謝産物を放線菌に新たに生産させる又はその生産量を増大させるという天然物即ち二次代謝産物製造方法である。ミコール酸を含有する微生物と放線菌とを共培養すると,放線菌純粋培養時には確認できなかった二次代謝産物の生産が確認される。これは,ミコール酸を細胞表層に含有する微生物が放線菌の二次代謝生合成遺伝子クラスターの転写調節スイッチをオンにし,遺伝子発現を誘導させるためであり,このため二次代謝産物の新規生産や生産量の増大がおこる。これまでに調べられた9割以上の放線菌が複合培養することにより,二次代謝産物のパターンに変化が生じることが明らかになっている(例えば,特許文献1及び特許文献2及び非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−207385
【特許文献2】特許第4365843号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H. Onaka, S. Taniguchi, H.Ikeda, Y. Igarashi and T. Furumai,pTOYAM Acos, pTYM18, and pTYM19, actinomycete-Escherichia coli integrating vectors for heterologous gene expression. The Journal of Antibiotics, 56: 950-956 (2003).
【非特許文献2】H. Onaka, Y. Mori, Y. Igarashi, T. Furumai, Mycolic acid- containing bacteria induce natural-product biosynthesis in Streptomyces species.Appl. Environ. Microbiol. 77(2): 406 (2011).
【非特許文献3】日本放線菌学会編,放線菌の分類と同定,P179-191日本学会事務センター。
【非特許文献4】H. Onaka, M. Nakaho, K. Hayashi, Y. Igarashi, T. Furumai, Cloning and characterization of the goadsporin biosynthetic gene cluster from Streptomyces sp. TP-A0584. Microbiology, 151: 3923-3933 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら,従来の純粋培養法では,1種あたり30種類以上存在する二次代謝生合成遺伝子クラスターのうち生産が確認されている抗生物質は数種類であり,例えば,エス・グリセウスについては生産物が確認できているのは,4種類であり,8 割以上の二次代謝産物は生産が確認できていない。そこで,天然物即ち二次代謝産物の探索においては,残りの8割以上の二次代謝産物を効率的に生産させる手法が求められている。また、二次代謝生合成遺伝子全長の異種放線菌への移植による抗生物質の生産においては,しばしば異種放線菌内で移植した二次代謝生合成遺伝子が発現しなかったり,発現したとしても,その生産量が少ないことが多々ある。そのため,異種宿主内で効率的に二次代謝生合成遺伝子を発現させる工夫が求められている。
【0010】
この発明の目的は,予め異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを,放線菌の染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持させることにより,その放線菌を用いてミコール酸を含有する微生物と共培養して,放線菌の二次代謝能を活性化することにより,放線菌に予め組み込んでおいた異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子を発現誘導させ,新たな二次代謝産物を生産させる又はその生産量を増大させる二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法,及びその培養物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,作製した前記放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養し,前記放線菌に新たな二次代謝産物を生産させる又は前記二次代謝産物の生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物スクリーニング方法に関する。
【0012】
また,この発明は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,作製した前記放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養することにより,前記放線菌に培養液中に新たな二次代謝産物を生産させる又は前記二次代謝産物の生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物製造方法に関する。
【0013】
更に,この発明は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持して作製した少なくとも一種の放線菌と,少なくとも一種のミコール酸含有微生物とを共培養して,培養液中に二次代謝産物を蓄積させたことを特徴とする培養物に関する。
【0014】
この発明において,前記放線菌はストレプトマイセス属(Streptomyces)であることが好ましい。更に,前記ストレプトマイセス属の放線菌がストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans )であることが好ましい。また,前記ミコール酸含有微生物は,ツカムレラ(Tsukamurella) ,コリネバクテリウム(Corynebacterium) 属,ロドコッカス(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,及びマイコバクテリウム(Mycobacterium) 属のいずれかに属する微生物であることが好ましい。
【0015】
この発明は,上記のように,純粋培養では発現しない遺伝子を発現させることが可能である複合培養法を異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌に適用することにより,ゲノム解析により明らかにされた異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを効率的に生産させることができるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】pTOYAMAcosのプラスミドマップを示す図である。
【図2】レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターをpTOYAMAcosにクローニングして作製したpTYMcos−rebのプラスミドマップを示す図である。
【図3】スタウロスポリン生合成遺伝子クラスターをpTOYAMAcosにクローニングして作製したpTYMcos−sta10のプラスミドマップを示す図である。
【図4】ゴードスポリン生合成遺伝子クラスターをpTOYAMAcosにクローニングして作製したpGSBc1のプラスミドマップを示す図である。
【図5】pTYMcos−rebを染色体DNA中に組み込んだエス・リビダンス(S.lividans)の純粋培養及び複合培養時のレベッカマイシン生産量を示すグラフである。
【図6】pTYMcos−sta10を染色体DNA中に組み込んだエス・リビダンス(S.lividans)の純粋培養及び複合培養時のスタウロスポリン生産量を示すグラフである。
【図7】pGSBc1を染色体DNA中に組み込んだエス・リビダンス(S.lividans)の純粋培養及び複合培養時のゴードスポリン生産量を示すグラフである。
【図8】pTYMcos−sta7を染色体DNA中に組み込んだエス・リビダンス(S.lividans)の純粋培養及びツカムレラ・プルモニスとの複合培養時のそれぞれの培養液のブタノール抽出液を高速液体クロマトグラフィーによって分析したプロファイルである。
【図9】図8において複合培養時特異的に検出されたピークのUVスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明は,特許第4365843号及び特開2009ー207385号公報に記載されている方法,即ち少なくとも1種のミコール酸を含有する微生物及び少なくとも1種の放線菌を同一の培養容器内にて共培養する方法において,予め異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを放線菌の染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持させたものを作製し,次いで,その作製した放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養して,その放線菌に新たな天然物即ち二次代謝産物を効率的に生産させる或いはその生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法,及びその培養物に関するものである。
【0018】
ところで,二次代謝生合成遺伝子は,ゲノム上でクラスターを構成しているので,生産が確認できない二次代謝産物の生合成遺伝子全長をクローニングすることが可能である。クローニングした遺伝子を別の放線菌へ形質転換することにより,異種微生物由来の生産が確認できない二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ,又はプラスミドで保持した放線菌を作製することができ,この結果,形質転換した放線菌を宿主として異種微生物由来の二次代謝生産を行わせることが可能である。
しかしながら,宿主を替えてもクローニングした遺伝子が宿主内で発現しなかったり,生産量が少ないことが多々ある。そのため,異種宿主内で効率的に二次代謝生合成遺伝子を発現させる工夫が求められている。
【0019】
複合培養は,放線菌に属する微生物とミコール酸を細胞表層に含有する微生物とを共培養する培養法であり,複合培養を行うと放線菌の二次代謝パターンが純粋培養時に比べて変化し,新たな二次代謝産物の生産もしくは二次代謝産物の生産量が増大する。この現象,即ち,複合培養現象は,ミコール酸を細胞表層に含有する微生物が放線菌を外部より刺激し,放線菌がそれに応答して二次代謝生合成遺伝子クラスターの遺伝子発現を活性化することにより生じたものと考えられる。本願発明は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌を用いて複合培養を行うことにより,外来二次代謝産物の新規生産や生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物のスクリーニング方法,その製造方法,及びその培養物である。
【0020】
まず,本発明者は,それぞれ異なる放線菌由来のスタウロスポリン,レベッカマイシン,又はゴードスポリン生合成遺伝子クラスターをストレプトマイセス・リビダンスの染色体DNA中にそれぞれ組み込み,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ放線菌を参考例に示すとおりに作製した。
次いで,作製した放線菌をミコール酸を細胞表層に含有する微生物であるツカムレラ・プルモニス,ロドコッカス・エリスロポリス,又はコリネバクテリウム・グルタミカムと共にそれぞれ複合培養を行い,それぞれの培養液からスタウロスポリン,レベッカマイシン,ゴードスポリンを抽出し,その生産量を実施例1に示すように測定した。
その結果を,図5,図6,及び図7に示す。これらの図において,図5,図6,及び図7において,+Tp,+Cg,+Reは,それぞれツカムレラ・プルモニス(Tp),コリネバクテリウム・グルタミカム(Cg),及びロドコッカス・エリスロポリス(Re)と複合培養した際の生産量を示す。なお,培養条件は本文中実施例に示す。
【0021】
その結果,図5に示すように,レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだエス・リビダンスは,純粋培養時には,1mg/Lの生産量であったのに対して,3種の微生物,ツカムレラ・プルモニス,ロドコッカス・エリスロポリス,又はコリネバクテリウム・グルタミカムと複合培養した時には,それぞれ,14mg/L,12mg/L,及び28mg/Lと最大28倍程度まで生産量を増大させることができた。
【0022】
同様に,図6に示すように,スタウロスポリン生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだエス・リビダンスは,純粋培養時には,19mg/Lの生産量であったのに対して,3種の微生物と複合培養した時には,それぞれ,78mg/L,70mg/L,及び103mg/Lと最大5倍程度まで生産量を増大させることができた。
【0023】
また,図7に示すように,ゴードスポリン生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだエス・リビダンスは,純粋培養時には,39mg/Lの生産量であったのに対して,2種の微生物と複合培養した時には,それぞれ,143mg/L,及び82mg/Lと最大3.5倍程度まで生産量を増大させることができた。
以上の結果から,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ放線菌において,複合培養によって,その生産量が増大することが示されるに至った。
【0024】
この発明による新たな二次代謝産物についての説明を記載すると,次のとおりである。新たな二次代謝産物は,ストレプトマイセス・エスピーTP−A0274(Streptomyces sp.TP-A0274)由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターをpTYMcos−Sta7を用いて染色体上に組み込んだ放線菌とミコール酸含有微生物であるツカムレラ・プルモニスとを複合培養することによって,実施例2に示すような高速液体クロマトグラフィーによる溶出位置と紫外線吸収波形により同定される新たな二次代謝産物の生産を確認した。その結果を,図8に示す。図8及び図9に示すように,ストレプトマイセス・エスピー
TP−A0274(Streptomyces sp. TP-A0274 )由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターをpTYMcos−Sta7を染色体上に組み込んだエス・リビダンスは,純粋培養時には検出できなかった10分,10.5分,13分に溶出されるピークが高速液体クロマトグラフィーにより検出できた。
以上の結果から,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ放線菌において,複合培養によって,放線菌に新たな二次代謝産物を生産させる又はその二次代謝産物の生産量を増大させることが示されるに至った。
【0025】
−天然物即ち二次代謝産物のスクリーニング方法−
この発明による二次代謝産物のスクリーニング方法は,まず,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,その作製した放線菌を用いて複合培養を行い,培養液中に二次代謝産物が含まれているかを確認することに特徴を有するものである。
二次代謝産物は,例えば,抗菌性抗生物質,制ガン性抗生物質,抗寄生虫物質,酵素阻害剤等になることができる。
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターにおける,由来となる異種微生物は,組換え宿主内で発現可能な遺伝子を有する微生物であることが好ましい。特に,宿主が放線菌であるため,宿主内での遺伝子発現を考慮すると,放線菌であることが好ましい。 具体的には,二次代謝産物を生産する主な放線菌としては,アクチノマイセス
(Actinomyces ),ノカルディア(Nocardia),ロドコッカス(Rhodococcus ),ミクロモノスポラ(Micromonospora),アクチノプラネス(Actinoplanes),ダクチロスポランギウム(Dactylosporangium ),ノカルディオイデス(Nocardioides),シュードノカルディア(Pseudonocardia),アクチノビスポラ(Actinobispora ),アミコラトプシス
(Amycolatopsis ),サッカロモノスポラ(Saccharomonospora ),アクチノシネマ
(Actinosynnema ),アクチノキネオスポラ(Actinokineospora),ストレプトマイセス(Streptomyces),キタサトスポラ(Kitasatospora ),ストレプトスポランギウム
(Streptosporangium ),ミクロビスポラ(Microbispora),ミクロテトラスポラ
(Microtetraspora ),ノノムラエ(Nonomuraea),ノカルディオプシス(Nocardiopsis),アクチノマデュラ(Actinomadura),キネオコッカス(Kineococcus ),キネオスポリア(Kineosporia ),ルシバリエリア(Lechevarieria ),及びサーモビスポラ
(Thermobispora )由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターであることが好ましい(非特許文献3参照)。
また,対象となる二次代謝生合成遺伝子クラスターは,宿主放線菌で発現可能であれば,ゲノム解析により新たに推定される未知の二次代謝生合成遺伝子クラスター,及び既知の二次代謝生合成遺伝子クラスター等のような二次代謝生合成遺伝子クラスターを用いることができる。その中で,好ましくは,ポリケチド化合物,ペプチド化合物,テルペン化合物,シキミ酸経路由来化合物,アルカロイド化合物,フラボノイド化合物等の生合成遺伝子クラスターを挙げることができる。
【0026】
また,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌における宿主となる放線菌は,複合培養により二次代謝に変化が生じる放線菌であり,特に,特許第4365843号,及び特開2009ー207385号公報に記載の天然物スクリーニング方法に使用されたストレプトマイセス属放線菌が好ましい。特に,ストレプトマイセス属放線菌の中では遺伝子操作系の確立している種である,例えば,エス・リビダンス,エス・セリカラー,又はエス・エバーミチリスなどが特に好ましい。
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ又はプラスミドで保持した放線菌において,染色体上に組み込む又はプラスミドで保持する方法は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスター全長を組換え宿主で複製可能なコスミドベクター(例えば,非特許文献4に記載されているpTOYAMAcos)を用いて,定法に従ってクローニングし,定法(例えば,プロトプラスト法やプラスミド接合伝達法)に従って宿主放線菌に形質転換したものを用いることができる。
【0027】
組換え宿主放線菌と共培養をする微生物は,特許第4365843号,特開2009ー207385号公報,又は非特許文献2に記載されているミコール酸を含有する微生物ならば,どのような微生物を用いてもよい。ミコール酸を含有する細菌のうち,複合培養現象が確認されているものは,コリネバクテリウム(Corynebacterium) 属,ロドコッカス
(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,ウィラムジア(Williamsia)属,マイコバクテリウム(Mycobacterium) 属,及びツカムレラ(Tsukamurella)属であるため,特に,これらのミコール酸を含有する微生物と複合培養することが好ましい。また,培養液中に二次代謝産物が含まれているかの確認は,二次代謝産物の種類に応じて,公知の方法を用いて行うことができる。例えば,公知の方法の一つとしては,培養液を有機溶媒抽出し,その抽出物をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって測定することにより確認する方法が考えられる。
【0028】
−天然物即ち二次代謝産物の製造方法−
この発明による二次代謝産物の製造方法は,異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ,又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,その作製した放線菌とミコール酸含有微生物とを複合培養を行い,培養液中に産生される二次代謝産物を採取することを特徴とするものである。
ここで使用される異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ,又はプラスミドで保持した放線菌は,上記スクリーニング方法で二次代謝産物を生産することが確認された菌であることが適当である。
対象となる二次代謝生合成遺伝子クラスターも上記スクリーニング方法で宿主放線菌において遺伝子発現することが確認されたクラスターであることが適当である。
二次代謝産物の培養方法,及びその条件も,上記スクリーニング方法で説明したものと同様であるが,所望するターゲットの二次代謝産物の生産量が多くなるように最適化して行われることが好ましい。二次代謝産物の培養方法では,所定量の二次代謝産物が生産され,培養液に蓄積された時点で終了し,培養液から二次代謝産物を採取する。二次代謝産物の採取方法は,二次代謝産物の種類に応じて,公知の方法から適宜選択して行うことができる。
【0029】
−培養物−
この発明は,異種微生物由来二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体上に組み込んだ,又はプラスミドで保持した放線菌を作製した放線菌を用いて複合培養を行い,培養液中に産生される二次代謝産物も含有するものである。この発明で得られる培養物は,この発明の製造方法において,所定量の二次代謝産物が産生され,培養液に蓄積された時点で,培養を終了して得られる培養液であることができる。又は,この培養液を更に加工や処理を施して,二次代謝産物含有物として利用することができる。
【0030】
次に,この発明を,実施例により更に詳細に説明をすると,次に記載する事項を参考にすることができる。
( 参考例)
ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) への異種放線菌由来の抗生物質生合成遺伝子クラスターの導入
1.レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターを含むシャトルベクターの作製
1−1:材料・試薬
pTOYAMAcos (大腸菌・放線菌シャトルコスミドベクター)
レチェバリエリア・アエロコロニジェン(Lechevalieria aerocolonigenes ATCC39243) の染色体DNA
1−2:プラスミドの作製
レベッカマイシン生産菌であるレチェバリエリア・アエロコロニジェン(Lechevalieriaaerocolonigenes ATCC39243)の染色体をSau3AIにて部分消化し,
pTOYAMAcosのマルチクローニングサイト内のBamHIへ挿入し,染色体コスミドライブラリーを作製した(図1) 。Ngt (N-glycosyltransferase)遺伝子をプローブとし定法に従ってコロニーハイブリダイゼーションを行い,レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターを取得し,pTYMcos−rebをクローニングした(図2,DDBJAccession Number AB071405)。
2.スタウロスポリン生合成遺伝子クラスターを含むシャトルベクターの作製
2−1:材料・試薬
pTOYAMAcos
ストレプトマイセス・エスピーTP−A0274(Streptomyces sp. TP-A0274) の染色体DNA
2−2:プラスミドの作製
スタウロスポリン生産菌である ストレプトマイセス・エスピーTP−A0274
(Streptomyces sp. TP-A0274) を前述のとおり部分消化し,コスミドライブラリーを作製した。rebD遺伝子をプローブとし,定法に従ってコロニーハイブリダイゼーションを行い,スタウロスポリン生合成遺伝子クラスター全長(図3)を含むpTYMcos−
Sta10及び未知の二次代謝生合成遺伝子クラスターを含むpTYMcos−Sta7をクローニングした(図3,DDBJ Accession Number
AB071406)。
3.ゴードスポリン生合成遺伝子を含むシャトルベクターの作製
3−1:材料・試薬
pTOYAMAcos
ストレプトマイセス・エスピーTP−A0584(Streptomyces sp. TP-A0584) の染色体DNA
3−2:プラスミドの作製
ゴードスポリン生産菌であるストレプトマイセス・エスピーTP−A0584
(Streptomyces sp. TP-A0584) の染色体をSau3AIにて部分消化し,図1に示す
pTOYAMAcosのマルチクローニングサイト内のBamHIへ挿入し,染色体コスミドライブラリーを作製した。godA遺伝子をプローブとして,定法に従ってコロニーハイブリダイゼーションを行い,ゴードスポリン生合成遺伝子クラスターをを含む
pGSBc1を構築した(図4,DDBJ Accession Number
AB025012,非特許文献4参照)。
4. 遺伝子導入
構築したプラスミドpTYMcos−reb,pTYMcos−Sta10,
pTYMcos−Sta7,pGSBclを,プラスミド接合伝達性大腸菌エッシェリキアコリS17−1を用いてストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) の染色体上に組み込ませ,形質転換体を取得した(大腸菌の形質転換,放線菌への接合伝達法については従来公知の方法でよい)。
【実施例1】
【0031】
5. 異種放線菌由来の抗生物質生合成クラスター遺伝子による形質転換体を用いた複合誘導による抗生物質生産の増大
異種放線菌由来の抗生物質生合成クラスター遺伝子を形質転換したストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) をV−22液体培地で30℃2日間振とう培養した。 ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis ),ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)を培養した場合は,V−22液体培地(0.1%澱粉,0.5%グルコース,0.3%NZ−case,0.2%酵母抽出物,0.5%トリペプトン,0.3%K2 HPO4 ,0.5%MgSO4 ・7H2 O,0.3%CaCO3 ,pH7.0)で30℃,それぞれ2日間,一方,コリネバクテリウム・グルタミカム
(Corynebacterium glutamicum)を培養した場合は,V−22液体培地で30℃,1 日間振とう培養した。
A−3M培地(0.5%グルコース,2.0%グリセロール,2.0%澱粉,1.5%ファーマメディア,0.3%酵母抽出物,1.0%HP−20,pH7.0)に形質転換ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans) を3%,ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis ),ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus
erythropolis),又はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)はそれぞれ1%植菌し,7日間30℃で振とう培養した。
培養液を等量のブタノールで抽出し,ブタノール層をロータリーエバポレータにて濃縮後,ジメチルスルホキシドにて溶解し,高速液体クロマトグラフィーにて解析を行った。その際,クロマトグラムのそれぞれの生産物ピーク面積を標品と比較して定量を行った。用いた評品はスタウロスポリン,レベッカマイシン,及び/又はゴードスポリンである。スタウロスポリン,レベッカマイシンは,ジメチルスルホキシドで10mg/mlの濃度に溶解し,HPLCにインジェクトした。スタウロスポリン,レベッカマイシンは市販品を使用した。
ゴードスポリンは,非特許文献4に示す方法で精製した評品を,25mg/mlの濃度にジメチルスルホキシドで溶解し,HPLCにインジェクトした。
【0032】
HPLC(HP1100,Agilent )は,C18Reininカラム(Φ4.6×100mm)を使用し,カラム温度30℃,移動相には0.1%H3 PO4 バッファー(pH3. 5) およびアセトニトリルを用い,流速1.2ml/minで溶出した。溶出は0 から3分まで15%,3分から6分まで40%までの勾配,6分から12分まで40%,12分から19分まで55%までの勾配,19分から22分まで85%の勾配になるようにアセトニトリル濃度を調整して行った。スタウロスポリン及びレベッカマイシンの存在は290nmのUV吸収で検出し,ゴードスポリンの存在は230nmのUV吸収で検出した。
【0033】
高速液体クロマトグラフィー解析の結果,レベッカマイシン生合成遺伝子クラスターを組み込んだエスリビダンスは純粋培養時には1mg/Lの生産量であったのに対して,ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis ),ロドコッカス・エリスロポリス
(Rhodococcus erythropolis)もしくはコリネバクテリウム・グルタミカム
(Corynebacterium glutamicum)と複合培養した時はそれぞれ,14mg/L,
12mg/L,28mg/Lと最大28倍程度まで生産量が増大した。
【0034】
スタウロスポリン生産においてはスタウロスポリン生合成遺伝子クラスター
pTYMcos−Sta10を組み込んだエスリビダンスは純粋培養時には19mg/Lの生産量であったのに対して,ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis ),ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis),又はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)と複合培養した時はそれぞれ,78mg/L,70mg/L,103mg/Lと最大5倍程度まで生産量が増大した。
【0035】
ゴードスポリン生産においてはゴードスポリン生合成遺伝子クラスターを組み込んだエスリビダンスは純粋培養時には39mg/Lの生産量であったのに対して,ツカムレラ・プルモニス(Tsukamurella pulmonis )もしくはロドコッカス・エリスロポリス
(Rhodococcus erythropolis)と複合培養した時はそれぞれ,143mg/L,82mg/Lと最大3.5倍程度まで生産量が増大した。
【実施例2】
【0036】
1. 異種放線菌由来の抗生物質生合成クラスター遺伝子による形質転換体を用いた複合誘導による新たな二次代謝産物の生産
異種放線菌由来の抗生物質生合成クラスター遺伝子pTYMcos−Sta7を形質転換したストレプトマイセス・リビダンスをV−22液体培地で30℃で2日間振とう培養した。
ツカムレラ・プルモニスは,V−22液体培地で30℃で,それぞれ2日間振とう培養した。
A−3M培地に形質転換ストレプトマイセス・リビダンスを3%,ツカムレラ・プルモニスを1%植菌し,7日間にわたって30℃で振とう培養した。
培養液を等量のブタノールで抽出し,ブタノール層をロータリーエバポレータにて濃縮後,ジメチルスルホキシドにて溶解し,高速液体クロマトグラフィーにて解析を行った。その際,クロマトグラムのそれぞれの生産物ピークを形質転換ストレプトマイセス・リビダンスの純粋培養時のピークと比較して定量を行った。
【0037】
HPLC(HP1100,Agilent )は,C18Reininカラム(Φ4.6×100mm)を使用し,カラム温度30℃,移動相には0.1%H3 PO4 バッファー(pH3. 5) およびアセトニトリルを用い,流速1.2ml/minで溶出した。溶出は,0分から3分まで15%,3分から6分まで40%までの勾配,6分から12分まで40%,12分から19分まで55%までの勾配,及び19分から22分まで85%の勾配になるように,アセトニトリル濃度を調整して行った。二次代謝産物の存在は290nmのUV吸収で検出した。
【0038】
高速液体クロマトグラフィー解析の結果,図8に示すように,pTYMcos−
Sta7を組み込んだエス・リビダンスとツカムレラ・プルモニスと複合培養した時には10分,10.5分,13分にpTYMcos−Sta7を組み込んだエス・リビダンスのみの純粋培養時には検出できなかったピークが検出できた。また,10分,10.5分,13分のピークに該当するUVスペクトルは図9に示してある。以上の3つのピークはUV吸収スペクトルよりpTYMcos−Sta7を組み込んだエス・リビダンスとツカムレラ・プルモニスとを共培養した時にのみ新たに生産が確認できる二次代謝産物である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明は,抗生物質等の生理活性物質のスクリーニング,及びその製造方法に用いて有用であり,また,それらで得られる培養物を有効に利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,作製した前記放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養し,前記放線菌に新たな二次代謝産物を生産させる又は前記二次代謝産物の生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記放線菌がストレプトマイセス属(Streptomyces)であることを特徴とする請求項1に記載の二次代謝産物のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記ストレプトマイセス属の放線菌がストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)であることを特徴とする請求項2に記載の二次代謝産物のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記ミコール酸含有微生物は,ツカムレラ(Tsukamurella) ,コリネバクテリウム
(Corynebacterium) 属,ロドコッカス(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,及びマイコバクテリウム
(Mycobacterium) 属のいずれかに属する微生物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次代謝産物のスクリーニング方法。
【請求項5】
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,作製した前記放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養することにより,前記放線菌に培養液中に新たな二次代謝産物を生産させる又は前記二次代謝産物の生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物の製造方法。
【請求項6】
前記放線菌がストレプトマイセス属(Streptomyces)であることを特徴とする請求項5に記載の二次代謝産物の製造方法。
【請求項7】
前記ストレプトマイセス属の放線菌がストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)であることを特徴とする請求項6に記載の二次代謝産物の製造方法。
【請求項8】
前記ミコール酸含有微生物は,ツカムレラ(Tsukamurella) ,コリネバクテリウム
(Corynebacterium) 属,ロドコッカス(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,及びマイコバクテリウム
(Mycobacterium) 属のいずれかに属する微生物であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の二次代謝産物の製造方法。
【請求項9】
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持して作製した少なくとも一種の放線菌と,少なくとも一種のミコール酸含有微生物とを共培養して,培養液中に二次代謝産物を蓄積させたことを特徴とする培養物。
【請求項10】
前記放線菌がストレプトマイセス属(Streptomyces)であることを特徴とする請求項9に記載の培養物。
【請求項11】
前記ストレプトマイセス属の放線菌がストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)であることを特徴とする請求項10に記載の培養物。
【請求項12】
前記ミコール酸含有微生物は,ツカムレラ(Tsukamurella) ,コリネバクテリウム
(Corynebacterium) 属,ロドコッカス(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,及びマイコバクテリウム
(Mycobacterium) 属のいずれかに属する微生物であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の培養物。
【請求項1】
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,作製した前記放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養し,前記放線菌に新たな二次代謝産物を生産させる又は前記二次代謝産物の生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記放線菌がストレプトマイセス属(Streptomyces)であることを特徴とする請求項1に記載の二次代謝産物のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記ストレプトマイセス属の放線菌がストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)であることを特徴とする請求項2に記載の二次代謝産物のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記ミコール酸含有微生物は,ツカムレラ(Tsukamurella) ,コリネバクテリウム
(Corynebacterium) 属,ロドコッカス(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,及びマイコバクテリウム
(Mycobacterium) 属のいずれかに属する微生物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次代謝産物のスクリーニング方法。
【請求項5】
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持した放線菌を作製し,次いで,作製した前記放線菌とミコール酸含有微生物とを共培養することにより,前記放線菌に培養液中に新たな二次代謝産物を生産させる又は前記二次代謝産物の生産量を増大させることを特徴とする二次代謝産物の製造方法。
【請求項6】
前記放線菌がストレプトマイセス属(Streptomyces)であることを特徴とする請求項5に記載の二次代謝産物の製造方法。
【請求項7】
前記ストレプトマイセス属の放線菌がストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)であることを特徴とする請求項6に記載の二次代謝産物の製造方法。
【請求項8】
前記ミコール酸含有微生物は,ツカムレラ(Tsukamurella) ,コリネバクテリウム
(Corynebacterium) 属,ロドコッカス(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,及びマイコバクテリウム
(Mycobacterium) 属のいずれかに属する微生物であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の二次代謝産物の製造方法。
【請求項9】
異種微生物由来の二次代謝生合成遺伝子クラスターを染色体DNA中に組み込み又はプラスミドで保持して作製した少なくとも一種の放線菌と,少なくとも一種のミコール酸含有微生物とを共培養して,培養液中に二次代謝産物を蓄積させたことを特徴とする培養物。
【請求項10】
前記放線菌がストレプトマイセス属(Streptomyces)であることを特徴とする請求項9に記載の培養物。
【請求項11】
前記ストレプトマイセス属の放線菌がストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)であることを特徴とする請求項10に記載の培養物。
【請求項12】
前記ミコール酸含有微生物は,ツカムレラ(Tsukamurella) ,コリネバクテリウム
(Corynebacterium) 属,ロドコッカス(Rhodococcus) 属,ゴルドニア(Gordonia)属,ダイエットジア(Dietzia) 属,ノカルジア(Nocardia)属,及びマイコバクテリウム
(Mycobacterium) 属のいずれかに属する微生物であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の培養物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−21957(P2013−21957A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158843(P2011−158843)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】
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