説明

仕上げ加工用水性分散液

【課題】マングルへのポリマーの付着(ガムアップ)が生じることなく、水性エマルションにより加工処理を行う。
【解決手段】(A)シート状物の仕上げ加工用に用いられる水性樹脂エマルション、ならびに(B)(B−i)ポリオキシエチレンブロックから分子の外側に向かってポリオキシアルキレンブロックが存在するように、ポリオキシアルキレンブロックが分子の外側にあり、ポリオキシエチレンブロックが分子の内側にある構造を有するコポリマーである非イオン性界面活性剤および(B−ii)1つのポリオキシエチレンブロックと1つのポリオキシアルキレンブロックとが直接に結合している非イオン性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも一種の界面活性剤からなる水性分散液組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性樹脂エマルションの加工処理時にロールに付着物が発生するというガムアップの問題が改善されている水性分散液および仕上げ加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
繊維布、紙、革等に、サイズ性、撥水性、撥油性、防汚性、柔軟性、防虫性、防シワ性、難燃性等を付与する仕上げ加工用として、様々な機能を持たせた水性樹脂エマルションが開発され広く使用されている。例えば、繊維織物に撥水性や柔軟性を付与するものとしてシリコーン樹脂組成物や、撥水撥油性を付与するものとして含フッ素樹脂組成物が用いられている。繊維織物に撥水撥油性を付与する含フッ素樹脂組成物としては、パーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロアルケニル基およびアクリル酸基もしくはメタクリル酸基を有する重合性化合物の重合体、特に該重合体を乳化剤により水性媒体中に分散せしめた水性樹脂エマルションが工業的に広く使用されている。これらの加工プロセスとしては、被処理物を水性樹脂エマルションの分散液中に含浸し、続いてロール等により余分な水性分散液を除去回収する方法が一般的に採用されている。
【0003】
しかし従来の水性樹脂エマルションは、機械的安定性が不十分であったり、加工浴中にアルカリやアニオン性物質(染料固着剤や分散剤など)が混入すると水性分散液の分散性が悪化しエマルション粒子の凝集、沈降が起こることがあった。このために処理物の性能が低下したり、マングルへポリマーが付着(ガムアップ)し加工布に処理ムラが発生することが問題となっていた。撥水撥油処理における特開平9−118877、特開平9−125051、特開平9−302335が、この問題を解決する手段を提案しているが、いずれもエマルションがカチオン性界面活性剤、例えば4級アンモニウム塩を含有しており、ガムアップを完全に防止できるには至っていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、マングルへのポリマーの付着(ガムアップ)が生じることなく、水性樹脂エマルションで基体の仕上げ加工を行うことにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(A)仕上げ加工用に用いられる水性樹脂エマルション、ならびに
(B)(B−i)ポリオキシエチレンブロックから分子の外側に向かってポリオキシアルキレンブロックが存在するように、ポリオキシアルキレンブロック(アルキレン基の炭素数は3以上である。)が分子の外側にあり、ポリオキシエチレンブロックが分子の内側にある構造を有するコポリマーである非イオン性界面活性剤および(B−ii)1つのポリオキシエチレンブロックと1つのポリオキシアルキレンブロック(アルキレン基の炭素数は3以上である。)とが直接に結合している非イオン性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも一種の界面活性剤
からなる水性分散液組成物を提供する。
本発明は、前記水性分散液組成物を基体に適用し、水性樹脂エマルション中の重合体を基体に付着させることからなる仕上げ加工方法をも提供する。
【0006】
本発明において、水性分散液組成物は、水性樹脂エマルション(A)および界面活性剤(B)を含有してなる。水性樹脂エマルション(A)は、含フッ素重合体エマルション、シリコーン重合体エマルション、表面サイズ剤として使用される(メタ)アクリル酸エステル重合体エマルション(例えば、ケイ素およびフッ素を含まない重合体のエマルション)などである。
【0007】
水性樹脂エマルション(A)における樹脂としては、繊維製品に撥水撥油性を付与する含フッ素重合体、繊維製品に柔軟性や撥水性を付与するシリコーン重合体や、製紙用表面サイズ剤としての(メタ)アクリル酸エステルと疎水性単量体との共重合体等が挙げられる。
【0008】
含フッ素重合体としては、含フッ素単量体と共重合可能な他の重合性化合物との共重合体が挙げられる。含フッ素単量体としては、パーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロアルケニル基およびアクリル酸基もしくはメタクリル酸基を有する重合性化合物がある。パーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロアルケニル基およびアクリル酸基もしくはメタクリル酸基を有する重合性化合物の例として、式:
【0009】
【化2】

【化3】

【0010】
[式中、Rfは炭素数3〜21のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、Rは水素またはメチル基、Arは置換基を有することもあるアリール基、nは1〜10の整数を表わす。]
で示される(メタ)アクリレートエステルを挙げることができる。
【0011】
さらに具体的には、
CF3(CF2)7(CH2)OCOCH=CH2
CF3(CF2)6(CH2)OCOC(CH3)=CH2
(CF3)2CF(CF2)6(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)7(CH2)2OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF2)7(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)7SO2N(CH3)(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)7SO2N(C25)(CH2)2OCOC(CH3)=CH2
(CF3)2CF(CF2)6CH2CH(OCOCH3)CH2OCOC(CH3)=CH2
(CF3)2CF(CF2)6CH2CH(OH)CH2OCOCH=CH2
【化4】

を例示することができる。
【0012】
また、他の共重合可能な重合性化合物には種々のものがあるが、例示すると、(1)アクリル酸およびメタクリル酸ならびにこれらのメチル、エチル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、プロピル、2−エチルヘキシル、ヘキシル、デシル、ラウリル、ステアリル、イソボルニル、β−ヒドロキシエチル、グリシジルエステル、フェニル、ベンジル、4−シアノフェニルエステル類、(2)酢酸、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリル酸、ステアリン酸等の脂肪酸のビニルエステル類、(3)スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等のスチレン系化合物、(4)フッ化ビニル、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニルまたはビニリデン化合物類、(5)ヘプタン酸アリル、カプリル酸アリル、カプロン酸アリル等の脂肪族のアリルエステル類、(6)ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン等のビニルアルキルケトン類、(7)N−メチルアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のアクリルアミド類および(8)2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、イソプレン等のジエン類などを例示できる。
【0013】
シリコーン樹脂としては、シリコーン系撥水剤に代表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン、末端OH基封鎖ジメチルポリシロキサン、ビニル基含有ポリシロキサンや、シリコーン柔軟剤に代表されるアミノ変性シリコーンやエポキシ変性シリコーン等がある。
【0014】
製紙用表面サイズ剤としては、カチオン性の水溶性共重合体の存在下で、(メタ)アクリル酸エステル及び疎水性単量体を乳化重合して得られたエマルションや、これらに酸化デンプン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の表面紙質向上剤を併用したものが一般的である。また、界面活性剤の存在下で疎水性単量体を乳化重合して得られたエマルションも知られている。さらに、アニオン性合成高分子乳化剤の存在下で、スチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸を共重合したエマルジョンが知られている。
【0015】
本発明において、水性分散液組成物は、少なくとも1つのポリエチレンブロックおよび少なくとも1つのポリアルキレンブロック(アルキレン基の炭素数は3以上である。)を有する非イオン性界面活性剤(B)を含む。
ポリオキシエチレンブロックが親水性であり、ポリオキシアルキレンブロックが疎水性である。オキシアルキレンにおける炭素数は、例えば、3〜10であってよい。オキシアルキレンとしては、オキシプロピレン、オキシブチレン等が挙げられるが、中でも、オキシプロピレンが好ましい。
【0016】
界面活性剤(B)は、
(B−i)ポリオキシエチレンブロックから分子の外側に向かってポリオキシアルキレンブロックが存在するように、ポリオキシアルキレンブロック(アルキレン基の炭素数は3以上である。)が分子の外側にあり、ポリオキシエチレンブロックが分子の内側にある構造を有するコポリマーである非イオン性界面活性剤および(B−ii)1つのポリオキシエチレンブロックと1つのポリオキシアルキレンブロック(アルキレン基の炭素数は3以上である。)とが直接に結合している非イオン性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも一種である。
【0017】
非イオン性界面活性剤(B−i)は、例えば、(a)分子の中央にポリオキシエチレンブロックを配置し、その両端にポリオキシアルキレンブロックを配置した構造であるトリブロック型のコポリマー、あるいは(b)分子の中央に2〜6価の有機基(例えば、4価であるエチレンジアミン基)を有し、有機基にポリオキシエチレンブロック−ポリオキシアルキレンブロックが結合したコポリマーであってよい。
非イオン性界面活性剤(B−ii)は、例えば、1つのポリオキシエチレンブロックとこのブロックに直接に結合している1つのポリオキシアルキレンブロック(アルキレン基の炭素数は3以上である。)とを有し、ポリオキシエチレンブロックおよびポリオキシアルキレンブロックのそれぞれが末端有機基または水素原子(もしくは水酸基)に結合しているコポリマーであってよい。
【0018】
界面活性剤(B)の好ましい例は次のとおりである。
(B1) 式:
11O−(R11O)a−(CHCHO)b−(R12O)c−A12 (1)
[式中、A11およびA12は水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基またはR13C(=O)−(R13は炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基である。)であり、
11およびR12は炭素数3以上のアルキレン基であり、
a、bおよびcは2以上の数であり、bは分子全体に対してポリオキシエチレンブロックの重量割合が5〜80重量%になるような数である。]
で示される非イオン性界面活性剤、
【0019】
(B2) 式:
【化5】

[式中、A21、A22、A23およびA24は水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基またはR13C(=O)−(R13は炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基である。)であり、
それぞれのR21は、同一または異なって、炭素数3以上のアルキレン基であり、それぞれのxおよびyは、同一または異なって、2以上の数であり、xは分子全体に対してポリオキシエチレンブロックの重量割合が5〜80重量%になるような数である。]
で示される非イオン性界面活性剤、および
【0020】
(B3) 式:
31O−(CHCHO)p−(R31O)q−A32 (3)
[式中、A31は炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基、A32は水素原子または炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基、R31は炭素数3以上のアルキレン基であり、pはポリオキシエチレンブロックの重量割合が分子全体に対して5〜80重量%になるような数である。]
で示される非イオン性界面活性剤。
【0021】
界面活性剤(B)の具体例は、次のとおりである。
HO-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c-H
C10H21O-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c-H
C12H25O-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c-H
C16H31O-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c-H
C16H33O-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c-H
C12H25O-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c- C12H25
C16H31O-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c- C16H31
C16H33O-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c- C16H33
【0022】
【化6】

【0023】
C10H21O-(CH2CH2O)-(C3H6O)-H
C12H25O-(CH2CH2O)-(C3H6O)-H
C16H31O-(CH2CH2O)-(C3H6O)-H
C16H33O-(CH2CH2O)-(C3H6O)-H
C18H37O-(CH2CH2O)-(C3H6O)-H
C12H25O-(CH2CH2O)-(C3H6O)-C12H25
C16H31O-(CH2CH2O)-(C3H6O)-C16H31
C16H33O-(CH2CH2O)-(C3H6O)-C12H25
【0024】
界面活性剤(B)の平均分子量は、一般に300〜20,000である。界面活性剤(B1)および(B2)の平均分子量は、500〜20,000、界面活性剤(B3)の平均分子量は、300〜5,000であってよい。
ポリオキシエチレンブロックの割合が界面活性剤(B)(コポリマー)に対して5〜80重量%である。界面活性剤(B1)と(B2)においてポリオキシエチレンブロックの割合が、例えば7〜50重量%、特に10〜40重量%であってよく、界面活性剤(B3)においてポリオキシエチレンブロックの割合が、例えば30〜75重量%、特に40〜70重量%であってよい。
【0025】
界面活性剤(B)は1種単独で使用してよくあるいは2種以上を併用することもできる。界面活性剤(B)の量は重合体100重量部当たり0.01〜30重量部、例えば1〜20重量部であってよい。
【0026】
界面活性剤(B)に加えて、界面活性剤(B)以外の界面活性剤(C)を併用することも可能である。界面活性剤(C)としては、陽イオン性、陰イオン性または非イオン性乳化剤が挙げられるが、陽イオン性乳化剤または非イオン性乳化剤あるいは両者の混合物であるのが望ましい。
【0027】
陽イオン性乳化剤には、ドデシルトリメチルアンモニウムアセテート、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド、(ドデシルメチルベンジル)トリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムクロライド、メチルドデシルジ(ヒドロポリオキシエチレン)アンモニウムクロライド、ベンジルドデシルジ(ヒドロポリオキシエチレン)アンモニウムクロライド、N−[2−(ジエチルアミノ)エチル]オレアミド塩酸塩が包含される。
【0028】
非イオン性界面活性剤には、エチレンオキシドとヘキシルフェノール、イソオクタチルフェノール、ヘキサデカノール、オレイン酸、アルカン(C12−C16)チオール、ソルビタンモノ脂肪酸(C−C19)またはアルキル(C12−C18)アミンなどとの縮合生成物が包含される。界面活性剤の量は重合体100重量部当たり0.01〜30重量部、例えば1〜20重量部であってよい。
【0029】
本発明で処理される組成物は必要に応じて消泡剤を含有する。特に界面活性剤を含有させることにより泡立ちが大きくなることが懸念される場合は、消泡剤を含有させる必要がある。消泡剤としては、各種水性用のものが使用でき、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等の如き低級アルコール;アミルアルコール、ポリプロピレングリコールおよびその誘導体等の如き高級アルコール;オレイン酸、トール油、ミネラルオイル、石鹸等の如き油脂;ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、プルロニック型ノニオン界面活性剤等の如き界面活性剤;シロキサン、シリコーン樹脂等の如きシリコーン系界面活性剤が挙げられ、単独あるいは、併用して使用される。代表的な消泡剤の市販品としては、アデカネートB、アデカネートB1068等のB−シリーズ(旭電化工業社製);フォーマスターDL、ノプコNXZ、SNデフォーマー113,325,308,368等のSNデフォーマーシリーズ;デヒドラン1293,デヒドラン1513〔サンノプコ(株)製〕;フロノンSB−110N、SB−210、510、551、アクアレン800、805、アクアレン1488〔共栄社化学(株)製〕;サーフィノール104E(エアプロダクト&ケミカル社製アセチレン系消泡剤);KS−607A〔信越化学社(株)製〕;FSアンチフォーム(ダウコーニング社製);BYK−020、031、073、W(ビッグケミー社製);デヒドラン981(ヘンケル白水社製);エパンー410、710、720〔第一工業製薬(株)製〕;Tego Foamexシリーズ(テゴ・ゴールドシュミット社製);フォームレックス−747、TY−10、EPシリーズ(日華化学社製)等が挙げられる。消泡剤の含有量は水性樹脂エマルションに対して0.01〜10重量%が好ましく、0.05〜5重量%が特に好ましい。
【0030】
本発明では重合体の分散性の向上を目的とし、必要に応じて有機溶剤を加えることができる。有機溶剤の例としては、アセトン、メチルエチルケトンのごときケトン類、エチレングリコール、ポリエチレングリコールのごときエチレングリコール誘導体および、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテルのごときエチレングリコール誘導体のアルキルエーテル類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールのごときプロピレングリコール誘導体、シクロデキストリン、デキストリンのごときポリエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチルのごときエステル類、N−アルキルピロリドン等である。有機溶剤の量は重合体100重量部当たり5〜200重量部、例えば10〜100重量部、特に20〜80重量部であってよい。
【0031】
また必要に応じて、水性分散液は、有機酸や架橋剤、他の重合体、他の撥水剤、撥油剤、防虫剤、難燃剤、帯電防止剤、染料安定剤、防シワ剤等の添加剤等を含んでもよい。
架橋剤としては、ブロック化イソシアネート化合物、メラミン樹脂化合物、グリオキザール系樹脂化合物、尿素系樹脂化合物、架橋性単量体(N−メチロールアクリルアミド、2−イソシアネートエチルメタクリレートのブロック化体等)を必須重合単位とする重合体等が挙げられ、ブロック化イソシアネート化合物またはメラミン樹脂化合物が好ましい。ここで、ブロック化イソシアネート化合物としては、重合性不飽和基を有しない化合物であり、ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化剤でブロックした構造の化合物が好ましい。メラミン樹脂化合物としては、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等が挙げられる。
【0032】
本発明の水性分散液組成物は、水性樹脂エマルション(A)に界面活性剤(B)を加えることによって製造できる。水性樹脂エマルション(A)は、例えば、重合開始剤および必要により界面活性剤の存在下で、重合性化合物を、有機溶剤を含んでいてよい水中で乳化重合することによって得られる。
【0033】
水性分散液組成物を適用する基体は、繊維製品または中実シートである。基体は、シート状物、例えば布であることが好ましい。繊維製品としては、繊維そのもの、繊維からできている糸、繊維からできている布が挙げられる。中実シートとは、繊維からできている布と異なって、空隙の存在しないシートである。
シリコーン樹脂エマルションおよび/または含フッ素樹脂エマルションを含有する水性分散液を適用する基体は、フィルム、繊維、糸、織布、カーペットならびに天然重合体物質や変性された天然重合体物質や合成重合体物質から得られたフィラメント、繊維あるいは糸で作られたシートであってよい。
【0034】
表面サイズ剤を含有する水性分散液を適用する基体は、特に制限されず、各種の紙及び板紙に適用できる。紙の種類としては、フォーム用紙、PPC用紙、感熱記録原紙、感圧記録原紙等の記録用紙及びその原紙、アート紙、キャストコート紙、上質コート紙等のコート紙用の原紙、クラフト紙、純白ロール紙等の包装用紙、その他、ノート用紙、書籍用紙、印刷用紙、新聞用紙等の各種紙(洋紙);マニラボール、白ボール、チップボール等の紙器用板紙及びライナー等の板紙が挙げられる。
【0035】
本発明の分散液は、塗布、浸漬、吹きつけ、パッディング、ロール被覆あるいはこれらの方法の組み合せによって基体に適用される。特に絞りロールを用いた方法において効果が有効に現れ、加工処理中にロールに付着物が発生するというガムアップの問題が解決される。例えば、浴の固形分量を0.1〜10重量%にすることによってパッド浴として使用し、次いで基体をこの浴でパッドし、次に絞りロールで過剰の液を除いて、乾燥吸収(基体上の乾燥重合体の重量)が基体の約0.01〜1重量%となるように適用される。また処理基体は必要に応じて100〜200℃に加熱するのが好ましい。
【0036】
【実施例】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を更に詳しく説明する。
特性は、次のようにして測定した。
撥水撥油性
重合体分散液を固形分濃度が0.5重量%になるよう水で希釈して処理液を調製する。ポリエステル布を処理液に浸漬し、マングルで絞って、ウェットピックアップ65%とし、100℃で2分間乾燥し、160℃で1分間熱処理した後に、処理布の撥水撥油性を評価する。
撥水性はJIS−L−1092のスプレー法による撥水性No.(下記表1参照)をもって表す。
撥油性はAATCC−TM118によって下記表2に示す試験溶液を試験布上、2箇所に数滴たらし、30秒後の浸透状態を観察し、浸漬を示さない試験溶液が与える撥油性の最高点を撥油性とする。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
撥水撥油性の洗濯耐久性
JIS L-0217-103法による洗濯を3回繰り返して行い、その後の撥水撥油性を評価する(HL-3)。
【0040】
貯蔵安定性
水性分散液(固形分30重量%)を、40℃で1ヶ月保存し、沈降の発生を観察する。
○: 全く沈降なし
△: わずかに沈降あり
×: 多く沈降あり
【0041】
風合い
5%濃度の処理を施したPET布を用意し、触手によりこれらの差異を以下の基準により判定した。
◎:未処理布より顕著に柔らかい
○:未処理布とほとんど同じ
×:未処理布より硬い
【0042】
ガムアップ性
重合体分散液を固形分濃度が5重量%になるよう水で希釈した処理液を1000g調製し、これにナイロン用染料固着剤(日華化学製サンライフE−27)を0.1重量%添加する。40℃に温調できるパッドに上の処理液を入れ、送液ポンプを用いて0.8L/minの処理液をマングル上部から滴下する。マングルには幅20cmおよび長さ80cmのポリエステル布を輪にして連続処理できるようにして、マングル圧が0.4MPaで1時間の連続処理を行う。マングルでしぼられた処理液はパッド中に戻し繰り返し送液ポンプで循環させる。一時間後にマングルへのポリマーの付着状態を目視観察し、下記の基準によりガムアップ性を判定する。
◎:ロールに付着物が全くない
○:ロールに付着物がほとんどない
△:ロールに少し付着物がある
×:ロールに付着物が多い
【0043】
実施例1
1LフラスコにC2n+1CHCHOCOCH=CH (n=6,8,10,12,14(nの平均8)の化合物の混合物)100g、ステアリルアクリレート25g、2−エチルヘキシルメタクリレート25g、ダイアセントンアクリルアミド1.2g、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート0.8g、純水200g、トリプロピレングリコール40g、酢酸0.3g、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド4g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル10gを入れ、撹拌下に60℃で15分間、超音波で乳化分散させた。2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩0.75gを添加し、60℃で5時間反応させ、重合体の水性分散液を得た。さらにこの水性分散液にポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体[HO-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c-H (平均分子量3100、ポリオキシエチレンの割合が20重量%)]3gを入れ、1時間攪拌させて水性分散液を得た。
水性分散液の特性を測定した。結果を表3に示す。
【0044】
実施例2
1LオートクレーブにC2n+1CHCHOCOCH=CH (n=6,8,10,12,14(nの平均8)の化合物の混合物)150g、ステアリルアクリレート37.5g、ラウリルアクリレート37.5g、N−メチロールアクリルアミド1.8g、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート1.2g、純水300g、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル90g、酢酸0.45g、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド6g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル15gを入れ、撹拌下に60℃で15分間、超音波で乳化分散させた。乳化後n−ドデシルメルカプタン1.5gを添加し、さらに塩化ビニル45gを圧入充填した。さらに2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩1.12gを添加し、60℃で5時間反応させ、重合体の水性分散液を得た。さらにこの水性分散液にポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体[HO-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c-H (平均分子量3100、ポリオキシエチレンの割合が20重量%)]4.5gを入れ、1時間攪拌させて水性分散液を得た。
水性分散液の特性を測定した。結果を表3に示す。
【0045】
実施例3
実施例2でポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体4.5gの代わりに、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル[C12H25O-(CH2CH2O)-(C3H6O)-H (ポリオキシエチレンのモル数(p)の平均が10、ポリオキシプロピレンのモル数(q)の平均が4モル)]4.5gを用いる以外は、実施例2と同様にして水性分散液を得た。
水性分散液の特性を測定した。結果を表3に示す。
【0046】
実施例4
市販されているシリコーン系柔軟剤(三木理研工業製、リケンソフナーFGS−8)に、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体[HO-(C3H6O)a-(CH2CH2O)b-(C3H6O)c-H (平均分子量3100、ポリオキシエチレンの割合が20重量%)]を添加して、水性分散液を得た。
水性分散液の特性を測定した。結果を表3に示す。
【0047】
実施例5
市販されている紙用サイズ剤(ミサワセラミックス製のBM−8)にポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体(平均分子量2800、ポリオキシエチレンの割合が10重量%)を添加して、水性分散液を得た。
水性分散液の特性を測定した。結果を表3に示す。
【0048】
比較例1
実施例1で重合後の水性分散液に、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体(平均分子量3100、ポリオキシエチレンの割合が20重量%)を添加しない以外は、実施例1を繰り返した。結果を表3に示す。
【0049】
比較例2
実施例2で重合後の水性分散液に、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体(平均分子量3100、ポリオキシエチレンの割合が20重量%)を添加しない以外は、実施例2を繰り返した。結果を表3に示す。
【0050】
比較例3
実施例4で使用した市販されているシリコーン系柔軟剤を、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体(平均分子量3100、ポリオキシエチレンの割合が20重量%)を添加しないで用いた。結果を表3に示す。
【0051】
比較例4
実施例5で使用した市販されている紙用サイズ剤を、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレントリブロック共重合体(平均分子量3100、ポリオキシエチレンの割合が20重量%)を添加しないで用いた。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、水性分散液をシート状物の仕上げ加工に用いた場合に、ロールに付着物が発生せずに、充分な性能(例えば、撥水撥油性、サイズ性、防汚性、柔軟性)をシート状物に与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)仕上げ加工用に用いられる水性樹脂エマルション、ならびに
(B)(B−i)ポリオキシエチレンブロックから分子の外側に向かってポリオキシアルキレンブロックが存在するように、ポリオキシアルキレンブロック(アルキレン基の炭素数は3以上である。)が分子の外側にあり、ポリオキシエチレンブロックが分子の内側にある構造を有するコポリマーである非イオン性界面活性剤および(B−ii)1つのポリオキシエチレンブロックと1つのポリオキシアルキレンブロック(アルキレン基の炭素数は3以上である。)とが直接に結合している非イオン性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも一種の界面活性剤
からなる水性分散液組成物。
【請求項2】
非イオン性界面活性剤(B−i)が、(a)分子の中央にポリオキシエチレンブロックを配置し、その両端にポリオキシアルキレンブロックを配置した構造であるトリブロック型のコポリマー、および/または(b)分子の中央に2〜6価の有機基(例えば、4価であるエチレンジアミン基)を有し、有機基にポリオキシエチレンブロック−ポリオキシアルキレンブロックが結合したコポリマーである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
非イオン性界面活性剤(B−ii)が、1つのポリオキシエチレンブロックと1つのポリオキシアルキレンブロック(アルキレン基の炭素数は3以上である。)とが直接に結合している構造を有し、ポリオキシエチレンブロックおよびポリオキシアルキレンブロックのそれぞれが末端有機基または水素原子(もしくは水酸基)に結合しているコポリマーである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
界面活性剤(B)が、
(B1) 式:
11O−(R11O)a−(CHCHO)b−(R12O)c−A12 (1)
[式中、A11およびA12は水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基またはR13C(=O)−(R13は炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基である。)であり、
11およびR12は炭素数3以上のアルキレン基であり、
a、bおよびcは2以上の数であり、bは分子全体に対してポリオキシエチレンブロックの重量割合が5〜80重量%になるような数である。]
で示される非イオン性界面活性剤、
(B2) 式:
【化1】

[式中、A21、A22、A23およびA24は水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基またはR13C(=O)−(R13は炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基である。)であり、
それぞれのR21は、同一または異なって、炭素数3以上のアルキレン基であり、それぞれのxおよびyは、同一または異なって、2以上の数であり、xは分子全体に対してポリオキシエチレンブロックの重量割合が5〜80重量%になるような数である。]
で示される非イオン性界面活性剤、および
(B3) 式:
31O−(CHCHO)p−(R31O)q−A32 (3)
[式中、A31は炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基、A32は水素原子、炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基、R31は炭素数3以上のアルキレン基であり、pはポリオキシエチレンブロックの重量割合が分子全体に対して5〜80重量%になるような数である。]
で示される非イオン性界面活性剤
からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
界面活性剤(B)におけるオキシアルキレン基がオキシプロピレンである請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
水性樹脂エマルション(A)を構成する重合体が、含フッ素重合体である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
水性樹脂エマルション(A)を構成する重合体が、パーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロアルケニル基およびアクリル酸基もしくはメタクリル酸基を有する重合性化合物の少なくとも1種のホモ重合体もしくは共重合体またはそれらと共重合可能な重合性化合物との共重合体である請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
水性樹脂エマルション(A)に界面活性剤(B)を添加して形成されている請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
消泡剤をも含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物を基体に適用し、水性樹脂エマルション中の重合体を基体に付着させることからなるシート状物の仕上げ加工方法。
【請求項11】
基体が繊維製品または中実シートである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
基体が繊維製品であり、繊維製品に撥水撥油性を付与することを目的とする請求項10に記載の方法。

【公開番号】特開2006−188546(P2006−188546A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−31970(P2003−31970)
【出願日】平成15年2月10日(2003.2.10)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】