説明

二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを含む冷間成形用電池ケース包材

【課題】冷間成形用電池ケース包材において、基材層および/またはバリア材補強層として二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを用いることにより、耐酸性、および防湿性を損なうこと無く、優れた冷間成形性を確保防湿性、耐酸性、および冷間成形性に優れた二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを含む冷間成形用包材、特にリチウムイオン二次電池等の電池用包材を得ることを課題とする。
【解決手段】バリア層、シーラント層、または基材層、バリア層、バリア材補強層、シーラント層の順に積層された冷間成形用電池ケース包材において、基材層および/またはバリア材補強層として二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防湿性、耐酸性、および冷間成形性に優れた二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを含む冷間成形用包材、特にリチウムイオン二次電池等の電池用包材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、燃料電池等、または液体、固体セラミック、有機物等の誘電体を含む液体コンデンサ、固体コンデンサ、二重層コンデンサ等の電解型コンデンサ等の化学的エネルギーを電気的エネルギーに変換する素子を含む種々の電池が、パソコン、携帯端末装置(携帯電話、PDA等)、ビデオカメラ、電気自動車、エネルギー貯蔵用蓄電池、ロボット、衛星等に広く用いられている。これらの電池用外装材としては、金属をプレス加工して円筒状または直方体状に容器化した金属製缶タイプ、あるいは、プラスチックフィルム、金属箔等をラミネートして得られる積層体タイプが用いられてきた。
【0003】
しかしながら、電池用外装材のうち、金属製缶タイプにおいては、容器外壁がリジッドであるため、ハード側を電池の形状に合わせて設計する必要があり、形状の自由度が無くなるという問題があった。また、金属製缶タイプは容器自体が厚いため、長時間使用時など電池が発熱した場合に放熱しにくいという欠点もあった。一方、積層体タイプは、金属端子の取出し易さや密封のし易さ、あるいは柔軟性を有するため、電子機器や電子部品の適当な空間に合わせた形状とすることができ、電子機器や電子部品自体の形状をある程度自由に設計することができる。さらに、薄膜で放熱性にも優れているため、発熱による異常放電を防止することも可能である。よって、積層体タイプは金属製缶タイプに比べて小型化、軽量化を図りやすい、および安全性が高い等の利点から、電池用外装材として主流になりつつある。
【0004】
積層体タイプの外装材を用いたリチウム電池の形態としては、包材を筒状に加工し、リチウム電池本体および正極および負極との各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で収納し、開口部を熱接着して密封した袋タイプ(たとえば、特許文献1の図2参照)と包材を容器状に成形し、この容器内にリチウム電池本体および正極および負極との各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で収納し、平板状の包材ないし容器状に成形した包材で被覆すると共に、四周縁を熱接着して密封した成形タイプ(たとえば、特許文献1の図3参照)が知られている。
【0005】
そして、成形タイプは袋タイプに比べて、電池本体をタイト(ぴったりとした状態)に収納することができるため、体積エネルギー密度を向上させることができると共に、リチウム電池本体の収納がし易いなどの利点がある。さらに、成形タイプのうち、冷間(常温)成形法は、加熱成形法に比べて加熱による強度物性の低下や熱収縮の発生など成形加工時に包材自体の特性が変化する危険性が低く、さらに成形装置も安価で、簡便であるとともに生産性も高いことから、現在主流の成形方法となっている。
【0006】
電池用外装材に要求される特性、機能としては、高度な防湿性、耐酸性(電解質の劣化や加水分解により発生するフッ酸に対する耐性)、冷間成形性、密封性、耐突刺し性、耐ピンホール性、絶縁性、耐熱性、耐寒性等が必要不可欠であり、特に防湿性、耐酸性、冷間成形性は重要な要素となる。
【0007】
積層体タイプの電池用外装材のうち、冷間成形タイプのラミネート構成としては、外側から基材層、バリア層、シーラント層、あるいは基材層、バリア層、バリア材補強層、シーラント層が一般的であるが、バリア層として主に用いられるアルミニウム箔は、成形時に生じる不均一変形により、ピンホールやクラックが生じ易いという欠点があった。その欠点を補うべく、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、および特許文献6では、基材層、および/またはバリア材補強層として機械的強度に優れた基材、例えば二軸延伸ナイロン6(以下、Ny)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(以下、PP)フィルム、および未延伸または延伸ポリブチレンテレフタレート(以下、PBT)フィルムを積層する方法が提案されている。また、冷間成形性以外の要求特性として重要な防湿性、および耐酸性を付与するために、PETフィルムやPBTフィルム等のポリエステル系フィルム、あるいはPPフィルム等のポリオレフィン系フィルムを基材層および/またはバリア材補強層として用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−74419号公報
【特許文献2】特開2000−123800号公報
【特許文献3】特開2004−327044号公報
【特許文献4】特開2001−30407号公報
【特許文献5】特開2007−294380号公報
【特許文献6】特開2008−4506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2、特許文献3で提案された基材層、および/またはバリア材補強層として異方性が少なく、かつ引張強度が高い二軸延伸Nyフィルムを単独で用いる方法は、冷間成形性の点では優れている反面、フィルム自体が吸湿性を有すため、内容物が外部からの水分の侵入を極端に嫌う電解液等の場合、防湿性の点で問題があった。また、二軸延伸Nyフィルムは耐酸性も低いことから、電解液の劣化や加水分解により発生するフッ酸に対する耐性の点でも問題があった。また、特許文献3で提案された二軸延伸PETフィルム、あるいは二軸延伸PPフィルムを基材層、および/またはバリア材補強層として用いる方法は、防湿性、耐酸性の点では優れているものの、樹脂の特性や製法上、二軸延伸Nyフィルムと比べると冷間成形性が劣るという問題があった。さらに、特許文献4、特許文献5、特許文献6で提案された基材層、および/またはバリア材補強層として未延伸、あるいは延伸PBTフィルムを用いる方法は、用いるPBTフィルムの性質やフィルム物性、および製造方法に関する具体的な記載が無く、また延伸PBTフィルムのうち、一軸延伸フィルムでは機械的強度が不十分であり、異方性も著しく大きいため、十分な冷間成形性が得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、外側から基材層、バリア層、シーラント層、または基材層、バリア層、バリア材補強層、シーラント層の順に積層された冷間成形用電池ケース包材において、基材層および/またはバリア材補強層として二軸延伸PBTフィルムを用いることにより、耐酸性、および防湿性を損なうこと無く、優れた冷間成形性を確保出来ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の物および手段を提供する。
[1]外側から基材層、バリア層、シーラント層、または基材層、バリア層、バリア材補強層、シーラント層の順に積層されてなる冷間成形用電池ケース包材において、基材層および/またはバリア材補強層として、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを用いることを特徴とする冷間成形用電池ケース包材。
[2]基材層および/またはバリア材補強層が二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを含む複数のフィルムで構成されていることを特徴とする上記[1]に記載の冷間成形用電池ケース包材。
[3]前記二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が200MPa以上であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の冷間成形用電池ケース包材。
[4]前記二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムが、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下のものであることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の冷間成形用電池ケース包材。
[5]前記二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムが、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての50%モジュラス値が100MPa以上のものであることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載の冷間成形用電池ケース包材。
[6]前記二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムが、ポリブチレンテレフタレート樹脂を溶融押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して得られた未延伸原反を縦横それぞれ2.7〜4.0倍同時二軸延伸することにより得られるものであることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の冷間成形用電池ケース包材。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、外側から基材層、バリア層、シーラント層、または基材層、バリア層、バリア材補強層、シーラント層の順に積層された冷間成形用電池ケース包材において、基材層および/またはバリア材補強層として二軸延伸PBTフィルムを用いることにより、耐酸性、および防湿性を損なうこと無く、あらゆる形状や成形深さの冷間成形加工時においてもアルミニウム箔の破断やピンホール等の発生を抑え、安定した成形性を確保することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】チューブラー同時二軸延伸装置の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(二軸延伸PBTフィルムの原料) 二軸延伸PBTフィルムに用いられる原料は、ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであれば特に限定されるものでは無いが、具体的にはグリコール成分としての1,4−ブタンジオール、又はそのエステル形成性誘導体と、二塩基酸成分としてのテレフタル酸、又はそのエステル形成性誘導体を主成分とし、それらを縮合して得られるホモ、またはコポリマータイプのポリエステルである。最適な機械的強度特性を付与するためには、ポリブチレンテレフタレート系樹脂のうち、融点200〜250℃、IV値1.10〜1.35dl/gの範囲のものが好ましく、さらには融点215〜225℃、IV値1.15〜1.30dl/gの範囲のものが特に好ましい。
【0015】
ここでポリブチレンテレフタレートを主体とするコポリエステルとは、二塩基酸成分としてのテレフタル酸成分の一部を、例えばイソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の他の二塩基酸成分に置き換えたもの、及び/またはグリコール成分としての1,4−ブタンジオール成分の一部を、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等の他のグリコール成分に置き換えたものを縮合させたポリエステルであり、ブチレンテレフタレート単位が70%以上のものが好ましい。
【0016】
なお、本発明のポリブチレンテレフタレートには、物性に支障をきたさない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリ(エチレンテレフタレート/エチレンイソフタレート)などの他のポリエステル類やポリカーボネート、ポリアミド等を混合、あるいは積層して延伸加工をしても良く、さらに必要に応じて滑剤、アンチブロッキング剤、無機増量剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、着色剤、結晶化抑制剤、結晶化促進剤等の添加剤を加えても差し支えない。また、PBT樹脂ペレットは加熱溶融時の加水分解による粘度低下を避けるため、加熱溶融前に水分率が0.05wt%以下、好ましくは0.02wt%以下になるように十分予備乾燥を行った上で使用するのが好ましい。
【0017】
(PBT未延伸原反の製造方法)PBT樹脂を安定的に二軸延伸するには、延伸前未延伸原反の結晶化を極力抑制する必要があり、押出されたPBT溶融体を冷却して製膜する際、該ポリマーの結晶化温度領域をある速度以上で冷却する、すなわち原反冷却速度が重要な因子となる。その原反冷却速度は200℃/秒以上、好ましくは250℃/秒以上、特に好ましくは350℃/秒以上であり、高い冷却速度で製膜された未延伸原反は極めて低い結晶状態を保っているため、延伸時のバブルの安定性が飛躍的に向上する。さらには高速での製膜も可能になることから、生産性も向上する。冷却速度が200℃/秒未満では、得られた未延伸原反の結晶性が高くなり延伸性が低下するばかりでなく、極端な場合には延伸バブルが破裂し、延伸が継続しない場合がある。原反製膜方式は、前記原反冷却速度を満たす方法であれば特に限定されるものでは無いが、急冷製膜の点では内外直接水冷式がもっとも適している。その内外直接水冷式による原反製膜法の概要を以下に説明する。まず、PBT樹脂は210〜270℃の温度に設定された押出機によって溶融混練され、Tダイ製膜の場合は、シート状の溶融樹脂を水槽に浸漬することにより内外とも直接水冷する。一方、環状製膜の場合は、押出機に下向きに取り付けられた環状ダイより下方に押し出され、溶融管状薄膜が成形される。次に環状ダイに連結されている冷却マンドレルに導かれ、冷却マンドレル各ノズルから導入された冷却水が溶融管状薄膜の内側に直接接触して冷却される。同時に、冷却マンドレルと組み合わせて使用される外部冷却槽からも冷却水が流され、溶融管状薄膜の外側にも冷却水が直接接触して冷却される。内部水、および外部水の温度は30℃以下が好ましく、急冷製膜の観点では20℃以下が特に好ましい。30℃より高くなると、原反の白化や冷却水の沸騰による原反外観不良等を招き、延伸も徐々に困難になる。
【0018】
(二軸延伸PBTフィルムの製造方法)PBT未延伸原反は、25℃以下、好ましくは20℃以下の雰囲気温度に保ちつつ延伸ゾーンまで搬送する必要があり、当該温度管理下では滞留時間に関係無く、製膜直後の未延伸原反の結晶性を維持することが出来る。この延伸開始点までの結晶化制御は、前記未延伸原反の製膜技術とともに、PBT樹脂の二軸延伸を安定して行う上で重要なポイントと言える。二軸延伸法は、特に限定される訳では無く、例えばチューブラー方式、あるいはテンター方式で縦横同時、または逐次二軸延伸する方式等から適宜選択される。得られた二軸延伸PBTフィルムの周方向の物性バランスの点で、チューブラー法による同時二軸延伸法が特に好ましい。図1はチューブラー法同時二軸延伸装置の概略図である。延伸ゾーンに導かれた未延伸原反1は、一対の低速ニップロール2間に挿通された後、中に空気を圧入しながら延伸用ヒーター3で加熱するとともに、延伸終了点に冷却ショルダーエアーリング4よりエアーを吹き付けることにより、チューブラー法によるMD、およびTD同時二軸延伸フィルム7を得た。延伸倍率は、延伸安定性や得られた二軸延伸PBTフィルムの強度物性、透明性、および厚み均一性を考慮すると、MD、およびTDそれぞれ2.7〜4.0倍の範囲であることが好ましい。延伸倍率が2.7倍未満である場合、得られた二軸延伸PBTフィルムの引張強度や衝撃強度が不十分となり好ましくない。また4.0倍超の場合、延伸により過度な分子鎖のひずみが発生するため、延伸加工時に破断やパンクが頻繁に発生し、安定的に生産出来ない。延伸温度は、40〜80℃の範囲が好ましく、特に好ましくは45〜65℃である。前記の高い冷却速度で製造した未延伸原反は、結晶性が低いため、比較的低温域の延伸温度で安定して延伸可能である。80℃を超える高温延伸では、延伸バブルの揺れが激しくなり、大きな延伸ムラが発生して厚み精度の良好なフィルムは得られない。一方、40℃未満の延伸温度では、低温延伸による過度な延伸配向結晶化が発生し、フィルムの白化等を招き、場合によって延伸バブルが破裂し延伸継続困難となる。このように二軸延伸加工を施すことにより、特に強度物性が飛躍的に向上し、かつ異方性が少ない二軸延伸PBTフィルムを得ることが出来る。
【0019】
得られた二軸延伸PBTフィルムを熱ロール方式またはテンター方式、あるいはそれらを組み合わせた熱処理設備に任意の時間投入し、180〜240℃、特に好ましくは190〜210℃で熱処理を行うことにより、熱寸法安定性に優れた二軸延伸PBTフィルムを得ることができる。熱処理温度が220℃よりも高い場合は、ボーイング現象が大きくなり過ぎて幅方向での異方性が増加する、または結晶化度が高くなり過ぎるため強度物性が低下してしまう。一方、熱処理温度が185℃よりも低い場合は、フィルムの熱寸法安定性が大きく低下するため、ラミネートや印刷加工時にフィルムが縮み易くなり、実用上問題が生じる。
【0020】
二軸延伸PBTフィルムの厚みは、5〜50μm、より好ましくは10〜30μmである。厚みが5μmよりも小さい場合は、ラミネート包材の耐衝撃性が低くなり、冷間成形性が不十分となる。一方、50μmを超えると形状維持の強度は向上するものの、特に破断防止や成形性の向上への効果は小さく、体積エネルギー密度を低下させるだけである。
【0021】
二軸延伸PBTフィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)における引張破断強度は、いずれも200MPa以上、50%モジュラス値は100MPa以上であることが好ましい。また、異方性を小さくするためには、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下に調整することが好ましく、特に好ましくは1.3以下である。これにより、いかなる形状、成形深さの場合においても、冷間成形時にアルミニウム箔が破断し難くなり、安定した成形性を確保することが出来る。いずれか一方向でも引張破断強度が200MPa未満、50%モジュラス値が100MPa未満の場合、あるいは4方向の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5より大きい場合、冷間成形時にアルミニウム箔、あるいは二軸延伸PBTフィルム自体が容易に破断するようになり、安定した成形性が得られない。
【0022】
(冷間成形用電池ケース包材の構成)冷間成形用電池ケース包材は、前記二軸延伸PBTフィルムのいずれか一方、あるいは両方の面に、1層あるいは2層以上他の基材を積層して構成される。具体的には、外側から基材層、バリア層、シーラント層の3層構成、あるいは基材層、バリア層、バリア材補強層、シーラント層の4層構成等が挙げられ、基材層および/またはバリア材補強層は、前記二軸延伸PBTフィルム単独、もしくは二軸延伸PBTフィルムと二軸延伸Nyフィルム、二軸延伸PETフィルム、二軸延伸PPフィルム等の他基材と併用して構成することが出来る。バリア層としては、高い防湿性を付与するための純アルミニウム箔、またはアルミニウム−鉄系合金の軟質材、ステンレス箔、および銅箔、シーラント層としては密封性や耐薬品性を付与するために未延伸ポリエチレン系フィルム、未延伸ポリプロピレン系フィルム、未延伸ポリ塩化ビニルフィルム、エチレン−酢酸ビニルフィルム、アイオノマーフィルム、その他エチレンコポリマー系フィルムが挙げられる。一般に、アルミニウム箔層を含むラミネート包材は、冷間成形時にアルミニウム箔層の破断やピンホールが生じ易いため冷間成形性は必ずしも十分では無い。しかしながら、本発明の二軸延伸PBTフィルムを含む冷間成形用電池ケース包材は、優れた成形性、耐衝撃性、および耐ピンホール性を有するため、冷間での張出し成形や深絞り成形等の際に、アルミニウム箔層の破断を抑制できる。さらに、二軸延伸PBTフィルムは耐酸性、防湿性にも優れていることから、内容物が外部からの水分の侵入を極端に嫌う電解液等の場合に特に有効といえる。
【0023】
前記二軸延伸PBTフィルムを含む冷間成形用電池ケース包材の総厚みは200μm以下であることが好ましい。厚みが200μmを超える場合、冷間成形によるコーナー部の成形が困難となり、シャープな形状の成形品が得られない場合がある。
【0024】
バリア層であるアルミニウム箔層の厚みは20〜100μmであることが好ましい。これにより、成形品の形状を良好に保持することが可能となり、また酸素や水分等が包材内へ侵入することを防止できる。アルミニウム箔層の厚みが20μm未満である場合、ラミネート包材の冷間成形時にアルミニウム箔層の破断が生じ易く、また、破断しない場合でもピンホール等が発生し易くなるため、包材中に酸素や水分等が侵入してしまう場合がある。一方、アルミニウム箔層の厚みが100μmを超える場合、冷間成形時の破断やピンホール発生防止の効果も大きく改善されるわけではなく、総厚みが厚くなるだけで好ましくない。
【実施例】
【0025】
以下に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。
<実施例1>
(二軸延伸PBTフィルムの製造方法)
140℃で5時間熱風乾燥機にて乾燥したPBT樹脂ペレット(ホモタイプ、融点=224℃、IV値=1.26dl/g)を押出機中、シリンダーおよびダイ温度210〜260℃の各条件で溶融混練して溶融管状薄膜を環状ダイより下方に押し出した。引き続き、冷却マンドレルの外径を通しカラプサロールで折り畳んだ後、引取ニップロールにより1.2m/minの速度で製膜引取りを行った。溶融管状薄膜に直接接触する冷却水の温度は内側、外側ともに20℃であり、原反冷却速度は416℃/秒であった。未延伸原反の厚みは130μm、折径は143mmであり、PBT樹脂中にはあらかじめ滑剤としてステアリン酸マグネシウムを1000ppm添加した。以上の条件で製膜した未延伸原反1を20℃の雰囲気中で低速ニップロール2まで搬送し、図1に示す構造のチューブラー同時二軸延伸装置にて縦横同時二軸延伸を行った。延伸倍率はMDが3.0倍、TDが2.8倍であり、延伸温度は60℃であった。次に、この二軸延伸フィルム7を熱ロール式、およびテンター式熱処理設備にそれぞれ投入し、210℃で熱処理を施すことにより本発明の二軸延伸PBTフィルムを得た。なお、二軸延伸PBTフィルムの厚みは15μmであった。
【0026】
(原反冷却速度の測定方法)前記原反冷却速度は下記に示した式により算出した。溶融薄膜、および原反温度は接触式の放射温度計にて測定した。また、冷却開始点は溶融薄膜が冷却水、または冷却装置に接触する部分、冷却終了点は未延伸原反の温度が30℃に到達する部分をいう。
原反冷却速度(℃/秒)=(冷却開始点直前の溶融薄膜温度−冷却終了点の原反温度)(℃)/(冷却開始点〜冷却終了点間距離)(m)×冷却開始点〜冷却終了点間の原反の通過速度(m/秒)
【0027】
(二軸延伸PBTフィルムの引張破断強伸度の評価方法) 二軸延伸PBTフィルムの引張破断強伸度は、オリエンテック製―テンシロン(RTC−1210−A)を使用し、試料幅15mm、チャック間100mm、引張速度200mm/minの条件で、0℃(MD)方向/45°方向/90°(TD)方向/135°方向の4方向についてそれぞれ測定を行った。得られた応力−ひずみ曲線に基づいて求めた、各方向での引張破断強度、50%モジュラス値、および4方向の引張破断強度のうち最大値と最小値の比を表1に示した。
【0028】
(冷間成形性の評価方法) 二軸延伸PBTフィルムを含むラミネート包材の冷間成形性を評価した。具体的には、得られた二軸延伸PBTフィルムをアルミニウム箔(AA8079−O材、厚み30μm)の外側に、未延伸ポリプロピレンフィルム〔パイレンフィルムCT−P1128(商品名)、東洋紡績製、厚み30μm〕を内側に配置し、それぞれドライラミネート(ドライ塗布量4.0g/m)することによりラミネート包材を得た。なお、ドライラミネート用の接着剤としては、東洋モートン(株)TM−K55/東洋モートン(株)CAT−10(配合比100/8)を用いた。また、ドライラミネート後のラミネート包材は、60℃で72時間エージングを行った。このようにして得られたラミネート包材は、23℃×50%の環境下で2時間調湿後、圧縮用金型(38mm×38mm)を用いて、未延伸ポリプロピレンフィルム側から最大荷重10MPaで冷間(常温)にて成形し、ピンホールやクラックなどの欠陥が発生しない最高成形深さを0.5mmピッチで評価した。
【0029】
(耐酸性の評価方法)
得られたラミネート包材の基材層表面に、濃塩酸、および濃フッ酸を一滴ずつ滴下し、室温にて1時間放置した。放置後、滴下した酸を除去し、フィルムの白化、溶解の有無を目視にて確認した。
【0030】
(防湿性の評価方法)
得られた二軸延伸PBTフィルムの防湿性の評価方法は、JISZ0208に準じて40℃×90%RH環境下での水蒸気透過性(透湿度)を測定し、50g/m・24Hr未満の場合は◎、50以上〜100g/m・24Hr以下の場合は○、100g/m・24Hrより大きい場合は×という基準で評価した。
【0031】
<実施例2〜3、比較例1〜2> 実施例1において、延伸倍率を表1に記載した条件に変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0032】
<実施例4〜8、比較例3〜7> 実施例1において、基材層、および/またはバリア材補強層を表1に記載した二軸延伸フィルムに変えた以外は実施例1と同様に行った。なお、二軸延伸NyフィルムはBN−RX((株)興人製、厚み15μm)、二軸延伸PETフィルムはFE2001(フタムラ化学(株)製、厚み25μm)、および二軸延伸PPフィルムはMF20(サントックス製、厚み25μm)を用いた。
【0033】
<実施例9〜10> 実施例1において、二軸延伸PBTフィルムの延伸方式を表1に記載した方法に変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0034】
表1に示すように、外側から基材層、バリア層、シーラント層、または基材層、バリア層、バリア材補強層、シーラント層の順に積層された冷間成形用電池ケース包材において、基材層および/またはバリア材補強層として二軸延伸PBTフィルムを用いることにより、耐酸性、および防湿性を損なうこと無く、優れた冷間成形性を確保出来た。さらに、二軸延伸PBTフィルムのうち、引張破断強度が200MPa以上、50%モジュラス値が100MPa以上に調整した二軸延伸PBTフィルムを用いた実施例1〜3、および実施例9〜10では、耐酸性、および防湿性を維持した状態で優れた冷間成形性を確保することが出来た。一方、引張破断強度が200MPa以上未満、50%モジュラス値が100MPa以上未満の二軸延伸PBTフィルムを基材層および/またはバリア材補強層として用いた比較例1〜2では成形性が低下し、また二軸延伸Nyフィルムを一部に用いた比較例3、6、7では、成形性は良好であったが、耐酸性や防湿性が低下した。さらに、二軸延伸PETフィルムを用いた比較例4〜5では、引張破断強度、および50%モジュラス値の高いフィルムであっても、二軸延伸PBTフィルムほどの冷間成形性は得られなかった。
【0035】
なお、冷間成形性の指標である最高成形高さの数値は、金型の形状等の条件によって異なってくるが、同じ条件で成形し測定した場合は、0.5mmの差でも実際の有用性に差が出てくる。
【0036】
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の二軸延伸PBTフィルムは、張出し成形、または深絞り成形などの冷間(常温)成形性に優れた基材であり、異方性が少なく、引張強度等の機械的強度特性に優れているため、本発明の二軸延伸PBTフィルムを含む冷間成形用電池ケース包材はシャープな成形が可能であり、かつ成形時にアルミニウム箔の破断やピンホールの発生を防止することが出来る。
【0038】
本発明の二軸延伸PBTフィルムを含む冷間成形用電池ケース包材が使用される分野、および用途としては、優れた成形性が要求されるリチウムイオン二次電池の電池ケース用包材にもっとも適しているが、それ以外の軽量化、小型化を必要とする一次電池、二次電池などにおいても、電池ケースとして軽量で、シャープな形状の成形性が要求される場合に使用可能である。また電池用包材以外としては、冷間成形性、ヒートシール性、耐薬品性にも優れているため、医薬品用PTP包材や化粧品、写真用薬品その他腐食性の強い有機溶剤を含む内容物のための容器用材料としても利用可能な包材である。
【符号の説明】
【0039】
1 未延伸原反
2 低速ニップロール
3 延伸用ヒーター
4 冷却ショルダーエアーリング
5 カラプサロール
6 高速ニップロール
7 二軸延伸フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側から基材層、バリア層、シーラント層、または基材層、バリア層、バリア材補強層、シーラント層の順に積層されてなる冷間成形用電池ケース包材において、基材層および/またはバリア材補強層として、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを用いることを特徴とする冷間成形用電池ケース包材。
【請求項2】
基材層および/またはバリア材補強層が、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを含む複数のフィルムで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の冷間成形用電池ケース包材。
【請求項3】
前記二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が200MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の冷間成形用電池ケース包材。
【請求項4】
前記二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムが、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の冷間成形用電池ケース包材。
【請求項5】
前記二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムが、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての50%モジュラス値が100MPa以上のものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の冷間成形用電池ケース包材。
【請求項6】
前記二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムが、ポリブチレンテレフタレート樹脂を溶融押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して得られた未延伸原反を縦横それぞれ2.7〜4.0倍同時二軸延伸することにより得られるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の冷間成形用電池ケース包材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−146636(P2012−146636A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266421(P2011−266421)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】