説明

二軸混練機を用いてアラミドポリマーを硫酸に溶解する方法

本発明は、下記の工程を含む、二軸混練機を用いてアラミドポリマーを硫酸に溶解する方法に関する:
a)ポリマーと溶媒とを混練機中に供給する工程;
b)溶液を得るために、ポリマーと溶媒とを混合してポリマーを溶媒中に溶解する工程;
c)上記溶液を脱気して紡績ドープを得る工程;
d)上記紡績ドープを混練機の外部へ移送する工程、
ただし、上記ポリマーはアラミドポリマーであり、上記溶媒は硫酸であり、そしてアラミドポリマーは、硫酸の混練機中への供給よりも先に混練機中に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミドポリマーを硫酸に溶解する方法に関する。さらに詳しくは、二軸混練機を用いてPTTA(ポリ(パラ−フェニレン−テレフタルアミド))を硫酸に溶解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アラミドポリマーを溶解する方法は、当業界において公知である。一般的な方法として、WO00/77515に記載された如き、アラミドポリマーを反応器または混練機中で液体状の硫酸に溶解して得られた溶液を脱気する方法を挙げることができる。このプロセスは、85℃の温度で約4時間を要し、アラミドポリマーの分解を引き起こす。
またUS5,599,623によると、アラミドポリマーを、例えば凍結硫酸氷を用いて低温(25℃未満)で硫酸に溶解し、次いで得られた固溶体を溶解して脱気する。このプロセスは約6時間を要し、従って滞留時間分布が広い。このプロセスは、アラミドポリマーとしてのPTTAを17.5〜19.8重量%含有する混合物に限定される。PPTAが17.5重量%未満であると、硫酸中に相当量の規格外物質が生成する。さらに、TDC(テレフタロイルジクロリド)およびPPD(パラ−フェニレンジアミン)、ならびにDAPBI(5−(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール)、Cl−TDC(2−クロロテレフタロイルジクロリド)およびCl−PPD(2−クロロ−p−フェニレンジアミン)の如きさらなるモノマーから得られたコポリマーは、溶解しないか、あるいは得られる固溶体の粘着性が高すぎるために、および/または後続の加工が容易ではない大きな塊を形成するために、溶解に大きな困難を伴う。従って、これらの公知の方法は本質的な欠点を有する。
【0003】
WO2006/045517は改良された方法を提案している。この方法によると、PPTAまたはそのコポリマーを二軸押出機に搬入した後、硫酸を注入し、混合してPPTAを硫酸に溶解する。フィルムを形成して脱気した後、PPTAを含有する紡績ドープを二軸押出機から排出する。この方法は、いくつかの別の欠点を有する。例えば供給量(dose)に少しのばらつきが起こることである。これは、解消することができず、排出物中のPPTA濃度のばらつきとして観察される。二軸押出機は、有効容積が小さいので、滞留時間が短い。安定的な結果を得るためには、厳格な制御システムを要する。さらに、二軸押出機は高価な装置であるから、本方法を工業的に行うことの魅力は乏しい。二軸押出機は二軸混練機とは異なる装置である。押出機のスクリューと内壁との間のスペースは小さい。混練機の場合、材料を混練機の外部へ移送することを主たる目的とはしておらず、そのシャフトは材料を完全に混練するように構成されている。二軸混練機は、大きな有効容積を有し、従って滞留時間が長い。このことにより、異なるタイプのシャフトが要求される。すなわち、比較的小さく、混練機のシャフトと内壁との間に混練動作のために十分なスペースが残るようなシャフトである。混練機内のシャフトの高さ位置は押出機におけるのと比べて低く、このことにより押出機と比較してエネルギー消費の小さなプロセスが可能となる。エネルギー消費が小さいということは、溶解プロセスを実施するに際して必要となる、冷却のためのエネルギー量も小さいということをも意味する。
【0004】
CN1048710には、パラ−フェニルジアミンおよびパラ−フェニルジホルミルクロリドを二軸ミキサー中で混合してポリ(パラ−フェニルジホルミルパラ−フェニルジアミン)とする重合プロセスに関する方法が記載されている。生成物は次いで、排風型(air−exhausting)二芯(dual−arbor)押出機中で脱気される。従って、二軸ミキサーおよび二芯押出機は、重合反応により重合樹脂を得るために使用されるのであって、ポリマーを溶解して紡績ドープを得るために使用されるのではない。
WO96/34732には単軸混練機を使用することが記載されている。該単軸混練機中でポリマー材料を融解して脱気する。しかし該ポリマー材料はこれを単軸混練機に投入可能とするために、ポリマーの添加に先立って、溶媒(硫酸)を別個の溶解ユニットに加えて予め溶解されていなければならない。このような単軸混練機は、本発明の目的であるアラミドポリマーの溶解には適さない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述したような不利益がない方法を提供することを目的とする。この目的のために、新規な方法が開発された。従って本発明は、二軸混練機を用いてアラミドポリマーを硫酸に溶解する方法に関する。該工程は下記の工程を含む:
a)ポリマーと溶媒とを混練機中に供給する工程;
b)溶液を得るために、ポリマーと溶媒とを混合してポリマーを溶媒中に溶解する工程;
c)上記溶液を脱気して紡績ドープを得る工程;
d)上記紡績ドープを混練機の外部へ移送する工程;
ただし、上記ポリマーはアラミドポリマーであり、上記溶媒は硫酸であり、そしてアラミドポリマーは、硫酸の混練機中への供給よりも先に混練機中に供給される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】二軸混練機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
固体状のポリマーの混練機中への供給は、ロータリーバルブにより行うことが好ましい。このことは、生成する紡績ドープの脱気に有用な真空下において混練機を運転できるというさらなる利点を有する。
本発明で使用されるような二軸混練機は、あらゆるアラミドポリマー(コポリマーも含む)を硫酸中に溶解するために好適である。最も好ましくはTDC(テレフタロイルジクロリド)およびPPD(パラ−フェニレンジアミン)から製造されるポリマーおよびコポリマーであるが、DAPBI(5−(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)−ベンズイミダゾール)、Cl−TDC(2−クロロテレフタロイルジクロリド)、NDC(ナフチロイルジクロリド)およびCl−PPD(2−クロロ−p−フェニレンジアミン)の如きモノマーをさらに含むモノマー混合物から製造されるコポリマーも同様に使用することができる。これらおよびその他のポリマーおよびコポリマーは、当業界でよく知られている。
【0008】
本発明を図1に図示した。
本発明の一態様によると、図示されているPPTAの如きアラミドポリマーは、混練機の第一の部分1中に供給され、移送手段2に送られる。次いでポリマーは、ロータリーバルブ3を通って混練機中に導入される。硫酸は、バルブ3の後方に位置するインレット4を通って混練機中に注入される。ポリマーおよび硫酸をこの順番で混練機中へ導入することにより、PPTAと硫酸との混合の結果物たる大きな塊に起因する、PPTA(または一般にアラミドポリマー)によるインレットの閉塞および封鎖の危険が回避される。混練機中に、先ずPPTAを、次いで硫酸を導入することにより、混合および溶解プロセスが同時に起こるのである。従来技術に対する二軸混練機の利点は、必要な滞留時間で十分なプラグ流を与えて不規則流れを打ち消し、強力な混合力を供給し、同時にバレルを清浄にすることである。二軸混練機(双腕混練機とも呼ばれる)は同方向に回転する2本のシャフトを有し、該2本のシャフトは清浄化および混練機能の双方を担う。一本が回転速度の高い清浄化機能のためのシャフトであり、もう一本が回転速度の低い混練機能のためのシャフトである、同方向に回転する2本のシャフトを使用することも可能である。混合中の熱の散逸およびポリマーの溶解から発生するエネルギーは、全プロセスをほぼ断熱的に行うために十分である。アラミドポリマーを硫酸に溶解した後、混練機6の部分5において真空ポンプ7または真空を得られる他の手段を用いることにより、得られた溶液を減圧下で脱気することができる。
【0009】
アラミドポリマーはロータリーバルブ3によって供給されるので、二軸混練機内で溶解したポリマーを低圧で(例えば絶対圧40mbarにおいて)脱気することができる。脱気後の溶液は紡績ドープとして使用することができる。脱気後の溶液は、混練機6から特定の所定圧で排出手段8により移送することができる。排出手段8は、図では吐出スクリューとして描かれている。
本発明の溶解方法は、180分未満で行われることが好ましい。本方法は、さらに多くの場合には45〜120分間、通常は45〜60分間で行われる。
【0010】
本方法では、低濃度を採用するときまたはコポリマーを使用するときに相当量の規格外物質が発生する原因となる固溶体の段階が存在しないので、アラミドポリマーを任意の濃度で溶解することができる。
本方法では、溶液中にナノチューブの如きナノパーティクルを使用することができる。かかる紡績ドープを得るためには、アラミドポリマーをナノパーティクルと混合した後に硫酸と混合するか、あるいはその代わりにアラミドポリマーの硫酸溶液をナノパーティクルと混合する。
さらに、溶解プロセスに用いる二軸混練装置は二軸押出機または他の公知のルートで必要な他の装置よりも安価である。エネルギー消費量も、従来技術における方法より少ない。
【実施例】
【0011】
本発明につき、以下の非限定的な実施例によりさらに説明する。
【0012】
通則
アラミドポリマーの供給は、二軸混練機の第一の部分の始端部において行った(図1:4)。溶液の脱気のために二軸混練機は40mbarの圧力で運転されるので、ロータリーバルブを使用した。
アラミドポリマーの供給は、ロス・イン・ウエイト式(重量式)によって行った。溶解装置は溶解時間(60分)と等しいバッファ容量を持つので、供給システムが高い精度を持つ必要はない。
硫酸の供給は、二軸混練機の第一の部分の終端部において行った(図1:5)。40mbarの圧力で運転されている二軸混練機内への導入を可能とするため、硫酸はプレッシャーバルブを通して混練機内に導入した。液体状の硫酸の供給は、ギアポンプまたは3ヘッドのプランジャーポンプで行った。硫酸の流量は、ポンプの周波数のバックワード制御と連動したコリオリ管を用いて測定し、硫酸の正確な供給を可能とした。バッファ容量のため、供給システムは高い精度を持つ必要はない。
【0013】
PPTAの硫酸中への溶解
PPTAの硫酸中への溶解は、プロセスの損耗に耐える材料から製造された二軸混練機中で行った。
実施例1
ηrel5.01のPPTA x重量%を二軸混練機中へ供給し、硫酸100−x重量%を二軸混練機中へ注入した。この硫酸の純度は99.8%であった。混練機のスピードは約32rpm及び約25.6rpmであった。脱気のための真空は40mbar(絶対圧)に設定した。排出押出圧は4barであった。溶解能力は30kg/hであった。溶解プロセスの温度は85℃であった。異なる濃度及びηrelの以下の紡績ドープを調製した。
【0014】
【表1】

【0015】
分解がごくわずかであるため、相対粘度の低下はほんの少しである。
【0016】
実施例2
PPDと、5モル%のNDC(ナフチロイルジクロリド)を含有するTDC/NDC混合物とから調製した、ηrel=5.84のコポリマー19.5重量%を二軸混練機中へ供給した。硫酸81.5重量%を能力28.2kg/hの二軸混練機中へ注入した。混練機のスピードは約52/42rpmであり、脱気のための真空は40〜100mbar(絶対圧)であった。排出押出圧は4barであった。紡績ドープは4.06〜4.33のηrelを有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む、二軸混練機を用いてアラミドポリマーを硫酸に溶解する方法:
a)ポリマーと溶媒とを混練機中に供給する工程;
b)溶液を得るために、ポリマーと溶媒とを混合してポリマーを溶媒中に溶解する工程;
c)上記溶液を脱気して紡績ドープを得る工程;
d)上記紡績ドープを混練機の外部へ移送する工程、
ただし、上記ポリマーはアラミドポリマーであり、上記溶媒は硫酸であり、そしてアラミドポリマーは、硫酸の混練機中への供給よりも先に混練機中に供給される。
【請求項2】
アラミドポリマーがロータリーバルブを用いて混練機中に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アラミドポリマーが、少なくともTDCおよびPPDを含有するモノマー混合物から得られたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アラミドポリマーがPPTAである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
二軸混練機中におけるアラミドポリマーの滞留時間が180分未満、好ましくは45〜120分、より好ましくは45〜60分である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アラミドポリマーをナノパーティクルと混合した後に硫酸と混合するか、あるいはアラミドポリマーの硫酸溶液をナノパーティクルと混合する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−518187(P2010−518187A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547595(P2009−547595)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000712
【国際公開番号】WO2008/095632
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】