説明

伸びの異方性が小さいポリテトラフルオロエチレン多孔質膜およびその製造方法

【課題】外力による伸びが小さく、伸びの異方性が小さいポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜を提供する。
【解決手段】膜の面内における任意の方向を第一の方向とし、第一の方向に対して直交する、面内における方向を第二の方向としたとき、第一の方向および第二の方向への引張り試験において、強度が20N/mm2以上であり、破断するまでの伸び率が200%以下であり、第一の方向への伸び率に対する第二の方向への伸び率の比が0.5〜2.0である、PTFE多孔質膜とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜に関し、より詳しくは、外力による変形の生じにくいPTFE多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFE多孔質膜は、通常、圧延されたPTFEシートを逐次または同時に二軸延伸することにより製造される。PTFE多孔質膜は、無数の細孔を有し、例えば濾過膜、防水通音膜として用いることができる。しかし、PTFE多孔質膜は外力が加えられることによって伸びやすいという性質を有する。このためPTFE多孔質膜は、濾過等の使用中に加えられる圧力によって変形し、膜における細孔径が影響を受けやすい。また、PTFE多孔質膜を基材にラミネートする場合にも、PTFE多孔質膜は、ラミネートする際に加わる張力により変形し、その細孔径が変化しやすい。細孔径の変化は、PTFE多孔質膜の濾過特性や粒子の捕集性能の低下につながりうる。また、PTFE多孔質膜に大きな外力が加わると、細孔の破壊につながることもある。このように、PTFE多孔質膜は、外力によって伸びやすく寸法安定性が低いため、膜の特性が低下しやすい。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、PTFE多孔質膜の寸法安定性や強度を改善するために、PTFE多孔質膜を、延伸の前または後にPTFEの融点以上の温度で加熱することが開示されている。
【0004】
特許文献3には、PTFE多孔質膜における欠陥部を少なくするために、2枚以上のPTFE多孔質膜を積層させた状態で延伸を行うことが開示されている。特許文献3には、予め延伸した多孔質膜を重ねて製品を得る方法は、工程数が増加したり、重ねるときに傷がついたりするために不適であると指摘されている(段落0018)。
【0005】
なお、寸法安定性とは直接の関連はないが、特許文献4には、PTFE多孔質膜の表面平滑性等を改善するために、PTFE多孔質膜を圧縮することが開示されている。特許文献5には、引裂強度や引張強度を改善するために、PTFE多孔質膜に金属網などの網目状の固体構造物を密着させて300℃以上で加熱することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03−174452号公報
【特許文献2】特表2000−513648号公報
【特許文献3】特開平7−292144号公報
【特許文献4】特開2002−275280号公報
【特許文献5】特開平07−82399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの技術をもってしても、PTFE多孔質膜の寸法安定性の改善は十分とはいえない。PTFE多孔質膜は、加えられる外力の方向による伸び率の差、すなわち、伸びの異方性が大きくなりやすい。これは、圧延された延伸前のシートの状態、延伸の温度や倍率等の条件、延伸の順序、および延伸装置の特性によって、伸びにくい方向と伸びやすい方向とが多孔質膜に現れるためである。延伸条件を制御して伸びの異方性の小さい多孔質膜を作製する試みはなされているが、全体的な伸び率が大きくなり、実用的でない場合が多い。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、外力による伸びが小さく、伸びの異方性が小さいPTFE多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
膜の面内における任意の方向を第一の方向とし、前記第一の方向に対して直交する、前記面内における方向を第二の方向としたとき、
前記第一の方向および前記第二の方向への引張り試験において、強度が20N/mm2以上であり、破断するまでの伸び率が200%以下であり、前記第一の方向への前記伸び率に対する前記第二の方向への前記伸び率の比が0.5〜2.0である、PTFE多孔質膜を提供する。
【0010】
ただし、前記引張り試験は、測定するべき方向についての長さを5cm、当該方向に対して垂直な方向の長さを1cmとしたサンプルを用い、このサンプルを初期のチャック間距離を2cmに保持した一対のチャックにより保持した状態で、前記一対のチャックを20cm/分の速度で引き離すことにより実施する。
【0011】
本発明は、別の観点から、
二軸延伸して多孔化した少なくとも2枚のPTFE多孔質膜を、前記引張り試験において破断するまでの膜の伸び率が最小である面内方向が互いに直交するように積層した状態で、PTFEの結晶融解温度以上の温度に加熱しながら加圧して一体化する、PTFE多孔質膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のPTFE多孔質膜は、強度が20N/mm2以上であり、伸び率が200%以下であるため、外力により変形しにくく、しかも伸び率の異方性が小さい。
【0013】
また、本発明のPTFE多孔質膜の製造方法では、少なくとも2枚のPTFE多孔質膜が、それぞれの膜の面内において伸び率の最も小さい方向が互いに90°の角度をなすように積層され、一体化される。そのため、伸びの異方性が小さいPTFE多孔質膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態によるPTFE多孔質膜の断面を模式的に示す図である。
【図2】本発明の別の実施形態によるPTFE多孔質膜の断面を模式的に示す図である。
【図3】本発明の別の実施形態によるPTFE多孔質膜の断面を模式的に示す図である。
【図4】本発明の別の実施形態によるPTFE多孔質膜の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のPTFE多孔質膜は、例えば、二軸延伸して得た少なくとも2枚のPTFE多孔質膜を積層して製造することができる。以下、便宜上、当該積層を行う前の単層のPTFE多孔質膜を「PTFE延伸膜」と表記する。PTFE延伸膜は、例えば、以下に説明する方法により作製することができる。
【0016】
まず、PTFE樹脂と、炭化水素系の成形助剤とを配合し、これをシート状もしくは円筒状に押出した後、所定の厚さとなるように圧延し、これを乾燥させることにより、圧延されたPTFEシートが得られる。
【0017】
押出しおよび圧延の工程では、30〜100℃、好ましくは35〜80℃で加温を行うことにより、これらの工程を容易に行うことができる。
【0018】
押出しの工程では、通常、成形助剤を配合した樹脂を押出し用のシリンダーからこのシリンダーの径に対して1/10〜1/100の絞りを通過させることにより、樹脂に剪断応力をかける。シリンダーの径に対する絞りの比率(絞り比率)により、PTFE延伸膜の伸び率および強度がある程度決定される。
【0019】
圧延の工程では、ロールまたはプレスにより、PTFEシートの寸法を調整する。ロールを用いて圧延する場合、例えば、ロールを通して巻き取る際の張力を変える、または、一度で所定の厚さにするのではなく、少しずつロール間のギャップを変えて複数回ロールで圧延する等により、圧延されたPTFEシートの幅および厚さを調整することができる。PTFEシートの乾燥は、PTFEシートに含まれる成形助剤を除去するために行われ、通常、100℃〜300℃に加熱することにより行われる。
【0020】
次いで、圧延されたPTFEシートに対して所定の温度で所定の倍率で二軸延伸を行い、焼成工程を行うことにより、多孔化したPTFE延伸膜が得られる。二軸延伸は、同時二軸延伸により実施してもよいが、例えば、長手方向への延伸(縦延伸)を行った後、幅方向への延伸(横延伸)を行う逐次二軸延伸により実施してもよい。この場合、縦延伸は、例えば、100〜380℃の温度および2〜20倍の延伸倍率で行われる。横延伸は、例えば、30〜380℃の温度および5〜30倍の延伸倍率で行われる。二軸延伸前のPTFEシートの状態、縦延伸と横延伸とのいずれの延伸倍率を大きくするか等の条件により、PTFE延伸膜において伸びやすい方向が決定される。
【0021】
焼成工程は、縦延伸または横延伸を実施しながら行ってもよいし、縦延伸および横延伸が終了した後に行ってもよい。焼成は、PTFEシートをPTFEの結晶融解温度以上の温度、すなわち、327℃以上に加熱することにより実施される。焼成の温度は、好ましくは350〜400℃である。焼成の時間は、特に制限されないが、PTFEを後述する半焼成状態とするためには、上記の好ましい焼成温度を適用する場合は10〜400秒間とすることが好ましい。
【0022】
焼成工程は、焼成工程を経て得られたPTFE延伸膜の焼成状態が半焼成状態となるように行うことが好ましい。PTFEは、焼成状態では、示差走査熱量(DSC)測定において327±5℃の範囲に結晶融解に伴う吸熱ピークが現れる。吸熱ピークの位置は当該ピークの頂点の位置により判別する。PTFEのこのピークは未焼成状態では上記範囲よりも高温側に現れる。半焼成状態では、DSCにおける上記ピークは、2つに分かれたり、ブロードに広がったりする。また、DSC測定による上記吸熱ピークに基づく結晶融解熱量は、焼成が進行するにつれて小さくなる傾向にある。本明細書では、PTFEの半焼成状態をこの結晶融解熱量に基づいて記述することとし、具体的には、昇温速度10℃/分のDSC測定における結晶融解熱量が35〜70J/gであれば、半焼成状態にあると判断することとする。この熱量は、37〜70J/gであることが好ましい。
【0023】
PTFE延伸膜が焼成状態である場合、後の積層工程における一体化ができず、剥離が生じるおそれがある。PTFE延伸膜が未焼成状態である場合、寸法が安定しないため、取り扱いが不便となることがある。
【0024】
本発明のPTFE多孔質膜は、上記で得られたPTFE延伸膜を用い、以下に説明する方法により製造することができる。まず、少なくとも2枚のPTFE延伸膜を、それぞれのPTFE延伸膜において破断までの伸び率が最小である面内方向(以下、「伸び率最小方向」ということがある。同様に同伸び率が最大となる方向を以下「伸び率最大方向」ということがある。)が互いに直交するように積層することにより、PTFE積層体を得る。このPTFE積層体をPTFEの結晶融解温度以上の温度、すなわち327℃以上で加熱しながら加圧することによって、PTFE積層体が一体化され、本発明のPTFE多孔質膜が得られる。
【0025】
PTFE延伸膜における伸び率最小方向は、PTFE延伸膜に対して引張り試験を行うことにより定めることができる。PTFE積層体の加熱および加圧は、熱プレス、熱ロール等の方法により行うことができる。積層ならびに加熱および加圧の技術については、例えば特許文献3〜5を参照できる。
【0026】
一体化により得られたPTFE多孔質膜の焼成状態は、焼成状態(完全焼成状態)とすることが好ましい。したがって、一体化のための加熱温度は、PTFEの結晶融解温度以上とすることが好ましい。この場合の適切な加熱時間は、加圧の程度等によって相違するが、例えば0.2分〜5.0分である。完全焼成状態にあるPTFE多孔質膜は、昇温速度10℃/分の示差走査熱量(DSC)測定において、結晶融解に伴う吸熱ピークを327±5℃の範囲のみに有し、当該吸熱ピークの吸熱量が35J/g未満となる。これにより、一体化されたPTFE積層体、すなわちPTFE多孔質膜に剥離が生じるのを防ぐことができる。
【0027】
PTFE多孔質膜の気孔率は50%以上であることが好ましい。これにより、PTFE多孔質膜を濾過やフィルター等に好適に用いることができる。さらに、PTFE多孔質膜の厚さは、PTFE多孔質膜を取り扱う際の作業性の観点から、5μm以上であることが好ましい。本発明による好ましいPTFE多孔質膜は50%以上の気孔率と5μm以上の厚さとを有する。また、PTFE多孔質膜の通気量は、ガーレー数で表して0.01〜200sec/100mLであることが好ましく、より好ましくは0.05〜100sec/100mL、さらに好ましくは0.05〜70sec/100mLである。これらの特性は、PTFE延伸膜の製造工程およびPTFE積層体の一体化工程における条件を調整することによって制御できる。
【0028】
図1は、本発明のPTFE多孔質膜10の模式的な断面図を示す。PTFE多孔質膜10では、2枚のPTFE延伸膜1,2が積層され、一体化されている。PTFE延伸膜2は、その伸び率最小方向がPTFE延伸膜1の伸び率最小方向に対して90°の角度をなす。二軸延伸して得られたPTFE延伸膜における伸び率最大方向および伸び率最小方向は、互いに直交する。このため、PTFE多孔質膜10において、PTFE延伸膜1の伸び率最大方向はPTFE延伸膜2の伸び率最小方向に一致し、PTFE延伸膜1の伸び率最小方向はPTFE延伸膜2の伸び率最大方向に一致する。こうして、破断に至るまでの伸び率の異方性が低下する。なお、上記のように積層した場合にも、膜が破断するまでの伸び率の相違が最大となるのは、PTFE延伸膜1の伸び率最大方向(PTFE延伸膜2の伸び率最小方向)とPTFE延伸膜1の伸び率最小方向(PTFE延伸膜2の伸び率最大方向)との2方向である。したがって、この2方向について破断に至るまでの伸び率の相違が一方に対する他方の比により表示して0.5〜2.0の範囲内であれば、その膜は、任意の2方向について破断に至るまでの上記比が0.5〜2.0の範囲内となる。
【0029】
PTFE多孔質膜におけるPTFE延伸膜の積層枚数は2枚以上であればよい。PTFE多孔質膜の構造としては、図1の他にも、例えば、図2〜4に示すような構造が挙げられる。図2に示すPTFE多孔質膜20では、3枚のPTFE延伸膜1,2,1が、隣接する一対の延伸膜1,2の面内において破断に至るまでの伸び率の最も小さい方向が互いに90°の角度をなすように積層および一体化されている。図3に示すPTFE多孔質膜30では、4枚のPTFE延伸膜1,2,1,1が積層および一体化されており、このうち上側の3枚のPTFE延伸膜1,2,1は、図2で説明したように積層され、一体化されている。図4に示すPTFE多孔質膜40においても、4枚のPTFE延伸膜1,2,1,2が、互いに隣接する一対の延伸膜1,2の面内において破断に至るまでの伸び率の最も小さい方向が互いに90°の角度をなすように積層および一体化されている。
【0030】
本発明のPTFE多孔質膜は、膜の面内における任意の方向において、引張り試験による強度が20N/mm2以上、好ましくは23N/mm2以上、より好ましくは25N/mm2以上となる。また、本発明のPTFE多孔質膜は、膜の面内における任意の方向において、引張り試験による破断するまでの伸び率が200%以下、好ましくは180%以下、より好ましくは150%以下となる。これらの物性も、最小値および最大値は、延伸膜1,2の伸び率最大方向または最小方向について現れるため、これら両方向について多孔質膜の物性を測定しておけば、同物性の範囲を特定することができる。
【0031】
さらに、本発明のPTFE多孔質膜は、膜の面内における任意の方向を第一の方向とし、第一の方向に対して直交する面内方向を第二の方向としたとき、第一の方向への伸び率に対する第二の方向への伸び率の比が0.5〜2.0、好ましくは0.6〜1.8、より好ましくは0.7〜1.5となる。このように、本発明のPTFE多孔質膜は伸びの異方性が小さい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。まず、引張り試験、通気性、気孔率、および示差走査熱量測定の測定方法について説明する。
【0033】
(引張り試験)
1cm×5cmの長方形のサンプルを膜から切り取った。このサンプルを、初期チャック間距離を2cmとして島津製作所製オートグラフにセットし、雰囲気温度25℃、引張り速度20cm/分の条件で、サンプルが破断するまで引張った。サンプルの伸び率5%における弾性率、ならびに、破断時の伸び率および強度(最大強度)を測定した。伸び率および強度はそれぞれ以下の式(1)、(2)より求めた。
【0034】
伸び率[%]=(破断時のチャック間距離−初期チャック間距離)÷初期チャック間距離×100
(1)
【0035】
強度[N/mm2]=破断時の応力[N]÷断面積(サンプルの厚さ×幅)[mm2
(2)
【0036】
(通気性)
JIS P 8117に規定のガーレー通気度試験機を用いて膜のサンプルのガーレー数を測定した。
【0037】
(気孔率)
直径47mmの円形に打ち抜いた膜のサンプルの厚さと重量を測定し、以下の式(3)により算出した。なお、式(3)中、数値17.3[cm2]は直径47mmの円の面積であり、数値2.18[g/cm3]は焼成されたPTFE樹脂の比重値である。
【0038】
気孔率[%]={1−重量[g]÷(厚さ[cm]×17.3[cm2]×2.18[g/cm3])}×100
(3)
【0039】
(示差走査熱量(DSC)測定)
装置としてはNETZSCH製DSC200F3を用いた。直径2mmの円形に打ち抜いた膜のサンプルを約10mg、測定用のアルミセル中に入れた。200℃までは昇温速度20℃/分で昇温し、200℃で5分保持した後、昇温速度10℃/分でさらに昇温する条件によりDSC測定を行った。結晶融解熱量は、吸熱ピークの面積を積分して求めた。
【0040】
(PTFE延伸膜A)
PTFE樹脂としてダイキン工業製のF104を用い、炭化水素系の成形助剤としてアイソパーM(エクソンモービル社)を用いた。PTFE樹脂に炭化水素系の成形助剤を20wt%の割合で配合し、これを温度50℃、絞り比率1/50で押出して、1mm厚み×10cm幅の平板状のシートを得た。さらに、2本のロールを用いて、ロール間のギャップを調整することにより、シートの幅を変えずに0.2mmの厚さにまで圧延した。その後、200℃で乾燥を行うことにより成形助剤を除去し、圧延されたPTFEシートを得た。このPTFEシートを、300℃で長手方向へ10倍延伸し、次いで、300℃で幅方向に10倍延伸した。さらに、延伸したPTFEシートの四隅を固定した状態で380℃で30秒間維持することにより、PTFE延伸膜Aを得た。PTFE延伸膜Aの物性を表1に示す。PTFE延伸膜Aの伸び率は長手方向において最小となり、50%であった。
【0041】
【表1】

【0042】
(PTFE延伸膜B)
PTFE樹脂としてダイキン工業製のF104を用い、炭化水素系の成形助剤としてアイソパーM(エクソンモービル社)を用いた。PTFE樹脂に炭化水素系の成形助剤を20wt%の割合で配合し、これを温度50℃、絞り比率1/50で、直径8mmの円柱形状に押出した。これを20cmの長さにカットして、温度50℃、圧力180kNで加圧プレスを行った。このときの厚さは0.15mm、幅は最大で15cmであった。その後、150℃で乾燥を行うことにより成形助剤を除去し、圧延されたPTFEシートを得た。このPTFEシートを、300℃で長手方向へ10倍延伸し、次いで、300℃で幅方向に10倍延伸した。さらに、延伸したPTFEシートの四隅を固定した状態で380℃で30秒間維持することにより、PTFE延伸膜Bを得た。PTFE延伸膜Bの物性を表1に示す。PTFE延伸膜Bの伸び率は幅方向において最小となり、60%であった。
【0043】
(実施例1)
2枚のPTFE延伸膜Aを、それぞれの長手方向が互いに90°の角度をなすように積層することにより、PTFE積層体を得た。このPTFE積層体を350℃で5分間、0.2MPaの圧力下で一体化させることにより、PTFE多孔質膜を得た。このPTFE多孔質膜の特性を表2に示す。表2に示すように、PTFE多孔質膜の破断までの伸び率が最大となる方向、すなわち幅方向においても、伸び率は102%に止まった。幅方向に対する長手方向の伸び率の比は0.86となり、伸びの異方性が小さくなった。
【0044】
【表2】

【0045】
(実施例2)
2枚のPTFE延伸膜Bを、それぞれの長手方向が互いに90°の角度をなすように積層することにより、PTFE積層体を得た。このPTFE積層体を350℃で5分間、0.2MPaの圧力下で一体化させることにより、PTFE多孔質膜を得た。このPTFE多孔質膜の特性を表2に示す。表2に示すように、PTFE多孔質膜の破断までの伸び率が最大となる方向、すなわち長手方向においても、伸び率は110%に止まった。幅方向に対する長手方向の伸び率の比は1.26となり、伸びの異方性が小さくなった。
【0046】
(実施例3)
PTFE延伸膜Aの長手方向(伸び率最小方向)がPTFE延伸膜Bの長手方向(伸び率最大方向)と一致するように、1枚のPTFE延伸膜Aと1枚のPTFE延伸膜Bとを積層することにより、PTFE積層体を得た。このPTFE積層体を350℃で5分間、0.2MPaの圧力下で一体化させることにより、PTFE多孔質膜を得た。このPTFE多孔質膜の特性を表2に示す。表2に示すように、PTFE多孔質膜の伸び率最大方向、すなわち幅方向においても、伸び率は110%に止まった。幅方向に対する長手方向の伸び率の比は0.89となり、伸びの異方性が小さくなった。
【0047】
(実施例4)
4枚のPTFE延伸膜Bを、互いに隣接する一対のPTFE延伸膜Bの幅方向(伸び率最小方向)が互いに90°の角度をなすように積層することにより、PTFE積層体を得た。このPTFE積層体を、温度350℃で5分間、0.4MPaの圧力下の圧力下で一体化させることにより、PTFE多孔質膜を得た。このPTFE多孔質膜の特性を表2に示す。表2に示すように、PTFE多孔質膜の破断までの伸び率が最大となる方向、すなわち幅方向においても、伸び率は51%に止まった。幅方向に対する長手方向の伸び率の比は0.92となり、伸びの異方性が小さくなった。
【0048】
(比較例1)
1枚のPTFE延伸膜Aを、温度350℃で5分間、0.4MPaの圧力下で加熱および加圧し、PTFE膜を得た。このPTFE膜の特性を表2に示す。表2に示すように、PTFE膜の破断までの伸び率が最大となる方向、すなわち幅方向における伸び率は200%を上回る220%となった。幅方向に対する長手方向の伸び率の比は0.28となり、伸びの異方性が大きくなった。
【0049】
さらに、このPTFE膜を、温度360℃、0.8MPaの圧力下で5分間、加熱および加圧した。その結果、PTFE膜の幅方向の伸び率は56%に低下したが、厚みが18μm、気孔率が20%となり、透明でほとんど通気しない膜となった。
【0050】
(比較例2)
1枚のPTFE延伸膜Bを、温度350℃、0.2MPaの圧力下で5分間、加熱および加圧してPTFE膜を得た。このPTFE膜の特性を表2に示す。表2に示すように、PTFE膜の破断までの伸び率が最大となる方向、すなわち長手方向における伸び率は200%を上回る280%となった。幅方向に対する長手方向の伸び率の比は5.19となり、伸びの異方性が大きくなった。
【0051】
さらに、このPTFE膜を、温度360℃、0.8MPaの圧力下で5分間、加熱および加熱した。その結果、PTFE膜の長手方向の伸び率は50%に低下したが、厚みが6μm、気孔率が25%となり、透明でほとんど通気しない膜となった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のPTFE多孔質膜は、自動車、OA部品、家電、医療、半導体等の分野において、防水、防塵、濾過等を目的とした利用に適している。
【符号の説明】
【0053】
1 PTFE延伸膜
2 伸び率最小方向がPTFE延伸膜1の伸び率最小方向に対して90°の角度をなすPTFE延伸膜
10、20、30、40 PTFE多孔質膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜の面内における任意の方向を第一の方向とし、前記第一の方向に対して直交する、前記面内における方向を第二の方向としたとき、
前記第一の方向および前記第二の方向への引張り試験において、強度が20N/mm2以上であり、破断するまでの伸び率が200%以下であり、前記第一の方向への前記伸び率に対する前記第二の方向への前記伸び率の比が0.5〜2.0である、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
ただし、前記引張り試験は、測定するべき方向についての長さを5cm、当該方向に対して垂直な方向の長さを1cmとしたサンプルを用い、このサンプルを初期のチャック間距離を2cmに保持した一対のチャックにより保持した状態で、前記一対のチャックを20cm/分の速度で引き離すことにより実施する。
【請求項2】
昇温速度10℃/分の示差走査熱量測定において、結晶融解に伴う吸熱ピークが327±5℃の範囲のみに存在し、前記吸熱ピークの吸熱量が35J/g未満である、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項3】
厚みが5μm以上であり、気孔率が50%以上である、請求項1または2に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項4】
通気量が、ガーレー数で表して0.01〜200sec/100mLである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項5】
二軸延伸して多孔化した少なくとも2枚のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を、引張り試験において破断するまでの膜の伸び率が最小である面内方向が互いに直交するように積層した状態で、ポリテトラフルオロエチレンの結晶融解温度以上の温度に加熱しながら加圧して一体化する、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
ただし、前記引張り試験は、測定するべき方向についての長さを5cm、当該方向に対して垂直な方向の長さを1cmとしたサンプルを用い、このサンプルを初期のチャック間距離を2cmに保持した一対のチャックにより保持した状態で、前記一対のチャックを20cm/分の速度で引き離すことにより実施する。
【請求項6】
前記二軸延伸して多孔化した少なくとも2枚のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜は、昇温速度10℃/分の示差走査熱量測定により測定した結晶融解熱量が35J/g以上70J/g以下である、請求項5に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−1591(P2012−1591A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136118(P2010−136118)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】