説明

付加フィルタ及びこの付加フィルタを用いた半価層測定装置並びに半価層測定方法

【課題】より短時間で半価層を計測可能とする付加フィルタ及びこの付加フィルタを用いた半価層測定装置並びに半価層測定方法を提供する。
【解決手段】X線源から照射されたX線の線量を検出する線量検出手段のX線源側に配置する半価層測定用の付加フィルタに、X線の透過方向を厚み方向として、厚み寸法をそれぞれ異ならせた複数の領域を備えたゲージ部を設ける。この付加フィルタを線量検出手段のX線源側に配置するステップと、線量検出手段にX線を照射して線量を検出し、線量が所定の減衰率となる半価層測定用の付加フィルタの厚みを半価層の厚さとするステップとによりX線の半価層の厚さを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影や放射線治療などに用いられる連続エネルギーを有するX線の実効エネルギーを特定するために行われる半価層の測定に用いる付加フィルタ、及びこの付加フィルタを用いた半価層測定装置並びに半価層測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場においては、検査目的や治療目的にX線が使用されている。検査目的に用いられるX線とはX線撮影装置などに用いられるX線であって、X線源で発生させたX線を人体の一部に照射し、人体を透過したX線をX線感光フィルムやX線用ディテクタなどの検出手段で検出し、人体の内部状態を検査可能あるいは確認可能としている。また、治療目的に用いられるX線とは放射線治療装置などに用いられるX線であって、X線源で発生させたX線を人体の一部に照射して、被照射部位におけるガン細胞などを破壊したりすることに用いられている。
【0003】
このように、X線は人体を透過する放射線であって、X線撮影装置や放射線治療装置などを使用する場合には、被ばくという問題は避けられない。
【0004】
そこで、X線撮影装置や放射線治療装置では、線量計を用いてX線源から照射されたX線の線量を測定し、測定結果に基づいてX線源を校正することにより必要以上の線量のX線が照射されることを抑止している。
【0005】
特に、CT(Computerized Tomography)装置などのように検出手段を備えた装置においては、別途の線量計を用いるのではなく、検出手段によって人体を透過したX線の線量を検出し、X線源から照射されるX線の線量を調整する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
このように、X線の線量を検出可能とした検出手段を備えて、リアルタイムでのX線の線量が検出可能となっている装置では、X線源から照射されるX線の線量が適正であるかどうかを判定することができるが、一般的には、X線の線量をリアルタイムで検出できないことの方が多い。
【0007】
しかも、X線の場合には、X線が連続エネルギーを有しているために、エネルギーの大きさの評価自体が困難となっている。
【0008】
そこで、X線におけるエネルギーの大きさを評価する代わりに、X線の強度を評価することが行われている。このX線の強度の評価方法として、半価層の厚さを測定することが行われている。
【0009】
半価層とは、X線を吸収するアルミニウムなどのX線吸収体の厚みを適宜変更して、このX線吸収体による吸収によってX線の強度が50%、あるいは25%などの所定の減弱率となったときのX線吸収体の厚みとして規定されているものである。ここで、X線吸収体は一般的に付加フィルタと呼ばれている。
【0010】
半価層を測定する場合には、通常、電離箱などの線量計を用い、この線量計を所定位置に配置するとともに、X線源から線量計に向けて照射されたX線の光路を横断するように所定厚みの平板状とした付加フィルタを配置して、この付加フィルタの厚みを順次変更しながら線量計でX線の強度を測定し、X線の強度が50%、あるいは25%などの所定の減弱率となったときの付加フィルタの厚みを半価層の厚さとしていた。
【特許文献1】特表2004−528063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、半価層の測定では、付加フィルタの厚みを順次変更しながら測定を行う必要があり、測定回数が多いことによって多大な時間を要することとなっており、さらに、測定精度を向上させるためには測定を複数回繰返して行う必要があり、より多大な時間を要することとなっていた。
【0012】
したがって、半価層の測定は、一般的に、一種類の印加電圧に対して約2時間程度の時間を要する作業となっており、この測定の間における気温や気圧の変化、さらにはX線源の出力の安定性などの影響が生じることとなり、信頼性の高い測定を行いにくいという問題もあった。
【0013】
本発明者らは、このような現状に鑑み、短時間での測定を可能として、信頼性の高い半価層の測定を精度よく実施可能とすべく研究開発を行って、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の付加フィルタでは、X線源から照射されたX線の線量を検出する線量検出手段のX線源側に配置する半価層測定用の付加フィルタであって、X線の透過方向を厚み方向として、厚み寸法をそれぞれ異ならせた複数の領域を備えたゲージ部を有することとした。
【0015】
さらに、本発明の付加フィルタでは、以下の点にも特徴を有するものである。すなわち、
(1)ゲージ部は、縦断面形状を楔形状として厚み寸法を連続的に異ならせていること。
(2)ゲージ部は、縦断面形状を階段状として厚み寸法を断続的に異ならせていること。
(3)ゲージ部は、厚み寸法の異なる複数のブロック体を並べて形成したこと。
(4)ゲージ部は、面方向の大きさを順次小さくした複数の平板体を積層して形成したこと。
(5)ゲージ部は、X線源側の表面を、X線源からの距離が等距離となる湾曲面としたこと。
【0016】
また、本発明の半価層測定装置では、上記のいずれか1つの付加フィルタと、X線の線量を検出する線量検出手段とを備えて、X線源から照射されたX線における半価層の厚さを測定する半価層測定装置とした。
【0017】
さらに、本発明の半価層測定装置では、以下の点にも特徴を有するものである。すなわち、
(1)付加フィルタを、線量検出手段から所定間隔だけ離隔させて配置したこと。
(2)線量検出手段を、ラジオクロミックフィルムとしたこと。
(3)ラジオクロミックフィルムのX線源側に、X線によるラジオクロミックフィルムの感光を防止する遮蔽体を配置したこと。
(4)遮蔽体は、矩形状のラジオクロミックフィルムにおける隣り合った少なくとも2つの外周縁に沿ってラジオクロミックフィルムを被覆すること。
(5)付加フィルタを、平面視において遮蔽体から離隔させて配置したこと。
【0018】
また、本発明の半価層測定方法では、上記のいずれか1つの付加フィルタを線量検出手段のX線源側に配置するステップと、線量検出手段にX線を照射して線量を検出し、線量が所定の減衰率となる半価層測定用の付加フィルタの厚みを半価層の厚さとするステップとによりX線の半価層の厚さを測定することとした。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、半価層の特定に用いる付加フィルタに厚み寸法をそれぞれ異ならせた複数の領域を備えたゲージ部を設けていることにより、付加フィルタの厚みを変更するための作業を不要とすることができるので、極めて短時間で半価層を特定できる。しかも、測定に要する時間を短縮できることによって、気温や気圧の変化、さらにはX線源の出力の安定性などの影響を受けにくくすることができ、環境による変動を受けにくい安定した測定とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の付加フィルタ、及びこの付加フィルタを用いた半価層測定装置並びに半価層測定方法では、X線源から照射されたX線の線量を検出する線量検出手段のX線源側に配置する半価層測定用の付加フィルタに、X線の透過方向を厚み方向として、厚み寸法をそれぞれ異ならせた複数の領域を備えたゲージ部を有することにより、付加フィルタの厚み調整作業をすることなく異なる厚みの付加フィルタによる半価層の測定を可能としているものである。
【0021】
このように、付加フィルタが異なる厚み寸法の領域を備えたゲージ部を有することにより、半価層の測定に要する時間を大きく削減することができ、測定の間における気温や気圧の変化、さらにはX線源の出力の安定性などの影響が生じることがなく、測定精度を向上させることができる。
【0022】
特に、X線の強度の検出にラジオクロミックフィルムなどの線量検出用フィルムを用いた場合には、X線の強度変化を線量検出用フィルムにおける濃度変化として解析できるので、X線の強度変化の解析手段を簡便とすることができる。しかも、ラジオクロミックフィルムでは散乱光などの低エネルギーのX線に対する応答性が低いため、このことを利用して散乱光の影響を受けにくい放射線測定器具とすることができ、散乱光の影響を排除した測定を可能とすることができる。
【0023】
以下において、図面に基づいて本発明の実施形態を詳説する。図1は、第1実施形態の半価層測定装置A1の断面模式図である。本実施形態の半価層測定装置A1は、ベッド11に横たわった患者のX線撮影を行うX線撮影装置に適用した半価層測定装置A1である。
【0024】
本実施形態の半価層測定装置A1が使用されるX線撮影装置は、図1に示すように、患者が所定の姿勢で横たわるベッド11と、このベッド11から所定の距離だけ離隔させて配置したX線照射部12とを備えており、X線照射部12は図示しない支柱によって所定の高さに支持されている。
【0025】
半価層測定装置A1は、ベッド11の上面の所定位置に載置するとともに所定位置に線量検出用フィルム20が載置されるフィルム載置面21aを備えた基台21と、この基台21のフィルム載置面21aに載置される線量検出用フィルム20と、この線量検出用フィルム20から所定の距離だけ隔てて配置される付加フィルタ22と、この付加フィルタ22を支持する付加フィルタ支持台23と、線量検出用フィルム20上に配置してX線を吸収させる遮蔽体24とで構成している。
【0026】
基台21は、本実施形態では中空の箱体としている。基台21は、ベッド11からのX線の散乱光が線量検出用フィルム20に達することを防止するために、ベッド11と線量検出用フィルム20との間に散乱光の線量検出用フィルム20への到達を抑制できる程度の空間を設けているものであり、アクリルなどのX線に対して透過性の高い素材で適宜の形状に構成してよい。本実施形態では、板厚寸法5mmのアクリル板で構成している。ベッド11の上面からフィルム載置面21aまでの距離は、具体的には3cm以上としている。基台21は箱体状とするのではなく、所定の長さの脚を有するテーブル状としてもよい。
【0027】
基台21をアクリル製とした場合には、基台21によってX線の散乱が生じにくいので、フィルム載置面21a上に線量検出用フィルム20を直接的に載設してもよい。
【0028】
線量検出用フィルム20は、いわゆるラジオクロミックフィルムとしている。ラジオクロミックフィルムは入手しやすく、かつ取り扱いが容易であるために、熟練を要することなく半価層の計測を可能とすることができる。しかも、ラジオクロミックフィルムは、X線の線量に対する応答が直線的であるために、X線の強度分布に応じた濃度分布を示すこととなるので、濃度分布からのX線の強度分布の判定を行いやすく、しかも半価層の評価には不要な低エネルギーのX線に対しての反応性が低く、散乱光の検出が抑制されるという長所を有している。線量検出用フィルム20は、本実施形態では所要の大きさの矩形形状としている。
【0029】
基台21上には、付加フィルタ22を支持する付加フィルタ支持台23を載置している。付加フィルタ支持台23は基台21上に載置する形態に限定するものではなく、基台21を内包させながらベッド11上に載置してもよい。
【0030】
本実施形態では、付加フィルタ支持台23は、基台21上に立設状態に配置させる周面壁23aと、この周面壁23aの上部開口を閉塞する平板状の支持板23bとで構成しており、付加フィルタ支持台23もアクリル製としている。周面壁23aは、内側に線量検出用フィルム20を収容可能な大きさとしている。
【0031】
周面壁23aは、支持板23b上に載置された付加フィルタ22により生じたX線の散乱光を空気で吸収するための緩衝空間を形成するために設けており、周面壁23aの高さは、一般的には3cm以上であればよい。
【0032】
支持板23bには、X線照射部12から照射されたX線の照射領域部分に開口23cを設け、X線照射部12から照射されたX線が支持板23bを横断することなく線量検出用フィルム20に到達することとしている。なお、開口23cは必ずしも設ける必要はないが、誤差の要因を可能な限り排除するために設けている。
【0033】
付加フィルタ22は、本実施形態ではアルミニウム製としており、開口23cを横断させて支持板23b上に載置している。なお、付加フィルタ22はアルミニウム製に限定するものではなく、銅や錫などのように半価層の計測用の付加フィルタとして用いられる素材で形成していればよい。
【0034】
付加フィルタ22には、所定位置に、X線の透過方向に対して厚み寸法を異ならせたゲージ部22aを設けている。ゲージ部22aには、後述するように、厚み寸法のそれぞれ異なる複数の領域を設けている。
【0035】
ゲージ部22aの外周には、付加フィルタ22を支持板23b上に載置するための平板領域22bを設けている。なお、平板領域22bは必ずしも設ける必要はなく、ゲージ部22aだけで付加フィルタ22を構成してもよい。また、平板領域22bを設ける場合には、平板領域22bとゲージ部22aは、必ずしも一体的に形成する必要はなく、たとえばアクリル板で構成した平板領域22bの所定位置に、所定形状としたアルミニウムを装着してゲージ部22aとしてもよい。
【0036】
本実施形態では、図2及び図3に示すように、付加フィルタ22は平面視において短冊状に形成し、付加フィルタ22の両端をそれぞれ支持板23b上に当接させて、付加フィルタ支持台23上に架設状態に配置している。ゲージ部22aは、線量検出用フィルム20の中央部分に位置させている。
【0037】
線量検出用フィルム20上に配置した遮蔽体24は、鉛などのようにX線を吸収する材料で構成しており、X線照射部12から照射されたX線を吸収して、遮蔽体24の下面側の線量検出用フィルム20がX線で感光することを防止している。
【0038】
特に、遮蔽体24は、図2に示すように、線量検出用フィルム20の外周縁に沿って線量検出用フィルム20上に載置される筒形状としている。本実施形態では、遮蔽体24は、線量検出用フィルム20の外周縁から2〜3cm内側までを覆っている。なお、遮蔽体24は、筒形状に限定されるものではなく、図3に示すように、線量検出用フィルム20の隣り合った少なくとも2つの外周縁に沿って線量検出用フィルム20を被覆していればよく、図3に示す平面視L字状となっていたり、あるいは、U字状となっていたりしてもよい。
【0039】
このように、遮蔽体24によって線量検出用フィルム20の隣り合った少なくとも2つの外周縁に沿って線量検出用フィルム20を被覆することにより、線量検出用フィルム20には、隣り合った少なくとも2つの外周縁に沿ってX線による感光が生じない未感光領域20aを設けることができる。
【0040】
この未感光領域20aは、線量検出用フィルム20の製造バラツキの判定に用いることができる。すなわち、ラジオクロミックフィルムなどの線量検出用フィルム20では、シート状の基材の上面にX線に感光する感光層を設けるとともに、この感光層の上面に保護層を設けているが、感光層及び保護層の厚みのバラツキなどに起因して、感光層に感度のバラツキが生じるおそれがある。
【0041】
未感光領域20aでは、保護層の厚みバラツキが存在する場合に、表面に色調ムラとしてあらわれるので、この色調ムラに基づいて線量検出用フィルム20の感度を補正することができ、線量検出用フィルム20での検出結果を補正して適正な測定を可能とすることができる。
【0042】
特に、ラジオクロミックフィルムはシート状となっているので、このラジオクロミックフィルムのシート面における互いに直交する2方向の色調ムラの情報が得られれば、ラジオクロミックフィルムの平面全体の感度バラツキを推定することが可能である。したがって、図3に示すように、矩形状とした線量検出用フィルム20の隣り合った少なくとも2つの外周縁に沿って遮蔽体24で線量検出用フィルム20を被覆している。
【0043】
さらに、図2及び図3に示すように、付加フィルタ22は、平面視において遮蔽体24から離隔させて配置することが望ましい。このように、平面視において遮蔽体24から離隔させて付加フィルタ22を配置した場合には、線量検出用フィルム20には、付加フィルタ22あるいは遮蔽体24を横断せずに線量検出用フィルム20に達して線量検出用フィルム20を感光させる完全感光領域20bを設けることができる。
【0044】
この完全感光領域20bでは、線量検出用フィルム20の感光層を完全に感光させることができるので、感光層に厚みバラツキが存在する場合には、ラジオクロミックフィルムからなる線量検出用フィルム20に感光層の厚みバラツキに起因した色ムラが生じるので、この色ムラを用いて線量検出用フィルム20の感度を補正することができ、線量検出用フィルム20での検出結果を補正して適正な測定を可能とすることができる。
【0045】
さらに、完全感光領域20bでは、線量検出用フィルム20における感度のバラツキだけでなく、X線照射部12のX線源から照射されるX線の強度分布の平坦度に起因した色ムラが生じるので、この色ムラを用いて線量検出用フィルム20の感度を補正することができ、線量検出用フィルム20での検出結果を補正して適正な測定を可能とすることができる。
【0046】
付加フィルタ22におけるゲージ部22aは、以下のように形成している。
【0047】
本実施形態では、図1に示すように、ゲージ部22aでは、縦断面形状を楔形状として厚み寸法を連続的に異ならせている。このように、ゲージ部22aを縦断面楔形状とすることにより、このゲージ部22a部分を透過して線量検出用フィルム20に達したX線は、透過したゲージ部22aの厚み寸法に応じて減衰されて線量検出用フィルム20を感光させることとなる。
【0048】
したがって、ラジオクロミックフィルムからなる線量検出用フィルム20では、比較的厚肉となったゲージ部22aを透過したX線によって感光した領域では変色の程度が小さく、比較的薄肉となったゲージ部22aを透過したX線によって感光した領域では変色の程度が大きくとなって、ゲージ部22aの厚みに応じた濃淡分布を示すこととなっている。
【0049】
そして、線量検出用フィルム20において、強度が50%減衰したX線に対応する濃度、あるいは強度が25%減衰したX線に対応する濃度などの所定の濃度となった領域を特定し、その領域に対応するフィルタ領域22aの領域の厚みを半価層の厚みとして測定している。
【0050】
ここで、ゲージ部22aに傾斜面を設けて縦断面形状を楔形状として厚み寸法を異ならせた場合には、ゲージ部22aにおいて厚み寸法が連続的に変化するので高解像度での半価層の厚みの測定を可能とすることができる。
【0051】
ただし、この場合には、線量検出用フィルム20に感度のバラツキがあって、この感度のバラツキの影響がゲージ部22aにおける濃度変化に及んでいる場合に、半価層の厚みの正確な特定が困難となる場合がある。
【0052】
そこで、他の実施形態として、ゲージ部22aは、傾斜面を設けて縦断面形状を楔形状とするのではなく、図4に示すように階段状に厚み寸法を異ならせて、階段状の傾斜面を有する楔形状とした階段状フィルタ体31としてもよい。
【0053】
階段状フィルタ体31では、同一の肉厚となった所定幅の定厚み領域31aを、それぞれ肉厚寸法を異ならせながら複数設けている。
【0054】
階段状フィルタ体31に設ける階段状傾斜面の段数は、測定の分解能に応じて適宜の段数としてよく、1段の高さ寸法も測定の分解能に応じて決定してよい。本実施形態では、階段状フィルタ体31は、矩形体状としたアルミニウムからの削り出しによって形成している。
【0055】
ゲージ部22aである階段状フィルタ体31におけるX線源側の表面31bは、X線照射部12のX線源からの距離が等距離となる湾曲面とすることが望ましい。X線源からの階段状フィルタ体31までの距離が異なる場合には、空気によるX線の吸収の影響に起因した誤差が生じるおそれがあるが、X線源からの距離を等距離とした場合には、空気によるX線の吸収の影響を解消でき、より精度の高い測定を行うことができる。
【0056】
なお、X線照射部12が階段状フィルタ体31から十分に離れている場合には、空気によるX線の吸収の影響に起因した誤差を無視できるので、階段状フィルタ体31におけるX線源側の表面31bを平坦状としてもよい。ここで、X線照射部12が階段状フィルタ体31から十分に離れている場合とは、階段状フィルタ体31がX線照射部12から1m程度以上離れている場合である。
【0057】
階段状フィルタ体31は、矩形体状とした金属体から削り出して形成する場合だけでなく、図5に示すように、面方向の大きさを順次小さくした複数の平板状フィルタ31cを所定数積層して形成することもできる。このように、平板体である平板状フィルタ31cを所定数積層して階段状フィルタ体31を形成した場合には、定厚み領域31aの厚みを極めて容易に所定厚みとすることができ、製造精度の高い階段状フィルタ体31として、測定精度の向上を図ることができる。
【0058】
あるいは、図6に示すように、階段状フィルタ体31は、所定の厚み寸法を有するブロック体状とした複数のブロック状フィルタ31dを並べて配置し、各ブロック状フィルタ31dで定厚み領域31aを構成してもよい。このように、厚み寸法の異なるブロック状フィルタ31dを並べて階段状フィルタ体31を形成した場合には、定厚み領域31aの厚みを極めて容易に所定厚みとすることができ、製造精度の高い階段状フィルタ体31として、測定精度の向上を図ることができる。
【0059】
なお、階段状フィルタ体31は、一方側から他方側にかけて肉厚が漸次増大する、または肉厚が漸次減少する階段状に形成する場合だけでなく、例えば、図7に示すように、一方側から他方側にかけて肉厚を漸次増大させた後に肉厚を漸次減少させる断面凸形状とした凸型階段状フィルタ体31-1、あるいは、図8に示すように、一方側から他方側にかけて肉厚を漸次減少大させた後に肉厚を漸次増大させる断面凹形状とした凹型階段状フィルタ体31-2としてもよい。
【0060】
このように、ゲージ部22aを設けた付加フィルタ22を用いることによって、半価層測定装置A1では1回のX線の照射によって、半価層の計測を行うことができる。
【0061】
すなわち、半価層の計測を行う場合には、ベッド11の所定位置に基台21を配置し、この基台21のフィルム載置面21aに線量検出用フィルム20を載置し、この線量検出用フィルム20上に遮蔽体24を配置している。
【0062】
さらに、基台21上には付加フィルタ支持台23を配置し、この付加フィルタ支持台23の所定位置に付加フィルタ22を配置して、X線照射部12から線量検出用フィルム20にX線を照射している。なお、付加フィルタ22を付加フィルタ支持台23に配置する場合には、あらかじめ基準位置を決めており、この基準位置に合わせて付加フィルタ22を配置させている。
【0063】
X線の照射後、線量検出用フィルム20は、感光によって生じた濃淡分布、及び遮蔽体24によって感光していない未感光領域20aにおける色ムラなどを適宜のスキャナ装置によって電子データ化され、スキャナ装置を接続したパーソナルコンピュータなどの電子計算機によって、濃淡分布の濃淡データ、完全感光領域20bにおける色ムラなどに基づく補正データ、及び未感光領域20aにおける色ムラなどに基づく補正データを生成している。
【0064】
電子計算機では、各補正データに基づいて濃淡データの補正処理を行い、補正処理された濃淡データからX線の強度が所定の減衰率となっている領域を特定している。
【0065】
ここで、電子計算機には、付加フィルタ22におけるゲージ部22aの形状情報をあらかじめ記憶しており、線量検出用フィルム20で特定された所定の減衰率となっている領域に基づいて、この領域に対応する付加フィルタ22の領域を特定して、その領域の付加フィルタ22の肉厚寸法データから半価層の厚みを特定している。
【0066】
本実施形態では、線量検出用フィルム20を用いてX線の強度を測定しているが、エネルギー依存性の低いシート状のイメージングプレートなどのX線検出器を用いてもよい。
【0067】
特に、ラジオクロミックフィルムやイメージングプレートなどのような平面状のX線の検出手段を用いることにより線量分布を高分解能で検出できるので、X線束を極力小さして散乱線の発生を抑制する必要がなく、X線束を絞る必要がないことにより、測定精度を向上させることができる。
【0068】
前述したゲージ部22aを備えた付加フィルタ22は、ラジオクロミックフィルムなどの線量検出用フィルム20とともに用いる場合だけでなく、たとえば、CT装置における半価層の測定にも用いることができる。
【0069】
図9は、第2実施形態の半価層測定装置A2の断面模式図である。本実施形態の半価層測定装置A2では、CT装置におけるX線検出器41を利用するものであり、X線管40とX線検出器41との間に設けられた被験者が横たわるベッド43上に前述した付加フィルタ22'を載置して、ベッド43を移動させることにより付加フィルタ22'を移動させて半価層を測定するものである。ここで、付加フィルタ22'は、ベッド43の移動にともなってゲージ部の厚みが順次異なるようにベッド43上に配置している。
【0070】
CT装置のX線検出器41は、散乱線を排除して一次線のみを検出するように構成されているため、X線検出器41で検出されたCT値から容易に半価層の値を特定することができる。
【0071】
なお、通常のCT装置では、X線管40とX線検出器41を被験者回りに周回させながらX線の照射を行っているが、半価層を測定する際には、CT装置において撮影部位の位置決めをするためにあらかじめ全体像を撮影する位置決め撮影モードの状態を利用している。
【0072】
この位置決め撮影モードでは、X線管40を12時の位置に固定してベッド43を移動させながら被験者の全体像を撮影しており、しかも、照射するX線の実効エネルギーは撮影時と同じであるので、付加フィルタ22'に対してX線が斜めに入射されるこがとなく、半価層の測定精度を向上させることができる。
【0073】
しかも、CT装置のX線検出器41を用いることにより、照射範囲の全ての箇所で半価層を測定することができる。
【0074】
また、CT装置だけでなく、放射線治療装置における半価層の測定においても前記した付加フィルタ22を用いることができ、特に、イメージングプレートや平面型のX線検出器を用いることにより、デジタル値で半価層の値を特定できる。
【0075】
このように、厚み寸法をそれぞれ異ならせた複数の領域を備えたゲージ部を有する付加フィルタを用いるとともに、CT装置のX線検出器、イメージングプレート、フラット・パネル・ディテクタ、イメージ・インテンシファイアなどのデジタル的な検出手段を用いることにより、半価層をデジタル的に測定することができ、X線源を備えた各種の装置において半価層を測定可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】第1実施形態に係る半価層測定装置の縦断面模式図である。
【図2】線量検出用フィルムと遮蔽体とフィルタとの位置関係を示す説明図である。
【図3】線量検出用フィルムと遮蔽体とフィルタとの位置関係を示す説明図である。
【図4】フィルタにおける肉厚調整領域の説明図である。
【図5】フィルタにおける肉厚調整領域の説明図である。
【図6】フィルタにおける肉厚調整領域の説明図である。
【図7】フィルタにおける肉厚調整領域の説明図である。
【図8】フィルタにおける肉厚調整領域の説明図である。
【図9】第1実施形態に係る半価層測定装置の縦断面模式図である。
【符号の説明】
【0077】
A1 半価層測定装置
11 ベッド
12 X線照射部
20 線量検出用フィルム
21 基台
21a フィルム載置面
22 付加フィルタ
22a ゲージ部
22b 平板領域
23 付加フィルタ支持台
23a 周面壁
23b 支持板
23c 開口
24 遮蔽体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源から照射されたX線の線量を検出する線量検出手段の前記X線源側に配置する半価層測定用の付加フィルタであって、
前記X線の透過方向を厚み方向として、厚み寸法をそれぞれ異ならせた複数の領域を備えたゲージ部を有する付加フィルタ。
【請求項2】
前記ゲージ部は、縦断面形状を楔形状として前記厚み寸法を連続的に異ならせていることを特徴とする請求項1に記載の付加フィルタ。
【請求項3】
前記ゲージ部は、縦断面形状を階段状として前記厚み寸法を断続的に異ならせていることを特徴とする請求項1に記載の付加フィルタ。
【請求項4】
前記ゲージ部は、厚み寸法の異なる複数のブロック体を並べて形成したことを特徴とする請求項1に記載の付加フィルタ。
【請求項5】
前記ゲージ部は、面方向の大きさを順次小さくした複数の平板体を積層して形成したことを特徴とする請求項1に記載の付加フィルタ。
【請求項6】
前記ゲージ部は、前記X線源側の表面を、前記X線源からの距離が等距離となる湾曲面としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の付加フィルタ。
【請求項7】
X線源から照射されたX線における半価層の厚さを測定する半価層測定装置において、
前記X線の線量を検出する線量検出手段と、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の付加フィルタと
を備えたことを特徴とする半価層測定装置。
【請求項8】
前記付加フィルタを、前記線量検出手段から所定間隔だけ離隔させて配置したことを特徴とする請求項7に記載の半価層測定装置。
【請求項9】
前記線量検出手段を、ラジオクロミックフィルムとしたことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の半価層測定装置。
【請求項10】
前記ラジオクロミックフィルムの前記X線源側に、前記X線による前記ラジオクロミックフィルムの感光を防止する遮蔽体を配置したことを特徴とする請求項9に記載の半価層測定装置。
【請求項11】
前記遮蔽体は、矩形状の前記ラジオクロミックフィルムにおける隣り合った少なくとも2つの外周縁に沿って前記ラジオクロミックフィルムを被覆することを特徴とする請求項10記載の半価層測定装置。
【請求項12】
前記付加フィルタを、平面視において前記遮蔽体から離隔させて配置したことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の半価層測定装置。
【請求項13】
X線源から照射されたX線の線量を検出する線量検出手段を用いて前記X線の半価層の厚さを測定する半価層測定方法であって、
前記線量検出手段の前記X線源側に請求項1〜6のいずれか1項に記載の付加フィルタを配置するステップと、
前記線量検出手段にX線を照射して線量を検出し、線量が所定の減衰率となる前記半価層測定用の付加フィルタの厚みを前記半価層の厚さとするステップと
を有する半価層測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−194441(P2008−194441A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173597(P2007−173597)
【出願日】平成19年6月30日(2007.6.30)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】