説明

亜鉛メッキスチールコードとゴムとの接着方法およびその接着方法を使用したコンベヤベルト

【課題】本発明の目的は、亜鉛メッキスチールコードとの耐湿接着性と初期接着性に優れるゴム組成物を用いた、亜鉛メッキスチールコードとゴムとの接着方法を提供することである。
【解決手段】硫黄加硫可能なゴム100重量部に対して、ロジンまたはロジン誘導体を3〜15重量部と、有機コバルト塩をコバルト量として0.2〜1.0重量部と、有機塩素化合物を3〜50重量部とを含有するゴム組成物と、亜鉛メッキスチールコードとを接着することを特徴とする亜鉛メッキスチールコードとゴムとの接着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛メッキされた金属材料との接着性に優れたゴム組成物を用いた亜鉛メッキスチールコードとゴムとの接着方法、および、該接着方法を用いたコンベヤベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛メッキスチールコードはゴム組成物の補強材料として使用され、ブラスメッキスチールコード等と比較して防錆性に優れるため、特に耐水性(耐湿性)の要求される多湿環境下、例えば坑内で用いられるスチールコードコンベヤベルトの補強材料等として使用されており、ゴム組成物と種々の方法で接着されてきた。
両者を接着する方法としては、例えば、特許文献1には、ゴム組成物にレゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂、硫黄、有機酸コバルト塩などを配合して、亜鉛メッキスチールコードとの接着性を向上させる方法が記載されている。しかし、この方法では、亜鉛メッキスチールコードに対するゴム組成物の耐水接着性が十分ではないという問題があり、接着性の信頼性確保のための点検、補修等のメンテナンスのコストや手間がかかるという問題があった。
【0003】
一方、ゴム組成物にロジン酸誘導体樹脂とコバルト塩を配合して、亜鉛メッキスチールコードとの接着性を向上させる方法が、特許文献2に記載されている。
しかし、この方法では、亜鉛メッキスチールコードとゴム組成物を加硫接合した直後の接着性(以下、初期接着性と記す)が十分ではないという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−70138号公報
【特許文献2】特開昭56−32530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、亜鉛メッキスチールコードとの耐湿接着性と初期接着性に優れるゴム組成物を用いた、亜鉛メッキスチールコードとゴムとの接着方法、および、該接着方法を用いて製造されるスチールコードコンベヤベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、硫黄加硫可能なゴム100重量部に対して、ロジンまたはロジン誘導体を3〜15重量部と、有機コバルト塩をコバルト量として0.2〜1.0重量部と、有機塩素化合物を3〜50重量部とを含有するゴム組成物と、亜鉛メッキスチールコードとを接着することを特徴とする亜鉛メッキスチールコードとゴムとの接着方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、カバーゴム層間に、コートゴム層で被覆されたスチールコードを芯体として配設されたコンベヤベルトであって、前記コートゴム層が、
硫黄加硫可能なゴム100重量部に対して、
ロジンまたはロジン誘導体を3〜15重量部と、
有機コバルト塩をコバルト量として0.2〜1.0重量部と、
有機塩素化合物を3〜50重量部と
を含有するゴム組成物であるコンベヤベルトを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の接着方法は、特定の化合物を特定量配合したゴム組成物を用いて、亜鉛メッキスチールコードとの接着を行うので、従来の亜鉛メッキスチールコードとゴム組成物の接着方法では得られなかった、優れた耐湿(耐水)接着性、初期接着性を有するゴム組成物と亜鉛メッキスチールコードとの複合体を得ることができる。従って、本発明の接着方法を用いて製造されたスチールコードコンベヤベルト等は、長期に渡り高い信頼性を有し、メンテナンスのコストや手間が削減される。
また、このような接着方法を用いて得られる本発明のスチールコードコンベヤベルトは、耐久性、耐水性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の亜鉛メッキスチールコードとゴムの接着方法(以下、本発明の接着方法と記す)は、亜鉛メッキスチールコードとの接着性に優れるゴム組成物として、硫黄加硫可能なゴムに、ロジンまたはロジン誘導体と、有機コバルト塩と、有機塩素化合物とを含有するゴム組成物(以下、本発明のゴム組成物とも記す)を用いることを特徴とする。
【0010】
本発明には、ゴムとして、硫黄加硫可能なゴムを用いる。加硫の際に、硫黄以外、例えば、パーオキサイドなどで加硫されるゴムを用いると、後述する亜鉛メッキスチールコードとの接着性が向上しないため好ましくない。
本発明で使用する硫黄加硫可能なゴムは、硫黄を用いて加硫できるゴムであれば特に限定されず、天然ゴムであっても、合成ゴムであってもよい。また、これらの混合物であってもよい。
具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)などを、単独あるいは混合して使用することができる。
【0011】
本発明に用いるロジンとは、松脂とも言われる天然樹脂の1種であり、ロジン誘導体としては、松材から溶剤等で抽出されるウッドロジンや、トール油ロジン、水素添加ロジンおよびその加工品等が挙げられる。本発明では、ロジン誘導体としてロジンエステル類は粘着性付与に劣るので用いない。
本発明のゴム組成物中のロジンまたはロジン誘導体の含有量は、前記硫黄加硫可能なゴム100重量部に対し、3〜15重量部とする。3重量部未満では、ゴム組成物と亜鉛メッキスチールコードとの耐湿接着性が十分ではなく、15重量部超では、ゴム組成物の加硫が遅くなり、実用的な加硫速度が得られないからである。特に、耐湿接着性、実用的な加硫速度を両立させる観点から、ロジンまたはロジン誘導体の含有量は、5〜10重量部であるのが好ましい。
本発明のゴム組成物は、ロジンまたはロジン誘導体を含有するため、亜鉛メッキスチールコードとの耐湿接着性に優れるという特性を有する。また、ロジンやロジン誘導体は、一般的に、粘着付与剤として使用されており、ロジンまたはロジン誘導体を含有することにより、本発明のゴム組成物は、未加硫時のゴム組成物の生地の粘着性、加工性が良好である。
【0012】
本発明に用いる有機コバルト塩は、一般的に液相酸化触媒として使用されるもので、対応する有機酸のアルカリセッケン水溶液に酢酸コバルト溶液を加え複分解沈殿させる方法、有機酸と酸化コバルト(II)とを加熱融解させる方法、あるいは有機酸のベンジン溶液に硫酸コバルトまたは硝酸コバルトの水溶液を加える方法などにより得られる。
本発明に用いる有機コバルト塩としては、具体的には、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、オルトホウ酸コバルト、オクチル酸コバルト、あるいはコバルトボロン錯体などを挙げることができる。これらの中でも、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、コバルトボロン錯体などを使用することが高接着性が得られることから好ましい。
有機コバルト塩の含有量は、前記硫黄加硫可能なゴム100重量部に対してコバルト量として0.2〜1.0重量部とする。添加量が0.2重量部未満では、亜鉛メッキスチールコードとの耐湿接着性および初期接着性が悪化し、1.0重量部超では、ゴム組成物の耐老化性が悪化するためである。
特に、耐湿接着性および初期接着性とゴム物性を両立させる観点から、有機コバルト塩の含有量は0.3〜0.7重量部であることが好ましい。
【0013】
本発明に用いる有機塩素化合物は、一般的に塩素系難燃剤として使用される有機塩素化合物が利用可能であるが、本発明では、これらの中でも、直鎖の有機塩素化合物を用いる。このような化合物として、例えば、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。これらの化合物は、市販品を利用することができ、例えば、塩素化パラフィンでは、塩素含有量40%、45%、50%、65%、70%のものが市販されており、何れも利用可能である。
有機塩素化合物の含有量は、前記硫黄加硫可能なゴム100重量部に対して、3〜50重量部とする。3重量部未満では、接着が安定せず、50重量部超では、ゴム組成物の粘着性が過多となり加工が困難となる。
特に、接着性、加工性を両立させる観点から、有機塩素化合物の含有量は、3〜30重量部であることが好ましい。
本発明のゴム組成物は、有機塩素化合物を含有することにより、接着性、特に初期接着性が良好となる。さらに、有機塩素化合物は難燃性を付与するため、上記範囲の量で有機塩素化合物を含有する本発明のゴム組成物は難燃性に優れる。このため、後述する、本発明の接着方法を用いて製造されるスチールコードコンベヤベルトは、坑内等で用いられるスチールコードコンベヤベルトに要求される難燃性を十分に満足している。
難燃化効果を重視する場合、塩素含有量の多いものを用いるのが好ましく、加工性を重視する場合には、塩素含有量の少ないものを用いるのが好ましい。
【0014】
本発明の接着方法に用いられるゴム組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記必須の成分に加え、フェノール樹脂、カルボキシル基含有液状イソプレンゴム(溶液重合法によって作られるイソプレン重合体ゴムにカルボキシル基を導入したもの)等を含んでもよい。
また、この他に、カーボンブラックなどの充填剤;亜鉛華、ステアリン酸等の加硫促進助剤;ジベンゾチアジル・ジスルフィドなどの加硫促進剤;アミン系、フェノール系あるいはワックス系などの老化防止剤;硫黄;植物油系あるいは鉱物油系などの軟化剤;などの通常用いられる配合剤を含むことができる。
【0015】
本発明の接着方法に用いられるゴム組成物は、以下のようにして製造する。
上述した硫黄加硫可能なゴム100重量部に、ロジンまたはロジン誘導体を3〜15重量部、有機酸コバルト塩をコバルト量として0.2〜1.0重量部、有機塩素化合物を3〜50重量部、硫黄を所定量配合し、さらに上記の充填剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤などを適宜選択して所定量添加し、ロールミルあるいはバンバリミキサーなどを用いて、所定の温度で所定の時間混練し、ゴム組成物を得る。
【0016】
本発明の接着方法に用いられるゴム組成物は、以下に説明する亜鉛メッキスチールコードと密着させて、所定の温度で所定の時間硫黄加硫することにより、ゴムと亜鉛メッキスチールコードとの複合体とすることができる。
【0017】
本発明の接着方法で上述のゴム組成物と接着させるスチールコードとしては、表面無処理のスチールコードに亜鉛メッキしたものを使用する。メッキ法としては、電気メッキ、溶融メッキ等が可能である。
スチールコードにはブラスメッキされたものもあるが、使用環境の管理が困難で耐久性を要求されるコンベヤベルトなどに用いられるスチールコードとして、防錆性、耐久性の観点から、亜鉛メッキされたものを用いる。
亜鉛メッキスチールコードの素線径やコード径などは、本発明のゴム組成物と接着して複合体とした際のそれらの用途に応じて適宜選択する。
【0018】
本発明の接着方法では、本発明のゴム組成物を、亜鉛メッキスチールコードに所定の厚さで密着させ、150℃で30時間、一括加硫を行い、本発明のゴム組成物と亜鉛メッキスチールコードとの複合体とする。
本発明の接着方法は、亜鉛メッキスチールコードとの接着であり、亜鉛メッキスチールコードを補強材として用いるものに利用可能であり、また、スチールコードに限らず、亜鉛メッキされた金属材料に利用可能である。
【0019】
本発明の接着方法は、上記構成をとるので、従来の亜鉛メッキスチールコードとゴムの接着方法に比較して、耐湿接着性が大幅に改善され、また、初期接着性も良好である。
このため、スチールコードコンベヤベルトのように多湿環境下で使用されるものに本発明の接着方法を利用すると、極めて長期の信頼性が得られ、点検、補修等のメンテナンスコスト、手間が削減できるという効果をもたらす。
このような本発明の接着方法は、スチールコードコンベヤベルトの製造に好適に用いられるが、この他にも、ホース、クローラベルト、マリンホース、タイヤ等の製造に好適に用いることができる。
【0020】
次に、本発明の接着方法を用いて製造されるスチールコードコンベヤベルトについて説明する。
第1図は本発明のスチールコードコンベヤベルト(以下、本発明のコンベヤベルトと記す)の一部断面斜視図である。
コンベヤベルト1の表面層はカバーゴム層6、2層により構成され、カバーゴム層6の2層間に芯体として亜鉛メッキスチールコード2を配設したコートゴム層4がある。
本発明のコンベヤベルト1は、コートゴム層4に配設されるスチールコード2とコートゴム層4をなす本発明のゴム組成物とを本発明の接着方法を用いて接着したことに特徴がある。
コートゴム層4には、本発明のゴム組成物を所望の形状に成形した後、亜鉛めっきスチールコード2を芯体として配設し、加硫する。ゴム組成物と亜鉛めっきスチールコード2表面が強固に接合し、コートゴム層4となる。コートゴム層4は亜鉛めっきスチールコード2とカバーゴム6との接着層となり、また、亜鉛めっきスチールコード2に対する緩衝材ともなる。
カバーゴム層6には、コンベヤベルト1の用途に応じて、耐熱性、耐油性、耐磨耗性、あるいは、耐候性に優れる成分を含有するゴム組成物を用いればよい。
本発明のスチールコードコンベヤベルトは、以上の構成をとるので、耐水性、亜鉛メッキスチールコードとの接着性、耐久性に優れ、長期の信頼性を有する。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜4、比較例1〜7)
下記表1に示す化合物を表に示す量で配合し、バンバリミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を得た。
【0022】
実施例、比較例で得られたゴム組成物と、亜鉛メッキスチールコードとを以下の方法で加硫接着し、試験片を作製し、下記の方法で、初期接着性と耐水接着性を測定評価した。
(1)試験片の作製
実施例、比較例で得られたゴム組成物と、接着するスチールコードとして、デシケータ中に保管して防塵防湿処理を施してある直径4.1mmの亜鉛メッキスチールコードを使用した。
このスチールコード上に、上記の実施例、および、比較例の各ゴム組成物を15mmの厚さに密着させて、上記各ゴム組成物とスチールコードとの複合体とし、150℃で30分間、加圧加硫を行い、試験片を作製した。
【0023】
(2)初期接着性
初期接着性は、(1)で作製した各試験片からスチールコードを引き抜き、引き抜き力(kN/m)およびゴム被覆率(%)で評価した。引き抜き試験はDIN22131に準拠した。
ゴム被覆率(%)は、スチールコードの表面積に対する引き抜き後のスチールコード表面に残存するゴムの被覆面積の割合(%)として算出した。
結果を表1に示す。
【0024】
(3)耐水接着性
(1)の製造方法で密着させて加硫した各試験片のゴム表面のスチールコードが突出している箇所を蜜ロウでシールし、温度50℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽内で28日間放置した。
その後、各試験片からスチールコードを引き抜き、引き抜き力(kN/m)およびゴム被覆率(%)で耐水接着性を評価した。引き抜き試験は、DIN22131に準拠して行った。
結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表1に示す化合物は、以下の通りである。
天然ゴム(NR) :TSR 20
合成ゴム(SBR):NIPOL 1502(日本ゼオン社製)
充填剤 :HAFカーボンブラック
加硫促進助剤 :亜鉛華3号
ステアリン酸
加硫促進剤(ジベンゾチアジル・ジスルフィド):
ノクセラーDM−PO(大内新興化学社製)
老化防止剤 :ノンフレックスOD−3(精工化学社製)
加硫剤 :硫黄
ロジン誘導体 :ウッドロジン(荒川化学工業社製)
トール油ロジン(播磨化成工業社製)
水素添加ロジン(Hercules社製)
有機コバルト塩 :ナフテン酸コバルト(コバルト含有量10%、
大日本インキ社製)
有機塩素化合物 :塩素化パラフィン(塩素含有量70%、味の素社製)
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のスチールコードコンベヤベルトの断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 スチールコードコンベヤベルト
2 亜鉛メッキスチールコード
4 コートゴム層
6 カバーゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄加硫可能なゴム100重量部に対して、
ロジンまたはロジン誘導体を3〜15重量部と、
有機コバルト塩をコバルト量として0.2〜1.0重量部と、
有機塩素化合物を3〜50重量部と
を含有するゴム組成物と、亜鉛メッキスチールコードとを接着することを特徴とする亜鉛メッキスチールコードとゴムとの接着方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−312744(P2006−312744A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145366(P2006−145366)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【分割の表示】特願平9−177258の分割
【原出願日】平成9年7月2日(1997.7.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】