説明

二次鋳型の製造方法及びレプリカ鋳型

【課題】 マイクロ流体デバイスの製造において使用される鋳型を簡単かつ安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】 マイクロ流体デバイスにおけるマイクロチャネル及び入出力ポートなどを有する層を形成するために使用される鋳型の製造方法であって、 (a)常用の光リソグラフィー法により前記マイクロチャネル及び入出力ポートに対応する凸状微細構造を有する原型レジスト一次鋳型13を製造するステップと、 (b)前記原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造を転写した凹状微細構造を有するレプリカ鋳型19を製造するステップと、 (c)前記レプリカ鋳型19の、原型レジスト一次鋳型13から転写された凹状微細構造内に硬化性材料を充填して、前記原型レジスト一次鋳型13の有する凸状微細構造と同一の凸状微細構造を有する二次鋳型を製造するステップとからなることを特徴とする二次鋳型の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ流体デバイスの量産方法に関する。更に詳細には、本発明はマイクロ流体デバイスを量産するのに使用される鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の微細流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロ流体デバイス」又は「マイクロチップ」などと呼ばれている。
【0003】
マイクロ流体デバイスは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロ流体デバイスは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。
【0004】
従来のマイクロ流体デバイスの材質や構造は例えば、特許文献1に提案されている。従来のマイクロ流体デバイス100は、例えば、図2(A)及び図2(B)に示されるように、合成樹脂(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)又はアクリル樹脂)などの基板102に少なくとも1本のマイクロチャネル104が形成されており、このマイクロチャネル104の少なくとも一端には入出力ポート106が形成されており、基板102の下面側に透明又は不透明な素材(例えば、ガラス又は合成樹脂フィルム)からなる対面基板108が接着されている。この対面基板108の存在により、ポート106及びマイクロチャネル104の底部が封止される。
【0005】
入出力ポート106の主な用途は、(イ)薬液やサンプルの注入(分注)、(ロ)廃液や生成物の取り出し、(ハ)気体圧力の供給(主に、送液のための正圧や負圧の印加)、(ニ)大気開放(送液時に発生する内圧の分散や、反応で生じたガスの解放)、及び(ホ)密閉(液体の蒸発防止や故意に内圧を発生させる目的のため)などである。
【0006】
マイクロ流体デバイスの需要の急激な増大に伴い、マイクロ流体デバイスを安価に大量供給する必要が生じている。マイクロ流体デバイスの量産方法は例えば、特許文献2に示されるような射出成形機で行う方法が提案されている。射出成形機で作製すると、マイクロ流体デバイスの製造コストは安価になるが、一枚あたりの加工に7分間程度かかること、及び射出成形のための金型が高価であり、マイクロ流体デバイスの設計変更に柔軟に対応することができないという欠点があった。すなわち、マイクロ流体デバイスの設計を変更する場合、射出成形機の金型を新たに作り直さなければならないが、金型製作費は一般的に数千万円以上もするので、結局、マイクロ流体デバイスのコストを押し上げる原因になってしまい、マイクロ流体デバイスを安価に供給する目的を達することができない。
【0007】
マイクロ流体デバイスの作製方法として、特許文献3に記載されるような光リソグラフィー法が使用されている。この方法はレジストを用いて鋳型を作製し、この鋳型にPDMSを流し込んで硬化させることによりマイクロ流体デバイスを形成することからなる。特許文献2の射出成形機による方法に比べて量産性には劣るが、この方法の最大の利点は、マイクロ流体デバイスの設計変更に柔軟に対応することができることである。すなわち、所望の流路パターンに対応する形状のレジスト鋳型を光リソグウラフィー法により作製すれば、目的のマイクロ流体デバイスを簡単に、安価に形成することができる。しかし、レジスト鋳型の場合、耐久性及び密着性が悪く、比較的簡単に破損してしまうことがあった。よって、その都度、従来の光リソグウラフィー法によるレジスト鋳型成形工程の作業を行っていた。
【0008】
【特許文献1】特開2001−157855号公報
【特許文献2】特開2004−219199号公報
【特許文献3】米国特許第5965237号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明が解決しようとする課題は、マイクロ流体デバイスの製造において使用される鋳型を簡単かつ安価に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、第1に、マイクロ流体デバイスにおけるマイクロチャネル及び入出力ポートなどを有する層を形成するために使用される鋳型の製造方法であって、
(a)常用の光リソグラフィー法により前記マイクロチャネル及び入出力ポートに対応する凸状微細構造を有する原型レジスト一次鋳型を製造するステップと、
(b)前記原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造を転写した凹状微細構造を有するレプリカ鋳型を製造するステップと、
(c)前記レプリカ鋳型の、原型レジスト一次鋳型から転写された凹状微細構造内に硬化性材料を充填して、前記原型レジスト一次鋳型の有する凸状微細構造と同一の凸状微細構造を有する二次鋳型を製造するステップとからなることを特徴とする二次鋳型の製造方法を提供する。
【0011】
前記第1の解決手段によれば、光リソグラフィー法によらなくても、一次鋳型と全く同型の二次鋳型を大量に安価に製造することができるので、この二次鋳型からマイクロ流体デバイスを安価に量産することができる。
【0012】
前記課題を解決するための手段として、第2に、前記ステップ(b)において、原型レジスト一次鋳型に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)プレポリマーと硬化剤との混合液を流し込み、PDMSを硬化させ、SFガス又はSFとOの混合ガスで前記入出力ポートに対応する部分のPDMS薄膜を除去した後、硬化PDMS層を原型レジスト一次鋳型から剥離させることにより、原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造が転写された凹状微細構造を有するレプリカ鋳型を製造することを特徴とする二次鋳型の製造方法を提供する。
【0013】
前記第2の解決手段によれば、PDMSを使用することにより、原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造が正確に転写された凹状微細構造を有するレプリカ鋳型を製造することができるばかりか、入出力ポートに対応する部分のPDMS薄膜が除去されることにより当該部分に開口が形成される。
【0014】
前記課題を解決するための手段として、第3に、前記ステップ(c)において、前記レプリカ鋳型を支持基板上に載置し、レプリカ鋳型の前記入出力ポートに対応する部分の開口部から硬化性材料を前記凹状微細構造内に注入し、該硬化性材料を硬化させることにより、前記支持基板上に前記原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造と同一の凸状微細構造を形成させることを特徴とする二次鋳型の製造方法を提供する。
【0015】
前記第3の解決手段によれば、レプリカ鋳型の前記入出力ポートに対応する部分の開口部から硬化性材料を注入することにより、極めて容易に、原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造と同一の凸状微細構造を有する二次鋳型を形成させることができる。特に、硬化性材料が光硬化性のレジスト材料の場合、露光量の厳密な調整が不要となり、オーバー露光でも構わない。従来のレジスト鋳型作製では光量によるT字形状(T−TOP)の発生や、マスクとレジストのコンタクト性が悪く形状に悪影響を与えるという問題があったが、本発明ではこのような問題は皆無である。
【0016】
前記課題を解決するための手段として、第4に、前記第3の解決手段における硬化性材料はレジスト材料であることを特徴とする二次鋳型の製造方法を提供する。
【0017】
前記第4の解決手段によれば、原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造と同一の凸状微細構造をレジストにより容易に形成することができる。
【0018】
前記課題を解決するための手段として、第5に、原型レジスト一次鋳型が有する凸状微細構造から転写された凹状微細構造を有するレプリカ鋳型を提供する。
【0019】
前記第5の解決手段によれば、レプリカ鋳型を使用することにより、原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造と同一の凸状微細構造を有する二次鋳型を容易かつ大量に作製することができる。レプリカ鋳型は何度でも使用できるので、原型レジスト一次鋳型の使用自体は抑制される。
【0020】
前記課題を解決するための手段として、第6に、PDMSから形成されていることを特徴とするレプリカ鋳型を提供する。
【0021】
前記第6の解決手段によれば、PDMSは取り扱いが容易であるばかりか、原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造を忠実に再生することができる。
【発明の効果】
【0022】
光リソグラフィー法により原型となるレジスト一次鋳型を成形し、この原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造が転写された凹状微細構造を有するレプリカ鋳型を成形する。このレプリカ鋳型に硬化性材料(例えば、レジスト)を流し込んで硬化させることにより、原型レジスト鋳型の凸状微細構造と全く同じ凸状微細構造を有する二次鋳型を大量に複製することができる。従って、レプリカ鋳型を使用して二次鋳型を作製すれば、従来の光リソグラフィー法により同型のレジスト鋳型を多数固作製するのに比べて次のような効果が得られる。
(1)レジスト膜厚条件出しを行う必要がなく、結果的にレジスト使用量を削減でき、レジスト鋳型の製造コストを低減できる。
(2)光リソグラフィー法における現像工程が不要になり、現像液及び製造工程の削減によりレジスト鋳型の製造コストを低減できる。
(3)光リソグラフィー用の高価な設備を使用して、同じ凸状微細構造を有するレジスト鋳型を複数個製造する手間とコストに比べて、本発明のレプリカ鋳型を使用すれば、光リソグラフィー法を実施するための高価な設備を使わなくてもレジスト二次鋳型を簡単かつ安価に大量に製造することができる。従って、使用に伴ってレジスト二次鋳型が破損しても、原型レジスト一次鋳型さえあれば、レプリカ鋳型からレジスト二次鋳型を新たに何個でも供給でき、光リソグラフィー法で初めからレジスト二次鋳型を作り直す場合に比べて、コストが圧倒的に安く上がる。レジスト二次鋳型を安価に大量に供給できることにより、マイクロ流体デバイスを安価に大量生産することが可能となる。
(4)ポート部分を含んだ形の原型レジスト一次鋳型を作製することにより、最終製品のマイクロ流体デバイスにおいて入出力ポート用のウェルを作製するための穴あけ加工を行う必要が無くなる。従来のレジスト鋳型を用いた方法では、入出力ポート用のウェルは例えば、ドリルや穴開け工具を用いてPDMS基板などを機械加工することにより穿設されていた。しかし、この機械加工方法では、穴開け精度が確保出来ず、多数の穴を開ける場合にはコストが掛かりすぎるという欠点があった。本発明によれば、このような機械加工に伴う欠点を完全に解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施態様について具体的に説明する。
図1(A)は本発明の方法を実施するために使用される原型レジスト一次鋳型を製造する工程の一例の概要説明図である。原型レジスト一次鋳型の製造プロセス自体は従来の光リソグラフィー法によるレジスト鋳型の製造プロセスと大体同一である。ステップ(A−1)において、所望のサイズを有するシリコンウエハ(例えば、4インチウエハ)1を準備する。シリコンウエハ1は予め乾燥させたり、表面処理などの所望の前処理を施すこともできる。その後、ステップ(A−2)において、適当なレジスト材料(例えば、ネガティブフォトレジストSU−8又はSU−8 2000など)を2000rpm〜5000rpmの回転速度で数秒間〜数十秒間にわたってスピン塗布し、オーブン中で乾燥させ、所望の厚さのレジスト膜3を形成する。次いで、ステップ(A−3)において、このレジスト膜3上にマスク5を通して、適当な露光装置(図示されていない)で露光する。マスク5は、製造しようとしているマイクロ流体デバイスの形成しようとする所望の微細構造に対応するレイアウトパターンを有する。ステップ(A−4)において、必要に応じて、前記ステップ(A−2)と同様に、レジストの第2層目7を塗布し、ステップ(A−3)と同様に、マスク5と異なるパターンを有する別のマスク(図示されていない)を通して露光する。更に、ステップ(A−5)において、前記ステップ(A−2)と同様に、レジストの第3層目9を塗布し、ステップ(A−3)と同様に、入出力ポートに相当するパターンを有する別のマスク(図示されていない)を通して露光する。露光完了後、ステップ(A−6)において、適当な現像液(例えば、1−メトキシ−2−プロピル酢酸)中で現像し、シリコンウエハ1の上面に所望の凸状微細構造11を有する原型レジスト鋳型13を生成する。所望により、この原型レジスト鋳型13を有機溶媒(例えば、イソプロピルアルコール)及び蒸留水で洗浄することができる。更に、原型レジスト鋳型13の表面をフルオロカーボン(CHF)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理することができる。このフルオロカーボン存在下の反応性イオンエッチング処理は、後のステップにおいて、原型レジスト鋳型13からのPDMSの離型性を改善する。レジスト膜の積層数自体は本発明の必須要件ではない。1層又は2層でも良いし、4層以上のレジスト膜を使用することもできる。
【0024】
図1(B)は原型レジスト一次鋳型からレプリカ鋳型を製造する工程の一例の概要説明図である。ステップ(B−1)において、前記ステップ(A−6)で得られた原型レジスト鋳型13にPDMSプレポリマーと硬化剤を適度な割合で混合し、脱気したPDMSプレポリマー混合液15を流し込む。この際、型枠を使用し、鋳込み型とし、その中にPDMSプレポリマー混合液を流し込んで型取りすることが好ましい。PDMSプレポリマー混合液としては、例えば、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERが好適に使用できる。これは液状のPDMSプレポリマーと硬化剤を10対1の割合で混合するものである。次いで、ステップ(B−2)において、Nスプレーすることにより余分なPDMSを除去する。除去することにより、マイクロ流体デバイスのポート106(図2参照)に対応する上面のPDMSが吹き飛ばされる。別法として、PDMSプレポリマー混合液を流し込む際に、原型レジスト鋳型13の上面に蓋をしておいてもよい。この場合、空気の混入に注意する必要があるが、Nスプレーで余分なPDMSを除去する必要は無い。その後、常温で十分な時間放置するか、又は、例えばオーブン中で65℃で4時間加熱するか若しくは100℃で1時間加熱して硬化させ、最後に、SFガスでポート部のPDMS薄膜を除去することにより、硬化PDMS層17を生成する。ここで、SFガスの代わりに、SFとOの混合ガスを用いても良い。次いで、ステップ(B−3)において、硬化PDMS層17を原型レジスト一次鋳型13から剥離すると、原型レジスト一次鋳型13の凸状微細構造11が転写された凹状微細構造を有するレプリカ鋳型19が得られる。レプリカ鋳型19はマイクロ流体デバイスのポート106(図2参照)に対応する位置に開口部21が存在する。原型レジスト一次鋳型13に被覆される材料は前記のPDMSに限定されない。例えば、熱、光、放射線、触媒などの作用により重合し得る、PDMS以外の合成樹脂材料等を使用することもできる。レプリカ鋳型は光透過性であることが好ましいが、必須要件ではない。
本発明で使用可能なPDMS以外の合成樹脂材料等は、例えば、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、エチレン・プロピレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどのゴム製品全てである。
【0025】
図1(C)はレプリカ鋳型からレジスト二次鋳型を製造する工程の一例の概要説明図である。ステップ(C−1)において、レプリカ鋳型19を適当な支持基板23の上面に密着させる。支持基板23は導電体、磁性体、半導体、絶縁・誘電体などの電子材料が好ましい。例えば、ガラス、セラミック、金属、合成樹脂、半導体材料、誘電体材料などの任意の素材であることができる。レプリカ鋳型19がPDMS製である場合、支持基板23はガラスであることが好ましい。PDMSとガラスは自己吸着可能だからである。また、レプリカ鋳型が光不透過性である場合、支持基板23は光透過性でなければならない。レプリカ鋳型19を支持基板23の上面に密着させる前に、レプリカ鋳型19の空洞部内壁面をフルオロカーボン(CHF)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理する必要は一般的に無いが、特に所望ならば処理することもできる。CHF処理しなくても、レジスト二次鋳型をレプリカ鋳型19から容易に離型させることができることも本発明の利点である。次に、ステップ(C−2)において、レプリカ鋳型19の開口部21から適当なレジスト材料25(例えば、ネガティブフォトレジストSU−8又はSU−8 2000など)を流し込む。次いで、ステップ(C−3)において、常用の光リソグラフィー法と同様に、プリベーク、露光及び露光後ベーク(PEB)処理を行うが、本発明の方法では、露光処理は最適露光量以上であれば良く、露光量の正確な調整は不要である。更に、本発明の方法では、露光用の遮蔽マスクは不要であり、また、現像処理も不要である。従って、レジスト二次鋳型がT字形状になることはない。最後に、ステップ(C−4)において、支持基板23からレプリカ鋳型19を剥離することにより、原型レジスト一次鋳型13の凸状微細構造11と同一の凸状微細構造11を有するレジスト二次鋳型27が得られる。レプリカ鋳型19を剥離後、仕上げ処理として、レジスト二次鋳型27を例えば、イソプロピルアルコール(IPA)で短時間リンスし、その後、空気又は窒素ブローで乾燥させることができる。剥離したレプリカ鋳型19は、ステップ(C−1)に戻して何度でも使用することができる。
レプリカ鋳型に流し込む材料はレジストのような感光性材料でけでなく、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂でもよい。感光性樹脂の場合は光化学反応を利用するが、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の場合は別の方法を利用する。熱可塑性プラスチックは一般的に加熱により流体にし、冷却した金型に加圧射出して形成するため、加熱により液体にした状態でレプリカ鋳型に流し込めばよい。また、熱硬化性樹脂は加熱したときに架橋して高分子になるため、レプリカ鋳型内に流し込んだ後に加熱すればよい。
【0026】
前記のようにして作製された原型レジスト一次鋳型13は使用せずに厳重に保管しておき、一次鋳型と全く同型の二次鋳型を用いてマイクロ流体デバイスを製造する。使用に伴って二次鋳型が破損したら、レプリカ鋳型19を用いて二次鋳型を再生産すればよい。二次鋳型27はポート106(図2参照)に相当する凸状微細構造11を有するので、得られたマイクロ流体デバイスについて穴あけ加工する必要は全く無い。
【実施例1】
【0027】
(1)原型レジスト一次鋳型の製造
図1(A)に示された工程説明図に従って、原型レジスト一次鋳型を製造した。先ず、4インチシリコンウエハを準備した。プロセスの信頼性を得るために、レジストを使用する前にシリコン基板を洗浄・乾燥する必要があり、本実施例では、ピラニア・エッチング/クリーン(HSOおよびH)処理後、蒸留水でリンスした。その後、シリコン基板の表面酸化膜を除去するため、BHF(バッファード弗酸)に15分間浸し、蒸留水でリンスした。その後、表面の脱水のため、対流式のオーブン中で60℃、30分間程度ベークした。この表面処理済ウエハ上にSU−8ネガティブフォトレジストを1000rpmの回転速度で約25秒間塗布し、溶媒を蒸発させ、膜を高密度化するためにソフトベークを65℃で30分間(STEP1)、95℃で90分間(STEP2)処理した。クーリング後、このレジスト膜上に、所定の形状のパターンを有するマスクを被せ、露光装置(ユニオン光学製 PEM−800)で密着露光した。その後、第2層目として第1層目と同じSU−8ネガティブフォトレジストを1000rpmの回転速度で約25秒間塗布し、溶媒を蒸発させ、膜を高密度化するためにソフトベークを65℃で30分間(STEP1)、95℃で90分間(STEP2)処理した。クーリング後、このレジスト膜上に、所定の形状のパターンを有するマスクを被せ、露光装置(ユニオン光学製 PEM−800)で密着露光した。更に、第3層目として第1層目と同じSU−8ネガティブフォトレジストを1000rpmの回転速度で約25秒間塗布し、溶媒を蒸発させ、膜を高密度化するためにソフトベークを65℃で30分間(STEP1)、95℃で90分間(STEP2)処理した。クーリング後、このレジスト膜上に、所定の形状のパターンを有するマスクを被せ、露光装置(ユニオン光学製 PEM−800)で密着露光した。レジスト膜の露光された部分の架橋を行うため65℃で15分間(STEP1)、95℃で25分間(STEP2)加温し、クーリング後、1−メトキシ−2−プロピル酢酸現像液で現像し、現像後、基板は短時間イソプロピルアルコール(IPA)でリンスした。その後、65℃で30分間乾燥後、150℃で5分間かけてハードベークし、第1層〜第3層のレジスト合計厚600μmの原型レジスト一次鋳型を完成させた。最後に、この原型レジスト一次鋳型の表面をフルオロカーボン(CHF)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理し、表面にCHF剥離膜を形成した。
【0028】
(2)レプリカ鋳型の製造
前記(1)で得られた原型レジスト一次鋳型の剥離膜形成面上に、PDMSプレポリマー混合液として、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを厚さ約2mmになるように流し込んだ。その後、Nスプレーすることにより余分なPDMSプレポリマー混合液を除去した。次いで、脱気し、加温(65℃、4時間)した。4時間経過後、オーブンから取り出し、SFガスでポート部のPDMS薄膜を除去することにより、硬化PDMS層を生成した。その後、硬化PDMS層を原型レジスト一次鋳型から剥離し、レプリカ鋳型を得た。
【0029】
(3)レジスト二次鋳型の製造
前記(2)で得られたレプリカ鋳型をガラス基板に自己吸着させた。レプリカ鋳型の上面に存在する開口部からSU−8ネガティブフォトレジストを注入し、溶媒を蒸発させ、レジスト層を高密度化するためにソフトベークを65℃で30分間(STEP1)、95℃で90分間(STEP2)処理した。クーリング後、このレプリカ鋳型の上面側から露光装置(ユニオン光学製 PEM−800)でレジスト層を露光した。露光レジスト層の架橋を行うため65℃で15分間(STEP1)、95℃で25分間(STEP2)加温した。クーリング後、レプリカ鋳型を剥離し、レジスト二次鋳型を得た。後処理として、得られたレジスト二次鋳型を短時間イソプロピルアルコール(IPA)でリンスした。その後、65℃で30分間乾燥後、150℃で5分間かけてハードベークした。レジスト二次鋳型の微細構造を調べたところ、原型レジスト一次鋳型の微細構造と殆ど同一であった。これにより、レプリカ鋳型を使用すれば、面倒な光リソグラフィー法に依らなくても、レジスト鋳型を安価かつ容易に大量生産できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明はマイクロチャネルやポートに限らず、様々な微細構造を有するマイクロ流体デバイス又はマイクロチップを製造するために使用される原型レジスト一次鋳型について利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1(A)】原型レジスト一次鋳型を製造する工程の一例の概要説明図である。
【図1(B)】原型レジスト一次鋳型からレプリカ鋳型を製造する工程の一例の概要説明図である。
【図1(C)】レプリカ鋳型からレジスト二次鋳型を製造する工程の一例の概要説明図である。
【図2(A)】従来のマイクロチップの一例の概要上面図である。
【図2(B)】図2(A)における2B−2B線に沿った概要断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 シリコンウエハ
3 レジスト膜(第1層)
5 ホトマスク
7 レジスト膜(第2層)
9 レジスト膜(第3層)
11 微細構造
13 原型レジスト一次鋳型
15 PDMSプレポリマー混合液
17 硬化PDMS層
19 レプリカ鋳型
21 開口部
23 支持基板
25 レジスト材料
27 レジスト二次鋳型
100 従来のマイクロ流体デバイス
102 基板
104 マイクロチャネル
106 入出力ポート106
108 対面基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体デバイスにおけるマイクロチャネル及び入出力ポートなどを有する層を形成するために使用される鋳型の製造方法であって、
(a)常用の光リソグラフィー法により前記マイクロチャネル及び入出力ポートに対応する凸状微細構造を有する原型レジスト一次鋳型を製造するステップと、
(b)前記原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造を転写した凹状微細構造を有するレプリカ鋳型を製造するステップと、
(c)前記レプリカ鋳型の、原型レジスト一次鋳型から転写された凹状微細構造内に硬化性材料を充填して、前記原型レジスト一次鋳型の有する凸状微細構造と同一の凸状微細構造を有する二次鋳型を製造するステップとからなることを特徴とする二次鋳型の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(b)において、原型レジスト一次鋳型に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)プレポリマーと硬化剤との混合液を流し込み、PDMSを硬化させ、SFガス又はSFとOの混合ガスで前記入出力ポートに対応する部分のPDMS薄膜を除去した後、硬化PDMS層を原型レジスト一次鋳型から剥離させることにより、原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造が転写された凹状微細構造を有するレプリカ鋳型を製造することを特徴とする請求項1記載の二次鋳型の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)において、前記レプリカ鋳型を支持基板上に載置し、レプリカ鋳型の前記入出力ポートに対応する部分の開口部から硬化性材料を前記凹状微細構造内に注入し、該硬化性材料を硬化させることにより、前記支持基板上に前記原型レジスト一次鋳型の凸状微細構造と同一の凸状微細構造を形成させることを特徴とする請求項1記載の二次鋳型の製造方法。
【請求項4】
前記硬化性材料はレジスト材料であることを特徴とする請求項3記載の二次鋳型の製造方法。
【請求項5】
原型レジスト一次鋳型が有する凸状微細構造から転写された凹状微細構造を有するレプリカ鋳型。
【請求項6】
前記レプリカ鋳型はPDMSから形成されていることを特徴とする請求項5記載のレプリカ鋳型。

【図1(A)】
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【図1(B)】
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【図1(C)】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【公開番号】特開2007−118422(P2007−118422A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314599(P2005−314599)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【出願人】(502338454)フルイドウェアテクノロジーズ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】