説明

伝熱板の製造方法

【課題】熱交換効率が高く、かつ、平坦性の高い伝熱板の製造方法を提供する。
【解決手段】ベース部材2の表面2a側に開口する蓋溝6の底面6cに形成された凹溝7に、熱媒体用管3を挿入する挿入工程と、蓋溝6に挿入される本体部11とこの本体部11の底面14に凸設され凹溝7に挿入される凸部12とを有する蓋板4を、蓋溝6に挿入する蓋溝閉塞工程と、蓋溝6の側壁6a,6bと蓋板4の側面15a,15bとの突合部J1,J2に沿って回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌接合を行う本接合工程と、ベース部材2の裏面2bに対して回転ツールを移動させて摩擦攪拌を行う矯正工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば熱交換器や加熱機器あるいは冷却機器などに用いられる伝熱板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換、加熱あるいは冷却すべき対象物に接触し又は近接して配置される伝熱板は、その本体であるベース部材に例えば高温液や冷却水などの熱媒体を循環させる熱媒体用管を挿通させて形成されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ベース部材と、このベース部材に挿入される熱媒体用管及び蓋板とを有し、ベース部材と蓋板とを摩擦攪拌接合で一体成形した伝熱板が記載されている。図21は、従来の伝熱板を示した側面図である。従来の伝熱板100は、表面に開口する断面視矩形の蓋溝105とこの蓋溝105の底面に開口する凹溝108とを有するベース部材102と、凹溝108に挿入される熱媒体用管116と、蓋溝105に挿入される蓋板110と、を備えている。伝熱板100は、蓋溝105における両側壁106,106と蓋板110の両側面113,114とが突き合わされた突合部J,Jに沿って摩擦攪拌接合を施すことにより、塑性化領域W,Wが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−314115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
伝熱板100には、凹溝108と熱媒体用管116の外周面及び蓋板110の下面とによって空隙120,120が形成されているが、伝熱板100の内部に空隙120が存在していると、熱媒体用管116から放熱された熱が蓋板110及びベース部材102に伝わりにくくなるため、伝熱板100の熱交換効率が低下するという問題があった。また、図21に示すように、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域W,Wに熱収縮が発生するため、伝熱板100が側面視して凹状に歪んでしまうという問題があった。
【0006】
このような観点から、本発明は、熱交換効率が高く、かつ、平坦性の高い伝熱板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決する本発明に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材の表面側に開口する蓋溝の底面に形成された凹溝に、熱媒体用管を挿入する挿入工程と、前記蓋溝に挿入される本体部と前記凹溝に挿入される凸部とを有する蓋板を、前記蓋溝に挿入する蓋溝閉塞工程と、前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌接合を行う本接合工程と、前記ベース部材の裏面に対して回転ツールを移動させて摩擦攪拌を行う矯正工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
かかる製造方法によれば、蓋板に前記凹溝に挿入される凸部を有するため、熱媒体用管の周囲に形成される空隙を小さくすることができる。これにより、伝熱板の熱交換効率を高めることができる。また、矯正工程では、ベース部材の裏面側から摩擦攪拌を行うことで、伝熱板の裏面側にも熱収縮が発生するため伝熱板の平坦性を高めることができる。
【0009】
また、前記矯正工程では、前記伝熱板の裏面に形成される塑性化領域の体積量を、前記伝熱板の表面側に形成された塑性化領域の体積量よりも小さく設定することが好ましい。かかる製造方法によれば、伝熱板の平坦性をより高めることができる。根拠については、実施例で説明する。
【0010】
また、前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の平面形状を前記伝熱板の中心に対して略点対称となるように設定することが好ましい。また、前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の平面形状を前記伝熱板の外縁の形状と略相似形状となるように設定することが好ましい。また、前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の平面形状を、前記伝熱板の表面側に形成された塑性化領域の平面形状と略同等形状となるように設定することが好ましい。また、前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の全長を、前記伝熱板の表面側に形成された塑性化領域の全長と略同等となるように設定することが好ましい。
【0011】
かかる製造方法によれば、伝熱板の表面側と裏面側の反りをバランスよく解消することができるので伝熱板の平坦性をより高めることができる。
【0012】
また、前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の全長を、前記伝熱板の表面側に形成された塑性化領域の全長よりも短くなるように設定することが好ましい。また、前記矯正工程で用いる回転ツールのショルダ部の外径を、前記本接合工程で用いる前記回転ツールのショルダ部の外径よりも小さく設定することが好ましい。また、前記矯正工程で用いる回転ツールの攪拌ピンの長さを、前記本接合工程で用いる前記回転ツールの攪拌ピンの長さよりも小さく設定することが好ましい。
【0013】
かかる製造方法によれば、矯正工程における塑性化領域の体積量を、前記接合工程の塑性化領域の体積量よりも低く設定することができるため、製造された伝熱板の平坦性をより高めることができる。
【0014】
また、前記ベース部材の厚みを、前記本接合工程で用いる前記回転ツールのショルダ部の外径の1.5倍以上に設定することが好ましい。また、前記ベース部材の厚みを、前記本接合工程で用いる前記回転ツールの攪拌ピンの長さの3倍以上に設定することが好ましい。
【0015】
かかる製造方法によれば、接合用回転ツールの各部位の大きさに対してベース部材が十分な厚みを備えているため、伝熱板の平坦性をより高めることができる。
【0016】
また、前記ベース部材が平面視多角形である場合、前記矯正工程では、前記伝熱板の隅部に対して回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う隅部摩擦攪拌工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、ベース部材の隅部において発生した反りを解消して伝熱板の平坦性を解消することができる。
【0017】
また、前記矯正工程の後に、前記伝熱板の裏面側を面削加工する面削工程を含み、前記面削工程の深さは、前記矯正工程で用いる回転ツールの攪拌ピンの長さよりも大きいことが好ましい。かかる製造方法によれば、伝熱板の裏面を平滑に形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る伝熱板の製造方法によれば、熱交換効率が高く、かつ、平坦性の高い伝熱板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第一実施形態に係る伝熱板を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、I−I断面図である。
【図2】第一実施形態に係る伝熱板を示した図であって、(a)は、分解側面図、(b)は、側面図である。
【図3】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法を示した側面図であって、(a)は、切削工程を示した図であり、(b)は、挿入工程を示した図であり、(c)は、蓋溝閉塞工程を示した図である。
【図4】(a)は、第一実施形態に係る接合用回転ツールを示し、(b)は、第一実施形態に係る矯正用回転ツールを示した側面図である。
【図5】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、蓋溝閉塞工程後を示した斜視図である。
【図6】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、本接合工程を段階的に示した平面図である。
【図7】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、本接合工程を示した断面図である。
【図8】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、本接合工程後を示した図であって(a)は、斜視図、(b)は、断面図である。
【図9】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、矯正工程を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、平面図である。
【図10】第二実施形態に係る伝熱板を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、断面図である。
【図11】第二実施形態に係る伝熱板の製造方法において、本接合工程後を示した斜視図である。
【図12】第二実施形態に係る伝熱板の製造方法において、矯正工程を示した平面図である。
【図13】第二実施形態に係る伝熱板の製造方法において、面削工程を示した図であって、図12の(b)のII−II断面図である。
【図14】矯正工程の第一変形例を示した平面図である。
【図15】矯正工程の他の変形例を示した平面図である。
【図16】第三実施形態に係る本接合工程を示した断面図である。
【図17】第四実施形態に係る本接合工程を示した断面図である。
【図18】第五実施形態に係る本接合工程を示した断面図である。
【図19】第六実施形態に係る本接合工程を段階的に示した断面図である。
【図20】実施例を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は平面図である。
【図21】従来の伝熱板を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第一実施形態]
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。第一実施形態に係る伝熱板1は、図1に示すように、厚板形状のベース部材2と、ベース部材2の内部に配置される熱媒体用管3と、ベース部材2に配置される蓋板4と、とを主に備え、摩擦攪拌接合により形成された表面塑性化領域W1,W1によって一体形成されている。ここで、「塑性化領域」とは、回転ツールの摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、回転ツールが通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。
【0021】
ベース部材2は、例えば、アルミニウム合金(JIS:A6061)で形成されている。ベース部材2は、熱媒体用管3に流れる熱媒体の熱を外部に伝達させる役割、あるいは、外部の熱を熱媒体用管3に流れる熱媒体に伝達させる役割を果たすものであって、に示すように、熱媒体用管3を内部に収容する。図2の(a)及び(b)に示すように、ベース部材2の表面2aには、断面視矩形の蓋溝6が凹設されており、蓋溝6の底面6cの中央には、蓋溝6よりも幅狭の凹溝7が凹設されている。蓋溝6は、熱媒体用管3を覆う蓋板4が配置される部分であって、平面視して略馬蹄状を呈する。蓋溝6は、蓋溝6の底面6cから垂直に立ち上がる側壁6a,6bを備えている。
【0022】
凹溝7は、熱媒体用管3が挿入される部分であって、平面視して略馬蹄状を呈する。凹溝7は、上方が開口した断面視U字状の溝であって、下端には熱媒体用管3の外周と同等の曲率半径を有する半円形の底部7aが形成されている。これにより、熱媒体用管3と凹溝7の底部7aとを密接させることができる。凹溝7の開口部分は、熱媒体用管3の外径と略同等の幅で形成されている。また、凹溝7の深さは熱媒体用管3の外径と同等に形成されている。
【0023】
熱媒体用管3は、例えば、銅管にて構成されており、図2の(b)に示すように、断面視円形の中空部3aを有する円筒管である。熱媒体用管3の外径は、凹溝7の幅及び深さと略同等に形成されている。熱媒体用管3は、凹溝7に挿入される部材であるため、凹溝7と同じく平面視略馬蹄状を呈する。
【0024】
熱媒体用管3は、中空部3aに、例えば高温液や高温ガスなどの熱媒体を循環させて、ベース部材2及び蓋板4に熱を伝達させる部材、あるいは中空部3aに、例えば冷却水や冷却ガスなどの熱媒体を循環させて、ベース部材2及び蓋板4から熱を伝達される部材である。また、熱媒体用管3の中空部3aに、例えばヒーターを通して、ヒーターから発生する熱をベース部材2及び蓋板4に伝達させる部材として利用してもよい。
【0025】
蓋板4は、図2の(a)及び(b)に示すように、ベース部材2と同様のアルミニウム合金からなり、略平板状を呈する本体部11と、本体部11の下面(底面)から凸設された凸部12とを有する。蓋板4は、蓋溝6に挿入される部材であるため、蓋溝6と同じく平面視略馬蹄状を呈する。本体部11は、ベース部材2の蓋溝6の断面と略同じ矩形断面を呈し、上面(表面)13、下面(底面)14、側面15a及び側面15bを有する。
【0026】
凸部12は、本体部11の下面14の中央から、凹溝7と略同等の幅で下方に延設されており、底面12aが凹面状に形成されている。底面12aの曲率は、熱媒体用管3の外周の曲率と同等に形成されている。
【0027】
図2の(b)に示すように、ベース部材2に、熱媒体用管3を配置すると、熱媒体用管3の下半部と凹溝7の底部7aとが面接触するか又は微細な隙間をあけて対向する。熱媒体用管3の上端は、蓋溝6の底面6cと同等の高さ位置になる。さらに、蓋溝6に蓋板4を配置すると、熱媒体用管3の周囲に、蓋板4の凸部12が挿入されるとともに、蓋板4の上面13と、ベース部材2の表面2aとが面一になる。また、蓋板4の側面15a,15bは、蓋溝6の側壁6a,6bと面接触するか又は微細な隙間をあけて対向する。側面15aと側壁6aとの突合せ部分を突合部J1とし、側面15bと側壁6bとの突合せ部分を突合部J2とする。
【0028】
なお、本実施形態においては、熱媒体用管3の外径と凹溝7の深さを同等に設定したが、凹溝7の深さを熱媒体用管3の外径よりも大きく設定してもよい。この場合、凸部12の突出高さを大きくして、蓋板4を配置した際に、熱媒体用管3の周囲に空隙ができないようにするのが好ましい。また、本実施形態では、ベース部材2及び蓋板4はアルミニウム合金で形成したが、アルミニウム、銅等他の材料であってもよい。
【0029】
次に、伝熱板1の製造方法について説明する。第一実施形態に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材2を形成する切削工程と、ベース部材2に形成された凹溝7に熱媒体用管3を挿入する挿入工程と、蓋溝6に蓋板4を挿入する蓋溝閉塞工程と、突合部J1,J2に沿って接合用回転ツールFを移動させて摩擦攪拌接合を施す本接合工程と、ベース部材2の裏面に摩擦攪拌を行う矯正工程と、を含むものである。
【0030】
(切削工程)
まず、図3の(a)に示すように、公知のエンドミル加工により、厚板部材に蓋溝6を形成する。そして、蓋溝6の底面6cに、エンドミル加工により半円形断面を備えた凹溝7を形成する。これにより、蓋溝6と、蓋溝6の底面6cに開口された凹溝7を備えたベース部材2が形成される。なお、第一実施形態においてはベース部材2を切削加工により形成したが、アルミニウム合金の押出形材を用いてもよい。
【0031】
(挿入工程)
次に、図3の(b)に示すように、凹溝7に熱媒体用管3を挿入する。熱媒体用管3の下半部は、凹溝7の下半分を形成する底部7aと面接触する。
【0032】
(蓋溝閉塞工程)
次に、図3の(c)に示すように、ベース部材2の蓋溝6内に蓋板4を配置する。この際、蓋板4の凸部12が、凹溝7に挿入されるとともに、蓋板4の上面13が、ベース部材2の表面2aと面一になる。また、蓋溝6の側壁6a,6bと蓋板4の側面15a,15bによって突合部J1,J2が形成される。
【0033】
(本接合工程)
本接合工程では、突合部J1,J2に沿って、接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合を行う。本接合工程は、本実施形態では、突合部J1を摩擦攪拌する第一本接合工程と、突合部J2を摩擦攪拌する第二本接合工程とを含む。
【0034】
ここで、本実施形態における本接合工程の際に用いる接合用回転ツールF及び後記する矯正工程の際に用いる矯正用回転ツールGについて詳細に説明する。
接合用回転ツールFは、図4の(a)に示すように、工具鋼などベース部材2よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。接合用回転ツールFの寸法・形状は、ベース部材2の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する矯正工程で用いる矯正用回転ツールG(図4の(b)参照)よりも大型にする。
【0035】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径Xの大きさに特に制限はないが、本実施形態では、矯正用回転ツールGのショルダ部G1の外径Yよりも大きくなっている。
【0036】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)Xが矯正用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Yよりも大きく、かつ、最小外径(下端径)Xが攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Yよりも大きい。攪拌ピンF2の長さLは、矯正用回転ツールGの攪拌ピンG2の長さL(図4の(b)参照)よりも大きくなっている。
【0037】
図4の(a)に示すベース部材2の厚みtは、攪拌ピンF2の長さLの3倍以上であることが好ましい。また、ベース部材2の厚みtは、ショルダ部F1の外径Xの1.5倍以上であることが好ましい。かかる設定によれば、接合用回転ツールFの大きさに対して、ベース部材2の厚みを十分に確保することができるため、摩擦攪拌を行う際に発生する反りを低減することができる。
【0038】
図4の(b)に示す矯正用回転ツールGは、工具鋼などベース部材2よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。
【0039】
ショルダ部G1の下端面G11は、接合用回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンG2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
【0040】
第一本接合工程では、図5、図6の(a)及び(b)に示すように、ベース部材2と蓋板4との突合部J1に沿って、摩擦攪拌接合を行う。
まず、ベース部材2の表面2aの任意の位置に開始位置SM1を設定し、接合用回転ツールFの攪拌ピンF2をベース部材2に押し込む(押圧する)。開始位置SM1は、本実施形態では、ベース部材2の外縁の近傍であり、かつ、突合部J1の近傍に設定する。接合用回転ツールFのショルダ部F1の一部がベース部材2の表面2aに接触したら、突合部J1の始点s1に向かって接合用回転ツールFを相対移動させる。そして、図6の(a)に示すように、始点s1に達したら、接合用回転ツールFを離脱させずに、そのまま突合部J1に沿って移動させる。本実施形態では、接合用回転ツールFを左回転させて、進行方向左側に蓋板4が位置するように摩擦攪拌接合を行う。接合用回転ツールFを左回転させた場合、進行方向右側に接合欠陥ができる可能性が高い。本実施形態によれば、接合欠陥を熱媒体用管3から遠い部分に位置させることができる。ちなみに、接合用回転ツールFを右回転させる場合は、進行方向右側に蓋板4が位置するように摩擦攪拌を行うのが好ましい。
【0041】
接合用回転ツールFが突合部J1の終点e1に達したら、接合用回転ツールFをそのまま開始位置SM1側に移動させて、任意の位置に設定した終了位置EM1で接合用回転ツールFを離脱させる。なお、開始位置SM1、始点s1、終了位置EM1及び終点e1は、本実施形態の位置に限定するものではないが、ベース部材2の外縁の近傍であり、かつ、突合部J1の近傍であることが好ましい。
【0042】
次に、第二本接合工程では、図6の(b)及び(c)に示すように、ベース部材2と蓋板4との突合部J2に沿って接合用回転ツールFを左回転させて摩擦攪拌接合を行う。
まず、ベース部材2の表面2aの任意の地点hに開始位置SM2を設定し、接合用回転ツールFの攪拌ピンF2をベース部材2に押し込む(押圧する)。接合用回転ツールFのショルダ部F1の一部がベース部材2の表面2aに接触したら、突合部J2の始点s2に向かって接合用回転ツールFを相対移動させる。そして、始点s2に達したら、接合用回転ツールFを離脱させずに、そのまま突合部J2に沿って移動させる。
【0043】
接合用回転ツールFが突合部J2の終点e2に達したら、接合用回転ツールFをそのまま地点f側に移動させて、地点fに設定した終了位置EM2で接合用回転ツールFを離脱させる。
なお、開始位置SM2及び終了位置EM2は、本実施形態の位置に限定するものではないが、ベース部材2の外縁の隅部であることが好ましい。これにより、終了位置EM2に抜け穴が残存する場合は、隅部を切削加工して除去することができる。
【0044】
図6の(c)に示すように、本接合工程によって、突合部J1及び突合部J2に沿って表面塑性化領域W1(W1a,W1b)が形成される。これにより、熱媒体用管3がベース部材2及び蓋板4によって密閉される。また、図7に示すように、本実施形態では、表面塑性化領域W1が熱媒体用管3の外周に接触する程度に接合用回転ツールFを押し込む。熱媒体用管3の周囲は、蓋板4の凸部12で塞がれるとともに、表面塑性化領域W1で密閉されるため、伝熱板1の気密性及び水密性を高めることができる。
【0045】
なお、表面塑性化領域W1の深さは、前記した形態に限定されるものではない。蓋板4の大きさや形状に応じて適宜設定すればよい。
【0046】
ここで、図8は、第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、本接合工程後を示した図であって(a)は、斜視図、(b)は、断面図である。本接合工程によってベース部材2の表面2a側に表面塑性化領域W1,W1が形成される。表面塑性化領域W1は、熱収縮によって縮むため、ベース部材2の表面2a側において、ベース部材2の各隅部側から中心側に向かって圧縮応力が作用する。これにより、ベース部材2は表面2a側が凹となるように、撓んでしまう可能性がある。特に、ベース部材2の表面2aに示す地点a〜地点jのうち、ベース部材2の四隅に係る地点a,c,f,hにおいては、その反りの影響が顕著に現れる傾向がある。なお、地点jは、ベース部材2の中心地点を示す。
【0047】
(5)矯正工程
矯正工程では、比較的小型の矯正用回転ツールGを用いてベース部材2の裏面2bから摩擦攪拌を行う。矯正工程は、前記した本接合工程で発生した反り(撓み)を解消するために行う工程である。矯正工程は、本実施形態では、タブ材を配置するタブ材配置工程と、ベース部材2の裏面2bに対して摩擦攪拌を行う矯正摩擦攪拌工程と、を含む。
【0048】
タブ材配置工程では、図9の(a)に示すように、ベース部材2の裏面2bを上方に向けた後、後記する矯正摩擦攪拌工程の開始位置及び終了位置を設定するタブ材Tを配置する。タブ材Tは、本実施形態では直方体を呈し、ベース部材2と同等の組成からなる。タブ材Tは、ベース部材2の側面2cの一部を覆い隠すようにして、側面2cに当接されている。また、タブ材Tは、タブ材Tの両側面とベース部材2の側面2cとを溶接によって仮接合されている。タブ材Tの表面は、ベース部材2の裏面2bと面一にすることが好ましい。
【0049】
矯正摩擦攪拌工程では、図9の(a)及び(b)に示すように、矯正用回転ツールGを用いて、ベース部材2の裏面2bに対して摩擦攪拌を行う。矯正摩擦攪拌工程のルートは、本実施形態では、中心地点j’を囲み、かつ、矯正摩擦攪拌工程によって形成される裏面塑性化領域W2が中心地点j’に対して放射状となるように設定する。なお、地点a’,地点b’・・・は、ベース部材2の表面2a側の地点a,地点b・・・(図8参照)のそれぞれ裏面2b側に対応する地点をいう。
【0050】
矯正摩擦攪拌工程では、図9の(a)に示すように、まず、タブ材Tの表面に開始位置SM2を設定し、矯正用回転ツールGの攪拌ピンG2をタブ材Tに押し込む(押圧する)。矯正用回転ツールGのショルダ部G1の一部がタブ材Tに接触したら、ベース部材2に向かって矯正用回転ツールGを相対移動させる。そして、ベース部材2の裏面2bにおける地点f’、地点a’、地点c’及び地点h’付近で凸状となるとともに、地点g‘、地点d’、地点b’及び地点e’付近で凹状となるように矯正用回転ツールGを相対移動させて摩擦攪拌を行う。即ち、図9の(b)に示すように、ベース部材2の中心線(一点鎖線)に対して線対称となるように裏面塑性化領域W2が形成される。本実施形態では、開始位置SM2及び終了位置EM2をタブ材Tに設け、一筆書きの要領で摩擦攪拌を行う。これにより、摩擦攪拌を効率よく行うことができる。矯正摩擦攪拌工程が終了したら、タブ材Tを切除する。
【0051】
なお、本実施形態では、矯正用回転ツールGの軌跡、即ち、裏面塑性化領域W2の形状が、中心地点j’を囲み、かつ、中心地点j’に対して略放射状となるように形成したが、これに限定されるものではない。矯正用回転ツールGの移動軌跡のバリエーションについては、後記する。
【0052】
また、本実施形態では、矯正用回転ツールGの軌跡の長さ(裏面塑性化領域W2の長さ)は、接合用回転ツールFの軌跡の長さ(表面塑性化領域W1の長さの和)よりも短くなるように形成している。即ち、矯正工程における矯正用回転ツールGの加工度が、本接合工程における接合用回転ツールFの加工度よりも小さくなるように設定している。これにより、伝熱板1の平坦性を高めることができる。この理由については実施例で説明する。ここで、加工度とは、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域の体積量を示す。
また、本実施形態では矯正工程において、タブ材を配置したが、矯正摩擦攪拌工程における摩擦攪拌のルートによっては、タブ材を設けなくてもいい。
【0053】
以上説明した本実施形態に係る製造方法によれば、蓋板4に凹溝7に挿入される凸部12を有するため、熱媒体用管3の周囲に形成される空隙を小さくすることができる。また、凸部12の底面12aを熱媒体用管3の外周と密着するように形成することにより、空隙をより小さくすることができる。これにより、伝熱板1の熱交換効率を高めることができる。
【0054】
また、本接合工程による熱収縮によって、伝熱板1が撓んでも、ベース部材2の裏面2bにも摩擦攪拌を行うことで、表面2aに発生した反りを解消して伝熱板1の平坦性を高めることができる。矯正工程によれば、ベース部材2の裏面2bに形成された裏面塑性化領域W2が、熱収縮により縮むため、伝熱板1(ベース部材2)の裏面2b側において、ベース部材2の各隅部側から中心側に向かって圧縮応力が作用する。これにより、本接合工程によって形成された反りが解消されて、伝熱板1の平坦性を高めることができる。また、矯正工程では、裏面塑性化領域W2が平面視して略点対称となるように矯正用回転ツールGの移動軌跡を設定したため、バランスよく平坦にすることができる。
【0055】
また、本実施形態における矯正工程では、矯正用回転ツールGを一筆書きの要領で移動させるため、作業効率を高めることができる。
【0056】
[第二実施形態]
第二実施形態に係る伝熱板31は、図10に示すように、熱媒体用管33等が平面視蛇行状を呈する点及び矯正工程における回転ツールの移動軌跡が第一実施形態と相違する。第二実施形態は、熱媒体用管33等の形状及び矯正工程を除いては第一実施形態と略同等であるため、重複する部分の詳細な説明は省略する。
【0057】
伝熱板31は、ベース部材32と、ベース部材32に挿入される熱媒体用管33と、熱媒体用管33の上に配置される蓋板34と、を有する。図10の(b)に示すように、ベース部材32には、蓋溝36と、蓋溝36の底面36cに凹設された凹溝37が形成されている。熱媒体用管33は、凹溝37に配置される。また、蓋板34は、蓋溝36に配置されるとともに、蓋板34に形成された凸部42が熱媒体用管33の周囲に挿入される。凸部42の下面に凹状に形成された底面42aは、熱媒体用管33の曲率と同等に形成されている。つまり、蓋溝36に蓋板34を配置すると、熱媒体用管33の周囲の隙間が凸部42によって塞がれる。
【0058】
また、蓋溝36に蓋板34を配置すると、蓋溝36の側壁36a,36bと、蓋板34の側面45a,45bとがそれぞれ対向して突合部J1,J2が形成される。
【0059】
第二実施形態に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材32を形成する切削工程と、ベース部材32に形成された凹溝37に熱媒体用管33を挿入する挿入工程と、蓋溝36に蓋板34を挿入する蓋溝閉塞工程と、突合部J1,J2に沿って接合用回転ツールFを移動させて摩擦攪拌接合を施す本接合工程と、ベース部材32の裏面に摩擦攪拌を行う矯正工程と、ベース部材32の裏面32bを面削加工する面削工程と、を含むものである。切削工程、挿入工程及び蓋溝閉塞工程は、熱媒体用管33等の形状を除いては第一実施形態と同等であるため説明を省略する。
【0060】
(本接合工程)
本接合工程では、図11に示すように、突合部J1,J2に沿って、接合用回転ツールFを移動させて摩擦攪拌接合を行う。本接合工程によって、蓋板34の両脇には表面塑性化領域W1,W1が形成される。本接合工程では、必要に応じてタブ材を用いてもよい。
【0061】
本接合工程を終えると、図11に示すように、ベース部材32の表面32aに形成された表面塑性化領域W1,W1が熱収縮によって縮むため、ベース部材32の表面32aにおいて、ベース部材32の各隅部側から中心側に向かって圧縮応力が作用する。これにより、ベース部材32は表面32a側が凹となるように、撓んでしまう可能性がある。特に、ベース部材32の表面32aに示す地点a〜地点jのうち、ベース部材32の四隅に係る地点a,c,f,hにおいては、その反りの影響が顕著に現れる傾向がある
【0062】
(矯正工程)
矯正工程では、比較的小型回転ツールGを用いてベース部材32の裏面32bから摩擦攪拌を行う。矯正工程は、前記した本接合工程で発生した反り(撓み)を解消するために行う工程である。矯正工程は、本実施形態では、放射線状に摩擦攪拌を行う矯正摩擦攪拌工程と、ベース部材32の隅部に対して摩擦攪拌を行う隅部摩擦攪拌工程とを含むものである。
【0063】
矯正摩擦攪拌工程では、図12の(a)に示すように、中心地点j’を通って放射状に塑性化領域が形成されるように摩擦攪拌を行う。即ち、地点a’と地点h’とを結ぶ直線上、地点d’と地点e’とを結ぶ直線上、地点f’と地点c’とを結ぶ直線上、地点g’と地点b’とを結ぶ直線上にそれぞれ摩擦攪拌の開始位置(SM5,SM6,SM7,SM8)及び終了位置(EM5,EM6,EM7,EM8)を設定するとともに、各開始位置から中心地点j’までの距離と、中心地点j’から各終了位置までの距離とが同等となるように摩擦攪拌のルートを設定する。
矯正摩擦攪拌工程の摩擦攪拌のルートを設定したら、各開始位置に矯正用回転ツールGを押し込み、各ルート(直線)に沿って矯正用回転ツールGを移動させる。図12の(b)に示すように、矯正摩擦攪拌工程によって形成された裏面塑性化領域W41〜W44は、中心地点j’に対して八方向に放射状に広がるように形成される。
【0064】
隅部摩擦攪拌工程では、図12の(b)に示すように、ベース部材32の地点a’、地点c’、地点f’及び地点h’に係る各隅部において、重点的に摩擦攪拌を行う。地点a’に係る隅部を構成する一辺31a側に摩擦攪拌の開始位置SM9及び終了位置EM9を設定し、他辺31b側に折返し位置SR9を設定する。そして、開始位置SM9に矯正用回転ツールGを押し込み、折返し位置SR9に向けて移動させた後、折返し位置SR9で折り返し、終了位置EM9で矯正用回転ツールGを離脱させる。同様の工程を、地点c’、地点f’及び地点h’の各隅部にも行う。隅部摩擦攪拌工程によれば、特に反りの大きいベース部材32の隅部に重点的に矯正工程を行うことができるため、伝熱板31の平坦性をより高めることができる。
【0065】
隅部摩擦攪拌工程は、本実施形態では、矯正用回転ツールGの軌跡が各隅部において、対角線と直交するように形成されているが、これに限定されるものではない。隅部の反りの大きさを考慮して適宜摩擦攪拌のルートを設定すればよい。なお、隅部摩擦攪拌工程で形成される裏面塑性化領域W45と裏面塑性化領域W47、裏面塑性化領域46と裏面塑性化領域W48はそれぞれ中心地点j’に対して点対称となるように形成されることが好ましい。これにより、ベース部材2の反りをバランスよく解消して平坦性を高めることができる。
【0066】
(面削工程)
面削工程では、公知のエンドミル等を用いてベース部材32の裏面32bを面削する。図12の(b)に示すように、ベース部材32の裏面32bには、矯正用回転ツールGの抜き穴(図示省略)や、各回転ツールを押し込むことによって発生する溝(図示省略)、バリ等が発生する。したがって、面削工程を行うことにより、ベース部材32の裏面32bを平滑に形成することができる。本実施形態では、図13に示すように、面削加工の厚みMaは、裏面塑性化領域W42の厚みWaよりも大きく設定する。これにより、ベース部材32の裏面32bに形成される裏面塑性化領域W41〜W44が除去されるため、ベース部材32の性質の均一性を図ることができる。また、裏面32bに裏面塑性化領域W42が露出しないため、意匠性等にも好適である。
【0067】
なお、本実施形態では、面削加工の厚みは、裏面塑性化領域の厚みよりも大きく設定したが、これに限定されるものではない。面削加工の厚みは、例えば、矯正用回転ツールGの攪拌ピンG2の長さよりも大きく設定してもよい。
また、本実施形態では、攪拌ピンG2を備えた矯正用回転ツールGを用いて矯正工程を行ったが、攪拌ピンG2を備えない矯正用回転ツールGを用いて矯正工程を行っても構わない。かかる回転ツールによれば、裏面塑性化領域の深さを浅くすることができるため、面削する厚みを小さくすることができる。これにより、面削部分が少ないためベース部材32のロスを小さくすることができ、コストを低減することができる。
【0068】
以上説明した本実施形態によれば、蓋板34に凹溝37に挿入される凸部42を有するため、熱媒体用管33の周囲に形成される空隙を小さくすることができる。また、凸部42の底面42aを熱媒体用管33の外周と密着するように形成することにより、空隙を小さくすることができる。これにより、伝熱板31の熱交換効率を高めることができる。
【0069】
また、本接合工程による熱収縮によって、伝熱板31が撓んでしまったとしても、ベース部材32の裏面32bにも摩擦攪拌を行うことで、表面32aに発生した反りを解消して伝熱板31の平坦性を高めることができる。
【0070】
また、本実施形態では、矯正用回転ツールGの軌跡の長さ(裏面塑性化領域の長さの和)は、接合用回転ツールFの軌跡の長さ(表面塑性化領域W1の長さの和)よりも短くなるように形成している。即ち、矯正工程における矯正用回転ツールGの加工度が、本接合工程における接合用回転ツールFの加工度よりも小さくなるように設定している。これにより、伝熱板31の平坦性を高めることができる。この理由については実施例で説明する。加工度とは、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域の体積量を示す。
【0071】
また、本実施形態では、ベース部材32の裏面32bに形成された裏面塑性化領域W41〜W44及び裏面塑性化領域W45〜W48が、中心地点jに対して点対称となるように形成されている。これにより、バランスよく伝熱板31を矯正することができる。
【0072】
(第一変形例)
次に、矯正工程の第一変形例について説明する。図14は、矯正工程の第一変形例を示した平面図である。図14に示すように、第一変形例に係る矯正工程では、矯正用回転ツールGを用いて、ベース部材32の表面32a側に形成された表面塑性化領域W1,W1と略同等の平面形状となるように摩擦攪拌を行う。これにより、裏面32bに形成された裏面塑性化領域W2,W2の長さの和及び形状と、ベース部材32の表面32aに形成された表面塑性化領域W1,W1の長さの和及び形状は同等となる。
【0073】
第一変形例に係る矯正工程によれば、ベース部材32の表面32aと裏面32bに形成される塑性化領域の長さ及び平面形状を同等とすることで、伝熱板31の反りをバランスよく矯正することができる。また、当該矯正工程では、接合用回転ツールFよりも小型の矯正用回転ツールGを用いて摩擦攪拌を行うため、表面32a側の加工量よりも、裏面32b側の加工量を小さくすることができる。これにより、伝熱板31の平坦性を高めることができる。
【0074】
矯正工程は、前記した摩擦攪拌のルートに限定されずに様々なルートを設定することができる。以下に、矯正工程に係る摩擦攪拌のルートの他の形態について説明する。
【0075】
[第二変形例〜第八変形例]
矯正工程に係る摩擦攪拌のルートは、前記した形態に限定されるものではなく、以下の形態でもよい。図15は、伝熱板の裏面側の平面図であって(a)は第二変形例、(b)は第三変形例、(c)は第四変形例、(d)は第五変形例、(e)は第六変形例、(f)は第七変形例を示す。第二変形例〜第七変形例においても、伝熱板をバランスよく矯正することができる。
【0076】
図15の(a)及び(b)に示す第二変形例及び第三変形例の矯正用回転ツールの軌跡(裏面塑性化領域W2)は、いずれもベース部材32の中心地点j’を囲むように形成されていることを特徴とする。第二変形例は、ベース部材32の外縁の形状に対して相似形状となるように形成されている。また、図15の(b)に示す第三変形例のように、格子状に形成してもよい。
【0077】
図15の(c)及び(d)に示す第四変形例及び第五変形例の矯正用回転ツールの軌跡(裏面塑性化領域W2)は、いずれもベース部材2の中心地点j’を通過して放射状となるように形成されていることを特徴とする。図15の(c)に示す第四変形例は、中心地点jを始点・終点とするループを複数含み、中心地点j’に対して点対称となるように形成されている。第四変形例は、一筆書きの要領で形成することができるため、作業効率を高めることができる。図15の(d)に示す第五変形例は、中心地点j’を通過するとともに、ベース部材32の対角線に対して平行となるように形成されている。
【0078】
図15の(e)及び(f)に示す第六変形例及び第七変形例の矯正用回転ツールの軌跡(裏面塑性化領域W2)は、中心地点j’を通る直線で区分けした領域に、同形状の4つの軌跡がそれぞれ独立して形成されるとともに、中心地点j’を挟んで斜めに対向する軌跡が点対称となるように形成されている。4つの軌跡の形状は、同形状であれば、どのような形状であっても構わない。
【0079】
以上説明したように、矯正工程における摩擦攪拌の移動軌跡は、ベース部材32の表面32a側に行われる本接合工程の摩擦攪拌の軌跡に応じて適宜摩擦攪拌のルートを設定して行えばよい。
なお、本実施形態の説明においては、ベース部材32は、平面視正方形のものを例示して説明したが、他の形状であってもよい。
【0080】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態〜第六実施形態について説明する。第三実施形態〜第六実施形態に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材2及び蓋板4の形状及び本接工程が第一実施形態と相違する。なお、第一実施形態と重複する部分については、詳細な説明を省略する。
【0081】
図16は、第三実施形態に係る本接合工程を示した断面図である。第三実施形態に係る伝熱板1は、突合部J1,J2に沿って形成された表面塑性化領域W1,W1の深さ方向の先端が、蓋溝6の底面6cに接触している点で第一実施形態と相違する。第一実施形態では、表面塑性化領域W1と熱媒体用管3が接触するように摩擦攪拌を行ったが、第三実施形態のように、突合部J1,J2のみに摩擦攪拌接合を施してもよい。
【0082】
図17は、第四実施形態に係る本接合工程を示した断面図である。第四実施形態に係る伝熱板1は、第一実施形態と比較して蓋板4の幅を大きく設定した点で第一実施形態と相違する。第四実施形態に係る本接合工程では、突合部J1,J2に対して接合用回転ツールFよりも小型の回転ツールを用いて摩擦攪拌接合を行った後、蓋板4の表面13から接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合を行う。蓋板4の表面13には、表面塑性化領域W1,W1が形成される。表面塑性化領域W1は、熱媒体用管3と接触する程度に接合用回転ツールFの押込み量等を設定するのが好ましい。かかる工程によれば、蓋板4の幅が大きい場合であっても熱媒体用管3の周囲を確実に密閉することができる。
【0083】
図18は、第五実施形態に係る本接合工程を示した断面図である。第五実施形態に係る伝熱板1は、本接合工程を行う前に仮接合を行い、仮接合で形成された塑性化領域の上から本接合工程を行う点で第一実施形態と相違する。
【0084】
第五実施形態に係る伝熱板の製造方法では、接合工程に先だって、接合用回転ツールFよりも小型の回転ツールを用いて突合部J1,J2に対して仮接合を行う。突合部J1,J2には塑性化領域W3,W4が形成される。そして、塑性化領域W3,W4の上方から接合用回転ツールFを用いて、摩擦攪拌接合を行う。かかる製造方法によれば、蓋板4をベース部材2に仮付けした状態で接合用回転ツールFを用いて本格的に摩擦攪拌接合を行うことができるため、作業性を高めることができる。また、例えば、図17に示す第四実施形態では、伝熱板1に表面塑性化領域W1,W1,W3,W4と4条の塑性化領域が形成されるが、第五実施形態によれば、表面塑性化領域W1,W1と2条の塑性化領域で済む。これにより、表面塑性化領域の周囲に形成されるバリの切削工程等を軽減することができる。
【0085】
図19は、第六実施形態に係る本接合工程を示した断面図である。第六実施形態に係る伝熱板1は、ベース部材2に蓋板4を配置した際に、熱媒体用管3の周囲に空隙部P1,P2が形成される点で第一実施形態と相違する。
【0086】
第六実施形態に係る伝熱板1の蓋板4は、本体部11と本体部11の下面から突出した凸部12とを備えている。凸部12の下面には、凹状に形成された底面12aが形成されている。底面12aの曲率は、熱媒体用管3の曲率よりも小さく形成されている。したがって、図19の(a)に示すように、蓋溝6に蓋板4を挿入すると、凹溝7に蓋板4の凸部12が挿入されるが、熱媒体用管3の周囲には空隙部P1,P2が形成される。
【0087】
第六実施形態に係る本接合工程では、接合用回転ツールFを熱媒体用管3に近接させて摩擦攪拌接合を行う。これにより、接合用回転ツールFで攪拌され流動化された塑性流動材が、空隙部P1,P2に流入するため、空隙部P1,P2を密閉することができる。したがって、伝熱板1の気密性及び水密性を高めることができる。
【0088】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜変更が可能である。例えば、実施形態では平面視略蛇行状、平面視略馬蹄状に熱媒体用管等を形成したが、他の形状であってもよい。また、ベース部材2の表面2aと、蓋板4の表面13とを面一にして本接合工程を行ったが、蓋溝6に蓋板4を配置した際に、ベース部材2の表面2aから蓋板4の表面13を突出させた状態で本接合工程を行ってもよい。
【実施例】
【0089】
次に、本発明の実施例について説明する。本発明に係る実施例は、図20の(a)及び(b)に示すように平面視正方形のベース部材2の表面2a及び裏面2bにそれぞれ3つの円を描くように摩擦攪拌を行い、表面2a側で発生した反りの変形量と、裏面2b側で発生した反りの変形量を測定した。表面2a側で発生した反りの変形量の値と、裏面2b側で発生した反りの変形量の値が近いほど、ベース部材2の平坦性が高いことを示す。
【0090】
ベース部材2は、平面視500mm×500mmの直方体であって、厚みが30mm、60mmの二種類の部材を用いてそれぞれ測定を行った。ベース部材2の素材は、JIS規格の5052アルミニウム合金である。
【0091】
摩擦攪拌の軌跡である3つの円は、ベース部材2の中心に設定した地点j又は地点j’を中心とし、表面2a及び裏面2bともに半径r1=100mm(以下、小円ともいう)、r2=150mm(以下、中円ともいう)、r3=200mm(以下、大円ともいう)に設定した。摩擦攪拌の順序は、小円、中円、大円の順番で行った。
【0092】
回転ツールは、表面2a側及び裏面2b側ともに同じ大きさの回転ツールを用いた。回転ツールのサイズは、ショルダ部の外径が20mm、攪拌ピンの長さが10mm、攪拌ピンの根元の大きさ(最大径)が9mm、攪拌ピンの先端の大きさ(最小径)が6mmのものを用いた。回転ツールの回転数は、600rpm、送り速度は、300mm/minに設定した。また、表面2a側及び裏面2b側ともに回転ツールの押込み量は一定に設定した。図20に示すように、表面2a側において形成された塑性化領域を小円から大円に向けてそれぞれ塑性化領域W21乃至塑性化領域W23とする。また、裏面2b側において形成された塑性化領域を小円から大円に向けて塑性化領域W31乃至W33とする。当該実施例における各測定結果を以下の表1〜表4に示す。
【0093】
表1は、ベース部材2の板厚が30mmであって、表面側から摩擦攪拌を行った場合の測定値を示した表である。「FSW前」は、摩擦攪拌を行う前において、中心地点j(基準j)と各地点(地点a〜地点h)との高低差を示している。「FSW後」は、基準jをゼロとして、3つの円の摩擦攪拌を行った後において、基準jと各地点との高低差を示している。「表面側変形量」は、各地点における(FSW後−FSW前)の値を示している。「表面側変形量」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。「FSW前」及び「FSW後」のマイナス値は、基準jよりも下方に位置していることを意味する。
【0094】
【表1】

【0095】
表2は、ベース部材2の板厚が30mmであって、表面側から小円、中円、大円の摩擦攪拌を行った後、裏面側からも摩擦攪拌を行った場合(矯正工程)の測定値を示した表である。「FSW前」は、摩擦攪拌を行う前において、中心地点j’(基準j’)と各地点(a’〜h’)との高低差を示している。
「FSW1」は、図20を参照するように、基準j’をゼロとして、小円(半径r1)の摩擦攪拌を行った後の、基準j’と各地点との高低差を示している。「裏面側変形量1」は、各地点における(FSW1−FSW前)の値を示している。「裏面側変形量1」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。
「FSW2」は、基準j’をゼロとして、小円(半径r1)に加えてさらに、中円(半径r2)の摩擦攪拌を行った後の、基準j’と各地点との高低差を示している。「裏面側変形量2」は、各地点における(FSW2−FSW前)の値を示している。「裏面側変形量2」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。
「FSW3」は、基準j’をゼロとして、小円(半径r1)、中円(半径r2)に加えてさらに、大円(半径r3)の摩擦攪拌を行った後の、基準j’と各地点との高低差を示している。「裏面側変形量3」は、各地点における(FSW3−FSW前)の値を示している。「裏面側変形量3」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。
【0096】
【表2】

【0097】
表3は、ベース部材2の板厚が60mmであって、表面側から摩擦攪拌を行った場合の測定値を示した表である。表3の各項目は、表1の各項目と略同等の意味を示す。
【0098】
【表3】

【0099】
表4は、ベース部材2の板厚が60mmであって、表面側から小円、中円、大円の摩擦攪拌を行った後、裏面側から摩擦攪拌を行った場合の測定値を示した表である。表4の各項目は、表2の各項目と略同等の意味を示す。
【0100】
【表4】

【0101】
表1の「表面側変形量」の平均値(1.61)と、表2の「裏面側変形量1」の平均値(2.04)とを比較すると、「裏面側変形量1」の値の方が大きい。同様に、「裏面側変形量2」の平均値(2.95)及び「裏面側変形量3」の平均値(3.53)も、「表面側変形量」の平均値(1.61)よりも大きな値となっている。つまり、ベース部材2の板厚が30mmの場合は、裏面側から小円の摩擦攪拌のみを行っただけでも、ベース部材2の反りが戻りすぎてしまう。したがって、ベース部材2が30mmの場合は、表面側よりも低い加工度でベース部材2の平坦性を高めることができる。
【0102】
表3の「表面側変形量」の平均値(0.98)と、表4の「裏面側変形量2」の平均値(0.91)とを比較すると、両者の変形量が近似している。したがって、ベース部材2の板厚が60mmの場合は、裏面側から小円及び中円の摩擦攪拌を行ったときに、ベース部材2の平坦性が高いことが確認できた。つまり、板厚が60mmの場合は、表面側に比べて裏面側の加工度を低く設定すればベース部材2の平坦性を高めることができる。
【符号の説明】
【0103】
1 伝熱板
2 ベース部材
3 熱媒体用管
4 蓋板
6 蓋溝
6a 蓋溝の側壁
6b 蓋溝の側壁
7 凹溝
12 凸部
15a 蓋板の側面
15b 蓋板の側面
J1 突合部
J2 突合部
F 接合用回転ツール
G 矯正用回転ツール
W1 表面塑性化領域
W2 裏面塑性化領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材の表面側に開口する蓋溝の底面に形成された凹溝に、熱媒体用管を挿入する挿入工程と、
前記蓋溝に挿入される本体部と前記凹溝に挿入される凸部とを有する蓋板を、前記蓋溝に挿入する蓋溝閉塞工程と、
前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌接合を行う本接合工程と、
前記ベース部材の裏面に対して回転ツールを移動させて摩擦攪拌を行う矯正工程と、
を含むことを特徴とする伝熱板の製造方法。
【請求項2】
前記矯正工程では、前記伝熱板の裏面に形成される塑性化領域の体積量を、前記伝熱板の表面側に形成された塑性化領域の体積量よりも小さく設定することを特徴とする請求項1に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項3】
前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の平面形状を前記伝熱板の中心に対して略点対称となるように設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項4】
前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の平面形状を前記伝熱板の外縁の形状と略相似形状となるように設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項5】
前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の平面形状を、前記伝熱板の表面側に形成された塑性化領域の平面形状と略同等形状となるように設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項6】
前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の全長を、前記伝熱板の表面側に形成された塑性化領域の全長と略同等となるように設定することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項7】
前記矯正工程では、この矯正工程で形成される塑性化領域の全長を、前記伝熱板の表面側に形成された塑性化領域の全長よりも短くなるように設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項8】
前記矯正工程で用いる回転ツールのショルダ部の外径を、前記本接合工程で用いる前記回転ツールのショルダ部の外径よりも小さく設定することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項9】
前記矯正工程で用いる回転ツールの攪拌ピンの長さを、前記本接合工程で用いる前記回転ツールの攪拌ピンの長さよりも小さく設定することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項10】
前記ベース部材の厚みを、前記本接合工程で用いる前記回転ツールのショルダ部の外径の1.5倍以上に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項11】
前記ベース部材の厚みを、前記本接合工程で用いる前記回転ツールの攪拌ピンの長さの3倍以上に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項12】
前記ベース部材が平面視多角形である場合、前記矯正工程では、前記伝熱板の隅部に対して回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う隅部摩擦攪拌工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項13】
前記矯正工程の後に、前記伝熱板の裏面側を面削加工する面削工程を含み、前記面削工程の深さは、前記矯正工程で用いる回転ツールの攪拌ピンの長さよりも大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−264467(P2010−264467A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116632(P2009−116632)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】