説明

位相変調回路

【課題】 縦積みトランジスタ回路型のミキサ回路や、高速且つ高分解能のDACを必要とせず、占有面積及び消費電力を低減可能な位相変調回路を提供する。
【解決手段】 シンボル生成部11は、デジタルベースバンド信号から複数のシンボルのうち1つに対応する信号を生成する。差動リング発振器12は、一定の角度位相した複数の信号を発生する。位相選択ミキサ13は、シンボル生成部から出力される選択信号に基づき、差動リング発振器から出力される複数の信号から1つの信号を選択する複数の第1のスイッチ回路と、シンボル生成部から出力される選択信号に基づき、差動リング発振器から出力される複数の信号から第1のスイッチ回路により選択された信号から一定角度進んだ信号と遅れた信号を選択する複数の第2のスイッチ回路とを含み、合成回路14は、位相選択ミキサから出力される複数の信号を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体集積回路に内蔵された無線送信回路に適用される位相変調回路に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路技術が微細化されると共に回路面積を縮小可能なスケーラブルアナログ回路の実現が期待されている。例えば無線送信回路に適用される変調回路は、無線周波数のキャリア信号にデジタルデータ情報を重畳する役割を果たす。この変調回路は、従来、インダクタLや容量Cなどの受動素子を用いた狭帯域ミキサを用いている(例えば非特許文献1参照)。このため、トランジスタ回路部は集積回路技術の微細化とともに小面積化を図ることができるが、LC回路は微細化に追従できず回路面積を縮小することが困難である。
【0003】
さらに、従来の変調回路は、LC共振を用いた狭帯域回路であるため、規格化が進んでいる複数の無線アプリケーションに対応するためには、複数のLC回路を準備する必要がある。このため、マルチバンド動作や広帯域動作を行う場合、LC回路のチップ面積の割合が増大し、チップコストを制限する大きな要因となっている。
【0004】
また、低消費電力化の要求や、集積回路技術の微細化による耐圧の低下に基づき、より低い電源電圧で回路を動作させることが必要となる。そのため、例えばギルバートセルのように、電源と接地間に複数のトランジスタを接続した、所謂、縦積みトランジスタ回路を基本とする従来のミキサ回路は、より低い電源電圧で動作する回路の実現が求められている。しかし、このようなアナログ回路は、低電圧化が困難な状況となっている。
【0005】
そこで、スケーラブルな回路技術として、デジタル・アナログ変換回路(DAC)を用いたダイレクト・デジタル・シンセサイザ(DDS)により、ベースバンドデータ信号から直接RFの変調信号を生成する方法が考えられている。
【0006】
しかし、1GHz以上の変調信号を得るためには、DACは、12bit以上の分解能で10GS/sec以上の高速動作が必要であることが試算されている。したがって、これを実現するには、現在の微細プロセスを用いても多くの消費電力、回路面積を必要とするため現実的ではない。さらに低電源電圧で高分解能を得なければならないという技術的困難も伴っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Behzad Razavi 著 黒田忠広 監訳 「RFマイクロエレクトロニクス」 丸善株式会社発行 第9刷 p87−p89、p205、平成14年3月25日発行、平成16年9月30日第7刷発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来の変調回路における第1の問題点は、ローカル発振回路(LO)やミキサ回路において、面積の大きな受動素子を必要とするため、回路面積を小さくできないことである。また、第2の問題点は、縦積みトランジスタ回路を含む周波数変換回路を要するため動作電圧を低くできないことである。さらに、第3の問題点は、高速且つ高分解能のDDSが実現されているものの、出力可能な最大周波数が400MHzで、消費電力が0.7Wと大きい。高周波の無線通信では、1〜10GHzのRF変調信号が必要であり、より高速なDACが必要となるが、大幅な消費電力の増大が伴い、携帯無線端末への応用は困難な状況である。
【0009】
本発明は、縦積みトランジスタ回路型のミキサ回路や、高速且つ高分解能のDACを必要とせず、占有面積及び消費電力を低減可能な位相変調回路を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の位相変調回路の態様は、デジタルベースバンド信号から位相変調の複数のシンボルのうち1つに対応する選択信号を生成するシンボル生成部と、一定の角度位相した複数の信号を発生する差動リング発振器と、前記シンボル生成部から出力される選択信号に基づき、前記差動リング発振器から出力される複数の信号から1つの信号を選択する複数の第1のスイッチ回路と、前記シンボル生成部から出力される選択信号に基づき、前記差動リング発振器から出力される複数の信号から前記第1のスイッチ回路により選択された信号から一定角度進んだ信号と遅れた信号を選択する複数の第2のスイッチ回路とを含む位相選択回路と、前記位相選択回路から出力された複数の信号を合成する合成回路とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、縦積みトランジスタ回路型のミキサ回路や、高速且つ高分解能のDACを必要とせず、占有面積及び消費電力を低減可能な位相変調回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係る位相変調回路を示す概略構成図。
【図2】図1に示す位相変調回路を具体的に示す回路構成図。
【図3】図2に示す発振器の構成を具体的に示すものであり、図3(a)は差動インバータ回路を示す回路図、図3(b)は図3(a)に示すラッチ回路の構成を示す回路図、図3(c)は図3(b)に示すスイッチの一例を示す回路図。
【図4】図1、図2に示す正弦波生成回路の一例を示す回路図。
【図5】図5(a)(b)は正弦波生成回路の動作を示す波形図。
【図6】第1の実施形態に係る変調出力信号の一例を示す波形図。
【図7】第2の実施形態に係る位相変調回路を示す回路図。
【図8】第2の実施形態に係る変調出力信号の一例を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、第1の実施形態に係る位相変調回路の概略構成を示している。第1の実施形態は、多相ローカル信号発振回路から出力される多位相の信号を、デジタルベースバンド信号から生成されたシンボル信号の状態に応じて選択し、この選択した複数の位相信号から正弦波に近い階段波のRF信号を生成するものであり、RFアナログ変調信号をデジタル回路により生成することを可能にしている。
【0015】
図1において、デジタルベースバンド信号はシンボル生成回路11に供給される。このシンボル生成回路11は、例えばシリアル/パラレル変換器により構成され、“0”“1”のシリアル信号としてのデジタルベースバンド信号をパラレル信号に変換し、このパラレル信号から4相QPSK変調の場合、4つのシンボルデータ“00”“01”“10”“11”のうち1つのシンボルデータに対応して例えばローレベル信号を生成し、3つのシンボルデータに対応してハイレベル信号を生成する。
【0016】
多相ローカル信号発振回路(以下、発振回路と称す)12は、例えば45°ずつシフトされた複数の信号を発生する。
【0017】
位相選択ミキサ回路13は、シンボル生成回路11から供給される4つのシンボルデータに対応する信号により、発振回路12から供給される複数の信号から直交する3つの位相信号を選択抽出する。この位相選択ミキサ回路13から出力される3つの信号は合成回路としての正弦波生成回路14に供給され、合成されることにより、アナログQPSK変調信号として出力される。
【0018】
シンボル生成回路11を構成するシリアル/パラレル変換器は、例えばシフトレジスタ及び論理回路により構成され、発振回路12もCMOSインバータ回路を含むリング発振回路により構成することができる。さらに、位相選択ミキサ回路13はMOSトランジスタのスイッチにより構成でき、正弦波生成回路14もMOSトランジスタを含む加算回路により構成することができる。したがって、図1に示す位相変調回路は、チップ面積、動作帯域を制限するLC回路を用いることなくデジタル回路により構成できる。このため、低電圧動作、広帯域動作が可能であり、CMOS技術の微細化に伴い小面積化、高速動作化を図り得るスケーラブルな構成となっている。
【0019】
図2は、図1に示す位相変調回路の具体的な回路構成を示している。図2において、図1と同一部分には同一符号を付している。
【0020】
位相変調回路は、4相位相変調(QPSK)を行う回路であり、シンボル生成回路11は、ベースバンド信号のシリアルデータの状態に応じた4つのQPSK用のシンボルデータ“00”,“01”,“10”,“11”に対応する位相選択信号を生成する。具体的には、シリアル/パラレル変換回路により、ベースバンド信号としてのシリアルデータが2ビットのパラレルデータに変換され、このパラレルデータから4つのシンボルデータ“00”,“01”,“10”,“11”が生成される。これら4つのシンボルデータのうち1つのみが例えばローレベル、残りの3つがハイレベルの信号が位相選択信号としてシンボル生成回路11から出力される。図2において、例えばシンボル生成回路11の終段に配置された例えばNAND回路11a、11b、11c、11dは、4つのシンボル“00”,“01”,“10”,“11”にそれぞれ対応して、位相選択信号を出力する。
【0021】
発振回路12は、デジタル制御発振回路(DCO: Digitally Controlled Oscillator)により構成されている。このDCOは、例えば4段の差動リング発振回路であり、直列接続された遅延素子としての4つの差動インバータ回路12a、12b、12c、12dにより構成されている。このうち、最終段の差動インバータ回路12dの出力信号は、初段の差動インバータ回路12aの入力端に正帰還されている。この構成により0°から360°までの8つの位相信号を出力可能とされている。
【0022】
すなわち、差動インバータ回路12aの反転入力端(差動インバータ回路12dの非反転出力端)から0°の位相信号が出力され、非反転入力端(差動インバータ回路12dの反転出力端)から180°の位相信号が出力される。また、差動インバータ回路12aの反転出力端から45°の位相信号が出力され、非反転出力端から225°の位相信号が出力される。さらに、差動インバータ回路12bの反転出力端から90°の位相信号が出力され、非反転出力端から270°の位相信号が出力される。また、差動インバータ回路12cの反転出力端から135°の位相信号が出力され、非反転入力端から315°の位相信号が出力される。各差動インバータ回路12a〜12dの出力信号は、例えばデューティ比が50%の信号である。
【0023】
位相選択ミキサ回路13は、シンボル生成回路11の出力信号に基づき、発振回路12から出力される多相の位相信号を選択する。この位相選択ミキサ回路13は、スイッチ回路としての複数のトランスファーゲート13a〜13h、インバータ回路13i〜13l、及びNAND回路13m〜13pにより構成されている。
【0024】
前段の選択回路を構成するトランスファーゲート13a〜13dは、シンボル生成回路11の出力信号に基づき、発振回路12から出力される45°、135°、225°、315°の位相信号のうちの1つを主位相信号として選択する。このため、トランスファーゲート13a〜13dの入力端には、発振回路12から出力される45°、135°、225°、315°の位相信号がそれぞれ供給される。これらトランスファーゲート13a〜13dを構成するPチャネルMOSトランジスタ(以下、PMOSトランジスタと称す)のゲートには、シンボル生成回路11を構成するNAND回路11a、11b、11c、11dの出力信号がそれぞれ供給されている。さらに、これらトランスファーゲート13a〜13dを構成するPMOSトランジスタのゲートは、インバータ回路13i〜13lを介してトランスファーゲート13a〜13dを構成するNチャネルMOSトランジスタ(以下、NMOSトランジスタと称す)のゲートにそれぞれ接続されている。これらトランスファーゲート13a〜13dの出力端は、共通接続され、トランスファーゲート13a〜13dの出力信号AS2は、正弦波生成回路14の入力端に供給される。
【0025】
一方、後段の選択回路を構成するトランスファーゲート13e〜13hは、シンボル生成回路11の出力信号に基づき、発振回路12から出力される位相信号から、前段の選択回路に選択された位相信号に対して前後45°位相する2つの信号を選択する。このため、トランスファーゲート13e〜13hの入力端には、発振回路12から出力される0°、90°、180°、270°の位相信号がそれぞれ供給される。
【0026】
また、NAND回路13m〜13pは、トランスファーゲート13a〜13dを選択する選択信号を生成するための回路であり、前段の選択回路により選択された主位相信号に対して前後45°位相した2つの信号を選択するための信号を生成する。
【0027】
すなわち、NAND回路13mの入力端には、NAND回路11aの出力信号及びNAND回路11bの出力信号が供給される。このNAND回路13mの出力信号は、トランスファーゲート13fを構成するNMOSトランジスタのゲート、及びトランスファーゲート13hを構成するPMOSトランジスタのゲートに供給される。
【0028】
NAND回路13nの入力端には、NAND回路11bの出力信号及びNAND回路11cの出力信号が供給される。このNAND回路13nの出力信号は、トランスファーゲート13eを構成するPMOSトランジスタのゲート、及びトランスファーゲート13gを構成するNMOSトランジスタのゲートに供給される。
【0029】
NAND回路13oの入力端には、NAND回路11cの出力信号及びNAND回路11dの出力信号が供給される。このNAND回路13oの出力信号は、トランスファーゲート13fを構成するPMOSトランジスタのゲート、及びトランスファーゲート13hを構成するNMOSトランジスタのゲートに供給される。
【0030】
NAND回路13pの入力端には、NAND回路11dの出力信号及びNAND回路11aの出力信号が供給される。このNAND回路13pの出力信号は、トランスファーゲート13gを構成するPMOSトランジスタのゲート、及びトランスファーゲート13eを構成するNMOSトランジスタのゲートに供給される。
【0031】
トランスファーゲート13e、13gの出力端は共通接続され、トランスファーゲート13e、13gの出力信号AS1は、正弦波生成回路12の入力端に供給され、トランスファーゲート13f、13hの出力端は共通接続され、トランスファーゲート13f、13hの出力信号AS3は、正弦波生成回路12の入力端に供給される。
【0032】
上記構成において、ベースバンド信号に基づき、シンボル生成回路11の例えばNAND回路11bからローレベルの位相選択信号が出力され、NAND回路11a、11c、11dからハイレベルの位相選択信号が出力された場合、前段の選択回路を構成するトランスファーゲート13bがオンとされ、発生回路12から出力される135°の位相信号が主位相信号として選択される。
【0033】
このとき、NAND回路13nの出力信号がハイレベルとなり、その他のNAND回路13m、13o、13pの出力信号がローレベルとなる。このため、トランスファーゲート13f、13gがオンし、その他のトランスファーゲート13e、13hはオフする。したがって、トランスファーゲート13f、13gにより発生回路12から出力される90°と180°の位相信号が選択される。このようにして選択された135°、90°及び180°の位相信号が正弦波生成回路14に供給される。
【0034】
図3(a)は、発振回路12を構成する差動インバータ回路12a〜12dの一例を示している。各差動インバータ回路は同一構成であるため、差動インバータ回路12aについて説明する。
【0035】
この差動インバータ回路12aは、ラッチドインバータ型であり、接地電位から電源電位までの大振幅動作が可能とされている。すなわち、この差動インバータ回路12aは、出力端out、outb間にラッチ回路LTが接続され、このラッチ回路LTを構成するインバータ回路の例えばゲート幅をデジタル的に切り替えることにより、ラッチ回路LTの正帰還量を可変制御できる構成とされている。したがって、ラッチ回路LTのゲート幅を変えることにより、発振回路12の発振周波数が変化可能とされている。
【0036】
図3(b)は、ラッチ回路LTの一例を示している。このラッチ回路LTは、例えば同一サイズの3対のインバータ回路IV0、IV0、IV1、IV1、IV2、IV2と、これら3対のインバータ回路を選択する4対のスイッチ回路SW1、SW1、SW2、SW2、SW3、SW3、SW4、SW4により構成されている。これらスイッチ回路は、図3(c)に示すように、例えばトランスファーゲートにより構成される。
【0037】
このような構成において、全てのスイッチ回路をオフとした場合、このラッチ回路LTは1対のインバータ回路IV0、IV0により構成され、1対のスイッチSW1とSW2をオンとした場合、このラッチ回路LTは、1対のインバータ回路IV0、IV0と1対のインバータ回路IV1、IV1が並列接続された構成とされる。さらに、全てのスイッチ回路をオンとすると、このラッチ回路LTは、1対のインバータ回路IV0、IV0と1対のインバータ回路IV1、IV1、及び1対のインバータ回路IV2、IV2が並列接続された構成とされる。このようにして、スイッチ回路を選択的に切り替えて並列接続されるインバータ回路の数を変化させることにより、ラッチ回路LTのゲート幅を可変することができ、差動インバータ回路の正帰還量を変化させることができる。
【0038】
図4は、正弦波生成回路14の一例を示している。この正弦波生成回路14は、位相選択ミキサ回路13から供給される3つの位相信号を重み付けして加算することにより、階段波状の疑似アナログRF信号を生成する。
【0039】
図4において、位相選択ミキサ回路13から出力される主位相信号としの信号AS2は、インバータ回路14c、14h、14lを介してPMOSトランジスタ14nのゲートに供給される。このPMOSトランジスタ14nのソースは電源Vddの供給ノードに接続されている。
【0040】
位相選択ミキサ回路13から出力される主位相信号AS2と45°シフトされた位相信号AS1は、インバータ回路14a、14fを介してNAND回路14kの一方入力端に供給され、位相選択ミキサ回路13から出力される主位相信号AS2と45°シフトされた位相信号AS3は、インバータ回路14b、14gを介してNAND回路14kの他方入力端に供給される。このNAND回路14kの出力信号は、NMOSトランジスタ14qのゲートに供給される。このNMOSトランジスタ14qのドレインはPMOSトランジスタ14nのドレインに接続され、ソースは接地されている。
【0041】
また、位相選択ミキサ回路13から出力される主位相信号AS2と45°シフトされた位相信号AS1は、インバータ回路14d、14iを介してNOR回路14mの一方入力端に供給され、位相選択ミキサ回路13から出力される主位相信号AS2と45°シフトされた位相信号AS3は、インバータ回路14e、14jを介してNOR回路14mの他方入力端に供給される。このNOR回路14mの出力信号は、PMOSトランジスタ14o、14pのゲートに供給される。PMOSトランジスタ14oのソース、NMOSトランジスタ14pのドレインは電源Vddの供給ノードに接続されている。NMOSトランジスタ14pのソースは、PMOSトランジスタ14n、14oのドレインに接続され、PMOSトランジスタ14oのドレインは出力端outに接続されている。この出力端outには、バッファBAを介して例えば50Ωの負荷抵抗RLが接続されている。
【0042】
PMOSトランジスタ14n、14o、NMOSトランジスタ14p、14qによる加算回路14rは、NAND回路14k、インバータ回路14l、NOR回路14mの出力信号に基づき正弦波を生成する。出力端outから出力される出力波形を正弦波に近似するため、階段波のステップは1:√2:1に設定されている。
【0043】
すなわち、加算回路14rは、NAND回路14k、インバータ回路14l、NOR回路14mの出力信号に基づき、PMOSトランジスタ14n、14o、NMOSトランジスタ14p、14qを選択的にオンさせることにより、負荷抵抗のインピーダンスを例えば0、1、1+√2、2+√2と変化させて信号を合成している。
【0044】
尚、インバータ回路14a〜14e、14f〜14j、NAND回路14k、インバータ回路14l、NOR回路14mを構成するトランジスタのサイズは、位相選択ミキサ回路を構成するデジタル論理回路のトランジスタサイズを1とすると、2:4:6に設定され、電流駆動能力の向上が図られている。
【0045】
また、加算回路14rは、PMOSトランジスタ14n、14o、NMOSトランジスタ14p、14qによる回路に限定されるものではなく、他の構成とすることも可能である。
【0046】
図5(a)(b)は、図4の動作を示すものである。
【0047】
位相選択ミキサ回路13の出力信号AS1、AS2、AS3に応じて、NAND回路14k、インバータ回路14l、NOR回路14mから、例えば図5(a)に示すように、信号S1、S2、S3が出力される。これら信号S1、S2、S3により、PMOSトランジスタ14n、14o、NMOSトランジスタ14p、14qが制御され、出力端outから図5(b)に示すような階段状の正弦波信号が生成される。
【0048】
図6は、第1の実施形態に係る位相変調回路の有効性を確認するため、0.18μmのCMOS技術により集積回路チップを試作し、評価した結果を示している。電源電圧Vddとして1.8Vを供給している。図6に示す変調信号の出力波形の観測結果において、発振回路12としてのDCOの発信周波数は、例えば1.14GHzであり、400Mb/sのPRBS(Pseudo-Random Bit Stream)9段のランダムのシリアルデータをシンボル生成回路11に入力している。位相選択ミキサ回路13に供給されるシンボルデータに対応する信号の速度は、例えば200Msymbol/sである。図6に丸印で示す位置において、シンボルデータによる位相信号の選択動作により180°の位相変化が生じていることが分かる。
【0049】
尚、キャリア信号(DCOの発振周波数)はデータ信号速度の整数倍の値を用いる。これによりQPSK変調において、スムースな位相変位を実現することができる。
【0050】
上記第1の実施形態によれば、発振回路12により、位相の異なる複数の信号を発生し、これらの信号をシンボル生成回路11によりデジタルベースバンド信号から生成した位相選択信号を用いて位相選択ミキサ回路13により主位相信号と、その前後45°シフトした2つ位相信号を選択し、これら選択された位相信号を正弦波生成回路14により重み付け加算して正弦波信号を生成している。このため、低電圧動作に不利な高速、高分解能DACや、縦積み型アナログ周波数変換回路を用いることなく、位相変調回路を実現できる。したがって、動作電圧の低電圧化を図ることが可能であり、広帯域動作が可能な位相変調回路を構成できる。
【0051】
また、1位相出力の矩形波の場合、高レベルの高調波成分が生成されるが、第1の実施形態の場合、3つの位相信号を合成して階段波を生成しているため、無線回路において問題となる2次、3次の高調波歪成分を抑制することができる。
【0052】
さらに、第1の実施形態の位相変調回路は、従来のLC回路が不要である。このため、チップ面積を削減でき、CMOS技術の微細化に伴い更なる小面積化、及び高速動作化を図ることが可能な位相変調回路を構成できる。したがって、低コスト化、及び消費電力の低減に有利である。
【0053】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態に係る位相変調回路を示している。第2の実施形態は、リング型発振器へ同期信号を注入することにより、変調信号の位相を選択することを特徴としている。
【0054】
図7において、DCOとしての差動リング発振器21は、第1の実施形態と同様に、直列接続された4段の差動インバータ回路21a、22b、22c、22dにより構成されている。最終段の差動インバータ回路21dの出力信号は、初段の差動インバータ回路21aの入力端に正帰還されている。この差動リング発振器21の発振周波数は、第1の実施形態と同様に、差動インバータ回路を構成するラッチ回路のサイズを可変することにより変化される。
【0055】
この差動リング発振器21は、定常状態において、初段の作動インバータ回路21aの反転出力端(ノードN1)、非反転出力端(ノードN2)、差動インバータ回路21cの反転出力端(ノードN3)、非反転出力端(ノードN4)からそれぞれ90°ずつ位相差を有する信号が出力される。
【0056】
シンボル生成回路11は、第1の実施形態と同様に、デジタルベースバンド信号から4相QPSKのシンボル“00”,“01”,“10”,“11”に対応して、1つのハイレベル信号、3つのローレベル信号を含む位相選択信号を出力する。シンボル生成回路11の出力信号は、それぞれパルス発生回路22a、22b、22c、22dに供給される。これらパルス発生回路22a〜22dは、シンボル生成回路11からハイレベルの位相選択信号が供給されると、ワン・ショット・パルス信号を発生する。このワン・ショット・パルス信号は、位相選択信号よりデューティ比が小さい信号である。
【0057】
各パルス発生回路22a〜22dの出力端はNMOSトランジスタ23a、23b、23c、23dのゲートに接続されている。これらNMOSトランジスタ23a〜23dのソースは接地され、ドレインは差動リング発振器21のノードN1、N2、N3、N4にそれぞれ接続されている。
【0058】
差動リング発振器21のノードN1〜N8は、位相選択回路24に接続されている。この位相選択回路24は、シンボル生成回路11から出力される位相選択信号に基づき、差動リング発振器21の4つのノードN1、N2、N3、N4から1つの主信号と、その主信号の位相に対し前後45°シフトした信号を、ノードN5、N6、N7、N8の出力信号から選択する。この位相選択回路24により選択された3つの信号は、正弦波生成回路25に供給される。この正弦波生成回路25は、例えば第1の実施形態と同様の構成とされている。
【0059】
上記構成において、シンボル生成回路11によりデジタルベースバンド信号から生成された位相選択信号は、パルス発生回路22a〜22dに供給される。パルス発生回路22a〜22dのうち、ハイレベルの位相選択信号が供給されたパルス発生回路からワン・ショット・パルス信号が発生される。すなわち、パルス発生回路22a〜22dのうち、1つのパルス発生回路からワン・ショット・パルス信号が発生される。このワン・ショット・パルス信号は、対応するNMOSトランジスタ23a〜23dのゲートに供給され、NMOSトランジスタが一瞬オンされる。これにより、差動リング発振器21の対応するノードが接地される。この結果、差動リング発振器21の各々のノードの位相が瞬間シフトする。
【0060】
位相選択回路24は、シンボル生成回路11から出力される位相選択信号に基づき、差動リング発振器21の8つのノードN1〜N8から位相が45°シフトした3つのノードの出力信号を選択する。この位相選択回路24により選択された3つの信号は、正弦波生成回路25に供給され、疑似アナログRF信号に変換される。
【0061】
第2の実施形態において、差動リング発振器21から出力される変調出力信号は、リング型発振器21のどの段のノードから取り出しても基本的には問題ない。
【0062】
図8は、第2の実施形態に係る位相変調回路の出力波形を示すものであり、リング型発振器21の1つのノードにおける時間軸波形のシミュレーション解析結果の一例を示すものである。図8に丸印で示す時点において、パルス発生回路から出力されたワン・ショット・パルス信号により注入同期がかけられ、これにより位相が変化していることが分かる。
【0063】
第2の実施形態によれば、シンボル生成回路11から出力される位相選択信号に応じてパルス発生回路22a〜22dの1つからワン・ショット・パルス信号を発生させ、このワン・ショット・パルス信号により、NMOSトランジスタ23a〜23dのうちの1つを一瞬オンさせることにより、差動リング発振器21を同期させている。このため、高分解能なDACや縦積み型アナログ周波数変換回路を用いることなく位相変調機能を実現できる。
【0064】
また、差動リング発振器12に対して、同期信号を注入するために、シンボル生成回路11、パルス発生回路22a〜22d及びNMOSトランジスタ23a〜23dを設けた構成であり、大面積を要するLC回路が不要である。したがって、チップ面積を削減でき、CMOS技術の微細化に伴い更なる小面積化、及び高速動作化を図ることが可能な位相変調回路を構成できる。
【0065】
また、位相選択信号は高精度のクロック信号を使用しているベースバンド信号から生成しているため、その位相雑音は低いと考えられる。この低位相雑音の位相選択信号から生成したワン・ショット・パルス信号をDCOとしての差動リング発振器21へ注入することにより、差動リング発振器21の位相雑音特性も改善できる。
【0066】
なお、キャリア信号(VCOの発振周波数)はデータ信号速度の整数倍の値を用いることにより、注入同期が掛かりやすくなるとともにQPSK変調方式におけるスムースな位相変位を実現できる。
【0067】
その他、本発明の要旨を変えない範囲において種々変形実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
11…シンボル生成回路、12…多相ローカル信号発振回路、13…位相選択ミキサ回路、14…正弦波生成回路、21…差動リング発振器、22a〜22d…パルス発振回路、23a〜23d…NMOSトランジスタ、24…位相選択回路、25…正弦波生成回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルベースバンド信号から位相変調の複数のシンボルのうち1つに対応する選択信号を生成するシンボル生成部と、
一定の角度位相した複数の信号を発生する差動リング発振器と、
前記シンボル生成部から出力される選択信号に基づき、前記差動リング発振器から出力される複数の信号から1つの信号を選択する複数の第1のスイッチ回路と、前記シンボル生成部から出力される選択信号に基づき、前記差動リング発振器から出力される複数の信号から前記第1のスイッチ回路により選択された信号から一定角度進んだ信号と遅れた信号を選択する複数の第2のスイッチ回路とを含む位相選択回路と、
前記位相選択回路から出力された複数の信号を合成する合成回路と
を具備することを特徴とする位相変調回路。
【請求項2】
デジタルベースバンド信号から位相変調の複数のシンボルのうち1つに対応する選択信号を生成するシンボル生成部と、
一定の角度位相した複数の信号を発生する差動リング発振器と、
前記差動リング発振器の前記複数の信号をそれぞれ取り出すノードに対応して設けられ、前記シンボル生成部から出力される選択信号に基づき、1つのパルス信号を発生する複数のパルス発生回路と、
前記差動リング発振器の前記複数のノードに対応して設けられ、前記複数のパルス発生回路のうちの1つから出力される前記パルス信号を前記ノードに注入する注入手段と、
前記差動リング発振器の前記複数のノードに接続され、前記シンボル生成部から供給される選択信号に基づき、前記複数のノードのうちの1つのノードから出力される信号、及びこの信号から一定角度進んだ信号と遅れた信号を選択する位相選択回路と、
前記位相選択回路から出力された複数の信号を合成する合成回路と
を具備することを特徴とする位相変調回路。
【請求項3】
前記差動リング発振器は、直列接続された複数の差動インバータ回路を含み、各差動インバータ回路は、ゲート幅が変化可能なラッチ回路を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の位相変調回路。
【請求項4】
前記ラッチ回路は、複数のラッチ回路と、これらラッチ回路を並列接続する複数のスイッチ回路を含むことを特徴とする請求項3記載の位相変調回路。
【請求項5】
前記合成回路は、前記位相選択ミキサから出力される位相が45°異なる3つの信号に基づき階段波を生成し、前記階段波のステップは1:√2:1に設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の位相変調回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−44265(P2012−44265A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181085(P2010−181085)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月2日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC 電子情報通信学会 2010年総合大会講演論文集」に発表
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】