説明

人工毛髪の製造方法及び人工毛髪用紡糸機

【課題】天然毛髪に近い風合い及び物性値を有する鞘芯構造の人工毛髪を生産性よく製造する方法と装置を提供する。
【解決手段】 芯部と芯部を覆う鞘部とからなる鞘芯構造を有し、芯部がポリアミド樹脂からなり、鞘部が芯部よりも曲げ剛性の低いポリアミド樹脂からなる人工毛髪40を製造する際、鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂を溶融し吐出する工程2と、吐出された糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴工程3と、表面に凹凸部を形成した糸を湿熱延伸、又は、延伸用乾熱ピンにより延伸する工程10とを経て製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然毛髪に近似する物性と風合いを有する、鞘芯構造でなる人工毛髪の製造方法及び人工毛髪用紡糸機に関する。
【背景技術】
【0002】
かつらは、天然毛髪を素材として古くから製造され愛用されてきたものであるが、近年天然毛髪素材の調達上の制約、その他の問題から合成繊維をかつら用毛髪素材として製造されることが多くなった。その場合、使用される合成繊維は、基本的に、感覚上も物性上も、天然毛髪に近いことを第一目標として選択される。
【0003】
使用される人工毛髪素材としては、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系などの合成繊維が多いが、一般にアクリル系繊維は融点が低く、耐熱性が悪いために、パーマセット後の型保持性が悪く、例えば温水に曝すとカールなどの加工が崩れるなどの弱点がある。ポリエステル系繊維は、強度、耐熱性に優れた素材であるが、天然毛髪に比べて吸湿性が極めて低いことに加えて曲げ剛性値が高すぎるため、例えば高湿の環境下において天然毛髪と異なる外観、触感、物性を示して、かつらとして用いる場合に著しい違和感を呈する。
【0004】
ここで、曲げ剛性値とは、繊維の触感や質感などの風合いに関連する物性値で、川端式測定法により数値化できるものとして繊維織物産業で広く認知されつつある物性値である(非特許文献1参照)。一本の繊維や毛髪の曲げ剛性値を測定できる装置も開発されている(非特許文献2参照)。この曲げ剛性値は曲げ剛さとも呼ばれ、人工毛髪に単位の大きさの曲げモーメントを加えたとき、それによって生じた曲率変化の逆数で定義される。人工毛髪の曲げ剛性値が大きいほど、曲げに強くたわみずらい、つまり、硬く曲げにくい人工毛髪である。逆にこの曲げ剛性値が小さい程、曲げ易く、柔らかい人工毛髪であるといえる。
【0005】
ところで、ポリアミド系繊維は多くの点で天然毛髪に近い外観、物性のものを提供できるため、従来からかつら用毛髪として実用に供され、特に表面処理によって不自然な光沢などを消す本出願人による製造方法の発明によって優れたかつらが提供されている(特許文献1参照)。
【0006】
ポリアミド繊維には、主鎖としてメチレン鎖のみがアミド結合でつながる直鎖飽和脂肪族ポリアミド、例えば、ナイロン6、ナイロン66などと、主鎖中にフェニレン単位が入る半芳香族系ポリアミド、例えば、東洋紡績(株)のナイロン6T、三菱ガス化学(株)のMXD6などがある。特許文献1には、ナイロン6繊維を素材として表面処理をした人工毛髪が開示されているが、ナイロン6繊維単独では触感や質感などの風合いなどに関連する物性としての曲げ剛性値が天然毛髪より低く、このため天然毛髪と同質の人工毛髪を得るのは困難である。
【0007】
一方、ナイロン6Tを用いた人工毛髪は、逆に曲げ剛性値が天然毛髪より高く、このナイロン6Tにより天然毛髪と同質の毛髪を製造するのは困難である。そこでナイロン6とナイロン6Tとの混練紡糸によって天然毛髪に近い曲げ剛性を示す繊維を製造することが考えられるが、これら2種の樹脂は融点差が大きく、高融点のナイロン6Tに合わせた溶融温度を設定すると、低融点で耐熱性も相対的に低いナイロン6が溶融中に熱酸化劣化するという製造工程面での制約があり過ぎる。そのため上記ナイロン6Tは、毛髪素材としては実用化されていない。
【0008】
2種類の樹脂の特性をそれぞれ生かす方法として、鞘芯構造の繊維が知られている。この繊維は芯になる繊維とそれを取り巻く鞘状の繊維から1本の繊維を構成し、異なる2種類の樹脂のそれぞれの特性を生かすことで、一般繊維(例えば、特許文献2参照)やかつら用人工毛髪素材とするものである。たとえば、特許文献3には、塩化ビニリデン、ポリプロピレンなどからなる鞘芯構造の繊維が開示され、特許文献4には、ポリアミド系であるが、芯部に蛋白質架橋ゲルを配合することによって変性する繊維が開示されている。
【0009】
さらに合成繊維を人工毛髪とする場合、合成繊維の持つ透明感が不自然な光沢となることを防止するために、表面に凹凸を与えることによって不透明とし、天然毛髪に近い外観、風合いを与えるための種々の試みがなされている。上記特許文献1では、表面に球晶を発生成長させることにより、また特許文献5では、繊維表面を化学薬品処理することによる表面への凹凸付与法が開示されている。この他には、人工毛髪の表面を砂、氷、ドライアイスなどの微粉でブラスト処理する方法も知られている。
【0010】
【特許文献1】特開昭64−6114号公報
【特許文献2】特開2004−308020号公報
【特許文献3】特開2002−129432号公報
【特許文献4】特開2005−9049号公報
【特許文献5】特開2002−161423号公報
【非特許文献1】川端季雄、繊維機械学会誌(繊維工学)、26、10、pp.721−728、1973
【非特許文献2】カトーテック株式会社、KES−SHシングルヘアーベンディングテスター取扱説明書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
芯部にMXDナイロン等を用い、鞘部にナイロンなどを用いた鞘芯構造による人工毛髪は、その曲げ剛性値を人毛(以下、適宜天然毛髪と呼ぶ)に近い値とすることができ、天然毛髪に近い風合い(外観、触感、質感)及び物性値を得ることができるという優れた特徴を有している。
しかしながら、この鞘芯構造を有する人工毛髪の製造における延伸工程において、MXD6ナイロンは120℃以下の温度では結晶化しない性質がある。さらに、延伸前の紡糸では、原料となる樹脂の溶融後の固化は、一般的には室温中あるいは温水中で行なうので結晶化していない状態であり、この状態で結晶化のために加熱し張力、すなわち、テンションを掛けて延伸工程を実行すると、たわみが発生して塑性変形が生じやすい、つまり、だれ易い性質があり、公知の方法、例えば、特許文献2に開示された方法では安定したテンションで延伸を行なうことが困難で、作業効率が低下するという課題があった。
【0012】
本発明は上記課題に鑑み、天然毛髪に近い風合い及び物性値を有する鞘芯構造の人工毛髪を生産性よく製造することができる、製造方法及び紡糸機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ポリアミド系合成繊維の特質を生かし、芯部を曲げ剛性の高いポリアミド繊維とし、鞘部を芯部よりも曲げ剛性の低いポリアミド繊維とする、鞘芯構造、すなわち、芯になる繊維とそれを取り巻く鞘状の繊維から成る構造の繊維が、両樹脂の特性を生かし天然毛髪に極めて近い風合い(外観、触感、質感)と物性値を有する人工毛髪として最適であるという知見に基づき、さらに鋭意研究を重ねた結果、その紡糸及び延伸方法に関する新たな知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、芯部と芯部を覆う鞘部とからなる鞘芯構造を有し、芯部がポリアミド樹脂からなり、鞘部が芯部よりも曲げ剛性の低いポリアミド樹脂からなる人工毛髪の製造方法であって、鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂が溶融され吐出される工程と、吐出された糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴工程と、表面に凹凸部を形成した糸を湿熱延伸、又は、延伸用乾熱ピンにより延伸する工程と、を経ることで製造されることを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、微細な凹凸部が、さらにブラスト処理により形成される。
好ましくは、芯部は半芳香族ポリアミド樹脂からなり、前記鞘部は直鎖飽和脂肪族ポリアミド樹脂からなる。半芳香族ポリアミド樹脂は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との交互共重合体であり、直鎖飽和脂肪酸ポリアミド樹脂は、カプロラクタム開環重合体、及び/又は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との交互共重合体であってよい。鞘部及び芯部の鞘/芯重量比は、好ましくは、10/90〜35/65である。ポリアミド樹脂は、吐出工程の前に、予め、顔料及び/又は染料が添加されることが好ましい。
【0015】
上記製造方法によれば、芯部とこれを取り巻く鞘部の二重構造で成り、鞘部及び芯部が曲げ剛性の異なるポリアミド樹脂から形成される人工毛髪を、生産性よく製造することができる。このようにして製造される人工毛髪は、湿度変化に対して天然毛髪の曲げ剛性値に極めて近い挙動を示すので、特に、外観、触感、質感などの風合いが極めて天然毛髪に近い自然な人工毛髪を、糸切れなどを起こさずに、安定して製造することができる。
【0016】
本発明は、芯部と芯部を覆う鞘部とからなる鞘芯構造を有し、芯部がポリアミド樹脂からなり、鞘部が芯部よりも曲げ剛性の低いポリアミド樹脂からなる人工毛髪を紡糸するための紡糸機であって、鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂の溶融槽と、溶融槽から供給される溶融液を吐出する吐出部と、吐出部の吐出口から吐出する糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴部と、温浴部で得られた人工毛髪を延伸する延伸部と、を含み、延伸部の最も温浴部側の第1延伸部が、熱水容器が配設された湿熱延伸槽と水切り装置とを備え、温浴部からの人工毛髪を、芯部となるポリアミド樹脂の結晶化温度以下の熱水中で延伸することを特徴とする。
上記湿熱延伸槽は、好ましくは、人工毛髪の芯部となるポリアミド樹脂の結晶化温度以下の熱水で満たされた熱水容器を備え、人工毛髪素材はこの熱水の最表面で接触しつつ延伸される。
【0017】
上記人工毛髪用紡糸機によれば、芯部とこれを取り巻く鞘部の二重構造で成り、鞘部及び芯部が曲げ剛性の異なるポリアミド樹脂から形成される人工毛髪を、芯部となるポリアミド樹脂の結晶化温度以下の熱水中で延伸することができ、糸切れ等の発生を起こさずに、生産性よく製造することができる。
【0018】
本発明の他の構成は、芯部と芯部を覆う鞘部とからなる鞘芯構造を有し、芯部がポリアミド樹脂からなり、鞘部が芯部よりも曲げ剛性の低いポリアミド樹脂からなる人工毛髪用紡糸機であって、鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂の溶融槽と、溶融槽から供給される溶融液を吐出する吐出部と、吐出部の吐出口から吐出する糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴部と、温浴部で得られた人工毛髪を延伸する延伸部と、を含み、延伸部の最も温浴部側の第1延伸部が延伸用乾熱ピンを備え、温浴部からの人工毛髪を、延伸用乾熱ピンを起点として延伸することを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、温浴と延伸用乾熱ピンとの間に予備加熱を行なうロールを備えている。
【0019】
上記人工毛髪用紡糸機によれば、芯部とこれを取り巻く鞘部の二重構造で成り、鞘部及び芯部が曲げ剛性の異なるポリアミド樹脂から形成される人工毛髪を、延伸用乾熱ピンを起点として延伸することができ、糸切れ等の発生を起こさずに、生産性よく製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鞘芯構造を有し、風合い(外観、触感、質感)、諸物性、特に曲げ剛性とその湿度による変化挙動が、天然毛髪に近い人工毛髪を生産性よく製造することができる製造方法及び紡糸機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る人工毛髪の製造方法を示す工程図である。
図1に示すように、本発明の人工毛髪は、鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂が溶融され吐出される鞘芯の出発原料を吐出する工程と、吐出された糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴工程と、表面に凹凸部を形成した糸を湿熱延伸する工程と、を経ることにより得られる。好ましくは、本発明の人工毛髪は、この湿熱延伸工程に続いて、さらにこの湿熱延伸された糸に付着した水分を乾燥する工程と、湿熱延伸された糸の延伸工程と、を含む工程により製造される。さらに、この延伸工程の後で、糸表面にさらに凹凸部をつけるためのブラスト工程と、紡糸及び延伸が終了した人工毛髪の巻き取り工程を付加してもよい。
【0022】
上記芯部の材料となるポリアミド樹脂としては、強度と曲げ剛性が高い半芳香族のポリアミド樹脂を好適に用いることができる。このような、半芳香族ポリアミドとしては、化学式1で表わされるアジピン酸とメタキシリレンジアミンとをアミド結合で交互に結合した高分子(例えば、ナイロンMXD6)などが挙げられる。
【化1】

【0023】
上記鞘部の材料となるポリアミド樹脂としては、芯部の材料よりも曲げ剛性の低いポリアミド樹脂を用いればよく、例えば、直鎖飽和脂肪族ポリアミドが好適である。このような直鎖飽和脂肪族ポリアミドとしては、化学式2で表わされるカプロラクタムの開環重合体からなる高分子、例えばナイロン6、又は、化学式3で表わされるヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との交互共重合体からなる高分子、例えばナイロン66などが挙げられる。
【化2】

【化3】

ここで、鞘と芯の出発原料には、予め人工毛髪を着色するための顔料などを添加してよい。具体的には、上記吐出工程の前に、出発原料となるポリアミド樹脂に、予め、顔料及び/又は染料を添加しておけばよい。
【0024】
本発明では、鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂を溶融し吐出する工程の後に、吐出された糸状溶融物を温浴を通すことで固化すると共に、表面に凹凸部が形成され、糸の表面を粗面化して艶消し加工を行なうことができる。なお、一般に、人工毛髪は、かつら等に植設し得る毛髪製品となったものを示すが、本出願においては合成樹脂を溶融した後、冷却されて糸状溶融物が固化し、糸もしくは線状を呈する状態にある毛髪材を含む概念として使用している。
【0025】
そして、上記温浴工程に続いて、表面に凹凸を形成した糸を湿熱延伸処理し、さらに水切りを行なう乾燥工程により、次段の延伸工程における糸への水分の混入を防ぎ、糸の強度低下を防止することができる。湿熱延伸工程における延伸倍率及び湿熱延伸した後の延伸工程における延伸倍率を適宜調整することで、紡糸工程における糸の延伸倍率を所定の値とすることができる。延伸後、必要に応じて、弛緩熱処理を行なってもよい。
【0026】
上記したように、本発明では、延伸工程を2段に分け、先ず温浴に浸漬することで凹凸を形成した糸を湿熱延伸し、次いでこれを乾燥した後、次段でさらに延伸工程を付与するという、湿熱延伸及びその後の延伸工程により、鞘芯構造において、芯となるMXD6ナイロン等の加熱で発生するたわみとこのたわみにより発生するだれを防止することができる。したがって、作業効率よく、鞘芯構造を有する人工毛髪を製造することができる。
【0027】
図2は、本発明の人工毛髪を製造する紡糸機の一例を示す概略図であり、図3は図2に示す人工毛髪用紡糸機の吐出部の拡大概略図である。
図2に示すように、紡糸機1は、鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂の溶融槽2と、これらの溶融槽2から供給される溶融液を吐出する吐出部23と、吐出部23の吐出口から吐出する糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴部3と、第1延伸部10と第2延伸部15と第3延伸部25とからなる延伸部と、弛緩延伸部30と、人工毛髪を巻き取る巻取機33と、を含み構成されている。
図示するように、糸表面にさらに凹凸部をつけるためのブラスト機35を、弛緩延伸部30と巻取機33との間に挿入してもよい。
【0028】
図3に示すように、吐出部23は、鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂の溶融槽21,22を備え、ポリアミド樹脂のペレットを溶融するための加熱装置と、混練及び吐出部23へ供給するためのスクリューなどを備え、さらに溶融液21A,22Aを吐出部23へ送液するギヤポンプ21B,22Bを備えている。
【0029】
図4は紡糸機に用いる吐出口の概略断面図である。図4に示すように、吐出部23は、同心円状に配設される二重の吐出口を有し、その中心円部23Bからは半芳香族ポリアミド樹脂溶融液22Aを、そして、中心円部23Bを囲む外環部23Aからは直鎖飽和脂肪族ポリアミド樹脂溶融液21Aを、それぞれ吐出させる構造を有している。
【0030】
再び図2を参照すると、吐出させたポリアミド樹脂溶融液はその直下の温浴部3の温浴槽に浸漬される。この浴温度は例えば40℃に設定され、ポリアミド樹脂溶融液は温浴部3を通過中に凹凸状の球晶を作りながら、徐々に固化される。固化されたポリアミド樹脂は、表面に凹凸形状が付与された直鎖飽和脂肪族ポリアミドを鞘部とし、半芳香族ポリアミド樹脂を芯部とした鞘芯構造を呈する糸となって、次段の湿熱工程に移る。
【0031】
湿熱延伸工程は、図2における第1延伸部10として示されている。この第1延伸部10は、延伸部において最も温浴部3側の延伸部であり、温浴部3側から延伸方向に、つまり、図2に示す延伸方向であるX方向に、第1延伸ロール11と湿熱延伸槽12と水切り装置13とから構成されている。ここで、水切り装置13は、例えば、水切りロールと水切りノズルとを備えている。水切り装置13による乾燥工程により、延伸工程での水分の糸への混入が防止され、糸の強度が保持される。
【0032】
第2延伸部15は、第1延伸部10側から延伸方向に、第2延伸ロール16と第2延伸槽17とから構成されており、第1延伸部10の水きり装置13によって、完全に乾燥状態の糸が第2延伸槽17に導入される。
【0033】
第3延伸部25は、第2延伸部15側から延伸方向に、第3延伸ロール26と弛緩熱処理槽(以下、適宜にアニール槽と呼ぶ)27とから構成されている。弛緩延伸部30は、第4延伸ロール31から構成されている。
【0034】
以下、湿熱延伸工程について図5を用いて説明する。図5は、図2に示す第1延伸部10における湿熱延伸槽12の構造を模式的に示す断面図で、(A)は延伸方向の断面を、(B)は延伸方向に垂直な方向の断面を示している。
図5(A)に示すように、湿熱延伸槽12の上部には、熱水容器12Aが設けられている。この熱水容器12Aは、芯部となるポリアミド樹脂の結晶化温度以下の温度、例えば90℃程度の熱水14で満たされており、循環用チューブ14Aと給水バルブ14Bとが設けられている。湿熱延伸槽12中へ給水バルブ14Bを介して供給される水は、ヒーター12Bにより加熱されて所定温度の熱水14となり、図示しない温調器によりこの水温が制御されている。熱水容器12Aから飛散した熱水14の水滴14Cは、図の矢印方向(↓)に循環用チューブ14Aを通り、熱水容器12Aに再循環される。蒸発等により失われた熱水は、給水バルブ14Bから補給されて、再び熱水容器12Aに循環され、常に熱水容器12A内の熱水14の水量が一定になるように制御されている。
人工毛髪40は図5(A)の矢印方向(⇒)に延伸される。湿熱延伸槽12の延伸方向の長さは、熱水14中を通過する人工毛髪40が十分に延伸できる長さとすればよく、熱水14の温度、延伸速度等の条件に応じて決定すればよい。例えば、後述する延伸倍率においては、人工毛髪40が100mmほど接触した時点で延伸が起こるので、湿熱延伸槽12の長さはこの延伸が生起する長さよりも十分に長い寸法とすればよい。図5(B)に示すように、熱水容器12Aの熱水14はその表面が表面張力で盛り上がるように常に満水状態とし、その最表面に接触するようにして人工毛髪素材を延伸すれば、糸切れなどを生じないようにできる。
【0035】
図6は、第1延伸部10における湿熱延伸槽12の別の実施形態を示す延伸方向の模式的な拡大断面図である。図6に示す湿熱延伸槽12が、図5に示した湿熱延伸槽12と異なるのは、熱水容器12A内に人工毛髪を通すガイド12Cを設けた点である。この場合には、人工毛髪40を、ガイド12Cを介して熱水14中を通過させて延伸することができる。人工毛髪40を通過させるガイド12Cの接触圧によって、ガイド12C上で延伸を生起できる。
【0036】
上記した人工毛髪用紡糸機1により、次にようにして人工毛髪40を製造することができる。
人工毛髪40の延伸は、湿熱延伸工程としての第1延伸部10、乾式延伸工程としての第2延伸部15及び第3延伸部25による三段延伸で行なうことができる。一例として、第2延伸ロール16の速度を第1延伸ロール11の速度に対して4.0倍に設定する。次に、第3延伸ロール26の速度を第2延伸ロール16の速度に対して40%増しに設定する。これで、第1延伸ロール11の速度に対して延伸倍率は5.6倍となる。この場合、湿熱延伸槽12の温度は90℃程度、第2延伸槽17の温度は140℃程度とすることができる。弛緩延伸は、第4延伸ロール31の速度を第3延伸ロール26の速度に対して0.90倍とし、弛緩延伸槽27の温度を、例えば150℃として行なうことができる。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態に係る人工毛髪の製造方法について説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態に係る人工毛髪の製造方法を示す工程図である。
図7に示すように、本発明の人工毛髪は、鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂が溶融され吐出される鞘及び芯の出発原料を吐出する工程と、吐出された糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴工程と、表面に凹凸部を形成した糸を延伸用乾熱ピンで延伸する工程と、この延伸用乾熱ピンで延伸された糸の延伸工程と、を含む工程により製造される。図1に示した第1の実施形態に係る人工毛髪の製造方法との違いは、湿熱延伸工程及びその後の水分乾燥工程を、延伸用乾熱ピンを用いた延伸工程に置き換えたことである。上記工程において、延伸工程の後に、糸表面にさらに凹凸部をつけるためのブラスト工程と、紡糸した人工毛髪の巻き取り工程を挿入してもよい。なお、鞘芯の出発原料には、予め人工毛髪を着色するための顔料などを添加してよい。
【0038】
次に、本発明の第2の実施形態に用いる人工毛髪用紡糸機について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態に用いる人工毛髪用紡糸機50の構成を示す概略図であり、図9は第1延伸部の拡大概略図である。
図8に示す人工毛髪用紡糸機50が、図2に示した人工毛髪用紡糸機1と異なるのは、第1延伸部10の構成であり、図2に示した人工毛髪用紡糸機1の第1延伸部10の湿熱延伸槽12及び水切り装置13を、延伸用乾熱ピン52を備えた第1延伸槽51に置き換えた点である。第1延伸ロール11は、人工毛髪用紡糸機1と同じ構成でよい。
【0039】
図9に示すように、第1延伸ロール11は多段のロール11a,11b,11c,11d,11eを備えており、その延伸方向の出口側ロール11eは、延伸する人工毛髪40に予熱を加えるために、図示しない加熱機能を有するヒートローラーとして構成されている。出口側ロール11eの予熱温度は、芯となるポリアミドのガラス転移点付近の温度に設定されていることが好ましい。
ここで、出口側ロール11eから第1延伸槽の入口までの長さをLとすると、この長さLは、人工毛髪40の自重によるたるみが生じないような寸法とする。人工毛髪40の直径にもよるが、例えば、30cm以内とすればよい。
【0040】
次に、第1延伸槽51の延伸用乾熱ピン52について説明する。
延伸用乾熱ピン52は、第1延伸槽51の入り口から長さLの位置に糸40の通過する方向と直交方向に第1延伸槽51内で横架して配設されている。延伸用乾熱ピン52は、固定しておくことも又は回転可能とすることができる。この延伸用乾熱ピン52の位置は、第1延伸槽51において人工毛髪40の入口側に置くことが必要である。延伸用乾熱ピン52を入口側に置き、人工毛髪40に接触させることによって延伸時に人工毛髪40の伸びを発生させる起点を形成することで、設定した倍率で延伸することができるようになる。このため、不揃い、つまり、ランダムな位置での人工毛髪40の急な伸びが発生する余地が無くなり、人工毛髪40の切れ等の障害無く延伸を行うことができる。逆に、延伸用乾熱ピン52が第1延伸槽51の出口側におかれた場合には、人工毛髪40が延伸用乾熱ピン52に到達する前に第1延伸槽51内の雰囲気温度によって延伸されてしまう。このため、第1延伸槽51のみで延伸を行なう際に生起する人工毛髪40の急な伸びが発生し、延伸ができなくなるので好ましくない。
【0041】
延伸用乾熱ピン52の形状は棒状で、前述のように延伸方向に対して垂直方向に配設している。その長さは、紡糸する人工毛髪40の本数に対応している。つまり、延伸用乾熱ピン52の紙面垂直方向(Y方向)の長さは、第1延伸槽のY方向の幅である。図9においては、延伸用乾熱ピン52の上部側において、人工毛髪40に接触させているが、人工毛髪40の下部で接触するようにしてもよい。
ここで、延伸用乾熱ピン52は、第1延伸槽51の温度に耐え、熱変形が起こらず、かつ、熱伝導性が良好な材料であればよく、金属などを用いることができる。延伸用乾熱ピン52の長さ方向の断面形状は円形等でよい。例えば、延伸用乾熱ピン52は、円柱状の丸棒とし、その直径は、例えば、3〜5mm程度とすることができる。逆に、延伸用乾熱ピン52の直径が5mmより大きくなると、延伸用乾熱ピン52に人工毛髪40が接触する面積が大きくなり、人工毛髪40が延伸されるポイントが延伸用乾熱ピン52上で一定とならなくなってしまうので好ましくない。したがって、延伸用乾熱ピン52は、人工毛髪40と接触する面積が1.5mm以上にならないものが望ましい。人工毛髪40と延伸用乾熱ピン52とが接触する圧力は、人工毛髪と延伸用乾熱ピン52とが接触する長さが1〜1.5mmとなる程度の圧力が好ましい。
【0042】
上記のように構成されている第1延伸部51においては、例えば、40℃の温浴3を通過した人工毛髪用の糸が、第1延伸ロール11を通過し、その出口側ロール11eで予熱されて、第1延伸槽51に送出される。そして、出口側ロール11eで予備加熱された人工毛髪40を、第1延伸槽51内に設けた延伸用乾熱ピン52に接触させることにより延伸を行なうことができる。ここで、出口側ロール11eの予熱温度は温浴部3の温度以上で、芯部となるポリアミド樹脂のガラス転移点付近の温度とすることが好ましい。延伸用乾熱ピン52の温度は芯部となるポリアミド樹脂の結晶化温度よりも、若干高い温度とするのが好ましい。この場合、出口側ロール11eによる予備加熱は、延伸する人工毛髪40中の分子構造に配向性を持たせるための工程である。これにより、出口側ロール11eによる予備加熱を行ない、人工毛髪40のポリアミドに配向性を持たせ、延伸用乾熱ピン52による延伸を効果的に行なうことができる。
【0043】
本発明の第2の実施形態に係る人工毛髪の製造方法によれば、第1延伸槽51内に延伸用乾熱ピン52を設けているので、延伸用乾熱ピン52を第1延伸槽51内の雰囲気温度で熱することができる。このため、延伸用乾熱ピン52には熱源が不要となる。そして、第1延伸槽51内の雰囲気温度により延伸用乾熱ピン52上の人工毛髪40に満遍なく設定した温度の熱を与えることができるので、人工毛髪40には延伸用乾熱ピン52による直接加熱と第1延伸槽51の雰囲気による間接加熱とで、第1延伸が行なわれる。なお、第2〜4の延伸工程は、第1の実施形態に係る人工毛髪の製造方法と同様に行なうことができる。この第2〜4の延伸工程は、上記第1延伸槽51内の雰囲気温度よりも高い温度で行なうことで、人工毛髪の強度を増すことができる。
【実施例1】
【0044】
次に、本発明の実施例について詳細に説明する。
図2に示す紡糸機1を用いて、実施例1の人工毛髪40を製造した。芯部のポリアミド樹脂としては、ナイロンMXD6(三菱ガス化学(株)製、商品名MXナイロン)を用い、鞘部のポリアミド樹脂としてはナイロン6(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を用いた。吐出口温度を270℃に設定し、温浴3は、40℃の温湯を用いた。鞘/芯容量比は1/5として、吐出口温度270℃に設定して、人工毛髪40を製造した。この実施例の人工毛髪40の鞘/芯重量比は、15.8/84.2となった。着色剤としては、上記鞘部又は芯部に用いるポリアミド樹脂と顔料を所定割合で混合して加熱溶融し、混練後に冷却してチップ状にした樹脂チップを用いた。この着色剤として用いる樹脂チップをマスターバッチと呼ぶことにする。実施例で使用したマスターバッチとして、黒色の無機顔料を3重量%含有した樹脂チップ、黄色の有機顔料を3重量%含有した樹脂チップ、赤色の有機顔料を4重量%含有した樹脂チップを用いた。
【0045】
具体的には、最初に、第1の溶融槽21には、鞘部の原料としてナイロン6チップ84g、マスターバッチとして黒5g,黄色10g、赤1g、合計100gの溶融樹脂21Aを投入した。そして、第2の溶融槽22には、芯部1Bの原料としてナイロンMXD6チップ84g、マスターバッチとして黒5g,黄色10g、赤1g、合計100gの溶融樹脂22Aを投入した。
ギヤポンプ22BでナイロンMXD6を吐出部23の中心吐出口23Bに、ギヤポンプ21Bでナイロン6を外環吐出口23Aにそれぞれ送出し、ギヤポンプ21B,22Bの回転数を調整して、押出し容量比を鞘/芯比で1/2とした。紡糸機は15孔の口金を用いて15本の繊維を紡出する機械である。
吐出口23Cを出た鞘芯構造の繊維は、長さが約1.7mで40℃の温湯からなる温浴槽3中を通過させ表面に球晶を発生させた。この球晶形成は、恰も毛髪のキューティクル様の凹凸形状を付与させ、合成繊維独特の光沢を低減するための処理である。
【0046】
その後、第1延伸ロール11と水温が90℃の湿熱延伸槽12とを通過させて延伸を行なった。湿熱延伸槽12では、熱水14を満たしてその表面張力で盛り上がった最表面に糸を接触させながら延伸を行なった(図5(B)参照)。次に、水切り装置13で水分を取り除いた。
湿熱延伸工程10を経た後、第2延伸ロール16及び140℃の第2延伸槽17を通してヒートセットし、さらに第3延伸ロール26及び150℃の弛緩熱処理槽27を通して糸径寸法を安定させるための熱処理(アニーリング)を行なった。
最終工程として、第4延伸ロール31及びブラスト機35に通して表面に微細なアルミナ粉を吹きつけて繊維表面をさらに粗面化した後、巻取機33に巻き取った。この工程で延伸倍率が5.6倍、巻取り速度が150m/分となるように第1〜第3延伸ロール11,16,26の速度を調整した。第4延伸ロール31の速度を第3延伸ロール26の速度に対して0.90倍として、捲縮防止のための弛緩延伸を行なった。巻取機33においては、巻取り用ボビンに10分間人工毛髪40を巻き取り、その後5分間でボビンの交換を行ない、新しいボビンを巻取機33に装着した。このようにして、人工毛髪の紡糸を10分間巻き取る工程と上記ボビン交換の工程を繰り返して、人工毛髪の製造を行なったところ、1時間当りの人工毛髪の製造量は690gであった。製造した人工毛髪40の直径はいずれも40〜80μmであった。
【0047】
図10は、本発明の人工毛髪の製造方法により紡糸した人工毛髪40の構成を模式的に示し、(A)は斜視図、(B)は人工毛髪の長手方向の断面図である。
図示するように、鞘芯構造は、略同心円状に配設される例を示しているが、芯部40B及び鞘40Aとも略同心円状以外の異形形状、例えば、完全に同心円になっておらず鞘に対して芯が偏心している場合も含む。また、芯がほぼ真円で鞘の厚さが異なるような鞘芯形状であってもよい。また、人工毛髪40の断面形状は、円、楕円、まゆ型などであってもよい。この人工毛髪40の表面には、微細な凹凸部40Cが形成されており、天然毛髪に近似した自然な光沢を付与し、毛髪としての自然な外観を付与することができる。
【0048】
この際、直鎖飽和脂肪族ポリアミド樹脂溶融液21Aをギヤポンプ21Bで一定時間送液した容量と、半芳香族ポリアミド樹脂溶融液22Aをギヤポンプ22Bで送液した容量との比率を、本発明においては鞘/芯容量比と呼ぶことにする。後述するように、人工毛髪40の曲げ剛性値を天然毛髪の曲げ剛性値に近似させるためには、鞘と芯との重量比である鞘/芯重量比は10/90〜35/65が好適な範囲となる。この鞘と芯との重量比を得るための製造条件としては、鞘/芯容量比として1/2〜1/7が好ましい値となり、この範囲が後述する人工毛髪40の曲げ剛性値などの物性値に好適である。この鞘/芯容量比が1/2より大きくなると、すなわち鞘部40Aの比率が大きくなると、人工毛髪40の芯部40Bの曲げ剛性値の増加に寄与する効果が小さくなる。一方、この鞘/芯容量比が1/7より小さくなると、すなわち芯部40Bの比率が大きくなると、曲げ剛性値が大きくなり過ぎて天然毛髪に近似しなくなり、好ましくない。
【実施例2】
【0049】
実施例2として、図8に示す紡糸機50を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の人工毛髪40を製造した。
吐出口23Cを出た鞘芯構造の繊維は、長さが約1.7mで40℃の温湯からなる温浴3中を通過させ表面に球晶を発生させた。
その後、第1延伸ロールの出口側ロール11eの温度を60〜80℃とし、第1延伸槽51の温度を130℃として、固定した延伸用乾熱ピン51により延伸を行なった。
次に第2延伸ロール16及び150℃の第2延伸槽17を通してヒートセットし、さらに第3延伸ロール26及び150℃の弛緩熱処理槽(アニール槽)27を通して糸径寸法を安定させるための熱処理を施した。
最終工程として、第4延伸ロール31及びブラスト機35に通して表面に微細なアルミナ粉を吹きつけて繊維表面をさらに粗面化した後、巻取機33に巻き取った。この工程で延伸倍率が5.6倍、巻取り速度が150m/分となるように第1〜第3延伸ロール11,16,26の速度を調整した。第4延伸ロール31の速度を第3延伸ロール26の速度に対して0.90倍として、捲縮防止のための弛緩延伸を行なった。製造した人工毛髪40の直径はいずれも40〜80μmであった。
【0050】
次に、比較例について説明する。
(比較例)
実施例1において、湿熱延伸槽12を用いずに、温度が180℃の延伸槽を用いた以外は、実施例1と同様に比較例の人工毛髪を製造した。巻取機33においては、実施例1と同様に、10分間の人工毛髪40の巻き取りと、その後5分間のボビン交換を繰り返し行なったところ、1時間当りの人工毛髪の製造量は440gであった。製造した人工毛髪40の直径はいずれも40〜80μmであった。
【0051】
上記実施例1及び比較例における人工毛髪の1時間当りの生産量を比較すると、実施例1の製造量は比較例の約1.6倍の製造量であった。これにより、実施例1においては、湿熱延伸槽12による延伸を用いたことで、熱水14に接触させて延伸することにより、たるみの発生が無く延伸することができた。このため、実施例においては、糸切れ等の製造不良を発生することが無く、人工毛髪40を延伸することができた。
【0052】
上記実施例1及び2によれば、本発明によって製造される人工毛髪40は、22℃、湿度40%における曲げ剛性値が天然毛髪の平均値720×10−5gfcm/本と一致するか、又は、極めて近い値が得られ、かつ、湿度上昇に伴う曲げ剛性値の低下挙動も、天然毛髪に極めて近いことが分かった。曲げ剛性値は、前記したように、一般に繊維などに適用される物性値であり、毛髪の場合にも風合い(外観、触感、質感)などの感覚的な性状に相関する物性として近年認知されている。繊維の曲げ剛性の測定は織物に関して川端式測定法とその原理が広く知られているが、これを改良したシングルヘアーベンディングテスター(カトーテック(株)製、モデルKES−FB2−SH)を用いて、人工毛髪の曲げ剛性を測定した。測定方法としては、試料となる本発明の実施例の人工毛髪40及び天然毛髪の何れの場合にも、各1cmの1本について、毛髪全体を一定曲率まで円弧状に等速度で曲げ、それに伴う微小な曲げモーメントを検出し、曲げモーメントと曲率の関係を測定した。これから、曲げモーメント/曲率変化により曲げ剛性値を求めた。代表的な測定条件を以下に示す。
【0053】
(測定条件)
チャック間距離:1cm
トルク検出器:トーションワイヤー(スチールワイヤー)のねじれ検出方式
トルク感度:1.0gf・cm(フルスケール10Vにおいて)
曲率:±2.5cm−1
曲げ変位速度:0.5cm−1/sec
測定サイクル:1往復
ここで、チャックは、上記1cmの各毛髪を挟み込む機構である。
【0054】
これにより、本発明の人工毛髪40を用いて製造したかつらは、風合い(外観、触感、質感)とも天然毛髪に近く、高湿下、あるいは水に濡れた場合のそれら特性の変化も天然毛髪に近いため、自然な感じで装着できることが判明した。
【0055】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、ポリアミド樹脂の種類は、所望の曲げ剛性値などが得られるように適宜選択すればよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る人工毛髪の製造方法の工程図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る人工毛髪用紡糸機の一例を示す概略図である。
【図3】図2に示す人工毛髪用紡糸機の吐出部の拡大概略図である。
【図4】紡糸機に用いる吐出口の概略断面図である。
【図5】湿熱延伸槽を模式的に示す断面図で、(A)は延伸方向の断面を、(B)は延伸方向に垂直な方向の断面を示している。
【図6】湿熱延伸槽の別の例を示す延伸方向の模式的な拡大断面図である。
【図7】第2の実施形態に係る人工毛髪の製造方法を示す工程図である。
【図8】第2の実施形態に係る人工毛髪用紡糸機の構成を示す概略図である。
【図9】第1延伸部の拡大概略図である。
【図10】本発明の人工毛髪の製造方法により紡糸した人工毛髪の構成を模式的に示し、(A)は斜視図、(B)は人工毛髪の長手方向の断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1,50:紡糸機
2:吐出部
3:温浴
10:第1延伸部
11:第1延伸ロール
11e:第1延伸ロールの出口側ロール
12:湿熱延伸槽
12A:熱水容器
12B:ヒーター
12C:ガイド
13:水切り装置
14:熱水
14A::循環用チューブ
14B:給水バルブ
14C:水滴
15:第2延伸部
16:第2延伸ロール
17:第2延伸槽
21,22:溶融槽
21A,22A:溶融液
21B,22B:ギヤポンプ
23:吐出部
23A:外環部
23B:中心円部
25:第3延伸部
26:第3延伸ロール
27:弛緩熱処理槽(アニール槽)
30:弛緩延伸部
31:第4延伸ロール
33:巻取機
35:ブラスト機
40:人工毛髪
40A:鞘部
40B:芯部
40C:微細な凹凸部
51:第1延伸槽
52:延伸用乾熱ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と該芯部を覆う鞘部とからなる鞘芯構造を有し、
上記芯部がポリアミド樹脂からなり、上記鞘部が上記芯部よりも曲げ剛性の低いポリアミド樹脂からなる人工毛髪の製造方法であって、
鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂が溶融され吐出される工程と、
上記吐出された糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴工程と、
上記表面に凹凸部を形成した糸を湿熱延伸、又は、延伸用乾熱ピンにより延伸する工程と、
を経て製造されることを特徴とする、人工毛髪の製造方法。
【請求項2】
前記微細な凹凸部が、さらにブラスト処理により形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項3】
前記芯部が半芳香族ポリアミド樹脂からなり、前記鞘部が直鎖飽和脂肪族ポリアミド樹脂からなることを特徴とする、請求項1に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項4】
前記半芳香族ポリアミド樹脂が、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との交互共重合体であることを特徴とする、請求項3に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項5】
前記直鎖飽和脂肪酸ポリアミド樹脂が、カプロラクタム開環重合体、及び/又は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との交互共重合体であることを特徴とする、請求項3に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項6】
前記鞘部及び芯部の鞘/芯重量比が、10/90〜35/65であることを特徴とする、請求項1に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂は、前記吐出工程の前に、予め、顔料及び/又は染料が添加されることを特徴とする、請求項1に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項8】
芯部と該芯部を覆う鞘部とからなる鞘芯構造を有し、芯部がポリアミド樹脂からなり、鞘部が芯部よりも曲げ剛性の低いポリアミド樹脂からなる人工毛髪を紡糸する紡糸機であって、
鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂の溶融槽と、
上記溶融槽から供給される溶融液を吐出する吐出部と、
上記吐出部の吐出口から吐出する糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴部と、
上記温浴部で得られた人工毛髪を延伸する延伸部と、を含み、
上記延伸部の最も温浴部側の第1延伸部が、熱水容器を配設した湿熱延伸槽と水切り装置とを備え、上記温浴部を通った人工毛髪を、上記芯部となるポリアミド樹脂の結晶化温度以下の熱水中で延伸することを特徴とする、人工毛髪用紡糸機。
【請求項9】
前記湿熱延伸槽は、人工毛髪の芯部となるポリアミド樹脂の結晶化温度以下の熱水で満たされた熱水容器を備え、人工毛髪素材が該熱水の最表面で接触しつつ延伸されることを特徴とする、請求項8に記載の人工毛髪用紡糸機。
【請求項10】
芯部と該芯部を覆う鞘部とからなる鞘芯構造を有し、芯部がポリアミド樹脂からなり、鞘部が芯部よりも曲げ剛性の低いポリアミド樹脂からなる人工毛髪を紡糸する紡糸機であって、
鞘部となるポリアミド樹脂及び芯部となるポリアミド樹脂の溶融槽と、
上記溶融槽から供給される溶融液を吐出する吐出部と、
上記吐出部の吐出口から吐出する糸状溶融物を固化すると共に、表面に凹凸部を形成する温浴部と、
上記温浴部で得られた人工毛髪を延伸する延伸部と、を含み、
上記延伸部の最も温浴部側の第1延伸部が延伸用乾熱ピンを備え、上記温浴部を通った人工毛髪を、上記延伸用乾熱ピンを起点として延伸することを特徴とする、人工毛髪用紡糸機。
【請求項11】
前記温浴部と前記延伸用乾熱ピンとの間に予備加熱を行なうロールを備えたことを特徴とする、請求項10に記載の人工毛髪用紡糸機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−291541(P2007−291541A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118538(P2006−118538)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000126676)株式会社アデランス (49)
【Fターム(参考)】