説明

交流スイッチ回路

【課題】汎用のパワーモジュールを用いて交流スイッチを構成し、スナバ回路により吸収したエネルギーを電源側または負荷側に回生可能であって小型かつ安価な交流スイッチ回路を提供する。
【解決手段】半導体スイッチング素子を少なくとも2個、順方向に直列接続したスイッチングレグSLと、ダイオードを少なくとも2個、順方向に直列接続したダイオードレグDLと、スナバコンデンサを少なくとも2個、直列接続したコンデンサレグCLと、を並列に接続し、スイッチングレグSL内の内部接続点とダイオードレグDL内の内部接続点とを交流スイッチの入出力端子606,607とし、ダイオードレグDL内の内部接続点とコンデンサレグCL内の内部接続点との間に抵抗604を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双方向に電流を通流可能な交流スイッチとこの交流スイッチに付属するスナバ回路とを備えた交流スイッチ回路に関し、特に、大型のエネルギーバッファを用いずに交流電力を直接、交流電力に変換する交流交流直接変換器に適用して好適な交流スイッチ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は、この種の直接変換器の代表例であるマトリクスコンバータを周辺回路と共に示したものであり、後述する特許文献1に記載された従来技術と実質的に同一のものである。
図7において、マトリクスコンバータ100は、出力側の相数(図7では三相)と同数の相モジュール100U,100V,100Wを有し、例えばU相モジュール100Uは、入力側の相数と同数であって両方向に電流を通流可能な交流スイッチ101R,101S,101Tを備え、これらの各一端を電源側の入力フィルタ300に接続すると共に各他端を一括して負荷400側に接続した構成となっている。
【0003】
このマトリクスコンバータ100は、上記交流スイッチのスイッチング動作により、三相交流電源200から供給された三相交流電圧を所望の振幅及び周波数の三相交流電圧に変換して負荷400へ供給する。図7において、R,S,Tは交流入力端子、U,V,Wは交流出力端子を示す。
【0004】
なお、スイッチングに伴う高周波電流が電源200側に流れるのを防止するため、電源200とマトリクスコンバータ100との間には入力フィルタ300が接続されている。
また、通流時に配線のインダクタンスに蓄積されたエネルギーは、交流スイッチのオフ時にサージ電圧として交流スイッチの両端に現れ、これを破壊するおそれがあるため、例えば交流スイッチ101R,101S,101Tの両端には、上記エネルギー吸収用にスナバ回路102R,102S,102Tがそれぞれ接続されている。
なお、103は、交流スイッチ及びスナバ回路からなる交流スイッチモジュールを示している。
上述したU相モジュール100Uの回路構成は、他のV相モジュール100V,W相モジュール100Wについても同様である。
【0005】
更に、各スナバ回路102R,102S,102Tに設けられた正極端子P及び負極端子Nは全ての相モジュール間で共通接続され、正極端子P0及び負極端子N0として自動電圧調整器500に接続されている。そして、この自動電圧調整器500の交流側端子R1,S1,T1は、電源200側の交流入力端子R,S,Tに接続されている。
【0006】
ここで、図8は、特許文献1に開示されている交流スイッチ及びスナバ回路であり、図7における交流スイッチモジュール103に相当する回路構成を示している。
図8において、交流スイッチは、それぞれ逆直列接続された二個のIGBT111a,111bとダイオード112a,112bとからなり、これらの逆直列回路の中点間にはサージ電圧吸収用のスナバコンデンサ113が接続されている。このスナバコンデンサ113の両端は前記正極端子P及び負極端子Nとなっており、自動電圧調整器500の正極端子P0及び負極端子N0にそれぞれ接続されている。自動電圧調整器500は、スナバコンデンサ113の電圧が大きく上昇したときに動作し、コンデンサ113の電圧を一定に保つように動作するものである。
【0007】
図9は、自動電圧調整器500の構成例であり、501は前記交流側端子R1,S1,T1に各一端が接続される抵抗、502は回生コンバータ、503は前記正極端子P0及び負極端子N0に両端が接続される電圧クランプ用のコンデンサである。
図8に示したスナバコンデンサ113の電圧は図9のコンデンサ503によりクランプされ、このコンデンサ503に蓄積されたサージ分のエネルギーは回生コンバータ502のスイッチング動作により、抵抗501を介して電源200へ回生される。なお、コンデンサ503の電圧検出回路を含む回生コンバータ502の制御回路は、図示を省略してある。
【0008】
また、図9に示したような回生コンバータ502を用いずに、スナバコンデンサ113またはコンデンサ503の両端に放電用抵抗や放電用チョッパを設けてサージ分のエネルギーを消費する方式も知られている。
【0009】
【特許文献1】特開平11−262264号公報(段落[0010]〜[0012]、図1,図2(b),図3等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図8に示したような従来の交流スイッチモジュールでは、半導体スイッチング素子としてIGBTを逆直列に接続しているため、汎用のパワーモジュールを使用することができない。
また、スナバコンデンサのエネルギーを回生するために、回生コンバータ502を有する自動電圧調整器500が必要であり、これらがコスト上昇や大型化の要因となっている。
更に、放電用抵抗や放電用チョッパを用いる場合には、スナバ回路に蓄えたエネルギーを回生できないため、損失が増加し、効率の低下や装置の大型化等の問題が生じる。
【0011】
そこで本発明の解決課題は、汎用のパワーモジュールを用いて交流スイッチを構成すると共に、スナバ回路により吸収したエネルギーを上記交流スイッチを利用して電源側または負荷側に回生可能とした、小型かつ安価な交流スイッチ回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、双方向に電流を通流可能とした交流スイッチとスナバ回路とを備えた交流スイッチ回路において、
半導体スイッチング素子を少なくとも2個、順方向に直列接続したスイッチングレグと、
ダイオードを少なくとも2個、順方向に直列接続したダイオードレグと、
スナバコンデンサを少なくとも2個、直列接続したコンデンサレグと、を並列に接続し、
前記スイッチングレグ内の前記スイッチング素子同士の接続点と前記ダイオードレグ内の前記ダイオード同士の接続点とを交流スイッチの入出力端子とし、
前記ダイオードレグ内の前記ダイオード同士の接続点と前記コンデンサレグ内の前記スナバコンデンサ同士の接続点との間に抵抗を接続したものである。
【0013】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した交流スイッチ回路において、
出力電流の極性または入力電圧の極性に応じて前記スイッチング素子をオンオフすることにより、前記スナバコンデンサに蓄積されたエネルギーを入力側または出力側に回生するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少なくとも2個の半導体スイッチング素子が順方向に接続された汎用モジュールを用いて交流スイッチを構成することができる。
また、スナバ回路の構成も簡単であると共に、回生コンバータ等を用いずに前記交流スイッチを構成するスイッチング素子のオンオフによってスナバ回路のエネルギーを電源側または負荷側に回生できるので、構成の簡略化、小型化、低価格化及び高効率化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示す交流スイッチモジュール600の回路図である。図1において、SLはスイッチングレグ、CLはコンデンサレグ、DLはダイオードレグであり、これら三つのレグSL,CL,DLは全て並列に接続されている。
【0016】
まず、スイッチングレグSLにおいて、601a,601bは、環流ダイオード602a,602bが内蔵されたIGBT等の半導体スイッチング素子であり、これらのスイッチング素子601a,601bは順方向に直列接続されている。上記スイッチング素子601a,601b及び環流ダイオード602a,602bは、汎用の2in1モジュールとして一モジュールに実装されており、安価に入手可能なものである。
【0017】
コンデンサレグCLは二個のスナバコンデンサ(以下、単にコンデンサともいう)603a,603bを直列に接続して構成され、ダイオードレグDLは二個のダイオード605a,605bを順方向に直列接続して構成されている。
なお、ダイオード605a,605bを流れる電流方向はスイッチング素子601a,601bを流れる電流方向と一致している。
更に、コンデンサレグCLの中点(コンデンサ603a,603b同士の接続点)とダイオードレグDLの中点(ダイオード605a,605b同士の接続点)との間には、抵抗604が接続されている。
【0018】
上記のように構成された交流スイッチモジュール600は、スイッチングレグSLの中点に接続された端子606とダイオードレグDLの中点に接続された端子607とを、モジュール600の入出力端子として使用される。
【0019】
次に、図2はこの実施形態の動作説明図である。
この交流スイッチモジュール600を例えばマトリクスコンバータ等の直接変換器に使用する場合には交流電圧源に接続されることになるが、ここでは動作説明を簡略化するため、図2に示すように交流スイッチモジュール600の入出力端子606,607が負荷703を介して直流電源701に接続される場合について説明する。なお、図2において、702は配線インダクタンスである。
【0020】
図2において、電流が交流スイッチモジュール600を介して電源701から負荷703に向かって流れるとき、この電流はオン状態のスイッチング素子601b及びダイオード605bを通って流れる(経路i)。このとき、スイッチング素子601bをオフにすると、配線インダクタンス702に蓄積されたエネルギーは、環流ダイオード602a及びダイオード605bを介してコンデンサ603a,603bに吸収される(経路i)。
【0021】
次に、スイッチング素子601aをオンすることにより、コンデンサ603aが抵抗604を介して放電する(経路i)ことにより、コンデンサ603aに蓄積されたエネルギーが電源701側に回生される。また、コンデンサ603bに蓄積されたエネルギーは、スイッチング素子601bが再びオンしたときに、コンデンサ603bが抵抗604を介して放電することにより負荷703側に回生されることになる。
【0022】
次に、図3は本発明の第2実施形態を示す回路図であり、図1の交流スイッチモジュールを2個用いて交流チョッパを構成した例である。
図2において、620,640は前記交流スイッチモジュール600と同一構成の交流スイッチモジュールであり、621a,621b,641a,641bは半導体スイッチング素子、622a,622b,642a,642bは環流ダイオード、623a,623b,643a,643bはスナバコンデンサ、624,644は抵抗、625a,625b,645a,645bはダイオード、626,627,646,647は端子、710は交流電源(電圧をvとし、矢印を正方向とする)、720は誘導性負荷(負荷電流をiとし、矢印を正方向とする)である。
【0023】
図4は、図3におけるスイッチング素子621a,621b,641a,641bのスイッチングパターンである。
本実施形態では、誘導性負荷720の還流経路の確保、及び、電源710の短絡防止、スナバコンデンサ623a,623b,643a,643bの短絡防止の観点から、下記(1)〜(5)のようなスイッチングの制約すなわち禁止条件がある。
【0024】
・禁止条件
(1)スイッチング素子621a,621bの同時オン、及び、スイッチング素子641a,641bの同時オン
(2)v<0のときにスイッチング素子621a,641bの同時オン
(3)v>0のときにスイッチング素子621b,641aの同時オン
(4)i<0のときにスイッチング素子621a,641aの同時オフ
(5)i>0のときにスイッチング素子621b,641bの同時オフ
【0025】
これらの禁止条件を考慮して、例えば負荷電流(出力電流)iの方向に応じてスイッチングパターンを決定すると、図4のようになる。
すなわち、電流iの方向が正の時は、スイッチング素子621b,641bの間でスイッチングを行い、電流iの方向が負の時は、同621a,641aの間でスイッチングを行う。これらのスイッチングを行う際には、誘導性負荷720の還流経路を確保するために、図示するごとく2個のスイッチング素子が同時にオンとなるようなオーバーラップタイムを設ける。
図4に示すスイッチングパターンにより、図3におけるコンデンサ、例えばコンデンサ623aは、負荷電流iの極性が反転するたびに放電されることになる。
【0026】
次いで、図5はスイッチング素子621a,621b,641a,641bに対するゲートパルス発生回路の構成図であり、図4に示したスイッチングパターンを発生させるためのものである。
PWM指令を否定回路801に入力して反転信号を生成し、元のPWM指令と反転信号とをそれぞれオフディレイ付加手段802,803に入力することにより、図4に示す如くオフ時間を遅らせたパルスを生成してセレクタ805に入力する。一方、電流極性判別手段804により負荷電流iの方向を判別し、その判別結果に基づいて、前記セレクタ805により各スイッチング素子621a,621b,641a,641bに対するゲートパルスを分配すれば良い。
【0027】
図6は、本発明の第3実施形態を説明するためのものであり、図4と同様にスイッチング素子621a,621b,641a,641bのスイッチングパターンのみを示してある。
図4の例において、スナバコンデンサは負荷電流iの極性が反転しないと放電されないため、コンデンサ容量が増加する。そこで、本実施形態では、電源電圧(入力電圧)の極性に応じて、スナバコンデンサのエネルギーを回生可能な状態であれば、当該交流スイッチモジュール内の所定のスイッチング素子をオンする放電パルスをスイッチングパターンに挿入することとした。
【0028】
以下では、図3の交流スイッチモジュール620内のコンデンサ623a,623bを例にとり、これらの放電パターンを図6に基づいて説明する。
図3におけるスイッチング素子641bがオンしている期間は、電源電圧vが正であれば、スイッチング素子621aをオンしても電源短絡が発生しないことに着目し、図6に示すように、スイッチング素子641bがオンしている期間内でスイッチング素子621aをオンし、スナバコンデンサ623aを放電させてエネルギーを電源710側に回生する。
【0029】
電源電圧vが負のときは、スイッチング素子641aがオンしている期間に同621bをオンしても電源短絡が発生しないことに着目し、図6に示すように、スイッチング素子641aがオンしている期間内で同621bをオンし、スナバコンデンサ623bを放電させてエネルギーを負荷720側に回生する。
この結果、スイッチング毎にコンデンサの電圧を放電させて回生動作を行うことができ、負荷電流の極性に依存して回生動作を行わせる場合に比べてコンデンサ容量を低減することができる。
なお、上記の放電パターンは、他方の交流スイッチモジュール640内のコンデンサ643a,643bについても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態を示す回路図である。
【図2】第1実施形態の動作説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す構成図である。
【図4】図3におけるスイッチング素子のスイッチングパターンを示す図である。
【図5】図4に示したスイッチングパターンを発生させるためのゲートパルス発生回路の構成図である。
【図6】本発明の第3実施形態におけるスイッチング素子のスイッチングパターンを示す図である。
【図7】特許文献1に記載されたマトリクスコンバータ及び周辺回路の構成図である。
【図8】特許文献1に記載された交流スイッチ及びスナバ回路の回路図である。
【図9】特許文献1に記載された自動電圧調整器の回路図である。
【符号の説明】
【0031】
SL:スイッチングレグ
CL:コンデンサレグ
DL:ダイオードレグ
600,620,640:交流スイッチモジュール
601a,601b,621a,621b,641a,641b:半導体スイッチング素子
602a,602b,622a,622b,642a,642b:環流ダイオード
603a,603b,623a,623b,643a,643b:スナバコンデンサ
604,624,644:抵抗
605a,605b,625a,625b,645a,645b:ダイオード
606,607,626,627,646,647:端子
701:直流電源
702:配線インダクタンス
703:負荷
710:交流電源
720:誘導性負荷
801:否定回路
802,803:オフディレイ付加手段
804:電流極性判別手段
805:セレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
双方向に電流を通流可能とした交流スイッチとスナバ回路とを備えた交流スイッチ回路において、
半導体スイッチング素子を少なくとも2個、順方向に直列接続したスイッチングレグと、
ダイオードを少なくとも2個、順方向に直列接続したダイオードレグと、
スナバコンデンサを少なくとも2個、直列接続したコンデンサレグと、を並列に接続し、
前記スイッチングレグ内の前記スイッチング素子同士の接続点と前記ダイオードレグ内の前記ダイオード同士の接続点とを交流スイッチの入出力端子とし、
前記ダイオードレグ内の前記ダイオード同士の接続点と前記コンデンサレグ内の前記スナバコンデンサ同士の接続点との間に抵抗を接続したことを特徴とする交流スイッチ回路。
【請求項2】
請求項1に記載した交流スイッチ回路において、
出力電流の極性または入力電圧の極性に応じて前記スイッチング素子をオンオフすることにより、前記スナバコンデンサに蓄積されたエネルギーを入力側または出力側に回生することを特徴とする交流スイッチ回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−252029(P2007−252029A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69015(P2006−69015)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】