説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】 本発明の目的は、充分に大きなリタデーションRe及びRthを有しており、液晶表示装置の視野角依存性やコントラストを改善することができ且つ偏光子の保護フィルムとして兼用可能であるとともに偏光板との貼り合わせ効率に優れた位相差フィルムの製造方法を提供することにある。
【解決手段】 環状オレフィン系樹脂フィルムをその幅方向に延伸してなる横延伸フィルムを、その長さ方向(縦方向)に延伸した後の縦延伸フィルム幅が、縦延伸倍率をn倍としたときに、(横延伸フィルム幅/√n)の85〜99%となるように制御することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置のコントラスト及び視野角の改善に用いられる位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置が、パーソナルコンピュータの表示装置等として広く普及してきており、その一つにTN(Twisted Nematic)モード液晶表示装置が挙げられる。しかしながら、TNモード液晶表示装置は、視野角が狭いとともに応答速度が遅いといった問題点があった。そこで、TNモード液晶表示装置のような旋光モードではなく、複屈折モードを利用したVA(Vertical Alignment)モード液晶表示装置が提案されている。このVAモード液晶表示装置としては、液晶セルを構成する基板内面に傾斜面を有する突起等からなるドメイン規制手段を設け、このドメイン規制手段によって液晶分子の配向方向を2方向以上に分割して、液晶セルを通過してくる光量を均一化させることにより見込み角度によって表示輝度が大きく異なる視野角依存性を改善したMVA(Multi-domain Vertical Alignment)モード液晶表示装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記MVAモード液晶表示装置であっても、液晶表示面の法線に対して斜め45°から液晶表示面を見ると、やはりコントラストが低下するといった問題点を有するものであり、この視野角依存性を改善するために二軸性位相差フィルムが用いられている。
このような位相差フィルムの材料としては、ポリカーボネートやポリサルホンに代表されるような高透明性及び高耐熱性の合成樹脂フィルムが用いられてきたが、上記特性に加えて、光弾性係数、波長分散性及び水蒸気透過率等の特性にも優れた環状オレフィン系樹脂フィルムを位相差フィルムとして用いることが考えられる。
【0004】
上記位相差フィルムを用いた液晶表示装置として、例えば、特許文献2には、特定の光弾性係数、リタデーションの値をもつ上記の合成樹脂フィルムからなる二軸性位相差フィルムを用いた液晶表示装置が開示されている。
【0005】
このような二軸性位相差フィルムと貼合される偏光板は、通常、その長さ方向に吸収軸が形成された上でロール状に巻回されており、液晶表示装置を組み立てるために、偏光板と位相差フィルムとを貼り合わせるにあたっては、偏光板の吸収軸と位相差フィルム面内の遅相軸とを直交させた状態で重ね合わせる必要があるが、従来の二軸性位相差フィルムは縦延伸した後テンター横延伸するのが普通であり、面内の遅相軸が長さ方向に存するものであったため、通常位相差フィルムを枚葉に裁断して偏光板に貼り合わせていた。
【0006】
【特許文献1】特開2000−131693号公報
【特許文献2】特開平11−95208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような場合、二軸性位相差フィルムの遅相軸方向を幅方向とすることにより、偏光板と位相差フィルムの連続貼合が実現できるが、位相差フィルムの遅相軸方向が全面にわたり精度良く発現していないと、偏光板吸収軸と位相差フィルム遅相軸が直交しなくなり、液晶セルと組み合わせた場合に視野角補償が十分でなくなったり、コントラストの低下を招くといった問題が発生することがあった。
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、充分に大きなフィルム面内のリタデーションRe及びフィルム厚み方向のリタデーションRthを有しており、液晶表示装置の視野角依存性やコントラストを改善することができ、且つ、偏光子の保護フィルムとして兼用可能であるとともに偏光板との貼り合わせ効率に優れた位相差フィルムの製造方法を提供することにある。
なお、最大屈折率方向の屈折率をn、最大屈折率方向と直交する方向の屈折率をn、厚み方向の屈折率をnとした場合、上記リタデーションRe及びリタデーションRthは、以下の式で表される。
Re(nm)=|n−n|×厚み(nm)
Rth(nm)=|(n+n)/2−n|×厚み(nm)
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による位相差フィルムの製造方法は、環状オレフィン系樹脂フィルムをその幅方向に延伸してなる横延伸フィルムを、その長さ方向(縦方向)に延伸した後の縦延伸フィルム幅が、縦延伸倍率をn倍としたときに、(横延伸フィルム幅/√n)の85〜99%となるように制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明による位相差フィルムの製造方法は、環状オレフィン系樹脂フィルムをその幅方向に延伸してなる横延伸フィルムを、その長さ方向(縦方向)に延伸した後の縦延伸フィルム厚みが、縦延伸倍率をn倍としたときに、(横延伸フィルム厚み/√n)の101〜110%となるように制御することを特徴とする。
【0010】
本発明の位相差フィルムに用いられる環状オレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、ノルボルネン系樹脂が好ましく、特に飽和ノルボルネン系樹脂が好ましく、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体の水素添加物、ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体、ノルボルネン系モノマー同士の付加(共)重合体又はこれらの誘導体等が挙げられ、単独で用いられても併用されてもよい。
【0011】
上記ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環を有するものであれば、特に限定されず、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエン等の三環体;テトラシクロドデセン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;テトラシクロペンタジエン等の七環体;これらのメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル、ビニル等のアルケニル、エチリデン等のアルキリデン、フェニル、トリル、ナフチル等のアリール等の置換体;さらにこれらのエステル基、エーテル基、シアノ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、ピリジル基、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、無水酸基、シリル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基等の炭素、水素以外の元素を含有する基、所謂、極性基を有する置換体等が挙げられ、入手が容易であり、反応性に優れ、得られる位相差フィルムの耐熱性が優れていることから、三環体以上の多環ノルボルネン系モノマーが好ましく、三環体、四環体又は五環体のノルボルネン系モノマーがより好ましい。なお、ノルボルネン系モノマーは、単独で用いられても二種類以上が併用されてもよい。
【0012】
また、上記ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体の水素添加物としては、上記ノルボルネン系モノマーを公知の方法で開環重合させた後、残留している二重結合が水素添加されているものが広く用いられ、ノルボルネン系モノマーの単独重合体の水素添加物であってもよいし、異種のノルボルネン系モノマーの共重合体の水素添加物であってもよい。
【0013】
更に、上記ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体としては、ノルボルネン系モノマーとα−オレフィンとの共重合体、ノルボルネン系モノマーと環状オレフィン系モノマーとの共重合体等が挙げられる。上記α−オレフィンとしては、炭素数が2〜20のα−オレフィンが好ましく、炭素数が2〜10のα−オレフィンがより好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等が挙げられ、共重合性が高いことから、エチレンが好ましく、他のα−オレフィンをノルボルネン系モノマーと共重合させる場合にも、エチレンを存在させている方が共重合性が高められる。
上記環状オレフィン系モノマーとしては、例えば、シクロオクタジエン、シクロオクテン、シクロヘキセン、シクロドデセン、シクロドデカトリエン等が挙げられる。
【0014】
また、上記ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を得る方法は、例えば、ノルボルネン系モノマーをルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等の金属のハロゲン化物、硝酸塩もしくはアセチルアセトン化合物と還元剤とからなる触媒系、又は、チタン、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物もしくはアセチルアセトン化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒系等を用いて、溶媒中又は無溶媒で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、0〜5MPaの重合圧力で開環(共)重合させることにより得ることができる。
【0015】
上記ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体を得る方法は、例えば、モノマー成分を、溶媒中又は無溶媒で、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物(好ましくはハロゲン含有有機アルミニウム化合物)とからなる触媒系の存在下で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、0〜5MPaの重合圧力で共重合させることにより得ることができる。
【0016】
なお、上記ノルボルネン系樹脂の具体例としては、特開平1−240517号公報に記載されているものが挙げられ、商業的に入手できるノルボルネン系樹脂の具体例としては、例えば、ジェイエスアール社製の商品名「アートン」シリーズ、日本ゼオン社製の商品名「ゼオノア」シリーズ、三井化学社製の商品名「アペル」シリーズ等が挙げられる。
【0017】
本発明の環状オレフィン系樹脂の数平均分子量としては、小さいと得られる位相差フィルムの機械的強度が低下することがある一方、大きいとフィルムの成形性に支障を来たすことがあるので、5000〜50000が好ましく、8000〜30000がより好ましい。なお、環状オレフィン系樹脂の数平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフィ法によって測定されたものをいう。
【0018】
また、上記環状オレフィン系樹脂には位相差フィルムの機能を阻害しない範囲内において、成形中の環状オレフィン系樹脂の劣化を防止させるためや位相差フィルムの耐熱性、耐紫外線性、平滑性等を向上させるために、フェノール系、リン系等の酸化防止剤;ラクトン系等の熱劣化防止剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、アクリロニトリル系等の紫外線吸収剤;脂肪族アルコールのエステル系、多価アルコールの部分エステル系、部分エーテル系等の滑剤;アミン系等の帯電防止剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。なお、添加剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0019】
本発明の環状オレフィン系樹脂フィルムを成膜する方法としては、従来から汎用されている方法が用いられ、具体的には、環状オレフィン系樹脂を押出機に供給して溶融、混練し、押出機の先端に取り付けた金型からフィルム状に押し出して長尺状の環状オレフィン系樹脂フィルムを成膜する方法、所謂、溶融押出法の他に、環状オレフィン系樹脂を有機溶媒中に溶解してなる溶液をドラム又はバンド上に流延した後に有機溶媒を蒸発させて長尺状の環状オレフィン系樹脂フィルムを成膜する方法、所謂、溶液流延法等が挙げられる。
【0020】
上記環状オレフィン系樹脂フィルムの厚みは、薄いと所望のリタデーションを得ることが困難となる一方、厚いと液晶表示装置の薄型化に不利となるので、50〜200μmが好ましく、80〜150μmがより好ましい。
なお、上記環状オレフィン系樹脂フィルムの厚みが80μmを超える場合には、溶液流延法では有機溶媒を充分に蒸発、除去させることが困難となることがあるので、溶融押出法を用いて環状オレフィン系樹脂フィルムを製造するのが好ましい。
【0021】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、まず、上記環状オレフィン系樹脂フィルムをその幅方向(横方向)に延伸して横延伸フィルムを製造する。
具体的には、長尺状の環状オレフィン系樹脂フィルムを連続的に巻き出しながら、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)付近の温度領域において、当該フィルムの幅方向の両端部を、テンタークリップ等の任意の把持手段によって把持し、この把持手段を当該フィルムの搬送速度と略同一速度にて搬送方向に移動させながら互いに離間する方向に徐々に変位させることによって、当該フィルムをその幅方向に延伸して拡幅させた後、環状オレフィン系樹脂分子の配向を固定するためにTg未満の温度まで冷却する。
【0022】
上記環状オレフィン系樹脂フィルムを横方向に延伸する際の環状オレフィン系樹脂フィルムの温度は、位相差フィルムに付与したい補償位相差量によって適宜調整されるが、低いと延伸時に環状オレフィン系樹脂フィルムが破断する虞れがあり、一方、高いと所望のリタデーションを得ることが困難となることがあるので、環状オレフィン系樹脂フィルムのTg〜Tg+20℃の範囲が好ましく、環状オレフィン系樹脂フィルムのTg+2℃〜Tg+10℃の範囲がより好ましい。なお、このTgは示差走査熱量計によって測定されたものをいう。
【0023】
また、上記環状オレフィン系樹脂フィルムを横方向に延伸する際の延伸倍率は、低いと配向軸の方向が均一に揃わないことがあり、一方、高いと環状オレフィン系樹脂フィルムにおける幅方向の張力分布にムラが生じ、リタデーションのムラが大きくなることがあるので、1.2〜3.0倍が好ましく、1.5〜2.5倍がより好ましい。
なお、環状オレフィン系樹脂フィルムを幅方向に延伸させた後冷却する前に、環状オレフィン系樹脂分子の配向を揃える目的で熱緩和工程を行ってもよい。
【0024】
このようにして、環状オレフィン系樹脂フィルムを横方向に延伸することにより、延伸方向に環状オレフィン系樹脂分子が配列し、延伸方向の屈折率が大きくなり、横方向に遅相軸が形成された横延伸フィルムを得ることができる。
【0025】
この横延伸フィルムの面内におけるリタデーションReは、低いと横延伸フィルムをその長さ方向(幅方向と直交する方向、所謂、縦方向)に延伸しても厚み方向のリタデーションRthが発現しにくくなることがあり、一方、高いと環状オレフィン系樹脂分子が歪み過ぎているのと同じ結果となり、横延伸フィルムを縦方向に延伸させて発現する厚み方向のリタデーションRthを制御することが困難となることがあるので、50〜300nmが好ましく、80〜250nmがより好ましい。
【0026】
上記横延伸後のフィルムの厚みは、厚いと得られる位相差フィルムを用いて構成された液晶表示装置が厚くなってしまい、薄いと縦方向に延伸時に破断等のリスクが発生するので、30〜120μmが好ましく、35〜80μmがより好ましい。
【0027】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、次に、上記横延伸フィルムをその長さ方向(縦方向)に延伸することにより、横方向に発生した遅相軸と直交する方向に延伸力を加えて位相差フィルムを得る。
【0028】
この横延伸フィルムをその長さ方向(縦方向)に延伸する方法としては、ロール間ネックイン延伸法、近接ロール延伸法等が適用できるが、位相差を制御し易く環状オレフィン系樹脂フィルムに傷や皺等の不良が発生しにくいといった利点を有するロール間ネックイン延伸法を採用することが望ましい。ロール間ネックイン延伸法とは、フィルム幅に比して十分に長い延伸ゾーンを挟んで位置する一対のニップロール又はS字ラップロールで搬送中のフィルムを挟持するとともに、上流側のロールの周速に対して下流側のロールの周速を大きくすることによって、所望の延伸倍率を得る方法である。なお、このとき横延伸フィルムの幅方向の両端部は拘束を受けない自由端とされており、縦方向の延伸に伴って幅方向にネックイン現象を呈する。
【0029】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、縦方向に延伸した後の縦延伸フィルム幅が、縦延伸倍率をn倍としたときに、(横延伸フィルム幅/√n)の85〜99%となるように制御する。
一般的に、幅方向を自由端とする縦延伸において非晶性物質のネックイン後の幅は、縦延伸倍率をn倍としたときに1/√n倍になることが知られている。しかしながら、横延伸フィルムを縦延伸する場合には、幅方向に溜まっていた応力が解放されることによって過剰にネックインする現象が起きることを見出した。この過剰なネックイン収縮は、延伸方向とは異なる方向に応力が掛かるために、冷却固化時の配向方向をばらつかせる結果となった。本発明者は、縦延伸時のネックイン温度によってこの現象を制御することが可能であり、炉内温度をTg〜Tg+3℃で縦延伸を行うことによって、ネックイン後の幅を1/√nの85〜99%に抑えることができることを見出し、この発明を完成させたのである。
【0030】
また、横延伸フィルムを縦方向に延伸する際の延伸倍率は、低いと横延伸フィルムの縦方向における変形量が少な過ぎて充分なリタデーションRthを得ることができないことがあり、一方、高いと横方向に遅相軸を保持するのが困難となり、遂には遅相軸の方向が縦方向に転換してしまい、その結果、遅相軸の方向精度が低下して、偏光板ロールとの連続貼合ができなくなったり、液晶表示装置に用いた場合にコントラスト等の表示品質の低下を招くことがあるので、1.01〜1.40倍が好ましく、1.05〜1.30倍がより好ましい。
【0031】
また、本発明の位相差フィルムの製造方法においては、縦方向に延伸した後の縦延伸フィルムの厚みが、縦延伸倍率をn倍としたときに、(横延伸フィルム厚み/√n)の101〜110%となるように制御する。
前記した如く、一般的に、非晶性物質のネックイン後の厚みは、縦延伸倍率をn倍としたときに1/√n倍になることが知られている。
しかしながら、横延伸フィルムを縦延伸する場合には、幅方向に溜まっていた応力が解放されることによって過剰にネックインする現象が起き、この過剰なネックイン収縮により延伸方向とは異なる方向に応力が掛かるために、冷却固化時の配向方向をばらつかせる結果となった。本発明者は、縦延伸時のネックイン温度によってこの現象を制御することが可能であり、炉内温度をTg〜Tg+3℃で縦延伸を行うことによって、ネックイン後の厚みを1/√nの101〜110%に抑えることができることを見出したのである。
【0032】
横延伸フィルムを縦方向に延伸する際の延伸倍率は、前記と同様であり、1.01〜1.40倍が好ましく、1.05〜1.30倍がより好ましい。
【0033】
また、本発明の位相差フィルムの製造方法においては、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度をTg(℃)、横延伸温度をTST(℃)、縦延伸温度をTSM(℃)とするとき、Tg≦TSM≦TSTを満足することが好ましい。縦方向延伸の温度をこの範囲に設定することにより、横方向に揃えた配向の向きを乱すことなく、縦方向のわずかな変形で効果的にRth値を発現させることができる。
【0034】
上述の要領で、横延伸フィルムを縦方向に延伸して得られた位相差フィルムは、熱緩和によるリタデーションRe及びRthの低下を防止するために、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度Tg未満の温度に直ちに冷却されるのがよい。
【0035】
本発明の位相差フィルムの製造方法において得られた位相差フィルムは、液晶表示装置の部品として好適に用いられ、上記位相差フィルムは、単独で用いられても、偏光板と積層一体化させて複合偏光板として用いられても、偏光板にその液晶セル側の保護フィルムの代わりに接着剤を介して積層一体化されて偏光板を形成して用いられてもよい。中でも、液晶表示装置の薄型化及び製造効率を向上させることができることから、その液晶セル側の保護フィルムの代わりに好ましくは水系接着剤を介して位相差フィルムを積層一体化させて偏光板として用いるのが好ましい。
【0036】
なお、位相差フィルムを何れの態様で用いる場合も、位相差フィルムの遅相軸と、この位相差フィルムに隣接する偏光板或いは偏光子の吸収軸とが互いに直交するように調整する必要がある。
【0037】
上記液晶セルとしては、従来から用いられている液晶セルであれば、特に限定されないが、OCBモード、VAモード等が好ましい。VAモードは、電圧オフ状態で液晶分子はその長さ方向を液晶セルの基板に対して垂直方向に向けた状態で立ち、黒表示される。このとき、液晶セルを通過する光における液晶セルの厚み方向の屈折率が大きくなって屈折率異方性が発現し、見る角度によっては光が漏れてしまう。上記位相差フィルムは、その厚み方向の屈折率が小さく、大きくなった液晶セルの厚み方向の屈折率を効果的に緩和して、得られる液晶表示装置の正面コントラストや、見込み角度によるコントラストの変化、所謂、視野角依存性を大幅に改善することができることから、上記位相差フィルムは、特にVAモードに好適なものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明の位相差フィルムの製造方法によれば、充分に大きなリタデーションRe及びRthを有しており、液晶表示装置の視野角依存性やコントラストを改善することができ、且つ、偏光子の保護フィルムとして代用可能であるとともに偏光板との貼り合わせ効率に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に本発明の実施例を挙げて更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
(横延伸フィルム1,2の作製)
環状オレフィン系樹脂として熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア#1600」、数平均分子量:20000)を用い、この樹脂を一軸押出機に供給して溶融、混練し、一軸押出機の先端に取り付けたTダイから樹脂温度230℃にて溶融押出を行って、幅500mmで且つ平均厚みが100μmの長尺状の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルムを得た。なお、この熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂のガラス転移温度Tgを示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、商品名「DSC220C」)によって測定したところ、161.0℃であった。
【0041】
次に、得られた長尺状の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルムを連続的に巻き出し、このフィルムの幅方向両端部を順次テンタークリップによって把持した後、予熱ゾーン内に供給し155℃に予熱した。その後、この予熱されたフィルムを連続的に延伸ゾーン内に供給して表1に示した温度に設定された延伸ゾーン内を通過させて加熱しながら、テンタークリップを樹脂フィルムの搬送速度と同一速度でもってフィルムの搬送方向に移動させつつ互いに離間する横方向に変位させて、2倍の横延伸倍率にて押出方向に直交する方向(横方向)に延伸した。なお、樹脂フィルムの横方向への延伸が完了した後、テンタークリップで把持したまま160℃雰囲気下で熱緩和を行い、配向方向をフィルム幅方向に揃えた後、そのまま120℃の雰囲気下で配向を固定し、横方向に遅相軸が形成された横延伸フィルムをロール状に連続的に巻き取った。
また、クリップ把持部の影響を除去するために、横延伸フィルムにおける幅方向の両端250mm部分を除去し、全幅を500mmとした。
【0042】
得られた横延伸フィルムにおける面内のリタデーションReを、自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、商品名「KOBRA−21ADH」)を用いて、横方向に10mm間隔で測定して平均値を算出した。
また、全幅にわたり、接触式連続厚み計(セイコーEM社製)で10mmピッチで厚みの測定を行った。その結果は表1に示す通りであった。
【0043】
【表1】

【0044】
(実施例1,2及び比較例1,2)
上記で得られた横延伸フィルムを、上流側のニップロールから連続的に6.6m/minの一定巻き出し速度で巻き出すとともに、下流側のニップロールに上流側のニップロールの周速度よりも速い巻き取り速度でもって巻き取る一方、巻き出し軸と巻き取り軸との間の空間を巻き出し軸側から順次、予熱ゾーン、延伸ゾーン、冷却ゾーンの三つのゾーンに区画し、このゾーン内に横延伸フィルムを順次、連続的に通過させた。上記予熱ゾーン、延伸ゾーン、冷却ゾーン内の温度をそれぞれ、横延伸フィルムの温度が順次、155℃、162〜165℃、110℃となるように調整して、表2に示した縦延伸倍率にて延伸した位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの、縦延伸倍率(n)、縦延伸フィルム幅/(横延伸フィルム幅/√n)で表される幅比率(%)、縦延伸フィルム厚み/(横延伸フィルム厚み/√n)で表される厚み比率(%)、面内のリタデーションRe、厚み方向のリタデーションRth、及び遅相軸方向(軸精度)を測定した。その結果は表2に示す通りであった。
【0045】
なお、リタデーションRe及びRthは、横延伸フィルムの場合と同様にして測定し、また、遅相軸方向は幅方向を0度として測定した。
【0046】
【表2】














【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂フィルムをその幅方向に延伸してなる横延伸フィルムを、その長さ方向(縦方向)に延伸した後の縦延伸フィルム幅が、縦延伸倍率をn倍としたときに、(横延伸フィルム幅/√n)の85〜99%となるように制御することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
環状オレフィン系樹脂フィルムをその幅方向に延伸してなる横延伸フィルムを、その長さ方向(縦方向)に延伸した後の縦延伸フィルム厚みが、縦延伸倍率をn倍としたときに、(横延伸フィルム厚み/√n)の101〜110%となるように制御することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度をTg(℃)、横延伸温度をTST(℃)、縦延伸温度をTSM(℃)とするとき、Tg≦TSM≦TSTを満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の位相差フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−18212(P2006−18212A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274261(P2004−274261)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】