説明

位相変調器及びルビジウム原子発振器

【課題】クワッドレチャ・ハイブリッドを使用して、進相端子と遅相端子に可変リアクタ
ンス素子を接続することにより、所望する位相に変調すると共に、出力レベルの変動を最
小限に抑えた位相変調器を提供する。
【解決手段】この位相変調器11は、発振信号VIを発振する発振源24と、発振源24
から発振された発振信号VIを入力する入力端子aと、発振信号VIの位相に対して位相
が進む進相端子cと、発振信号VIの位相に対して位相が遅れる遅相端子bと、進相端子
cに現れる位相と遅相端子bに現れる位相とを合成して出力する出力端子dと、を有する
クワッドレチャ・ハイブリッド30と、可変容量素子C3と、可変容量素子C4と、出力
端子dと、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相変調器及びルビジウム原子発振器に関し、さらに詳しくは、位相変調器
の移相量の直線性を改善し、且つ出力レベル変動を抑制する回路構成に関するものである

【背景技術】
【0002】
近年、通信網や放送網等のディジタルネットワーク化が進み、これに伴い、伝送装置の
クロック信号や放送局の基準周波数の生成に使用されるクロック源等として、高精度・高
安定な発振器が必要不可欠なものとなっている。そのような要請を満たす発振器として、
発振周波数の精度・安定度が高いルビジウム原子発振器が多く用いられている。このルビ
ジウム原子発振器には、ルビジウム原子共鳴周波数にロックをかけるために、共鳴周波数
がずれているか一致しているかを検出するために、マイクロ波の位相を低周波により変調
する位相変調器が使用されている。
【0003】
図4は従来の位相変調器の一例を示す回路図である。
この位相変調器100は、トランジスタTR1のコレクタに接続したインダクタンスL
に並列にバラクタ回路を接続し、抵抗R4でバラクタダイオードRC1のカソード直流バ
イアス電圧を固定しておき、R9とRX1の抵抗分圧によって決まるアノード直流バイア
ス電圧にC7を経由して変調波111Hzを重畳して位相変調をかけ、変調波のレベルを
RV1で調整することによって変調度を調整する回路である。
【0004】
図5は位相変調器100の振幅、位相特性を示す図である。縦軸に振幅、位相を示し、
横軸に周波数を示す。この図では、位相特性を符号50で示し、Pass特性を符号51
で示す。例えば、バラクタダイオードRC1のカソード電圧を3.5V〜4.5Vまで変
化させたとき、10MHzでの位相変化幅は+8度〜−12度(a、b間)まで変化し、
そのときの振幅変動分は480mV〜440mV(約0.8dB)(c、d間)変動する
のがわかる。
【0005】
また、従来技術として特許文献1には、入力信号及び変調信号を2分配し、それぞれ2
つの位相変調回路で変調した後、電力合成する位相変調器について開示されている。
【特許文献1】特開平8−222956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図4に示す従来の変調器による位相変調信号は、タンク回路の同調点か
らずれることによるレベル変動(c、d間)の影響が振幅変調成分として残留し、この振
幅変調成分を取り除くためのリミッタ回路などが後段に必要となる。また、回路の調整を
必要とし、調整コストが必要となるといった問題がある。
【0007】
また、特許文献1に開示されている従来技術は、2つの位相変調回路で変調した後、電
力合成する際に、それぞれの位相変調回路で発生する振幅変調成分を相殺して位相変調特
性を得るようにしているので、2つの位相変調回路と合成回路が必要となり、回路構成が
複雑となるために、回路規模が大きくなり部品コストが高くなるといった問題がある。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑み、クワッドレチャ・ハイブリッドを使用して、進相端子と
遅相端子に可変リアクタンス素子を接続することにより、所望する位相に変調すると共に
、出力レベルの変動を最小限に抑えた位相変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はかかる課題を解決するために、所定周波数を有した発振信号の位相を変調する
位相変調器であって、前記発振信号を入力する入力端子と、前記発振信号の位相に対して
位相が進む進相端子と、前記発振信号の位相に対して位相が遅れる遅相端子と、前記進相
端子に現れる位相と前記遅相端子に現れる位相とを合成して出力する出力端子と、を有す
るクワッドレチャ・ハイブリッドを備え、前記入力端子に前記発振信号を入力し、前記進
相端子と前記遅相端子に夫々可変リアクタンス素子を接続することにより、前記出力端子
に出力される前記発振信号の位相を変調することを特徴とする。
【0010】
クワッドレチャ・ハイブリッドは、マイクロ波帯で用いられるマジックTやブランチド
・ハイブリッドと同じ動作を与えるもので、4つのポートを備えている。この性質は、入
力端子から信号を入力すると、電力は進相端子と遅相端子に現れる。このとき2つの端子
の位相が進相端子では進み、遅相端子では遅れ、両端子間では90度の位相差となる。そ
して、出力端子には何の出力も現れない。本発明ではこの性質を利用して、進相端子と遅
相端子に可変リアクタンス素子を接続して、出力端子に位相が異なる信号を出力するもの
である。これにより、簡単な回路構成により、出力レベルの変動を抑制した位相変調器を
提供することができる。
【0011】
また、前記可変リアクタンス素子に可変容量素子を用い、該可変容量素子の端子電圧を
制御することにより、前記出力端子に出力される前記発振信号の位相を変調することを特
徴とする。
可変リアクタンス素子にはいろいろ考えられるが、制御のし易さから考えた場合、可変
容量素子が最適である。可変容量素子は端子間の電位差により容量値が変化する素子であ
り、外部からの制御電圧により容量を所定範囲で変化させることができる。これにより、
外部から制御電圧を変化させることにより、容易に信号の位相を変調することができる。
【0012】
また、ルビジウム原子の共鳴周波数に共振するよう調整されたマイクロ波共振器内にマ
イクロ波を放射する放射用アンテナを有する光マイクロ波ユニットと、該光マイクロ波ユ
ニットに現れる低周波振幅変調信号の位相を弁別する位相弁別器と、請求項1又は2に記
載の位相変調器と、前記位相弁別器の電圧に基づいて所定の周波数を発振する電圧制御発
振器と、該電圧制御発振器の発振信号をマイクロ波に逓倍する周波数逓倍部と、逓倍され
た発振信号に変調をかけ、ルビジウム原子の共鳴周波数と同一の周波数信号を生成する混
変調部と、を備えたことを特徴とする。
ルビジウム原子発振器には、ルビジウム原子共鳴周波数にロックをかけるために、共鳴
周波数がずれているか一致しているかを検出するために、マイクロ波の位相を低周波によ
り変調する位相変調器が必要となる。本発明のルビジウム原子発振器では、位相変調器に
本発明の位相変調器を使用するものである。これにより、所望する位相に変調すると共に
、出力レベルの変動を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記
載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限
り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0014】
図1は本発明の位相変調器の一例を示す回路図である。この位相変調器11は、10M
Hzの発振信号VIを発振する発振源24と、発振源24から発振された発振信号VIを
入力する入力端子aと、発振信号VIの位相に対して位相が進む進相端子cと、発振信号
VIの位相に対して位相が遅れる遅相端子bと、進相端子cに現れる位相と遅相端子bに
現れる位相とを合成して出力する出力端子dと、を有するクワッドレチャ・ハイブリッド
30と、遅相端子bとグランド間に接続された可変容量素子(可変リアクタンス素子)C
3と、進相端子cとグランド間に接続された可変容量素子(可変リアクタンス素子)C4
と、出力端子dと、を備えて構成されている。尚、クワッドレチャ・ハイブリッド30は
、コア31に同位相で巻かれた2つのインダクタンスL1、L2と、インダクタンスL1
、L2の一方の端子25、27間に接続されたコンデンサC1と、インダクタンスL1、
L2の他方の端子26、28間に接続されたコンデンサC2により構成され、端子25は
入力端子aと接続され、端子27は進相端子cと接続され、端子26は遅相端子bと接続
され、端子28は出力端子dと接続されている。そして入力端子aに発振信号VIを入力
し、進相端子cと遅相端子bに夫々可変容量素子C4、C3を接続することにより、出力
端子dに出力される発振信号の位相を変調するものである。
【0015】
ここで、クワッドレチャ・ハイブリッドの動作については公知であるが、概要について
説明しておく。クワッドレチャ・ハイブリッド(別名90度ハイブリッドとも呼ぶ)マイ
クロ波帯で用いられるマジックTやブランチド・ハイブリッドと同じ動作を与えるもので
、4つのポートを備えている。この性質は、入力端子aから信号を入力すると、電力は進
相端子cと遅相端子bに現れる。このとき2つの端子の位相が進相端子cでは45度進み
、遅相端子bでは45度遅れ、両端子間では90度の位相差となる。基本的には入力端子
aに対して±45度の位相差となる。そして、出力端子dには何の出力も現れない。本発
明ではこの性質を利用して、進相端子cと遅相端子bに可変容量素子C4、C3を接続し
て、出力端子dに位相が異なる信号を出力するものである。これにより、簡単な回路構成
により、出力レベルの変動を抑制した位相変調器を提供することができる。
【0016】
本願発明は、可変容量素子C4、C3の端子電圧を制御することにより、容量を変化さ
せて出力端子dに出力される発振信号の位相を変調するものである。即ち、可変リアクタ
ンス素子にはいろいろ考えられるが、制御のし易さから考えた場合、可変容量素子が最適
である。可変容量素子は端子間の電位差により容量値が変化する素子であり、外部からの
制御電圧により容量を所定範囲で変化させることができる。これにより、外部から制御電
圧を変化させることにより、容易に信号の位相を変調することができる。なお、可変容量
素子はバラクタダイオードを用いるのが好ましい。
【0017】
図2は本発明の位相変調器の可変容量素子にバラクタダイオードを接続した場合の位相
変調特性のシミュレーション結果の図である。縦軸(左)は移相量(位相変化幅)(de
g)を表し、縦軸(右)は出力端子dの出力レベル(mV)を表し、横軸はバラクタダイ
オードの制御電圧(V)を表している。また、線分21は移相量であり、線分22は出力
レベルを表している。この図から分かるとおり、移相量21は制御電圧を1Vから6Vま
で変化させた場合、略リニアに変化しているのが分かる。そのときの出力レベル22は、
500(mV)を中心として略フラットであり、レベルの変動が殆どないことが分かる。
即ち、実使用域A−B間では、移相量21は、非常に良い直線性を示しており、そのとき
の出力レベル22は、500(mV)を中心として殆ど変動していないことが分かる。
【0018】
図3は本発明のルビジウム原子発振器の概略構成を示すブロック図である。このルビジ
ウム原子発振器50は、ルビジウムランプ(以下、Rbランプと記す)5を点灯するラン
プ励振部1と、ルビジウムガスセル(以下、Rbガスセルと記す)6中のルビジウム原子
を励起するRbランプ5と、ルビジウム原子を封入したRbガスセル6と、Rbガスセル
6中のルビジウム原子の共鳴周波数に共振するよう調整されたマイクロ波共振器3と、マ
イクロ波共振器3にマイクロ波を放射する放射用アンテナ4と、Rbガスセル6を透過し
た光の強度を検出するフォトセンサ7と、Amp9に現れる低周波振幅変調信号の位相を
弁別する位相弁別器10と、位相弁別器10の電圧に基づいて所定の周波数を発振する電
圧制御発振器13と、マイクロ波の位相を低周波により変調する位相変調器11と、電圧
制御発振器13の発振信号をマイクロ波に逓倍する周波数逓倍部12と、逓倍された発振
信号に変調をかけ、ルビジウム原子の共鳴周波数と同一の周波数信号を生成する混変調部
14と、を備えて構成されている。尚、Rbランプ5、マイクロ波共振器3及びフォトセ
ンサ7により構成されるユニットを光マイクロ波ユニット8と呼ぶ。また、混変調部14
の出力は放射用アンテナ4に接続されている。
【0019】
次に、本発明のルビジウム原子発振器の動作については公知であるので、ここでは説明
を省略するが、本発明の主たる構成要素である位相変調器11は図1の各部品により構成
される位相変調器である。即ち、ルビジウム原子発振器50には、ルビジウム原子共鳴周
波数にロックをかけるために、共鳴周波数がずれているか一致しているかを検出するため
に、マイクロ波の位相を低周波により変調する位相変調器11が必要となる。本発明のル
ビジウム原子発振器50では、位相変調器11に本発明の位相変調器を使用するものであ
る。これにより、所望する位相に変調すると共に、出力レベルの変動を最小限に抑えるこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の位相変調器の一例を示す回路図である。
【図2】本発明の位相変調器にバラクタダイオードを接続した場合の位相変調特性のシミュレーション結果の図である。
【図3】本発明のルビジウム原子発振器の概略構成を示すブロック図である。
【図4】従来の位相変調器の一例を示す回路図である。
【図5】従来の位相変調器の振幅、位相特性の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
11 位相変調器、24 発振源、30 クワッドレチャ・ハイブリッド、a 入力端
子、b 遅相端子、c 進相端子、d 出力端子、R1、R2、R3、R4 抵抗、C1
、C2 コンデンサ、C3、C4 可変容量素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数を有した発振信号の位相を変調する位相変調器であって、
前記発振信号を入力する入力端子と、前記発振信号の位相に対して位相が進む進相端子
と、前記発振信号の位相に対して位相が遅れる遅相端子と、前記進相端子に現れる位相と
前記遅相端子に現れる位相とを合成して出力する出力端子と、を有するクワッドレチャ・
ハイブリッドを備え、
前記入力端子に前記発振信号を入力し、前記進相端子と前記遅相端子に夫々可変リアク
タンス素子を接続することにより、前記出力端子に出力される前記発振信号の位相を変調
することを特徴とする位相変調器。
【請求項2】
前記可変リアクタンス素子に可変容量素子を用い、該可変容量素子の端子電圧を制御す
ることにより、前記出力端子に出力される前記発振信号の位相を変調することを特徴とす
る請求項1に記載の位相変調器。
【請求項3】
ルビジウム原子の共鳴周波数により共振するよう調整されたマイクロ波共振器内にマイ
クロ波を放射する放射用アンテナを有する光マイクロ波ユニットと、該光マイクロ波ユニ
ットに現れる低周波振幅変調信号の位相を弁別する位相弁別器と、請求項1又は2に記載
の位相変調器と、前記位相弁別器の電圧に基づいて所定の周波数を発振する電圧制御発振
器と、該電圧制御発振器の発振信号をマイクロ波に逓倍する周波数逓倍部と、逓倍させた
発振信号に変調をかけ、ルビジウム原子の共鳴周波数と同一の周波数信号を生成する混変
調部と、を備えたことを特徴とするルビジウム原子発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−22193(P2008−22193A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191099(P2006−191099)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】