説明

人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物及び積層体

【課題】スチレン放散量及び全モノマー放散量を大幅に低減でき、耐熱性(変色)、耐衝撃性、意匠性に優れ、高級感を有する人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物、該樹脂組成物積層体の提供。
【解決手段】不飽和ポリエステル55〜75質量%及び重合性単量体25〜45質量%からなる不飽和ポリエステル樹脂、かつ沸点120℃未満の単量体が不飽和ポリエステル樹脂100質量%に対して0〜20質量%で、該単量体は、アルキル置換スチレン系単量体が全単量体成分100質量%に対して45〜95質量%、分子量150以下の(メタ)アクリレート系単量体が5〜55質量%、コバルト塩を必須とし、全金属成分が不飽和ポリエステル樹脂に対して0.001〜0.1質量%の金属石鹸不飽和ポリエステル樹脂に対して50〜400質量部の無機充填材である人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物及び積層体に関する。より詳しくは、高級住宅建材等に広く利用されている人造大理石を得るのに用いられる不飽和ポリエステル樹脂組成物、及び、該樹脂組成物を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
人造大理石は、樹脂に各種無機物を充填した素材であり、天然の大理石と見紛うばかりの外観を有することから、高級住宅建材等として、例えば、タイル、壁用パネル等の建築用装飾材;浴槽(バスタブ)、洗面化粧台(洗面カウンター)、流し台(シンク)、浴室パネル、システムキッチン天板(キッチンカウンター)、テーブル天板、トイレカウンター等の住設機器;各種装飾品、表札等に広く利用されている。人造大理石に用いられる樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂やアクリル樹脂等が使用されており、例えば、これらの樹脂に充填材や硬化剤等の添加剤を配合した樹脂組成物を所望の注型用金型に注入して加熱硬化させることにより、人造大理石が製造されている。このような人造大理石用の樹脂においては、意匠性や強度、耐候性の他、耐熱水性、熱衝撃や寒熱繰り返しに耐え得る耐衝撃性等が要求されており、これらの性能を満足し得る樹脂が種々検討されている。
【0003】
ところで、昨今では、住宅や車両の内装用部材に使用される塗料や接着剤等の樹脂組成物中に含まれるトルエン、キシレン、スチレン等の揮発性有機物質(VOC;Volatile Organic Compounds)がシックハウス症候群の原因の1つと考えられ、室内におけるこれらVOC物質の放散を減少させることが強く求められている。法的な規制としては、例えば、厚生労働省の13物質に対するガイドラインや、国土交通省による建築基準法の改正、文部科学省の学校施設の規制等があり、これら全てにおいてスチレンの使用制限がなされている。また、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出把握管理促進)法により、有害性ある多種多様な化学物質が、どのような発生源からどのくらい環境中に排出されたか又は廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表する義務が事業者に課されるようになり、このPRTR法に定める物質には「スチレン」が挙げられている。したがって、主に住宅建材等に利用される人造大理石用途においては、スチレン放散量を充分に低減することによって現在の法規制に充分に対応できるとともに、耐熱水性や耐衝撃性等の各種物性を発揮することができる樹脂の開発が要望されている。
【0004】
従来の人造大理石用の樹脂に関し、不飽和ポリエステルと重合性不飽和単量体とを含有し、その硬化物の光沢保持率が60%以上である人工大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物が開示されており(例えば、特許文献1参照。)、実施例において、重合性不飽和単量体としてスチレンモノマーのみを用いた樹脂組成物が記載されている。しかしながら、この樹脂組成物においては、スチレンの放散量を充分に低減することにより、現在の法規制に充分に対応できるようにするとともに、耐熱水性や耐衝撃性等の物性により優れた人造大理石を得ることができるようにするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2002−121238号公報(第2、8頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、スチレン放散量及び全モノマー放散量を大幅に低減するとともに、耐熱性(変色)及び耐衝撃性等の充分な性能を有し、意匠性に優れ、高級感を有する人造大理石を与えることができる人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物並びに該樹脂組成物を用いた積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、人造大理石用樹脂組成物について種々検討したところ、不飽和ポリエステル及び重合性単量体を含有する樹脂組成物が、透明性や強度等の点で人造大理石用途に有用であることに着目し、重合性単量体としてアルキル置換スチレン系単量体を用いると、スチレン放散量を削減して法規制に充分に対応できることを見いだし、更に特定分子量の(メタ)アクリレート系単量体と併用すると、該(メタ)アクリレート系単量体が希釈効果の高いものであることに起因して、少量の重合性単量体で樹脂の低粘度化を実現することができ、耐候性や耐熱性、耐久性等の各種物性に優れた硬化物が得られることを見いだした。また、これらの単量体を併用することにより、成形体からの残存モノマー(単量体)の放散を抑制できることも見いだした。そして、不飽和ポリエステル樹脂、金属石鹸及び無機充填材を特定割合で含有し、更に、上記重合性単量体を、沸点120℃未満の単量体が特定量以下であるものとすることにより、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、不飽和ポリエステル樹脂、金属石鹸及び無機充填材を含有する人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、上記不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ポリエステル55〜75質量%及び重合性単量体25〜45質量%からなり、沸点120℃未満の単量体が不飽和ポリエステル樹脂100質量%に対して0〜20質量%であり、上記重合性単量体は、アルキル置換スチレン系単量体が全単量体成分100質量%に対して45〜95質量%、分子量150以下の(メタ)アクリレート系単量体が全単量体成分100質量%に対して5〜55質量%であり、上記金属石鹸は、コバルト塩を必須とし、全金属成分が不飽和ポリエステル樹脂100質量%に対して0.001〜0.1質量%であり、上記無機充填材は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して50〜400質量部である人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂、金属石鹸及び無機充填材を含有するものである。なお、不飽和ポリエステル及び重合性単量体を合わせて不飽和ポリエステル樹脂という。
上記樹脂において、重合性単量体としては、アルキル置換スチレン系単量体と分子量150以下の(メタ)アクリレート系単量体とを必須とするものであるが、本発明の作用効果を損なわない範囲内でその他の単量体を含むこともできる。
【0009】
上記アルキル置換スチレン系単量体としては、スチレンをアルキル基で置換したものであれば特に限定されず、例えば、ビニルトルエン、tert−ブチルスチレン、ビニルキシレン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、ビニルトルエンであることが好適である。なお、ビニルトルエンとは、o−、m−及びp−メチルスチレンの総称である。
上記アルキル置換スチレン系単量体の使用量としては、全単量体成分を100質量%とすると、40〜95質量%であることが適当である。40質量%未満であると、硬化性や塗膜の物性を向上できないおそれがある。95質量%を超えると、経済的に不利となるおそれがあり、また、相対的に(メタ)アクリレート系単量体の割合が減少するため、樹脂組成物の粘度を充分に低減することができないおそれがある。好ましい下限値は50質量%、上限値は80質量%であり、より好ましい下限値は60質量%、上限値は70質量%である。
【0010】
上記分子量150以下の(メタ)アクリレート系単量体としては、分子量が150以下の(メタ)アクリル酸エステルであれば特に限定されるものではないが、分子量が130以下であることが好適である。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、メチルメタクリレートであることが好適である。なお、上記分子量とは、IUPACで規定された相対分子質量を意味する。
上記(メタ)アクリレート系単量体の使用量としては、全単量体成分を100質量%とすると、5〜55質量%であることが適当である。5質量%未満であると、良好な希釈効果が得られず、粘度を充分に低減できないおそれがあり、また、耐候性や耐熱水性等を向上できず、例えば、熱環境に曝されたときの酸化による黄変等を充分に防止できないおそれがある。55質量%を超えると、相対的にアルキル置換スチレン系単量体の割合が減少するため、硬化性を充分に向上できないおそれがある。好ましい下限値は20質量%、上限値は50質量%であり、より好ましい下限値は30質量%、上限値は40質量%である。
【0011】
上記重合性単量体が含んでもよいその他の単量体としては特に限定されないが、樹脂や化粧板に着色や臭気がなく、希釈効果が高い重合性単量体が好ましい。例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、クロロスチレン、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の分子量が150よりも大きい(メタ)アクリレート系単量体等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記その他の単量体の使用量としては、全単量体成分を100質量%とすると、40質量%以下であることが適当であるが、20質量%以下であることが好ましい。
【0012】
上記重合性単量体としてはまた、沸点120℃未満の単量体を含んでもよいが、このような単量体を含む場合には、不飽和ポリエステルと重合性単量体との合計100質量%に対して0〜20質量%とすることが適当である。PRTR法に定める物質にはスチレン、MMA等があるが、環境中に排出されやすい低沸点の単量体を極力減らすことがPRTR法的にも有効であり、沸点120℃未満の単量体の含有量をこのような範囲に設定することによって、環境により配慮した樹脂組成物を得ることが可能となる。好ましい下限値は5質量%、上限値は15質量%である。
【0013】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂において、不飽和ポリエステルは、酸成分(多塩基酸成分)と、グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分とを縮合反応して得ることができる。なお、酸成分と、グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分との反応モル比としては特に限定されず、例えば、酸成分:グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分とした場合に、10:8〜10:12であることが好適である。
【0014】
上記多塩基酸成分としては、グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分に含まれる水酸基及び/又はエポキシ基と反応してエステル結合を生成することができる置換基を2つ以上有する化合物であればよく、不飽和多塩基酸を必須とし、その一部を飽和多塩基酸に置き換えて使用してもよい。
上記不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、イタコン酸等のα,β―不飽和多塩基酸;ジヒドロムコン酸等のβ,γ―不飽和多塩基酸;これらの酸の無水物;これらの酸のハロゲン化物;これらの酸のアルキルエステル等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0015】
上記飽和多塩基酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、ヘキシルコハク酸、グルタル酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族飽和多塩基酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族飽和多塩基酸;ヘット酸、1,2−ヘキサヒドロフタル酸、1,1−シクロブタンジカルボン酸、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環式飽和多塩基酸;これらの酸の無水物;これらの酸のハロゲン化物;これらの酸のアルキルエステル等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0016】
上記グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2−エチル−1,4−ブタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、3−メチルペンタン−1,4−ジオール、2,2−ジエチルブタン−1,3−ジオール、4,5−ノナンジオール、トリエチレングリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0017】
上記エポキシ化合物成分としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、3,4−エポキシ−1−ブテン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0018】
上記不飽和ポリエステルの原料の一部を、以下に示すアリル基等の不飽和結合を有する化合物に置き換えて製造してもよく、この場合には、いわゆる空気硬化型ポリエステルとすることができる。具体的には、少なくとも上述した多塩基酸成分の全量又は一部を、以下に示すアリル基等の不飽和結合を有する不飽和多塩基酸に置き換えるか、上述した通常のグリコール成分及び/若しくはエポキシ化合物成分の全量又は一部を、以下に示すアリル基等の不飽和結合を有するグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分に置き換えればよい。
【0019】
上記不飽和結合を有する不飽和多塩基酸成分としては、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、α−テルピネン−無水マレイン酸付加物、シクロペンタジエン−無水マレイン酸付加物(エンドメチレンテトラヒドロフタル酸)、ロジン、エステルガム、乾性油脂肪酸、半乾性油、脂肪酸等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記不飽和結合を有するグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分としては、例えば、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールエタンモノアリルエーテル、トリメチロールエタンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、グリセリンモノアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0020】
上記不飽和ポリエステル樹脂においては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量%とすると、不飽和ポリエステルが55〜75質量%、重合性単量体が25〜45質量%であることが適当である。重合性単量体の質量割合が上記範囲を超えると、得られる人造大理石の臭気が良好ではなるおそれがある。また、残留する単量体量が増加し、これに起因して成形体からの放散量が増加し、建築基準法等の法規制に充分に対応できないおそれがある。一方、重合性単量体が上記範囲未満であると、硬化物の表面硬度等の物性が優れたものとならず、また、粘度が高いために作業性に優れたものとはならないおそれがある。好ましくは、不飽和ポリエステルが60〜70質量%、重合性単量体が30〜40質量%である。
【0021】
本発明の樹脂組成物において、金属石鹸は、樹脂組成物の常温硬化を促進する効果を有するものであり、コバルト塩を必須とするものである。コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。全金属石鹸中のコバルト塩の含有割合としては、金属石鹸の総量を100質量%とすると、コバルト塩が、金属成分量として20質量%以上であることが好ましく、これにより、硬化性をより充分に高めることが可能となる。より好ましくは、40質量%以上である。
【0022】
上記金属石鹸としてはまた、人造大理石において高度な透明性が要求される場合には、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を併用することが好ましく、上記金属石鹸が、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含む形態は、本発明の好適な形態の1つである。これらをコバルト塩と併用することにより、硬化性を高く維持しながらもコバルト塩による着色を充分に防ぐことができ、より高度な透明性を有する人造大理石を得ることができるため、例えば、オニックス調の製品等に好適に適用されることとなる。また、このような透明性の高い人造大理石とする場合には、上記樹脂組成物により形成される人造大理石にゲルコート剤を塗布してもよいし、しなくてもよく、また、クリアゲルコート剤を塗布することもできる。
【0023】
上記アルカリ金属塩としては特に限定されず、例えば、ナフテン酸カリウム、オクチル酸カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属塩としては、ナフテン酸カルシウム、オクチル酸カルシウム等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。
なお、上記金属石鹸がアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含む場合、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の含有割合としては、金属石鹸の総量を100質量%とすると、金属成分量として下限が5質量%、上限が80質量%であることが好適である。5質量%未満であると、より高度な透明性を発揮できないおそれがあり、80質量%を超えると、硬化速度を充分なものとすることができないおそれがある。より好ましい下限は10質量%、上限は60質量%である。
上記金属石鹸としては更に、本発明の作用効果を損なわない範囲内で他の金属石鹸を併用することもでき、例えば、ナフテン酸マンガン等の通常使用される金属石鹸類を用いることができる。
【0024】
上記金属石鹸においては、全金属成分が不飽和ポリエステル樹脂100質量%に対して0.001〜0.1質量%であることが適当である。0.001質量%未満であると、樹脂の硬化が遅すぎ硬化不良となって、硬化物が持つ本来の物性が充分に得られないおそれがある。0.1質量%を超えると、樹脂の硬化が速すぎるため、作業時間が取れず、また、硬化物の色調を良好なものとすることができないおそれがある。好ましい下限値は0.01質量%、上限値は0.05質量%であり、より好ましい下限値は0.02質量%、上限値は0.04質量%である。
【0025】
本発明の樹脂組成物において、無機充填材としては特に限定されず、通常使用されるものを用いればよいが、例えば、水酸化アルミニウム(ATH)、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、クレー、タルク、ガラスパウダー、ミルドファイバー、クリストバライト、マイカ、シリカ、川砂、珪藻土、雲母粉末、石膏、ガラス粉末等の1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、水酸化アルミニウムや炭酸カルシウムを用いることが好ましい。なお、人造大理石に高度の透明性が要求される場合には、水酸化アルミニウムがより好適である。
上記無機充填材としては、不飽和ポリエステル及び重合性単量体の総量(不飽和ポリエステル樹脂)100質量部に対して、50〜400質量部であることが適当である。50質量部未満であると、成形時にクラックが生じるおそれがあり、400質量部を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなり効率的に作業することができないおそれがある。好ましい下限は100質量部、上限は300質量部であり、より好ましい下限は150質量部、上限は250質量部である。
【0026】
上記樹脂組成物としては、必要に応じて、樹脂の硬化を促進させるための促進助剤を含んでいてもよい。促進助剤としては、例えば、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、N−ピロジニノアセトアセタミド、N,Nジメチルアセトアセタミド等のβ−ジケトン類;ジメチルアニリン、N,N−ジメチルトルイジン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ(ヒドロキシ)−4−メチルアニリン等のアミン類等のβ−ケトエステル、β−ケトアミド類等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記促進助剤の使用割合としては、不飽和ポリエステル及び重合性単量体の合計量100質量部に対して、下限が0.01質量部、上限が1質量部であることが好ましい。より好ましい下限は0.03質量部、上限は0.5質量部である。
【0027】
上記樹脂組成物としてはまた、本発明の作用効果を損なわない範囲内で空気乾燥性付与剤、揺変剤、繊維強化材(補強繊維材)、重合禁止剤、消泡剤、増粘剤、低収縮化剤、内部離型剤、着色剤、柄剤、連鎖移動剤、不活性粉体、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、ブルーイング剤、老化防止剤、可塑剤、難燃剤、安定剤等の添加剤を含むことができる。
【0028】
上記空気乾燥性付与剤とは、樹脂が硬化する際に樹脂から形成される被膜や成形物の表面に析出し、空気との遮断層を該表面に形成することにより、空気中の酸素が樹脂のラジカル重合を阻害することを防止して樹脂の乾燥性を向上させる作用を有するものである。このような空気乾燥性付与剤としては、例えば、以下の(1)〜(3)に記載するワックス類等が挙げられる。
(1)天然ワックスとしては、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木蝋、ホホバ油等の植物系ワックス;密蝋、ラノリン、鯨蝋等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス等が挙げられる。
(2)合成ワックスとしては、例えば、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素;モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス;動物性油脂の誘導体;カルボキシル基含有単量体とオレフィンとの共重合体;硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等の水素化ワックス;ステアリン酸、ドデカン酸、ステアリン酸オクタデシル等の炭素数12以上の脂肪酸及びその誘導体;アルキルフェニールや高級アルコールに、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加したアルコール類等が挙げられる。
(3)その他のものとしては、例えば、天然ワックスや合成ワックス等の配合ワックス等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、上記ワックス類に、他の成分を含んでもよい。
【0029】
これらの中でも、パラフィンワックスを用いることが好ましい。
なお、樹脂組成物を常温で硬化させる場合には、上記空気乾燥性付与剤としては、JIS K2235−1991に分類される融点が40〜80℃であるものを用いることが好ましい。これにより、樹脂組成物の施工において、硬化途中の樹脂組成物から形成される被膜や成形物の表面に析出しやすくなることから、空気との遮断層が充分に形成されることとなる。
上記空気乾燥性付与剤の使用が必要である場合、使用量は特に限定されないが、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.001質量部(10ppm)以上、1質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.01質量部以上、0.3質量部以下である。
【0030】
上記揺変剤としては、例えば、ヒュームドシリカ等が挙げられ、使用量としては特に限定されないが、不飽和ポリエステル及び重合性単量体の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
上記繊維強化材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミックからなる繊維等の無機繊維;アラミド、ポリエステル、ビニロン、フェノール、テフロン(登録商標)等の有機繊維;天然繊維等が挙げられ、使用量としては特に限定されないが、不飽和ポリエステル及び重合性単量体の合計量100質量部に対して、5質量部以上、70質量部以下であることが好ましい。
【0031】
上記重合禁止剤は、可使時間、硬化反応の立ち上がりを調整するために用いられ、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン等のハイドロキノン類;ベンゾキノン、メチル−p−ベンゾキノン等のベンゾキノン類;t−ブチルカテコール等のカテコール類;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4−メトキシフェノール等のフェノール類;フェノチアジン、ナフテン酸銅;4−ヒドロキシ−2,2,6,6テトラメチルピペリジン−1−オキシル等のN−オキシル類等が好適である。中でも、4−ヒドロキシ−2,2,6,6テトラメチルピペリジン−1−オキシルを用いることが貯蔵安定性と硬化性とのバランスが良く、最も好ましい。
上記消泡剤としては、シリコン系等の他、市販の高分子系消飽剤その他添加剤を用いることができる。
上記増粘剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等の多価金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の多価金属水酸化物;多官能イソシアネート等が好適である。
【0032】
上記低収縮化剤は、成形収縮を調整するために用いることができ、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、架橋ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル−ポリスチレンブロックコポリマー、アクリル/スチレン等の多相構造ポリマー、架橋/非架橋等の多相構造ポリマー、SBS(ゴム)等が挙げられ、使用量としては特に限定されないが、不飽和ポリエステル及び重合性単量体の合計量100質量部に対して、3質量部以上、20質量部以下であることが好ましい。
上記内部離型剤としては、例えば、ジメチルシロキサン構造を持ったジメチルポリシロキサン等のシリコン系内部離型剤等があり、不飽和ポリエステル及び重合性単量体の合計量100質量部に対して、0.01質量部以下であることが好適である。
上記柄剤としては、例えば、酸化アルミニウム、PETフィルム、マイカ、セラミック及びそれらを着色剤、表面処理剤等でコーティングしたもの、メッキ処理したもの、熱硬化性樹脂と無機フィラーと着色剤等とを熱硬化させて粉砕したもの等が挙げられる。
【0033】
上記連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸等のメルカプタン類、α−メチルスチレンダイマー(4−メチル2−4−ジフェニルペンテン)、α−メチルスチレン等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、連鎖移動剤自体が低臭気であり、連鎖移動効果が高い点で、α−メチルスチレンダイマーを使用することが好適である。なお、このような連鎖移動剤の添加により、重合性単量体として(メタ)アクリル酸エステル単量体を使用した場合においても充分な成形品の機械的強度、寸法安定性を確保することが可能となる。
上記連鎖移動剤の使用割合としては、不飽和ポリエステル及び重合性単量体の合計量100質量部に対して、下限が0.01質量部、上限が10質量部であることが好ましい。0.01質量部未満では、充分な成形品強度や寸法安定性が得られないおそれがあり、10質量部を超えると、成形時の硬化が充分とはならず、未反応単量体の増加により機械的強度や耐熱性を優れたものとすることができないおそれがある。より好ましい下限は0.1質量部、上限は5質量部である。
その他、硬化物の黄味を緩和する目的で、蛍光増白剤、ブルーイング剤等も使用可能である。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、人造大理石に用いられるものであるが、これにより、熱衝撃や寒熱繰り返しに耐え得る耐衝撃性や耐熱水性、強度、意匠性等の各種物性に優れるとともに、高級感を奏し、建築基準法等の法規制に充分に対応できる人造大理石が得られることとなる。また、高度の透明性が要求されるオニックス調の人造大理石としても好適なものとすることができる。このように上記人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなる人造大理石もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記人造大理石の製造方法としては、例えば、上記樹脂組成物を加熱成形することにより得ることができ、通常の注型法、圧縮成形法、射出成形法、トランスファー成形法、インジェクション成形法、押出成形法等を使用することができる。中でも、注型法によることが好適であり、上記樹脂組成物が人造大理石注型用樹脂組成物である形態は、本発明の好適な形態の1つである。なお、注型法としては、FRP(Fiberglass Reinforced Plastics)型を使用し、常温付近で成形する常温注型法;電鋳型、金型を使用し、60〜110℃程度の成形温度で成形する中温注型法等が好ましい。
【0035】
上記人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物の硬化方法としては、成形する直前に硬化剤を混合することにより硬化させることができる。
上記硬化剤としては、通常使用されるものを用いることができ、例えば、アセチルアセトンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド(MEKPO)、ジエチルケトンパーオキサイド、メチルプロピルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、エチルアセトアセテートパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、キュメンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルイソプロピルパーオキシカーボネート、1,1−ジブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、アミルパーオキシ−p−2−エチルヘキサノエート、2−エチルヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−へキシルパーオキシベンゾエート等の1種又は2種以上を使用することができる。使用量としては特に限定されないが、不飽和ポリエステル及び重合性単量体の合計量100質量部に対して、0.5質量部以上、5質量部以下であることが好適である。
また硬化条件において、硬化温度としては、常温で行うことが好ましい。より好ましくは、10〜40℃であり、更に好ましくは、15〜35℃である。ゲル化時間としては、10〜60分であることが好ましい。より好ましくは、20〜40分である。なお、上記樹脂組成物から形成される板厚としては、用いられる用途等に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
本発明はまた、基体上に少なくとも仕上材層を積層した積層体であって、該基体は、上記人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物により形成されてなり、該仕上材層を構成する少なくとも一層は、不飽和ポリエステル30〜80質量%及び重合性単量体20〜70質量%からなる不飽和ポリエステル樹脂、並びに、該不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対してシリカ0.5〜10質量部、及び、金属石鹸を全金属成分量として0.001〜0.5質量部含有する仕上材層用不飽和ポリエステル樹脂組成物により形成され、該重合性単量体は、アルキル置換スチレン系単量体を全単量体成分100質量%に対して50質量%以上含んでなる積層体でもある。このように本発明の人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いることにより、現在の様々な法規制に充分に対応できるとともに、耐熱水性や耐衝撃性等の各種物性に優れた積層体を得ることができ、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。
上記積層体において、基体としては、本発明の人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物により形成されるが、その製造方法としては、上述したように上記樹脂組成物を常温又は中温注型することにより得ることができる。
【0037】
上記仕上材層用不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて仕上材層を構成することによって、仕上材層においてスチレン等の重合性単量体の揮散が充分に抑制され、優れた耐熱水性や耐水性を発揮できるため、上記基体との相乗効果によって、より優れた物性を有し、現在の法規制に更に充分に対応可能な人造大理石を提供することが可能となる。
なお、以下では、本発明の人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物を「樹脂組成物(A)」ともいい、上記仕上材層用不飽和ポリエステル樹脂組成物を「樹脂組成物(B)」ともいう。
【0038】
上記樹脂組成物(B)において、重合性単量体としては、アルキル置換スチレン系単量体を必須とするものであるが、本発明の作用効果を損なわない範囲内でその他の単量体を含むことができる。アルキル置換スチレン系単量体としては、上述したとおりである。このようなアルキル置換スチレン系単量体の使用量としては、全単量体成分を100質量%とすると、50質量%以上であることが適当である。50質量%未満であると、重合性単量体の揮散を充分に抑制することができないおそれがあり、それに起因して、現在の様々な法規制に充分に対応できない場合や、耐熱水性(耐煮沸水性)や耐候性、強度等の各種物性を充分に向上することができない場合がある。好ましくは、60質量%以上であり、より好ましくは、70質量%以上であり、特に好ましくは、80質量%以上であり、最も好ましくは、100質量%、すなわちアルキル置換スチレン系単量体のみで重合性単量体を構成することである。
上記重合性単量体が含んでもよいその他の単量体としては特に限定されず、例えば、上記樹脂組成物(A)において上述した分子量150以下の(メタ)アクリレート系単量体やその他の単量体等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0039】
上記重合性単量体としては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量%とすると、20〜70質量%とすることが適当であり、20〜60質量%とすることが好適である。20質量%未満であると、硬化物の表面性を充分に向上することができず、また、粘度が大きいために作業性に優れたものとはならないおそれがある。60質量%を超えると、硬化性を向上させることができないおそれがあり、また、残留する単量体量が増加し、これに起因して成形体からの放散量が増加し、建築基準法等の法規制に充分に対応できないおそれがある。好ましい下限は30質量%、上限は55質量%であり、より好ましい下限は40質量%、上限は50質量%である。
【0040】
上記樹脂組成物(B)において、不飽和ポリエステルとしては、上述した本発明の樹脂組成物(A)におけるものと同様であるが、上述した飽和多塩基酸の中でも、イソフタル酸及び/又はテレフタル酸を用いることが好ましい。この場合、イソフタル酸及び/又はテレフタル酸の使用量としては、全酸成分100モル%に対して下限が30モル%であることが好適である。より好ましい下限は40モル%である。また、上限は70モル%であることが好ましい。より好ましい上限は60モル%であり、最も好ましい上限は50モル%である。また、上述した全グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分の中でも、ネオペンチルグリコール(NPG)、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加物及び水素化ビスフェノールA(HBPA)のうち少なくとも1種を用いることが好ましい。この場合、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加物及び水素化ビスフェノールAの使用量としては、全グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分100モル%に対して下限が30モル%であることが好適である。より好ましい下限は40モル%である。また、上限は80モル%であることが好ましい。より好ましい上限は70モル%である。
【0041】
上記不飽和ポリエステルとしては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量%とすると、40〜80質量%とすることが適当である。40質量%未満であると、耐候性や耐熱水性を向上できないおそれがあり、80質量%を超えると、粘度を充分に低減することができず、作業性を向上できないおそれがある。好ましい下限は45質量%、上限は70質量%であり、より好ましい下限は50質量%、上限は60質量%である。
【0042】
上記樹脂組成物(B)において、シリカは、樹脂組成物に揺変性を付与する作用効果を有するもの(揺変剤)であり、その形状は特に限定されないが、ヒュームドシリカが好適に用いられる。なお、本発明においては、シリカに加えて、その他の揺変剤を併用することもできる。
上記シリカとしては、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.5〜10質量部とすることが適当である。0.5質量部未満であると、揺変性を充分に付与することができず、施工時の作業を効率よく行うことができないおそれがあり、10質量部を超えると、粘度が高くなり過ぎて樹脂組成物を施工する際の作業性を向上することができないおそれがある。好ましい下限は1質量部、上限は5質量部であり、より好ましい下限は1.5質量部、上限は3質量部である。なお、上記樹脂組成物の揺変度としては、1.1〜8.0が好適である。より好ましくは、1.5〜7.0であり、更に好ましくは、2.0〜6.0である。揺変度の測定方法及び計算方法はJIS K6901−1999に従う。
【0043】
上記樹脂組成物(B)において、金属石鹸としては、例えば、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト等のコバルト塩や、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸カリウム、オクチル酸カリウム、ナフテン酸カルシウム、オクチル酸カルシウム等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、コバルト塩を必須とすることが好適である。
上記金属石鹸としては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量部とすると、金属成分量として、0.001〜0.5質量部であることが適当である。0.001質量部未満であると、樹脂の硬化が遅すぎて硬化不良となり、硬化物が持つ本来の物性が充分に得られないおそれがある。0.5質量部を超えると、樹脂の硬化が速すぎるため、作業時間が取れず、また、硬化物の色調を良好なものとすることができないおそれがある。好ましい下限は0.01質量部、上限は0.05質量部であり、より好ましい下限は0.02質量部、上限は0.04質量部である。
なお、着色を重視する用途では、本発明の樹脂組成物(A)と同様に、コバルト塩とアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩(好ましくはカリウム塩及び/又はカルシウム塩)とを併用することが好ましい。この場合、全金属石鹸中のコバルト塩の含有割合としては、金属石鹸の総量を100質量%とすると、コバルト塩が、金属成分量として20質量%以上であることが好ましく、これにより、硬化性をより充分に高めることが可能となる。より好ましくは、40質量%以上である。
【0044】
上記樹脂組成物(B)としては、必要に応じて着色剤を含むこともでき、上記仕上材層用不飽和ポリエステル樹脂組成物が更に着色剤を含有する形態は、本発明の好適な形態の1つである。このように着色剤を含有することによって、より優れた美観を奏する積層体を得ることが可能となる。着色剤としては、上述した顔料等が挙げられ、使用量としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、下限が2質量部、上限が30質量部であることが好ましい。より好ましい下限は5質量部、上限は20質量部である。
なお、上記樹脂組成物(B)は、透明性が高いものであるため、着色剤を使用しない場合には、無着色ゲルコート剤等として好適に用いられることとなる。
【0045】
上記樹脂組成物(B)としてはまた、本発明の作用効果を損なわない範囲内で促進助剤、空気乾燥性付与剤、充填剤、繊維強化材、重合禁止剤、消泡剤、増粘剤、無機骨材、低収縮化剤、内部離型剤、柄剤、不活性粉体、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、難燃剤、安定剤等の添加剤(材)を含むことができ、これらは上述したとおりである。
【0046】
上記仕上材層としては、上記樹脂組成物(B)を塗布し、硬化させることによって形成することが好ましい。塗布方法としては、例えば、浸漬塗り、刷毛塗り、ロール刷毛塗り、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、ディップコート、スピンコート、バーコート、フローコート、静電塗装、ダイコート、フイルムラミネート、ゲルコート等による塗装法等により行うことができる。硬化方法としては、例えば、施工直前に、硬化剤を樹脂組成物に混合し硬化させることができる。また、硬化条件において、硬化温度としては、常温で行うことが好ましい。より好ましくは、−10〜60℃であり、更に好ましくは、10〜40℃である。ゲル化時間としては、10〜60分であることが好ましい。より好ましくは、20〜40分である。なお、上記樹脂組成物から形成される塗膜の膜厚としては、用いられる用途により適宜設定すればよい。
上記仕上材層においてはまた、砕石、砂利、小石、スラグ等の粒子(骨材)を用いて色彩的意匠を施してもよい。
【発明の効果】
【0047】
本発明の人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物は、上述のような構成であるので、スチレン放散量を大幅に低減するとともに、耐熱水性及び耐衝撃性等の充分な性能を有し、意匠性に優れ、高級感を有する人造大理石を与えることができるため、例えば、タイル、壁用パネル等の建築用装飾材;浴槽(バスタブ)、洗面化粧台(洗面カウンター)、流し台(シンク)、浴室パネル、システムキッチン天板(キッチンカウンター)、テーブル天板、トイレカウンター等の住設機器;各種装飾品、表札等の材料として好適に用いられることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものとする。
【0049】
合成例1
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えたフラスコを反応器とした。この反応器に、無水フタル酸5モル、無水マレイン酸5モル、プロピレングリコール7.5モル、ジエチレングリコール3.5モルを仕込んだ。次に上記の内容物を窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら昇温し、無水フタル酸、無水マレイン酸の開環発熱終了後、200〜210℃に昇温し、8時間反応させた。これにより不飽和ポリエステル(a)を得た。この不飽和ポリエステル(a)の酸価は35であった。
【0050】
実施例1
不飽和ポリエステル(a)65部に、ビニルトルエン23部、メチルメタクリレート12部、及び重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6テトラメチルピペリジン−1−オキシル0.005部、5%ナフテン酸銅0.003部を添加し、均一に混合した。
この不飽和ポリエステル樹脂100部に対して8%オクテン酸コバルト0.25部(金属分として0.02部)、8%オクテン酸カリウム0.2部(金属分として0.016部)、水酸化アルミニウム(ハイジライトH−341、昭和電工社製)200部を添加混合し、25℃粘度が25Pa・sである人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0051】
<成形品評価>
成形品厚みが8mmとなるようにスペーサーを挟んだカウンター天板成形用FRP型(幅1000mm、長さ2000mm)に、樹脂組成物300部に硬化剤(日本油脂社製、パーメックN)1部を添加・混合した組成物を流し込んだ。常温で60分硬化後、80℃で60分アフタキュアし、人造大理石成形品を得た。この人造大理石成形品について以下の項目を評価した。結果を表1に示す。
(a)バーコル硬度:バーコル硬度計(高分子計器社製、商品名「GYZJ−934−1」)を用い、JIS K6919−1992に準拠して測定した。
(b)曲げ強さ:JIS K7171−1994に準拠して測定した。
(c)耐衝撃性:カウンター天板成形品より300mm角平板を10枚切り出し、JIS A4401−1994に従って、落錘強度を測定した(直径19.05mm銅球を90cm高さから落とす)。
(d)アイロンテスト:70×70×15mm成形品を10℃に調温し、その上に150℃に設定したアイロンを30分載せる。アイロンを載せた部分とそうでない部分との色差(YI)を測定した(測定機:日本電色工業社製 SZ−Σ−90)。
(e)成形品質感、色調:目視により、下記基準に従って評価した。
◎:非常に優れる
○:優れる
△:やや劣る
×:劣る
【0052】
(スチレン放散量)
上記成形品評価試験で成形した人造大理石を15cm×15cmに切断して28℃で7日間養生したものを試験片とした。
小型チャンバー法により、ガスクロマトグラフ質量分析装置にて試験片からの気中放散スチレンを測定した。具体的には、JIS A1901−2003(小型チャンバー法−建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定法)の(附属書2(参考)小型チャンバーの例(20L))に記載されている手順に基づき、測定温度28℃、湿度50%、換気回数0.5回/hr、試料負荷率2.2m/mで測定を実施した。結果を表1に示す。
なお、スチレンを用いていない試験片についてはスチレン放散量の測定は実施しなかった。
【0053】
(残留モノマー量)
上記成形品評価試験で成形した人造大理石(成形品)を塩化メチレンに常温で24時間浸漬し、残留モノマーが抽出された塩化メチレン溶液をガスクロマトグラフィー(条件:カラム充填剤:BX−10 ジーエルサイエンス社製、島津GC−7A、カラム長さ3m、キャリアガス:N)で測定した。結果を表1に示す。
【0054】
実施例2−1〜4−1
表1に示す原料を用いた他は、実施例1−1と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物について、上記方法に従って物性を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
比較例1−1〜4−1
表2に示す原料を用いた他は、実施例1−1と同様にして樹脂組成物を得た。このそれぞれについて、上記方法に従って物性を評価した。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
合成例2
(仕上材層用樹脂組成物の調整)
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコを反応器とした。この反応器に、イソフタル酸45モル、ジエチレングリコール25モル、プロピレングリコール10モル、ネオペンチルグリコール65モルを仕込んだ。次に上記の内容物を窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら、200〜220℃の温度範囲で反応させるとともに、反応物の酸価を、JIS K6911−1995 4.3に記載の方法に準拠して随時測定した。そして酸価が10mgKOH/gとなった時点で、上記反応物に、無水マレイン酸55モルを添加混合し、200〜220℃に昇温し、8時間反応させた。これにより、不飽和ポリエステル(b)を得た。この不飽和ポリエステル(b)の酸価は15.0mgKOH/gであった。
この不飽和ポリエステル(b)を、混合モノマー(スチレンモノマー50%及びビニルトルエン50%)に80℃で溶解し、モノマー含有率40%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。この不飽和ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(b)60%、重合性単量体40%)15部、及び、チタンホワイト10部をホモミキサーで混練し、よく分散させた。更に、この不飽和ポリエステル樹脂58部、微粉末シリカ(日本アエロジール社製)2部、ナフテン酸コバルト溶液(コバルト濃度:6質量%)0.5部、及び、混合モノマー(スチレンモノマー50%及びビニルトルエン50%)15部を配合し、よく混練した。その結果、25℃での粘度は23.0ポイズ、揺変度は5.2の着色ゲルコート(仕上材層用樹脂組成物)が得られた。
【0059】
合成例3
合成例2で合成した不飽和ポリエステル(b)にモノマー含有率40%になるようにスチレンモノマーのみで希釈した他は、合成例2と同様にして比較用着色ゲルコートを得た。なお、得られた比較用着色ゲルコートの25℃での粘度は19.5ボイズ(1ボイズ=1×10−1Pa・s)、揺変度は5.5であった。
【0060】
実施例1−2
合成例2で得た着色ゲルコート100部に硬化剤(化薬アクゾ社製、商品名「カヤメックM」)1部を添加した組成物をカウンター用FRP型に刷毛でウエット膜厚平均0.5mmになるよう塗布し、常温硬化後、その上に実施例1−1で得た樹脂組成物300部に硬化剤(日本油脂社製、パーメックN)1部を添加・混合した組成物を流し込んだ。常温で60分硬化後、80℃で60分アフタキュアし、ゲルコート付人造大理石成形品を得た。
この成形品について、実施例1−1と同様に、バーコル硬度、曲げ強さ、耐衝撃性、アイロンテスト、並びに、成形品質感及び色調について評価した。結果を表3に示す。
また得られた成形品から、15cm×15cmの試験片を切出し、この試験片について、実施例1−1と同様にスチレン放散量を求めた。結果を表3に示す。
【0061】
実施例2−2〜4−2
実施例2−1〜4−1で得た樹脂組成物を用いてゲルコート付人造大理石成形板を得た他は、実施例1−2と同様にして成形品を得た。この成形品について、実施例1−2と同様に物性を評価した。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
比較例1−2〜2−2
合成例3で得た比較用着色ゲルコート及び比較例1−1〜2−1で得た樹脂組成物を用いてゲルコート付人造大理石成形板を得た他は、実施例1−2と同様にして成形品を得た。この成形品について、実施例1−2と同様に物性を評価した。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂、金属石鹸及び無機充填材を含有する人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、
該不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和ポリエステル55〜75質量%及び重合性単量体25〜45質量%からなり、沸点120℃未満の単量体が不飽和ポリエステル樹脂100質量%に対して0〜20質量%であり、
該重合性単量体は、アルキル置換スチレン系単量体が全単量体成分100質量%に対して45〜95質量%、分子量150以下の(メタ)アクリレート系単量体が全単量体成分100質量%に対して5〜55質量%であり、
該金属石鹸は、コバルト塩を必須とし、全金属成分が不飽和ポリエステル樹脂100質量%に対して0.001〜0.1質量%であり、
該無機充填材は、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して50〜400質量部であることを特徴とする人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルキル置換スチレン系単量体は、ビニルトルエンであることを特徴とする請求項1に記載の人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記分子量150以下の(メタ)アクリレート系単量体は、メチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1又は2に記載の人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属石鹸は、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
基体上に少なくとも仕上材層を積層した積層体であって、
該基体は、請求項1〜4のいずれかに記載の人造大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物により形成されてなり、
該仕上材層を構成する少なくとも一層は、不飽和ポリエステル30〜80質量%及び重合性単量体20〜70質量%からなる不飽和ポリエステル樹脂、並びに、該不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対してシリカ0.5〜10質量部、及び、金属石鹸を全金属成分量として0.001〜0.5質量部含有する仕上材層用不飽和ポリエステル樹脂組成物により形成され、該重合性単量体は、アルキル置換スチレン系単量体を全単量体成分100質量%に対して50質量%以上含んでなることを特徴とする積層体。
【請求項6】
前記仕上材層用不飽和ポリエステル樹脂組成物は、更に着色剤を含有することを特徴とする請求項5に記載の積層体。

【公開番号】特開2006−131722(P2006−131722A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321250(P2004−321250)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(503090980)ジャパンコンポジット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】