説明

二次電池用部材の製造方法および製造装置

【課題】凝集物のない塗工塗料を用いて、絶縁性の多孔質保護層を備えた二次電池用部材の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】無機酸化物フィラー21と溶媒22と結着剤23とを分散混合して塗工塗料を作製するステップ(S01)と、塗工塗料を第1沈降槽に供給し静置して第1沈降槽で凝集物および沈降物を除去するステップ(S02)と、塗工塗料を第2沈降槽に供給し静置してグラビア印刷前に、第2沈降槽で凝集物および沈降物をさらに除去するステップ(S03)と、凝集物および沈降物を除去した塗工塗料をグラビアロールを介して部材に塗工するステップ(S04)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極またはセパレータの二次電池用部材の製造方法に関し、特に均一均質な絶縁性の多孔質保護層を形成した二次電池用部材の製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のポータブル化、コードレス化が進むにつれ、その駆動用電源として小型・軽量で高エネルギー密度を有する二次電池が強く望まれている。そのような中、電極の薄膜化に対する技術開発が盛んに行われている。さらに、二次電池用部材である負極、正極またはセパレータの表面に多孔質保護層を形成して、耐熱性を確保し短絡を防止するための安全技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。そして、特許文献1には、樹脂結着剤とアルミナなどのフィラーの絶縁性微粒子からなる多孔質保護層が示されている。
【0003】
しかし、従来、多孔質保護層を塗工形成するために用いる塗工塗料中には、混合するアルミナ粒子の大きさがサブミクロンオーダーであるため、粒子の凝集物が多く発生する。また、安価な粒子材料を用いる場合は最初から塗工膜厚より大きい粗大径粒子(粗粉)が混入していることが多い。
【0004】
特許文献1の技術により、図6に示すように従来の塗工塗料を用いて、グラビア印刷で塗工し多孔質保護層61を基材60上に形成した場合、塗工塗料中のフィラーの凝集物や粗粉により多孔質保護層61に塗工スジ62aやツブ62bなどの塗工膜欠陥が発生するという問題があった。その結果、二次電池用部材の歩留まりの低下や、電池を形成した場合の電極間の距離のばらつきにより安全性や信頼性が低下するという問題があった。また、多孔質保護層61の膜厚が凝集物の大きさに依存するため、均一で、さらなる薄膜の形成が困難であった。そのため、使用する塗工塗料の中の粗粉や凝集物を如何に除去するかが大きな課題であった。
【0005】
そこで、その解決方法の一つとして、部材に塗布する前に、撹拌装置を設けた塗布装置への塗料供給ラインとは別に、濾過装置を経て撹拌装置に戻す循環ラインを設け、塗工塗料中の凝集塊を除去する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−220759号公報
【特許文献2】特許第3635170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術による多孔質保護層をグラビア印刷で塗工形成する場合、フィラーの径がサブミクロンオーダーのため、特に塗工塗料の保管期間を長くすると塗工液パンの塗工塗料中でフィラーの凝集が発生し、凝集物や沈降物に成長する。そのため、凝集物や沈降物が回転するグラビアロール上に乗ると、電池部材である基材面上にスジ状の未塗工部分の形成や沈降物などのツブが転写される。その結果、特に、塗工塗料を塗工液パンで長い期間保管した後にグラビア印刷などで薄い膜厚の多孔質保護層を形成する場合、凝集物や沈降物により塗工スジやツブなどの塗工膜欠陥が多く、膜厚の不均一な多孔質保護層が形成された電池部材が生産される。そのため、塗工膜欠陥が形成された不良の電池部材の再生もしくは電池部材の廃棄などにより歩留まりが低下する。さらに、上記塗工膜欠陥を有する電池部材を用いて二次電池を作製すると、電池特性、信頼性や安全性などが低下する。また、経時的に発生する凝集物や粗粉の沈降により塗工塗料の組成比が逐次変化するため、グラビア印刷用の塗工塗料の作製時期や保管期間に依存して膜多孔度などが変化し、均一な二次電池を安定して生産できないという課題があった。
【0007】
また、特に、安価なフィラーで作製した塗工塗料を用いてグラビア印刷塗工する場合、分散混合後にグラビア塗工装置に供給する供給パイプなどが、塗工塗料中にもともとあるフィラー中の塗工膜厚よりも大きな粗粉や凝集した粗粉などの沈降物により、詰まってしまう。これは、グラビア印刷で連続して塗工する場合には、塗工塗料は供給パイプ中を連続的に流動するため発生しにくいが、一旦印刷を停止または中断すると凝集物や沈降物が堆積し供給パイプを詰まらせるためである。さらに、供給パイプから塗工液パンに供給された塗工塗料は、上述の理由により、塗工液パン中で長期間静置し保管すると、フィラーの再凝集を生じる。また、粒径の揃った高価なフィラーを用いても、一般的に凝集はするため、同様の問題が生じる。そのため、塗工液パンに供給された塗工塗料で電池部材にグラビア印刷する場合、その処理を短期間で、しかも連続的に行わなければならず、塗工塗料を保管できないという課題があった。
【0008】
また、特許文献2のような循環・濾過ラインは、グラビア塗工装置への供給ライン以外に別途装置が必要であり、設備が大きくなるだけでなく設備コスト、ランニングコストの上昇を招く。
【0009】
さらに、一般的に、多孔質保護層を塗布により形成する場合、塗工塗料の粘度はきわめて低いものであることが多い。そのため、循環ラインを設けても、その循環ライン中の塗工塗料の流れが阻害され滞留しやすい箇所(例えば、配管が曲がっている部分)で、アルミナ粒子などの凝集、沈降により、最悪の場合、循環ラインが沈降物で詰まるという課題があった。しかも、循環ラインは、塗工塗料の循環により凝集の発生を抑制しているだけなので、循環ラインから塗工塗料が塗布装置に戻ると再度凝集が開始するという課題もあった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、塗工液パンで長期間静置保管した塗工塗料を用いても均一均質の絶縁性の多孔質保護層を容易に安定してグラビア印刷形成でき、歩留まりが高く安価な二次電池用部材の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の二次電池用部材の製造方法は、無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤とを分散混合して塗工塗料を作製するステップと、塗工塗料を第1沈降槽に供給し静置して第1沈降槽で無機酸化物フィラーの凝集物および沈降物を除去するステップと、塗工塗料をグラビア塗工装置の第2沈降槽に供給し静置してグラビア印刷前に、第2沈降槽で無機酸化物フィラーの凝集物および沈降物をさらに除去するステップと、凝集物および沈降物を除去した塗工塗料をグラビアロールを介して部材に塗工するステップと、を含む。
【0012】
これにより、第1沈降槽で静置保管中に塗工塗料にもともと存在する凝集物および粗粉などの沈降物を除去し、第2沈降槽で静置保管中に凝集した凝集物をグラビア印刷前にさらに除去する。そのため、塗工塗料を長期間静置し保管しても、供給パイプなどを詰まらせることなく、グラビア印刷で塗工スジ不良などが発生しない均一な膜厚を有する多孔質保護層を効率よく安定して形成できる。その結果、長期間静置保管した塗工塗料を用いてグラビア印刷しても、均一な膜厚で組成変動の小さく均質な多孔質保護層を形成した安全性や信頼性に優れた二次電池用部材を歩留まりよく製造できる。
【0013】
また、本発明の二次電池用部材の製造装置は、無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤を含む塗工塗料を分散混合する分散装置と、塗工塗料を静置する底部に漏斗状部を設けた第1沈降槽と、第1沈降槽から供給される塗工塗料を投入する底部に漏斗状部を設けた第2沈降槽とグラビアロールを有するグラビア塗工装置と、を備え、第1沈降槽および第2沈降槽の漏斗状部の下部に無機酸化物フィラーの凝集物および沈降物を収集する収集部を設けた構成を有する。
【0014】
これにより、大型の循環設備や濾過設備を付加することなく、安定して製造できる小型で安価な二次電池用部材の製造装置を実現できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗工塗料の長期間保管を可能とし、均一で均質な多孔質保護層を備えた二次電池用部材が得られる。また、それらの二次電池用部材により、電池特性の安定した信頼性に優れた二次電池を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の第1の発明は、無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤とを分散混合して塗工塗料を作製するステップと、塗工塗料を第1沈降槽に供給し静置して第1沈降槽で無機酸化物フィラーの凝集物および沈降物を除去するステップと、塗工塗料をグラビア塗工装置の第2沈降槽に供給し静置してグラビア印刷前に、第2沈降槽で無機酸化物フィラーの凝集物および沈降物をさらに除去するステップと、凝集物および沈降物を除去した記塗工塗料をグラビアロールを介して部材に塗工するステップと、を含む二次電池用部材の製造方法である。
【0017】
つまり、第1沈降槽で予め凝集物や沈降物を除去することにより、再凝集までの期間を長くできるため塗工塗料を長期間静置し保管しても、供給パイプなどを詰まらせることない。さらに、部材にグラビア印刷前に、再凝集した凝集物や沈降物を第2沈降槽で除去するため、グラビア印刷時に塗工スジ不良などが発生しない均一な膜厚で均質な組成の多孔質保護層を安定して形成できる。その結果、長期間保管した塗工塗料を用いてグラビア印刷しても、安全性や信頼性に優れた二次電池用部材を歩留まりよく作製できる。
【0018】
本発明の第2の発明は、第1の発明において、グラビアロールの回転により、塗工塗料を攪拌する二次電池用部材の製造方法である。
【0019】
これにより、予め凝集物や沈降物が除去された塗工塗料を、グラビアロールの回転で攪拌し、経時的に発生する無機酸化物フィラーの再凝集を防止するとともに、均一な分散状態に保持できる。
【0020】
本発明の第3の発明は、第1の発明において、部材が、正極、負極またはセパレータである二次電池用部材の製造方法である。
【0021】
これにより、耐熱性などの安全性に優れ、特性ばらつきの小さい正極、負極またはセパレータを実現できる。
【0022】
本発明の第4の発明は、第1の発明において、無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤とを分散混合して塗工塗料を作製するステップを、第1沈降槽で行う二次電池用部材の製造方法である。
【0023】
これにより、分散混合、静置保管および除去を同じ第1沈降槽で行えるため、簡単な構成で、二次電池用部材を作製できる。
【0024】
本発明の第5の発明は、第1の発明において、無機酸化物フィラーとして、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニアおよびチタニアの内の少なくとも1種を含む無機酸化物またはそれらの複合酸化物を用いる二次電池用部材の製造方法である。
【0025】
これにより、無機酸化物フィラーとして凝集しやすい無機酸化物またはそれらの複合酸化物の使用を可能とし、信頼性や安全性に優れた二次電池用部材を作製できる。
【0026】
本発明の第6の発明は、第1の発明において、塗工塗料の粘度を、10mPa・s以上3000mPa・s以下とする二次電池用部材の製造方法である。
【0027】
これにより、塗工の安定性に優れ、均一に無機酸化物フィラーが分散した塗工塗料とすることができる。ここで、粘度が10mPa・s未満の場合には、塗料安定性が悪く組成が変化しやすい。また、粘度が3000mPa・sを超える場合には、凝集物が沈降しにくいため効率よく塗工塗料を作製できない。
【0028】
本発明の第7の発明は、無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤を含む塗工塗料を分散混合する分散装置と、塗工塗料を静置する底部に漏斗状部を設けた第1沈降槽と、第1沈降槽から供給される塗工塗料を投入する底部に漏斗状部を設けた第2沈降槽とグラビアロールを有するグラビア塗工装置と、を備え、第1沈降槽および第2沈降槽の漏斗状部の下部に無機酸化物フィラーの凝集物および沈降物を収集する収集部を設けた二次電池用部材の製造装置である。
【0029】
これにより、グラビア塗工装置に大型の循環設備や濾過設備を付加することなく、安定して製造できる小型で安価な二次電池用部材の製造装置を実現できる。
【0030】
本発明の第8の発明は、第7の発明において、収集部が、第1沈降槽および第2沈降槽に着脱自在に設けられている二次電池用部材の製造装置である。
【0031】
これにより、第1沈降槽および第2沈降槽の着脱可能な収集部で、定期的に、または連続的に繰り返して沈降物や凝集物を回収し廃棄することができる。その結果、供給パイプなどを詰まらせることなく塗工塗料を安定して長期間保管でき、二次電池用部材を歩留まりよく安定して製造できる。
【0032】
本発明の第9の発明は、第7の発明において、第1沈降槽内に攪拌装置を設けた二次電池用部材の製造装置である。
【0033】
これにより、無機酸化物フィラーの凝集物や粗粉などの沈降物を効率よく除去した後、再凝集までの期間をさらに延ばすことを可能にできる。
【0034】
本発明の第10の発明は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出する正極および負極と、セパレータと電解質を含む二次電池であって、第1の発明から第6の発明のいずれかの製造方法により作製した二次電池用部材を備えた二次電池である。
【0035】
これにより、均一な厚みで、均質な組成の絶縁性の多孔質保護層を有する二次電池用部材を用いて、耐熱性などの安全性に優れ、かつ特性ばらつきの小さい低コストの二次電池を実現できる。
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、本明細書に記載された基本的な特徴に基づく限り、以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0037】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態である二次電池の構成を示す断面概念図である。
【0038】
図1に示すように、例えば円筒形状の二次電池は、負極1と、負極1に対向し放電時にリチウムイオンを還元する正極2と、負極1と正極2との間に介在し負極1と正極2の直接接触を防ぐセパレータ3とを有する。負極1および正極2は、セパレータ3とともに、捲回されて電極群4を形成している。電極群4は、図示しない非水電解液とともにケース5内に収納されている。電極群4の上部および下部には、電極群4と封口板6とを隔離するとともにリード8、9とケース5とを隔離する樹脂製の絶縁板10、11が配置されている。ケース5の上部のケース5周辺と封口板6の間には、液漏れを防止するための絶縁性のガスケット7が設けられている。
【0039】
負極1は、集電体12とその両面に設けられた負極活物質を含む負極合剤層13とを有し、この集電体12にはリード9の一端が取り付けられている。リード9の他端は負極端子を兼ねるケース5に溶接して接続されている。
【0040】
そして、本実施の形態においては、後述する製造方法により、負極1の負極合剤層13の表面に絶縁性の多孔質保護層(図示せず)を設けている。
【0041】
正極2は、集電体14とその両面に設けられた正極活物質を含む正極合剤層15とを有し、集電体14にはリード8の一端が取り付けられている。リード8の他端は正極端子側の封口板6に溶接し接続されている。
【0042】
負極合剤層13は、少なくともリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質を含む。この負極活物質としては、グラファイトや非晶質カーボンのような炭素材料を用いることができる。あるいはケイ素(Si)やスズ(Sn)などのように正極活物質材料よりも卑な電位でリチウムイオンを大量に吸蔵・放出可能な材料を用いることができる。このような材料であれば、単体、合金、化合物、固溶体および含ケイ素材料や含スズ材料を含む複合活物質のいずれであっても、本発明の効果を発揮させることは可能である。特に含ケイ素材料は容量密度が大きく安価であるため好ましい。すなわち、含ケイ素材料として、Si、SiO(0.05<x<1.95)、またはこれらのいずれかにB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N、Snからなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素でSiの一部を置換した合金や化合物、または固溶体などを用いることができる。含スズ材料としてはNiSn、MgSn、SnO(0<x<2)、SnO、SnSiO、LiSnOなどを適用できる。
【0043】
これらの材料は単独で負極活物質を構成してもよく、また複数種の材料により構成してもよい。上記複数種の材料により負極活物質を構成する例として、Siと酸素と窒素とを含む化合物やSiと酸素とを含み、Siと酸素との構成比率が異なる複数の化合物の複合物などが挙げられる。この中でもSiO(0.3≦x≦1.3)は、放電容量密度が大きく、かつ充電時の膨張率がSi単体より小さいため好ましい。
【0044】
負極合剤層13は、さらに結着剤を含む。結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。
【0045】
また、必要に応じて鱗片状黒鉛などの天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅やニッケルなどの金属粉末類、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などの導電剤を負極合剤層に混入させてもよい。
【0046】
負極1の集電体12やリード9には、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタンなどの金属箔、炭素や導電性樹脂の薄膜などが利用可能である。さらに、カーボン、ニッケル、チタンなどで表面処理を施してもよい。
【0047】
正極合剤層15は、LiCoOやLiNiO、LiMn、またはこれらの混合あるいは複合化合物などのような含リチウム複合酸化物を正極活物質として含む。特にLi1−y(式中、MおよびNは、Co、Ni、Mn、Cr、Fe、Mg、Al、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種で少なくともNiを含み、M≠Nであり、0.98≦x≦1.10、0<y<1)は容量密度が大きいため好ましい。正極活物質としては上記以外に、LiMPO(M=V、Fe、Ni、Mn)の一般式で表されるオリビン型リン酸リチウム、LiMPOF(M=V、Fe、Ni、Mn)の一般式で表されるフルオロリン酸リチウムなども利用可能である。さらにこれら含リチウム化合物の一部を異種元素で置換してもよい。金属酸化物、リチウム酸化物、導電剤などで表面処理してもよく、表面を疎水化処理してもよい。
【0048】
正極合剤層15はさらに導電剤と結着剤とを含む。導電剤としては、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体などの有機導電性材料を用いることができる。また結着剤としては、PVDF、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。またこれらの内から選択された2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
正極2の集電体14やリード8としては、アルミニウム(Al)、炭素、導電性樹脂などが使用可能である。また、このいずれかの材料に、カーボンなどで表面処理したものを用いてもよい。
【0050】
負極であるケース5としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタンなどの金属箔、炭素や導電性樹脂が使用可能である。さらに、カーボン、ニッケル、チタンなどでこれらに表面処理を施してもよい。
【0051】
セパレータ3は、少なくとも電解質溶液を用いる場合には、正極2と負極1との間に設け、これに電解質溶液を含浸させる。セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、アミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミドなどからなる不織布や微多孔膜などのセパレータを用いてもよい。
【0052】
非水電解質には有機溶媒に溶質を溶解した非水溶液系の電解質溶液や、これらを含み高分子で非流動化されたいわゆるポリマー電解質層の適用が可能である。
【0053】
非水電解質の材料は、活物質の酸化還元電位などを基に選択される。非水電解質に用いるのが好ましい溶質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiN(CFCO)、LiN(CFSO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiF、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ビス(1,2−ベンゼンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3−ナフタレンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’−ビフェニルジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O,O’)ホウ酸リチウムなどのホウ酸塩類、テトラフェニルホウ酸リチウムなど、一般にリチウム電池で使用されている塩類を適用できる。
【0054】
さらに上記塩を溶解させる有機溶媒には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ジメトキシメタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、トリメトキシメタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのテトラヒドロフラン誘導体、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのジオキソラン誘導体、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、スルホラン、3−メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、エチルエーテル、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、フルオロベンゼンなどの1種またはそれ以上の混合物など、一般にリチウム電池で使用されているような溶媒を適用できる。
【0055】
さらに、ビニレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、ジアリルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、カテコールカーボネート、酢酸ビニル、エチレンサルファイト、プロパンサルトン、トリフルオロプロピレンカーボネート、ジベニゾフラン、2,4−ジフルオロアニソール、o−ターフェニル、m−ターフェニルなどの添加剤を含んでいてもよい。
【0056】
なお、非水電解質は、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンなどの高分子材料の1種またはそれ以上の混合物などに上記溶質を混合して、固体電解質として用いてもよい。また、上記有機溶媒と混合してゲル状で用いてもよい。さらに、リチウム窒化物、リチウムハロゲン化物、リチウム酸素酸塩、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiSiO、LiSiS、LiPO−LiS−SiS、硫化リン化合物などの無機材料を固体電解質として用いてもよい。
【0057】
絶縁性の多孔質保護層は、後述するように、まず、少なくとも無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤とを分散混合した後、予め第1沈降槽で静置保管により沈降する凝集物や粗粉を除去する。その後、グラビア塗工装置を構成する第2沈降槽で静置保管により、第1沈降槽から第2沈降槽に供給する途中や第2沈降槽の保管中に発生する凝集物や沈降物をグラビア印刷前にさらに除去した後、負極1の負極合剤層13の表面に塗工して多孔質保護層が形成される。
【0058】
そして、絶縁性の多孔質保護層が形成された負極1と、正極2の間にセパレータ3を挟んで捲回することにより、耐熱性などの安全性や信頼性に優れた二次電池を実現できる。
【0059】
以下に、絶縁性の多孔質保護層を形成した二次電池用部材の製造方法について、図2から図5を用いて説明する。
【0060】
図2は、本発明の実施の形態における二次電池用部材の製造方法を示すフローチャートである。
【0061】
図3は、本発明の実施の形態における二次電池用部材の製造工程および製造装置の構成を示す断面概念図である。
【0062】
図4(a)は、本発明の実施の形態における二次電池用部材の製造工程および製造装置を示す断面概念図で、図4(b)は図4(a)のA−A線断面概念図である。
【0063】
図5は、本発明の実施の形態における二次電池用部材の製造工程および製造装置の構成を示す断面概念図である。
【0064】
まず、図2に示すように、例えば、少なくとも無機酸化物フィラー21と、溶媒22と結着剤23とを分散装置(図示せず)に投入し、分散混合して混合物である塗工塗料25を分散装置内で、例えば粘度50mPa・sに調整する(S01)。具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなる溶媒22と、4重量部の呉羽化学(株)製のPVDF(#1320、固形分12重量%)からなる結着剤23とを分散装置に投入した後、96重量部のMgOからなる無機酸化物フィラーを添加する。そして、分散装置に設けた、例えばアンカーなどの撹拌翼(図示せず)を周速3m/sでゆっくりと塗工塗料25を攪拌して対流させる。同時に、分散装置に設けた、例えばディスパーなどの分散翼(図示せず)を周速30m/sで高速に回して塗工塗料25を分散混合する。
【0065】
なお、このとき、無機酸化物フィラーや結着剤などの配合比を最適化して、分散混合された塗工塗料の粘度を、10mPa・s以上3000mPa・s以下に調整する。中でも20mPa・s以上100mPa・s以下に調整することが特に好ましい。この理由は、粘度が10mPa・s未満の場合には、組成が変化して塗料安定性(以下で詳述)が低下しやすい。さらに、塗工塗料の粘度が低いので所定膜厚を形成するための塗工時間が長く掛かる。また、粘度が3000mPa・sを超える場合には、凝集物や粗粉が沈降しにくいため効率よく凝集物を除去できず、塗料安定性が低下しやすい。一方、粘度が20mPa・s以上100mPa・s以下の場合には、凝集物や沈降物を効率よく除去できるとともに、組成変動も小さいので、安定した塗工塗料を用いて短期間で所定の膜厚に塗工できる。
【0066】
つぎに、図2と図3に示すように、分散装置で分散混合した塗工塗料25を第1沈降槽32に供給して、例えば数時間から1日程度の期間、静置した状態で保管する。なお、保管時間は生産性や凝集物の状況を考慮して決定されるもので、一義的に決められるものではない。この静置した状態で保管することにより、分散混合されない無機酸化物フィラーの粗粉や凝集物が沈降物として沈降する。また、凝集しやすい無機酸化物フィラーは凝集して凝集物27として沈降する。
【0067】
つぎに、第1沈降槽32で静置保管中に沈降した塗工塗料25中の無機酸化物フィラーの凝集物27や粗粉28などの沈降物を、第1沈降槽32の下部に設けた漏斗状部34aおよび収集部34bにより除去する(S02)。このとき、一般的に、無機酸化物フィラーの1%〜2%が凝集物27として、塗工塗料25から取り除かれる。
【0068】
つぎに、図3に示すように、第1沈降槽32に設けた攪拌装置33の、例えばアンカーなどの攪拌翼を、例えば、周速3m/sで塗工塗料25を攪拌する。
【0069】
これにより、予め凝集しやすい無機酸化物フィラーの凝集物や粗粉などの沈降物を除去するとともに、攪拌により再凝集を防止しながら長期間の保管ができる。また、予め凝集しやすい無機酸化物フィラーの凝集物や粗粉などの沈降物を除去することにより、次工程に供給する供給パイプなどで滞留しても、凝集物や沈降物が長期間に亘って発生することがない。その結果、例えばグラビア塗工装置40の塗工液パンである第2沈降槽42に、大きな粗粉の凝集物や沈降物のない無機酸化物フィラーを分散させた状態で供給でき、供給パイプなどを詰まらせることもない。
【0070】
つぎに、図2と図4に示すように、大きな粗粉28や凝集物27の沈降物を除去した塗工塗料25を、グラビア塗工装置40の塗工液パンである第2沈降槽42に供給し静置保管する。このとき、静置保管の期間は、第1沈降槽から第2沈降槽に供給される期間に依存する。つまり、第1沈降槽から供給パイプを通して、滞留することなく供給される場合には、静置保管は特に必要ないが、例えば10日間程度滞留した場合には、第1沈降槽と同様に数時間から1日程度静置保管する。
【0071】
これにより、グラビア印刷する前に、滞留により生じ、第2沈降槽42に存在する無機酸化物フィラーの凝集物27や沈降物を、第2沈降槽42下部に設けた漏斗状部44aおよび収集部44bにより、再度除去する(S03)。
【0072】
さらに、図4に示すように、凝集物などを除去した後、グラビア塗工装置40のグラビアロール(シリンダー)45を回転させて塗工塗料25を攪拌する。このグラビアロール45の回転により、塗工塗料25はゆっくりと攪拌され、経時的に無機酸化物フィラーの凝集を防止し再凝集がさらに生じにくくなる。
【0073】
このようにして、循環や濾過せずに、第1沈降槽32で予め粗粉や凝集物を除去するとともに、グラビア印刷する前の保管(滞留)期間中に、供給パイプなどで発生する凝集物を第2沈降槽42で再度除去する。
【0074】
つぎに、図2と図5に示すように、グラビア塗工装置40の塗工液パンである第2沈降槽でグラビアロール45を回転させ、塗工塗料25を攪拌するとともにグラビアロール面に供給する。これにより、塗工塗料25は、グラビアロール45の回転により再凝集が防止されて均一に分散されながら、グラビアロール45面上に安定して供給される。
【0075】
そして、塗工塗料25が供給されたグラビアロール45上に、例えば長尺の集電体と負極合剤層からなる負極前駆体26を送り出し供給する。
【0076】
さらに、塗工塗料25をグラビアロール45を介して長尺の負極前駆体26の一方の面の負極合剤層(図示せず)の表面にグラビア塗工する(S04)。具体的には、グラビア塗工装置40のグラビアロール45を第2沈降槽42に浸漬させて回転することにより、グラビアロール45の凹み(図示せず)に塗工塗料を充填する。それとともに、ドクターブレード53で所定の厚みに調整して、対向して回転するロール55とグラビアロール45間に挿入される負極前駆体26を連続的に送る。これによって、グラビアロール45の凹みに充填された塗工塗料は、負極前駆体26の負極合剤層表面に均一な厚みで連続的に転写される。
【0077】
つぎに、図2に示すように、塗工した膜を乾燥硬化させ、例えば約2μmの絶縁性の多孔質保護層を形成される(S05)。同様に、図示しないが、負極前駆体26の他方の面側に形成された負極合剤層表面に塗工塗料25を連続的に塗工し、乾燥硬化させ、約2μmの絶縁性の多孔質保護層を形成し、負極1が得られる。
【0078】
ここで、無機酸化物フィラー21としては、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニアおよびチタニアの内の少なくとも1種を含む無機酸化物またはそれらの複合酸化物などの粉末を用いる。無機酸化物フィラーの形状は特に限定されない。これらは単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。これにより、無機酸化物フィラーとして凝集しやすい無機酸化物またはそれらの複合酸化物を用いても、均一均質な絶縁性の多孔質保護層を表面に形成した二次電池用部材を歩留まり高く製造できる。
【0079】
また、結着剤23としては、PVDF、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。またこれらの内から選択された2種以上を混合して用いてもよい。
【0080】
そして、溶媒22としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの非水溶媒を用いる。
【0081】
上記方法により、グラビア塗工前の塗工塗料の保管状態や保管条件に関わらず長期間に亘って安定した組成で凝集物などのない塗工塗料がグラビア塗工時に得られる。そして、この塗工塗料を用いて、グラビアロールで攪拌することにより、さらに凝集物の発生を防止することにより、塗工スジやツブなどがなく、しかも薄い膜厚の絶縁性の多孔質保護層を負極前駆体上に形成できる。
【0082】
また、絶縁性の多孔質保護層を形成した二次電池用部材の負極を用いて作製した二次電池は、電池反応が均一に行われ、例えば充放電サイクル特性や耐熱性などの信頼性を大幅に改善できる。
【0083】
本実施の形態によれば、塗工塗料の長期間に亘る保管を可能とし、グラビア塗工で塗工スジ不良などのない絶縁性の多孔質保護層を備えた二次電池用部材を効率よく作製できる。
【0084】
また、絶縁性の多孔質保護層の形成前に凝集物の発生を極力抑制できるため、例えば従来、安全性を高めるために約5μmで形成した膜厚を約2μmの膜厚で形成することができる。これにより、二次電池用部材の捲回数が増加するため、電池容量の大きな二次電池を実現できるという効果もある。
【0085】
ここで、二次電池用部材の製造装置は、図3から図5に示すように、無機酸化物フィラー21と溶媒22と結着剤23を含む塗工塗料25を分散混合する分散装置(図示せず)と、底部に漏斗状部34aを有する第1沈降槽32と、底部に漏斗状部44aを設けた第2沈降槽42とグラビアロール45を備えたグラビア塗工装置40で構成されている。そして、第1沈降槽32と第2沈降槽42の漏斗状部34a、44aの下部には無機酸化物フィラーの凝集物27や粗粉などの沈降物を収集する収集部34b、44bを備えている。
【0086】
上記製造装置を用いて、まず、分散装置で分散混合した塗工塗料25を第1沈降槽32で静置保管し、大きな粗粉や凝集物を除去する。つぎに、循環や濾過せずに、長期間に亘って保管されたときに発生する凝集物などを、グラビア塗工装置の塗工液パンである第2沈降槽42で、さらに除去する。
【0087】
これにより、製造装置に大型の循環設備や濾過設備を付加することなく、小型で安価な二次電池用部材を製造できる製造装置が得られる。
【0088】
また、第1沈降槽32と第2沈降槽42の底部に設けた漏斗状の漏斗状部34aと漏斗状部44aにより、大きな粗粉や凝集物および長期の保管中に発生した無機酸化物フィラーの凝集物27を漏斗状の先の収集部34b、44bで確実に収集できる。さらに、収集部34b、44bを漏斗状部34a、44aの先に設けることにより、一度収集部34b、44bに入った沈降物が再度塗工塗料中へ浮遊するのを防ぐことができる。その結果、無機酸化物フィラーの凝集物27や沈降物の収集を容易に、かつ確実に行える。
【0089】
なお、収集部34b、44bを第1沈降槽32、第2沈降槽42に着脱自在な、例えばカートリッジ式に設けてもよい。これにより、収集部34b、44bで収集された凝集物や沈降物を定期的に、または連続的に回収し廃棄することができる。
【0090】
また、第1沈降槽32内に攪拌装置33を設けることにより、攪拌装置33で攪拌条件を制御し、塗工塗料の再凝集を防止できるため、さらなる長期間の保管を可能にできる。その結果、品質の向上した二次電池用部材を長期間に亘って安定した品質で製造できる。
【0091】
なお、本実施の形態では、上記の製造方法および製造装置において、分散混合して塗工塗料を作製するステップを分散装置で行う例で説明したが、これに限られない。例えば、無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤とを分散混合して塗工塗料を作製するステップを、第1沈降槽を兼用して行ってもよい。この場合、第1沈降槽には、ディスパーなどの分散翼およびアンカーなどの撹拌翼を設けることが望ましい。
【0092】
これらにより、同じ第1沈降槽で、分散混合、静置保管および除去ができるため、さらに簡単な構成の製造装置とすることができる。
【0093】
また、本実施の形態では、絶縁性の多孔質保護層を負極の負極合剤層の表面に形成する例で説明したが、これに限られない。例えば、絶縁性の多孔質保護層を正極やセパレータのいずれかに塗工して形成していればよい。これにより、負極の場合と同様に、安全性や信頼性に優れた二次電池を実現できる。
【0094】
また、本実施の形態では、第1沈降槽と第2沈降槽に漏斗状部および収集部を設けた例で説明したが、これに限られず、分散装置にも漏斗状部および収集部を設けてもよい。これにより、さらに確実に凝集物や沈降物を除去し、均一性に優れた絶縁性の多孔質保護層を備えた二次電池用部材が得られる。
【0095】
以下に、本発明の実施の形態における具体的な実施例について説明する。
【0096】
(実施例1)
(負極の作製)
まず、人造黒鉛100重量部、固形分40重量%の変性スチレン−ブタジエンゴム(SBR)1.5重量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)1.0重量部を適量の水とともに双腕式練合機にて攪拌し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを負極の集電体である厚み約12μmの銅箔の両面に塗布、乾燥後、総厚が160μmなるように負極合剤層を圧延し、負極前駆体を作製した。
【0097】
つぎに、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)4重量部とを分散装置に投入して、周速30m/sで攪拌した。
【0098】
つぎに、この攪拌物に無機酸化物フィラーとして、平均粒径D50が0.98μmのMgO(マグネシア)96重量部を、分散装置に、塗工塗料の粘度が49mPa・sとなるように添加した。そして、MgOを添加した状態で、攪拌翼を周速3m/sでゆっくりと回しながら対流させつつ、分散翼を周速30m/s、10分間回転させて、塗工塗料を分散混合し調整した。なお、粘度は、レオメーターを用いて、せん断速度が100/s時の値である。
【0099】
つぎに、分散装置で分散混合した塗工塗料を第1沈降槽に供給し、その状態で24時間静置して保管した。そして、第1沈降槽で、静置して保管中に、約2μm〜50μmの大きさに凝集したMgOの凝集物や粗粉などの沈降物を沈降分離させ、収集部で収集した。なお、分散混合および保管時において、塗工塗料の循環および濾過は実施しなかった。
【0100】
このとき、必要に応じて、第1沈降槽の下部に設けた収集部を取り外して、MgOの凝集物や粗粉などの沈降物を除去した。
【0101】
つぎに、凝集物や沈降物を除去した塗工塗料をグラビア塗工装置の塗工液パンである第2沈降槽に供給した。ここで、第1沈降槽から第2沈降槽までの供給期間をT期間とする。
【0102】
つぎに、上記T期間に応じて、第2沈降槽の静置保管期間を、例えば3時間から1日に設定して保管した。そして、T期間中に発生した無機酸化物フィラーの凝集物を静置期間中に沈降させ、第2沈降槽の下部に設けた収集部で、グラビア印刷する前に、再度除去した。なお、第2沈降槽で静置保管時において、塗工塗料の循環および濾過は実施しなかった。
【0103】
このとき、必要に応じて、第2沈降槽の下部に設けた収集部を取り外して、凝集して沈降したMgOを廃棄処理した。
【0104】
つぎに、凝集物や沈降物を、所定の期間の静置保管により除去した後、例えば直径50mmのグラビアロール(シリンダー)45を、例えば周速3m/sに相当する回転数で回転させながら、塗工塗料の再凝集を防止するために攪拌した。そして、塗工液パンである第2沈降槽の塗工塗料をグラビアロール面に供給した。
【0105】
つぎに、上述のように形成した二次電池用部材の負極前駆体をグラビアロール上に送り出し供給した。そして、グラビアロールの凹みに充填された塗工塗料を負極前駆体の負極合剤層の少なくとも一方の表面に連続的に塗工した。
【0106】
つぎに、塗工した後、乾燥硬化させて、負極合剤層上に約2μmの絶縁性の多孔質保護層を形成した。
【0107】
さらに、負極前駆体の他方の面にも同様な方法により絶縁性の多孔質保護層を形成し、負極を作製した。
【0108】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル1−1とする。
【0109】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル1−2とする。
【0110】
(実施例2)
無機酸化物フィラーとして、実施例1のMgO(マグネシア)の代わりに、平均粒径D50が0.7μmのα−Al(アルミナ)を用いた以外は、実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。このとき、塗工塗料の粘度は40mPa・sであった。
【0111】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル2−1とする。
【0112】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル2−2とする。
【0113】
(実施例3)
無機酸化物フィラーとして、実施例1のMgO(マグネシア)の代わりに、平均粒径D50が0.7μmのアナターゼ−TiO(チタニア)を用いた以外は、実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。このとき、塗工塗料の粘度は45mPa・sであった。
【0114】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル3−1とする。
【0115】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル3−2とする。
【0116】
(実施例4)
無機酸化物フィラーとして、実施例1のMgO(マグネシア)の代わりに、平均粒径D50が0.7μmのSiO(シリカ)を用いた以外は、実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。このとき、塗工塗料の粘度は50mPa・sであった。
【0117】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル4−1とする。
【0118】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル4−2とする。
【0119】
(実施例5)
無機酸化物フィラーとして、実施例1のMgO(マグネシア)の代わりに、平均粒径D50が0.9μmのZrO(ジルコニア)を用いた以外は、実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。このとき、塗工塗料の粘度は42mPa・sであった。
【0120】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル5−1とする。
【0121】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル5−2とする。
【0122】
(実施例6)
塗工塗料の粘度を10mPa・sとした以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0123】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル6−1とする。
【0124】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル6−2とする。
【0125】
(実施例7)
塗工塗料の粘度を120mPa・sとした以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0126】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル7−1とする。
【0127】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル7−2とする。
【0128】
(実施例8)
塗工塗料の粘度を570mPa・sとした以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0129】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル8−1とする。
【0130】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル8−2とする。
【0131】
(実施例9)
塗工塗料の粘度を1005mPa・sとした以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0132】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル9−1とする。
【0133】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル9−2とする。
【0134】
(実施例10)
塗工塗料の粘度を1840mPa・sとした以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0135】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル10−1とする。
【0136】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル10−2とする。
【0137】
(実施例11)
塗工塗料の粘度を3000mPa・sとした以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0138】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプル11−1とする。
【0139】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプル11−2とする。
【0140】
(比較例1)
塗工塗料の粘度を8mPa・sとした以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0141】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプルC1−1とする。
【0142】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプルC1−2とする。
【0143】
(比較例2)
塗工塗料の粘度を3210mPa・sとした以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0144】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプルC2−1とする。
【0145】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプルC2−2とする。
【0146】
(比較例3)
塗工塗料の粘度を50mPa・sとし、第1沈降槽で静置保管した後に凝集物および沈降物を除去し、第2沈降槽で静置保管中に発生した凝集物および沈降物を除去しない方法により塗工塗料を作製した以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0147】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプルC3−1とする。
【0148】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプルC3−2とする。
【0149】
(比較例4)
塗工塗料の粘度を52mPa・sとし、第1沈降槽で静置保管した後に凝集物および沈降物を分離除去せず、第2沈降槽で静置保管中に沈降した凝集物および沈降物を分離除去する方法により塗工塗料を作製した以外は実施例1と同様にして二次電池用部材の負極を作製した。
【0150】
ここで、T期間を3日間として作製した二次電池用部材の負極と、その負極を用いて作製した電池を、サンプルC4−1とする。
【0151】
同様に、T期間を10日間として作製した二次電池用部材の負極を、サンプルC4−2とする。
【0152】
以上のように作製した二次電池用部材の負極に対し、まず、負極の多孔質保護層を形成する塗工塗料について、以下に示す塗料安定性および塗工不良に基づいて評価した。
【0153】
(1)塗料安定性
T期間として3日間保管した後の塗工塗料に生じる固形分変化率を求め、その変化率を用いて、以下に示す評価基準で塗工塗料の分散状態の安定性により評価した。
【0154】
○:1%以内、△:1%〜2%、×:2%以上
なお、固形分変化率は、以下の方法により求める。
【0155】
まず、塗工塗料を高さ10cmで直径1cmのチューブに取り分け、その状態で7日間、静置して保管する。
【0156】
つぎに、チューブの下部から1cmの位置でチューブを切り取り、塗工塗料を採取する。そして、その中に形成された固形分の比率を測定する。
【0157】
(2)塗工不良
まず、塗工塗料を負極の負極合剤層の表面に、グラビア印刷法を用いて塗工し乾燥させ、厚み約2μmの絶縁性の多孔質保護層の塗工膜を作製した。
【0158】
つぎに、絶縁性の多孔質保護層を表面に塗工形成した負極1を50×500mmの形状に切断して、その多孔質保護層の表面を観察し、以下に示す評価基準で塗工不良を評価した。
【0159】
○:塗工スジおよびツブなし、△:幅径1mm以下の塗工スジ、ツブあり、×:幅径1mm以上の塗工スジおよびツブあり
以下に、サンプル1−1〜11−1とサンプルC1−1〜C4−1の諸元と評価結果を(表1)に示し、サンプル1−2〜11−2とサンプルC1−2〜C4−2の諸元と評価結果を(表2)に示す。
【0160】
【表1】

【0161】
【表2】

【0162】
(表1)から、サンプル1−1〜5−1において、本発明の製造方法により作製し、T期間が3日間で保管した塗工塗料は、無機酸化物フィラーの材料に依存せず、塗料安定性に優れ、塗工不良のないものであった。これは、塗工塗料が第1沈降槽と第2沈降槽でそれぞれ静置保管することにより、無機酸化物フィラーの凝集物や沈降物が効率よく除去されたことによる。また、凝集物や沈降物の除去後、第2沈降槽で塗工塗料がグラビアロールの回転によって攪拌され、再凝集を生じないことによるものである。
【0163】
また、サンプル6−1〜11−1とサンプルC1−1およびサンプルC2−1において、塗工塗料の粘度が10mPa・s〜3000mPa・sの範囲において、塗料安定性に優れ、塗工不良のない多孔質保護層を有する負極を形成できた。これは、この範囲の粘度において、凝集した無機酸化物フィラーが、所定の期間内で効率的に除去されたためである。
【0164】
一方、粘度が10mPa・s未満のサンプルC1−1、または粘度が3000mPa・sを超えるサンプルC2−1においては、固形分変化率が1%〜2%あり、その凝集物などにより塗料安定性が低下した。しかし、同じ塗工塗料を第2沈降槽で保管した後、形成した多孔質保護層には、塗工スジおよびツブなどの塗工不良は生じなかった。これは、粘度が10mPa・s未満のサンプルC1−1の場合、粘度が低すぎて攪拌をしても凝集物が生じやすく組成変動が大きいため膜多孔度は不均一となるが、第2沈降槽で再度凝集物が除去されるので、塗工不良が発生しないものと考えられる。また、粘度が3000mPa・sを超えるサンプルC2−1の場合、凝集自体が起こりにくいため短期間では凝集しないが、塗料安定性の評価期間では凝集し塗料安定性としては低い。しかし、T期間が3日間と短いため凝集物は少なく、さらに第1沈降槽と第2沈降槽で粗粉は確実に除去されるため、塗工不良が発生しないものと考えられる。
【0165】
また、サンプル1−1とサンプルC3−1〜C4−1を比較すると、塗工塗料の粘度範囲を最適な範囲としても、第2沈降槽で沈降分離させない場合、固形分変化率が1%〜2%あり塗料安定性が低かった。しかし、同じ塗工塗料を3日間した後、形成した多孔質保護層には塗工不良が発生しなかった。これは、T期間が3日間程度では、第2沈降槽の保管中に無機酸化物フィラーの凝集が少ないためと考えられる。
【0166】
(表2)から、サンプル1−2〜11−2においては、T期間が10日間で保管した塗工塗料においても、無機酸化物フィラーの材料に依存せず、塗工不良のないものであった。これは、T期間中に塗工塗料に凝集物が発生しても第2沈降槽で除去されるため、グラビア印刷により多孔質保護層を形成しても塗工不良を生じないことによる。さらに、凝集物および沈降物の除去後、グラビアロールの回転によって塗工塗料が攪拌され、再凝集が防止されるためである。
【0167】
また、サンプルC1−2〜C2−2において、T期間が3日間と10日間の塗工塗料を比較すると、T期間の差による塗工不良の差はなく良好であった。これは、第1沈降槽と第2沈降槽で凝集物を除去された結果と考えられる。そのため、(表1)と(表2)から、粘度による差は、主に塗工塗料の塗料安定性に現れ、結果的に組成変動による膜多孔度の不均一として現れている。
【0168】
同様に、サンプルC3−2〜C4−2において、T期間が3日間と10日間の塗工塗料を比較すると、幅径1mm以上の塗工スジやツブの発生により塗工不良を生じた。これは、第2沈降槽で沈降分離せずに塗工塗料を作製した場合、第2沈降槽に供給される期間中に無機酸化物フィラーの再凝集により凝集物が生じたためと考えられる。また、第1沈降槽で沈降分離せず、第2沈降槽でのみ沈降分離しても、凝集物や沈降物が充分に除去しきれなかったものと考えられる。
【0169】
以下に、負極の負極合剤層の表面に絶縁性の多孔質保護層を形成した各サンプルを用いて二次電池を作製し特性を評価した。その評価結果を上記(表1)に示す。なお、二次電池は、以下の方法により作製した。
【0170】
まず、正極活物質としてLiCOとCoとを混合し、900℃で10時間焼成してLiCoOを得た後、粉砕、分級の処理を経て平均粒径12μmとし、含リチウム複合酸化物粉末とした。そして、得られた含リチウム複合酸化物100重量部を、PVDF(固形分12重量%のNMP溶液)50重量部、アセチレンブラック4重量部、および適量のNMPとともに双腕式練合機にて30℃で30分間攪拌し、正極合剤ペーストを調製した。このペーストを集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、120℃で15分間乾燥させた後、総厚が160μmとなるようにロールプレスする。その後、直径18mm、高さ65mmの丸型のケースに挿入可能な幅にスリットし正極を得た。なお、正極合剤層の一部を剥離して集電体にリードを接続した。
【0171】
つぎに、各実施例や比較例のようにして作製したサンプルからなる二次電池用部材の負極を直径18mm、高さ65mmのケースに挿入可能な幅に切断し、負極をそれぞれ得た。なお、負極合剤層の一部を剥離して集電体にリードを接続した。
【0172】
以上のようにして得られた正極と絶縁性の多孔質保護層を形成した各サンプルの負極とを、セパレータを間に挟んで捲回し、渦巻状の電極群を構成した。
【0173】
その後、ケース内部に電極群を挿入し、周囲に絶縁性のガスケットを配した封口板とリードとを導通させ、他方、ケースとリードとを導通させ、電解質溶液を注入し、ケースの開口部を封口板で封口した。電解質溶液としては、EC:EMC(重量比1:3)の混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。このようにして得られた電池に、100mAの定電流で充電終止電圧4.2V、放電終止電圧3.0Vの充放電を3回繰り返した。こうして、直径18mm、高さ65mmの丸型二次電池を作製した。電池の設計容量は2600mAhとした。これらをそれぞれのサンプルの電池とする。
【0174】
以上のようにして作製した各サンプルの二次電池を、25℃環境において、4.2Vで定電圧(最大電流1A、最小電流100mA)充電し、30分後に200mAの定電流で終止電圧3.0Vまで放電する充放電を500回繰り返し、充放電サイクル試験をした。
【0175】
また、安全性評価として、釘刺し試験を以下の条件で行い評価した。
【0176】
まず、20℃環境下において、充電後の電池の側面から、2.7mm径の鉄製丸釘を、5mm/sの速度で貫通させた。そして、電池の貫通箇所の近傍における90秒後の到達温度を測定した。
【0177】
その結果、サンプル1−1からサンプル11−1の電池は、300回の充放電サイクル後の初期放電容量に対する比率は80%以上であったが、サンプルC1−1からサンプルC4−1の電池では、50%〜85%とばらつきが大きく、しかも放電容量の低下が著しかった。
【0178】
これは、第1沈降槽と第2沈降槽の2段階で凝集物を除去した結果、膜厚2μmと薄い絶縁性の多孔質保護層とした負極においても、高い膜厚の均一性と膜多孔性などの均質性により、電池反応が電極全体において均一に行われ、ばらつきの小さい二次電池が得られたものと考えられる。
【0179】
また、(表1)に示すように、サンプル1−1からサンプル11−1の電池の釘刺し試験における90秒後の到達温度は、90℃以下で比較的温度上昇の小さいものであった。これは、均一に形成された耐熱性の多孔質保護層により、熱暴走が抑制されたものと考えられる。
【0180】
一方、サンプルC1−1、C2−1の電池は、その膜多孔度の不均一性に起因して、90℃以上となり、さらにサンプルC3−1からサンプルC4−1の電池においては、100℃前後とさらに温度上昇が大きかった。
【0181】
以上のように、2つの沈降槽で凝集物および沈降物を除去しさらに発生する凝集物を除去してグラビア印刷し、均一な厚みで均質な組成の絶縁性の多孔質保護層を負極合剤層表面に形成した負極により、電池特性や信頼性に優れ安全性の高い二次電池が得られた。
【0182】
なお、本発明の実施の形態においては、捲回式の電極群を有する円筒型の二次電池で例に説明したが、これに限られない。例えば、平型電池、捲回式の角筒型電池または積層構造の角形電池にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明は、異なる沈降槽で凝集物や沈降物を除去して、グラビア印刷により均一な厚みで均質な組成の絶縁性の多孔質保護層を備えた二次電池用部材を歩留まりよく安定して製造できる。そのため、今後大きな需要が期待されるリチウム二次電池の安全性や信頼性の向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】本発明の実施の形態である二次電池の構成を示す断面概念図
【図2】本発明の実施の形態における二次電池用部材の製造方法を示すフローチャート
【図3】本発明の実施の形態における二次電池用部材の製造工程および製造装置の構成を示す断面概念図
【図4】(a)本発明の実施の形態における二次電池用部材の製造工程および製造装置を示す断面概念図(b)は図4(a)のA−A線断面概念図
【図5】本発明の実施の形態における二次電池用部材の製造工程および製造装置の構成を示す断面概念図
【図6】(a)従来の製造方法による塗料で形成した絶縁性多孔質保護層の状態を示す平面概念図(b)図6(a)のA−A線断面概念図
【符号の説明】
【0185】
1 負極
2 正極
3 セパレータ
4 電極群
5 ケース
6 封口板
7 ガスケット
8,9 リード
10,11 絶縁板
12,14 集電体
13 負極合剤層
15 正極合剤層
21 無機酸化物フィラー
22 溶媒
23 結着剤
25 塗工塗料
26 負極前駆体
27 凝集物
28 粗粉
32 第1沈降槽
33 撹拌装置
34a,44a 漏斗状部
34b,44b 収集部
40 グラビア塗工装置
42 第2沈降槽
45 グラビアロール(シリンダー)
53 ドクターブレード
55 ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤とを分散混合して塗工塗料を作製するステップと、
前記塗工塗料を第1沈降槽に供給し静置して前記第1沈降槽で前記無機酸化物フィラーの凝集物および沈降物を除去するステップと、
前記塗工塗料をグラビア塗工装置の第2沈降槽に供給し静置してグラビア印刷前に、前記第2沈降槽で前記無機酸化物フィラーの凝集物および沈降物をさらに除去するステップと、
前記凝集物および前記沈降物を除去した前記塗工塗料をグラビアロールを介して部材に塗工するステップと、
を含むことを特徴とする二次電池用部材の製造方法。
【請求項2】
前記グラビアロールの回転により、前記塗工塗料を攪拌することを特徴とする請求項1に記載の二次電池用部材の製造方法。
【請求項3】
前記部材が、正極、負極またはセパレータであることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用部材の製造方法。
【請求項4】
前記無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤とを分散混合して塗工塗料を作製するステップを、前記第1沈降槽で行うことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用部材の製造方法。
【請求項5】
前記無機酸化物フィラーとして、アルミナ、マグネシア、シリカ、ジルコニア、チタニアの内の少なくとも1種を含む無機酸化物またはそれらの複合酸化物を用いたことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用部材の製造方法。
【請求項6】
前記塗工塗料の粘度を、10mPa・s以上3000mPa・s以下としたことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用部材の製造方法。
【請求項7】
無機酸化物フィラーと溶媒と結着剤を含む塗工塗料を分散混合する分散装置と、
前記塗工塗料を静置する底部に漏斗状部を設けた第1沈降槽と、
前記第1沈降槽から供給される前記塗工塗料を投入する底部に漏斗状部を設けた第2沈降槽とグラビアロールを有するグラビア塗工装置と、を備え、
前記第1沈降槽および第2沈降槽の前記漏斗状部の下部に前記無機酸化物フィラーの凝集物および沈降物を収集する収集部を設けたことを特徴とする二次電池用部材の製造装置。
【請求項8】
前記収集部が、前記第1沈降槽および前記第2沈降槽に着脱自在に設けられていることを特徴とする請求項7に記載の二次電池用部材の製造装置。
【請求項9】
前記第1沈降槽内に攪拌装置を設けたことを特徴とする請求項7に記載の二次電池用部材の製造装置。
【請求項10】
リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出する正極および負極と、セパレータと電解質を含む二次電池であって、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の二次電池用部材の製造方法により作製した二次電池用部材を備えたことを特徴とする二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−16313(P2008−16313A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186420(P2006−186420)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】