説明

二酸化硫黄ガスを燃料とする発電・水素製造装置

【課題】外部からの電力供給が容易でない地域でも、二酸化硫黄ガスを発電・水素製造のための燃料として利用可能とする。
【解決手段】二酸化硫黄ガスを利用する水電解水素発生器10と、水素を利用する燃料電池12を具備し、前記水電解水素発生器では亜硫酸水の電気分解反応により水素と硫酸を発生し、前記水電解水素発生器で発生した水素を前記燃料電池で利用して水と電力を発生し、前記燃料電池で発生した電力を前記水電解水素発生器における電気分解に使用するように両者を組み合わせ、余剰に発生する水素及び/又は電力を外部に取り出すようにした二酸化硫黄ガスを燃料とする発電・水素製造装置である。水電解水素発生器には水素タンク24を、燃料電池に充電装置30を付設することで、余剰に発生する電力と水素を内部で貯蔵可能にすると共に、必要に応じて余剰の電力及び/又は水素を外部に供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化硫黄ガスを燃料として、電力を発生したり、あるいは水素を製造することができる装置に関し、更に詳しく述べると、二酸化硫黄ガスを利用する水電解水素発生器と、水素を利用する燃料電池とを組み合わせた発電・水素製造装置に関するものである。この技術は、例えば、高地や離島などのような電力供給が困難な場所において、火山から発生する二酸化硫黄を利用して発電したり水素を製造するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
水素製造技術の一つとして、二酸化硫黄ガスを利用する水電解水素発生器の研究開発が進められている(非特許文献1参照)。これは、二酸化硫黄ガスを水に溶解させて得られる亜硫酸水の電気分解による水素製造技術であり、その理論電解電圧は0.17V程度である。そのため、通常の水(理論電解電圧は約1.23V)よりも大幅に低い電圧で水素が発生可能となる利点がある。しかし、この場合でも、電気分解用の電力は外部から供給しなければならない。このため、従来技術では、燃料である二酸化硫黄ガスと水に加え、外部から電力を供給するシステムを必要とし、利用分野が限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「二酸化硫黄ガスを利用した水電解水素製造装置の開発」中桐俊男他、日本原子力学会和文論文誌、Vol.7,No.1,p.58-65 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、外部からの電力供給が容易でない地域でも、二酸化硫黄ガスを燃料として利用し、二酸化硫黄ガスと水で効率よく発電・水素製造が行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、二酸化硫黄ガスを利用する水電解水素発生器と、水素を利用する燃料電池を具備し、前記水電解水素発生器では亜硫酸水の電気分解反応により水素と硫酸を発生し、前記水電解水素発生器で発生した水素を前記燃料電池で利用して水と電力を発生し、前記燃料電池で発生した電力を前記水電解水素発生器における電気分解に使用するように両者を組み合わせ、余剰に発生する水素及び/又は電力を外部に取り出すようにしたことを特徴とする二酸化硫黄ガスを燃料とする発電・水素製造装置である。なお、水素を利用する燃料電池としては、例えば固体高分子型、固体酸化物型、溶融炭酸塩型、リン酸型等を用いることができる。
【0006】
ここで、水電解水素発生器には、該水電解水素発生器で発生した水素を貯留する水素タンクを付設し、燃料電池には、該燃料電池で発生した電力を蓄電する充電装置を付設し、余剰に発生する電力と水素を内部で貯蔵可能にすると共に、必要に応じて余剰の電力及び/又は水素を外部に供給可能とすることが好ましい。
【0007】
水電解水素発生器は、例えば、その内部に固体高分子膜と、該固体高分子膜を挟むように位置する陽極及び陰極を具備する構造とし、前記水電解水素発生器の陰極側にはガス分離器、陽極側にはガス吸収器を設置し、それらガス分離器とガス吸収器が接続される。水タンクからの水を、水電解水素発生器の陰極側に供給して電気分解により発生する不純物を洗浄・溶解し、水素ガス及び不純物を含む水は、ガス分離器を通すことで水素ガスを分離すると共に固体不純物を除去し、水素ガス及び固体不純物が除去された水をガス吸収器に送り、外部からの二酸化硫黄ガスもガス吸収器に送って、二酸化硫黄が溶解した水を水電解水素発生器の陽極側に供給するように構成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る二酸化硫黄ガスを燃料とする発電・水素製造装置は、二酸化硫黄ガスを利用する低消費電力の水電解水素発生器と、水素を利用する燃料電池を組み合わせた構成なので、基本的に外部からの電力供給無しに、燃料である二酸化硫黄ガスと水のみを供給することで発電し、水素を製造することが可能である。このため本発明によれば、製鉄所や火山等で大量に発生しているにもかかわらず未利用の二酸化硫黄ガスを、発電あるいは水素製造のための燃料として利用することができる。そのため、特に高地や離島等、電力供給が容易でない地域であっても、火山から発生する二酸化硫黄を利用してエネルギー供給を行うことが可能となる。
【0009】
また、水電解水素発生器に、該水電解水素発生器で発生した水素を貯留する水素タンクを付設し、燃料電池には、該燃料電池で発生した電力を蓄電する充電装置を付設すると、余剰に発生する電力・水素は、それぞれ充電装置・水素タンクに貯蔵し、必要に応じて外部に取出すことが可能となる。更に、発電のために固体酸化物型等の高温作動型燃料電池を使用する場合には発生する余熱も利用可能である。
【0010】
水タンクからの水を水電解水素発生器の陰極側に供給すると、電気分解により発生する不純物(二酸化硫黄の陽極側からのクロスオーバーにより発生する硫化水素ガス、固体硫黄他)を洗浄・溶解することができ、これによって陰極側での不純物の蓄積による電解性能の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る発電・水素製造装置の一実施例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る発電・水素製造装置は、基本的には、二酸化硫黄ガスを利用する水電解水素発生器と、水素を利用する燃料電池との組み合わせから構成される。水電解水素発生器では、二酸化硫黄ガスを水に溶解させて得られる亜硫酸水の電気分解が行われ、[1]式の電気分解反応によって水素と硫酸を発生する。
SO2 +2H2 O→H2 SO4 +H2 …[1] (理論電解電圧:0.17V)
なお、現状技術での実用電圧は概ね約0.5V前後であるが、更に低減の可能性があり、この種の水電解水素発生器は低消費電力で運転できる。
【0013】
燃料電池では、水電解水素発生器で発生した水素を利用して、[2]式により水を発生すると共に電力を発生する。燃料電池としては、例えば固体高分子型、固体酸化物型、溶融炭酸塩型、リン酸型等が利用可能である。
2 +1/2O2 →H2 O …[2] (理論電解電圧:1.23V)
現状の実用電圧は約1.0Vである。この燃料電池で発生した電力は、前記水電解水素発生器における亜硫酸水の電気分解に使用する。
【0014】
このようにして発生する水素又は電力は、燃料電池の原料として必要な水素、あるいは水電解水素発生器の運転に必要な電力よりも過剰となることから、余剰に発生する水素又は電力を、あるいはそれらの両方を任意の比率で、外部に取り出すことができる。
【実施例】
【0015】
本発明に係る発電・水素製造装置の一実施例を図1に示す。本装置は、二酸化硫黄ガスを利用して電気分解反応によって水素と硫酸を発生する水電解水素発生器10と、水素を燃料とする燃料電池12を組合せることで、二酸化硫黄ガスと水のみを原料として発電・水素製造を可能とするものである。
【0016】
水電解水素発生器10は、固体高分子膜(陽イオン交換膜)14と、該固体高分子膜14を挟むように配置した陽極16及び陰極18から構成される。ここでは、陽極側に二酸化硫黄ガスと水を供給し、二酸化硫黄ガスを水に溶解させて得られる亜硫酸水を、供給する電力で電気分解を行うことで、陽極側で硫酸を生じ、陰極側で水素が発生する。
【0017】
燃料電池12は、水素を燃料とするものであり、例えば固体高分子型、固体酸化物型、溶融炭酸塩型、リン酸型等であってよい。燃料電池では、水素と酸素が反応して水を発生すると共に電力を発生する。
【0018】
水電解水素発生器10の陰極側にはガス分離器20が、陽極側にはガス吸収器24が設置され、それらガス分離器20とガス吸収器22が水の流路を形成するように配管接続されている。燃料となる二酸化硫黄ガスは、ガス吸収器22から供給する。ここでは、ガス分離器20と燃料電池12を配管接続し、その途中から分岐するように水素タンク24を設けている。また、燃料電池12と水電解水素発生器10の陰極側との間に水タンク26を設置し配管で接続する。電気系統としては、燃料電池12と水電解水素発生器10との間に充電装置30と電源装置32を設ける。
【0019】
外部からの水は水タンク26に供給する。水タンク26からの水は、水電解水素発生器10の上方から陰極側に供給し、それによって電気分解により発生する不純物(二酸化硫黄の陽極側からのクロスオーバーにより発生する硫化水素ガス、固体硫黄他)を洗浄・溶解する。これにより、陰極側での不純物の蓄積による電解性能の低下を防止できる。水電解水素発生器10の下方から取り出される水素ガス及び不純物を含む水は、ガス分離器20を通すことで水素ガスが分離されると共に固体不純物(固体硫黄など)も除去される。水(硫化水素等が溶解している)はガス吸収器22に送られる。
【0020】
外部から供給される二酸化硫黄ガスは、ガス吸収器22で水に溶解し、水と共に水電解水素発生器10の陽極側に供給される。ここで、陽極側に供給する二酸化硫黄ガスは、水に完全に溶解している必要はない。水電解水素発生器10の運転温度は、性能低下を生じない範囲で任意に設定可能である。
【0021】
水電解水素発生器10の陽極側に供給された亜硫酸水(二酸化硫黄ガスと水)は、電源装置32から供給する直流電力で電気分解を行うことで、陽極側で硫酸を生じ、陰極側で水素が発生する。陽極側で発生した硫酸は外部に排出させる。
【0022】
陰極側で発生した水素、不純物と水は、前記のように、ガス分離器20で水素と水など(溶解している硫化水素、混合している固体硫黄等を含む)に分離される。分離された水素は、水素タンク24に貯留され、必要に応じて外部に供給する。また、ガス分離器20では、固体不純物も除去される。水素タンク24に貯留した水素は、装置の起動時にも利用可能である。水素タンク24には、必要に応じ燃料電池12で使用する触媒の劣化を防止するための硫黄除去機能を持たせることもできる。
【0023】
燃料電池12においては、発電に必要な水素は水素タンク24から供給し、酸素は大気から供給する。発生した電力は充電装置30に蓄電し、発生した水は水タンク26に貯留する。特に、燃料電池として高温で作動する固体酸化物型を使用すれば、発生する余熱も利用可能となる。
【0024】
水タンク26は、燃料電池12で発生した水を貯留すると共に、必要に応じて外部から供給する水を貯留する機能を果たす。充電装置30は燃料電池12で発生する電力を蓄電するものであり、それによって水電解水素発生器10用の電源装置32に電力を供給すると共に、外部に電力を供給することが可能である。なお、本装置の運転開始時には外部電力により充電しておいた電力を水電解水素発生器10に供給することもできる。
【0025】
本発明では、二酸化硫黄ガスを燃料とする低消費電力の水電解水素発生器10を用いていることから、該水電解水素発生器10で発生する水素をすべて燃料電池12で消費する場合には余剰の電力が発生する。燃料電池12で発生する電力をすべて水電解水素発生器10で消費する場合には余剰の水素が発生する。本実施例のように、水電解水素発生器10及び燃料電池12に加えて、水素タンク24、充電装置30を組み合わせることで、余剰に発生する水素と電力を水素タンク24及び充電装置30に貯蔵することができる。このようにして、本装置に外部から二酸化硫黄ガスと水を供給することで、水素または電力をそれぞれ水素タンクまたは充電装置を経由して外部に取出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、火山や製鉄所などで大量に発生しているにもかかわらず未利用の二酸化硫黄ガスを発電・水素製造のための燃料として利用可能となる。そのため、前述したように、特に火山からの二酸化硫黄ガスを利用することで、離島や高地など、電力供給が容易でない地域でのエネルギー供給に極めて有用な技術と言える。
【符号の説明】
【0027】
10 水電解水素発生器
12 燃料電池
20 ガス分離器
22 ガス吸収器
24 水素タンク
30 充電装置
32 電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化硫黄ガスを利用する水電解水素発生器と、水素を利用する燃料電池を具備し、前記水電解水素発生器では亜硫酸水の電気分解反応により水素と硫酸を発生し、前記水電解水素発生器で発生した水素を前記燃料電池で利用して水と電力を発生し、前記燃料電池で発生した電力を前記水電解水素発生器における電気分解に使用するように両者を組み合わせ、余剰に発生する水素及び/又は電力を外部に取り出すようにしたことを特徴とする二酸化硫黄ガスを燃料とする発電・水素製造装置。
【請求項2】
水電解水素発生器には、該水電解水素発生器で発生した水素を貯留する水素タンクを付設し、燃料電池には、該燃料電池で発生した電力を蓄電する充電装置を付設して、余剰に発生する電力と水素を内部で貯蔵可能にすると共に、必要に応じて余剰の電力及び/又は水素を外部に供給可能とした請求項1記載の二酸化硫黄ガスを燃料とする発電・水素製造装置。
【請求項3】
水電解水素発生器は、その内部に固体高分子膜と、該固体高分子膜を挟むように位置する陽極及び陰極を具備する構造であり、前記水電解水素発生器の陰極側にはガス分離器、陽極側にはガス吸収器が設置され、それらガス分離器とガス吸収器が接続されており、水タンクからの水を、水電解水素発生器の陰極側に供給して電気分解により発生する不純物を洗浄・溶解し、水素ガス及び不純物を含む水は、ガス分離器を通すことで水素ガスを分離すると共に固体不純物を除去し、水素ガス及び固体不純物が除去された水をガス吸収器に送り、外部からの二酸化硫黄ガスもガス吸収器に送って、二酸化硫黄が溶解した水を水電解水素発生器の陽極側に供給する請求項2記載の二酸化硫黄ガスを燃料とする発電・水素製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−208182(P2011−208182A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74590(P2010−74590)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】