説明

交通情報算出装置、交通システム及びコンピュータプログラム

【課題】 渋滞長の計測に使用する機器の数を節減して、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる交通情報算出装置等を提供する。
【解決手段】 交通情報算出装置1の演算部101は、ステップS03において、記憶部に記憶している複数のアップリンク情報に基づいて、選定リンクの旅行時間c[秒]を算出する。演算部101は、ステップS04において、記憶部に記憶している複数の感知器情報に基づいて、選定リンクの単位時間内交通量b[台/秒]を算出する。演算部101は、ステップS05において、算出した旅行時間c、算出した単位時間内交通量b、記憶部に記憶している選定リンクの渋滞長内車両密度a、区間長d、非渋滞部旅行速度eに基づいて、渋滞内存在台数X[台]、渋滞長Y[m]、渋滞部旅行時間Z[秒]を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路上の特定の区間における渋滞長を算出する交通情報算出装置と、この交通情報算出装置を含む交通システム、及び渋滞長の算出を当該装置に実行させるためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
交差点間の道路区間(リンク)における渋滞長は、交通信号制御機による信号制御や車載装置による目的地までの経路探索などにおいて、最も重要な指標の一つである。従来、渋滞長は、リンクに沿って多くの超音波式車両感知器などの車両感知器を設置し、これらから得られる交通流量、占有率などの計測データを用いて求めていた。具体的には、まず、各車両感知器において、交通流量と占有率から速度を算出し、所定の関係式を用いてこの速度から待行列波及度を求める。そして、横軸に交差点からの距離、縦軸に待行列波及度をとり、各車両感知器における交差点からの距離と待行列波及度の点をプロットして、これらの点を線で結ぶ。このとき、結んだ線と待行列波及度が0.5の線が交わる点を求め、この交点における交差点からの距離を渋滞長とする(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山口盛兄、他4名、「旅行時間予測方式と実験」、道路交通研究会資料、電気学会、1992年9月24日、RTA-92-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この従来の渋滞長の算出方法では、渋滞長の精度が車両感知器の設置密度に依存し、高い精度を得るにはリンクに多くの車両感知器を設置する必要があるため、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用などが大きくなるという問題点があった。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、渋滞長の計測に使用する機器の数を節減して、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる交通情報算出装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の交通情報算出装置は、道路上の特定の区間における渋滞長を算出する交通情報算出装置であって、前記区間の一部又は全部において渋滞が生じている場合の当該渋滞部分における車両密度である渋滞長内車両密度aを取得する手段と、前記区間における単位時間内の交通量である単位時間内交通量bを取得する手段と、前記区間を車両が走行するのに要する時間である旅行時間cを取得する手段と、前記区間の長さである区間長dを取得する手段と、前記区間の一部又は全部において渋滞が生じていない場合の当該非渋滞部分を車両が走行するときの速度である非渋滞部旅行速度eを取得する手段と、取得した渋滞長内車両密度aと、単位時間内交通量bと、旅行時間cと、区間長dと、非渋滞部旅行速度eとに基づいて、前記区間の渋滞長を算出する算出手段とを備える(請求項1)。
【0007】
例えば、前記区間の上流端と下流端のそれぞれの近傍に光ビーコンなどの路上通信装置を設置し、車両からそれぞれの路上通信装置に対して送信された当該車両を識別するための車両識別情報を含むアップリンク情報を収集し、同一の車両識別情報を含むアップリンク情報の受信時刻の差分から前記区間を車両が走行するのに要する時間である旅行時間cを算出する。この旅行時間cと、前記区間の一部又は全部において渋滞が生じている場合の当該渋滞部分における車両密度である渋滞長内車両密度a、前記区間における単位時間内の交通量である単位時間内交通量b、前記区間の長さである区間長d、前記区間の一部又は全部において渋滞が生じていない場合の当該非渋滞部分を車両が走行するときの速度である非渋滞部旅行速度eを用いて、前記区間の渋滞長を算出すれば、前記区間に設置する機器は1台(渋滞長を算出する区間が連続している場合、下流側の区間の上流端の近傍に機器を設置せずとも、上流側の区間の下流端の近傍に設置した機器を利用できる)又は2台で済むので、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる。
【0008】
ここで、渋滞長内車両密度a、単位時間内交通量b、非渋滞部旅行速度eについては、予め設定した値を取得しても良いし、算出した値を取得しても良い。第1発明により算出する渋滞長は0以上の値をとり、「0」も含む。「0」も含むのは、渋滞長が「0」、すなわち、渋滞が発生していないという結果も、交通信号制御機による信号制御や車載装置による目的地までの経路探索にとっては重要となるからである。そのため、非渋滞部旅行速度eの定義は、上記のとおり「前記区間の一部又は全部において渋滞が生じていない場合の当該非渋滞部分を車両が走行するときの速度」となっており、「全部」も含むようになっている。
【0009】
なお、前記区間の旅行時間cについては、当該区間の上流端と下流端のそれぞれの近傍に設置した光ビーコンなどの路上通信装置に対して車両から送信された、当該車両を識別するための車両識別情報を含むアップリンク情報を利用して取得することに限定されない。例えば、前記区間の上流端と下流端のそれぞれの近傍にナンバープレート読取装置を設置し、この装置で読み取った車番とその車番を読み取った時刻を利用して、当該区間の旅行時間cを取得することができる。この場合、前記区間に設置するナンバープレート読取装置は上述の路上通信装置の場合と同様に1台又は2台で済むので、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる。また、随時位置を計測して時刻とともに蓄積することができる車載装置から、蓄積した位置と時刻の情報を含む走行軌跡情報を取得し、前記区間を経由する走行軌跡情報を利用して、当該区間の旅行時間cを取得することもできる。この場合も、車載装置から走行軌跡情報を取得できる路上通信装置を前記区間に1台または複数の区間に1台設置するだけで済むので、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる。
【0010】
前記算出手段は、Y=b(c・e−d)/(a・e−b)により、渋滞長Yを算出しても良い(請求項2)。
【0011】
前記旅行時間cは、前記区間の両端それぞれの近傍に設置された路上通信装置に対して車両から送信された当該車両を識別するための車両識別情報を含むアップリンク情報に基づいて算出されていても良い(請求項3)。
【0012】
この場合、前記区間に設置する路上通信装置は1台(渋滞長の算出対象の区間が連続している場合、下流側の区間の渋滞長を算出するに際して、下流側の区間の上流端の近傍に路上通信装置を設置せずとも、上流側の区間の下流端の近傍に設置した路上通信装置を利用できる)又は2台で済むので、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる。
【0013】
第2発明の交通システムは、道路上の特定の区間の上流端の近傍に設置された路上通信装置である上流側路上通信装置と、当該区間の下流端の近傍に設置された路上通信装置である下流側路上通信装置と、当該区間における渋滞長を算出する交通情報算出装置とを備える交通システムであって、前記上流側路上通信装置及び前記下流側路上通信装置は、車両から当該車両を識別するための車両識別情報を含むアップリンク情報を受信する手段と、受信したアップリンク情報を前記交通情報算出装置に送信する手段とを備え、前記交通情報算出装置は、前記上流側路上通信装置から送信されたアップリンク情報である上流側アップリンク情報を受信する手段と、前記下流側路上通信装置から送信されたアップリンク情報である下流側アップリンク情報を受信する手段と、前記上流側アップリンク情報に含まれる車両識別情報と前記下流側アップリンク情報に含まれる車両識別情報とが一致する場合に、当該上流側アップリンク情報を受信した時刻と当該下流側アップリンク情報を受信した時刻との差分から前記区間を車両が走行するのに要する時間である旅行時間cを算出する手段と、前記区間において渋滞が生じている場合の当該渋滞部分における車両密度である渋滞長内車両密度aを取得する手段と、前記区間における単位時間内の交通量である単位時間内交通量bを取得する手段と、前記区間の長さである区間長dを取得する手段と、前記区間において渋滞が生じていない場合の当該区間を車両が走行するときの速度である非渋滞部旅行速度eを取得する手段と、前記渋滞長内車両密度aと、前記単位時間内交通量bと、前記旅行時間cと、前記区間長dと、前記非渋滞部旅行速度eとに基づいて、前記区間の渋滞長を算出する算出手段とを備える(請求項4)。
【0014】
第2発明によれば、前記区間の上流端と下流端のそれぞれの近傍に光ビーコンなどの路上通信装置を設置し、車両からそれぞれの路上通信装置に対して送信された当該車両を識別するための車両識別情報を含むアップリンク情報を収集し、同一の車両識別情報を含むアップリンク情報の受信時刻の差分から前記区間を車両が走行するのに要する時間である旅行時間cを算出する。この旅行時間cと、前記区間の一部又は全部において渋滞が生じている場合の当該渋滞部分における車両密度である渋滞長内車両密度a、前記区間における単位時間内の交通量である単位時間内交通量b、前記区間の長さである区間長d、前記区間の一部又は全部において渋滞が生じていない場合の当該非渋滞部分を車両が走行するときの速度である非渋滞部旅行速度eを用いて、前記区間の渋滞長を算出すれば、前記区間に設置する路上通信装置は2台で済むので、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる。なお、渋滞長を算出する区間が連続している場合、下流側の区間の上流端の近傍に路上通信装置を設置せずとも、上流側の区間の下流端の近傍に設置した路上通信装置を利用できるので、当該下流側の区間では、設置する路上通信装置は1台で済むので、さらに設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約することができる。
【0015】
第3発明のコンピュータプログラムは、道路上の特定の区間における渋滞長を算出する交通情報算出装置に実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記区間の一部又は全部において渋滞が生じている場合の当該渋滞部分における車両密度である渋滞長内車両密度aを取得するステップと、前記区間における単位時間内の交通量である単位時間内交通量bを取得するステップと、前記区間を車両が走行するのに要する時間である旅行時間cを取得するステップと、前記区間の長さである区間長dをステップする手段と、前記区間の一部又は全部において渋滞が生じていない場合の当該非渋滞部分を車両が走行するときの速度である非渋滞部旅行速度eを取得するステップと、取得した渋滞長内車両密度aと、単位時間内交通量bと、旅行時間cと、区間長dと、非渋滞部旅行速度eとに基づいて、前記区間の渋滞長を算出するステップとを含む(請求項5)。
【0016】
第3発明のコンピュータプログラムは、第1発明と実質同一のコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、渋滞長の計測に使用する機器の数を節減して、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る交通情報算出装置を含む交通システムの概要を示す模式図である。
【図2】交通情報算出装置の構成を示すブロック図である。
【図3】渋滞情報算出処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態において、図1は、本発明に係る交通情報算出装置を含む交通システムの概要を示す模式図である。
【0020】
〔システムの全体構成〕
交通システムは、交通情報算出装置1、路上通信装置2、交通信号制御機3、信号灯器4、車載装置5、車両6などを含む。交通情報算出装置1は、交通管制センター内に設置されている。路上通信装置2は、複数の交差点(図1では、交差点IS1、交差点IS2)それぞれから流出する複数のリンク(図1では、リンクLO1、リンクLO2、リンクLO3、リンクLO4、リンクLO5、リンクLO6、リンクLO7、リンクLO8)それぞれの上流端の近傍の地点に設置されており、交通情報算出装置1と電話回線などの通信回線を介して接続されている。ここで、リンクとは、交差点間の道路区間であって、方向を持つものをいう。図1では、リンクLO2とリンクLO6に設置されている路上通信装置2のみが図示されているが、他のリンクLO1などにも路上通信装置2は設置されている。交通信号制御機3は、複数の交差点それぞれに設置されており、交通情報算出装置1と電話回線などの通信回線を介して接続されている。信号灯器4は、複数の交差点それぞれから流出する複数のリンクそれぞれの上流端の近傍の地点に設置されており、交通信号制御機3と電力線を介して接続されている。
【0021】
路上通信装置2は、例えば光ビーコンであり、車両6に搭載された車載装置5との間で各種情報の無線通信を行うとともに、直下を通過する車両6を感知するヘッド2aと、ヘッド2aを制御する制御機2bとを含んでいる。
【0022】
路上通信装置2は、車両6が路上通信装置2のヘッド2aの通信エリアを通過する際に、車両6を識別するための車両ID(車両識別情報)を含むアップリンク情報を車載装置5から受信するとともに、後述するダウンリンク情報を車載装置5に送信する。路上通信装置2は、車両IDを含むアップリンク情報を受信すると、そのアップリンク情報に自己を識別するための路上通信装置ID(路上通信装置識別情報)を追加して、交通情報算出装置1に送信する。
【0023】
また、路上通信装置2は、車両6がヘッド2aの感知エリアに進入すると、その台数を計測し、所定の周期(例えば、1秒)ごとに累積台数と自己を識別するための路上通信装置IDとを含む感知器情報を交通情報算出装置1に送信する。
【0024】
交通情報算出装置1は、アップリンク情報を受信すると、そのアップリンク情報に当該情報の受信時刻を追加して、記憶部に記憶する。また、交通情報算出装置1は、感知器情報を受信すると、その感知器情報に当該情報の受信時刻を追加して、記憶部に記憶する。
【0025】
交通情報算出装置1は、所定の周期(例えば、5分)ごとに渋滞情報算出処理、交通量情報算出処理、信号制御パラメータ算出処理、ダウンリンク情報作成処理を実行する。
【0026】
渋滞情報算出処理は、記憶部に記憶したアップリンク情報などに基づいて、それぞれのリンクの旅行時間と渋滞長とを算出する処理であり、詳細は後述する。
【0027】
交通量情報算出処理は、記憶部に記憶した感知器情報に基づいて、それぞれのリンクの交通量を算出する処理である。
【0028】
信号制御パラメータ算出処理は、算出した各リンクの旅行時間、渋滞長、交通量に基づいて、それぞれの交差点のサイクル長(信号表示が一巡する期間)、スプリット(サイクル長に占める各現示の時間比率)、オフセット(隣接する交差点間の信号表示開始時刻の時間差)などを含む信号制御パラメータを算出する処理である。
【0029】
ダウンリンク情報作成処理は、算出した各リンクの旅行時間、渋滞長の情報、別途取得した各リンクの通行規制の情報などから、ダウンリンク情報を作成する処理である。
【0030】
交通情報算出装置1は、作成したダウンリンク情報を、各リンクに設置された路上通信装置2に送信する。また、交通情報算出装置1は、算出した各交差点の信号制御パラメータの情報を、当該交差点に設置された交通信号制御機3に送信する。
【0031】
交通信号制御機3は、信号制御パラメータの情報を受信し、この情報に基づいて自己に接続している信号灯器4を制御する。
【0032】
〔交通情報算出装置〕
図2は交通情報算出装置の構成を示すブロック図である。交通情報算出装置1は、演算部101、記憶部102、送受信部103などを備える。
【0033】
演算部101は、1又は複数のコンピュータから構成されており、装置全体の制御を行う。また、演算部101は、渋滞情報算出処理、交通量情報算出処理、信号制御パラメータ算出処理、ダウンリンク情報作成処理などの各種の演算処理を行う。これらの各処理は、CD−ROMやハードディスクなどの所定の記憶媒体に記録されたコンピュータプログラムを、演算部101のコンピュータが実行することにより行われる。
【0034】
記憶部102は、演算部101による各種の演算処理の結果や、送受信部103が受信したアップリンク情報、感知器情報などの各種情報などを記憶する。
【0035】
また、記憶部102は、それぞれのリンクごとに予め値が設定された、当該リンクの上流端の近傍に設置された路上通信装置2と当該リンクの下流端の近傍に設置された路上通信装置2(同時に、当該リンクの下流リンクの上流端の近傍に設置された路上通信装置2でもある)との距離である区間長d[m]、当該リンクの一部又は全部において渋滞が生じている場合の渋滞部分における車両密度である渋滞長内車両密度a[台/m]、前記区間の一部又は全部において渋滞が生じていない場合の非渋滞部分を車両が走行するときの速度である非渋滞部旅行速度e[m/秒]などの情報を記憶している。区間長d[m]は、路上通信装置2がリンクの上流端と下流端のそれぞれの近傍に設置されている場合には、当該リンクの長さを表しているものと近似できる。例えば、渋滞長内車両密度aとしては、0.1[台/m]などの値を設定することができ、非渋滞部旅行速度eとしては、1[m/秒]などの値を設定することができる。
【0036】
送受信部103は、路上通信装置2からアップリンク情報、感知器情報などを受信する。また、送受信部103は、ダウンリンク情報を各リンクに設置された路上通信装置2に、信号制御パラメータの情報を各交差点に設置された交通信号制御機3に送信する。
【0037】
〔渋滞情報算出処理〕
図3は、渋滞情報算出処理の手順を示すフローチャートである。演算部101は、所定の周期(例えば、5分)毎に、以下の渋滞情報算出処理を行う。
【0038】
演算部101は、ステップS01において、交通情報算出装置1が管轄するエリアにおけるすべてのリンクの中に、ステップS02以降の処理を行っていないリンクがあるか否かを判定する。演算部101は、未処理のリンクがあれば(ステップS01においてYES)、ステップS02以降の処理を行い、未処理のリンクがなければ(ステップS01においてNO)、渋滞情報算出処理を終了する。
【0039】
演算部101は、ステップS02において、交通情報算出装置1が管轄するエリアにおけるすべてのリンクの中から、ステップS03以降の処理を行っていないリンクを1つ選定する(ステップS02で選定したリンクを以下「選定リンク」という)。
【0040】
演算部101は、ステップS03において、記憶部102に記憶している複数のアップリンク情報に基づいて、選定リンクを車両が走行するのに要する時間である旅行時間c[秒]を算出する。
具体的には、まず、演算部101は、記憶部102に記憶している複数のアップリンク情報の中から、選定リンクの下流端の近傍に設置された路上通信装置2(同時に、選定リンクの下流リンクの上流端の近傍に設置された路上通信装置2でもある。図1の場合、選定リンクがRO2であれば、下流リンクであるRO6の上流端の近傍に設置された路上通信装置2)の路上通信装置IDを含み、かつ、受信時刻が過去1周内となっているアップリンク情報(以下、「下流側アップリンク情報」)を抽出する。
次に、演算部101は、記憶部102に記憶している複数のアップリンク情報の中から、選定リンクの上流端の近傍に設置された路上通信装置2(図1の場合、選定リンクのRO2の上流端の近傍に設置された路上通信装置2)の路上通信装置IDを含み、かつ、抽出した下流側アップリンク情報に含まれる車両IDと同じ車両IDを含み、かつ、抽出した下流側アップリンク情報に含まれる受信時刻よりも前の受信時刻を含むアップリンク情報(以下、「上流側アップリンク情報」)を抽出する。
そして、演算部101は、同じ車両IDを含む上流側アップリンク情報と下流側アップリンク情報の組み合わせそれぞれについて、上流側アップリンク情報に含まれる受信時刻と下流側アップリンク情報に含まれる受信時刻との差分を求め、これらの平均値を求めて選択リンクの旅行時間cとする。
【0041】
算出した旅行時間cは、厳密には選択リンクの上流端の近傍に設置した路上通信装置2から当該選択リンクの下流端の近傍に設置した路上通信装置2までの区間を車両が走行するのに要する時間を表しているが、路上通信装置2が選択リンクの上流端と下流端のそれぞれの近傍に設置されている場合には、選択リンクを車両が走行するのに要する時間を表しているものと近似できる。
【0042】
演算部101は、ステップS04において、記憶部102に記憶している、選定リンクに設置された路上通信装置2における複数の感知器情報に基づいて、選定リンクの単位時間内交通量b[台/秒]を算出する。
具体的には、まず、演算部101は、記憶部102に記憶している複数の感知器情報の中から、選定リンクに設置された路上通信装置2(図1の場合、選定リンクのRO2に設置された路上通信装置2)の路上通信装置IDを含み、かつ、受信時刻が過去1周期(5分)内となっている感知器情報を抽出する。
次に、演算部101は、抽出した感知器情報のうちで、受信時刻が最も早い感知器情報と受信時刻が最も遅い感知器情報とを選定し、これらの感知器情報に含まれる累積台数の差分を、受信時刻の差分で除して、選択リンクにおける単位時間内の交通量である単位時間内交通量bとする。
【0043】
演算部101は、ステップS05において、ステップS03で算出した旅行時間c、ステップS04で算出した単位時間内交通量b、記憶部102に記憶している選定リンクの渋滞長内車両密度a、区間長d、非渋滞部旅行速度eに基づいて、式(1)、式(2)、式(3)により渋滞内存在台数X[台]、渋滞長Y[m]、渋滞部旅行時間Z[秒]を算出する。
【0044】
【数1】

【0045】
ここで、上述の式(1)〜式(3)の導き方を以下に説明する。
まず、渋滞内存在台数X[台]は、渋滞長Y[m]を渋滞長内車両密度a[台/m]で除したものであるから、X、Y、aには下記の式(4)が成立する。
【0046】
【数2】

【0047】
次に、渋滞部旅行時間Z[秒]は、渋滞内存在台数X[台]を単位時間内交通量b[台/秒]で除したものであるから、Z、X、bには下記の式(5)が成立する。
【0048】
【数3】

【0049】
さらに、旅行時間c[秒]は、渋滞部旅行時間Z[秒]と非渋滞部旅行時間とを加えたものであり、非渋滞部旅行時間は非渋滞部の長さ(すなわち、区間長d[m]から渋滞長Y[m]を減じたもの)を非渋滞部旅行速度e[m/秒]で除したものであるから、c、Z、d、Yには下記の式(6)が成立する。
【0050】
【数4】

【0051】
これらの式(4)〜式(6)を整理し、X、Y、Zをa、b、c、d、eで表すと、式(1)〜式(3)を導くことができる。
【0052】
なお、式(1)、式(2)、式(3)により算出した渋滞内存在台数X[台]、渋滞長Y[m]、渋滞部旅行時間Z[秒]は、厳密には選択リンクの下流端の近傍に設置した路上通信装置2(同時に、選択リンクの下流リンクの上流端の近傍に設置した路上通信装置2でもある)を起点として上流に延びる渋滞部分における渋滞内存在台数、渋滞長、渋滞部旅行時間を表しているが、当該路上通信装置2が選択リンクの下流端、すなわち交差点に近いため、交差点を起点として上流に延びる渋滞部分における渋滞内存在台数、渋滞長、渋滞部旅行時間を表しているものと近似できる。
【0053】
以上のように、本発明に係る交通情報算出装置1によれば、リンクに多くの超音波式車両感知器等の車両感知器を設置しなくても、リンクに1台(渋滞長の算出対象のリンクが連続している場合、下流側のリンクの渋滞長を算出するに際して、下流側のリンクの上流端の近傍に機器を設置せずとも、上流側の区間の下流端の近傍に設置した機器を利用できる)又は2台の路上通信装置2を設置すれば、当該リンクの上流端の近傍に設置した路上通信装置2と下流端の近傍に設置した路上通信装置2の間の旅行時間を用いて、当該リンクの渋滞長を精度良く求めることができるので、リンクに多くの車両感知器を設置する場合に比べて設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約することができる。
【0054】
上述の実施形態においては、それぞれのリンクにおける非渋滞部旅行速度e[km/h]は予め設定した値を用いていたが、これに限られない。それぞれのリンクにおいて、渋滞情報算出処理のステップS05で算出した渋滞長が0[m]であるときに、そのリンクにおける区間長dを同処理のステップS03で算出した旅行時間cで除して求めた速度[km/h]を用いても良い。
【0055】
また、上述の実施形態において、交通情報算出装置1は1つの筐体によって実現されていても良いし、複数の筐体の組み合わせによって実現されていても良い。また、交通情報算出装置1は、交通管制センター内に設置されず、路上に設置されていても良い。
【0056】
また、上述の実施形態において、路上通信装置2は光ビーコンであったが、これに限定されることはなく、車載装置5から車両IDを含むアップリンク情報を受信できる同様の装置であれば、いかなるものであっても良い。
【0057】
また、上述の実施形態において、渋滞長内車両密度aとして、予め設定した値を用いていたが、これに限定されることはなく、算出した値を用いても良い。例えば、リンク上に設置したカメラにより当該リンクに渋滞が発生しているときの車両の待ち行列を撮像し、撮像した画像に含まれる待ち行列の全部又は一部(カメラの撮像範囲は数十m程度であるため、渋滞が発生しているときの待ち行列を全部撮像することができない場合があり、このときはカメラの撮像範囲に含まれる待ち行列の一部を用いる)の長さとこの待ち行列の全部又は一部に含まれる車両の台数を求め、前者の長さを後者の台数で除して渋滞長内車両密度aを算出することができる。この場合、渋滞長を算出するリンクにカメラが設置されていない場合であっても、いずれかのリンクにカメラが設置されていれば、この設置されたリンクにおいて算出した渋滞長内車両密度aを、前記の渋滞長を算出するリンクにそのまま適用しても良い。
【0058】
また、上述の実施形態において、非渋滞部旅行速度eとして、予め設定した値を用いていたが、これに限定されることはなく、算出した値を用いても良い。例えば、リンク上に設置した速度センサにより当該リンクに渋滞が発生していないときの車両の速度を求め、この速度を非渋滞部旅行速度eとすることができる。この場合、渋滞長を算出するリンクに速度センサが設置されていない場合であっても、いずれかのリンクに速度センサが設置されていれば、この設置されたリンクにおいて算出した非渋滞部旅行速度eを、前記の渋滞長を算出するリンクにそのまま適用しても良い。
【0059】
また、上述の実施形態においては、リンクの上流端と下流端のそれぞれの近傍に設置した路上通信装置2に対して車両から送信された、当該車両を識別するための車両識別情報を含むアップリンク情報に基づいて算出した当該リンクの旅行時間を用いて、当該リンクの渋滞長を求める構成であったが、これに限られない。
【0060】
例えば、リンクの上流端と下流端のそれぞれの近傍に路上通信装置2の代わりにナンバープレート読取装置を設置し、この装置で読み取った車番とその車番を読み取った時刻に基づいて算出した当該リンクの旅行時間を用いて、当該リンクの渋滞長を求める構成であっても良い。この場合、リンクの上流端の近傍に設置したナンバープレート読取装置で読み取った車番と、当該リンクの下流端の近傍に設置したナンバープレート読取装置で読み取った車番とを照合し、車番が一致する場合に、当該車番を上流側のナンバープレート読取装置で読み取った時刻と下流側のナンバープレート読取装置で読み取った時刻との差分から、当該リンクの旅行時間を求めることができる。この構成であれば、リンクに設置するナンバープレート読取装置は上述の路上通信装置2の場合と同様1台又は2台で済むので、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる。
【0061】
また、随時位置を計測して時刻とともに蓄積できる車載装置から、蓄積した位置と時刻の情報を含む走行軌跡情報を取得し、リンクを経由する走行軌跡情報に基づいて算出した当該リンクの旅行時間を用いて、当該リンクの渋滞長を求める構成であっても良い。この場合、走行軌跡情報に含まれる位置情報の中から、リンクの上流端に最も近いものを選定して、その位置情報に対応する時刻情報を選定し、さらに走行軌跡情報に含まれる位置情報の中から、当該リンクの下流端に最も近いものを選定して、その位置情報に対応する時刻情報を選定し、選定した2つの時刻情報の差分から当該リンクの旅行時間を求めることができる。この構成であれば、車載装置から走行軌跡情報を取得できる路上通信装置をリンクに1台または複数のリンクに1台設置するだけで済むので、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる。
【0062】
また、各種の交通シミュレーション装置を用いて算出したリンクの旅行時間を用いて、当該リンクの渋滞長を求める構成であっても良い。この場合、交通流シミュレーション装置にリンクの交通量などを入力して、その交通量に応じた複数の車両を模擬的に走行させ、これらの車両が当該リンクを走行するのに要した時間から、当該リンクの旅行時間を算出することができる。この構成であれば、交通流シミュレーション装置を1台用意すれば済むので、設置費用や通信回線の運用費用、メンテナンスの費用を節約しつつ、渋滞長を算出することができる。
【0063】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
1 交通情報算出装置
101 演算部
102 記憶部
103 送受信部
2 路上通信装置
2a ヘッド
2b 制御機
3 交通信号制御機
4 信号灯器
3b 撮像制御装置
5 車載装置
6 車両
IS1、IS2 交差点
LO1、LO2、LO3、LO4、LO5、LO6、LO7、LO8 リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の特定の区間における渋滞長を算出する交通情報算出装置であって、
前記区間の一部又は全部において渋滞が生じている場合の当該渋滞部分における車両密度である渋滞長内車両密度aを取得する手段と、
前記区間における単位時間内の交通量である単位時間内交通量bを取得する手段と、
前記区間を車両が走行するのに要する時間である旅行時間cを取得する手段と、
前記区間の長さである区間長dを取得する手段と、
前記区間の一部又は全部において渋滞が生じていない場合の当該非渋滞部分を車両が走行するときの速度である非渋滞部旅行速度eを取得する手段と、
取得した渋滞長内車両密度aと、単位時間内交通量bと、旅行時間cと、区間長dと、非渋滞部旅行速度eとに基づいて、前記区間の渋滞長を算出する算出手段とを備える
交通情報算出装置。
【請求項2】
前記算出手段は、Y=b(c・e−d)/(a・e−b)により、渋滞長Yを算出する
請求項1に記載の交通情報算出装置。
【請求項3】
前記旅行時間cは、前記区間の両端それぞれの近傍に設置された路上通信装置に対して車両から送信された当該車両を識別するための車両識別情報を含むアップリンク情報に基づいて算出されている
請求項1又は2に記載の交通情報算出装置。
【請求項4】
道路上の特定の区間の上流端の近傍に設置された路上通信装置である上流側路上通信装置と、当該区間の下流端の近傍に設置された路上通信装置である下流側路上通信装置と、当該区間における渋滞長を算出する交通情報算出装置とを備える交通システムであって、
前記上流側路上通信装置及び前記下流側路上通信装置は、
車両から当該車両を識別するための車両識別情報を含むアップリンク情報を受信する手段と、
受信したアップリンク情報を前記交通情報算出装置に送信する手段とを備え、
前記交通情報算出装置は、
前記上流側路上通信装置から送信されたアップリンク情報である上流側アップリンク情報を受信する手段と、
前記下流側路上通信装置から送信されたアップリンク情報である下流側アップリンク情報を受信する手段と、
前記上流側アップリンク情報に含まれる車両識別情報と前記下流側アップリンク情報に含まれる車両識別情報とが一致する場合に、当該上流側アップリンク情報を受信した時刻と当該下流側アップリンク情報を受信した時刻との差分から前記区間を車両が走行するのに要する時間である旅行時間cを算出する手段と、
前記区間において渋滞が生じている場合の当該渋滞部分における車両密度である渋滞長内車両密度aを取得する手段と、
前記区間における単位時間内の交通量である単位時間内交通量bを取得する手段と、
前記区間の長さである区間長dを取得する手段と、
前記区間において渋滞が生じていない場合の当該区間を車両が走行するときの速度である非渋滞部旅行速度eを取得する手段と、
前記渋滞長内車両密度aと、前記単位時間内交通量bと、前記旅行時間cと、前記区間長dと、前記非渋滞部旅行速度eとに基づいて、前記区間の渋滞長を算出する算出手段とを備える
交通システム。
【請求項5】
道路上の特定の区間における渋滞長を算出する交通情報算出装置に実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記区間の一部又は全部において渋滞が生じている場合の当該渋滞部分における車両密度である渋滞長内車両密度aを取得するステップと、
前記区間における単位時間内の交通量である単位時間内交通量bを取得するステップと、
前記区間を車両が走行するのに要する時間である旅行時間cを取得するステップと、
前記区間の長さである区間長dをステップする手段と、
前記区間の一部又は全部において渋滞が生じていない場合の当該非渋滞部分を車両が走行するときの速度である非渋滞部旅行速度eを取得するステップと、
取得した渋滞長内車両密度aと、単位時間内交通量bと、旅行時間cと、区間長dと、非渋滞部旅行速度eとに基づいて、前記区間の渋滞長を算出するステップとを含む
ことを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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