説明

伝送路推定用の周波数方向補間フィルタおよびデジタル信号受信機

【課題】この発明は、ガードインターバル長程度の広がりを持つ遅延波に対応できかつ回路規模を低減化させることが可能な伝送路推定用の周波数方向補間フィルタを提供することを目的とする。
【解決手段】時間方向補間により周波数方向に所定キャリア数毎に求められている伝送路情報を周波数方向に補間するための、伝送路推定用の周波数方向補間フィルタにおいて、ある法則にしたがって係数に0または非常に小さい値が挿入されている実数型FIRフィルタのフィルタ係数に対して所定の回転因子を掛けることにより、フィルタ係数が生成されている複素型FIRフィルタから構成され、複素型FIRフィルタのフィルタ係数のI軸成分およびQ軸成分のうち、0または非常に小さい値となる成分の数がより多くなるような回転因子を用いて、フィルタ係数が生成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、時間方向補間により周波数方向に所定キャリア数毎に求められている伝送路情報を周波数方向に補間するための伝送路推定用の周波数方向補間フィルタおよびデジタル信号受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
現在サービスが行なわれている地上デジタル放送は、ガードインターバル比が1/8(ガードインターバル長:126μs)というパラメータで実施されている。ガードインターバル比とは、有効シンボル長に対するガードインターバル長の比をいう。ガードインターバル比が1/8の場合には、理論上、遅延波の広がりがガードインターバル長の126μsまで対応可能となる。この場合、等化部で用いられる、伝送路推定用の周波数方向補間フィルタとしては、フィルタ係数が実数である実数型FIRフィルタで対応可能である。
【0003】
しかしながら、地上デジタル放送の運用規定では、ガードインターバル比が1/4(ガードインターバル長:252μs)というパラメータも存在する。ガードインターバル比が1/4の場合には、理論上、遅延波の広がりがガードインターバル長の252μsまで対応可能となる。この場合、伝送路推定用の周波数方向補間フィルタとしては、実数型FIRフィルタによる周波数方向補間では対応できず、フィルタ係数が複素数である複素型FIRフィルタでのみ対応可能となる。複素型FIRフィルタを用いる場合には、フィルタ係数が複素数であるため、フィルタ係数が実数である実数型FIRフィルタに比べて、回路規模が大きくなるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平9−200165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、ガードインターバル長程度の広がりを持つ遅延波に対応できかつ回路規模を低減化させることが可能な伝送路推定用の周波数方向補間フィルタを提供することを目的とする。
【0006】
また、この発明は、ガードインターバル長程度の広がりを持つ遅延波に対応できかつ回路規模を低減化させることが可能な伝送路推定用の周波数方向補間フィルタを備えたデジタル信号受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、時間方向補間により周波数方向に所定キャリア数毎に求められている伝送路情報を周波数方向に補間するための、伝送路推定用の周波数方向補間フィルタにおいて、ある法則にしたがって係数に0または非常に小さい値が挿入されている実数型FIRフィルタのフィルタ係数に対して所定の回転因子を掛けることにより、フィルタ係数が生成されている複素型FIRフィルタから構成され、複素型FIRフィルタのフィルタ係数のI軸成分およびQ軸成分のうち、0または非常に小さい値となる成分の数がより多くなるような回転因子を用いて、フィルタ係数が生成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の伝送路推定用の周波数方向補間フィルタにおいて、時間方向補間により周波数方向に3キャリア毎に伝送路情報が求められており、上記実数型FIRフィルタのフィルタ係数には、FIRフィルタのタップ数をNT とし、n=0,…,(NT −1)として、sin〔{(n−(NT −1)/2}・{π/3)}/{(n−(NT −1)/2)・(π/3)}〕で表されるsinc関数に従って0が挿入されており、上記実数型FIRフィルタのフィルタ係数に掛けられる回転因子がexp{(j・(n−(NT −1)/2)・(π/4)}およびexp{(−j・(n−(NT −1)/2)・(π/4)}のうちのいずれかであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、デジタル信号受信機において、請求項1乃至2に記載の伝送路推定用の周波数方向補間フィルタを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ガードインターバル長程度の広がりを持つ遅延波に対応できかつ回路規模を低減化させることが可能なデジタル信号受信機における伝送路推定用の周波数方向補間フィルタを実現することができる。
【0011】
また、この発明によれば、ガードインターバル長程度の広がりを持つ遅延波に対応できかつ回路規模を低減化させることが可能な伝送路推定用の周波数方向補間フィルタを備えたデジタル信号受信機を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、この発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
〔1〕地上デジタル放送の信号構成
【0014】
まず、地上デジタル放送の信号構成について簡単に説明する。図1に周波数軸から見た場合のセグメント単位のデータ構成を、図2には同じく周波数側から見た場合のキャリア単位のデータ構成を示す。図2ではフレーム構成もわかるような図となっている。さらに図3は、図2を別の観点から示したデータ構成である。
【0015】
地上デジタル放送では、周波数軸上で考えると、小さい方の単位から、キャリア、セグメント、シンボル、フレームとなる。例えば、現在サービスが行われている地上デジタル放送サービス(モード3)では、432キャリアで1セグメント、13セグメントで1シンボル(ワンセグ放送では1セグメントで1シンボル)、204シンボルで1フレームという構成である。
【0016】
〔2〕地上デジタル放送受信システムの構成
【0017】
図4は、地上デジタル放送受信システムの構成を示している。
【0018】
チューナ部2には、OFDM( Orthogonal Frequency Division Multiplexing) 変調方式により変調されたRF(Radio Frequency) 信号が、アンテナ1を介して入力される。チューナ部2に入力されたRF信号は、増幅、フィルタリング、周波数変換等の処理を受けた後、ベースバンド(Low-IF)信号として出力される。A/D変換部3は、アナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0019】
ヒルベルト変換部4は、入力されたI軸信号から90度位相のずれたQ軸信号を生成する。狭帯域AFC部5において、シンボル同期、クロック同期、キャリア間隔以内の周波数同期のための処理が実施され、FFT部6により時間軸上の信号が周波数軸上の信号に変換される。そして、広帯域AFC部7において広帯域の周波数同期のための処理が実施される。
【0020】
この後、フレーム同期およびTMCC復号部8により、フレーム先頭が検出され、続いてTMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control)復号が行なわれることにより、現在、どのようなパラメータで放送サービスが実施されているのかの情報(TMCC情報)が獲得される。
【0021】
等化部9では、図6に黒丸で示すような配置で挿入されているSP(Scattered Pilot)信号をもとに各キャリア毎の伝搬路情報CSIを推定し、その伝搬路情報をもとに等化処理を行う。つまり、キャリア毎に振幅と位相を検出する。等化処理後のデータは、周波数デインターリーブ部10および時間デインターリーブ部11により、送信側でマルチパスやフェージングの影響を軽減するために施された周波数インタリーブおよび時間インタリーブをもとに戻す処理を受けた後、デマッピング部12に送られる。
【0022】
デマッピング部12は、コンスタレーション上で受信データの最も近い基準点とその基準点からの距離及び方向を求める。その後、ビットデインターリーブ部13により、ビット単位のインタリーブをもとに戻す処理を受けた後、ビタビ復号部14により、ビタビ復号が実施される。次に、バイトデインタリーブ部15により、バイト単位で施されたインタリーブをもとに戻す処理を受けた後、エネルギー拡散部16でエネルギー拡散処理が施される。そして、RS(Reed Solomon)復号部17により、誤り訂正の1つであるRS復号が行われ、TS(Transport Stream)として出力される。最後に、MPEGデコード部18により、MPEGデコードやH.264デコードが実施され、D/A変換部19によってアナログ信号に変換された後、映像や音声情報として出力される。
【0023】
〔3〕等化部9
【0024】
地上デジタル放送では、周波数領域において、図6に黒丸で示すような配置で、振幅と位相が既知のSP(Scattered Pilot)信号が配置されている。等化部9は、このSP位置での伝送路情報(CSI:Channel State Information)を利用(補間)することにより、データ領域でのCSIを推定し、マルチパス等の伝送路歪みを等化する。
【0025】
図5は、等化部9の構成を示している。
【0026】
SP抽出部201は、図6に示すキャリア群からSPを抽出する。SP生成部202は、SP抽出部201で抽出されたSPに対応する既知のSPの振幅および位相を生成する。複素除算部203は、SP抽出部201によって抽出されたSPを、SP生成部201で生成したSPで除算する。これにより、SP抽出部201で抽出したSPの伝搬路情報CSIが得られる。
【0027】
時間方向補間部204は、時間方向(シンボル方向)におけるデータキャリアの伝搬路情報を推定する。具体的には、時間方向補間部204は、時間方向に4キャリア毎に存在するSPの伝搬路情報を用いて、時間方向においてSPの間に存在しているデータキャリアの伝搬路情報CSIを推定する。これにより、周波数方向に、3キャリア毎にCSIが得られることになる。時間方向補間部204による時間方向補間では、線形補間がよく利用される。
【0028】
周波数方向補間部205は、周波数方向(キャリア方向)におけるデータの伝搬路情報を推定する。具体的には、周波数方向補間部205は、周波数方向に3キャリア毎に算出されている伝搬路情報CSIを用いて、それらのキャリア間に存在しているデータキャリアの伝搬路情報CSIを推定する。周波数方向補間部205による周波数方向補間では、FIRフィルタによる補間がよく利用される。
【0029】
複素除算部206は、受信データRを、時間方向補間部204または周波数方向補間部205によって推定された当該受信データRに対応する伝搬路情報Hで除算することにより、伝搬路情報Hの影響が補正されたデータDを出力する。
【0030】
〔4〕周波数方向補間に用いられるFIRフィルタ
【0031】
以下、周波数方向補間部205による周波数方向補間に用いられるFIRフィルタについて、詳しく説明する。
【0032】
〔4−1〕FIRフィルタの構成
【0033】
図7は、FIRフィルタの構成を示している。
【0034】
FIRフィルタは、直列に接続された複数の遅延回路21_0〜21_(NT −2)と、複数の乗算回路22_0〜22_(NT −1)と、各乗算回路22_0〜22_(NT −1)の出力を加算する加算回路23とを備えている。NT はFIRフィルタのタップ数である。
【0035】
乗算回路22_0および1段目の遅延回路21_0には、入力信号Htが入力される。この入力信号は、時間方向補間後のCSIであり、Ht=Hi+jHqで表すことにする。時間方向補間後においては、周波数方向で3キャリア毎にCSIが求められているので、FIRフィルタの入力信号列は、Ht0 ,Ht1 =0,Ht2 =0,Ht3 ,Ht4 =0,Ht5 =0,Ht6 ,Ht7 =0,Ht8 =0,…となる。
【0036】
乗算回路22_1〜22_(NT −1)には、遅延回路21_0〜21_(NT −2)の出力信号が入力する。各乗算回路22_0〜22_(NT −1)には、フィルタ係数が与えられており、各乗算回路22_0〜22_(NT −1)は、それに入力する信号にフィルタ係数を乗算する。加算回路23は、各乗算回路22_0〜22_(NT −1)の出力信号を加算する。加算回路23の出力が、周波数方向補間部205による周波数補間後の出力信号となる。
【0037】
実数型FIRフィルタでは、各乗算回路22_0〜22_(NT −1)に与えられているフィルタ係数は実数である。実数型FIRフィルタのフィルタ係数をhrで表すことにする。実数型FIRフィルタのフィルタ係数は、例えば、sinc関数に基づいて生成される。図8に示すようなsinc関数に基づいてフィルタ係数を生成した場合には、各乗算回路22_0〜22_(NT −1)に与えられるフィルタ係数は、hr0 ,hr1 ,hr2 =0,hr3 ,hr4 ,hr5 =0,hr6 ,hr8 ,hr9 =0,…となり、当該sinc関数にしたがって、係数群の中に0が挿入される。
【0038】
複素型FIRフィルタでは、各乗算回路22_0〜22_(NT −1)に与えられているフィルタ係数は複素数である。複素型FIRフィルタのフィルタ係数をhi+jhqで表すことにする。複素型FIRフィルタのフィルタ係数は、実数型FIRフィルタのフィルタ係数に回転因子を掛けることによって生成される。
【0039】
通常、複素型FIRフィルタは、実数型FIRフィルタと比較して、各フィルタ係数の数が倍となり、それに応じて各乗算回路内の乗算器の数も倍になるため、回路規模が大きくなる。この実施例では、複素型FIRフィルタの全フィルタ係数のI軸成分hiまたはQ軸成分hqのうち、0(または非常に小さい値)となる成分の数が多くなるような回転因子を採用することにより、乗算器の数を低減化し、回路規模の縮小化を図るようにしている。なお、成分が0でなくても非常に小さい値となる場合を含めているのは、成分が非常に小さい値となる場合には、その成分を0と見做すことにより、その成分を乗算係数とする乗算器を省略できるからである。
【0040】
〔4−2〕FIRフィルタの具体例
【0041】
CSIは複素数であるため、I軸成分とQ軸成分とからなる。周波数方向で3キャリア毎に求まっているCSIに対し、I軸成分とQ軸成分それぞれで、実数型FIRによる補間(ある意味オーバーサンプリング補間)を実施すると、理論的には約168μsの遅延広がりまで対応可能である。この理由について説明する。
【0042】
図6を参照して、時間方向補間が行なわれると、周波数方向(キャリア方向)に3キャリア毎に伝搬路情報CSIが求まる。図6において、周波数軸を時間軸と見做し、1キャリア間隔Tを1/fとする。3キャリア毎を、3Tの間隔でサンプリング(サンプリング周波数f/3)すると考えると、サンプリング周波数の1/2の周波数までの信号を正確に復元できるという一般的なサンプリング定理により、f/6以下の周波数成分(正弦波の周期が6T以上)まで正確に復元できることになる。つまり、周波数成分がf/6より大きい(正弦波の周期が6Tより短い)ものに対しては、正確に復元できない。
【0043】
以上は、図6の周波数軸を時間軸と見做してサンプリング定理を適用したが、キャリア間隔は実際は周波数軸方向での間隔である。したがって、3キャリア毎にサンプリングするということは、周波数方向で伝搬路情報CSIの正弦波周期が6キャリア以上なら正確に復元できることになる。1キャリア間隔は、有効シンボル長をTeとすると、fo=1/Teとなる。したがって、6キャリア間隔は、6fo=6/Teとなり、それに対応する周期は、Te/6となる。
【0044】
地上デジタル放送のモード3では、OFDM変復調の原理より、有効シンボル長Teは1008μsである。したがって、6キャリア間隔に対応する周期は、1008/6=168μsとなる。この結果、168μsの遅延波まで対応可能となる。
【0045】
以上は、実数型FIRフィルタによる補間の場合であるが、複素型FIRフィルタによる補間では、サンプリング周波数と同じ周波数の信号まで正確に復元できることになる。
【0046】
現在サービスが行なわれている地上デジタル放送はモード3(有効シンボル長:1008μs)、ガードインターバル比1/8であり、ガードインターバル長は126μsなので、実数型FIRフィルタによる補間でもガードインターバル長程度の遅延波まで十分に対応可能である。
【0047】
しかしながら、地上デジタル放送の運用規定では、ガードインターバル比1/4(ガードインターバル長:252μs)も定められており、実数型FIRフィルタによる補間ではガードインターバル長程度(252μs程度)の遅延波に対応不可能となる。ガードインターバル長程度(252μs程度)の遅延波に対応するためには、複素型FIRフィルタによる補間が必要となる。
【0048】
複素型FIRフィルタによる補間ではサンプリング周波数と同じ周波数の信号まで正確に復元できるので、複素型FIRフィルタを用いる場合には理論的には約336μsの遅延拡がりまで対応可能となり、ガードインターバル長程度(252μs程度)の遅延広がりを持つデジタル放送波も満足する。しかしながら、複素型FIRフィルタでは実数型FIRフィルタに比べて回路規模が大きくなる。
【0049】
そこで、ガードインターバル長程度(252μs程度)の遅延広がりを持つデジタル放送波に対応できかつ回路規模の低減化が図れる複素型FIRフィルタを提案する。具体的には、複素型FIRフィルタの全フィルタ係数のI軸成分またはQ軸成分のうち、0(あるいは非常に小さい値)となる成分の数が多くなるようにする。
【0050】
以下、ガードインターバル長程度(252μs程度)の遅延広がりを持つデジタル放送波に対応できかつ回路規模の低減化が図れる複素型FIRフィルタのフィルタ係数の求め方について説明する。
【0051】
ここでは、タップ数NT を71とする。以下においては、タップ位置をn(n=0〜70)で表すことにする。タップ位置の中心Ncは、(NT −1)/2=35となる。
【0052】
まず、時間方向補間後の周波数方向3キャリア毎のCSIを補間するための実数型FIRフィルタのフィルタ係数を求める。
【0053】
実数型FIRフィルタのフィルタ係数を生成するためのsinc関数として次式(1)に示すものを採用した。
【0054】
sinc=hamming ×sin 〔{π×(n- Nc )/D}/{π×(n-Nc)/ D }〕
=hamming ×sin 〔{π×(n- 35 )/D}/{π×(n-35)/ D }〕…(1)
【0055】
上記式(1)において、Dはフィルタ係数に0が挿入される間隔であり、時間方向補間後の周波数方向3キャリア毎のCSIを補間するための実数型FIRフィルタであるため、D=3に設定した。また、上記式(1)において、hamming はハミング窓関数であり、この実施例では次式(2)に示すものを採用した。
【0056】
hamming =0.54+0.46 ×cos {2 ×π×(n- Nc)/(NT -1) }
=0.54+0.46 ×cos {2 ×π×(n- 35)/70} …(2)
【0057】
sinc関数は図8に示すようになる。図8における黒丸は、実数型FIRフィルタのフィルタ係数hrを示している。このようなsinc関数に基づいて実数型FIRフィルタのフィルタ係数hrを生成した場合、実数型FIRフィルタの周波数特性は、図9(a)に示すような特性となる。この場合、理論的には、168μsの遅延広がりまで対応可能である。
【0058】
次に、実数型FIRフィルタのフィルタ係数に回転因子を掛けることにより、複素型FIRフィルタのフィルタ係数を求める。回転因子rotateは、正の周波数成分を通過させる複素型FIRフィルタの場合には次式(3)で表され、負の周波数成分を通過させる複素型FIRフィルタの場合には次式(4)で表される。この実施例では、複素型FIRフィルタとして、正の周波数成分を通過させる複素型FIRフィルタを用いることにするので、回転因子rotateは、式(3)で表される。
【0059】
rotate=exp { j×(n- Nc) ×θ}
=exp { j×(n-35)×θ} …(3)
【0060】
rotate=exp {-j×(n- Nc) ×θ}
=exp {-j×(n-35)×θ} …(4)
【0061】
上記式(3)において、θは実数型FIRフィルタの周波数軸上での通過領域を移動させるための移動量を表している。θの決定方法については、後述する。
【0062】
複素型FIRフィルタのフィルタ係数hi+jhqは、sinc関数に回転因子を掛けることにより算出されるので、次式(5)で表される。
【0063】
hi+jhq=sinc×rotate …(5)
【0064】
したがって、複素型FIRフィルタのフィルタ係数hi+jhqのI軸成分hiおよびQ軸成分hqは、次式(6)で表される。
【0065】
hi=sinc×cos {(n-35) ×θ}
hq=sinc×sin {(n-35) ×θ} …(6)
【0066】
周波数軸上で考えた場合、θ≧π/6でないと、ガードインターバル長程度(252μs程度)の遅延広がりを持つのデジタル放送波に対応できない。また、θ≦π/3でないと直流成分を通さないフィルタとなる。そこで、π/6≦θ≦π/3の範囲内で、複素型FIRフィルタの全フィルタ係数のI軸成分またはQ軸成分のうち、0となる成分の数が多くなるようなθを求める。結論的には、θ=π/4の場合に、複素型FIRフィルタの全フィルタ係数のI軸成分またはQ軸成分のうち、0となる成分の数が最も多くなる。
【0067】
図9(b)は、θ=π/3の場合の複素型FIRフィルタの周波数特性を示している。図9(b)に示すように、図9(a)の実数型FIRフィルタの周波数軸上での通過領域がπ/3だけ正方向に移動せしめられている。この結果、この複素型FIRフィルタでは、理論的に、336μsの遅延広がりまで対応可能となる。なお、回転因子rotateとして上記式(4)を用いた場合には、図9(a)の実数型FIRフィルタの周波数軸上での通過領域がπ/3だけ負方向に移動せしめられる。
【0068】
θ=π/3の場合には、複素型FIRフィルタのフィルタ係数hi+jhqのI軸成分hiおよびQ軸成分hqは、次式(7)で表される。
【0069】
hi=sinc×cos {(n-35) ×π/3}
hq=sinc×sin {(n-35) ×π/3} …(7)
【0070】
この場合、回転因子は、図10(a)に黒丸で示す各点を、nの値の変化に伴って矢印の方向に変化していく。
【0071】
回転因子のI軸成分は、I0 ,I1 , 2 =−1,I3 ,I4 ,I5 =+1,…,I33,I34,I35=+1,I36,I37,…,I66,I67,I68=−1,I69,I70となる。
【0072】
また、回転因子のQ軸成分は、Q0 ,Q1 ,Q2 =0,Q3 ,Q4 ,Q5 =0,…,Q33,Q34,Q35=0,Q36,Q37,…,Q66,Q67,Q68=0,Q69,Q70となる。
【0073】
したがって、複素型FIRフィルタのフィルタ係数のI軸成分hiは、hi0 ,hi1,hi2 =0,hi3 ,hi4 ,hi5 =0,…,hi33,hi34,hi35,hi36,hi37,…,hi66,hi67,hi68=0,hi69,hi70となる。I軸成分hiは、n=35を中心に偶対称になっている。例えば、hi0 =hi70,hi1 =hi69,…となる。全てのI軸成分hiの数に対する0となるI軸成分hiの数の割合は、22/71となる。
【0074】
複素型FIRフィルタのフィルタ係数のQ軸成分hqは、hq0 ,hq1,hq2 =0,hq3 ,hq4 ,hq5 =0,…,hq33,hq34,hq35=0,hq36,hq37,…,hq66,hq67,hq68=0,hq69,hq70となる。Q軸成分hqは、n=35を中心に奇対称になっている。例えば、hq0 =−hq70,hq1 =−hq69,…となる。全てのQ軸成分hqの数に対する0となるQ軸成分hqの数の割合は、23/71となる。
【0075】
この結果、全てのI軸成分hiの数と全てのQ軸成分hqの数和に対する、0となるI軸成分hiの数と0となるQ軸成分hqの数の和の割合は、(22+23)/(71+71)=約0.32となる。
【0076】
図9(c)は、θ=π/4の場合の複素型FIRフィルタの周波数特性を示している。図9(c)に示すように、図9(a)の実数型FIRフィルタの周波数軸上での通過領域がπ/4だけ正方向に移動せしめられている。この結果、この複素型FIRフィルタでは、理論的に、294μsの遅延広がりまで対応可能となる。なお、回転因子rotateとして上記式(4)を用いた場合には、図9(a)の実数型FIRフィルタの周波数軸上での通過領域がπ/4だけ負方向に移動せしめられる。
【0077】
θ=π/4の場合には、複素型FIRフィルタのフィルタ係数hi+jhqのI軸成分hiおよびQ軸成分hqは、次式(8)で表される。
【0078】
hi=sinc×cos {(n-35) ×π/4}
hq=sinc×sin {(n-35) ×π/4} …(8)
【0079】
この場合、回転因子は、図10(b)に黒丸で示す各点を、nの値の変化に伴って矢印の方向に変化していく。
【0080】
回転因子のI軸成分は、I0 ,I1 =0, 2 ,I3 =+1,I4 ,I5 =0,I6 ,I7 =−1,…,I33=0,I34,I35=+1,I36,I37=0,…,I63=−1,I64,I65=0,I66,I67=+1,I68,I69=0,I70となる。
【0081】
また、回転因子のQ軸成分は、Q0 ,Q1 =−1,Q2 ,Q3 =0,Q4 ,Q5 =+1,Q6 ,Q7 =0,…,Q33=−1,Q34,Q35=0,Q36,Q37=+1,…,Q63=0,Q64,Q65=−1,Q66,Q67=0,Q68,Q69=+1,Q70となる。
【0082】
したがって、複素型FIRフィルタのフィルタ係数のI軸成分hiは、hi0 ,hi1 =0,hi2 =0,hi3 ,hi4 ,hi5 =0,hi6 ,hi7 …,hi33=0,hi33=0,hi34,hi35,hi36,hi37=0,hi38=0,…,hi63,hi64,hi65=0,hi66,hi67,hi68=0,hi69=0,hi70となる。I軸成分hiは、n=35を中心に偶対称になっている。例えば、hi0 =hi70,hi1 =hi69,…となる。全てのI軸成分hiの数に対する0となるI軸成分hiの数の割合は、34/71となる。
【0083】
複素型FIRフィルタのフィルタ係数のQ軸成分hqは、hq0 ,hq1,hq2 =0,hq3 =0,hq4 ,hq5 =0,hq6 ,hq7 =0,…,hq32 =0,hq33,hq34,hq35=0,hq36,hq37,hq38 =0,…,hq63 =0,hq64,hq65=0,hq66,hq67=0,hq68=0,hq69,hq70となる。Q軸成分hqは、n=35を中心に奇対称になっている。例えば、hq0 =−hq70,hq1 =−hq69,…となる。全てのQ軸成分hqの数に対する0となるQ軸成分hqの数の割合は、35/71となる。
【0084】
この結果、全てのI軸成分hiの数と全てのQ軸成分hqの数和に対する、0となるI軸成分hiの数と0となるQ軸成分hqの数の和の割合は、(34+35)/(71+71)=約0.49となる。
【0085】
本実施例では、sinc関数として、sinc=hamming ×sin 〔{π×( n-Nc )/3}/{π×(n-Nc)/ 3 }〕を採用し、かつ回転因子として、exp(j ×( n- Nc) ×π/4 )を採用して、複素型FIRフィルタのフィルタ係数を生成することにより、ガードインターバル長が252μsのデジタル放送に対応できかつ回路規模の低減化が図れる複素型FIRフィルタのフィルタ係数が得られる。ただし、複素型FIRフィルタのタップ数をNT とすると、Nc=(NT −1)/2であり、nはタップ位置を表し、0〜(NT −1)までの整数をとる。なお、回転因子として、exp(-j×( n- Nc) ×π/4 )を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】地上波デジタル放送のデータ構成であって、周波数軸から見た場合のセグメント単位のデータ構成を示す模式図である。
【図2】地上波デジタル放送のデータ構成であって、周波数軸から見た場合のキャリア単位のデータ構成を示す模式図である。
【図3】地上波デジタル放送のデータ構成であって、キャリア、セグメント、シンボル、フレームの関係を示す模式図である。
【図4】地上デジタル放送受信システムの構成を示すブロック図である。
【図5】等化部9の構成を示すブロック図である。
【図6】等化部9によって行なわれる等化処理を説明するための模式図である。
【図7】FIRフィルタの構成を示すブロック図である。
【図8】実数型FIRフィルタのフィルタ係数を生成するために用いられるsinc関数を示すグラフである。
【図9】実数型FIRフィルタの周波数特性と、θ=π/3の場合の複素型FIRフィルタの周波数特性と、θ=π/4の場合の複素型FIRフィルタの周波数特性とを示すグラフである。
【図10】θ=π/3の場合の回転因子と、θ=π/4の場合の回転因子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0087】
9 等化部
201 SP抽出部
202 SP生成部
203 複素除算部
204 時間方向補間部
205 周波数方向補間部
206 複素除算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間方向補間により周波数方向に所定キャリア数毎に求められている伝送路情報を周波数方向に補間するための、伝送路推定用の周波数方向補間フィルタにおいて、
ある法則にしたがって係数に0または非常に小さい値が挿入されている実数型FIRフィルタのフィルタ係数に対して所定の回転因子を掛けることにより、フィルタ係数が生成されている複素型FIRフィルタから構成され、
複素型FIRフィルタのフィルタ係数のI軸成分およびQ軸成分のうち、0または非常に小さい値となる成分の数がより多くなるような回転因子を用いて、フィルタ係数が生成されていることを特徴とする伝送路推定用の周波数方向補間フィルタ。
【請求項2】
時間方向補間により周波数方向に3キャリア数毎に伝送路情報が求められており、上記実数型FIRフィルタのフィルタ係数には、FIRフィルタのタップ数をNT とし、n=0,…,(NT −1)として、sin〔{(n−(NT −1)/2}・{π/3)}/{(n−(NT −1)/2)・(π/3)}〕で表されるsinc関数に従って0が挿入されており、上記実数型FIRフィルタのフィルタ係数に掛けられる回転因子がexp{(j・(n−(NT −1)/2)・(π/4)}およびexp{(−j・(n−(NT −1)/2)・(π/4)}のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の伝送路推定用の周波数方向補間フィルタ。
【請求項3】
請求項1乃至2に記載の伝送路推定用の周波数方向補間フィルタを備えていることを特徴とするデジタル信号受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−17246(P2009−17246A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176877(P2007−176877)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】