説明

二次電池用正極材料、二次電池用正極材料の製造方法、および二次電池

正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含み、大きな充放電容量と高レート適応性、及び良好な充放電サイクル特性を兼ね備えた正極材料、その簡便な製造方法、及びそれを組み込んだ高性能な二次電池を提供する。一般式LiFePO(ここで、nは0〜1の数を示す)で表される正極活物質を主成分として含み、かつバナジウム(V)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)およびスズ(Sn)よりなる群から選ばれる1種以上の異種金属元素を含有することを特徴とする、二次電池用正極材料および二次電池。この正極材料は、前記金属元素のハロゲン化物を原料として製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極材料、二次電池用正極材料の製造方法、および該正極材料を有する二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
金属リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等に代表される二次電池において正極材料となるリン酸鉄リチウムLiFePOは、放電あるいは充電の過程で、リチウムのドープ/脱ドープを伴う形で電極酸化還元反応が進行する。このリン酸鉄リチウムLiFePOは、元来かなり大きい理論容量(170mAh/g)と、比較的高い起電力(対Li/Li負極にて約3.4〜3.5V)を有し、しかも資源的に豊富な鉄・リン等からなり、安価に製造できると考えられるため、次世代の有力な正極材料候補と期待されている。また、オリビン型結晶構造を有する同正極系は、他の多くの正極系、例えば現行正極のコバルト酸リチウム[LiCoO]等とは異なり、電極酸化還元の全過程を通じて、Liの充満した還元態(放電状態)のLiFe(II)PO、及びLiの完全に脱離した酸化態(充電状態)Fe(III)POの2相のみが常に存在する2相平衡状態をとり[即ち、例えばLi0.5(Fe2+0.5Fe3+0.5)POなどの中間状態は相としてはとり得ない]、その結果、充放電電圧が常に一定に保たれるために充放電状態の管理が容易であるという興味深い性質を有する。しかしながら、これらの還元態(放電状態)LiFe(II)PO、および脱Li酸化態(充電状態)Fe(III)POのいずれも極めて導電性が低く、また同正極材料中におけるLiイオンの移動も遅いために(この2つの性質は、「作用」において後述するように、互いに関連していると推定される)、従来、実際にLi等を負極とした二次電池を組んでもその実効容量は小さく、また一般には極めて悪いレート特性及びサイクル特性しか得られなかった。
【0003】
ところで、電極材料の表面導電性向上については、化学式A(式中、Aはアルカリ金属、MはFe、Mn、V、Ti、Mo、Nb、Wその他の遷移金属、ZはS、Se、P、As、Si、Ge、B、Snその他の非金属)で表わされる複合酸化物(硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩等のオキソ酸塩を含む)の粒子表面に炭素を析出させて表面導電性を上げることにより、これらの複合体を電池等の電極系に用いた場合、電極酸化還元反応の過程で前記複合酸化物粒子、集電(導電性付与)材および電解質界面一帯の電場を均一化・安定化して効率を向上させるという技術が提案されている(特許文献1参照)。そこでは、炭素を前記複合酸化物の粒子表面に析出させる方法として、熱分解により炭素を析出する有機物(高分子、モノマー、低分子等)を共存させ、あるいは一酸化炭素を添加して、これらを熱分解する方法が提案されている(前記複合酸化物の原料にこれらを共存させ、還元的条件で一度に熱反応させて、前記複合酸化物と表面炭素の複合体を得ることもできる、とされている)。これらの手段により、特許文献1では、前述のような複合酸化物粒子表面の導電率向上を実現し、例えばLiFePO等の正極材料粒子表面に炭素を析出させた複合体を作成してLiポリマー電池を構成した場合などにおいて、大きな放電容量等の高い電極性能が得られている。
【0004】
また、別の技術として一般式LixFePO(ただし、0<x≦1である)で表される化合物の合成原料を混合し、ミリングを施し、焼成するいずれかの時点でアセチレンブラックなどの非晶質系炭素材料を添加するとともに、焼成雰囲気中の酸素濃度を1012ppm(体積)以下とする正極活物質の製造方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
これらの技術は、いずれもLiFePOのようなリン酸塩正極材料の導電率の低さ、同正極材料中におけるLiイオンの移動の遅さを前提とした性能向上法であって、基本的に同正極材料表面に炭素のような導電性物質を析出または混入させると同時に、粒径を出来るだけ小さく押さえて拡散距離を制限させることにより、これらの難点を回避しようとするものであった。
【0006】
一方、LiFePO正極材料に対し、LiまたはFeの一部を異種金属元素で置換、乃至は添加複合化、乃至はドーピングすることによって、その正極材料自体の導電率を向上させることにより、正極性能を改良する試みもなされている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0007】
非特許文献1においては、LiFePO正極材料にAl、Ca、Ni、またはMgを導入することにより、その容量が向上したことが開示されている。例えば、これらの元素を含まないLiFePO正極材料を用いた金属リチウム電池の第1サイクルの放電容量が117mAh/gに過ぎず、サイクル経過と共に急速に低下したのに対し、MgによってFeの一部を置換したLiMg0.05Fe0.95POを正極材料に用いた電池では、約120〜125mAh/g程度に容量が増加し、またサイクル経過に伴う劣化が抑制されることが報告されている(ただし、同文献ではMgが同正極材料中でFeと置換されているという客観的証拠は示されていない)。
【0008】
また、非特許文献2においては、LiFePO正極材料の原料にMg2+、Al3+、Ti4+、Zr4+、Nb5+またはW6+を含む化合物(Mgはシュウ酸塩、Nbは金属フェノキシド、その他は金属アルコキシド)を添加後、焼成することにより、これらの元素がドーピングされた正極材料を得ている。同文献では、これらの元素がLiの一部と置換されたLi1−xFePOの形で存在していると推定している。上記金属イオンをドープした正極材料の導電率は、未ドープ正極材料に比べ約10倍も向上し、常温で10−1〜10−2S/cmオーダーの値となると共に、このような高い導電性を持つ、金属をドープした正極材料を用いた金属リチウム電池においては、特にレート特性及びサイクル寿命の著しい向上が認められたと記載されている。この非特許文献2によれば、低い充放電レートC/10においては140mAh/gをやや超える放電容量(同論文中では約150mAh/gと記述されていたが、掲載図から見る限りは140mAh/gに近い)を示す一方、21.5C及び40Cのような非常に高いレートにおいても、それぞれ約70弱及び約30mAh/gという低下した容量ながら、安定したサイクル充放電が可能であったという(C/nは、n時間で全容量を定電流充電または放電する充放電レート。なお、同論文中では前記充放電データを得た正極材料におけるドーパント元素種及び含有量については明記されていない)。
【0009】
非特許文献2では、前記正極材料の還元態LiFe(II)POおよびその脱Li酸化態Fe(III)POの結晶構造中において、例えばLiイオンのサイトに少量(鉄に対し元素比で1mol%以下)の前記多価イオンが入ることにより、還元態相中においてはFe3+が、また酸化態相中においてはFe2+がそれぞれ微量生じてFe2+/Fe3+の混合酸化状態をとり、その結果、還元態ではP型、酸化態ではN型の半導性が発現するために、前述の導電性向上がもたらされたと推測している。また、前記の2価〜6価の各多価イオンを含む化合物を添加焼成したところ、いずれも同様にLiFePO正極材料の導電性が向上したとも記載されている(ただし、Ti、Zr、Nb、およびWの遷移金属元素については、多くの安定な陽イオン価数状態をとり得るため、得られた正極材料中における実際の各陽イオンの価数が、ドーピングのために添加した上記の各化合物の価数と異なることもあり得ると考えられる)。
【0010】
【特許文献1】特開2001−15111号公報
【特許文献2】特開2002−110163号公報
【非特許文献1】「未来開拓学術研究推進事業研究プロジェクト成果報告書(2000年) 新規な固体電解質材料の創製と応用」(日本学術振興会:研究プロジェクト番号JSPS−RFTF96P00102)[http://chem.sci.hyogo-u.ac.jp/ndse/index.html](2000年6月21日更新)
【非特許文献2】「ネーチャー・マテリアルズ(Nature Materials)」,Vol.1,p123〜128(2002年10月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献1、非特許文献2の手法は、現時点でも必ずしも満足できる結果を達成しているとは言いがたい。すなわち、前者の充放電容量は高々120〜125mAh/g程度である。また後者の高レート充放電への適応は目覚しいものの、LiFePO正極材料の導電率が向上している割には、C/10の低レート時においてさえ、やはり同正極材料の理論容量170mAh/gを相当下回る充放電容量(約140mAh/gをやや超える程度)しか得られておらず、しかも定電流充放電時の電池容量対電圧特性における充放電末期の電圧の立上がり/立下がりは、極めて良好な高レート特性を示す割にはあまり急峻ではない。即ち、非特許文献2に記載されたデータでは、C/10において充放電深度の約8割程度から既に緩やかに電圧が立上がり/立下がり始めるが、一般には、電池内部抵抗が小さく高レート特性の優れた電池の場合、前記電圧の立上がり/立下がりはより直角に近い急峻なものとなるはずである。これらの事柄は、添加複合化、乃至はドーピングされた異種元素の種類、及びその手法が十分に適切なものとなってはいない可能性を示唆すると思われる。
【0012】
本発明の課題は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含み、大きな充放電容量と高レート適応性、及び良好な充放電サイクル特性を兼ね備えた二次電池用正極材料、二次電池用正極材料の製造方法、及びそれを組み込んだ高性能な二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、正極活物質LiFePOに、特定の金属元素を複合化して得られる正極材料は、充放電特性が飛躍的に改善されたものであることを見出した。
【0014】
さらに、該特定の金属元素を複合化した正極材料において、その表面に導電性炭素を析出させることによって、同正極系の理論容量170mAh/gに肉薄する実効容量と良好な充放電サイクル特性を実現することに成功した。
【0015】
また、前記特定の金属元素またはこれらと類縁の金属元素(これらを「異種金属元素」と記すことがある。)を複合化するに際し、原料の相違によって得られる正極材料の性能に差異が生じるとの知見を得、原料の選定を行うことによって優れた電気化学的性能を持つ正極材料が得られることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明の第1の態様に係る二次電池用正極材料の発明は、一般式LiFePO(ここで、nは0〜1の数を示す。以下同様につき注記を省略する。)で表される正極活物質を主成分として含み、かつ元素周期表において、4族、5族、6族、11族、12族、13族または14族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素と、ハロゲン元素を含有し、該ハロゲン元素はPに対して0.1mol%以上含まれていることを特徴とする。
【0017】
本発明の第2の態様に係る二次電池用正極材料の発明は、第1の態様において、前記金属元素は、バナジウム(V)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)及びチタン(Ti)よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素であることを特徴とする。
【0018】
正極活物質の主成分としてLiFePOを含み、前記金属元素を含有する正極材料は、後記実施例に示すように、従来に達成し得なかった大きな充放電容量、高レート適応性、及び良好な充放電サイクル特性を示す正極材料である。また、ハロゲン元素がPに対して0.1mol%以上含まれていることにより、後記実施例に示すように、充放電特性が向上している。
【0019】
本発明の第3の態様に係る二次電池用正極材料の発明は、第1の態様又は第2の態様において、前記金属元素の含有量の合計が、前記正極活物質中の鉄に対し元素比で0.1ないし5mol%であることを特徴とする。前記金属元素の含有量が上記範囲内であることより、優れた充放電性能が得られる。
【0020】
本発明の第4の態様に係る二次電池用正極材料の発明は、元素周期表において、4族、5族、6族、11族、12族、13族または14族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素のハロゲン化物と、一般式LiFePO(ここで、nは0〜1の数を示す)で表される正極活物質の原料となる物質と、を混合した後、焼成することにより、前記一般式LiFePO(ここで、nは0〜1の数を示す)で表される正極活物質を主成分として含み、かつ前記金属元素を含有するように合成されたものであることを特徴とする。
前記金属元素のハロゲン化物を原料として得られる二次電池用正極材料は、他の原料から製造された正極材料と比べて高い充放電特性を備えたものとなる。
【0021】
本発明の第5の態様に係る二次電池用正極材料の発明は、第1の態様から第4の態様のいずれか1つにおいて、前記正極材料の表面に、導電性炭素の析出物を有することを特徴とする。前記異種金属元素を含有する正極材料において、その表面に導電性炭素を析出させることによって、正極材料の導電性がさらに優れたものとなり、後記実施例に示すように、LiFePO正極系の理論容量に近い実効容量と良好な充放電サイクル特性が得られる。
【0022】
本発明の第6の態様に係る二次電池用正極材料の製造方法の発明は、正極活物質LiFePOの原料となる物質と、元素周期表において、4族、5族、6族、11族、12族、13族または14族に属する金属元素のうち、少なくとも1種の金属元素のハロゲン化物と、を混合して得られる焼成前駆体を焼成することにより、前記正極活物質に前記金属元素を複合化させることを特徴とする。前記正極活物質に前記各族のいずれかに属する異種金属元素を複合化させるにあたり、これらの異種金属元素のハロゲン化物(その水和物を含む)を用いることによって、他の原料からでは得ることができない優れた電気化学的性能を有する正極材料が得られる。
【0023】
本発明の第7の態様に係る二次電池用正極材料の製造方法の発明は、第6の態様において、焼成過程は、常温から300℃ないし450℃に至る第一段階と、常温から焼成完了温度に至る第二段階と、を含み、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を、第一段階の焼成後の原料に添加した後、第二段階の焼成を行うことを特徴とする。この特徴によれば、第一段階の焼成後に加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を添加することによって、導電性炭素が均一に析出された正極材料が得られる。この炭素析出により、異種金属元素を複合化させたことによる効果と相俟って非常に優れた充放電挙動を示す正極材料が容易に得られる。
【0024】
本発明の第8の態様に係る二次電池用正極材料の製造方法の発明は、第7の態様において、第二段階の焼成は不活性ガス雰囲気で750℃〜850℃の温度範囲で行われることを特徴とする。これにより後記実施例に示すように、充放電特性の向上に寄与する。
【0025】
本発明の第9の態様に係る二次電池用正極材料の製造方法の発明は、第7の態様又は第8の態様において、前記加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質が、ビチューメン類または糖類であることを特徴とする。ビチューメン類または糖類は、加熱分解によって導電性炭素を生じて正極材料に導電性を付与する。特に、精製された石炭ピッチに代表されるビチューメン類は、安価で、かつ焼成中に融解して焼成中の原料粒子の表面に均一に広がり、また熱分解過程を経て比較的低温での焼成後、高い導電性を発現する炭素析出物となる。また、糖類の場合は、糖類に含まれる多くの水酸基が原料および生じた正極材料粒子表面に強く相互作用することにより、結晶成長抑制作用も併せ持つため、糖類を用いることによって、優れた結晶成長抑制効果と導電性付与効果が期待できる。
【0026】
本発明の第10の態様に係る二次電池の発明は、第1の態様から第5の態様のいずれか1つの正極材料を構成要素に含むことを特徴とする。この特徴によれば、二次電池において、前記第1の態様〜第5の態様と同様の作用効果が得られる。
【0027】
本発明の第11の態様に係る二次電池の発明は、第6の態様から第9の態様のいずれか1つの正極材料を構成要素に含むことを特徴とする。この特徴によれば、前記第5の態様から第7の態様のいずれかの作用が奏されることにより、非常に優れた充放電性能を備えた二次電池が得られる。
【発明の効果】
【0028】
正極活物質の主成分としてLiFePOを含み、特定の異種金属元素を含有する本発明の正極材料は、従来に達成し得なかった良好な充放電特性を示す正極材料である。この正極材料は、正極活物質に異種金属元素を複合化することによって、容易に得ることができる。さらに、該正極材料に導電性炭素を析出させた状態の正極材料においては、いっそう良好な充放電特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明の実施の形態について、(A)二次電池用正極材料、(B)二次電池用正極材料の製造方法、(C)二次電池、の順に詳述する。
【0030】
(A)二次電池用正極材料:
本発明の二次電池用正極材料は、一般式LiFePO(ここで、nは0〜1の数を示す)で表される正極活物質を主成分として含み、かつ元素周期表において、4族、5族、6族、11族、12族、13族または14族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素と、ハロゲン元素を含有し、該ハロゲン元素はPに対して0.1mol%以上含まれているものである。特に、金属元素として、バナジウム(V)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)から選ばれる金属元素を含有するものであり、正極活物質LiFePOに、これら特定の異種金属元素が複合化されたものである(以下、「複合化正極材料」と記すことがある)。
【0031】
この複合化正極材料中において、異種金属元素がどのような状態にあるかは解明されていないが、例えば(Li1−y,)FePOまたはLi(Fe1−z,)PO(ここで、Mは異種金属元素、y、zは化学量論的な条件を満たす数を意味する)のように、LiまたはFeの一部を異種金属元素で置換した結晶系固溶体の形で入っているか、または電子または正孔を供給し得るような別の化合物の接合体として存在しているものと考えられる。なお、本発明において「複合」および「複合化」の語は、前記固溶体や接合体の形態を含む広い意味で用いられる。
【0032】
本発明の複合化正極材料の主な活物質であるLiFePOは、結晶骨格構造[結晶点群PNMA(オリビン型)、同PBNMなどの構造をとり、いずれも正極活物質となり得るが、前者が一般的である]が電気化学的酸化還元によってほとんど変化しないため、繰返し充放電が可能なアルカリ金属系二次電池用の正極材料として用いることができる。正極材料としては、これらの物質のそのままの状態は放電状態に相当し、電解質との界面での電気化学的酸化によって、アルカリ金属Liの脱ドープを伴いながら中心金属元素Feが酸化され、充電状態になる。充電状態から電気化学的還元を受けると、アルカリ金属Liの再ドープを伴いながら中心金属元素Feが還元され、元の放電状態に戻る。
【0033】
複合化正極材料におけるハロゲン元素は、Pに対して0.1mol%以上含まれている。ハロゲン元素の現状における検出限界未満のものや、Pに対して0.01mol%以下のものと比べて充放電特性が勝っていることを、後述するように確認した。
【0034】
複合化正極材料における異種金属元素の含有量は、正極活物質中の鉄に対し、元素比で0.1〜5mol%が好ましく、0.5〜3mol%がより好ましい。
【0035】
本発明の正極材料の好ましい形態においては、その表面に、導電性炭素の析出物を有する。正極材料表面への導電性炭素の析出は、後述するように加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質(以下、「導電性炭素前駆物質」と記す)を焼成過程で添加することにより行われる。
【0036】
(B)二次電池用正極材料の製造方法:
<製造方法の概要>
本発明の二次電池用正極材料は、正極活物質LiFePOの原料となる物質と、前記金属ハロゲン化物とを混合して得られた焼成前駆体に対して所定温度、所定時間、所定雰囲気で焼成を行うことにより得られる。すなわち、リン酸鉄リチウムの原料となる物質に、異種金属元素のハロゲン化物を所定量加えて混合し、その後、所定温度、所定時間、所定雰囲気で焼成を行い、反応を完結することにより製造できる。
【0037】
また、異種金属元素との複合化正極材料の表面に、導電性炭素を析出させた炭素析出−複合化正極材料は、炭素析出のない場合よりもさらに高い充放電特性を示すことが可能となる。該炭素析出−複合化正極材料の製造は、例えば、前記と同様に正極活物質の原料となる物質に金属ハロゲン化物を添加し、例えば擂潰混合等して焼成前駆体を得た後、一旦300〜450℃にて数時間(例えば5時間程度)かけて第一段階の焼成(仮焼成)をした後、炉より取り出し、その仮焼成物に対して、導電性炭素前駆物質、例えば、石炭ピッチなどのビチューメン類、またはデキストリンなどの糖類を所定量添加、擂潰・混合し、さらに数時間乃至1日程度、所定雰囲気で第二段階の焼成(本焼成)することにより行うことができる。
【0038】
また、導電性炭素前駆物質を前記仮焼成物に添加するのではなく、金属ハロゲン化物とともに前記正極活物質の原料となる物質に添加し、擂潰混合して得た焼成前駆体を焼成することによっても、比較的高い充放電特性を示す炭素析出−複合化正極材料を得ることができる。その際、焼成を前記と同様に仮焼成、本焼成の二段階で行い、仮焼成後に擂潰を実施することが好ましい。
【0039】
導電性炭素前駆物質の添加タイミングが相違する上記二通りの方法の中では、前者(導電性炭素前駆物質を仮焼成後に添加する)の方がより高い充放電特性を持つ炭素析出−複合化正極材料が得られる場合が多いので好ましい。従って、以下では前者を中心に説明を行うが、後者(導電性炭素前駆物質を仮焼成前に添加する)においても、焼成前駆体の調製、焼成条件の選定等は前者に準じて行うことが可能である。
【0040】
<正極活物質LiFePOの原料>
以下では、正極活物質LiFePOとして一般的なオリビン型構造を有するものについて説明する。このオリビン型LiFePOの原料の中で、リチウム導入用の原料としては、例えばLiOH等の水酸化物、LiCO等の炭酸塩や炭酸水素塩、LiCl等の塩化物を含むハロゲン化物、LiNO等の硝酸塩、その他有機酸塩等のLiのみ目的の正極材料中に残留するようなLi含有分解揮発性化合物が用いられる。また、LiPO、LiHPO、LiHPO等の燐酸塩や燐酸水素塩を用いることもできる。
【0041】
また、鉄導入用の原料としては、例えば水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、塩化物等のハロゲン化物、硝酸塩、その他、Feのみが目的の正極材料中に残留するような分解揮発性化合物(例えば、シュウ酸塩や酢酸塩等の有機酸塩、アセチルアセトン錯体類や、メタロセン錯体等の有機錯体など)のほか、燐酸塩や燐酸水素塩を用いることもできる。
【0042】
また、燐酸導入用の原料としては、例えば、無水燐酸P、燐酸HPO、および燐酸イオンのみ正極材料中に残留するような分解揮発性燐酸塩や燐酸水素塩[例えば、(NHHPO、NHPO、(NHPO等のアンモニウム塩]を
用いることができる。
【0043】
これらの原料において、目的の正極材料中に残存した場合に好ましくない元素や物質を含む場合には、これらが焼成中に分解・揮発することが必要である。また、原料には燐酸イオン以外の不揮発性オキソ酸塩等を用いるべきでないことは言うまでもない。なお、これらにおいては、その水和物を用いる場合もあるが[例えば、LiOH・HO、Fe(PO・8HO等]、上記においては水和物としての表記は全て省略している。
【0044】
<鉄導入用の原料として、金属鉄を用いる場合>
鉄導入用の原料として、上記のような鉄化合物ではなく、例えば、安価で入手が容易な1次原料である金属鉄を用いることができる。金属鉄は、200μm以下、好ましくは100μm以下の粒径のものを用いる。この場合、正極材料の原料として、金属鉄に、溶液中でリン酸イオンを遊離する化合物およびリチウム源となる化合物を水とともに組み合わせて使用することができる。ここで、原料中のリン:鉄:リチウムのモル比を1:1:1となるように調整することにより、焼成過程での不純物の生成と正極材料への混入を極力抑えることができる。
【0045】
金属鉄と組み合わせて使用可能な「溶液中でリン酸イオンを遊離する化合物」としては、例えば、リン酸HPO、五酸化リンPO、リン酸二水素アンモニウムNHPO、リン酸水素二アンモニウム(NHHPO等を用いることができる。これらの中でも、鉄を溶解する段階で比較的強い酸性下に保つことができるものとして、リン酸、五酸化リン、リン酸二水素アンモニウムが好ましい。これらには市販の試薬を利用できるが、原料としてリン酸を用いる場合には、化学量論的に厳密を期するために予め滴定により純度を正確に求め、ファクターを算出しておくことが好ましい。
【0046】
また、金属鉄と組み合わせて使用可能な「リチウム源となる化合物」としては、焼成後にLiのみ目的の正極材料中に残留するような化合物(前記Li含有分解揮発性化合物)を選択することが好ましく、例えば水酸化リチウムLiOH等の水酸化物、炭酸リチウムLiCO等の炭酸塩のほか、Liの有機酸塩等もLi含有分解揮発性化合物として使用できる。なお、これらにおいては、その水和物を用いることも可能である(例えば、LiOH・HO等)。
【0047】
<金属ハロゲン化物>
異種金属元素の導入用原料としては、元素周期表において、4族、5族、6族、11族、12族、13族または14族に属する金属元素のハロゲン化物(本明細書において「金属ハロゲン化物」と記すことがある。)を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙げられる(これらの水和物の形態のものも含む)。
【0048】
金属ハロゲン化物の中でも、特にモリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)またはスズ(Sn)のハロゲン化物の添加複合化による正極性能向上効果が高い。また、金属ハロゲン化物の中では塩化物が比較的安価で入手しやすく有利である。
【0049】
正極材料の原料に添加される金属ハロゲン化物の例を以下に示す(これらの中には水和物もあるが、水和物としての標記は省略する)。
【0050】
モリブデン(Mo)のハロゲン化物としては、例えば、MoCl、MoCl、MoBr、MoI、MoF等;チタン(Ti)のハロゲン化物としては、例えばTiCl、TiCl、TiBr、TiI、TiF、TiF等;バナジウム(V)のハロゲン化物としては、例えばVCl、VCl、VCl、VBr、VI、VF等;クロム(Cr)のハロゲン化物としては、例えばCrCl、CrCl、CrBr、CrF等;銅(Cu)のハロゲン化物としては、例えばCuCl、CuCl、CuBr、CuBr、CuI、CuF等;亜鉛(Zn)のハロゲン化物としては、例えばZnCl、ZnBr、ZnI、ZnF等;インジウム(In)のハロゲン化物としては、例えばInCl、InCl、InCl、InBr、InBr、InI、InI、InF等;スズ(Sn)のハロゲン化物としては、例えば、SnCl、SnCl、SnBr、SnBr、SnI、SnI、SnF、SnF等;をそれぞれ挙げることができる。
【0051】
これらの金属ハロゲン化物の添加量は、正極材料の原料中の中心金属Feに対し異種金属元素として約0.1〜5mol%、好ましくは約0.5〜3mol%となるようにする。また、金属ハロゲン化物を添加した正極材料の焼成前駆体を焼成する際に、該金属ハロゲン化物の種類に応じて、例えば炭素、水素等の還元剤、酸素等の酸化剤、および/または塩素、ホスゲン等の第3成分を共存させることによって、より好適な条件で異種金属元素複合化正極材料を形成できる場合がある。また、焼成前駆体製造または仮焼成の際に、例えば他の物質と混合することにより、金属ハロゲン化物を生成するような条件の下では、これらの金属やその酸化物等を複合化の原料として使用することも可能である。
【0052】
<導電性炭素前駆物質>
導電性炭素前駆物質としては、例えば、ビチューメン類(いわゆるアスファルト;石炭や石油スラッジから得られるピッチ類を含む)、糖類、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ABS樹脂、フェノール樹脂、その他芳香族基を有する架橋高分子などが挙げられる。これらの中でも、ビチューメン類(特に、精製された、いわゆる石炭ピッチ)および糖類が好ましい。これらのビチューメン類や糖類は加熱分解によって導電性炭素を生じて正極材料に導電性を付与する。特に、精製された石炭ピッチは、非常に安価であり、かつ焼成中に融解して焼成中の原料粒子の表面に均一に広がり、また熱分解過程を経て比較的低温(650℃〜800℃)での焼成後、高い導電性を発現する炭素析出物となる。また、糖類の場合は、糖類に含まれる多くの水酸基が原料および生じた正極材料粒子表面に強く相互作用することにより、結晶成長抑制作用も併せ持つため、糖類を用いることによって、より優れた結晶成長抑制効果と導電性付与効果を得ることができるからである。
【0053】
精製石炭ピッチとしては、軟化温度が80℃から350℃の範囲内にあり、熱分解による減量開始温度が350℃から450℃の範囲内にあり、500℃以上800℃以下までの加熱分解・焼成により、導電性炭素を生成するものが好適に用いられる。正極性能をより高めるためには、軟化温度が200℃〜300℃の範囲内にある精製石炭ピッチがより好ましい。また、精製石炭ピッチに含有される不純物は、正極性能に悪影響を与えることがないものが良いことは言うまでもないが、特に灰分が5000ppm以下であることが好ましい。
【0054】
糖類としては、250℃以上500℃未満の温度域において分解を起こし、かつ150℃から前記温度域までの昇温過程において一度は少なくとも部分的に融液状態をとり、さらに500℃以上800℃以下までの加熱分解・焼成によって導電性炭素を生成する糖類が特に好ましい。かかる特定の性質を有する糖類は、融解により加熱反応中の正極材料粒子の表面に好適にコートされ、加熱分解後は生じた正極材料粒子表面に導電性炭素を良好に析出するとともに、この過程で上記したように結晶成長を抑制するからである。また、上記糖類は加熱分解によって、該糖類の焼成前の乾燥重量に対し、少なくとも15重量%以上、好ましくは20重量%以上の導電性炭素を生じ得るものがよい。これは、生じる導電性炭素の量的な管理を容易にするためである。以上のような性質を有する糖類としては、例えばデキストリンなどのオリゴ糖や、可溶性でんぷん、加熱により融解しやすい架橋の少ないでんぷん(例えば50%以上のアミロースを含むでんぷん)等の高分子多糖類が挙げられる。
【0055】
<焼成前駆体の調製>
焼成前駆体は、前記したように、異種金属元素のハロゲン化物を、リン酸鉄リチウムの原料となる物質に添加し、例えば、遊星ボールミル、揺動または回転式の粉体混合機等を用いて乾燥状態で1時間〜1日程度混合する方法(以下、「乾式混合」と記す)、または例えばアルコール類、ケトン類、テトラヒドロフランなどの有機溶媒、または水等の溶媒もしくは分散媒とともに正極材料の原料に添加され、湿式で例えば1時間〜1日程度、混合・擂潰後、乾燥する方法(以下、「湿式混合」と記す)によって焼成前駆体となる。
【0056】
前記した金属ハロゲン化物のうち、例えば五塩化モリブデン(MoCl)、四塩化チタン(TiCl)、三塩化バナジウム(VCl)等は常温においても空気中で極めて不安定であり、塩素、塩化水素などを放出しながら分解しやすい。また、水分やアルコール類と容易に反応して水酸化物や金属アルコキシドを生じる。これらの不安定な金属ハロゲン化物を正極材料の混合原料に添加し、湿式混合する場合は、その過程で水酸化物や金属アルコキシド等を生じる反応を経ることにより、異種金属元素複合化正極の焼成前駆体が得られる。これを焼成して得られるMo、Ti、V等の金属複合化リン酸鉄リチウム正極材料は、金属複合化を行わない同正極材料に比べれば高いレート特性、大きな容量を示し、正極性能向上に対する効果が認められる。しかし、乾燥した正極材料の混合原料にこれらの金属ハロゲン化物を直接添加し、乾式混合によって得た焼成前駆体を焼成して得られる金属複合化リン酸鉄リチウム正極材料は、前記湿式混合の場合の金属複合化正極材料と比較すると、さらに良好なレート特性と理論容量に迫る大きな容量を示すことから、これらを使用することがより好ましい。
【0057】
一方、前出の金属ハロゲン化物のうち、例えば三塩化クロム(水和物を含む)、二塩化銅、塩化亜鉛、塩化インジウム四水和物、二塩化スズ、四塩化スズ等のように、空気中や水中で分解・脱塩素を起すことがないものを用いる場合は、湿式混合、乾式混合のいずれによっても高い性能の正極材料を生じ得る正極前駆体が得られる。また、これらの安定な金属ハロゲン化物の場合、正極材料の原料自体の粉砕混合と該金属ハロゲン化物の添加混合の2つの工程を兼ねて、正極材料の各原料の仕込み時に一緒に該金属ハロゲン化物を添加し、前記原料と共に粉砕、混合することによっても好適な焼成前駆体が得られる。この際、アルコールや水等を加え、湿式にて粉砕・混合を行うことも何ら問題なく可能である。一般に、湿式粉砕・混合によれば、いっそう均一、細粒で組成の安定した焼成前駆体が得られる。
【0058】
正極活物質の原料物質として金属鉄を用いる場合は、溶液中でリン酸イオンを遊離する化合物と、水と、金属鉄とを混合し金属鉄を溶解した後、炭酸リチウム、水酸化リチウムまたはその水和物などのLi含有分解揮発性化合物を添加し、生じた反応生成物に前記金属ハロゲン化物を添加し、上記と同様に乾式混合または湿式混合することにより、焼成前駆体が得られる。この場合、正極活物質の原料としての金属鉄の溶解に際しては、まず、リン酸などの、溶液中でリン酸イオンを遊離する化合物と金属鉄と水を混合し、擂潰や加熱(還流など)して鉄を反応させる。ここで擂潰操作は、溶液中の金属鉄にせん断力を加え、表面を更新させることにより金属鉄を溶解させる目的で行うものであり、これにより正極材料の収率を向上させ得る。擂潰は、自動擂潰機、ボールミル、ビーズミルなどを用い、擂潰装置の効率にもよるが、例えば30分から10時間程度の時間をかけて行うことが好ましい。さらに、完全に金属鉄の溶解反応を進行させるには、超音波照射を行うことも効果がある。また、加熱操作により、金属鉄の還元溶解反応が促進されので、正極材料の収率を向上させ得る。加熱は、鉄の酸化を回避するため、例えば不活性ガス中での還流などにより実施することが好ましい。還流では、比較的大型化が困難な機械的微粉砕操作が不要になるため、大量生産を行う上で特に有利であると考えられる。また、金属鉄を溶解させる際には、シュウ酸や塩酸などの揮発性の酸を添加して酸濃度を上たり、あるいは、酸素(空気でもよい)、過酸化水素、ハロゲン(臭素、塩素など)、もしくは次亜塩素酸、さらし粉などのハロゲン酸化物等の揮発性の酸化剤を共存させることができる。また、酸化能と酸性を兼ね備えた揮発性酸である硝酸を添加することも効果がある。さらに、以上において、50℃〜80℃程度に加熱して反応させるとより効果的である。また、上記揮発性酸、酸化剤等は金属鉄から鉄(II)イオンへの酸化に対し等量以下となる量で作用させることが好ましい。これにより、金属鉄のリン酸等の溶液への溶解反応を促進させることが可能となる一方で、これらの揮発性酸、酸化剤等は焼成過程で除去されるため正極材料中には残存しない。
【0059】
以上のように、擂潰操作や加熱操作後により鉄を溶解させた溶液にリチウム源としての水酸化リチウム等を添加する。リチウム源を添加した後も、必要に応じてさらに粉砕、擂潰を行うことが好ましい。さらに、金属ハロゲン化物を添加した後においても、擂潰・混合を行うことにより焼成前駆体が得られる。
【0060】
<焼成の概要>
正極材料の原料と金属ハロゲン化物とを上記のように混合して得られた焼成前駆体に対して、焼成を行う。焼成は、一般に採用されるような300〜900℃に至る焼成過程において、適切な温度範囲及び時間を選んで実施することができる。また、焼成は、酸化態不純物の生成防止や、残存する酸化態不純物の還元を促すため、酸素ガス不存在下で行うことが好ましい。
【0061】
本発明製造方法において、焼成は、一連の昇温およびこれに引き続く温度保持過程の一回のみにより実施することも可能であるが、第一段階のより低温域での焼成過程(通例常温〜300ないし450℃の温度範囲;以下、「仮焼成」と記すことがある)、および第二段階のより高温域での焼成過程[通例常温〜焼成完了温度(500℃ないし800℃程度);以下、「本焼成」と記すことがある]の2段階に分けて行うことが好ましい。
【0062】
仮焼成においては、正極材料の原料が加熱により最終的な正極材料に至る中間的な状態まで反応し、その際、多くの場合は熱分解によるガス発生を伴う。仮焼成の終了温度としては、発生ガスの大部分が放出し終わり、かつ最終生成物の正極材料に至る反応が完全には進行しない温度(すなわち、より高温域での第二段階の本焼成時に正極材料中の構成元素の再拡散・均一化が起こる余地を残した温度)が選択される。
【0063】
仮焼成に続く本焼成では、構成元素の再拡散・均一化が起こるとともに、正極材料への反応が完了し、しかも焼結などによる結晶成長を極力防げるような温度域まで昇温および温度保持がなされる。
【0064】
また、前記した炭素析出−複合化正極材料を製造する場合は、第一段階の焼成を行い、該第一段階の焼成後の生成物に、導電性炭素前駆物質を添加した後、第二段階の焼成を行うことにより、得られる正極材料の性能をより向上させることができる。導電性炭素前駆物質、特に加熱により融解する石炭ピッチや糖類を用いる場合は、仮焼成前の原料に添加することも可能であるが(この場合でも相応の正極性能向上効果が得られる)、仮焼成後の原料(既に原料からのガス発生の大半が終了し、中間生成物となった状態)に添加し、本焼成を行うことがより好ましい。つまり、焼成過程における仮焼成と本焼成との間に、原料への導電性炭素前駆物質の添加工程を設けることになる。これにより、加熱により融解・熱分解する石炭ピッチや糖類等の物質が、原料から発生するガスにより発泡することを防ぎ、より均一に正極材料の表面に溶融状態で広がり、より均一に熱分解炭素を析出させることができる。
【0065】
これは以下の理由による。
すなわち、仮焼成において原料の分解により発生するガスの大半が放出されてしまう結果、本焼成ではガスの発生が殆ど起こらず、仮焼成後のタイミングで導電性炭素前駆物質を添加することにより、均一な導電性炭素の析出が可能になる。このため、得られる正極材料の表面導電性がさらに良好になり、また接触が強固に安定化される。なお、前述のように仮焼成前の原料に導電性炭素前駆物質を添加しても、比較的高い充放電特性の炭素析出−複合化正極材料を得ることができる。しかし、この方法による正極材料は、前記の仮焼成後に導電性炭素前駆物質を添加して得られる正極材料に比べると性能の点で及ばない。これは、仮焼成中に原料から旺盛に発生するガスにより、融解状態で未だ完全には熱分解していない導電性炭素前駆物質が発泡し、均一な析出が妨げられる場合があるほか、異種金属元素の複合化に好ましくない影響を与える可能性があるためと考えられる。
【0066】
焼成は、所定量の水素や水分(水、水蒸気等)を継続的に炉内に不活性ガスとともに供給しながら行うことも可能であり、このようにすることによって水素や水分を添加しない場合より高い充放電特性の炭素析出−複合化正極材料が得られる場合もある。この場合は、例えば、焼成過程の全時間に渡って、または特に500℃以下から焼成完了までの温度、好ましくは400℃以下から焼成完了までの温度、より好ましくは300℃以下から焼成完了までの焼成温度において、水素や水分を添加することができる。なお、気体である水素や水蒸気を「添加する」ことには、水素等のガスの存在下(つまり、水素雰囲気下等)で焼成を行うことが含まれる。
【0067】
<焼成条件(導電性炭素の析出を行わない場合)>
焼成前駆体を焼成する条件(特に焼成温度、焼成時間)は、注意して設定する必要がある。
すなわち、複合化正極材料の反応完結・安定化のためには焼成温度は高い方が良いが、導電性炭素の析出を行わない場合は、焼成温度が高すぎると燒結・結晶成長しすぎ、充放電のレート特性を著しく低下させる場合がある。このため、焼成温度は約600〜700℃、好ましくは約650〜700℃の範囲とし、例えば、N、Arなどの不活性ガス中で焼成する。この際、前記したように水素(加熱分解により水素を生成する水分を含む)を添加することによって、正極材料の性能が向上することがある。
【0068】
焼成時間はおよそ数時間乃至3日程度が目安となるが、650〜700℃程度の焼成温度の場合、10時間程度以下の焼成時間では得られる正極材料中での異種金属元素の固溶の均一性が不足し、10数サイクルの充放電経過後に充放電異常が起こり、急激に性能が劣化する場合があるため、焼成時間を1〜2日(24時間〜48時間)確保するのが良い。この放電異常は、例えば異種金属元素がMoの場合に起こることが確認されており、サイクル数経過と共に次第に電池内部抵抗が増大し、さらには放電の途中で充放電容量対電圧曲線が不連続な2段波になるという異常な挙動であり、その原因は明らかではないが、充放電中のLiイオンの出入りに伴い、局在していた異種金属元素化学種の凝集・相分離/偏析が引起されてLiイオンの移動が阻害されるものと現段階では推定している。
【0069】
一方、異種金属元素としてMoを用いた場合においても、700℃以上の焼成温度ではこのような異常挙動はみられなくなる。しかし、急速に正極材料の焼成・結晶成長が進み、電池性能が低下するため、焼成時間は10時間より短い適切な時間を選ぶべきである。良好な条件で得られた異種金属元素複合化LiFePO正極材料を組込んだ金属Li負極コイン電池は、後述の実施例に記すように、充放電電流密度0.5mA/cmにて理論容量(約170mAh/g)に迫る常温充放電容量と良好な充放電サイクル特性を示す。
【0070】
なお、正極材料のより良好な均一性を得るために、第1段階の焼成(仮焼成)と第2段階の焼成(本焼成過程)の間に、仮焼成物を十分に粉砕混合した後、前述の所定温度における第2段階の本焼成を行うことも好ましい。
【0071】
<焼成条件(導電性炭素の析出を行う場合)>
導電性炭素析出を行う場合も本焼成の温度は非常に重要であり、前述の炭素析出のない場合に比べ、高い温度(例えば750℃〜850℃)とすることが好ましい。焼成温度が高い場合は正極材料中の異種金属元素分布の均一性が不足することが少ないため、10時間程度以下の焼成時間が選ばれる。異種金属元素とLiFePOとの複合化正極材料に石炭ピッチなどのビチューメン類、またはデキストリン等の糖類由来の導電性熱分解炭素を析出させた炭素析出−複合化正極材料を製造する場合、本焼成温度が約750℃以下であると、得られる正極材料のサイクル充放電において、サイクル数経過に伴う電池内部抵抗の増大及び充放電容量対電圧曲線の2段波化という、炭素析出させない異種金属元素複合化正極材料の場合と同様の異常挙動が出現し、性能劣化が進む場合がある。
【0072】
しかし、不活性ガス中で、約750℃を超える温度、例えば775℃で本焼成した炭素析出−複合化正極材料ではこのような異常挙動は見られなくなる。これは、比較的高い本焼成温度を採用することによって異種金属元素の分布が均一化・安定化されたためと推定される。後述の実施例で示すように、このようにして得られた異種金属元素/炭素/LiFePO複合化正極を組込んだ金属Li負極電池は、電流密度0.5mA/cmにて約160mAh/gという理論容量170mAh/gに肉薄する常温充放電容量を示し、しかもサイクル寿命、レート特性が共に格段に改善されることが判った。
【0073】
なおここで、炭素を析出させなかった場合と異なり、該炭素析出−複合化正極材料の場合は、例えば、775℃という高温で焼成を行っても容量減少などの性能低下はほとんど起こらない。これは、異種金属元素の複合化及び導電性炭素析出の両方によって材質の導電性が向上する上に、析出させた導電性炭素が障害となって焼成・結晶成長を抑制するために正極材料の粒径増大が起こりにくく、Liイオンの正極材料粒子内における移動が容易であるためと考えられる。従って、かかる焼成条件で製造された該炭素析出−複合化正極材料は、きわめて高い性能と安定性を両立できる。なお、およそ850℃以上の温度で本焼成を行うと、活物質LiFePOの分解が起こり、組成の変動などをもたらす上に焼結を引起す場合があるため、775〜800℃付近の温度にて焼成することが好ましい。
【0074】
導電性炭素の析出量は、異種金属元素複合化正極材料の結晶子サイズによっても異なるが、同正極材料及び導電性炭素の合計重量に対し、約0.5〜5重量%の範囲が好ましい。特に、正極材料の結晶子サイズが50〜100nm程度の場合は約1〜2重量%、150〜300nm程度の場合は約2.5〜5重量%程度となるようにすることが望ましい。これより析出量が少ない場合は導電性付与の効果が低下し、また多すぎる場合は正極材料の結晶子表面においてLiイオンの出入りの障害となりやすく、共に充放電性能を低下させる傾向がある。好適な量の炭素を析出させるためには、その前駆体となる石炭ピッチなどのビチューメン類、及び/またはデキストリン等の糖類について、前記したようにあらかじめ熱分解炭化の際の減量率を求めておき、それに従って該炭素前駆体の添加量を決めることが好ましい。
【0075】
(C)二次電池:
以上のようにして得られる本発明の正極材料を使用した二次電池としては、例えば、金属リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等を挙げることができる。
【0076】
以下、リチウムイオン電池の場合を例に挙げ、二次電池の基本構成を説明する。リチウムイオン電池は、俗にロッキングチェア型とか、シャトルコック(バトミントンの羽根)型などと言われるように、充放電に伴い、負極、正極活物質の間をLiイオンが往復することを特徴とする二次電池である(図1参照)。なお、図1中、符号10は負極を、符号20は電解質を、符号30は正極を、符号40は外部回路(電源/負荷)を、符号Cは充電している状態(充電時)を、符号Dは放電している状態(放電時)を、それぞれ示す。
【0077】
充電時には負極(現行系は黒鉛などのカーボンが用いられる)の内部にLiイオンが挿入されて層間化合物を形成し(この時、負極カーボンが還元され、Liの抜けた正極が酸化される)、放電時には、正極の内部にLiイオンが挿入されて鉄化合物−リチウムの複合体を形成する(この時、正極の鉄が還元され、Liの抜けた負極は酸化されて黒鉛等に戻る)。Liイオンは充放電の間、電解質中を往復し、同時に電荷を運ぶ。電解質としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどの環状有機溶媒と、例えばジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状有機溶媒との混合溶液に、例えばLiPF、LiCFSO、LiClO等の電解質塩類を溶解させた液状電解質、これらの液状電解質を高分子ゲル状物質に含浸させたゲル電解質、部分架橋ポリエチレンオキシドに前記電解質を含浸させたもの等の固体ポリマー電解質等が用いられる。液状電解質を用いる場合には、正極と負極が電池内で短絡しないようにポリオレフィン製等の多孔質隔膜(セパレータ)をそれらの間に挟んで絶縁させる。正極および負極は、正極材料および負極材料にそれぞれカーボンブラック等の導電性付与剤を所定量加え、例えばポリ4弗化エチレンやポリ弗化ビニリデン、フッ素樹脂等の合成樹脂、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム等の結着剤および必要な場合はさらに極性有機溶媒を加えて混練、薄膜化させたものを用い、金属箔や金属網等で集電して電池が構成される。一方、負極に金属リチウムを用いた場合、負極ではLi(O)/Liの変化が充放電とともに起こり、電池が形成される。
【0078】
二次電池の形態としては、例えば、後記実施例に示すように、ペレット状正極をコイン型二次電池ケース組み込んで封入したコイン型リチウム二次電池や、薄膜塗工シート正極を組み込んだリチウム二次電池等の形態を採用することができる。
【0079】
<作用>
異種金属元素複合化が正極材料に与える作用機構は、現段階では必ずしも明らかではないが、異種金属元素は正極材料へのドーピング試薬として作用し、還元態LiFePO及び酸化態FePOの両方の導電性を向上させている可能性がある。
【0080】
次に、オリビン型リン酸鉄(II)リチウム及び脱Li酸化態のリン酸鉄(III)のそれぞれの導電性と、電極酸化還元反応およびLiイオンの移動挙動との間の関係について、現段階でも最もありうると考えられる仮説を述べる。
【0081】
前述のように、還元態のリン酸鉄リチウム及び脱Li酸化態のリン酸鉄は、充放電に伴い、単一の結晶子中で境界面を隔てて常に2相共存しながらそれぞれの体積比率を変動させ、完全充電後は脱Li酸化態、完全放電後は挿Li還元態に変化する。
【0082】
今、単純化のため、図2のような正極材料粒子周辺の二次元的なモデルを考える。図2中a〜cは充電過程(脱Li電極酸化)の初期、中期、及び末期を、d〜fは放電過程(挿Li電極還元)の初期、中期、及び末期を示す。ここでy軸上に置かれた集電材(正極材料に析出させた導電性炭素を含む導電性助剤に相当)の一面に接した正極材料粒子がx方向に向かって置かれ、残る3方向は電解質に接しており、x方向に電界が印加されているものとする。図2aの充電初期において、本正極系のように導電性が低い正極材料の場合、電極還元が最初に起こるのは集電材、正極材料、及び電解質の3相境界である隅の部分であり、充電が進むにつれて、Li充満状態の還元態LiFePOと完全に脱Li酸化されたFePOの境界面がx方向に向かって移動して行くと考えられる。その際、Liイオンの脱離経路としては脱LiされたFePO内部を通ることは不利であり、またLiが充満したLiFePOの内部を通ることも困難であることから、図示されたように両相の境界面上を移動して電解質中に出るのが最も有力である(ただし、LiFePOのLi欠損サイト、またはFePOのLi残存サイトを考えた場合は、一部のLiイオンがこれらのサイトの再配列を伴ってそれぞれの内部を通過することはあり得る)。一方、電子は必ず酸化状態のFePO内部を通り、集電材を経て外部回路に出る。定電流充電の定常状態においては、電気的中性の要請から、境界面上の一局所において還元が起こり、1個のLiイオンが境界面上を移動開始する時、該Liイオンのx及びy方向速度成分は、同時に生じた電子1個がFePO内部を通過するx及びy方向速度成分と互いに逆向きで等しい大きさを持つ(図2中に矢印でそれぞれの速度ベクトルを示した)。従って、Liイオン及び電子の局所移動速度ベクトルを境界面の全域においてそれぞれ積分すると、全体としてLiイオン及び電子の移動は、互いに逆向きにx方向に沿って進行することになる。このため、もし脱Li酸化態FePOの導電性が低いと、電極酸化反応およびLiイオンの移動共に抑制されてしまう。特に、図2b〜cの充電中期から末期にかけて、脱Li酸化態FePO中の電子の移動距離が長くなるため、大きな分極が生じて充電電圧が上昇していくと考えられる。もし極端に脱Li酸化態のFePOが絶縁性であると、充電末期cまでは到達できず、きわめて低い活物質利用率で充電を終了させなければならなくなる。
【0083】
一方、放電過程d〜fにおいては、上記と全く逆のことが起こる。即ち、集電材、正極材料、及び電解質の3相境界である隅の部分から挿Li電極還元反応が始まり、放電が進行すると共にx方向に境界面が移動し、放電中期e〜末期fにおいては挿Li還元態LiFePO内部を電子が長距離移動しなければならなくなるため、やはり大きな分極が生じて放電電圧が降下していく。これらは、本正極系の実際の定電流充放電における二次電池電圧の変化をよく表している。
【0084】
以上から、本正極系においては、電極酸化還元反応及びLiイオンの脱離/挿入を促進させ、活物質利用率(充放電容量)及び分極低減による高レート特性の向上を実現するためには、挿Li還元態LiFePOおよび脱Li酸化態FePOの両方の導電率を上げることが極めて有効であると考えられる。
【0085】
本発明の異種金属元素の複合化はこの点に対して極めて大きな効果を奏し、図2b〜cの充電中期から末期、およびe〜fの放電中期から末期にかけての分極の増大を抑制するため、広い充放電深度範囲にわたって非常に平坦な充放電電圧を示し、また高い活物質利用率が実現される。また異種金属元素の複合化に併用される、本発明の導電性炭素の適度な析出は、図2中の集電材を、例えば正極材料粒子の他の3方面においても接触させることに相当し、これにより前記集電材、正極材料、及び電解質の3相境界部分が増大するため、異種金属元素複合化による効果が相乗的に高められるものと考えられる。以上により、異種金属元素の複合化と導電性炭素の析出を併用した場合は、一層高い活物質利用率が実現され、また電池の容量対電圧特性のグラフにおいては、理論容量に肉薄する充放電容量分の通電後に急峻な電圧の立上がり/立下りが現れるようになると推察される。
【0086】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより何ら制約されるものではない。なお、以下の実施例等では、本焼成時間を10時間に設定したが、前述した充放電異常は起こらなかった。
【0087】
実施例1
異種金属元素としてバナジウム(V)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
4.4975gのFeC・2HO(和光純薬工業株式会社製)、3.3015gの(NHHPO(和光純薬工業株式会社製、特級)、及び1.0423gのLiOH・HO(特級)に略1.5倍体積のエタノールを加え、2mm径ジルコニアビーズ及びジルコニアポットを有する遊星ボールミルを用いて1.5時間粉砕・混合後、減圧下50℃にて乾燥した。乾燥後の原料の粉砕・混合物に3塩化バナジウムVCl(和光純薬工業株式会社製)を0.0393g加え(前記FeC・2HO中のFeに対し元素比で1mol%に相当)、メノウ製自動乳鉢にて1.5時間擂潰・混合して焼成前駆体を得た。これをアルミナ製るつぼに入れ、純Nガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず400℃にて5時間仮焼成し、一旦取出した仮焼成後試料をメノウ製乳鉢にて15分粉砕後、さらに同雰囲気で675℃にて10時間本焼成した(ガスは昇温開始から焼成放冷後まで流通しつづけた)。
【0088】
以上のようにして合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePOと同定され、その他の不純物の回折ピークは認められなかった(図3にX線回折結果を示す)。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:V:P)=(1.01:0.97:0.0089:1)であった。なお、以降は、バナジウム等の添加異種金属元素の量を表記する際、実際の含有量ではなく、便宜上、Feに対する仕込み元素のモル百分率を用いることとする。
【0089】
上記の正極材料と、導電性付与剤として電気化学工業株式会社製デンカブラック(登録商標;50%プレス品)、結着剤として未焼成PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉とを重量比で70:25:5となるように混合・混練して、厚さ約0.6mmのシート状に圧延し、これを直径1.0cmに打抜いたペレットを正極とした。
【0090】
その後、ステンレス製コイン電池ケース(型番CR2032)に金属チタン網、金属ニッケル網をそれぞれ正負極集電体としてスポット溶接し、前記正極と金属リチウム箔負極を、多孔質ポリエチレン製隔膜(東燃化学株式会社製E−25)を介して組入れ、電解液として1MのLiPFを溶解したジメチルカーボネート/エチレンカーボネートの1/1混合電解液(富山薬品工業株式会社製)を満たして封入し、コイン型リチウム二次電池を作製した。正負極、隔膜、電解液等の一連の電池組立ては、アルゴン置換されたグローブボックス内で行った。
【0091】
以上のように、本発明の製造方法によって得た正極材料を組込んだコイン型二次電池に対し、25℃において、正極ペレットの見かけ面積当たりの充放電電流密度0.5mA/cm、1.0mA/cm及び1.6mA/cmにて、3.0V〜4.0Vの動作電圧範囲で定電流充放電を繰り返したところ、初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)は表1のようになった。さらに、第3サイクル時のこの電池の充放電曲線を図4に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図5に示す。なお、以後、これらの容量値については、炭素以外は、バナジウム等の異種金属元素を含む正極活物質の正味重量で規格化して表記する(ただし、析出導電性炭素だけはその重量を補正するものとする)。
【0092】
表1、図5より、本発明のVCl添加により作製したバナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料では、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて、151mAh/gに達する本正極系としては非常に大きい初期容量と、若干の容量低下は見られるものの、比較的安定したサイクルの特性が得られた。
【0093】
実施例2
異種金属元素としてクロム(Cr)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にCrCl[純度98%、リサーチ・ケミカルズ・リミテッド(Research Chemicals Ltd.)製]を0.0396g添加し、擂潰混合した以外は、実施例1と全く同様の手順に従い、Crを1mol%複合化させたLiFePO正極材料を合成した。
【0094】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Cr:P)=(1.03:1.00:0.0093:1)であった。このクロム複合化正極材料のX線回折結果では、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0095】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図6に示す。
【0096】
実施例3
異種金属元素としてクロム(Cr)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
【0097】
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にCrCl・6HO(純度99.5%、和光純薬工業株式会社製)を0.0666g添加し、擂潰混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従い、Crを1mol%複合化させたLiFePO正極材料を合成した。
【0098】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Cr:P)=(0.99:1.02:0.0087:1)であった。このクロム複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0099】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図7に示す。
【0100】
表1および図6、図7より、本発明の実施例2のCrCl、及び実施例3のCrCl・6HOの添加により作製したクロム複合化リン酸鉄リチウム正極材料はほぼ同様な充放電特性を示し、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて150〜151mAh/gに達する本正極系としては非常に大きい初期容量と、若干の容量低下は見られるものの、比較的安定したサイクル特性が得られた。またこれらのコイン型二次電池の充放電曲線は、図4に示したVCl添加によるバナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0101】
実施例4
異種金属元素として銅(Cu)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にCuCl(純度95%、和光純薬工業株式社製)を0.0336g添加し、擂潰混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従い、Cuを1mol%複合化させたLiFePO正極材料を合成した。
【0102】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Cu:P)=(1.00:0.96:0.0091:1)であった。この銅複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0103】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図8に示す。
【0104】
表1、図8より、本発明のCuCl添加により作製した銅複合化リン酸鉄リチウム正極材料によって、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて151mAh/gに達する本正極系としては非常に大きい初期容量と、若干の容量低下は見られるものの、比較的安定したサイクル特性が得られた。またこの電池の充放電曲線は、図4に示したVCl添加によるバナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0105】
実施例5
異種金属元素として亜鉛(Zn)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にZnCl(純度98%、和光純薬工業株式社製)を0.0341g添加し、擂潰混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従い、Znを1mol%複合化させたLiFePO正極材料を合成した。
【0106】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Zn:P)=(1.04:0.98:0.0089:1)であった。この亜鉛複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0107】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図9に示す。
【0108】
表1、図9より、本発明のZnCl添加により作製した亜鉛複合化リン酸鉄リチウム正極材料によって、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて149mAh/gに達する本正極系としては非常に大きい初期容量と、若干の容量低下は見られるものの、比較的安定したサイクル特性が得られた。またこの電池の充放電曲線は、図4に示したVCl添加によるバナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0109】
実施例6
異種金属元素としてインジウム(In)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にInCl・4HO(無水物としての含有量74〜77%、和光純薬工業株式社製)を0.0733g添加し、擂潰混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従い、Inを1mol%複合化させたLiFePO正極材料を合成した。
【0110】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:In:P)=(1.01:0.98:0.0085:1)であった。このインジウム複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0111】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図10に示す。
【0112】
表1、図10より、本発明のInCl・4HO添加により作製したインジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料によって、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて152mAh/gに達する本正極系としては非常に大きい初期容量と、若干の容量低下は見られるものの、比較的安定したサイクル特性が得られた。またこの電池の充放電曲線は、図4に示したVCl添加によるバナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0113】
実施例7
異種金属元素としてスズ(Sn)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にSnCl(純度99.9%、和光純薬工業株式社製)を0.0474g添加し、擂潰混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従い、Snを1mol%複合化させたLiFePO正極材料を合成した。
【0114】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Sn:P)=(0.97:0.99:0.0091:1)であった。このスズ複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0115】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図11に示す。
【0116】
表1、図11より、本発明のSnCl添加により作製したスズ複合化リン酸鉄リチウム正極材料によって、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて151mAh/gに達する本正極系としては非常に大きい初期容量と、若干の容量低下は見られるものの、比較的安定したサイクル特性が得られた。またこの電池の充放電曲線は、図4に示したVCl添加によるバナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0117】
実施例8
異種金属元素としてスズ(Sn)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にSnCl(純度97%、和光純薬工業株式社製)を0.0651g添加し、擂潰混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従い、Snを1mol%複合化させたLiFePO正極材料を合成した。この正極材料に対して、実施例1
と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材
に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Sn:P)=(1.03:1.01:0.0089:1)であった。
【0118】
このスズ複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0119】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図12に示す。
【0120】
表1および図11、図12より、本発明の実施例7のSnCl、及び実施例8のSnCl添加により作製したスズ複合化リン酸鉄リチウム正極材はほぼ同様な充放電特性を示し、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて151mAh/gに達する本正極系としては非常に大きい初期容量と、若干の容量低下は見られるものの、比較的安定したサイクル特性が得られた。またこれらの電池の充放電曲線は、図4に示したVCl添加によるバナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0121】
実施例9
異種金属元素としてモリブデン(Mo)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にMoCl(和光純薬工業株式社製)を0.0683g添加し、擂潰混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従い、Moを1mol%複合化させたLiFePO正極材料を合成した。
【0122】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Mo:P)=(1.01:1.01:0.0089:1)であった。このモリブデン複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0123】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図13に示す。
【0124】
表1、図13より、本発明のMoCl添加により作製したモリブデン複合化リン酸鉄リチウム正極材料によって、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて153mAh/gに達する本正極系としては非常に大きい初期容量と、若干の容量低下は見られるものの、比較的安定したサイクル特性が得られた。また、この電池の充放電曲線は、図4に示したVCl添加によるバナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0125】
実施例10
異種金属元素としてチタン(Ti)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にTiCl(和光純薬工業株式社製)を0.0474g添加し、擂潰混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従い、Tiを1mol%複合化させたLiFePO正極材料を合成した。
【0126】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Ti:P)=(1.00:0.97:0.0087:1)であった。このチタン複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0127】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図14に示す。
【0128】
表1、図14より、本発明のTiCl添加により作製したチタン複合化リン酸鉄リチウム正極材料によって、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて151mAh/gに達する本正極系としては非常に大きい初期容量と、若干の容量低下は見られるものの、比較的安定したサイクル特性が得られた。またこの電池の充放電曲線は、図4に示したVCl添加によるバナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0129】
比較例1
異種金属を含まないLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料に対し、乾燥後の原料の粉砕・混合物に何も添加混合しない以外は、実施例1と全く同一の手順に従い、LiFePO正極材料を合成した。
【0130】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:P)=(1.00:0.98:1)であった。この無添加正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0131】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表1に、第3サイクル時の充放電曲線を図4に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図5〜図14に併せて示す。
【0132】
表1、及び図4〜図14を比較すると実施例1〜実施例10の各異種金属元素複合化正極材料を組込んだコイン型二次電池は、本比較例1の無添加正極材料に比べて小さな電位降下と大きな初期放電容量を有し、またサイクル劣化が明らかに改善されていることがわかる。
【0133】
【表1】

【0134】
参考例1
異種金属元素としてバナジウム(V)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例1の1mol%バナジウム複合化正極材料製造に対し、VClに代えて和光純薬工業株式社製シュウ酸バナジル・n水和物VOC・nHOを0.0328g添加混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従って、1mol%バナジウム複合化LiFePO正極材料を合成した(ここでは、水和数nを2と仮定して添加した)。
【0135】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製して、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:V:P)=(1.03:0.98:0.0092:1)であった。このバナジウム複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0136】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表2に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図5に併せて示す。
【0137】
表1と表2、及び図5を比較すると、実施例1のVCl添加により作製したバナジウム複合化正極材料を組込んだコイン型二次電池は、本参考例1のVOC・nHO添加により作製したバナジウム複合化正極材料に比べて大きな初期放電容量を有し、またサイクル劣化が明らかに改善されていることがわかる。
【0138】
参考例2
異種金属元素としてクロム(Cr)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例2及び実施例3の1mol%クロム複合化正極材料製造に対し、CrCl及びCrCl・6HOに代えて和光純薬工業株式社製酢酸クロムCr(CHCOO)を0.0278g添加混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従って、1mol%クロム複合化LiFePO正極材料を合成した。
【0139】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Cr:P)=(0.99:0.97:0.0094:1)であった。このクロム複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0140】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表2に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図6および図7に併せて示す。
【0141】
表1と表2、図6および図7を比較すると、実施例2のCrCl、及び実施例3のCrCl・6HO添加により作製したクロム複合化正極材料を組込んだコイン型二次電池は、本参考例2のCr(CHCOO)添加により作製したクロム複合化正極材料に比べて大きな初期放電容量を示し、またサイクル劣化が明らかに改善されていることがわかる。
【0142】
参考例3
異種金属元素として銅(Cu)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例4の1mol%銅複合化正極材料製造に対し、CuClに代えて和光純薬工業株式社製酢酸銅・一水和物Cu(CHCOO)・HOを0.0499g添加混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従って、1mol%銅複合化LiFePO正極材料を合成した。この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製して、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Cu:P)=(1.03:0.98:0.0093:1)であった。
【0143】
この銅複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0144】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表2に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図8に併せて示す。
【0145】
表1と表2、及び図8を比較すると、実施例4のCuCl添加により作製した銅複合化正極材料を組込んだコイン型二次電池は、本参考例3のCu(CHCOO)・HO添加により作製した銅複合化正極材料に比べて大きな初期放電容量を示し、またサイクル劣化が明らかに改善されていることがわかる。
【0146】
参考例4
異種金属元素としてスズ(Sn)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例7及び実施例8の1mol%Sn複合化正極材料製造に対し、SnClまたはSnClに代えて和光純薬工業株式社製シュウ酸スズSnCを0.0517g添加混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従って、1mol%Sn複合化LiFePO正極材料を合成した。この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Sn:P)=(0.97:0.98:0.0096:1)であった。
【0147】
このスズ複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0148】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表2に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図11及び図12に併せて示す。
【0149】
表1と表2、及び図11及び図12を比較すると、実施例7のSnCl、及び実施例8のSnCl添加により作製したSn複合化正極材料を組込んだコイン型二次電池は、本参考例4のSnC添加により作製したスズ複合化正極材料に比べて大きな初期放電容量を示し、またサイクル劣化が明らかに改善されていることがわかる。
【0150】
参考例5
異種金属元素としてチタン(Ti)を複合化させたLiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例10の1mol%Ti複合化正極材料に対し、TiClに代えて和光純薬工業株式社製チタンブトキシドモノマーTi[O(CH)CH]を0.0851g添加混合した以外は、実施例1と全く同一の手順に従って、1mol%Ti複合化LiFePO正極材料を合成した。この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Ti:P)=(1.02:1.03:0.0090:1)であった。
【0151】
このTi複合化正極材料のX線回折結果においても、図3とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0152】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第1サイクル時)を表2に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図14に併せて示す。
【0153】
表1と表2、及び図14を比較すると、実施例10のTiCl添加により作製したチタン複合化正極材料を組込んだコイン型二次電池は、本参考例5のTi[O(CH)CH]添加により作製したチタン複合化正極材料に比べて大きな初期放電容量を示し、またサイクル劣化が明らかに改善されていることがわかる。
【0154】
【表2】

【0155】
以下では、導電性炭素を析出させた異種金属元素複合化正極材料について実施例に基づき説明する。
【0156】
実施例11
導電性炭素を析出させたバナジウム(V)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
4.4975gのFeC・2HO(和光純薬工業株式会社製)、3.3015gの(NHHPO(和光純薬工業株式会社製、特級)1.0423gのLiOH・HO(特級)、および3塩化バナジウムVCl(和光純薬工業株式会社製)0.0393g(前記FeC・2HO中のFeに対し元素比で1mol%に相当)から焼成前駆体を得て、これを純N中で仮焼成して仮焼成後試料を得た。取出した仮焼成後の原料1.9000gに0.0975gの軟化温度250℃精製石炭ピッチ(アドケムコ社製MCP−250)を加え、メノウ乳鉢にて粉砕後、さらに同雰囲気で775℃にて10時間本焼成した(ガスは昇温開始から焼成放冷後まで流通しつづけた)。
【0157】
以上のようにして合成された導電性炭素析出−複合化正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePOと同定され、その他の不純物の回折ピークは特に認められなかった。このX線回折結果を図15に示す。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.86重量%含有されていることが判ったものの、X線回折からは黒鉛結晶の回折ピークが認められなかったことから、非晶質炭素との複合体を形成していると推定された。さらに、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:V:P)=(1.02:1.03:0.0088:1)であった。
【0158】
上記の正極材料を用い、実施例1と同一の手順により、前記正極材料を組込んだコイン型二次電池を作製し、これに対し、25℃において、正極ペレットの見かけ面積当たりの充放電電流密度0.5mA/cmにて、3.0V〜4.0Vの動作電圧範囲で定電流充放電を繰り返したところ、初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)は表3のようになった。また、第3サイクル時における充放電容量対電圧の特性を図16に示す。さらに、この電池の放電サイクル特性を図17に示す。
【0159】
表3、図16、及び図17に示したように、本発明のVCl添加により作製した導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料によって、充放電電流密度0.5mA/cmにおいて、本正極系理論容量170mAh/gに肉薄する極めて大きな容量値162mAh/gを達成し、また極めて安定したサイクル特性が得られた。図16、図17から明らかなように、充放電のほとんど全域にわたって電圧は極めて平坦であり、それぞれの最末期において急峻な立上がり/立下りが起るという、電池正極として理想的な電圧プロファイルが見て取れる。なお、図16、図17でわかるように、サイクル充放電開始からおよそ第10サイクルにかけては、放電容量がやや増加している。これは、導電性炭素を析出させた正極材料に特有の現象である。
【0160】
実施例12
導電性炭素を析出させたクロム(Cr)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にCrCl[純度98%、リサーチ・ケミカルズ・リミテッド(Research Chemicals Ltd.)製]を0.0396g添加し、擂潰混合した以外は、実施例11と全く同一の手順に従い、Crを1mol%複合化させた導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0161】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Cr:P)=(1.03:1.02:0.0090:1)であった。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.74重量%含有されていることが判った。このクロム複合化正極材料のX線回折結果では、図15とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0162】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)を表3に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図18に示す。またこの電池の充放電曲線は、図16に示したVCl添加による導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0163】
実施例13
導電性炭素を析出させたクロム(Cr)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にCrCl・6HO(純度99.5%、和光純薬工業株式会社製)を0.0666g添加し、擂潰混合した以外は、実施例11と全く同一の手順に従い、Crを1mol%複合化させた導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0164】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Cr:P)=(1.01:0.97:0.0088:1)であった。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.69重量%含有されていることが判った。このクロム複合化正極材料のX線回折結果では、図15とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0165】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)を表3に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図19に示す。またこの電池の充放電曲線は、図16に示したVCl添加による導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0166】
実施例14
導電性炭素を析出させた銅(Cu)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にCuCl(純度95%、和光純薬工業株式会社製)を0.0336g添加し、擂潰混合した以外は、実施例11と全く同一の手順に従い、Cuを1mol%複合化させた導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0167】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Cu:P)=(1.00:0.97:0.0091:1)であった。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.69重量%含有されていることが判った。この銅複合化正極材料のX線回折結果では、図15とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0168】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)を表3に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図20に示す。またこの電池の充放電曲線は、図16に示したVCl添加による導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0169】
実施例15
導電性炭素を析出させた亜鉛(Zn)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にZnCl(純度98%、和光純薬工業株式会社製)を0.0341g添加し、擂潰混合した以外は、実施例11と全く同一の手順に従い、Znを1mol%複合化させた導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0170】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Zn:P)=(1.04:1.01:0.0087:1)であった。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.58重量%含有されていることが判った。
【0171】
この亜鉛複合化正極材料のX線回折結果では、図15とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0172】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)を表3に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図21に示す。またこの電池の充放電曲線は、図16に示したVCl添加による導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0173】
実施例16
導電性炭素を析出させたインジウム(In)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にInCl・4HO(無水物としての含有量74〜77%、和光純薬工業株式会社製)を0.0733g添加し、擂潰混合した以外は、実施例11と全く同様の手順に従い、Inを1mol%複合化させた導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0174】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:In:P)=(1.02:0.99:0.0089:1)であった。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.81重量%含有されていることが判った。このインジウム複合化正極材料のX線回折結果では、図15とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0175】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)を表3に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図22に示す。またこの電池の充放電曲線は、図16に示したVCl添加による導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0176】
実施例17
導電性炭素を析出させたスズ(Sn)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にSnCl(純度99.9%、和光純薬工業株式会社製)を0.0474g添加し、擂潰混合した以外は、実施例11と全く同一の手順に従い、Snを1mol%複合化させた導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0177】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Sn:P)=(1.05:1.01:0.0089:1)であった。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.63重量%含有されていることが判った。このスズ複合化正極材料のX線回折結果では、図15とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0178】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)を表3に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図23に示す。またこの電池の充放電曲線は、図16に示したVCl添加による導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0179】
実施例18
導電性炭素を析出させたスズ(Sn)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にSnCl(純度97%、和光純薬工業株式会社製)を0.0651g添加し、擂潰混合した以外は、実施例11と全く同一の手順に従い、Snを1mol%複合化させた導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0180】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Sn:P)=(1.04:1.01:0.0093:1)であった。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.59重量%含有されていることが判った。このSn複合化正極材料のX線回折結果では、図15とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0181】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)を表3に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図24に示す。またこの電池の充放電曲線は、図16に示したVCl添加による導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0182】
実施例19
導電性炭素を析出させたモリブデン(Mo)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にMoCl(和光純薬工業株式会社製)を0.0683g添加し、擂潰混合した以外は、実施例11と全く同一の手順に従い、Moを1mol%複合化させた導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0183】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Mo:P)=(1.03:1.08:0.0089:1)であった。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.92重量%含有されていることが判った。このモリブデン複合化正極材料のX線回折結果では、図15とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0184】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)を表3に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図25に示す。また、この電池の充放電曲線は、図16に示したVCl添加による導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0185】
実施例20
導電性炭素を析出させたチタン(Ti)複合化LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料製造に用いたVClに代え、乾燥後の原料の粉砕・混合物にTiCl(和光純薬工業株式会社製)を0.0474g添加し、擂潰混合した以外は、実施例11と全く同一の手順に従い、Tiを1mol%複合化させた導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0186】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:Ti:P)=(1.04:1.04:0.0088:1)であった。また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.82重量%含有されていることが判った。このチタン複合化正極材料のX線回折結果では、図15とほとんど同一のオリビン型結晶構造を有するLiFePOの回折ピークのみが見られ、その他の不純物回折ピークは認められなかった。
【0187】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第10サイクル付近)を表3に、また充放電電流密度0.5mA/cmにおける放電サイクル特性を図26に示す。またこの電池の充放電曲線は、図16に示したVCl添加による導電性炭素析出−バナジウム複合化リン酸鉄リチウム正極材料を使用した場合と良く似た形状を有していた(図示せず)。
【0188】
比較例2
異種金属を含まない導電性炭素析出−LiFePO正極材料を、以下の手順で合成した。
前記実施例11の導電性炭素析出−1mol%バナジウム複合化正極材料に対し、乾燥後の原料の粉砕・混合物にVClを添加混合しない以外は全く同一の手順に従い、導電性炭素析出−LiFePO正極材料を合成した。
【0189】
この正極材料に対して、実施例1と同一の手法によりコイン型二次電池を作製し、その特性を評価した。また、同正極材料に対してICP発光分光法による元素分析を行ったところ、その組成はリン(P)基準元素モル比にして、(Li:Fe:P)=(1.03:1.04:1)であった。また、この正極材料中の炭素の含有量は3.67wt%であった。
【0190】
また、コイン型二次電池の初期サイクルにおける最大放電容量(第5サイクル付近)を表3に、第3サイクルにおける充放電曲線を図16に、またサイクル充放電特性を図17〜図26に併せて示す。
【0191】
表3及び図16〜図26において、実施例11〜実施例20と本比較例2とを比較すると、実施例11〜実施例20の導電性炭素を析出させた異種金属複合化正極材料を組込んだコイン型二次電池は、一般には非常に高性能であると言い得る、異種金属元素を添加しない本比較例2の導電性炭素析出−正極材料と比較しても、非常に小さい電位降下、LiFePOの理論容量170mAh/gに迫るいっそう大きな初期放電容量、及び優れたサイクル特性を示していることがわかる。これは、導電性炭素析出により、正極酸化還元反応が開始する活物質・電解質・集電体の3相界面が飛躍的に増加することによる活物質利用率の向上に起因し、さらに金属複合化正極の材質自体の導電性向上により、相乗的に特性が改善された結果であると推定される。
【0192】
【表3】

【0193】
表4に、実施例1から実施例20の全ての試料に対して正極材料中の塩素含有量の分析値を示した。分析値は試料元素モル比で示し、Pを基準の1として表した。Mは異種金属元素を示す。塩素分析はアルカリ溶融/イオンクロマトグラフ法で測定した。この表4には、ハロゲン元素がPに対して、0.63mol%〜1.45mol%の範囲で含まれるデータが示されているが、本発明者らは、0.1mol%以上含まれている正極材料の充放電特性がハロゲン元素の現状における検出限界未満のものや、Pに対して0.01mol%以下のもの(表2の参考例1〜5のもの)と比べて勝っていることを確認した。尚、ハロゲン元素の含有量の上限については、前記異種金属元素の含有量の2倍程度までは同様の特性が得られることを確認している。
【0194】
ここで、塩素(Cl)は、例えばLiClのような塩化物の形で相分離して存在しているか、または少なくともその一部が、添加された異種金属元素Mと共にLiFePOの結晶中に単一相として取り込まれている(復塩を形成している)と考えられる。塩素(Cl)が異種金属元素Mと共に正極材中に混在することによるか、または正極材の焼成過程で異種金属元素Mの正極活物質結晶中への複合化を塩素(Cl)が補助することにより、得られた正極材の充放電特性が向上したものと推定される。
【0195】
【表4】

【0196】
以上、本発明を種々の実施形態に関して述べたが、本発明は上記実施形態に制約されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、他の実施形態についても適用可能である。
【0197】
例えば異種金属元素を複合化させた還元態のリン酸鉄リチウム正極材料LiFePO、及び導電性炭素を析出させ、かつ異種金属元素を複合化させた同還元態正極材料以外に、該還元態から電池充電反応または化学的酸化反応等により生じる酸化態のリン酸鉄[FePO]も、異種金属元素複合化正極材料、及び炭素析出−異種金属元素複合化正極材料として本発明の範疇に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の正極材料または本発明方法により得られる正極材料は、二次電池の正極材料として、例えば携帯電話を含む各種携帯機器のほか、電気自動車、ハイブリッド電気自動車などへの利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】図1は、二次電池の充放電挙動の説明に供する模式図。
【図2】図2は、正極材料粒子周辺の二次元的な仮説モデルを示す図面。
【図3】図3は、実施例1で得たバナジウム複合化正極材料のX線回折結果を示す図面。
【図4】図4は、実施例1および比較例1で得た二次電池の第3サイクルにおける充放電曲線を示すグラフ図面。
【図5】図5は、実施例1、比較例1および参考例1の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図6】図6は、実施例2、比較例1および参考例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図7】図7は、実施例3、比較例1および参考例3の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図8】図8は、実施例4、比較例1および参考例3の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図9】図9は、実施例5および比較例1の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図10】図10は、実施例6および比較例1の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図11】図11は、実施例7、比較例1および参考例4の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図12】図12は、実施例8、比較例1および参考例4の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図13】図13は、実施例9および比較例1の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図14】図14は、実施例10、比較例1および参考例5の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図15】図15は、実施例11で得た導電性炭素析出−バナジウム複合化正極材料のX線回折結果を示す図面。
【図16】図16は、実施例11および比較例2で得た二次電池の第3サイクルにおける充放電曲線を示すグラフ図面。
【図17】図17は、実施例11および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図18】図18は、実施例12および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図19】図19は、実施例13および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図20】図20は、実施例14および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図21】図21は、実施例15および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図22】図22は、実施例16および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図23】図23は、実施例17および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図24】図24は、実施例18および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図25】図25は、実施例19および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。
【図26】図26は、実施例20および比較例2の二次電池のサイクル放電特性を示すグラフ図面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiFePO(ここで、nは0〜1の数を示す)で表される正極活物質を主成分として含み、かつ元素周期表において、4族、5族、6族、11族、12族、13族または14族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素と、ハロゲン元素を含有し、該ハロゲン元素はPに対して0.1mol%以上含まれていることを特徴とする、二次電池用正極材料。
【請求項2】
請求項1において、前記金属元素は、バナジウム(V)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)及びチタン(Ti)よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素であることを特徴とする、二次電池用正極材料。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記金属元素の含有量の合計が、前記正極活物質中の鉄に対し元素比で0.1ないし5mol%であることを特徴とする、二次電池用正極材料。
【請求項4】
元素周期表において、4族、5族、6族、11族、12族、13族または14族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素のハロゲン化物と、一般式LiFePO(ここで、nは0〜1の数を示す)で表される正極活物質の原料となる物質と、を混合した後、焼成することにより、前記一般式LiFePO(ここで、nは0〜1の数を示す)で表される正極活物質を主成分として含み、かつ前記金属元素を含有するように合成されたものであることを特徴とする、二次電池用正極材料。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項において、前記正極材料の表面に、導電性炭素の析出物を有することを特徴とする、二次電池用正極材料。
【請求項6】
正極活物質LiFePO(ここで、nは0〜1の数を示す)の原料となる物質と、元素周期表において、4族、5族、6族、11族、12族、13族または14族に属する金属元素のうち、少なくとも1種の金属元素のハロゲン化物と、を混合して得られる焼成前駆体を焼成することにより、前記正極活物質に前記金属元素を複合化させることを特徴とする、二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、焼成過程は、常温から300℃ないし450℃に至る第一段階と、常温から焼成完了温度に至る第二段階と、を含み、
加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を、第一段階の焼成後の原料に添加した後、第二段階の焼成を行うことを特徴とする、二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、第二段階の焼成は不活性ガス雰囲気で750℃〜850℃の温度範囲で行われることを特徴とする、二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質が、ビチューメン類または糖類であることを特徴とする、二次電池用正極材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載された正極材料を構成要素に含むことを特徴とする、二次電池。
【請求項11】
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載された製造方法により得られる正極材料を構成要素に含むことを特徴とする、二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【国際公開番号】WO2005/041327
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515001(P2005−515001)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015836
【国際出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】