説明

二相ステンレス鋼管の製造方法

【課題】油井管に要求される耐食性および、強度を兼ね備えた二相ステンレス鋼管を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03%以下、Si:1%以下、Mn:0.1〜2%、Cr:20〜35%、Ni:3〜10%、Mo:0〜4%、W:0〜6%、Cu:0〜3%、N:0.15〜0.35%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる二相ステンレス鋼材を、熱間加工あるいはさらに固溶化熱処理により冷間加工用素管とし、冷間引抜加工により鋼管を製造する方法において、最終の冷間引抜加工における断面減少率での加工度Rdが5〜35%の範囲内であってかつ下記(1)式を満足する条件で冷間引抜加工する。Rd(%)≧(MYS−55)/17.2−{1.2×Cr+3.0×(Mo+0.5×W)}・・・(1)但し、式中のMYSは目標降伏強度(MPa)を意味し、そして、Cr、MoおよびWはそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス腐食環境や応力腐食環境においても優れた耐食性を発揮すると共に高い強度をも兼ね備えた二相ステンレス鋼管の製造方法に関する。本発明によって製造される二相ステンレス鋼管は、例えば油井やガス井(以下、合わせて、「油井」と称する。)に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
深井戸や湿潤な炭酸ガス(CO),硫化水素(HS),塩素イオン(Cl)等の腐食性物質を含む過酷な腐食環境で使用される油井に使用される二相ステンレス鋼管として、22Cr鋼や25Cr鋼のように、Cr含有量の大きいオーステナイト・フェライト系の二相ステンレス鋼管が使用されている。
【0003】
特許文献1には、これらのオーステナイト・フェライト系二相ステンレス鋼は、製造の際に通常に施される溶体化処理のままでは、引張強さ(TS)が80kgf/mm2 (785MPa)で降伏強度(0.2%耐力)も60kgf/mm2 (588MPa)級の引張強度を得るのが精々であるとの問題点を踏まえて、0.1〜0.3%のNを含有する二相ステンレス鋼管を、断面減少率で5〜50%の冷間加工を付与した後、100〜350℃の温度で30分以上加熱して高強度二相ステンレス鋼管を得る方法が開示されている。そこでは、冷間加工による加工硬化に加えて時効処理を組合わせることにより、高強度を有する二相ステンレス鋼管が得られるとしている。
【0004】
しかしながら、近年、油井は深井戸化する傾向が著しく、従来よりも過酷な環境での使用を目的として、特に110〜140ksiグレード(最低降伏強度が757.3〜963.8MPa)と高強度であって、かつ規格に規定された種々の強度レベルを有する二相ステンレス鋼管を製造しなければならず、そのためには単にN含有量のみを考慮するだけでなく他の組成元素の含有量も考慮した上で、それに加えて冷間加工度もより厳格に管理する必要がある。また、特許文献1で開示された製造方法では、時効処理の工程が増加することで、生産効率の低下やコスト増大の問題がある。
【0005】
また、特許文献2には、高耐食性および高強度化を図ることを目的として、Cuを含有する二相ステンレス鋼材に断面減少率35%以上の冷間加工を施した後、加熱、急冷後温間加工を施すことが開示されているが、その中で、従来例としてCuを含有する二相ステンレス鋼線材の固溶化熱処理後に加工量が25〜70%の断面減少率で冷間加工を施すことで引張り強さが110〜140kgf/mm2と高強度の線材が得られたデータが開示されている。しかし、ここでは、単に冷間加工で引張強度が上昇することが開示されているだけであって、しかも開示されたデータは管でなく線材に係るものであるから、油井管としての材料設計に重要な降伏強度がどの程度であるかは不明である。
【0006】
さらに、特許文献3には、鍛造による低加工度の冷間加工で高強度化できることが記載されているが、そこには、溶体化処理された二相ステンレス鋼の素材に回転を付与しながら長手方向全域に亘って、順次0.5〜1.6%程度の冷間加工率で鍛造して強度を向上させる方法が開示されているにすぎない。
【0007】
【特許文献1】特開平2−290920号公報
【特許文献2】特開平7−207337号公報
【特許文献3】特開平5−277611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、上記の文献のいずれにも、冷間加工により高強度とすることができることは開示されているが、二相ステンレス鋼管の組成を考慮した冷間加工による高強度化についての具体的な検討はされておらず、目標とする強度、特に降伏強度を得るための適切な成分設計や冷間加工条件については、いずれも、なんら示唆するところがない。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑み、深井戸や過酷な腐食環境で使用される油井管に要求される耐食性だけでなく、目標とする強度をも兼ね備えた二相ステンレス鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、種々の化学組成を有する二相ステンレス鋼材について、最終の冷間引抜加工度を種々に変化させて二相ステンレス鋼管を製造し、その引張強度を確認する実験を行った結果、次の(a)〜(g)に示す知見を得た。
【0011】
(a) 深井戸や過酷な腐食環境で使用される油井に使用される二相ステンレス鋼管には、耐食性が要求される。しかしながら、C含有量が多いと熱処理や溶接時などの熱影響により炭化物の析出が過剰となりやすく、鋼の耐食性および加工性の観点からすると、耐食性の観点からはC含有量を下げる必要がある。
【0012】
(b) C含有量を下げると、そのままでは強度が不足することになるが、二相ステンレス鋼材を熱間加工あるいはさらに固溶化熱処理によって作製された素管は、その後の冷間引抜加工により、その強度を向上させることができる。ただし、その際の加工度が断面減少率で35%を超えると、高強度を有するが、加工硬化が発生するため延性や靱性が低下する。また、その際の加工度が断面減少率で5%を下回ると所望の高強度を得ることができない。したがって、冷間引抜加工の際の加工度は断面減少率で5〜35%とする必要がある。
【0013】
(c) そして、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdが断面減少率で5〜35%の範囲においては、二相ステンレス鋼管では、最終の冷間引抜加工での加工度Rdが大きいほど高い降伏強度YSを得られ、その加工度Rdと降伏強度YSが直線関係で表されることが分かった。
【0014】
なお、二相ステンレス鋼管の強度にはCr含有量の影響が大きく、高Cr材ほどより高強度の二相ステンレス鋼管を得ることができることも分かった。さらに、Mo含有量およびW含有量の影響も大きく、MoやWを含有させることでより高強度な二相ステンレス鋼管を得ることができることも分かった。
【0015】
図1は、後述する実施例において用いた種々の化学組成を有する二相ステンレス鋼管について、断面減少率での加工度Rd(%)と引張試験で得られた降伏強度YS(MPa)とをプロットしたものである。断面減少率での加工度Rdと降伏強度YSが直線関係にあることが示されている。
【0016】
(d) 次に、本発明者らは、二相ステンレス鋼管の降伏強度が、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdと二相ステンレス鋼管の化学組成に依存するのであれば、この二相ステンレス鋼管の目標とする降伏強度を得るために、管加工条件に関連づけた適切な成分設計手法を確立することが可能となると考えた。すなわち、この二相ステンレス鋼管の目標とする降伏強度を得るために、二相ステンレス鋼管の化学組成による微調整でなく、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdによる微調整が可能となるので、強度レベル毎に合金組成を変更して多種類の二相ステンレス鋼を溶製する必要がなくなり、したがって、材料ビレットの在庫を抑制できる。
【0017】
このように、管加工条件に関連づけた適切な成分設計手法が確立できれば、目標とする強度を有する二相ステンレス鋼管を得るために、素材の合金組成をその都度変化させなくても、素材の合金組成を考慮して求められる目標とする冷間引抜加工条件、すなわち、目標とする加工度Rdまたはそれ以上の加工度でもって冷間引抜加工をすればよい。
【0018】
(e) このような着想の下で、二相ステンレス鋼管の降伏強度と冷間引抜加工を行う際の加工度Rdと二相ステンレス鋼管の化学組成との間の相関関係について、鋭意検討と実験を重ねた結果、二相ステンレス鋼管は、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdが断面減少率で5〜35%の範囲においては、降伏強度YS(MPa)は、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdと、二相ステンレス鋼管の化学組成のうちのCrとMoとWの各成分の含有量に基づいて、次の(2)式に基づいて計算することができることを知見した。
YS=17.2×{Rd+1.2×Cr+3.0×(Mo+0.5×W)}+55・・・・(2)
但し、式中のYSおよびRdはそれぞれ降伏強度(MPa)および断面減少率での加工度(%)を意味し、そして、Cr、MoおよびWはそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
【0019】
図2は、後述する実施例において用いた種々の二相ステンレス鋼管について、化学組成とその断面減少率での加工度Rd(%)を上記(2)式の右辺に代入して得られた値をX軸にとり、そして、実際に引張試験で得られた降伏強度YS(MPa)をY軸にとって、プロットしたものである。二相ステンレス鋼管であれば、(2)式によって、その化学組成とその断面減少率での加工度Rd(%)から降伏強度を精度良く求めることでできることが示されている。
【0020】
(f) したがって、目標とする強度を有する二相ステンレス鋼管を得るためには、素材の合金成分、すなわち、Cr、MoおよびWの含有量で発現される降伏強度を除いた分を冷間引抜加工によって発現すればよいことになる。そして、目標とする降伏強度MYS(110〜140ksiグレード(最低降伏強度が757.3〜963.8MPa))を得るには、二相ステンレス鋼管の化学組成を選定した後、上記(2)式から得られる加工度Rd(%)またはそれ以上の加工度でもって最終の冷間引抜加工をすればよいから、最終の冷間引抜加工工程における断面減少率での加工度Rdが5〜35%の範囲内であってかつ下記(1)式を満足する条件で冷間引抜加工すればよいことになる。
Rd(%)≧(MYS−55)/17.2−{1.2×Cr+3.0×(Mo+0.5×W)}・・・(1)
但し、式中のRdおよびMYSはそれぞれ断面減少率での加工度(%)および目標降伏強度(MPa)を意味し、そして、Cr、MoおよびWはそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
【0021】
(g) このように、二相ステンレス鋼管について、過度に合金成分を添加することもなく、冷間加工条件を選択することによって目標とする降伏強度を得ることができるので、材料コストの低減を図ることができる。さらに、素材の合金組成に合わせて冷間加工条件を選択することで目標とする強度を有する二相ステンレス鋼管を得ることができるため、強度レベル毎に合金組成を変更して多種類の二相ステンレス鋼を溶製する必要がなくなり、したがって、材料ビレットの在庫を抑制できる。
【0022】
本発明はこのような新たな知見のもとに完成したものであり、その要旨は次に示すとおりである。
【0023】
質量%で、C:0.03%以下、Si:1%以下、Mn:0.1〜2%、Cr:20〜35%、Ni:3〜10%、Mo:0〜4%、W:0〜6%、Cu:0〜3%、N:0.15〜0.35%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する二相ステンレス鋼材を、熱間加工によりあるいはさらに固溶化熱処理することにより冷間加工用素管を作製した後、冷間引抜加工によって二相ステンレス鋼を製造する方法であって、最終の冷間引抜加工工程における断面減少率での加工度Rdが5〜35%の範囲内であってかつ下記(1)式を満足する条件で冷間引抜加工することを特徴とする二相ステンレス鋼管の製造方法。
Rd(%)≧(MYS−55)/17.2−{1.2×Cr+3.0×(Mo+0.5×W)}・・・(1)
但し、式中のRdおよびMYSはそれぞれ断面減少率での加工度(%)および目標降伏強度(MPa)を意味し、そして、Cr、MoおよびWはそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、深井戸や過酷な腐食環境で使用される油井管に要求される耐食性だけでなく、目標とする強度をも兼ね備えた二相ステンレス鋼管を、過度に合金成分を添加することもなく、冷間加工条件を選択することによって製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明に係る二相ステンレス鋼管の製造方法において用いる二相ステンレス鋼の化学組成の限定理由について述べる。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を表す。
【0026】
C:0.03%以下
Cは、オーステナイト相を安定させて強度を向上させる効果とともに、熱処理における昇温時に炭化物を析出させて微細組織を得る効果を有する元素である。しかし、その含有量が0.03%を超えると、熱処理や溶接時などの熱影響により炭化物の析出が過剰となり、鋼の耐食性および加工性を劣化させる。そのため、その上限を0.03%とした。好ましい上限は0.02%である。
【0027】
Si:1%以下
Siは、脱酸剤として有効な元素であり、また、熱処理における昇温時に金属間化合物を析出させて微細組織を得る効果を有する元素でもあるから、必要に応じて含有させることができる。これらの効果は0.05%以上の含有量で得られる。しかしながら、その含有量が1%を超えると熱処理や溶接時の熱影響により金属間化合物の析出が過剰となり、鋼の耐食性および加工性を劣化させるので、Si含有量は1%以下とした。好ましい範囲は、0.7%以下である。
【0028】
Mn:0.1〜2%
Mnは、上記のSiと同様に、脱酸剤として有効な元素であるとともに、鋼中に不可避的に含有されるSを硫化物として固定し熱間加工性を改善する。その効果は0.1%以上の含有量で得られる。しかし、その含有量が2%を超えると熱間加工性が低下するだけでなく、耐食性に悪影響を及ぼす。このため、Mn含有量は0.1〜2%とした。好ましい範囲は、0.3〜1.5%である。
【0029】
Cr:20〜35%
Crは、耐食性を維持し強度を向上するために有効な基本成分である。これらの効果を得るためには、その含有量を20%以上とする必要がある。しかし、Crの含有量が35%を超えると、σ相が析出し易くなり耐食性と靭性がともに劣化する。従って、Cr含有量は20〜35%とした。より高強度を得るためには、好ましくは23%以上である。また、靱性の観点からは、好ましくは28%以下である。
【0030】
Ni:3〜10%
Niは、オーステナイト相を安定させ、二相組織を得るために含有される元素である。その含有量が3%未満の場合は、フェライト相が主体となって二相組織が得られない。一方、10%を超えると、オーステナイト主体となり二相組織が得られないこと、また、Niが高価な元素であるために経済性も損なわれることから、Ni含有量は3〜10%とした。上限は8%とするのが好ましい。
【0031】
Mo:0〜4%(無添加も含む)
Moは、耐孔食性および耐隙間腐食性を向上させるとともに固溶強化により強度を向上させる元素であるので、必要に応じて含有させることができる。この効果を得たい場合には、0.5%以上含有させるのが好ましい。一方、過剰に含有させるとσ相が析出し易くなり靭性が劣化する。そのため、Mo含有量は0.5〜4%とするのが好ましい。
【0032】
W:0〜6%(無添加も含む)
Wは、Moと同様に、耐孔食性および耐隙間腐食性を向上させるとともに固溶強化により強度を向上させる元素であるので、必要に応じて含有させることができる。この効果を得たい場合には、0.5%以上含有させるのが好ましい。一方、過剰に含有させるとσ相が析出し易くなり靭性が劣化する。そのため、W含有量は0.5〜6%とするのが好ましい。
【0033】
なお、MoとWはいずれも含有させなくてもよいが、Mo:0.5〜4%、W:0.5〜6%のうちのいずれか一方または両方を含有させてもよい。
【0034】
Cu:0〜3%(無添加も含む)
Cuは、耐食性および粒界腐食抵抗を改善する元素であり、必要に応じて含有させることができる。この効果を得たい場合には、0.1%以上含有させるのが好ましく、0.3%以上含有させるのがさらに好ましい。しかし、含有量が3%を超えるとその効果は飽和し、逆に熱間加工性および靱性が低下する。このため、Cuを含有させる場合には、その含有量は0.1〜3%とするのが好ましい。より好ましくは0.3〜2%である。
【0035】
N:0.15〜0.35%
Nは、オーステナイトの安定性を高めるとともに、二相ステンレス鋼の耐孔食性および耐隙間腐食性を高める元素である。また、Cと同等にオーステナイト相を安定させて強度を向上させる効果を有するため高強度を得る本発明にあっては重要な元素である。その含有量が0.15%未満では十分な効果が得られない。一方、0.35%を超えると靭性および熱間加工性を劣化させるため、その含有量を0.15〜0.35%とした。より高強度を得るには0.17%超えが好ましい。さらに好ましい含有量は0.2〜0.3%である。
【0036】
さらに、不純物として含有される、P,S,Oは下記の理由により、P:0.04%以下、S:0.03%以下、O:0.010%以下に制限するのが好ましい。
【0037】
P:0.04%以下
Pは、不純物として含有されるが、その含有量が0.04%を超えると熱間加工性を低下させ、また耐食性および靱性をも低下させる。従って、上限を0.04%とするのが好ましい。
【0038】
S:0.03%以下
Sは、上記のPと同様に、不純物として含有されるが、その含有量が0.03%を超えると熱間加工性が著しく低下するだけでなく、硫化物は、孔食の発生起点となり耐孔食性を損なう。このため、その上限値を0.03%とするのが好ましい。
【0039】
O:0.010%以下
本発明ではNを0.15〜0.35%と多量に含有させるため、熱間加工性が劣化し易い。そのため、O含有量は0.010%以下とするのが好ましい。
【0040】
本発明に係る二相ステンレス鋼は、上記の元素の他に、さらにCa、Mgおよび希土類元素(REM)のうちの1種または2種以上を含有してもよい。これらの元素の含有させてもよい理由とそのときの含有量は、次の通りである。
【0041】
Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下および希土類元素:0.2%以下の1種または2種以上
これらの成分は、必要に応じて含有させることができる。いずれも、含有させれば、熱間加工性を阻害するSを硫化物として固着し、熱間加工性を向上させる効果がある。しかしながら、CaおよびMgについてはいずれも0.01%を超えると、そして、REMについては0.2%を超えると、粗大な酸化物が生成し、かえって熱間加工性の低下を招くので、それらの上限は、CaおよびMgについては0.01%、そして、REMについては0.2%とする。なお、この熱間加工性の向上効果を確実に発現させるためには、CaおよびMgについては0.0005%以上、そして、REMについては0.001%以上、含有させるのが好ましい。なお、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素を意味する。
【0042】
本発明の二相ステンレス鋼管は、上記の必須元素あるいはさらに上記の任意元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなるものであり、通常商業的な生産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、二相ステンレス鋼の溶製は、電気炉、Ar−O混合ガス底吹き脱炭炉(AOD炉)や真空脱炭炉(VOD炉)などを利用することができる。溶製された溶湯は、インゴットに鋳造してもよいし、連続鋳造法で棒状のビレットなどに鋳造してもよい。これらのビレットを用いて、ユジーンセジュルネ法などの押し出し製管法またはマンネスマン製管法などの熱間加工によって、二相ステンレス鋼の冷間加工用素管を製造することができる。そして、熱間加工後の素管は、冷間引抜などの冷間加工により所望の強度を有する製品管とする
【0043】
また、本発明では、最終の冷間加工の際の加工度を規定しており、熱間加工で得た冷間加工用素管を、必要により固溶化熱処理を行った後、管表面のスケール除去のデスケーリングを行い、1回の冷間加工で所望の強度を有する二相ステンレス鋼管を製造してもよいし、最終の冷間加工の前に1回または複数回の途中の冷間加工を行って固溶化熱処理を行い、デスケーリング後に最終の冷間加工を行ってもよい。途中に冷間加工を行うことで、最終の冷間引抜加工での加工度を調整しやすいと同時に、熱間加工のままで冷間加工を行う場合と比べて、最終の冷間加工でより精度の高い管寸法を有する管を得ることができる。
【実施例1】
【0044】
まず、表1に示す化学組成を有する二相ステンレス鋼を、電気炉で溶解し、目標の化学組成にほぼ成分調整した後、AOD炉を用いて脱炭および脱硫処理を行う方法で溶製した。得られた溶湯は、重さ1500kg、直径500mmのインゴットに鋳造した。そして、長さ1000mmに切断して押し出し製管用ビレットを得た。次に、このビレットを用いてユジーンセジュルネ法による熱間押出製管法で冷間加工用素管に成形した。
【0045】
【表1】

【0046】
得られた冷間加工用素管を途中抽伸した後、1050〜1120℃で2分以上保持後に水冷する条件の溶体化熱処理を施した後、さらに、断面減少率での加工度Rd(%)を表2に示すとおり、種々変更して、プラグとダイスを用いた引抜法による最終の冷間加工を行って、二相ステンレス鋼管を得た。なお、冷間引抜加工を行う前には、管に対してショットブラストを行い、表面のスケールを除去しておいた。最終冷間加工の前後の管寸法(外径mm×肉厚mm)を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
その後、得られた二相ステンレス鋼管から、管軸方向の弧状引張試験片を採取し、引張試験を行った。その結果の実測値を、引張試験での降伏強度(0.2%耐力)YS(Mpa)および引張強度TS(MPa)を、(2)式の右辺の数値とともに表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のとおりであるから、本発明によれば、深井戸や過酷な腐食環境で使用される油井管に要求される耐食性だけでなく、目標とする強度をも兼ね備えた二相ステンレス鋼管を、過度に合金成分を添加することもなく、冷間加工条件を選択することによって製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】二相ステンレス鋼管について、断面減少率での加工度Rd(%)と引張試験で得られた降伏強度YS(MPa)とをプロットしたものである。
【図2】二相ステンレス鋼管について、その化学組成と断面減少率での加工度Rd(%)を上記(2)式の右辺に代入して得られた値をX軸にとり、そして、引張試験で得られた降伏強度YS(MPa)をY軸にとって、プロットしたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.03%以下、Si:1%以下、Mn:0.1〜2%、Cr:20〜35%、Ni:3〜10%、Mo:0〜4%、W:0〜6%、Cu:0〜3%、N:0.15〜0.35%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する二相ステンレス鋼材を、熱間加工によりあるいはさらに固溶化熱処理することにより冷間加工用素管を作製した後、冷間引抜加工によって二相ステンレス鋼管を製造する方法であって、最終の冷間引抜加工工程における断面減少率での加工度Rdが5〜35%の範囲内であってかつ下記(1)式を満足する条件で冷間引抜加工することを特徴とする二相ステンレス鋼管の製造方法。
Rd(%)≧(MYS−55)/17.2−{1.2×Cr+3.0×(Mo+0.5×W)}・・・(1)
但し、式中のRdおよびMYSはそれぞれ断面減少率での加工度(%)および目標降伏強度(MPa)を意味し、そして、Cr、MoおよびWはそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−46759(P2009−46759A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126561(P2008−126561)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】