説明

人工空間を有する鋼板とその製造方法並びにこれを用いた漏洩磁束探傷装置の評価方法

【課題】漏洩磁束探傷による内部欠陥検査装置の性能を評価する。
【解決手段】疑似介在物として、球相当直径が10μm〜90μmの人工空間に、気体、あるいはSiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物を充填し、その大きさと位置が既知であるものを鋼板表面から150〜250μmの位置に有する鋼板を用いて評価する。人工空間を有する鋼板は、第1鋼材と第2鋼材の一方又は両方に人工空間を形成し、双方を拡散接合により接合することによって鋼材中に人工空間を形成し、第1鋼材の接合面でない表面を削り、第1鋼材の表面と人工空間中心との距離が150〜250μmとなるようにして製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩磁束探傷装置による内部欠陥検出機能を評価するために用いる人工空間を有する鋼板とその製造方法並びにこれを用いた漏洩磁束探傷装置の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材の品質に対する要求は厳しさを増している。これに応えるべく、鋼材の表面欠陥はいうまでもなく内部欠陥を的確に検出する技術の開発がなされている。強磁性体材料である鋼材の欠陥を検出するために非破壊検査法による欠陥検出技術が実用化されている。欠陥検出技術としては、超音波探傷法、放射線透過法、漏洩磁束探傷法がある。鋼材の表面あるいは浅いところにある内部欠陥を検出するときには、検出感度や測定の簡便さから漏洩磁束探傷法が用いられている。
【0003】
通常の漏洩磁束探傷では、図1のように鋼材1に磁化器3で磁界を印加して、鋼材1の内部に磁束4を発生させ、内部欠陥によって表面に現れる漏洩磁束6を磁界センサ7で検出し、出力電圧信号処理部で内部欠陥の有無や大きさを推定する。ここで、磁界センサ7と鋼材1との距離Lは小さいほど出力電圧が大きく取れることから内部欠陥の検出性能が向上する。漏洩磁束を検出する磁界センサとしては、軟磁性材料にコイルを巻いた電磁誘導タイプセンサ、軟磁性薄膜で構成された磁気抵抗素子や半導体磁界センサの一つであるホール素子を用いている。ホール素子は半導体の一方向に直流電流を流して、外部磁界によって電流の方向と直交する方向に電圧が発生する素子である。
【0004】
特許文献1では、電磁誘導タイプなどの軟磁性材料を用いた磁界センサは、高感度なものほど磁気飽和し易い点に着目し、絶縁性基板または半導体基板面上に複数個の前記ホール素子をプリント基板上に一定間隔で列状に一列あるいは多数列配置漏洩磁束検出用磁界センサモジュールを開示している。
【0005】
特許文献2では、コイルを装着した直方体コアを高精度で対向配列させるとともに差動結合した感磁素子が多数千鳥状に配置される検出センサを、鋼帯巻掛ロールの外周縁又は内周縁に配置した電磁石によって磁化される鋼帯上方に配設したことを特徴とする鋼帯欠陥検出装置を開示している。
【0006】
特許文献3では、通過中の鋼板(強磁性体金属被検体)を異なる複数の磁化条件で磁化し、各々の磁化条件下で同一場所における漏洩磁束の測定を行い、これらの測定結果同士を演算し、その演算結果に基づいて欠陥判定を行うことを特徴とする漏洩磁束探傷方法を開示している。
【0007】
非特許文献1ないし2には、鋼管のように円筒状の被検査材の周囲を検査用のセンサを有するプローブが周回して欠陥を検出する技術が開示されている。
【0008】
非特許文献3には、ホールセンサを円筒状の物体に配置し、センサを周回させることなく、直径が108mmのパイプの内部欠陥を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−107056号公報
【特許文献2】特開平8−327603号公報
【特許文献3】特開2000−227418号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「山陽の非破壊検査技術」 61頁〜69頁 Sanyo Technical Report,Vol.11,2004,No.1
【非特許文献2】「製品精整の高精度化」 37頁〜41頁 新日鉄技報第386号,2007年
【非特許文献3】“Inspection of the internal cracks on a pipe using a bobbin-type magnetizer and cylinder-type hall sensors array”, pp.33-34 , The 15th international workshop on Electromagnetic Nondestructive Evaluation (ENDE) 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の技術には以下のような問題がある。
【0012】
近年、品質の厳格化に伴い、鋼板表面は言うまでもなく鋼板の内部に存在する欠陥を検出するニーズは高まりつつある。特に、鋼板表面から200μm程度の深さに介在物が存在すると、これが破壊の起点となり鋼板が破断したり、圧延ロールに疵をつけ、周期疵発生の原因となる。内部欠陥の形状は、球状であったり、立方体形状であったり不定形の形状であったりする。しかしながら、内部欠陥検出装置が鋼板表面から所定の深さにおける内部欠陥を検出できるのか否かを評価する具体的手段がないのが実情であった。
【0013】
本発明は、漏洩磁束探傷装置が鋼板の表面から200μm程度の深さに存在する介在物を検出するか否かを具体的に評価するための手段と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、鋭意研究開発の結果、空間の球相当直径が同一であれば、その空間が真空であっても、あるいは気体、SiO2、Al23で充填されていても、その空間の透磁率は実際の鋼板中に存在し同一の球相当直径を有する介在物の透磁率とほぼ同じであることを見出した。球相当直径とは、所定の空間と同じ体積を有する球の直径を意味する。そこでその点に着目し、鋼材表面から200μm程度の位置に球相当直径10μm〜90μmである人工空間をつくり、これを検出できるか否かをもって内部欠陥検出装置の評価とすることで課題を解決することができることを見出したのである。
【0015】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)鋼板表面から150〜250μmの位置にその中心を有する球相当直径が10μm〜90μmの人工空間を少なくとも一つ有する鋼板であって、
前記人工空間は真空であるか、気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物が充填されており、
前記人工空間毎に、その球相当直径、その中心と鋼板表面との距離、その中心の鋼板表面へ垂直になされた投影位置が既知であることを特徴とする人工空間を有する鋼板。
ただし、球相当直径とは、当該人工空間と同じ体積を有する球の直径を意味する。
(2)第1鋼材と第2鋼材の一方の表面を削って球相当直径が10μm〜90μmの球と同じ体積を有する空間を作り、前記第1鋼材と第2鋼材とを空間を有する表面を接合面として拡散接合により接合することによって鋼材中に人工空間を形成し、該人工空間を真空にし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物で充填し、
第1鋼材の接合面でない表面を削り、第1鋼材の表面と人工空間の中心との距離を150〜250μmとすることを特徴とする請求項1に記載の人工空間を有する鋼板の製造方法。
(3)第1鋼材表面を削って10μm〜90μmの直径を有する半球状の空間を作り、第2鋼材表面にも第1鋼材と同一の半球状の空間を作り、
第1鋼材と第2鋼材につくられた半球状の空間が結合されて形成される球状空間を真空とし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物を充填し、
第1鋼材と第2鋼材とを拡散接合により接合し、
接合面でない第1鋼材の表面を削り、第1鋼材の表面と前記拡散接合部とが150〜250μmとすることを特徴とする上記(1)に記載の人工空間を有する鋼板の製造方法。
(4)第1鋼材表面を削って直径10μm〜90μmの球と同じ体積を有する上蓋のない立方体状空間を作り、前記上蓋のない立方体状空間と第2鋼材が結合されて形成される人工空間を真空とし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物で充填し、
第1鋼材と第2鋼材とを拡散接合により接合し、
接合面でない第1鋼材の表面を削り、第1鋼材の表面と前記拡散接合部とが150〜250μmから前記人工空間の球相当直径の半分の長さを差し引いた距離とすることを特徴とする上記(1)に記載の人工空間を有する鋼板の製造方法。
(5)上記(1)に記載の人工空間を有する鋼板を用い、人工空間を内部欠陥として検出するか否かを判定することを特徴とする漏洩磁束探傷装置の内部欠陥検出性能検査方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法により、漏洩磁束探傷装置が鋼材表面から200μm程度の位置に存在する10μm〜90μmの球相当直径を有する大きさの介在物を検出できるか否かをオフラインで適切に評価できるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】漏洩磁束探傷装置の一例を示す図である。
【図2】球状の人工空間を有する鋼板の断面図であり、(a)は接合後、(b)は接合前を示す。
【図3】立法体状の人工空間を有する鋼板の断面図であり、(a)は接合後、(b)は接合前を示す。
【図4】球状の人工空間を有する鋼板を用いた漏洩磁束探傷装置の検査
【図5】立方体状の人工空間を有する鋼板を用いた漏洩磁束探傷装置の検査
【図6】実施例に用いた形状の人工空間を有する鋼板とそれへの漏洩磁束探傷装置の検査
【図7】実施例に用いた形状の人工空間を有する鋼板の断面図であり、(a)は接合後、(b)は接合前を示す。
【図8】疑似介在物を有する鋼板への検査結果
【図9】実ラインで製造された鋼板への介在物検査結果
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、鋼板の内部に形成する人工空間の形状は、当該人工空間と同じ体積を有する球の直径を球相当直径としたとき、球相当直径が10〜90μmであれば人工空間の形状を問わない。また、人工空間を有する鋼板の製造方法としては、第1鋼材と第2鋼材の一方の表面を削って球相当直径が10μm〜90μmの球と同じ体積を有する空間を作り、前記第1鋼材と第2鋼材とを空間を有する表面を接合面として拡散接合により接合することによって鋼材中に人工空間を形成し、該人工空間を真空にし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物で充填し、第1鋼材の接合面でない表面を削り、第1鋼材の表面と人工空間の中心との距離を150〜250μmとする方法を採用することができる。
【0019】
以下、第1の実施の形態として人工空間が球状である場合、第2の実施の形態として人工空間が立方体状である場合について説明する。
【0020】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、直径が10μm〜90μmの球状の人工空間を少なくとも一つを内包する人工空間を有する鋼板を用いて漏洩磁束探傷装置の内部欠陥検出性能を検査する方法である。
【0021】
(検査に用いる鋼板)
検査に用いる鋼板について図2を用いて説明する。
【0022】
検査には、鋼板表面から150〜250μmの位置にその中心を有する直径が10μm〜90μmの球状の人工空間を少なくとも一つ以上内包する鋼板を用いる。球状の人工空間は疑似内部欠陥に相当する。
【0023】
前記球状の人工空間毎に、その直径、その中心と鋼板表面との距離、その中心の鋼板表面側への垂直投影位置が既知である。どこにどのような疑似内部欠陥が存在するかを把握していなければ正確な内部欠陥検出装置の評価を行うことができないからである。
【0024】
前記球状の人工空間は人工球状欠陥であり、検出する介在物に応じて、人工空間を真空とし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物が充填されていても良い。気体の種類としては、空気、アルゴン、又は水素とすることができる。
【0025】
(検査に用いる鋼板の製造方法)
鋼板を2枚用意し、一方を第1鋼材、他方を第2鋼材と称する。
【0026】
まず、第1鋼材表面を削って10μm〜90μmの直径を有する半球状の空間を作り、第2鋼材表面にも第1鋼材と同一の半球状の空間を作る。
【0027】
次に、第1鋼材と第2鋼材につくられた半球状の空間が結合されて球状空間となるように第1鋼材と第2鋼材とを拡散接合により接合する。拡散接合をするのは簡易かつ確実に鋼板を接合できるからである。拡散接合は、制御された雰囲気中で第1鋼材と第2鋼材を融点以下でかつ再結晶温度以上に加熱し、大きな形状変化を生じないように加圧して接合する方法である。接合面が平滑でかつ清浄であることが重要であり、接合前に機械的あるいは化学的に研磨し、表面粗さを2.5μm以下とすると良い。接合雰囲気としては、真空(10-2〜10-4Pa)とするか、あるいはアルゴンや水素雰囲気とする。
【0028】
人工空間内部の雰囲気について、通常は拡散接合を行う際の雰囲気の種類によって決まる。即ち、拡散接合を真空中で行えば、人工空間は真空となる。また、拡散接合をアルゴン雰囲気中で行えば人工空間はアルゴンで充填される。一方、拡散接合の前に人工空間の内部にSiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物を充填すれば、拡散接合後の人工空間がこれら酸化物で充填されることとなる。
【0029】
さらに、接合面でない第1鋼材の表面を削り、第1鋼材の表面と前記拡散接合した面との距離が150〜250μmとなるようにする。こうすることで、10μm〜90μmの直径を有する球状の人工空間の中心が第1鋼材表面から150〜250μmの位置とすることができるからである。
【0030】
(検査に用いる鋼板の数値限定理由)
鋼板表面から200μm程度の位置に存在する介在物を検出し得るか否かを評価することが目的である。製造誤差はおよそ−50〜+50μm程度あることから、鋼材表面から150〜250μmの位置に球状空間を作ることとした。また、検出対象の内部欠陥である介在物の大きさが10μm〜90μmであることから球状の人工空間の直径を10μm〜90μmとした。
【0031】
図4を用いて漏洩磁束探傷装置の内部欠陥検出性能を検査する態様について説明する。
【0032】
検査に用いる鋼板の表面上に励磁コイル9から構成される磁化器3と磁気センサ7を設置する。設置後、励磁コイル9に直流電流を流し、鋼材から発生する磁界を磁気センサ7で測定する。測定後、励磁コイル9の直流電流を止め、交流電流を流し、鋼材を消磁させる。その後、図4のx方向に磁化器3とセンサ7を動かし、これら操作を繰り返す。ここで、検出信号としては、例えば、磁界の空間微分値とし、空間微分値に変化があるところが、疑似内部欠陥の存在位置となる。なお、磁界値の変化で、疑似内部欠陥の存在を検知することもでき、この場合は、疑似介在物がない鋼材から発生する磁界分布の差で変化を見ることになる。
【0033】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、球相当直径が10μm〜90μmの人工立方体状空間を少なくとも一つ以上内包する鋼板を用いて漏洩磁束探傷装置の内部欠陥検出性能を検査する方法である。検査に用いる鋼板について図2を用いて説明する。
【0034】
(検査に用いる鋼板の構造)
検査には、鋼板表面から150〜250μmの位置にその中心を有する球相当直径が10μm〜90μmの人工立方体状空間を少なくとも一つ内包する鋼板を用いる。立方体状人工空間は疑似内部欠陥に相当する。
【0035】
前記立方体状人工空間毎に、1辺の長さ、その中心と鋼板表面との距離、その中心の鋼板表面への垂直投影位置が既知である。どこにどのような疑似内部欠陥が存在するかを把握していなければ正確な内部欠陥検出装置の評価を行うことができないからである。
【0036】
前記立方体状人工空間は人工立方体状欠陥であり、検出する介在物に応じて、人工空間を真空とし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物が充填されていても良い。
【0037】
(検査に用いる鋼板の製造方法)
鋼板を2枚用意し、一方を第1鋼材、他方を第2鋼材と称する。
【0038】
直径がdである球の体積はπd3/6であるから、当該球と同じ体積の立方体についてはその1辺が(π/6)1/3d≒0.8dとなる。そこで、図3(b)に示すように第2鋼材表面を削って1辺が8μm〜70μmの直方体状空間を作り、これと第1鋼材とを拡散接合により接合することで、立方体空間を成形する。あるいは、第1鋼材表面を削って1辺が8μm〜70μmであり、当該1辺の長さの半分を深さとする上蓋のない直方体状空間を作り、前記上蓋のない直方体状空間の上に第1鋼材と同様な直方体を作った第2鋼材を第1鋼材と拡散接合により接合することで、立方体空間を成形する。拡散接合をするのは簡易かつ確実に鋼板を接合できるからである。拡散接合は前記第1の実施の形態と同様に実施することが出来る。
【0039】
第1鋼材と第2鋼材とで形成される立方体状の人工空間を真空とし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物が充填した後に、第1鋼材と第2鋼材とを拡散接合により接合する。
【0040】
接合面でない第1鋼材の表面を削り、第1鋼材の表面と前記人工空間の中心との距離を150〜250μmとする。こうすることで、図3(a)に示すように、10μm〜90μmの球相当直径を有する立方体の中心が第1鋼材表面から150〜250μmの位置となる。
【0041】
(検査に用いる鋼板の数値限定理由)
鋼板表面から200μm程度の位置に存在する介在物を検出できるか否かを評価することが目的である。製造誤差はおよそ−50〜+50μm程度あることから、鋼材表面から150〜250μmの位置に立方体状空間を作ることとした。
【0042】
また、内部欠陥である介在物の大きさ(球相当直径)が10μm〜90μmであることから立方体状人工空間の体積を直径10μm〜90μmの球と同一とした。
【0043】
図5を用いて漏洩磁束探傷装置の内部欠陥検出性能を検査する態様について説明する。
【0044】
検査に用いる鋼板の上に励磁コイル9から構成される磁化器3と磁気センサ7を設置する。設置後、励磁コイル9に直流電流を流し、鋼材から発生する磁界を測定する。測定後、励磁コイル9の直流電流を止め、交流電流を流し、鋼材を消磁させる。その後、図5のx方向に磁化器3とセンサ7を動かし、これら操作を繰り返す。ここで、検出信号としては、例えば、磁界の空間微分値とし、空間微分値に変化があるところが、疑似内部欠陥の存在位置となる。なお、磁界値の変化で、疑似内部欠陥の存在を検知することもでき、この場合は、疑似介在物がない鋼材から発生する磁界分布の差で変化を見ることになる。
【実施例】
【0045】
本発明に従い、図6に示すように、表層から225μm深さ内部に、径50μm高さ50μmの円柱状の人工空間(疑似内部欠陥)が存在する長さ100mm、幅10mm、厚み4mmの試料を作成した。ここで、鋼板の材質は、S45Cの炭素鋼であり、円柱状の人工空間(疑似内部欠陥)は、拡散接合前に、図7(b)に示すように、鋼板の一つに、直径50μmのドリルで50μmの深さまで切削し、もう一つの同じ寸法の鋼板を穴の開いた方の鋼板に重ねて、公知の拡散接合法により真空雰囲気中で接合した。その後、疑似内部欠陥の表面からの深さを調整するために、図7(a)の表面14側を研磨し、最終的に図6に示す表面から200μm深さに人工空間(疑似内部欠陥)が存在するように作成した。ここで、図6に示す疑似内部欠陥の断面が長方形ではなく、一方が三角状に描いているのは、ドリル加工の場合、ドリル先端が鋭角な形状によるものである。加工方法によって、人工空間(疑似内部欠陥)の形状は、正確な球形や立方形状からずれた形をとる場合がある。本発明では、本実施例のように、内部欠陥の形状が、円柱状と三角錐状を組み合わせたものも含まれる。人工空間内の雰囲気は真空となった。
【0046】
本作成した試料を用いて、図6に示されているように、励磁コイル9から構成された磁化器3と磁気センサ7を鋼板の長手方向(X方向)に走査させて疑似内部欠陥の位置検知を行った。ここで、励磁コイルには、0.8Aの直流電流を流し、磁気センサには、感磁領域が20μm角の磁気ホール素子を用いた。位置検知には、試料に発生する磁界の空間微分値を信号として測定した。
【0047】
図8(a)は、鋼材の材質がS45Cの内部介在物が無い場合の長さ100mm、幅10mm、厚み4mmの試料を使った内部欠陥検知の結果を示す。グラフが示すように、内部欠陥の存在を示す磁界の空間微分値は得られない。一方、上述の図6に示すような内部欠陥が表層から200μm深さにある試料では、図8(b)が示すように、内部欠陥を示す磁界の空間微分値の変化を信号として得ることができた。
【0048】
一方、具体的に工場で製造された実際の鋼材試料に対して、深さ200μm内部に存在する50μm径の介在物の検知を行った。上述と同様に、励磁器3と磁気センサ7を鋼板表面上に設置し、直流電流0.8Aを流し、感磁領域が20μm角の磁気ホール素子を用いて、鋼板表面上を走査検知した。その結果、図9に示すように、磁界の空間微分値に変化が出た部分を取り出し、断面研磨と顕微鏡観察を行ったところ、介在物の存在を確認出来た。また、この試料を、さらにスライム法などで介在物のみの抽出を行い、成分分析したところ、シリカ系の介在物であることを確認出来た。
【0049】
また、上記人工空間内に、気体としてアルゴン又は窒素、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgO、並びにこれらの混合物を入れて拡散接合し、上記と同様、鋼材に発生する磁界の空間微分値を信号として測定した。ここで、アルゴン、窒素は、拡散接合時の雰囲気をアルゴン、窒素に置き換えて行ったものである。結果を表1に示す。いずれの充填の場合も、図6に示すような内部欠陥が表層から200μm深さにある試料では、内部欠陥を示す磁界の空間微分値の変化が信号として得られた。
【0050】
【表1】

【符号の説明】
【0051】
1 被検査材
2 人工空間を有する鋼板
3 磁化器
4 磁束
5 内部欠陥
6 漏洩磁束
7 磁気センサ
8 信号処理部
9 励磁コイル
10 人工空間
11 接合部
12 人工立法体空間
13 疑似介在物
14 研磨表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面から150〜250μmの位置にその中心を有する球相当直径が10μm〜90μmの人工空間を少なくとも一つ有する鋼板であって、
前記人工空間は真空であるか、気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物が充填されており、
前記人工空間毎に、その球相当直径、その中心と鋼板表面との距離、その中心の鋼板表面へ垂直になされた投影位置が既知であることを特徴とする人工空間を有する鋼板。
ただし、球相当直径とは、当該人工空間と同じ体積を有する球の直径を意味する。
【請求項2】
第1鋼材と第2鋼材の一方の表面を削って球相当直径が10μm〜90μmの球と同じ体積を有する空間を作り、前記第1鋼材と第2鋼材とを空間を有する表面を接合面として拡散接合により接合することによって鋼材中に人工空間を形成し、該人工空間を真空にし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物で充填し、
第1鋼材の接合面でない表面を削り、第1鋼材の表面と人工空間の中心との距離を150〜250μmとすることを特徴とする請求項1に記載の人工空間を有する鋼板の製造方法。
【請求項3】
第1鋼材表面を削って10μm〜90μmの直径を有する半球状の空間を作り、第2鋼材表面にも第1鋼材と同一の半球状の空間を作り、
第1鋼材と第2鋼材につくられた半球状の空間が結合されて形成される球状空間を真空とし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物を充填し、
第1鋼材と第2鋼材とを拡散接合により接合し、
接合面でない第1鋼材の表面を削り、第1鋼材の表面と前記拡散接合部とが150〜250μmとすることを特徴とする請求項1に記載の人工空間を有する鋼板の製造方法。
【請求項4】
第1鋼材表面を削って直径10μm〜90μmの球と同じ体積を有する上蓋のない立方体状空間を作り、前記上蓋のない立方体状空間と第2鋼材が結合されて形成される人工空間を真空とし、あるいは気体、SiO2、Al23、ZrO2、TiO2、CaO、MgOないしこれらの混合物で充填し、
第1鋼材と第2鋼材とを拡散接合により接合し、
接合面でない第1鋼材の表面を削り、第1鋼材の表面と前記拡散接合部とが150〜250μmから前記人工空間の球相当直径の半分の長さを差し引いた距離とすることを特徴とする請求項1に記載の人工空間を有する鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の人工空間を有する鋼板を用い、人工空間を内部欠陥として検出するか否かを判定することを特徴とする漏洩磁束探傷装置の内部欠陥検出性能検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−237640(P2012−237640A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106653(P2011−106653)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】