説明

人工骨製造方法及び当該方法によって製造された人工骨

【課題】接合部において正確な成形、更には適切な強度を実現し得るような人工骨の製造方法及び当該方法に基づく人工骨を提供すること。
【解決手段】金属バイオマテリアル、人工骨1用セラミック、人工骨1用プラスチック樹脂のうちから選ばれる1種以上の粉末2層に対し、人工骨1の形状に対応する画像データに基づいて、電磁波又は電子線7を照射することによって焼結するか、又は溶融し、当該焼結に基づく層、又は当該溶融が固化したことに基づく層を積層する人工骨1製造方法であって、人体の骨部との接合部を構成する両側端部11及びその近傍における内側面及び/又は外側面に対し、前記画像データに基づく回転工具6の切削によって、表面仕上工程を採用すると共に、前記接合部を構成する両端及びその近傍における電磁波又は電子線7の照射の程度を、他の領域の場合よりも大きく設定することによって前記課題を達成することができる人工骨1製造方法、及び当該方法によって製造された人工骨1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の手術等に対応して使用される人工骨において、三次元造形方法を利用した製造方法及び当該方法に基づく人工骨に関するものである。
【背景技術】
【0002】
欠損又は損傷が行われた人体の骨部に対する人工骨の移植技術は、医療技術の進展に伴ってその需要は拡大する傾向にある。
【0003】
人工骨製造方法としては、特許文献1に示すように、人工骨画像データに基づいて金属、樹脂及びセラミックの内から選択された1種類以上の粉末層に対し、レーザ焼結を行い、当該焼結層を積層する方法が普及している。
【0004】
ところで、人工骨においては、人体の骨部との接合部を構成する両側端部及びその近傍においては、正確な形状に成形することが不可避とされている。
【0005】
しかしながら、従来の人工骨製造方法においては、この点に関する格別の配慮又は工夫が行われている訳ではなく、特許文献1においてもその例外ではない。
【0006】
更には人工骨の前記接合部においては、接合による疲労及び摩耗を防止するために、他の領域部に比し、より大きな強度が要求されている。
【0007】
しかるに、前記のようなレーザ焼結を採用しているにも拘らず、従来技術においては、この点に関する格別の配慮を伴った構成が提唱されている訳ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】W02007/122783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、接合部において正確な成形、更には適切な強度を実現し得るような人工骨の製造方法及び当該方法に基づく人工骨を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、
(1)金属バイオマテリアル、人工骨用セラミック、人工骨用プラスチック樹脂のうちから選ばれる1種以上の粉末層に対し、人工骨の形状に対応する画像データに基づいて、電磁波又は電子線を照射することによって焼結するか、又は溶融し、当該焼結に基づく層、又は当該溶融が固化したことに基づく層を積層する人工骨製造方法であって、人体の骨部との接合部を構成する両側端部及びその近傍における内側面及び/又は外側面に対し、前記画像データに基づく回転工具の切削によって、表面仕上工程を採用している人工骨製造方法、
(2)人工骨の外側面のうち、人体の骨部との接合部以外の領域に対し、回転工具の切削による表面仕上工程を採用していることを特徴とする前記(1)の人工骨の製造方法、
(3)接合部を構成する両端及びその近傍における電磁波又は電子線の照射の程度を、他の領域の場合よりも大きく設定していることを特徴とする前記(1)の人工骨製造方法、
(4)前記(1)、(2)、(3)の何れか一項に記載の製造方法によって製造された人工骨、
からなる。
【発明の効果】
【0011】
前記(1)、(2)、(3)、(4)の基本構成に基づき、本発明に係る人工骨の場合には、人体の骨との接合部を構成する端部及びその近傍において、正確な成形、更には必要な強度を実現でき、人工骨において基本的に要請される機能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】内部中空状態にある人工骨であって、(a)はパイプ形状の見取図を示しており、(b)は部分的なパイプ形状の見取図を示しており、(c)はパイプ形状と部分的なパイプ形状との結合に基づく見取図を示す。
【図2】長手方向に沿った周壁の内側が三次元のメッシュ状態となっている人工骨であって、(a)は長手方向断面図を示しており、(b)は当該長手方向と直交する方向の断面図を示す(但し、(b)における断面は(a)におけるA−Aの部位によって示す。)。
【図3】長手方向に沿った中空状の周壁を形成している人工骨であって、(a)は周壁がメッシュ状態を呈する場合の側面図を示しており、(b)は周壁が孔の集中状態を呈する場合の側面図を示す。
【図4】粉体に対する電磁波又は電子線の照射及び回転工具による切削によって、人工骨の成形を説明しており、(a)は電磁波又は電子線の照射による焼結工程に関する断面図を示しており、(b)は焼結領域の外壁を成形するための切削工程に関する断面図を示しており、(c)は外壁成形のための切削工程が終了した後の更なる粉末の積層工程に関する断面図を示しており、(d)は(a)、(b)、(c)の各工程が終了した後における内壁の成形工程に関する断面図を示す(白線の矢印は回転工具の公転する状況を示しており、実線の矢印は回転工具の自転する状況を示している。)。
【図5】本発明に、CAD/CAMシステムを適用した場合のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般に人工骨1は図1に示すような周壁の内部を中空とする構成及び図2に示すような周壁の内部を三次元構造のメッシュ状態とするような構成の何れかが採用されている(尚、図2においては、長手方向に沿った全領域において三次元構造のメッシュ状態としているが、その一部の領域、例えば接合部を形成する両端及びその近傍以外の内部を前記メッシュ状態とする構成も採用することができる。)。
但し、前記中空状態の場合には、図1(a)、(b)、(c)に示すようなパイプ形状、部分的パイプ形状、又はこれらの結合形状の何れかが採用されており、更には体液の浸透又は人体組織への進入を目的として、図3(a)、(b)に示すように、長手方向に沿った周壁の全領域又は一部領域において、メッシュ状態及び孔の集合状態を採用することもある(尚、図3(a)、(b)においては、両端部11及びその近傍以外の領域においてメッシュ状態又は孔の集合状態を採用しているが、これらの状態は両端部11及びその近傍に及ぶような構成も当然採用可能である。)。
【0014】
何れの形態においても、人工骨1においては、両端及びその近傍において人体の骨との接合が行われている。
【0015】
殆ど大抵の場合には、人工骨1を外側とし、人体の骨を内側とするような接合によって、ビスによる固着が行われているが、例外的には人体の骨を外側とし、人工骨1を内側とするような接合も採用され得る。
但し、接合部を構成する両端部11及びその近傍においては、人体の骨の形状に合わせた正確な成形が要求されると共に、接合部における摩耗及び疲労を避けるため、当該接合部位においては他の領域の部位よりも大きな強度を必要としている。
【0016】
前記基本構成(1)においては、金属バイオマテリアル、人工骨1用セラミック、人工骨1用プラスチック樹脂の何れか1種以上の粉末2層に対し、図4(a)、(c)に示すように、電磁波又は電子線7を照射することによって焼結を行い、順次当該焼結層を積層するという従来技術に立脚したうえで、接合が行われる端部11及びその近傍における内側面及び/外側面に対し、回転工具6の切削によって図4(b)、(d)に示すように、最終的な成形を行っており、当該請求によって、正確な接合面を実現している。
【0017】
そして、回転工具6の切削に基づく表面粗さの最大径を10μmとした場合には、極めて正確な成形が可能であって、医療現場の要請にマッチすることができる。
【0018】
接合部を構成する端部11及びその近傍の内側面の場合には、回転工具6による切削に格別の支障は生ずる訳ではなく、その意味においても、前記基本構成(1)は技術的価値が存在する。
【0019】
因みに、端部11及びその近傍以外の内側面が湾曲している人工骨1の場合、又は端部11及びその近傍よりも更にその内側の径が拡大している人工骨1の場合には、緻密な回転径を採用している通常の回転工具6では内側面の切削成形に支障が生ずる場合がある。
但し、そのような場合であっても、例えば先端側の回転径が拡大しているような特殊形状の回転工具を採用することによって、上記支障を克服することができる。
【0020】
前記基本構成(1)においては、端部11及びその近傍における内側面及び外側面の双方について切削研磨を行う方法も包摂されているが、このような構成の場合には、接合が行われる内側面において正確な成形を実現するだけでなく、切削研磨によって滑らかな端部11における外側面を成形し、筋肉の無駄な癒着を避けることも可能となる。
【0021】
このような状況に着目し、前記基本構成(2)においては、人工骨1の外側面のうち、人体の骨部との接合部以外の領域に対し、回転工具6の切削による表面仕上工程を採用している。
【0022】
人体の骨部との接合端部11の先端部位においては、複雑な形状を有する場合がある。
【0023】
このような場合、両側端部における先端面に対し、回転工具6の切削工程を付加していることを特徴とする実施形態は、前記のような複雑な形態に対し正確な先端部の造形を可能とすることから、好適に適用することができる。
【0024】
通常の成形では、外側面においては、電磁波又は電子線7の焼結成形の後に回転工具6による切削成形が行われ、更なる積層という工程を経るが、内側面の場合には、外側面の切削成形が終了した後に行われる場合が多い。
尚、前記の前記の接合部を構成する両側端部11の先端面に対する回転工具6の切削を行う場合には、内側面の切削よりも前及び後の何れをも選択可能であるが、通常は前段階に行われる場合が多い。
【0025】
前記基本構成(3)においては、接合部を構成する端部11及びその近傍における照射量を他の領域の場合に比し、多く設定することによって接合部の強度を増大させ、当該接合部における人工骨1の摩耗及び疲労を極力減少させている。
【0026】
端部11及びその近傍における照射量を大きく設定するためには、単位面積当たりの照射量を増加させるか、又は照射時間を増加させるかの何れかを選択することができる。
【0027】
図3(a)、(b)に示すような長手方向に沿った周壁の全領域又は一部の領域を、メッシュ状態又は孔の集合状態を形成する場合には、当該中途部位の領域における必要な強度を維持するため、これらの状態を形成しない領域に比し、電磁波又は電子線7の照射量を多く設定することも可能である。
但し、メッシュ状領域の面積又は孔の集合状態における数及び孔の大きさ更には当該集合状態によって形成される面積によっては、これらの状態を形成しない領域に対し強度を低くして人骨の強度と同程度に設定するという選択も可能である。
【0028】
前記基本構成(3)及び上記図3(a)、(b)の実施形態において、単位面積当たりの照射量又は照射時間を変化させる場合には、図5に示すようなCAD/CAMシステム3を採用し、CADシステム31によって人工骨1の形状に対応する画像データを設定したうえで、CADシステム31又はCAMシステム32によって人工骨1の各領域における電磁波又は電子線7の単位面積当たりの照射量又は照射時間を設定することを特徴とする実施形態によって実現する場合が多い。
【0029】
前記CAD/CAMシステム3を採用している実施形態において、人工骨1の各領域に対応して電磁波又は電子線7の単位面積当たりの照射量又は照射時間の設定に基づいて、所定の領域ごとに電磁波又は電子線7の照射量が変化した場合には、当該所定の領域における人工骨1の強度が変化することから、回転工具6によって切削を行う場合の適切な移動速度及び/又は回転速度が変化することになる。
【0030】
このような状況に対応して、電磁波又は電子線7の単位面積当たりの照射量又は照射時間に対応して、CADシステム31又はCAMシステム32によって、更に回転工具6における移動速度及び/又は回転速度を設定することを特徴とする実施形態を採用すると良い。
【0031】
一般に電磁波又は電子線7を照射するスポット径を100μm以下とした場合には、端部11及びその近傍だけでなく、他の領域においても正確かつ微細な成形に寄与することができる。
【0032】
金属バイオマテリアルとしては、Ti-6Al-7Nb、純Ti、Ti-6Al-4V、Ti−29Nb−13Ta−16Zr、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−5Al−5V−5Cr、Ti−15Zr−4Nb−4Ta、Co-Cr合金、SUS3162、SUS630が採用され、人工骨1用セラミックとしては、リン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト、α-リン酸カルシウム、β-リン酸カルシウム等)が採用することができ、人工骨1用プラスチック樹脂としては、強度の関係上ポリカーボネート、ポリエステルが好適に採用されている。
【0033】
以下、実施例に即して説明する。
【実施例】
【0034】
実施例においては、接合部を構成する両端又はその近傍における積層粉末2として、金属バイオマテリアル粉末又は当該粉末を主成分とする粉末2を採用していることを特徴としている。
【0035】
このような実施例においては、前記両端及びその近傍において、金属バイオマテリアル粉末のみ又は当該粉末を主成分とすることによって、必要な強度を維持することができ、前記基本構成(2)に重畳して接合部における摩耗及び疲労に対処することが可能となる。
【0036】
前記両端部11及びその近傍以外の領域について、実施例による上記粉末以外の粉末2を採用している場合には、前記両端部11及びその近傍における照射に至った段階にて、上記粉末に切り替えて積層することから、実施例の場合には、粉末2を散布するノズルを2個以上使用すると良い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、人工骨の製造及び使用現場において広範に利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 人工骨
11 端部
2 粉末
21 焼結領域
3 CAD/CAMシステム
31 CADシステム
32 CAMシステム
4 NCコントローラー
5 電磁波又は電子線の照射用装置
6 回転工具
7 電磁波又は電子線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属バイオマテリアル、人工骨用セラミック、人工骨用プラスチック樹脂のうちから選ばれる1種以上の粉末層に対し、人工骨の形状に対応する画像データに基づいて、電磁波又は電子線を照射することによって焼結するか、又は溶融し、当該焼結に基づく層、又は当該溶融が固化したことに基づく層を積層する人工骨製造方法であって、人体の骨部との接合部を構成する両側端部及びその近傍における内側面及び/又は外側面に対し、前記画像データに基づく回転工具の切削によって、表面仕上工程を採用している人工骨製造方法。
【請求項2】
人工骨の外側面のうち、人体の骨部との接合部以外の領域に対し、回転工具の切削による表面仕上工程を採用していることを特徴とする請求項1記載の人工骨の製造方法。
【請求項3】
回転工具の切削に基づく表面粗さの最大値が10μmであることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の人工骨の製造方法。
【請求項4】
両側端部における先端面に対し、回転工具の切削工程を付加していることを特徴とする請求項1、2、3の何れか一項に記載の人工骨の製造方法。
【請求項5】
接合部を構成する両端及びその近傍における電磁波又は電子線の照射の程度を、他の領域の場合よりも大きく設定していることを特徴とする請求項1、2、3、4の何れか一項に記載の人工骨製造方法。
【請求項6】
長手方向に沿った中空状の周壁の全部領域又は一部領域において、メッシュ状又は孔の密集領域を形成しており、当該領域につき、他の領域よりも電磁波又は電子線の照射量を大きく設定していることを特徴する請求項1、2、3、4、5の何れか一項に記載の人工骨製造方法。
【請求項7】
CADシステムによって人工骨の形状に対応する画像データを設定したうえで、CADシステム又はCAMシステムによって人工骨における電磁波又は電子線の単位面積当たりの照射量又は照射時間を設定することを特徴とする請求項5、6の何れか一項に記載の人工骨の製造方法。
【請求項8】
電磁波又は電子線の単位面積当たりの照射量又は照射時間に対応して、CADシステム又はCAMシステムによって、更に回転工具における移動速度及び/又は回転速度を設定することを特徴とする請求項7記載の人工骨の製造方法。
【請求項9】
長手方向に沿った周壁の内側の全部領域又は一部領域を三次元のメッシュ状態とすることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8の何れか一項に記載の人工骨製造方法。
【請求項10】
接合部を構成する両端又はその近傍における積層粉末として、金属バイオマテリアル粉末又は当該粉末を主成分とする粉末を採用していることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9の何れか一項に記載の人工骨製造方法。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の何れか一項に記載の人工骨製造方法によって製造された人工骨。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−218078(P2011−218078A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92949(P2010−92949)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000146087)株式会社松浦機械製作所 (40)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】