説明

位相差フィルム、偏光板及び液晶表示装置

【課題】本発明は、所望のリターデーション値を有し、経時でのコントラストやカラーシフトが安定なセルロースエステルを含有する位相差フィルム、該位相差フィルムを用いた偏光板、及び液晶表示装置を提供することにある。
【解決手段】総アシル基置換度が2.0〜2.8であるセルロースエステルと、エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下の重合体と、多価カルボン酸エステル化合物とを含有することを特徴とする位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差フィルム、それを用いた偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリシクロオレフィンフィルム等は、液晶表示装置用の光学フィルムとして多く用いられている。
【0003】
セルロースエステルフィルムは光学的に透明性が高く、さらに複屈折性が低いことから、液晶表示装置の偏光膜の保護フィルム(以下、偏光板保護フィルムという)として主に使用され、ポリカーボネートフィルム、ポリシクロオレフィンフィルムはリターデーションを調整するための光学補償フィルムとして主に用いられてきた。
【0004】
光学補償フィルムでは、リターデーションとその波長分散性を制御するために複数枚の光学フィルムを組み合わせることが通常行われてきた。しかしながら複数枚の光学フィルムの組み合わせは、組み合わせ精度、工程数の増加等生産工程への負荷が大きく、少ない枚数での光学補償技術が検討されている。
【0005】
例えば非特許文献1では、ポリカーボネートフィルム、ポリシクロオレフィンフィルムでの1枚化技術が提案されている。しかしながら、これらの技術をもってしても、偏光板保護フィルムを兼ねる光学補償フィルムとしては、偏光膜であるポリビニルアルコールとの貼合性が不十分であり、セルロースエステルフィルムからなる偏光板保護フィルムは、現在でも液晶表示においては必須の光学フィルムと認識されている。
【0006】
そこで、この偏光板保護フィルムとして優れているセルロースエステルフィルムに、光学補償フィルムとしての機能を付与することが検討されてきた。
【0007】
もともとセルロースエステルフィルムは、複屈折性の低いことから偏光板保護フィルムとして使用されていたという経緯があり、その機能の付与は容易ではない。
【0008】
所望のリターデーション値を得るためにリターデーション上昇効果を持つ化合物をセルロースエステルフィルムに添加し、さらにそのフィルムを延伸するという技術(特許文献1、2)が提案されているが、経時でのコントラストやカラーシフトが安定しないという問題があった。
【特許文献1】特開2000−111914号公報
【特許文献2】特開2002−131538号公報
【非特許文献1】日本液晶学会誌 液晶「液晶表示素子用の種々の機能フィルム」特集号 第9巻第4号(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、所望のリターデーション値を有し、経時でのコントラストやカラーシフトが安定なセルロースエステルを含有する位相差フィルム、該位相差フィルムを用いた偏光板、及び液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0011】
1.総アシル基置換度が2.0〜2.8であるセルロースエステルと、エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下の重合体と、多価カルボン酸エステル化合物とを含有することを特徴とする位相差フィルム。
【0012】
2.前記エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下の重合体が、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上30000以下の重合体Xもしくは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体Yから選択されることを特徴とする前記1に記載の位相差フィルム。
【0013】
3.前記重合体Xが下記一般式(1)で表され、前記重合体Yが下記一般式(2)で表されることを特徴とする前記2に記載の位相差フィルム。
【0014】
一般式(1)
−[CH2−C(−R1)(−CO2R2)]m−[CH2−C(−R3)(−CO2R4−OH)−]n−[Xc]p
(式中、R1、R3は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R2は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。R4は−CH2−、−C24−または−C36−を表す。Xcは、[CH2−C(−R1)(−CO2R2)]または[CH2−C(−R3)(−CO2R4−OH)−]に重合可能なモノマー単位を表す。m、n及びpは、モル組成比を表す。ただしm≠0、n≠0、m+n+p=100である。)
一般式(2)
−[CH2−C(−R5)(−CO2R6)]k−[Yb]q
(式中、R5は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R6は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Ybは、[CH2−C(−R5)(−CO2R6)]と共重合可能なモノマー単位を表す。k及びqは、それぞれモル組成比を表す。ただしk≠0、k+q=100である。)
4.前記多価カルボン酸エステル化合物がクエン酸エステル化合物であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【0015】
5.23℃55%RHの環境下における下記式で表される面内リターデーションRoが20≦Ro≦70nmで、かつ厚み方向のリターデーションRthが70≦Rth≦400nmであることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【0016】
Ro=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内で遅相軸に直交する方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
6.2枚の偏光板保護フィルムで偏光子を挟んだ偏光板において、少なくとも一方の偏光板保護フィルムが前記1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルムであることを特徴とする偏光板。
【0017】
7.液晶セルの少なくとも一方の面に前記6に記載の偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、所望のリターデーション値を有し、経時でのコントラストやカラーシフトが安定なセルロースエステルを含有する位相差フィルム、該位相差フィルムを用いた偏光板、及び液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の請求項1に係る位相差フィルムは、総アシル基置換度が2.0〜2.8であるセルロースエステルと、エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下の重合体と、多価カルボン酸エステル化合物とを含有することを特徴とする位相差フィルムであり、所望のリターデーション値を有し、経時でのコントラストやカラーシフトが安定な位相差フィルムである。
【0021】
請求項2に係る位相差フィルムは、前記エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下の重合体が、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上30000以下の重合体Xもしくは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体Yから選択される化合物であることを特徴とする位相差フィルムである。
【0022】
更に、請求項4に係る位相差フィルムは、前記多価カルボン酸エステル化合物がクエン酸エステル化合物であることを特徴とする位相差フィルムである。
【0023】
本発明の前記エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下の重合体は、延伸方向に対して負の複屈折性を示すことから、リターデーションの調整のために使用されることはあったが、本発明の特定のセルロースエステル、及び多価カルボン酸エステル化合物との併用により経時でのコントラストやカラーシフトが極めて安定化することが新たに見出されたものである。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
《エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重合体》
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重合体(以下、本発明では、アクリル系重合体と称する)としては、セルロースエステルフィルムに含有させた場合、機能として延伸方向に対して負の複屈折性を示せば特に構造が限定されるものではないが、エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下である重合体である。
【0026】
該重合体の重量平均分子量が500以上30000以下のもので該重合体の組成を制御することで、セルロースエステルと該重合体との相溶性を良好にすることが出来る。
【0027】
特に、好ましくは重量平均分子量が500以上10000以下のアクリル系重合体であれば、上記に加え、製膜後のセルロースエステルフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0028】
該重合体は、重量平均分子量が500以上30000以下であるから、オリゴマーから低分子量ポリマーの間にあると考えられるものである。このような重合体を合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量を余り大きくしない方法で出来るだけ分子量を揃えることの出来る方法を用いることが望ましい。
【0029】
更に、本発明のセルロースエステルフィルムは、分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと、分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上30000以下の重合体X、または芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaと、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体Yであることが好ましい。
【0030】
〈重合体X、重合体Y〉
本発明に係るRo及びRthを調整する方法としては、分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと、分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上30000以下の重合体X、そして、より好ましくは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaと、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体Yを含有したセルロースエステルフィルムであることが好ましい。
【0031】
本発明の重合体Xは、分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上、30000以下の重合体である。
【0032】
好ましくは、Xaは分子内に芳香環と水酸基を有しないアクリルまたはメタクリルモノマー、Xbは分子内に芳香環を有せず水酸基を有するアクリルまたはメタクリルモノマーである。
【0033】
本発明に係る好ましい重合体Xは、下記一般式(1)で表される。
【0034】
一般式(1)
−[CH2−C(−R1)(−CO2R2)]m−[CH2−C(−R3)(−CO2R4−OH)−]n−[Xc]p
上記一般式(1)において、R1、R3は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R2は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。R4は−CH2−、−C24−または−C36−を表す。Xcは、[CH2−C(−R1)(−CO2R2)]または[CH2−C(−R3)(−CO2R4−OH)−]に重合可能なモノマー単位を表す。m、n及びpは、モル組成比を表す。ただしm≠0、n≠0、m+n+p=100である。
【0035】
本発明に係る重合体Xを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるが、これに限定されない。
【0036】
重合体Xを構成するモノマー単位において、水酸基とは、水酸基のみならずエチレンオキシド連鎖を有する基を含む。
【0037】
分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることが出来る。中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル(i−、n−)であることが好ましい。
【0038】
分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbは、水酸基を有するモノマー単位として、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることが出来、好ましくは、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)及びメタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)である。
【0039】
Xcとしては、Xa、Xb以外のモノマーで、かつ共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば、特に制限はない。
【0040】
Xa及びXbのモル組成比m:nは99:1〜65:35の範囲が好ましく、更に好ましくは95:5〜75:25の範囲である。Xcのpは0〜10である。Xcは複数のモノマー単位であってもよい。
【0041】
Xaのモル組成比が多いと、セルロースエステルとの相溶性が良化するがフィルム厚み方向のリターデーション値Rthが大きくなる。Xbのモル組成比が多いと上記相溶性が悪くなるが、Rthを低減させる効果が高い。
【0042】
また、Xbのモル組成比が上記範囲を超えると製膜時にヘイズが出る傾向がある。
【0043】
重合体Xの分子量は、重量平均分子量が5000以上30000以下であることがより好ましく、更に好ましくは8000以上25000以下である。
【0044】
重量平均分子量を5000以上とすることにより、セルロースエステルフィルムの、高温高湿下における寸法変化が少ない、偏光板保護フィルムとしてカールが少ない等の利点が得られ好ましい。
【0045】
重量平均分子量が30000以下とした場合は、セルロースエステルとの相溶性がより向上し、高温高湿下においてのブリードアウト、さらには製膜直後でのヘイズの発生が抑制される。
【0046】
本発明に係る重合体Xの重量平均分子量は、公知の分子量調節方法で調整することが出来る。そのような分子量調節方法としては、例えば、四塩化炭素、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸オクチル等の連鎖移動剤を添加する方法等が挙げられる。
【0047】
また、重合温度は、通常、室温から130℃、好ましくは50℃から100℃で行われるが、この温度または重合反応時間を調整することで可能である。
【0048】
重量平均分子量の測定方法は、下記の方法により求めることができる。
【0049】
(平均分子量測定方法)
重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0050】
測定条件は以下の通りである。
【0051】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0052】
本発明に係る重合体Yは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体である。重量平均分子量500以上であれば重合体に含まれる未反応の残存モノマーが減少し好ましい。
【0053】
また、3000以下とすることは、リターデーション値Rth低下性能を維持するために好ましい。Yaは、好ましくは芳香環を有さないアクリルまたはメタクリルモノマーである。
【0054】
本発明に係る重合体YYは、下記一般式(2)で表される。
【0055】
一般式(2)
−[CH2−C(−R5)(−CO2R6)]k−[Yb]q
上記一般式(2)において、R5は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R6は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Ybは、[CH2−C(−R5)(−CO2R6)]と共重合可能なモノマー単位を表す。k及びqは、それぞれモル組成比を表す。ただしk≠0、k+q=100である。
【0056】
Ybは、Yaである[CH2−C(−R5)(−CO2R6)]と共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はない。Ybは複数であってもよい。k+q=100、qは好ましくは0〜30である。
【0057】
芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られる重合体Yを構成するエチレン性不飽和モノマーYaは、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたもの;不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることが出来る。
【0058】
Ybは、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はないが、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル等が好ましい。Ybは複数であってもよい。
【0059】
重合体X、Yを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量を余り大きくしない方法で、かつ出来るだけ分子量を揃えることの出来る方法を用いることが望ましい。
【0060】
かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、更に特開2000−128911号または同2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、或いは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いられる。
【0061】
特に、重合体Yは、分子中にチオール基と2級の水酸基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用する重合方法が好ましい。この場合、重合体Yの末端には、重合触媒及び連鎖移動剤に起因する水酸基、チオエーテルを有することとなる。この末端残基により、重合体Yとセルロースエステルとの相溶性を調整することができる。
【0062】
重合体X及び重合体Yの水酸基価は、30〜150[mgKOH/g]であることが好ましい。
【0063】
(水酸基価の測定方法)
水酸基価の測定は、JIS K 0070(1992)に準ずる。この水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。
【0064】
具体的には試料Xg(約1g)をフラスコに精秤し、これにアセチル化試薬(無水酢酸20mlにピリジンを加えて400mlにしたもの)20mlを正確に加える。フラスコの口に空気冷却管を装着し、95〜100℃のグリセリン浴にて加熱する。1時間30分後、冷却し、空気冷却管から精製水1mlを加え、無水酢酸を酢酸に分解する。
【0065】
次に電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
【0066】
更に空試験として、試料を入れないで滴定し、滴定曲線の変曲点を求める。水酸基価は、次の式によって算出する。
【0067】
水酸基価={(B−C)×f×28.05/X}+D
式中、Bは空試験に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、Cは滴定に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Dは酸価、また、28.05は水酸化カリウムの1mol量56.11の1/2を表す。
【0068】
上述の重合体X、重合体Yは何れもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0069】
重合体Xと重合体Yのセルロースエステルフィルム中での含有量は、下記式(i)を満足する範囲であることが好ましい。重合体Xの含有量をXg(質量%=(重合体Xの質量/セルロースエステルの質量)×100)、重合体Yの含有量をYg(質量%)とすると、
式(i) 1≦Xg+Yg≦20(質量%)
式(i)の(Xg+Yg)の好ましい範囲は、2〜10質量%である。
【0070】
重合体Xと重合体Yは、後述するドープ液を構成する素材として直接添加、溶解するか、もしくはセルロースエステルを溶解する有機溶媒に予め溶解した後ドープ液に添加することが出来る。
【0071】
《多価カルボン酸エステル化合物》
本発明の多価カルボン酸エステル化合物は2価以上、好ましくは2価〜20価のの多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。中でも本発明では、後述するクエン酸エステル化合物を用いることが好ましい。
【0072】
本発明に用いられる多価カルボン酸は次の一般式(3)で表される。
【0073】
一般式(3)
2(COOH)m(OH)n
(但し、R2は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることが出来る。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
【0074】
本発明の多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては特に制限はなく公知のアルコール、フェノール類を用いることが出来る。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることが出来る。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることが出来る。
【0075】
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基をモノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0077】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることが出来る。
【0078】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。
【0079】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、あるいはメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上もつ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
【0080】
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜2000の範囲であることが好ましく、300〜1000の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0081】
本発明の多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
【0082】
本発明に用いられる多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、リターデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
【0083】
(酸価、水酸基価)
酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸基価とは、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。酸価及び水酸基価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
【0084】
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられるが、下記一般式(4)で示されるクエン酸エステル化合物が好ましい。
【0085】
【化1】

【0086】
一般式(4)において、R1の脂肪族アシル基としては特に制限はないが、好ましくは炭素数1〜12であり、特に好ましくは炭素数1〜5である。具体的にはホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、バレリル、パルミトイル、オレイル等を例示することが出来る。またR2のアルキル基としては特に制限はなく、また直鎖状、分岐を有するもののいずれでもよいが、好ましくは炭素数1〜24のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。特に酢酸セルロースエステル系樹脂の可塑剤として好ましいものとしては、R1が水素原子であり、R2がメチル基またはエチル基であるもの、並びにR1がアセチル基であり、R2がメチル基またはエチル基であるものである。
【0087】
〈R1が水素原子であるクエン酸エステル化合物の製法〉
本発明に用いられるクエン酸エステル化合物の内、R1が水素原子であるものは、公知の方法を応用して製造することが出来る。公知の方法としては、例えば英国特許公報931,781号に記載のフタル酸ハーフエステルとα−ハロゲン化酢酸アルキルエステルからフタリルグリコール酸エステルを製造する方法が挙げられる。具体的には、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウムまたはクエン酸(以下、これらをクエン酸原料と略す。)、好ましくはクエン酸三ナトリウムの1モルに対し、R2に対応するアルキルエステルであるα−モノハロゲン化酢酸アルキル、例えばモノクロル酢酸メチル、モノクロル酢酸エチル等を化学量論以上の量、好ましくは1〜10モル、更に好ましくは2〜5モルを反応させる。反応系に水分が存在すると目的化合物の収率が低下するので、原料は出来る限り無水和物を用いる。反応にはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン等の鎖状若しくは環状脂肪族第3アミンを触媒として用いることが出来、中でもトリエチルアミンが好ましい。触媒の使用量は、クエン酸原料1モルに対し、0.01〜1.0モル、好ましくは0.2〜0.5モルの範囲である。反応温度は60〜150℃で1〜24時間反応させる。反応溶媒は特に必要ではないが、トルエン、ベンゼン、キシレン、メチルエチルケトン等を使用することが出来る。反応後は、例えば水を加えて副生物や触媒を除去し、油層を水洗したのち、蒸留により、未反応の原料化合物と分離し目的物を単離することが出来る。
【0088】
〈R1が脂肪族アシル基であるクエン酸エステル化合物の製法〉
1が脂肪族アシル基であり、R2がアルキル基である本発明のクエン酸エステル化合物は前記のR1が水素原子であるクエン酸エステル化合物を用いて製造することが出来る。即ち該クエン酸エステル化合物1モルに対しR1の脂肪族アシル基に相当するハロゲン化アシル、例えば塩化ホルミル、塩化アセチル等を1〜10モル反応させる。触媒としては、塩基性のピリジン等を該クエン酸エステル化合物1モルに対し0.1〜2モルを用いることが出来る。反応は無溶媒でよく、温度80〜100℃にて1〜5時間行う。反応後、反応混合物に水及び水に不溶の有機溶媒、例えばトルエンを加えて目的物を有機溶媒に溶解させ、水層と有機溶媒層を分離し、有機溶媒層を水洗したのち、蒸留等の常法により目的物を単離することが出来る。
【0089】
またクエン酸エステル化合物のフィルム中の含有量は1〜20質量%が好ましく、特に2〜10質量%が好ましい。
【0090】
《セルロースエステル》
本発明に用いられるセルロースエステルは、総アシル置換度が2.0〜2.8であることが特徴であり、更にセルロースエステルの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが1.4〜3.0であることが好ましい。
【0091】
本発明に用いられるセルロースエステルは、セルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等や、特開平10−45804号、同8−231761号、米国特許第2,319,052号等に記載されているようなセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを用いることが出来る。上記記載の中でも、特に好ましく用いられるセルロースの低級脂肪酸エステルはセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートである。
【0092】
最も好ましいセルロースの低級脂肪酸エステルは炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(i)及び(ii)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロースエステルである。
【0093】
式(i) 2.0≦X+Y≦2.8
式(ii) 0≦X≦2.5
この内特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することが出来る。アセチル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することが出来る。
【0094】
総アシル置換度が小さい方が位相差を大きくし易いが、寸法変化、ヘイズ、吸水性が劣化し易くなる。総アシル置換度が大き過ぎると、位相差が発現し難くなる。
【0095】
本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が1.4〜3.0であることが好ましい。より好ましくは1.4〜2.2の範囲である。Mw/Mnをこの範囲にすることで、セルロースエステルフィルムを延伸した時の位相差の発現性が向上し、延伸時の白濁などが改善される。また、陽電子消滅寿命法により求められる自由体積半径、全自由体積パラメータも向上する。Mw/Mnの値が小さい方が分子量の分布が小さいため、ポリマー分子が配向しやすく、また空隙の少ない均質なフィルムになり易いためと考えられる。
【0096】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で測定することが出来る。これらを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出し、その比(Mw/Mn)を計算することが出来る。
【0097】
セルロースエステルの分子量は、数平均分子量(Mn)で60000〜200000のものが好ましく、70000〜170000のものが更に好ましい。セルロースエステルの分子量が大きいと、湿度によるリターデーション値の変化率が小さくなるが、分子量が大きすぎると、セルロースエステルの溶解液の粘度が高くなり過ぎ、生産性が低下する。
【0098】
高速液体クロマトグラフィーを用いた数平均分子量、重量平均分子量の測定条件は以下の通りである。
【0099】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に得ることが好ましい。
【0100】
セルロースエステルは綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を原料として合成されたセルロースエステルを単独或いは混合して用いることが出来る。特に綿花リンター(以下、単にリンターとすることがある)から合成されたセルロースエステルを単独或いは混合して用いることが好ましい。
【0101】
本発明の位相差フィルムには必要に応じて、更に可塑剤、紫外線吸収剤、染料やマット剤、酸化防止剤等の添加剤を添加しても良い。
【0102】
本発明に用いることの出来る多価カルボン酸エステル化合物以外の可塑剤としては特に限定されないが、例えばリン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、エステル系可塑剤、多価アルコールエステル化合物などを好ましく用いることが出来る。リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、グリコレート系可塑剤ではブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることが出来る。
【0103】
エステル系可塑剤は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するエステル系可塑剤を用いることが出来る。好ましいエステル系可塑剤としては、下記一般式(5)で表されるエステル系可塑剤が好ましく用いられる。
【0104】
一般式(5) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは0以上の整数を表す。)
一般式(5)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0105】
本発明で用いられるエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0106】
本発明に用いられるエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0107】
また、エステル系可塑剤の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用出来る。
【0108】
エステル系可塑剤の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0109】
本発明に用いられるエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは250〜2000、より好ましくは300〜1500の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0110】
以下、エステル系可塑剤の合成例を示す。
【0111】
〈エステル系可塑剤サンプルNo.1〉
反応容器に、アジピン酸365部(2.5モル)、1,2−プロピレングリコール418部(5.5モル)、安息香酸610部(5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.30部を一括して仕込み窒素気流中で撹拌下、還流凝縮器を付して過剰の1価アルコールを還流させながら、酸価が2以下になるまで130〜250℃で加熱を続け生成する水を連続的に除去した。次いで200〜230℃で1.33×104〜最終的に3.99×102Pa以下の減圧下、留出分を除去し、この後濾過して次の性状を有するエステル系可塑剤を得た。
【0112】
粘度(25℃、mPa・s);815
酸価 ;0.4
〈エステル系可塑剤サンプルNo.2〉
反応容器に、アジピン酸365部(2.5モル)、安息香酸610部(5モル)、ジエチレングリコール583部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.45部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有するエステル系可塑剤を得た。
【0113】
粘度(25℃、mPa・s);90
酸価 ;0.05
〈エステル系可塑剤サンプルNo.3〉
反応容器にアジピン酸365部(2.5モル)、安息香酸610部(5モル)、ジプロピレングリコール737部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.40部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有するエステル系可塑剤を得た。
【0114】
粘度(25℃、mPa・s);134
酸価 ;0.03
以下に、エステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0115】
【化2】

【0116】
【化3】

【0117】
本発明に用いられるエステル系可塑剤の含有量は、セルロースエステルフィルム中に1〜20質量%含有することが好ましく、特に3〜11質量%含有することが好ましい。
【0118】
次に、多価アルコールエステル化合物としては、2価以上の多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、好ましくは3価〜20価の多価アルコールである。
【0119】
本発明に用いられる多価アルコールエステル化合物の多価アルコールは次の一般式(6)で表される。
【0120】
一般式(6) R1−(OH)n
(但し、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。)
好ましい多価アルコールの例としては、以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール、などを挙げることが出来る。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、キシリトール等であることが好ましい。
【0121】
上記多価アルコールエステル化合物に用いられるモノカルボン酸としては特に制限はなく公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸などを用いることが出来る。特に芳香族モノカルボン酸を用いるとリターデーションの制御が容易となり、透湿性、保留性も向上させる点で好ましい。
【0122】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0123】
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0124】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることが出来る。
【0125】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。
【0126】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基あるいはメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上もつ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。特に安息香酸であることが好ましい。
【0127】
多価アルコールエステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1500の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0128】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
【0129】
多価アルコールエステル化合物の水酸基価は10mgKOH/g以下であることが好ましく、6mgKOH/g以下であることが更に好ましい。水酸基価が小さい方が高温高湿における寸法変化が良い。また、リターデーションの環境変動も抑制される。
【0130】
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
【0131】
【化4】

【0132】
【化5】

【0133】
【化6】

【0134】
【化7】

【0135】
位相差フィルムに含まれる上記可塑剤の総含有量は、3〜20質量%が好ましい。
【0136】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明においては、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0137】
本発明の位相差フィルムに添加される紫外線吸収剤は、分子内に芳香族環を2つ以上有する紫外線吸収剤が、特に好ましく用いられる。
【0138】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましい。本発明に用いられる紫外線吸収剤の具体例として、例えばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のTINUVIN109、TINUVIN171、TINUVIN326、TINUVIN327、TINUVIN328等を好ましく用いることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0139】
紫外線吸収剤は単独で用いても良いし、2種以上の混合物であっても良い。
【0140】
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることが出来、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0141】
紫外線吸収剤の添加方法はアルコールやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にデゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0142】
紫外線吸収剤の使用量は化合物の種類、使用条件などにより一様ではないが、セルロースエステルフィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、セルロースエステルフィルムに対して0.5〜6.0質量%が好ましく、0.6〜2.0質量%が更に好ましい。
【0143】
本発明には必要に応じてマット剤として酸化珪素等の微粒子を加えてもよい。マット剤微粒子は有機物によって表面処理されていることが、フィルムのヘイズを低下出来るため好ましい。
【0144】
表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどが挙げられる。微粒子の平均径が大きい方がマット効果は大きく、平均径の小さい方は透明性に優れるため、本発明においては、微粒子の一次粒子の平均径は5〜50nmが好ましく、更に好ましくは、7〜20nmである。
【0145】
酸化珪素の微粒子としては特に限定されないが、例えばアエロジル(株)製のAEROSIL200、200V、300、R972、R972V、R972CF、R974、R202、R805、R812、OX50、TT600などが挙げられ、好ましくはAEROSIL 200、200V、R972、R972V、R974、R202、R805、R812などが挙げられる。
【0146】
このほか、酸化防止剤、酸捕捉剤、染料などを必要に応じて適宜含有させることが出来る。
【0147】
各種添加剤はセルロースエステルが溶解しているドープ液にバッチ添加しても良いし、添加剤溶解液を別途用意してインライン添加しても良い。特にマット剤は濾過材への負荷を減らす為に一部または全量をインライン添加をすることが好ましい。
【0148】
添加剤溶解液をインライン添加する場合は、ドープとの混合性を良くするため、少量のセルロースエステルを溶解するのが好ましい。好ましいセルロースエステルの量は、溶剤100質量部に対して1〜10質量部で、より好ましくは、3〜5質量部である。
【0149】
本発明において、セルロースエステルを溶剤に溶解させたドープ液と、各種添加剤と少量のセルロースエステルとを溶解させた溶液をインライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。インラインミキサーを用いる場合、高圧下で濃縮溶解することが好ましく、加圧容器の種類は特に問うところではなく、所定の圧力に耐えることが出来、加圧下で加熱、攪拌が出来ればよい。加圧容器はそのほか圧力計、温度計などの計器類を適宜配設する。
【0150】
〈自由体積半径、全自由体積パラメータ〉
本発明の位相差フィルムは、陽電子消滅寿命法により求められる自由体積半径が0.250〜0.310nmである位相差フィルムであることが好ましい。更に、全自由体積パラメータが1.0〜2.0である位相差フィルムであることが好ましい。
【0151】
本発明における自由体積は、セルロースエステル分子鎖に占有されていない空隙部分を表している。これは、陽電子消滅寿命法を用いて測定することが出来る。具体的には、陽電子を試料に入射してから消滅するまでの時間を測定し、その消滅寿命から原子空孔や自由体積の大きさ、数濃度等に関する情報を非破壊的に観察することにより求めることが出来る。
【0152】
(陽電子消滅寿命法による自由体積半径と自由体積パラメータの測定)
下記測定条件にて陽電子消滅寿命と相対強度を測定した。
【0153】
(測定条件)
陽電子線源:22NaCl(強度1.85MBq)
ガンマ線検出器:プラスチック製シンチレーター+光電子増倍管
装置時間分解能:290ps
測定温度:23℃
総カウント数:100万カウント
試料サイズ:20mm×15mmにカットした切片を20枚重ねて約2mmの厚みにした。試料は測定前に24時間真空乾燥を行った。
【0154】
照射面積:約10mmφ
1チャンネルあたりの時間:23.3ps/ch
上記の測定条件に従って、陽電子消滅寿命測定を実施し、非線形最小二乗法により3成分解析して、消滅寿命の小さいものから、τ1、τ2、τ3とし、それに応じた強度をI1,I2,I3(I1+I2+I3=100%)とした。最も寿命の長い平均消滅寿命τ3から、下記式を用いて自由体積半径R3(nm)を求めた。τ3が空孔での陽電子消滅に対応し、τ3が大きいほど空孔サイズが大きいと考えられている。
【0155】
τ3=(1/2)〔1−{R3/(R3+0.166)}+(1/2π)sin{2πR3/(R3+0.166)}〕-1
ここで、0.166(nm)は空孔の壁から浸出している電子層の厚さに相当する。
【0156】
更に、全自由体積パラメータVPは、下記式により求めた。
【0157】
V3={(4/3)π(R3)3}(nm3
VP=I3(%)×V3(nm3
ここでI3(%)は空孔の相対的な数濃度に相当するため、VPは相対的な空孔量に相当する。
【0158】
以上の測定を2回繰り返し、その平均値を求めた。
【0159】
陽電子消滅寿命法は、例えばMATERIAL STAGE vol.4,No.5 2004 p21−25、東レリサーチセンター THE TRC NEWS No.80(Jul.2002)p20−22、「ぶんせき,1988,pp.11−20」に「陽電子消滅法による高分子の自由体積の評価」が掲載されており、これらを参考にすることが出来る。
【0160】
本発明に用いられる位相差フィルムの自由体積半径は、0.250〜0.310nmであることが好ましく、更に好ましい範囲は、0.270〜0.305nmである。自由体積半径が0.250nm未満であったり、全自由体積パラメータが1.0未満であるセルロースエステル系位相差フィルムを製造するのは工業的に困難であったりすることがある。また、自由体積半径が0.250〜0.310nmである本発明の位相差フィルムでは、更に本発明の効果が優れるため好ましい。また、全自由体積パラメータの好ましい範囲は1.0〜2.0であり、更に好ましい範囲は1.2〜1.8である。全自由体積パラメータが1.8未満であると、リターデーション斑も起こりにくくなる。
【0161】
本発明の位相差フィルムの自由体積半径及び全自由体積パラメータを所定の範囲にする方法は特に限定はされないが、例えば、下記の方法によってこれらを制御することが出来る。
【0162】
陽電子消滅寿命法により求められる自由体積半径が0.250〜0.310nm、全自由体積パラメータ1.0〜2.0である位相差フィルムは、少なくとも本発明で用いられる重合体と多価カルボン酸エステル化合物とセルロースエステルとを含有するドープを流延してウェブを作製し、溶媒を含んだ状態で延伸した後、残留溶媒量が0.3%未満となるまで乾燥させてセルロースエステルフィルムを得て、これを更に、105〜155℃で、雰囲気置換率12回/時間以上、好ましくは12〜45回/時間の雰囲気下で搬送しながら処理することによって、所定の自由体積半径及び全自由体積パラメータである位相差フィルムを得ることが出来る。
【0163】
雰囲気置換率は、熱処理室の雰囲気容量をV(m3)、Fresh−air送風量をFA(m3/hr)とした場合、下式によって求められる単位時間あたり熱処理室の雰囲気をFresh−airで置換する回数である。Fresh−airは熱処理室に送風される風のうち、循環再利用している風ではなく、揮発した溶媒若しくは可塑剤などを含まない、若しくはそれらが除去された新鮮な風のことを意味している。
【0164】
雰囲気置換率=FA/V(回/時間)
更に温度が155℃を超えると、本発明の効果は得られず、105℃を下回っても本発明の効果は得られない。処理温度としては、110〜150℃であることが更に好ましい。更に、該処理部において12回/時間以上の雰囲気置換率に維持された雰囲気下で処理されることが必要であり、12回/時間未満では、本発明の効果が得られない。
【0165】
これは12回/時間以上の雰囲気置換率では、位相差フィルムから揮発した可塑剤による雰囲気中の可塑剤濃度を十分に低減することが出来、フィルムへの再付着が低減される。これが本発明の効果を得ることに寄与しているものと推測している。特に、本発明で用いられる重合体と多価カルボン酸系化合物を併用することによってこの熱処理の際の揮発が抑制されることも、本発明の効果を得ることに寄与しているものと考えられる。
【0166】
通常の乾燥工程では雰囲気置換率は10回/時間以下で行われる。置換率を必要以上に増加させるとコストが高くなるため好ましくなく、また、ウェブがばたつくことにより、面内リターデーション斑が増加する傾向があるため、特に位相差フィルムを製造する際は高くすることは好ましくないが、十分に乾燥が終了し、残留溶媒量が低減した後であれば、雰囲気置換率を挙げることが出来る。しかしながら、45回より多くなると空調装置コストが極端に増大するため実用的でない。この条件下における処理時間は1分〜1時間が好ましい。1分未満では自由体積半径を所定の範囲にすることは難しく、1時間以下ではこの処理によるリターデーション値の変動が少ないため好ましい。
【0167】
更に、この処理工程において、厚み方向に加圧処理することも自由体積半径及び自由体積パラメータをより好ましい範囲に制御することが出来る。好ましい圧力は0.5〜10kPaである。圧力をかける際の残留溶媒量は0.3%未満であることが望ましい。残留溶媒量の多いところ、0.3%以上では自由体積半径を十分に低減することは出来ない。
【0168】
このような処理を行っていない位相差フィルムでは、通常、自由体積半径が0.315より大きくなる。
【0169】
〈位相差フィルムの製造方法〉
次に、本発明のセルロースエステルを含有する位相差フィルムの製造方法について説明する。
【0170】
本発明の位相差フィルムの製造は、セルロースエステル及び前記重合体や可塑剤などの添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープをベルト状若しくはドラム状の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸する工程、更に乾燥する工程、得られたフィルムを更に熱処理する工程、冷却後巻き取る工程により行われる。本発明の位相差フィルムは固形分中に好ましくはセルロースエステルを70〜95質量%含有するものである。
【0171】
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃度が高い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減出来て好ましいが、セルロースエステルの濃度が高過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0172】
本発明のドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。そのため、セルロースエステルのアシル基置換度によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えばアセトンを溶剤として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶剤となる。
【0173】
本発明に用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
【0174】
また、本発明に用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。
【0175】
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることが出来る。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱出来る。溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0176】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0177】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0178】
若しくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることが出来る。
【0179】
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題がある。このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0180】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することが出来るが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
【0181】
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にセルロースエステルフィルムを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。より好ましくは100個/cm2以下であり、更に好ましくは50個/m2以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm2以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0182】
ドープの濾過は通常の方法で行うことが出来るが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
【0183】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0184】
ここで、ドープの流延について説明する。
【0185】
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることが出来る。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤が沸騰して発泡しない温度以下に設定される。温度が高い方がウェブの乾燥速度が速く出来るので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。好ましい支持体温度としては0〜100℃で適宜決定され、5〜30℃が更に好ましい。或いは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は溶媒の蒸発潜熱によるウェブの温度低下を考慮して、溶媒の沸点以上の温風を使用しつつ、発泡も防ぎながら目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。特に、流延から剥離するまでの間で支持体の温度及び乾燥風の温度を変更し、効率的に乾燥を行うことが好ましい。
【0186】
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0187】
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0188】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
尚、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0189】
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量が0.5質量%以下となるまで乾燥される。
【0190】
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0191】
流延支持体から剥離する際の剥離張力は50〜300N/mであることが好ましい。
【0192】
本発明に係る位相差フィルムを作製する為の延伸工程(テンター工程ともいう)の一例を、図2を用いて説明する。
【0193】
図2において、工程Aでは、図示されていないウェブ搬送工程D0から搬送されてきたウェブを把持する工程であり、次の工程Bにおいて、図1に示すような延伸角度でウェブが幅手方向(ウェブの進行方向と直交する方向)に延伸され、工程Cにおいては、延伸が終了し、ウェブを把持したまま搬送する工程である。
【0194】
流延支持体からウェブを剥離した後から工程B開始前及び/または工程Cの直後に、ウェブ幅方向の端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。特に、A工程開始直前にウェブ端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。幅手方向に同一の延伸を行った際、特に工程B開始前にウェブ端部を切除した場合とウェブ端部を切除しない条件とを比較すると、前者がより配向角の分布を改良する効果が得られる。
【0195】
これは、残留溶媒量の比較的多い剥離から幅手延伸工程Bまでの間での長手方向の意図しない延伸を抑制した効果であると考えられる。
【0196】
テンター工程において、配向角分布を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
【0197】
尚、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することが好ましい。また、二軸延伸を行う場合にも同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。
【0198】
金属支持体より剥離したウェブを乾燥させながら搬送し、更にウェブの両端をピン或いはクリップ等で把持するテンター方式で幅方向に延伸を行うことが本発明の効果を得るために特に好ましく、これによって所定の位相差を付与することが出来る。この時幅方向のみに延伸してもよいし、同時2軸延伸することも好ましい。好ましい延伸倍率は1.05〜2倍が好ましく、好ましくは1.15〜1.5倍である。同時2軸延伸の際に縦方向に収縮させてもよく、0.8〜0.99、好ましくは0.9〜0.99となるように収縮させてもよい。好ましくは、横方向延伸及び縦方向の延伸若しくは収縮により面積が1.12倍〜1.44倍となっていることが好ましく、1.15倍〜1.32倍となっていることが好ましい。これは縦方向の延伸倍率×横方向の延伸倍率で求めることが出来る。
【0199】
また、本発明における「延伸方向」とは、延伸操作を行う場合の直接的に延伸応力を加える方向という意味で使用する場合が通常であるが、多段階に二軸延伸される場合に、最終的に延伸倍率の大きくなった方(即ち、通常遅相軸となる方向)の意味で使用されることもある。
【0200】
ウェブを幅手方向に延伸する場合には、ウェブの幅手方向で光学遅相軸の分布(以下、配向角分布)が悪くなることはよく知られている。RthとRoの値を一定比率とし、かつ、配向角分布を良好な状態で幅手延伸を行うため、工程A、B、Cで好ましいウェブ温度の相対関係が存在する。工程A、B、C終点でのウェブ温度をそれぞれTa℃、Tb℃、Tc℃とすると、Ta≦Tb−10であることが好ましい。また、Tc≦Tbであることが好ましい。Ta≦Tb−10かつ、Tc≦Tbであることが更に好ましい。
【0201】
工程Bでのウェブ昇温速度は、配向角分布を良好にするために、0.5〜10℃/秒の範囲が好ましい。
【0202】
工程Bでの延伸時間は、短時間である方が好ましい。但し、ウェブの均一性の観点から、最低限必要な延伸時間の範囲が規定される。具体的には1〜10秒の範囲であることが好ましく、4〜10秒がより好ましい。また、工程Bの温度は40〜180℃、好ましくは100〜160℃である。
【0203】
上記テンター工程において、熱伝達係数は一定でもよいし、変化させてもよい。熱伝達係数としては、41.9〜419×103J/m2hrの範囲の熱伝達係数を持つことが好ましい。更に好ましくは、41.9〜209.5×103J/m2hrの範囲であり、41.9〜126×103J/m2hrの範囲が最も好ましい。
【0204】
上記工程Bでの幅手方向への延伸速度は、一定で行ってもよいし、変化させてもよい。延伸速度としては、50〜500%/minが好ましく、更に好ましくは100〜400%/min、200〜300%/minが最も好ましい。
【0205】
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、ウェブの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。上記温度分布を少なくすることにより、ウェブの幅手での温度分布も小さくなることが期待出来る。
【0206】
工程Cに於いて、幅方向に緩和することが好ましい。具体的には、前工程の延伸後の最終的なウェブ幅に対して95〜99.5%の範囲になるようにウェブ幅を調整することが好ましい。
【0207】
テンター工程で処理した後、更に後乾燥工程(以下、工程D1)を設けるのが好ましい。50〜160℃で行うのが好ましい。更に好ましくは、80〜140℃の範囲であり、最も好ましくは110〜130℃の範囲である。
【0208】
工程D1で、ウェブの幅方向の雰囲気温度分布が少ないことは、ウェブの均一性を高める観点から好ましい。±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0209】
工程D1でのウェブ搬送張力は、ドープの物性、剥離時及び工程D0での残留溶媒量、工程D1での温度などに影響を受けるが、120〜200N/mが好ましく、140〜200N/mが更に好ましい。140〜160N/mが最も好ましい。
【0210】
工程D1での搬送方向へウェブの伸びを防止する目的で、テンションカットロールを設けることが好ましい。
【0211】
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことが出来るが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
【0212】
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は30〜160℃で段階的に高くしていくことが好ましい。
【0213】
本発明では、乾燥終了後、前述の所定の熱処理を行うことによって自由体積或いは全自由体積パラメータが所定の範囲となるように制御することが好ましい。
【0214】
本発明の位相差フィルムを作製するためには、乾燥後の熱処理工程にてフィルムに0.5kPa以上10kPa以下の圧力を厚さ方向に付与することが好ましく、例えばニップロールにより圧力を均一に加えることが好ましい。厚さ方向に圧力を付与する際は十分に乾燥が終了していることが好ましく、その際に0.5kPa以上10kPa以下の圧力をフィルム両面から加えることにより、位相差フィルムの自由体積や全自由体積パラメータを制御することが出来る。具体的には平行な二本のニップロールでフィルムに圧力をかける方法である。またカレンダーロールのような方法によってもよい。加圧する際の温度は105〜155℃であることが好ましい。
【0215】
所定の熱処理の後、巻き取り前にスリッターを設けて端部を切り落とすことが良好な巻姿を得るため好ましい。更に、幅手両端部にはナーリング加工をすることが好ましい。
【0216】
ナーリング加工は、加熱されたエンボスロールを押し当てることにより形成することが出来る。エンボスロールには細かな凹凸が形成されており、これを押し当てることでフィルムに凹凸を形成し、端部を嵩高くすることが出来る。
【0217】
本発明の位相差フィルムの幅手両端部のナーリングの高さは4〜20μm、幅5〜20mmが好ましい。
【0218】
また、本発明においては、上記のナーリング加工は、フィルムの製膜工程において乾燥終了後、巻き取りの前に設けることが好ましい。
【0219】
また、共流延法によって多層構成とした位相差フィルムも好ましく用いることが出来る。位相差フィルムが多層構成の場合でも可塑剤を含有する層を有しており、それがコア層、スキン層、若しくはその両方であってもよい。
【0220】
本発明に係る位相差フィルムの表面の中心線平均粗さ(Ra)は0.001〜1μmであることが好ましい。
【0221】
本発明において、23℃55%RHの環境下における下記式で表される面内リターデーションRoが20≦Ro≦70nmで、かつ厚み方向のリターデーションRthが70≦Rth≦400nmであることが好ましい。Rthは100〜400nmであることが好ましく、100〜200nmであることが更に好ましい。また、特にRth/Roは1.5〜6.0であることが好ましい。
【0222】
Ro、Rth或いは長尺フィルムの幅手方向と遅相軸とのなす角θ0(°)は自動複屈折率計を用いて測定することが出来る。自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、セルロースエステルフィルムの590nmにおける複屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求め、下記式に従ってRo、Rthを算出した。
【0223】
Ro=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内で遅相軸に直交する方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
セルロースエステルに対するアクリル系重合体と多価カルボン酸エスエル化合物の含有量は、セルロースエステルに対して、アクリル系重合体量及びポリエステル量の総計で2〜40質量%であり、好ましくは4〜20質量%である。
【0224】
アクリル系重合体量と多価カルボン酸エステル化合物量は1:99〜99:1の質量比であり、10:90〜90:10であることが好ましい。
【0225】
本発明のアクリル系重合体と多価カルボン酸エステル化合物とを組み合わせ、適宜本発明のセルロースエステルに含有させることにより、所望のリターデーションを得ることができる。
【0226】
セルロースエステルフィルムの膜厚は厚い方が位相差を大きくし易いが、薄い方がコーナー斑、Rthの湿度変動性の点で有利である。これらを両立するセルロースエステルフィルムの膜厚は20〜85μmが好ましく、40〜70μmが更に好ましい。
【0227】
フィルムの幅は1m以上であることが好ましく、1〜4mのものがより好ましい。
【0228】
コーナー斑とはバックライトを5時間連続点灯した液晶表示装置を、全面黒表示状態を暗室にて目視で観察した時に、液晶表示装置のコーナー部分から光漏れが発生する現象を言う。
【0229】
《偏光板》
本発明の偏光板について述べる。
【0230】
偏光板は一般的な方法で作製することが出来る。本発明の位相差フィルムをアルカリ鹸化処理し、処理した位相差フィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも本発明のセルロースエステルフィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明の位相差フィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムには市販のセルロースエステルフィルムを用いることが出来る。例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2MW、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC4UEW、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KC4FR−1、KC4FR−2、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。或いは本発明の位相差フィルムには、更にディスコチック液晶、棒状液晶、コレステリック液晶などの液晶化合物を配向させて形成した光学異方層を形成した光学補償フィルムとして用いることも好ましい。例えば、特開2003−98348号記載の方法で光学異方性層を形成することが出来る。反射防止フィルムと組み合わせて使用することによって、平面性に優れ、安定した視野角拡大効果を有する偏光板を得ることも出来る。
【0231】
偏光板の主たる構成要素である偏光膜とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。偏光膜は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。該偏光膜の面上に、本発明の位相差フィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。
【0232】
偏光膜は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸と垂直方向(通常は幅方向)には伸びる。偏光板保護用フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光膜の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光膜の延伸方向は偏光板保護用フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板保護用フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑えることが重要である。本発明の位相差フィルムは寸法安定に優れる為、このような偏光板保護フィルムとして好適に使用される。
【0233】
即ち60℃、90%RHの条件での耐久性試験によっても波打ち状のむらが増加することはなく、裏面側に光学補償フィルムを有する偏光板であっても、耐久性試験後に視野角特性が変動することなく良好な視認性を提供することが出来る。
【0234】
偏光板は、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することが出来る。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶セルへ貼合する面側に用いられる。
【0235】
この偏光板を用いることによって、高い表示性能の液晶表示装置を提供することが出来る。特に、直下型バックライトを使用した液晶表示装置において、環境変動が少なく、画面周辺部の光漏れが低減された液晶表示装置を得ることが出来る。
【0236】
《液晶表示装置》
本発明の偏光板を液晶表示装置に用いることによって、種々の視認性に優れた本発明の液晶表示装置を作製することが出来る。本発明の位相差フィルムはSTN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS、OCBなどの各種駆動方式の液晶表示装置に用いることが出来る。好ましくはVA(MVA,PVA)型液晶表示装置である。特に画面が30型以上の大画面の液晶表示装置であっても、環境変動が少なく、画面周辺部の光漏れが低減された液晶表示装置を得ることが出来る。特に、本発明の位相差フィルムを用いて製造された液晶表示装置の群では、光漏れが発生する頻度を低減することが出来る。
【実施例】
【0237】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0238】
《位相差フィルムの作製》
下記ドープ液に用いるセルロースエステル、重合体、多価カルボン酸エステルを表1〜3に記載した。
【0239】
【表1】

【0240】
【表2】

【0241】
【表3】

【0242】
(ドープ液の調製)
セルロースエステルC(セルロースアセテートプロピオネート アセチル基置換度1.0、プロピオニル基置換度1.2) 100質量部
重合体A 3質量部
重合体C 3質量部
多価カルボン酸エステルA 6質量部
二酸化珪素粒子 アエロジル972V(日本アエロジル(株)製) 0.1質量部
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 60質量部
二酸化珪素粒子は予めエタノールに分散して添加した。
【0243】
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過してドープを作製した。次いで、ベルト流延装置を用い、温度35℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が80%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したセルロースエステルフィルムのウェブを50℃から120℃に温度をあげながら搬送中に溶媒を蒸発させ、その後、テンターでTD方向(フィルムの搬送方向と直交する方向)に160℃で1.3倍に延伸した。延伸後、120℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、両端をスリットし、端部に幅15mm、平均高さ10μmのナーリング加工を施し、内径6インチコアに巻き取り、位相差フィルム1を得た。該フィルムの残留溶媒量は0.1%未満であり、平均膜厚は45μm、巻長は4000mであった。この位相差フィルム1のRoは60nm、Rthは110nmであった。
【0244】
表1〜3記載のセルロースエステル、重合体、多価カルボン酸エステルを用い、更に下記の他の添加剤を表4、表5記載のとおりに変更した以外は同様にして、表4、表5記載の位相差フィルム2〜55を作製した。得られたフィルムの膜厚とリターデーションは表4、表5に示す。
【0245】
(他の添加剤)
エステル系可塑剤1:前記サンプルNo.1
エステル系可塑剤2;前記サンプルNo.2
エステル系可塑剤4:下記化合物を使用
チヌビン109:チバスペシャルティケミカルズ(株)製
チヌビン171:チバスペシャルティケミカルズ(株)製
多価アルコールエステル系可塑剤1:下記化合物を使用
【0246】
【化8】

【0247】
【化9】

【0248】
(リターデーションの測定)
Ro、Rthは、アッベ屈折率計(1T)に偏光板付き接眼鏡を付け、分光光源を用いて位相差フィルムの両方の面のフィルム面内の一方向とそれに直交する方向及びフィルム面に垂直方向の屈折率を測定し、それらからの平均値より平均屈折率を求めた。また、市販のマイクロメーターを用いてフィルムの厚さを測定した。
【0249】
自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下24時間放置したフィルムにおいて、同環境下、波長が590nmにおけるフィルムのリターデーション測定を行った。上述の平均屈折率と膜厚を上記式に入力し、面内リターデーション値(Ro)及び厚み方向のリターデーション値(Rth)の値を得た。
【0250】
【表4】

【0251】
【表5】

【0252】
〈反射防止フィルムAの作製〉
以下に記載の方法に従って、セルロースエステルフィルムAを作製し、該セルロースエステルフィルムAにハードコート層、バックコート層、反射防止層を形成して、反射防止フィルムAを作製した。
【0253】
(セルロースエステルフィルムAの作製)
(二酸化珪素分散液A)
アエロジル972V(日本アエロジル(株)製) 12質量部
(一次粒子の平均径16nm、見掛け比重90g/リットル)
エタノール 88質量部
以上をディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。分 散後の液濁度は200ppmであった。二酸化珪素分散液に88質量部のメチレンクロライドを撹拌しながら投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合し、二酸化珪素分散液Aを作製した。
【0254】
(ドープ液Aの調製)
セルロースエステル(リンター綿から合成されたセルローストリアセテート)
100質量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1、アセチル基置換2.9)
トリメチロールプロパントリベンゾエート 5質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 5質量部
チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 1質量部
チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 1質量部
二酸化珪素分散液A 1質量部
メチレンクロライド 400質量部
エタノール 40質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープ液Aを調製した。
【0255】
製膜ライン中で日本精線(株)製のファインメットNFでドープ液Aを濾過した。次いで、ベルト流延装置を用い、温度35℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したセルロースエステルのウェブを90℃で溶媒を蒸発させ、その後、テンターでTD方向(フィルムの搬送方向と直交する方向)に160℃で1.1倍に延伸し、その後120℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、両端をスリットし、フィルム両端に幅15mm、平均高さ10μmのナーリング加工を施し、巻き取り初期張力220N/m、終張力110N/mで内径6インチコアに巻き取り、平均膜厚は60μm、幅2m、長さ4000mのセルロースエステルフィルムAを得た。ステンレスバンド支持体の回転速度とテンターの運転速度から算出される剥離直後のMD方向(フィルムの搬送方向と同一方向)の延伸倍率は1.1倍であった。セルロースエステルフィルムAの残留溶剤量は0.1%未満であり、膜厚変動はTD方向、MD方向ともに±1μmであった。
【0256】
反射防止層を構成する各層の屈折率は下記方法で測定した。
【0257】
(屈折率)
各屈折率層の屈折率は、各層を単独で下記で作製したハードコートフィルム上に塗設したサンプルについて、分光光度計の分光反射率の測定結果から求めた。分光光度計はU−4000型(日立製作所製)を用いて、サンプルの測定側の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)の反射率の測定を行った。
【0258】
(金属酸化物微粒子の粒径)
使用する金属酸化物微粒子の粒径は電子顕微鏡観察(SEM)にて各々100個の微粒子を観察し、各微粒子に外接する円の直径を粒子径としてその平均値を粒径とした。
【0259】
(ハードコートフィルムAの作製)
上記作製したセルロースエステルフィルムA上に、下記のハードコート層組成物を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過してハードコート層塗布液を調製し、これをマイクログラビアコーターを用いて塗布し、90℃で乾燥の後、紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cm2で、照射量を0.2J/cm2として塗布層を硬化させ、ドライ膜厚12μmのハードコート層を形成しハードコートフィルムAを作製した。
【0260】
尚、下記バックコート層組成物1をウェット膜厚14μmとなるように、ハードコート層を塗布した面とは反対の面に押し出しコーターで塗布し、85℃にて乾燥した。
【0261】
〈ハードコート層組成物1〉
下記材料を攪拌、混合しハードコート層組成物1とした。
【0262】
ペンタエリスリトールトリアクリレート 20質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 55質量部
ウレタンアクリレート(新中村化学工業社製 商品名U−4HA) 55質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 20質量部
イルガキュア907(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 12質量部
ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製 KF−351) 0.8質量部
ポリオキシアルキルエーテル(花王社製 エマルゲン1108) 1.0質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 100質量部
酢酸エチル 120質量部
〈バックコート層組成物1〉
アセトン 54質量部
メチルエチルケトン 24質量部
メタノール 22質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート;アセチル基置換度1.9、プロピオニル基置換度0.7) 0.6質量部
超微粒子シリカ2%アセトン分散液
(日本アエロジル(株)製アエロジル200V) 0.2質量部
(反射防止フィルムAの作製)
上記作製したハードコートフィルムA上に、下記のように高屈折率層、次いで、低屈折率層の順に反射防止層を塗設し、反射防止フィルムAを作製した。
【0263】
〈反射防止層の作製:高屈折率層〉
ハードコートフィルムA上に、下記高屈折率層塗布組成物1を押し出しコーターで塗布し、80℃で1分間乾燥させ、次いで紫外線を0.2J/cm2照射して硬化させ、厚さが78nmとなるように高屈折率層1を設けた。
【0264】
この高屈折率層の屈折率は、1.6であった。
【0265】
〈高屈折率層塗布組成物1〉
〈粒子分散液Aの作製〉
メタノール分散アンチモン複酸化物コロイド(固形分60%、日産化学工業(株)製アンチモン酸亜鉛ゾル、商品名:セルナックスCX−Z610M−F2)6.0kgにイソプロピルアルコール12.0kgを攪拌しながら徐々に添加し、粒子分散液Aを調製した。
【0266】
PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル) 40質量部
イソプロピルアルコール 25質量部
メチルエチルケトン 25質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 0.9質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 0.9質量部
ウレタンアクリレート(商品名:U−4HA 新中村化学工業社製) 0.7質量部
粒子分散液A 20質量部
イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ社製) 0.4質量部
イルガキュア907(チバスペシャルティケミカルズ社製) 0.2質量部
シリコン系界面活性剤(FZ−2207、日本ユニカー(株)製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 0.5質量部
〈反射防止層の作製:低屈折率層〉
前記高屈折率層上に、下記の低屈折率層塗布組成物1を押し出しコーターで塗布し、100℃で1分間乾燥させた後、紫外線を0.2J/cm2照射して硬化させ、厚さ95nmとなるように低屈折率層を設け、反射防止フィルムAを作製した。なお、この低屈折率層の屈折率は1.37であった。
【0267】
〈低屈折率層塗布組成物1〉
〈テトラエトキシシラン加水分解物Aの調製〉
テトラエトキシシラン230gとエタノール440gを混合し、これに2%酢酸水溶液120gを添加した後に、室温(25℃)にて26時間攪拌することでテトラエトキシシラン加水分解物Aを調製した。
【0268】
プロピレングリコールモノメチルエーテル 430質量部
イソプロピルアルコール 430質量部
テトラエトキシシラン加水分解物A 120質量部
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学工業社製) 3質量部
イソプロピルアルコール分散中空シリカゾル(固形分20%、触媒化成工業社製シリカゾル、商品名:ELCOM V−8209) 40質量部
アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート 3質量部
シリコン系界面活性剤(FZ−2207、日本ユニカー(株)製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 3質量部
〈反射防止フィルムの熱処理〉
作製した反射防止フィルムAを、各々プラスチックコアに巻き長3000mで巻き取った。この反射防止フィルムロールを用いて、熱処理室にて80℃で4日間の熱処理を行った。下記の方法で測定した反射防止フィルムAの反射率は1%未満であった。
【0269】
(反射率)
分光光度計(U−4000、日立製作所製)を用いて、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における分光反射率を測定した。反射防止性能は広い波長領域において反射率が小さいほど良好であるため、測定結果から450〜650nmにおける最低反射率を求めた。測定は、観察側の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーを用いて光吸収処理を行い、フィルム裏面での光の反射を防止して、反射率の測定を行った。
【0270】
次いで、上記の方法で作製した位相差フィルム1〜55を用いて下記のようにして偏光板を作製し、それらの偏光板を液晶表示パネル(画像表示装置)に組み込み、視認性を評価した。
【0271】
下記の方法に従って、上記セルロースエステルフィルムAと上記位相差フィルム1〜55各々1枚を偏光板保護フィルムとして用いて偏光板1A〜55Aを作製した。
【0272】
セルロースエステルフィルムAの代わりに反射防止フィルムAを用いた以外は同様にして反射防止層を有する偏光板1B〜55Bを作製した。
【0273】
(a)偏光膜の作製
けん化度99.95モル%、重合度2400のポリビニルアルコール(以下PVAと略す)100質量部に、グリセリン10質量部及び水170質量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロール上に溶融押出し、製膜した。その後、乾燥・熱処理してPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムは平均厚みが40μm、水分率が4.4%、フィルム幅が3mであった。
【0274】
前記したPVAフィルムを予備膨潤、染色、湿式法による一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作製した。PVAフィルムを30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中でフィルムにかかる張力が700N/mの条件下で6倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、PVAフィルムを取り出し、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。得られた偏光膜は平均厚みが15μmであった。
【0275】
(b)偏光板の作製
次いで、下記工程1〜5に従って、偏光膜と偏光板用保護フィルムとを貼り合わせて偏光板1A〜55Aを作製した。
【0276】
工程1:位相差フィルムとセルロースエステルフィルムAもしくは反射防止フィルムAを2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に60℃で90秒間浸漬し、次いで水洗、乾燥させた。反射防止フィルムAの反射防止層を設けた面には予め剥離性の保護フィルム(PET製)を張り付けて保護した。
【0277】
同様に位相差フィルムを2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に60℃で90秒間浸漬し、次いで水洗、乾燥させた。
【0278】
工程2:前述の偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬した。
【0279】
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、それを工程1でアルカリ処理した位相差フィルムとセルロースエステルフィルムAで挟み込んで、積層配置した。
【0280】
工程4:2つの回転するローラーにて20〜30N/cm2の圧力で10m/minの速度で貼り合わせた。このとき気泡が入らないように注意して実施した。
【0281】
工程5:80℃の乾燥機中にて工程4で作製した試料を2分間乾燥処理し、偏光板を作製した。セルロースエステルフィルムAに代えて反射防止フィルムAを用いた以外は同様にして反射防止層を有する偏光板1B〜55Bを作製した。
【0282】
市販の46型液晶表示パネル(VA型)の両面の偏光板を注意深く剥離し、表側に偏光方向を合わせた反射防止層を有する偏光板1B〜55Bを、裏面側に偏光板1A〜55Aを表6、表7の組み合わせで張り付け液晶表示パネル1〜55を作製した。その際いずれも偏光板の位相差フィルムが貼合された面を液晶セル側に配置した。
【0283】
〈評価〉
(コントラスト、カラーシフト)
画像鑑賞時の周辺の明るさに応じて、画面の輝度を調整するとコントラストやカラーシフト等の視認性の変化があることが知られている。作製した液晶表示装置を明るい部屋でバックライトを100時間連続点灯し、点灯初期の視認性と100時間後の視認性について以下の基準で目視評価した。結果を下記表6、表7に示す
〈コントラスト〉
◎:黒がしまって見え、鮮明であり、コントラストが高い
○:黒がしまって見えるが、鮮明さがやや低い
×:黒のしまりがなく、鮮明さが低く、コントラストが低い
〈カラーシフト〉
◎:カラーシフトは認められない
○:わずかにカラーシフトが認められる
×:カラーシフトが認められ気になる
【0284】
【表6】

【0285】
【表7】

【0286】
本発明の位相差フィルム、偏光板を用いた液晶表示装置は、コントラストが高くカラーシフトもなく、良好な視認性を示すことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0287】
【図1】延伸工程での延伸角度を説明する図である。
【図2】本発明に用いられるテンター工程の1例を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総アシル基置換度が2.0〜2.8であるセルロースエステルと、エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下の重合体と、多価カルボン酸エステル化合物とを含有することを特徴とする位相差フィルム。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下の重合体が、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上30000以下の重合体Xもしくは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体Yから選択されることを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記重合体Xが下記一般式(1)で表され、前記重合体Yが下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項2に記載の位相差フィルム。
一般式(1)
−[CH2−C(−R1)(−CO2R2)]m−[CH2−C(−R3)(−CO2R4−OH)−]n−[Xc]p
(式中、R1、R3は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R2は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。R4は−CH2−、−C24−または−C36−を表す。Xcは、[CH2−C(−R1)(−CO2R2)]または[CH2−C(−R3)(−CO2R4−OH)−]に重合可能なモノマー単位を表す。m、n及びpは、モル組成比を表す。ただしm≠0、n≠0、m+n+p=100である。)
一般式(2)
−[CH2−C(−R5)(−CO2R6)]k−[Yb]q
(式中、R5は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R6は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Ybは、[CH2−C(−R5)(−CO2R6)]と共重合可能なモノマー単位を表す。k及びqは、それぞれモル組成比を表す。ただしk≠0、k+q=100である。)
【請求項4】
前記多価カルボン酸エステル化合物がクエン酸エステル化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
23℃55%RHの環境下における下記式で表される面内リターデーションRoが20≦Ro≦70nmで、かつ厚み方向のリターデーションRthが70≦Rth≦400nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
Ro=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内で遅相軸に直交する方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
【請求項6】
2枚の偏光板保護フィルムで偏光子を挟んだ偏光板において、少なくとも一方の偏光板保護フィルムが請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項7】
液晶セルの少なくとも一方の面に請求項6に記載の偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−197424(P2008−197424A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33155(P2007−33155)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】