説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】十分に均一な位相差と十分に高い軸精度とを有する熱可塑性樹脂製の位相差フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】オーブン100内の上側と下側とに対向して設けられた複数のノズル30,32の吹き出し口からの熱風で加熱しながら熱可塑性樹脂フィルム20をその幅方向に延伸する、テンター法による位相差フィルムの製造方法であって、熱可塑性樹脂フィルム20を熱風で加熱する予熱工程と、予熱した熱可塑性樹脂フィルム20を熱風で加熱しながら延伸して延伸フィルム22を得る延伸工程と、延伸フィルム22を熱風で加熱する熱固定工程とを有し、予熱工程、延伸工程及び/又は熱固定工程で用いられる熱風の吹き出し口における吹き出し風速が2〜12m/秒であり、ノズル一本当たりの吹き出し風量がフィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.1〜1m/秒である位相差フィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の表示部には、液晶と位相差フィルムとが組み合わせて用いられている。具体的には、液晶表示装置の表示部には、液晶セルを挟むように一対の位相差フィルムが積層され積層体の外側に、偏光フィルムや保護フィルムが積層されて構成されている。
【0003】
液晶セルと組み合わせて用いられる位相差フィルムは、屈折率の差によって位相差をつくる機能を有し、これによって液晶表示装置の視野角の向上が図られている。
【0004】
位相差フィルムは、フィルム状に形成した樹脂材料を延伸して得ることができる。位相差膜の樹脂材料としては、以前、ポリオレフィン樹脂製のものが提案されていた(例えば、特許文献1を参照)。しかし、液晶表示装置に求められる光学的性能を満たし得る位相差フィルムとしては、主に、ポリカーボネート樹脂製や環状オレフィン系重合体樹脂製などのものが提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3を参照)。
【特許文献1】特公昭53−11228号公報
【特許文献2】特開平07−256749号公報
【特許文献3】特開平05−2108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂や環状オレフィン系重合体樹脂は高価であるため、より安価な汎用性の樹脂材料を原料として用いた位相差フィルムが求められている。
【0006】
ところが、特許文献1のように従来のテンター法によって二軸延伸された位相差フィルムは配向が不均一であって、位相差にムラが発生したりフィルムの幅方向において厚みムラが発生したりするため、位相差フィルムとして十分な性能を備えるものではない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、十分に均一な位相差と十分に高い軸精度とを有する熱可塑性樹脂製の位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、テンター法による位相差フィルムの製造方法であって、熱可塑性樹脂フィルムを熱風で加熱する予熱工程と、予熱した熱可塑性樹脂フィルムを熱風で加熱しながらその幅方向に延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、延伸フィルムを熱風で加熱する熱固定工程とを有し、予熱工程、延伸工程及び熱固定工程からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程におけるフィルムの加熱を、互いに対向する一対のノズルの吹き出し口からの熱風をフィルムの両面に吹き付けることにより行い、吹き出し口における吹き出し風速が2〜12m/秒であり、上記ノズル一本当たりの吹き出し口からの吹き出し風量が、フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.1〜1m/秒である位相差フィルムの製造方法を提供する。
【0009】
この位相差フィルムの製造方法では、予熱工程、延伸工程及び熱固定工程のうち少なくとも一つの工程におけるフィルムの加熱を、吹き出し風速及び吹き出し風量が一定の範囲内にある熱風により行う。このため、フィルム(熱可塑性樹脂フィルム及び/又は延伸フィルム)を均一に加熱することができ、配向性に優れた位相差フィルムを得ることができる。また、フィルムのバタつきが抑制されるため、厚みムラや欠陥が十分に抑制された位相差フィルムを得ることができる。このような位相差フィルムは、位相差が十分に均一であって、十分に高い軸精度を有することから、光学的な均一性に十分に優れる。なお、ノズル一本あたりの吹き出し口からの吹き出し風量(m/秒)は、吹き出し風速(m/秒)と吹き出し口の面積(m)との積で求めることができる。当該吹き出し風量を、フィルムの幅方向に沿った長さで割ることによって、それぞれのノズルの幅方向に沿った長さ1m当たりの吹き出し風量(m/秒)を求めることができる。
【0010】
本発明では、ノズルが、フィルムの幅方向に伸びるスリット状の吹き出し口を有するジェットノズル、又は開口をフィルムの長手方向及びフィルムの幅方向にそれぞれ複数配置した吹き出し口を有するパンチングノズルであることが好ましい。
【0011】
このように、ジェットノズル又はパンチングノズルを用いることによって、フィルムをより一層均一に加熱することができる。これによって、位相差が一層均一で、一層高い軸精度を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0012】
また、本発明では、ノズルがフィルムの幅方向に伸びるスリット状の吹き出し口を有するジェットノズルであり、当該ジェットノズルのスリット幅が5mm以上であることが好ましい。
【0013】
このようなスリット幅のジェットノズルを用いると、熱風の吹き出し口の面積が大きくなるため熱風の風速を十分に下げることが可能となる。これによって、フィルムをより一層均一に加熱することができ、位相差がより一層均一で、より一層高い軸精度を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0014】
また、本発明では、対向する一対のノズルの間隔が150mm以上であることが好ましい。このように配置されたノズルを用いることによって、各工程におけるフィルムのバタつきを一層確実に抑制することができる。これによって、厚みムラや欠陥が一層十分に抑制された位相差フィルムを得ることができる。
【0015】
また、本発明では、予熱工程、延伸工程及び熱固定工程からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程でフィルムに熱風を吹き付けるノズルの吹き出し口における熱風のフィルムの幅方向における最高温度と最低温度との差が、2℃以下であることが好ましい。また、当該最高温度と当該最低温度との差が、1℃以下であることがより好ましい。
【0016】
このように幅方向における温度差が十分に小さい熱風を用いることによって、幅方向の配向性のバラツキが抑制されて、位相差がより一層均一で、より一層高い軸精度を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0017】
また、本発明では、予熱工程、延伸工程及び熱固定工程からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程で、フィルムに熱風を吹き付けるそれぞれのノズルの吹き出し口における熱風のフィルムの幅方向における最大吹き出し風速と最小吹き出し風速との差が、4m/s以下であることが好ましい。また、当該最大吹き出し風速と当該最小吹き出し風速との差が、2m/s以下であることがより好ましく、1m/s以下であることがさらに好ましい。
【0018】
このような熱風を用いることによって、各工程におけるフィルムをより一層均一に加熱することが可能となる。したがって、位相差がより一層均一で、より一層高い軸精度を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0019】
また、本発明では、予熱工程、延伸工程及び熱固定工程の全ての工程が、清浄度クラス1000以下のクリーン度のオーブン中で行われることが好ましい。
【0020】
このようにクリーン度の高いオーブン中でフィルムを加熱することによって、得られる位相差フィルムの欠陥の発生を一層十分に抑制することができる。
【0021】
また、本発明では、熱可塑性樹脂が結晶性ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂を用いることによって、リサイクル性、耐溶剤性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0022】
また、本発明では、結晶性ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂を用いることによって、耐熱性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0023】
上記のような製造方法で得られた位相差フィルムは、光学的な不均一性に由来する位相差や光軸のムラを十分に抑制することができる。したがって、液晶表示装置に用いた場合に優れた視野角特性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、十分に均一な位相差と十分に高い軸精度とを有し、光学的な均一性に優れる熱可塑性樹脂製の位相差フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0026】
本実施形態の位相差フィルムの製造方法は、オーブン内の上側と下側とに対向して設けられた複数のノズルから熱風を吹き付けて熱可塑性樹脂からなる原料フィルムを幅方向に延伸させるテンター法による製造方法である。
【0027】
本実施形態にかかる幅方向の延伸(横延伸)は、テンター法によって行う。テンター法とは、フィルムの幅方向において、対向するように設けられた複数のチャックでフィルムの幅方向の両端を固定し、オーブン中で対向するチャック間の距離を徐々に広げて横延伸する方法である。
【0028】
まず、本実施形態にかかる位相差フィルムの製造方法に用いられる原料フィルムとしては、通常の熱可塑性樹脂からなる原反フィルムを用いることができる。熱可塑性樹脂について、以下に詳細に説明する。
【0029】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、環状オレフィン等のオレフィンの単独重合体又は2種類以上のオレフィンの共重合体、1種類以上のオレフィンと該オレフィンと重合可能な1種類以上の重合性モノマーとの共重合体であるポリオレフィン系樹脂、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのアクリル系樹脂、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体等のスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ化ビニル系樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン等のアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の飽和エステル系樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、セルロース誘導体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、各種熱可塑性エラストマー、及びこれらの架橋物や変性物などが挙げられる。熱可塑性樹脂は、2種類以上の異なる熱可塑性樹脂をブレンドして用いてもよいし、添加剤を適宜含有してもよい。
【0030】
上述の熱可塑性樹脂のうち、リサイクル性、耐溶剤性に優れ、また、焼却してもダイオキシン等を発生せず環境を悪化させることがない等の理由から、ポリオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。
【0031】
ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、炭素原子数4〜20のα−オレフィン、環状オレフィンなどが好ましい。
【0032】
炭素原子数4〜20のα−オレフィンとしては、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン、1−オクテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−プロピル−1−ヘプテン、2−メチル−3−エチル−1−ヘプテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタダセン、1−オクタテセン、1−ノナデセンなどが挙げられる。
【0033】
上記環状オレフィンとしては、例えば、通常ノルボルネンと呼ばれているビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンや、6−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジアルキルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、1−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、7−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンのような、メチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基が導入されたノルボンネン誘導体、ジメタノオクタヒドロナフタレンとも呼ばれているテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンや、8−アルキルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8,9−ジアルキルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンのようなジメタノオクタヒドロナフタレンの8位及び/又は9位に炭素数3以上のアルキル基が導入されたジメタノオクタヒドロナフタレン誘導体、1分子内に1個又は複数個のハロゲンが導入されたノルボルネンの誘導体、並びに8位及び/又は9位にハロゲンが導入されたジメタノオクタヒドロナフタレンの誘導体などが挙げられる。
【0034】
上述の「オレフィンと重合可能な1種類以上の重合性モノマー」としては、例えば、芳香族ビニル化合物、ビニルシクロヘキサンのような脂環式ビニル化合物、極性ビニル化合物、ポリエン化合物などが挙げられる。
【0035】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン及びその誘導体などが挙げられる。スチレン誘導体としては、スチレンに他の置換基が結合した化合物であって、例えば、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、o−エチルスチレン及びp−エチルスチレンのようなアルキルスチレン、ヒドロキシスチレン、t−ブトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニルベンジルアセテート、o−クロロスチレン、及びp−クロロスチレンのようなスチレンのベンゼン環に水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基、アシルオキシ基及びハロゲンなどが導入された置換スチレン、4−ビニルビフェニル及び4−ヒドロキシ−4’−ビニルビフェニルのようなビニルビフェニル系化合物、1−ビニルナフタレン及び2−ビニルナフタレンのようなビニルナフタレン系化合物、1−ビニルアントラセン及び2−ビニルアントラセンのようなビニルアントラセン化合物、2−ビニルピリジン及び3−ビニルピリジンのようなビニルピリジン化合物、3−ビニルカルバゾールのようなビニルカルバゾール化合物、並びにアセナフチレン化合物などが挙げられる。
【0036】
極性ビニル化合物としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリルレート及びエチルアクリレートなどのアクリル系化合物、並びに酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0037】
ポリエン化合物としては、例えば、共役ポリエン化合物、非共役ポリエン化合物等が挙げられる。共役ポリエン化合物としては、例えば、脂肪族共役ポリエン化合物、脂環式共役ポリエン化合物等が挙げられる。非共役ポリエン化合物としては、例えば、脂肪族非共役ポリエン化合物、脂環式非共役ポリエン化合物、芳香族非共役ポリエン化合物等が挙げられる。これらは、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、アラルキルオキシ基等の置換基によって置換されていてもよい。
【0038】
ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン・α−オレフィン共重合体)、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、エチレン・環状オレフィン共重合体、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(ブテン−1)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0039】
変性されたポリオレフィン系樹脂としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、アクリル酸、メタクリル酸、テトラヒドロフタル酸、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等の変性用化合物で変性された結晶性ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0040】
本明細書において、結晶性ポリオレフィン系樹脂とは、上述のポリオレフィン系樹脂のうち、JIS K7122に準拠した示差走査熱量測定において、−100〜300℃の範囲に観測される熱量が1J/gより大きい結晶融解ピーク、または結晶化熱量が1J/gより大きい結晶化ピークを有するポリオレフィン系樹脂をいう。
【0041】
良好な外観を有する位相差フィルムを得る観点から、−100〜300℃の範囲に観測される熱量が30J/gより大きい結晶融解ピーク、または結晶化熱量が30J/gより大きい結晶化ピークを有する結晶性ポリオレフィン系樹脂からなる原料フィルムを用いることが好ましい。
【0042】
結晶性ポリオレフィン系樹脂は、互いに異なる2種類以上の結晶性ポリオレフィン系樹脂をブレンドしたものでもよいし、結晶性ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂や添加剤を適宜含有してもよい。
【0043】
ポリオレフィン系樹脂のうち、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂としてはプロピレンの単独重合体、エチレン及び炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群より選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体、並びに該単独重合体と該共重合体との混合物を挙げることができる。
【0044】
α−オレフィンとしては、上述のオレフィン系樹脂を構成するオレフィンとして例示した炭素原子数4〜20のα−オレフィンなどが挙げられる。
【0045】
上述のα−オレフィンのなかでも、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましく、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ブテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン、1−オクテン、5−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−プロピル−1−ヘプテン、2−メチル−3−エチル−1−ヘプテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等が好ましい。
【0046】
上述の炭素原子数4〜12のα−オレフィンのうち、共重合性の観点から、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンがより好ましく、1−ブテン、1−ヘキセンがさらに好ましい。
【0047】
本発明の効果をより一層向上させる観点から、プロピレンの単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ペンテン共重合体、プロピレン・1−ヘキセン共重合体、プロピレン・1−オクテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ヘキセン共重合体、プロピレン・エチレン・1−オクテン共重合体が特に好ましい。また、本実施形態におけるポリプロピレン系樹脂が、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群より選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体である場合、該共重合体はランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0048】
本実施形態におけるポリプロピレン系樹脂が、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群より選択される1種以上のモノマー(コモノマー)とプロピレンとの共重合体である場合、該共重合体におけるコモノマー由来の構成単位の含有量は、透明性と耐熱性とのバランスの観点から、0質量%を超え40質量%以下であることが好ましく、0質量%を超え30質量%以下であることがより好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂が、2種類以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体である場合には、該共重合体に含まれる全てのコモノマー由来の構成単位の合計含有量が、上述の範囲内であることが好ましい。
【0049】
ポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、公知の重合用触媒を用いてプロピレンを単独重合する方法や、エチレン及び炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群より選択される1種以上のモノマーとプロピレンとを共重合する方法が挙げられる。
【0050】
ポリプロピレン系樹脂の製造方法に用いられる重合触媒としては、例えば、
(1)マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする固体触媒成分等からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第3成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒、等が挙げられる。
【0051】
上述の重合触媒の中で、マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子性供与性化合物とを組み合わせた触媒系が最も一般的に使用できる。より具体的には、有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物、及びテトラエチルジアルモキサンを好ましく用いることができる。電子供与性化合物としては、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランを好ましく用いることができる。
【0052】
マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、例えば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報等に記載された触媒系が挙げられる。メタロセン系触媒としては例えば、特許第2587251号、特許第2627669号、特許第2668732号に記載された触媒系が挙げられる。
【0053】
ポリプロピレン系樹脂の重合方法としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶剤重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマー中で行う気相重合法等が挙げられる。このうち塊状重合法または気相重合法が好ましい。これらの重合法は、バッチ式であってもよく、連続式であってもよい。
【0054】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのどの形式であってもよい。ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性の点からシンジオタクチック、又はアイソタクチックのプロピレン系重合体であることが好ましい。
【0055】
ポリプロピレン系樹脂は、分子量、プロピレン由来の構成単位の割合、タクチシティーなどが互いに異なる2種類以上のポリプロピレン系樹脂のブレンドでもよいし、ポリプロピレン系樹脂以外のポリマーや添加剤を適宜含有してもよい。
【0056】
本発明で用いる熱可塑性樹脂には、本発明の効果が得られる範囲で公知の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。
【0057】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤(HALS)、1分子中に例えばフェノール系とリン系の酸化防止機構と有するユニットを有する複合型の酸化防止剤などが挙げられる。
【0058】
紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ヒドロキシトリアゾール系などの紫外線吸収剤や、ベンゾエート系など紫外線遮断剤などが挙げられる。
【0059】
帯電防止剤としては、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型などが挙げられる。滑剤としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドや、ステアリン酸などの高級脂肪酸、及びその金属塩などが挙げられる。
【0060】
造核剤としては、例えばソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカンなどの高分子系造核剤等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては、無機系、有機系に関わらず、球状、又はそれに近い形状の微粒子を使用することができる。上記の添加剤は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
本実施形態における熱可塑性樹脂のメルトフローレート(以下、便宜上「MFR」という。)は、JIS K7210に準拠して測定することができる。測定の際、試験温度、公称荷重は、JIS K7210の附属書B表1に従って選定することができる。本実施形態における熱可塑性樹脂のMFRは、通常0.1〜50g/10分であり、好ましくは0.5〜20g/10分である。MFRがこのような範囲の熱可塑性樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく、均一なフィルム状物を成形することができる。なお、ポリプロピレン系樹脂の場合、MFRは、試験温度230℃、荷重21.18Nで測定することができる。
【0062】
次に、本実施形態に用いられる熱可塑性樹脂フィルム、すなわち原料フィルムについて詳細に説明する。本実施形態に用いられる原料フィルムとしては、通常の熱可塑性樹脂からなる原反フィルムを用いることができる。原料フィルムとして用いられる原反フィルムは、光学的に均質で、無配向、又はほぼ無配向なフィルムであることが好ましい。具体的には、面内位相差(R)が30nm以下の原反フィルムを用いることが好ましい。このような原反フィルムは、溶剤キャスト法や押出成形法によって製造することができる。
【0063】
溶剤キャスト法は、有機溶剤に熱可塑性樹脂を溶解した溶液を、離形性を有する二軸延伸ポリエステルフィルム等の基材上にダイコーターによりキャスティングした後、乾燥して有機溶剤を除去することにより、基材上にフィルムを形成する方法である。このような方法で基材上に形成されたフィルムは、基材から剥離して原反フィルムとして使用することができる。
【0064】
押出成形法は、熱可塑性樹脂を押出機内で溶融混練した後、Tダイより押し出し、ロールに接触させて冷却固化しながら引き取り、フィルムを得る方法である。この方法で製造されたポリプロピレン系樹脂フィルムは、そのまま原料フィルムとして用いることができる。なお、原反フィルムの製造コストの観点から、溶剤キャスト法よりも押出成形法の方が好ましい。
【0065】
原反フィルムを、上述のようなTダイを用いた押出成形法で製造するとき、Tダイより押し出された溶融体を冷却し固化させる方法としては、キャスティングロールとエアーチャンバーとを用いて冷却する方法(1)、キャスティングロールとタッチロールとにより挟圧する方法(2)、キャスティングロールと、該キャスティングロールにその周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製の無端ベルトとの間で挟圧する方法(3)などが挙げられる。冷却にキャスティングロールを用いる場合、透明性により優れる位相差フィルムを得るために、該キャスティングロールの表面温度は−15〜30℃であることが好ましく、−15〜15℃であることがより好ましい。
【0066】
キャスティングロールとタッチロールとにより挟圧する方法(2)で原反フィルムを製造する場合、ほぼ無配向の原反フィルムを得るために、タッチロールとしては、ゴムロール、または弾性変形可能な金属製無端ベルトからなる外筒と、該外筒の内部に弾性変形可能な弾性体からなるロールとを有し、かつ該外筒と弾性体ロールとの間が温度調節用媒体により満たされてなる構造のロール、あるいは高剛性の金属内筒と、該金属内筒の外側に配置された薄肉金属外筒からなるロールとを有し、かつ該外筒と内筒との間が温度調節用媒体により満たされてなる構造のロールを用いることが好ましい。
【0067】
タッチロールとしてゴムロールを使用する場合、鏡面状の表面を有する位相差フィルムを得るために、Tダイより押し出された溶融体は、キャスティングロールとゴムロールとの間で支持体とともに挟圧することが好ましい。支持体としては、厚みが5〜50μmの熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムが好ましい。
【0068】
キャスティングロールと、該キャスティングロールにその周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製の無端ベルトとの間で挟圧する方法(3)により原反フィルムを成形する場合、該無端ベルトは、キャスティングロールの周方向に該キャスティングロールと平行に配置された複数のロールによって保持されていることが好ましい。無端ベルトは、直径100〜300mmの二本のロールで保持されていることがより好ましい。なお、無端ベルトの厚みは100〜500μmであることが好ましい。
【0069】
光学的な均一性により優れる位相差フィルムを得るためには、原料フィルムとして用いられる原反フィルムの厚みムラは小さいことが好ましい。原反フィルムの厚みの最大値と最小値の差は10μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましい。
【0070】
本実施形態の予熱工程では、上記の方法等により得られ、上記特性を有する原反フィルムをそのまま用いてもよいが、ロングスパン縦延伸法やロール縦延伸法など公知の方法によって縦延伸された熱可塑性樹脂フィルムを原料フィルムとして用いることが好ましい。これによって、縦延伸と横延伸との逐次延伸によって二軸延伸された位相差フィルムを得ることができる。なお、本実施形態に係るテンター法によって原料フィルムの横延伸を実施した後、ロングスパン縦延伸法やロール縦延伸法など公知の方法によって縦延伸することも可能である。
【0071】
縦延伸方法としては、二つ以上のロールの回転速度差により原反フィルムを延伸する方法や、ロングスパン延伸法が挙げられる。ロングスパン延伸法とは、二つのニップロールからなるニップロール対を二組と、二組のニップロール対の間にオーブンを備える縦延伸機を用い、該オーブン中で原反フィルムを加熱しながら当該二組のニップロール対の回転速度差により延伸する方法である。得られる位相差フィルムの光学的な均一性が高いという観点から、ロングスパン縦延伸法が好ましい。ロングスパン縦延伸法において、エアーフローティング方式の熱風オーブンを用いることがより好ましい。
【0072】
エアーフローティング方式の熱風オーブンとは、該熱風オーブン中に原反フィルムを導入した際に、該原反フィルムの両面に該オーブン内に備えられた上側ノズルと下側ノズルとから熱風を吹き付けることが可能な構造を有するものである。複数の上側ノズルと下側ノズルがフィルムの流れ方向(延伸方向)に交互に設置されている。該熱風オーブン中、原反フィルムが上側ノズルと下側ノズルとの双方に接触しないようにして、原反フィルムを縦延伸することができる。この場合の延伸温度(すなわち、熱風オーブン中の雰囲気の温度)は、原反フィルムに含まれる熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、当該熱可塑性樹脂の(Tg−20)〜(Tg+30)℃の温度範囲とすることが好ましい。一方、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、当該熱可塑性樹脂の(Tm−40)〜(Tm+10)℃の温度範囲とすることが好ましい。なお、Tgはガラス転移温度を示し、Tmは融点を示す。
【0073】
本明細書におけるTgは、JIS K7121に従って求められる中間点ガラス転移温度を意味し、具体的には、示差熱走査熱量計(DSC)などを用い、サンプルを一度融点以上に加熱したのち、所定の速度で−30℃(ポリプロピレン系樹脂の場合)程度まで冷却し、その後、所定の速度で昇温しながら測定して得られるDSC曲線の屈曲点より求められる値である。なお、冷却温度は、樹脂の種類によって適宜変更することができる。
【0074】
本明細書における融点は、JIS K7121に従って求められる、示差走査熱量測定おける融解ピーク温度のことである。結晶性ポリオレフィン系樹脂の融点(Tm)は、通常80〜300℃である。
【0075】
縦延伸に用いられる熱風オーブンが、それぞれ独立で温度調整可能である2ゾーン以上に区分されている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。ただし、それぞれのゾーンの温度(熱風オーブン中の雰囲気の温度)は、上述の温度範囲を満たすことが好ましい。また、熱風オーブンは、フィルムの進行方向と垂直に2〜4ゾーンに区分されていることが好ましい。
【0076】
縦延伸倍率は、1.01〜3.0倍とすることができる。なお、光学的な均一性により優れる位相差フィルムを得る観点から、縦延伸倍率は、1.05〜2.5倍であることが好ましい。
【0077】
縦延伸に用いられる熱風オーブンの入口側に設けられるニップロールの回転速度は、特に限定されず、通常1〜20m/分である。なお、光学的な均一性により優れる位相差フィルムが得られるため、3〜10m/分であることが好ましい。
【0078】
縦延伸に用いられる熱風オーブンのフィルム長さ方向の全長は、特に限定はされず、1〜15mとすることができる。光学的な均一性により優れる位相差フィルムを得る観点から、該全長は2〜10mであることが好ましい。
【0079】
縦延伸に用いられる熱風オーブンが複数のゾーンに区分される場合、各ゾーンに設けられる熱風吹き出し用のノズルの本数は、通常5〜30本とすることができる。光学的な均一性により優れる位相差フィルムを得る観点から、当該ノズルの本数は8〜20本であることが好ましい。ノズル本数が多すぎるとフローティングしているフィルムの曲率が大きくなりすぎる傾向がある。一方、ノズル本数が少なすぎるとフィルムがノズルの間で浮き難い、すなわちフローティングし難い傾向がある。
【0080】
<原料フィルムの横延伸>
図1は、本発明に係る位相差フィルムの製造方法の好適な実施形態を模式的に示す工程図である。この位相差フィルムの製造方法は、原料フィルム20を熱風で予熱する予熱工程、予熱した原料フィルム20を熱風で加熱しながら延伸して延伸フィルム22を得る延伸工程、及び延伸フィルム22を熱風で加熱して安定化させる熱固定工程を有する。
【0081】
本実施形態に係る位相差フィルムの製造方法はテンター法による方法である。当該方法に用いられるオーブン100は、予熱工程を行う予熱ゾーン10、延伸工程を行う延伸ゾーン12、及び熱固定工程を行う熱固定ゾーン14を備える。オーブン100としては、それぞれのゾーンの温度を独立に調節できるものが好ましい。
【0082】
図2は、本発明に係る位相差フィルムの製造方法の好適な実施形態を模式的に示す工程断面図である。オーブン100内の上面100aには、複数の上側ノズル30が設けられている。オーブン100内の下面100bには、複数の下側ノズル32が設けられている。上側ノズル30と下側ノズル32とは、上下方向に対向するように設けられている。
【0083】
詳しくは、予熱ゾーン10には、オーブン100内の上面及び下面に4対のノズル(計8本)が設けられており、延伸ゾーン12には10対のノズル(計20本)が設けられており、熱固定ゾーン14には4対のノズル(計8本)が設けられている。各ゾーンにおける隣り合うノズルの間隔は、オーブンの構造を簡素化しつつ原料フィルム及び延伸フィルムを均一に加熱する観点から、0.1〜1mであることが好ましく、0.1〜0.5mであることがより好ましく、0.1〜0.3mであることがさらに好ましい。
【0084】
予熱ゾーン10,延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14の上面100aに設けられた上側ノズル30は、下部に吹き出し口を有しており、下方向(矢印B方向)に熱風を吹き出すことができる。一方、予熱ゾーン10,延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14の下側にそれぞれ設けられた下側ノズル32は、上部に吹き出し口を有しており、上方向(矢印C方向)に熱風を吹き出すことができる。なお、図2には示していないが、上側ノズル30及び下側ノズル32は、原料フィルム及び延伸フィルムを幅方向に均一に加熱することができるように、図2の紙面に垂直方向に所定のサイズの奥行きを有している。
【0085】
本実施形態の位相差フィルムの製造方法では、予熱ゾーン10,延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14のうち、少なくとも一つのゾーンにおける全ての上側ノズル30及び全ての下側ノズル32からの吹き出し口における熱風の吹き出し風速が2〜12m/秒であり、原料フィルム及び延伸フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり、ノズル30(32)一本当たりの吹き出し口からの吹き出し風量が0.1〜1m/秒である。当該吹き出し風速は、光学的な均一性により一層優れる位相差フィルムを得る観点から、2〜10m/秒であることが好ましく、3〜8m/秒であることがより好ましい。また、当該吹き出し風量は、光学的な均一性により一層優れる位相差フィルムを得る観点から、フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.1〜0.5m/秒であることが好ましい。
【0086】
予熱ゾーン10,延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14のうち、予熱ゾーン10の当該吹き出し風速が2〜12m/秒であり、ノズル30,32一本当たりの吹き出し口からの吹き出し風量がフィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.1〜1m/秒であることが好ましい。予熱ゾーン10においては、原料フィルム20が室温から延伸可能な温度まで加熱されるが、フィルム幅は変わらないままチャック18で保持されているため、熱膨張により垂れやすくなっている。予熱ゾーン10における全てのノズル30,32の吹き出し口における熱風の吹き出し風速が2〜12m/秒であり、ノズル30,32一本当たりの吹き出し風量がフィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.1〜1m/秒であれば、原料フィルム20を十分に予熱することができ、且つ原料フィルム20の垂れやバタつきを抑制することができる。なお、予熱ゾーン10における全てのノズル30,32の吹き出し口における熱風の吹き出し風速が2〜10m/秒であることがより好ましい。
【0087】
熱風の吹き出し風速は、ノズル30,32の熱風吹き出し口において、市販の熱式風速計を用いて測定することができる。また、吹き出し口からの吹き出し風量は、吹き出し風速と吹き出し口の面積との積により求めることができる。なお、熱風の吹き出し風速は、測定精度の観点から、各ノズルの吹き出し口で10点程度の測定を行い、その平均値とすることが好ましい。
【0088】
予熱ゾーン10,延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14の全てのゾーンにおいて、全てのノズル30,32の熱風吹き出し口における熱風の吹き出し風速が2〜12m/秒であることがより好ましく、2〜10m/秒であることがさらに好ましい。これによって、位相差が一層十分に均一であって、一層十分に高い軸精度を有する熱可塑性樹脂製の位相差フィルムを得ることができる。また、予熱ゾーン10,延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14の全てのゾーンにおいて、ノズル30,32一本当たりの吹き出し風量がフィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.1〜1m/秒であることがより好ましい。
【0089】
本実施形態では、オーブン100内に原料フィルム20を導入しない状態において、フィルム25が保持されるべき位置における熱風の風速が、予熱ゾーン10、延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14からなる群より選ばれる少なくとも1つ以上のゾーンで、5m/秒以下であることが好ましい。このような熱風を用いてフィルム25を加熱することによって、光学的な均一性により十分に優れた位相差フィルムを得ることができる。特に、予熱ゾーン10において、当該風速が5m/秒以下の熱風を用いることが好ましい。これは、予熱ゾーン10でオーブン100に導入された原料フィルム20が室温から延伸可能な温度まで加熱されるが、フィルム25の横幅はチャック18で保持されているために、熱膨張により垂れやすくなる。そこで、予熱ゾーン10における当該風速を5m/秒以下とすることによって、フィルム25の垂れやバタツキを予防することができる。
【0090】
予熱ゾーン10,延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14の全てのゾーンにおいて、それぞれのノズル30,32の吹き出し口における熱風の吹き出し風速の幅方向(図2の紙面に垂直な方向)における最大値と最小値との差が4m/秒以下であることが好ましい。このように幅方向に風速のばらつきが少ない熱風を用いることによって、幅方向の光学的な均一性が一層高い位相差フィルムを得ることができる。このように風速のばらつきが少ない熱風を用いることによって、光学的な均一性がより一層高い位相差フィルムを得ることができる。
【0091】
オーブン100において、予熱ゾーン10、延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14からなる群より選ばれる少なくとも1つ以上のゾーンにおいて、互いに対向する上側ノズル30と下側ノズル32との間隔L(最短距離)は、150mm以上であることが好ましく、150〜600mmであることがより好ましく、150〜400mmであることがさらに好ましい。このような間隔Lで上側ノズルと下側ノズルを配置することによって、各工程におけるフィルムのバタつきを一層確実に抑制することができる。
【0092】
また、予熱ゾーン10、延伸ゾーン12及び熱固定ゾーン14からなる群より選ばれる少なくとも1つ以上のゾーンに備えられるそれぞれのノズル30,32の吹き出し口における熱風の幅方向(図2の紙面に垂直方向)における最高温度と最低温度との差(ΔT)が、全て2℃以下であることが好ましく、全て1℃以下であることがより好ましい。このように幅方向における温度差が十分に小さい熱風を用いてフィルムを加熱することによって、幅方向の配向性のバラつきを一層抑制することができる。なお、原料フィルムがポリプロピレン系樹脂からなる場合、用いられる熱風は、当該原料フィルムを延伸する温度である80〜170℃の温度範囲で、上記温度差(ΔT)は2℃以下であることが好ましく、1℃以下であることがより好ましい。
【0093】
位相差フィルムは、液晶表示装置の表示部に組み込んで使用されるため、異物などの付着量が少ないことが好ましい。このため、オーブン100中のクリーン度は清浄度クラス1000以下とすることが好ましい。本明細書における「清浄度クラス」とは、米国連邦規格(USA FED.STD)209Dにて規定される清浄度クラスをいうものとし、「清浄度クラス1000」とは、空気中に含まれる粒径0.5μm以下の微粒子が、1立方フィート(1ft)当たりに1000個を超えない雰囲気であることを意味する。ちなみに、米国連邦規格209Dにて規定される清浄度クラス1000は、JIS B 9920「クリーンルームの空気清浄度の評価方法」にて規定される清浄度クラス6に相当する。
【0094】
図3は、本発明の位相差フィルムの製造方法に好適に用いられるジェットノズルの形状の一例を示す模式断面図である。図4は、本発明の位相差フィルムの製造方法に好適に用いられるパンチングノズルの形状の一例を示す模式断面図である。図5は、本発明の位相差フィルムの製造方法に好適に用いられるパンチングノズルの形状の別の例を示す模式断面図である。本実施形態におけるオーブン100は、図3に示すようなジェットノズル及び図4及び図5に示すようなパンチングノズルの一方又は双方を備えることが好ましい。
【0095】
図3はジェットノズル34を示し、図4及び図5はそれぞれパンチングノズル36,38を示す。なお、図3のジェットノズル34、図4のパンチングノズル36、図5のパンチングノズル38はオーブン100内の上面100aに設けられて下向き(矢印B方向)に熱風を吹き出す構造となっている。また、ジェットノズル34、パンチングノズル36、パンチングノズル38は、オーブン100内の下面100bに設けられて、上向き(図2中矢印C方向)に熱風を吹き出す構造となっている。図3〜5には示していないが、ノズル34,36,38は、図2の紙面に垂直な方向に所定のサイズの奥行きを有している。なお、該奥行きの長さは、フィルム25の幅の長さよりも長いことが好ましい。
【0096】
ジェットノズル34は、フィルムの幅方向にのびるスリット40を熱風の吹き出し口として有する。スリット40のスリット幅Dは、5mm以上であることが好ましく、5〜20mmであることがより好ましい。スリット幅Dを5mm以上にすることによって、得られる位相差フィルムの光学的な均一性をより一層向上させることができる。なお、ジェットノズル34一本当たりの吹き出し口の面積は、ジェットノズル34のノズルの幅方向(図3の奥行き方向)の長さとスリット幅Dとの積によって求めることができる。このノズル一本当たりの吹き出し口の面積と吹き出し風速との積が、ノズル一本当たりの熱風の吹き出し風量となる。この熱風の吹き出し風量を、フィルムの幅方向に沿ったスリット40の長さで割ることによって、フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たりの熱風の吹き出し風量を求めることができる。
【0097】
パンチングノズル36は、その長手方向に垂直な断面が図4に示すように、長方形の形状を有している。パンチングノズル36は、フィルム25と対向する面である下側の面36aに複数の例えば円形の開口42を有する。パンチングノズル36の熱風の吹き出し口は、面36aに設けられる複数の開口42によって構成される。複数の開口42は熱風の吹き出し口であり、熱風は開口42から所定の風速で吹き出される。開口42は、フィルム25の長手方向に複数配置されるとともに、幅方向にも複数配置されている。開口42は、例えば千鳥状に配置することができる。なお、パンチングノズル36一本当たりの吹き出し口の面積は、一本のパンチングノズル36に設けられる全ての開口42の面積の和によって求めることができる。このノズル一本当たりの吹き出し口の面積と吹き出し風速との積が、ノズル一本当たりの熱風の吹き出し風量となる。この熱風の吹き出し風量を、フィルムの幅方向に沿った長さで割ることによって、フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たりの熱風の吹き出し風量を求めることができる。
【0098】
パンチングノズル38は、その長手方向に垂直な断面が図5に示すように、フィルム25に対向する面38aに向かって末広がり状である台形形状を有している。パンチングノズル38は、フィルムに対向する面である下側の面38aに複数の例えば円形の開口44を有する。パンチングノズル38の熱風の吹き出し口は、面38aに設けられる複数の開口44によって構成される。複数の開口44は熱風の吹き出し口であり、熱風は開口44から所定の風速で吹き出される。開口44は、フィルム25の長手方向に複数配置されるとともに、幅方向にも複数配置されている。開口44は、例えば千鳥状に配置することができる。なお、パンチングノズル38一本当たりの吹き出し口の面積は、一本のパンチングノズル38に設けられる全ての開口44の面積の和によって求めることができる。このノズル一本当たりの吹き出し口の面積と吹き出し風速との積が、ノズル一本当たりの熱風の吹き出し風量となる。
【0099】
パンチングノズル36又は38を用いる場合の、ノズルの吹き出し口における熱風の幅方向における最大吹き出し風速と最小吹き出し風速との差とは、同一ノズル36又は38上に設けられる複数の開口42又は44から吹き出される熱風の最大吹き出し速度と最小吹き出し速度との差として求めることができる。ノズルの吹き出し口における熱風の幅方向における最高温度と最低温度との差も同様に求めることができる。
【0100】
オーブン100内に設けられるノズルの全てがパンチングノズル36又は38であると、オーブン100全体における熱風吹き出し口の面積の合計を大きくすることができる。このため、フィルム25にあたる熱風の風圧を小さくすることができ、フィルム25のばたつきを一層小さくすることができる。これによって、得られる位相差フィルムの光学的な均一性を一層向上させることができる。特に予熱ゾーン10においては、原料フィルム20が室温から延伸可能な温度まで加熱されるが、原料フィルム20の幅(横方向の長さ)は変わらないままチャックで保持されているため、熱膨張により垂れやすくなる傾向がある。しかしながら、予熱ゾーン10にパンチングノズル36又は38を用いることにより、原料フィルム20の垂れやバタつきを一層抑制することができる。
【0101】
パンチングノズル36,38の面36a,38aに設けられる開口42,44のそれぞれのサイズ及び数は、各開口42,44における熱風の吹き出し風速が2〜12m/秒となり、且つそれぞれのノズルからの吹き出し風量がフィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.1〜1m/秒となる範囲内で適宜調整することができる。
【0102】
パンチングノズル36,38の各開口からの吹き出し風速をより均一にする観点から、開口42,44の形状は、円形であることが好ましい。この場合、開口42,44の直径は2〜10mmであることが好ましく、3〜8mmであることがより好ましい。
【0103】
パンチングノズル36,38を用いる場合、ノズル一本当たりの面36a,38aのフィルム長手方向(流れ方向)の長さが50〜300mmであることが好ましい。さらに隣接するパンチングノズルの間隔が、0.3m以下であることが好ましい。また、パンチングノズル36,38のフィルム幅方向の長さに対する該パンチングノズル36,38の開口42,44の面積の総和(吹き出し口の面積)の比(パンチングノズルの開口の面積の総和(m)/該パンチングノズルのフィルム幅方向の長さ(m))が、0.008m以上であることが好ましい。
【0104】
このようなパンチングノズル36,38を用いることにより、熱風の吹き出し口の面積を大きくすることができる。これによって、熱風の風速を十分に下げ、かつ十分な風量で熱風を吹き出すことが可能となり、フィルムをより一層均一に加熱することができる。したがって、位相差がより一層均一で、より一層高い軸精度を有するフィルムを製造することができる。
【0105】
本実施形態の位相差フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを熱風で加熱する予熱工程と、予熱した熱可塑性樹脂フィルムを熱風で加熱しながらその幅方向に延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、延伸フィルムを熱風で加熱する熱固定工程と、を有する。以下、本実施形態に係る位相差フィルムの製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0106】
(予熱工程)
予熱工程では、熱可塑性樹脂からなる幅W1の原料フィルム20をオーブン100内の予熱ゾーン10に導入して予熱を行う(図1)。予熱工程は、原料フィルム20を幅方向(横方向)に延伸する延伸工程の前に行われる工程であり、原料フィルム20を延伸するのに十分な温度にまで原料フィルム20を加熱する工程である。
【0107】
チャック18で固定された原料フィルム20は、チャック18のA方向への移動によって予熱ゾーン10に導入される。原料フィルム20は、この予熱ゾーン10で加熱されながら、チャック18の移動に伴いA方向に移動する。オーブン100内の原料フィルム20の移動速度は、通常0.1〜50m/分の範囲内で適宜調整することができる。
【0108】
予熱工程における予熱温度は、原料フィルム20に含まれる熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、(Tg−20)〜(Tg+30)℃とすることが好ましい。一方、原料フィルム20に含まれる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、(Tm−40)〜(Tm+20)℃とすることが好ましい。なお、本明細書における予熱温度とは、オーブン100内の予熱工程を行う予熱ゾーン10内の雰囲気の温度をいう。
【0109】
原料フィルム20がポリプロピレン系樹脂からなる場合、得られる位相差フィルムの位相差の均一性を良好にするために、予熱温度は、ポリプロピレン系樹脂の融点をTとした場合に、(T−10)〜(T+10)℃の範囲内とすることが好ましく、(T−5)〜(T+5)℃とすることがより好ましい。
【0110】
予熱工程における原料フィルム20は、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、次に行われる延伸工程開始前までに(Tg−20)〜(Tg+30)℃の範囲に加熱されることが好ましい。一方、原料フィルム20に含まれる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、(Tm−40)〜(Tm+20)℃の範囲に加熱されることが好ましい。
【0111】
予熱工程が行われる予熱ゾーン10は、原料フィルム20の進行方向における長さが0.5〜10mであることが好ましい。予熱ゾーン10の長さが0.5m未満の場合、原料フィルムが十分に予熱されず、位相差フィルムの光学的な均一性が損なわれる傾向がある。一方、予熱ゾーン10の長さが10mを超える場合、オーブン100のサイズが大きくなって位相差フィルムの製造コストが上昇する傾向がある。
【0112】
(延伸工程)
延伸工程は、オーブン100内の延伸ゾーン12において行われる。予熱ゾーン10における予熱工程終了後、原料フィルム20は、矢印A方向に移動して予熱ゾーン10から延伸ゾーン12に導入される。
【0113】
延伸工程は、予熱工程で予熱した原料フィルム20を、加熱しながら幅方向(矢印A方向に垂直な方向)に延伸する工程である。この延伸工程での延伸温度(延伸ゾーン12内の雰囲気の温度)は予熱温度より低い温度としてもよいし、高い温度としてもよいし、同じ温度としてもよい。原料フィルム20がポリプロピレン系樹脂からなる場合、予熱された原料フィルム20を予熱工程よりも低い温度で延伸することにより、原料フィルム20を一層均一に延伸することができる。その結果、位相差の均一性に一層優れた位相差フィルムが得ることができる。原料フィルム20がポリプロピレン系樹脂からなる場合の延伸温度は、予熱工程における予熱温度より5〜20℃低いことが好ましく、7〜15℃低いことがより好ましい。なお、本明細書における延伸温度とは、オーブン100内の延伸工程を行う延伸ゾーン12内の雰囲気の温度をいう。
【0114】
延伸工程における原料フィルム20の横延伸は、原料フィルム20を固定するチャック18を幅方向(矢印A方向とは垂直な方向)に拡げることによって行われる。つまり、チャック18がA方向に移動しながら、徐々に幅方向に拡がることによって、原料フィルム20が横方向に引っ張られて横延伸される。この延伸工程によって、原料フィルム20は幅W1から幅W2に横延伸される。
【0115】
延伸工程における原料フィルム20の横延伸倍率は、2〜10倍であることが好ましい。得られる位相差フィルムの光学的な均一性を一層向上させる観点から、該横延伸倍率は4〜7倍であることがより好ましい。
【0116】
延伸工程が行われる延伸ゾーン12は、原料フィルム20の進行方向Aにおける長さが0.5〜10mであることが好ましい。延伸ゾーン12の長さが0.5m未満の場合、原料フィルム20が十分に延伸されず、位相差フィルムの光学的な均一性が損なわれる傾向がある。一方、延伸ゾーン12の長さが10mを超える場合、オーブン100のサイズが大きくなって位相差フィルムの製造コストが上昇する傾向がある。
【0117】
本実施形態では、延伸工程で原料フィルム20の横延伸のみを行ったが、縦延伸と横延伸とを両方行うことも可能である。この場合、原料フィルム20を固定するチャック18によって、原料フィルム20を幅方向(矢印A方向とは垂直な方向)と長さ方向(矢印A方向と平行な方向)に同時又は逐次に引っ張ることによって行うことができる。なお、原料フィルム20の長さ方向の延伸は、延伸ゾーン12において隣り合うチャック18の間隔を拡げることによって行うことができる。
【0118】
(熱固定工程)
延伸工程は、オーブン100内の熱固定ゾーン14において行われる。延伸ゾーン12における延伸工程終了後、延伸された延伸フィルム22は、矢印A方向に移動して延伸ゾーン12から熱固定ゾーン14に導入される。
【0119】
熱固定工程は、延伸工程終了時における横幅W2を保った状態で、延伸フィルム22を熱固定温度(熱固定ゾーン14内の雰囲気の温度)に保たれた熱固定ゾーン14で、加熱することにより、延伸フィルム22の光学的特性を安定化させる工程である。熱固定温度は、延伸工程における延伸温度より低い温度、高い温度又は同じ温度とすることができる。位相差フィルムの位相差や光軸などの光学的特性の安定性を一層向上させる観点から、熱固定温度は、延伸温度よりも10℃低い温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの温度範囲内であることが好ましい。
【0120】
熱固定工程が行われる熱固定ゾーン14は、原料フィルム20の進行方向Aにおける長さが0.5〜10mであることが好ましい。熱固定ゾーン14の長さが0.5m未満の場合、延伸フィルム22が十分に安定化されず、位相差フィルムの光学的な均一性が損なわれる傾向がある。一方、熱固定ゾーン14の長さが10mを超える場合、オーブン100のサイズが大きくなって位相差フィルムの製造コストが上昇する傾向がある。
【0121】
本実施形態に係る位相差フィルムの製造方法は、更に熱緩和工程を有してもよい。この熱緩和工程は、延伸工程と熱固定工程との間に行うことができる。このため、熱緩和工程は、他のゾーンから独立して温度設定が可能な熱緩和ゾーンを、延伸ゾーン12と熱固定ゾーン14との間に設けて行ってもよいし、熱固定ゾーン14内で行ってもよい。
【0122】
熱緩和工程では、延伸工程においてフィルムを所定の幅W2に延伸した後、隣り合うチャックの間隔を数%(好ましくは0.1〜10%)だけ狭めることによって、延伸された延伸フィルム22から無駄な歪を取り除くことができる。この歪を取り除くことによって、光学的な均一性により一層優れる位相差フィルムを得ることができる。
【0123】
位相差フィルムに求められる位相差は、該位相差フィルムが組み込まれる液晶表示装置の種類により異なるが、通常、面内位相差Rは30〜300nmである。後述する垂直配向(VA)モード液晶ディスプレイに使用する場合、優れた視野角特性を確保する観点から、面内位相差Rは40〜70nmであることが好ましく、厚み方向位相差Rthは90〜230nmであることが好ましい。位相差フィルムの厚みは、通常10〜100μmであり、好ましくは10〜60μmである。位相差フィルムを製造する際の縦延伸や横延伸を行う際の延伸倍率や温度等の延伸条件と、製造する位相差フィルムの厚みとを制御することにより、所望の位相差を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0124】
本明細書における位相差フィルムの面内位相差R及び厚み方向位相差Rthは、それぞれ、下記式(I)及び(II)で定義される。
=(n−n)×d・・・(I)
th={(n+n)/2−n}×d・・・(II)
式(I)及び式(II)において、nは、位相差フィルムの面内の遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率を示し、nは、位相差フィルムの面内の進相軸方向(屈折率が最小となる方向)の屈折率を示す。また、nは、位相差フィルムの厚み方向の屈折率を示し、dは、位相差フィルムの厚さ(単位:nm)を示す。
【0125】
本明細書における光軸とは、位相差フィルムの面内で屈折率が最大となる方位、すなわち面内遅相軸を意味する。また、光軸の角度とは、熱可塑性樹脂フィルムの延伸方向と、該熱可塑性樹脂フィルムの面内遅相軸とがなす角度を意味し、配向角と呼ばれることもある。すなわち、光軸の角度は、熱可塑性樹脂フィルムの延伸方向を基準線(0°)とし、該基準線と面内遅相軸とのなす角度をいう。なお、光軸の角度は、市販の偏光顕微鏡や自動複屈折計を用いて測定することができる。
【0126】
本実施形態に係る位相差フィルムの製造方法により、例えば、延伸フィルム22の面内(500mm幅×500mm長さの面内)の位相差の最大値と最小値との差が15nm以下で、フィルムの幅方向500mmの光軸の角度を測定した場合に光軸が−5〜+5°の範囲である、光学的な均一性が高い位相差フィルムを得ることができる。
【0127】
この位相差フィルムは、種々の偏光板や液晶層などと積層されて、携帯電話、携帯情報端末(Personal Digital Assistant:PDA)、パソコン、大型テレビ等の液晶表示装置として好ましく用いることができる。
【0128】
本実施形態にかかる位相差フィルムを積層する液晶表示装置(LCD)としては、光学補償ベンド(Optically Compensated Bend:OCB)モード、垂直配向(Vertical Alignment:VA)モード、横電界(In−Plane Switching:IPS)モード、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor:TFT)モード、ねじれネマティック(Twisted Nematic:TN)モード、超ねじれネマティック(Super Twisted Nematic:STN)モードなど種々のモードの液晶表示装置が挙げられる。
【0129】
本実施形態に係る製造方法によれば、高い軸精度と均一な位相差を有する、光学的均一性に優れた熱可塑性樹脂製の位相差フィルムを得ることができる。この位相差フィルムは、特に大型液晶テレビなどの大画面の液晶ディスプレイに用いられた場合でも、光学的な不均一性に由来する位相差や光軸のムラが殆どなく、視野角依存性を改善する効果を有するものである。また、軸精度が高く、均一な位相差を有する位相差フィルムを備える上述の液晶表示装置は、視野角特性及び耐久性に優れるものである。
【0130】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0131】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0132】
実施例及び比較例で用いたポリプロピレン系樹脂のキシレン可溶成分量及びエチレン含有量は、以下の手順で求めた。
【0133】
<キシレン可溶成分量(CXS)>
ポリプロピレン系樹脂の試料1gを沸騰(還流)状態にあるキシレン100mlに完全に溶解させた後、20℃に降温し、同温度で4時間静置した。その後、濾過により析出物と濾液とに分別し、濾液からキシレンを留去して生成した固形物を減圧下70℃で乾燥した。乾燥して得られた残存物の質量の当初試料の質量(1g)に対する百分率を、該ポリプロピレン系樹脂の20℃キシレン可溶成分量(CXS)とした。
【0134】
<エチレン含有量>
ポリプロピレン系樹脂について、高分子分析ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法によってIRスペクトル測定を行い、該ポリプロピレン系樹脂中のエチレン由来の構成単位の含量を求めた。
【0135】
(実施例1)
<押出成形(原反フィルム)>
ポリプロピレン系樹脂(プロピレン−エチレンランダム共重合体、Tm=136℃、MFR=8g/10分、エチレン含有量=4.6質量%、CXS=4質量%)を、シリンダー温度を250℃とした65mmφ押出機に投入して溶融混練し、65kg/hの押出量で前記押出機に取り付けられた1200mm巾のTダイより押出した。
【0136】
押出された溶融ポリプロピレン系樹脂を、12℃に温度調節された400mmφのキャスティングロールと、12℃に温調した金属スリーブからなる外筒及びその内部にある弾性体ロールから構成されるタッチロールとにより挟圧して冷却することにより、厚さ80μm、幅940mmのポリプロピレン系樹脂フィルムに加工した。エアーギャップは115mm、キャスティングロールとタッチロールとの間で溶融ポリプロピレン系樹脂を挟圧した距離は20mmであった。
【0137】
<縦延伸>
得られたポリプロピレン系樹脂フィルムを、2組のニップロール対と当該2組のニップロール対の間にエアーフローティング方式のオーブンとを備えるロングスパン縦延伸機に導入し、縦延伸を行った。当該オーブンは、ポリプロピレン系樹脂フィルムの入口側の第1ゾーンと出口側の第2ゾーンとに区分することができ、各ゾーンの長さは1.5m(オーブン全長:3.0m)であった。
【0138】
縦延伸は、第1ゾーンの温度を122℃、第2ゾーンの温度を126℃、ポリプロピレン系樹脂フィルムのオーブン入口における速度を6m/分、縦延伸倍率2倍の条件で行った。縦延伸された縦延伸フィルムの厚みは57μm、幅は650mmであった。この縦延伸フィルムの面内位相差Rを、幅方向の中央部分で幅500mmの範囲を50mm間隔で11点測定した。面内位相差Rの平均値は670nm、厚み方向位相差Rthは350nmであった。
【0139】
<横延伸>
次に、テンター法により、この縦延伸フィルムの横延伸を行って位相差フィルムを作製した。テンター法に用いるオーブンは、縦延伸フィルムの流れ方向における上流側(オーブンの入口側)から、熱風の温度及び風速をそれぞれ独立して制御可能な第1室(長さ1.2m)、第2室(長さ1.3m)、第3室(長さ1.3m)、第4室(長さ0.9m)(オーブン全長:4.7m)を備えており、第1室を予熱ゾーン、第2室と第3室を延伸ゾーン、第4室を熱固定ゾーンとして用いた。なお、各室及びオーブン全体の長さは、フィルムの流れ方向に沿った長さである。
【0140】
予熱ゾーン、延伸ゾーン及び熱固定ゾーンにおけるノズルの種類は表1に示すとおりとした。すなわち、予熱ゾーンと熱固定ゾーンにおける熱風吹き出し用のノズルにはパンチングノズルを用い、延伸ゾーンにおける熱風吹き出し用のノズルにはジェットノズルを用いた。予熱ゾーンには12本(6対)、熱固定ゾーンには10本(5対)のパンチングノズルが設けられ、各パンチングノズルはオーブン内において均一の間隔で配置されていた。対向する上側ノズルと下側ノズルとの間隔は、200mmであった。なお、パンチングノズルは、図5の形状を有するものであり、パンチングノズル38のフィルム幅方向の長さは1100mmであった。また、各パンチングノズル38における円形の各開口44の直径は5mmであった。
【0141】
各ゾーンにおける各ノズルの吹き出し口の面積は表2に示すとおりであった。すなわち、予熱ゾーン及び熱固定ゾーンに設けられた各パンチングノズル38における開口44のノズル一本当たりの合計面積、すなわち吹き出し口の面積は、フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.011mであった。各パンチングノズル38における面38aのフィルムの流れ方向に沿った長さは100mmであった。
【0142】
延伸ゾーンには24本(12対)のジェットノズルが設けられ、各ジェットノズルはオーブン内において均一の間隔で配置されていた。対向する上側ノズルと下側ノズルとの間隔は、200mmであった。なお、ジェットノズルは、図3の形状を有するものであり、ジェットノズル34のフィルム幅方向の長さは1100mmであった。各ジェットノズル34におけるスリット40のスリット幅Dは5mmであり、それぞれのノズルのスリット40の面積、すなわち吹き出し口の面積は、フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.005mであった。
【0143】
テンター法による横延伸は、フィルムをオーブンの上下方向の中間を通過させることによって行った。具体的には、横延伸は、予熱ゾーンの予熱温度を140℃、延伸ゾーンの延伸温度を130℃、熱固定ゾーンの熱固定温度を130℃、横延伸倍率を4倍、ライン速度1m/分、オーブン出口におけるチャック間距離600mmの条件で行い、位相差フィルムを得た。なお、ここでライン速度とは、オーブン内におけるフィルムの移動速度を意味する。
【0144】
各ゾーンにおける各ノズルからの熱風の吹き出し風速は表2に示すとおりとした。すなわち、予熱ゾーン及び熱固定ゾーンにおいて、それぞれのパンチングノズル38の吹き出し口における熱風の吹き出し風速は11m/秒とし、パンチングノズル38一本当たりの吹き出し風量は、フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.121m/秒とした。また、延伸ゾーンにおいて、それぞれのジェットノズル34の吹き出し口における熱風の吹き出し風速は15m/秒とし、ジェットノズル34一本当たりの吹き出し風量は、延伸フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.075m/秒とした。
【0145】
なお、各パンチングノズル38及び各ジェットノズル34の吹き出し口における熱風の最大吹き出し風速と最小吹き出し風速の差は0.7m/秒であった。また、各ゾーンに配置された各パンチングノズル38及び各ジェットノズル34の熱風の幅方向における温度差は、最大で1℃であった。なお、熱風の風速、風量及び温度差は以下の方法によって測定された値である。
【0146】
<熱風の風速及び風量の測定>
パンチングノズル38及びジェットノズル34から吹き出される風速は、次の通り測定した。フィルムの移動方向に対して、各室のフィルム流れ方向の中央付近に配置された上側ノズルと下側ノズルのそれぞれにおいて、各ノズルの幅方向(奥行き方向)の両端から中央部に向かって100mmの位置にある一対の点と、該一対の点の間を均等に4等分に区分した場合の3つの区分点との計5点で、熱線式風速計を用いて熱風の風速を測定した。すなわち、各室あたり、上側ノズルと下側ノズルとで合計10点の熱風の風速を市販の熱線式風速計で測定した。そして、これらの平均値を各室におけるノズルからの熱風の吹き出し風速とした。ゾーンが一室で構成されている場合は、当該室の熱風の吹き出し風速を該ゾーンの熱風の吹き出し風速とし、ゾーンが複数の室から構成されている場合(例えば実施例1の延伸ゾーンの場合)は、該ゾーンにおける各室の熱風の吹き出し風速の平均値を該ゾーンの熱風の吹き出し風速とした。また、各室において10点で測定した風速のうち、最大風速と最小風速とを求め、これらの差を算出し、各室における熱風の風速差とした。そして、各室における風速差のうち、最大のものを最大風速差とした。なお、熱風の吹き出し風量は、吹き出し口の面積と上述の通り求めた熱風の風速との積により求めた。
【0147】
<熱風の温度差測定>
各パンチングノズル38及びジェットノズル34の熱風の温度差は次の通り測定した。上述の熱風の風速の測定方法と同様にして、各室あたり、上側ノズルと下側ノズルとで合計10点の温度を、熱電対を用いて測定した。10点で測定した温度のうち、最高温度と最低温度との差を算出し、各室の幅方向における熱風の温度差とした。そして、各室における温度差のうち、最大のものを最大温度差とした。
【0148】
次に、上述のテンター法で縦延伸フィルムを横延伸することによって得られた位相差フィルムの評価を以下の通り行った。
【0149】
<面内位相差R、厚み方向位相差Rth、及び面内位相差ムラΔRの測定>
面内位相差Rは、位相差測定装置(王子計測機器(株)製、商品名:KOBRA−CCD)を用いて測定した。具体的には、作製した位相差フィルムの幅方向の中央部分で幅320mmの範囲を20mm間隔で測定し、その平均値を当該位相差フィルムの面内位相差Rとした。また、測定値の最大値と最小値との差を算出し、これを面内位相差ムラ(ΔR)とした。この面内位相差ムラが15nm以下の場合を「A」、面内位相差ムラが15nmを超える場合を「B」と評価した。厚み方向位相差Rthは、位相差フィルムの幅方向の中央部分を位相差測定装置(王子計測機器(株)製、商品名:KOBRA−WPR)を用いて測定した。
【0150】
<光軸の角度測定>
光軸の角度は、偏光顕微鏡を用いて、作製した位相差フィルムの幅方向の中央部分で幅320mmの範囲を20mm間隔で測定した。この測定において、測定した全ての点における光軸の角度が−5°以上、且つ+5°以下である場合を「A」、測定した全ての点のうち、光軸の角度が−5°未満、又は+5°を超える点がある場合を「B」と評価した。
【0151】
評価の結果、面内位相差Rは50nm、厚み方向位相差Rthは90nm、320mm幅における面内位相差Rの最大値と最小値との差(面内位相差ムラΔR)は10nm、光軸の角度は−4.1〜+3.0°であった。これらの結果から、この位相差フィルムは光学的な均一性に優れていることが確認できた。
【0152】
(比較例1)
横延伸の条件を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。すなわち、テンター法による横延伸において、予熱ゾーン及び熱固定ゾーンにおける熱風吹き出し用のノズルには、実施例1における延伸ゾーンと同じジェットノズル34を用いた(表1)。予熱ゾーンには12本(6対)、熱固定ゾーンには10本(5対)のジェットノズル34が設けられ、各ジェットノズル34はオーブン内において均一の間隔で配置されていた。
【0153】
予熱ゾーン、延伸ゾーン及び熱固定ゾーンの全てにおいて、それぞれのジェットノズル34の吹き出し口における熱風の吹き出し風速は15m/秒とし、ノズル一本当たりの吹き出し風量はフィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たり0.075m/秒とした。その他の条件は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製し、面内位相差R、厚み方向位相差Rth、面内位相差ムラΔR、及び光軸の角度を測定した。測定結果は表3に示すとおりであった。
【0154】
実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。
【0155】
表3に示すとおり、得られた位相差フィルムの面内位相差Rは80nm、厚み方向位相差Rthは100nm、面内位相差ムラ(ΔR)は35nm、光軸の角度は−3.1〜+7.7°であった。実施例1のものと比べて、位相差と光軸の両方において光学的な均一性は低くなっていた。
【0156】
(比較例2,3)
テンター法による横延伸において、各ゾーンの吹き出し風速及び吹き出し風量を表2に示す数値にしたこと以外は、比較例1と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。位相差フィルムの評価結果は表3に示すとおりであった。
【0157】
表3に示すとおり、比較例2で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは100nm、厚み方向位相差Rthは80nm、面内位相差ムラ(ΔR)は57nm、光軸の角度は−1.1〜+2.0°であった。光軸の均一性は優れているが、実施例1のものと比べて、位相差の均一性は低くなっていた。
【0158】
比較例3で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは50nm、厚み方向位相差Rthは105nm、320mm幅における面内位相差ムラ(ΔR)は27nm、光軸の角度は−5.8〜+9.5°であった。実施例1のものと比べて、位相差及び光軸の両方において光学的な均一性は低くなっていた。
【0159】
(比較例4)
テンター法による横延伸において、ライン速度を10m/分にしたこと以外は比較例3と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。位相差フィルムの評価結果は表3に示すとおりであった。
【0160】
得られた位相差フィルムの面内位相差Rは50nm、厚み方向位相差Rthは95nm、面内位相差ムラ(ΔR)は28nm、光軸の角度は−5.6〜+6.9°であった。実施例1のものと比べて、位相差及び光軸の両方において光学的な均一性は低くなっていた。
【0161】
(比較例5,6)
テンター法による横延伸において、各ゾーンの吹き出し風速及び吹き出し風量を表2に示す数値にしたこと以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。位相差フィルムの評価結果は表3に示すとおりであった。
【0162】
比較例5で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは80nm、厚み方向位相差Rthは90nm、面内位相差ムラ(ΔR)は39nm、光軸の角度は−2.7〜−1.1°であった。光軸の均一性は優れているが、実施例1のものと比べて、位相差の均一性は低くなっていた。
【0163】
比較例6で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは50nm、厚み方向位相差Rthは95nm、面内位相差ムラ(ΔR)は6nm、光軸の角度は−7.4〜+9.1°であった。位相差の均一性は優れているが、実施例1のものと比べて、光軸の均一性は低くなっていた。
【0164】
(実施例2)
テンター法による横延伸において、熱固定ゾーンにおける熱風吹き出し用ノズルとして、実施例1の延伸ゾーンのジェットノズル34を用いたこと(表1)、及び各ゾーンの熱風の吹き出し風速及び吹き出し風量を表2に示す数値にしたこと以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。位相差フィルムの評価結果は表3に示すとおりであった。
【0165】
得られた位相差フィルムの面内位相差Rは60nm、厚み方向位相差Rthは100nm、面内位相差ムラ(ΔR)は13nm、光軸の角度は−4.1〜+4.4°であった。これらの結果から、この位相差フィルムは位相差、光軸ともに光学的な均一性に優れていることが確認できた。
【0166】
(比較例7,8)
テンター法による横延伸において、各ゾーンの吹き出し風速及び吹き出し風量を表2に示す数値にしたこと以外は、実施例2と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。位相差フィルムの評価結果は表3に示すとおりであった。
【0167】
比較例7で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは90nm、厚み方向位相差Rthは110nm、面内位相差ムラ(ΔR)は24nm、光軸の角度は−1.1〜+0.9°であった。光軸の均一性は優れているが、実施例2のものと比べて、位相差の均一性が低くなっていた。
【0168】
比較例8で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは45nm、厚み方向位相差Rthは100nm、面内位相差ムラ(ΔR)は11nm、光軸の角度は−6.7〜+6.2°であった。位相差の均一性は優れているが、実施例2のものと比べて、光軸の均一性が低くなっていた。
【0169】
(実施例3)
テンター法による横延伸において、延伸ゾーンにおける熱風吹き出し用ノズルとして、実施例1の予熱ゾーンのパンチングノズル38を用いたこと(表1)、及び各ゾーンの熱風の吹き出し風速及び吹き出し風量を表2に示す数値にしたこと以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。位相差フィルムの評価結果は表3に示すとおりであった。
【0170】
得られた位相差フィルムの面内位相差Rは60nm、厚み方向位相差Rthは105nm、面内位相差ムラ(ΔR)は13nm、光軸の角度は−3.2〜+3.1°であった。これらの結果から、この位相差フィルムは位相差、光軸ともに光学的な均一性に優れていることが確認できた。
【0171】
(比較例9,10)
テンター法による横延伸において、各ゾーンの吹き出し風速及び吹き出し風量を表2に示す数値にしたこと以外は、実施例3と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。位相差フィルムの評価結果は表3に示すとおりであった。
【0172】
比較例9で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは90nm、厚み方向位相差Rthは115nm、面内位相差ムラ(ΔR)は23nm、光軸の角度は−3.3〜−0.2°であった。光軸の均一性は優れているが、実施例3のものと比べて、位相差の均一性は低くなっていた。
【0173】
比較例10で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは50nm、厚み方向位相差Rthは95nm、面内位相差ムラ(ΔR)は7nm、光軸の角度は−6.6〜+5.3°であった。位相差の均一性は優れているが、実施例3のものと比べて、光軸の均一性は低くなっていた。
【0174】
(実施例4)
テンター法による横延伸において、予熱ゾーン及び熱固定ゾーンにおける熱風吹き出し用ノズルとして、円形の各開口44の直径が7mmのパンチングノズル38を用いたこと、及び各ゾーンの熱風の吹き出し風速及び吹き出し風量を表2に示す数値にしたこと以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。なお、予熱ゾーン及び熱固定ゾーンに設けられた各パンチングノズル38における開口44の合計面積、すなわち吹き出し口の面積は0.018mであり、フィルムの幅方向に沿ったノズルの長さ1m当たりの吹き出し口の面積は0.0162mであった。
【0175】
実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。位相差フィルムの評価結果は表3に示すとおりであった。
【0176】
得られた位相差フィルムの面内位相差Rは70nm、厚み方向位相差Rthは85nm、面内位相差ムラ(ΔR)は11nm、光軸の角度は−2.0〜−0.8°であった。これらの結果から、この位相差フィルムは位相差、光軸ともに光学的な均一性に優れていることが確認できた。
【0177】
(比較例11,12)
テンター法による横延伸において、各ゾーンの吹き出し風速及び吹き出し風量を表2に示す数値にしたこと以外は、実施例4と同様にして位相差フィルムを作製し、評価を行った。実施例1と同様にして求めた熱風の最大温度差及び熱風の最大風速差は、表2に示すとおりであった。位相差フィルムの評価結果は表3に示すとおりであった。
【0178】
比較例11で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは110nm、厚み方向位相差Rthは90nm、面内位相差ムラ(ΔR)は25nm、光軸の角度は+0.6〜+1.8°であった。光軸の均一性は優れているが、実施例4のものと比べて、位相差の均一性は低くなっていた。
【0179】
比較例12で作製した位相差フィルムの面内位相差Rは45nm、厚み方向位相差Rthは80nm、面内位相差ムラ(ΔR)は13nm、光軸の角度は−6.0〜+5.1°であった。位相差の均一性は優れているが、実施例4のものと比べて、光軸の均一性は低くなっていた。
【0180】
【表1】

【0181】
【表2】

【0182】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明に係る位相差フィルムの製造方法の好適な実施形態を模式的に示す工程図である。
【図2】本発明に係る位相差フィルムの製造方法の好適な実施形態を模式的に示す工程断面図である。
【図3】本発明の位相差フィルムの製造方法に好適に用いられるジェットノズルの形状の一例を示す模式断面図である。
【図4】本発明の位相差フィルムの製造方法に好適に用いられるパンチングノズルの形状の一例を示す模式断面図である。
【図5】本発明の位相差フィルムの製造方法に好適に用いられるパンチングノズルの形状の他の例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0184】
10…予熱ゾーン、12…延伸ゾーン、14…熱固定ゾーン、18…チャック、20…原料フィルム(熱可塑性樹脂フィルム)、22…延伸フィルム、25…フィルム、30…上側ノズル(ノズル)、32…下側ノズル(ノズル)、34…ジェットノズル、36,38…パンチングノズル、36a,38a…面、40…スリット、42,44…開口、100…オーブン、100a…上面、100b…下面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンター法による位相差フィルムの製造方法であって、
熱可塑性樹脂フィルムを熱風で加熱する予熱工程と、
予熱した前記熱可塑性樹脂フィルムを熱風で加熱しながらその幅方向に延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、
前記延伸フィルムを熱風で加熱する熱固定工程と、を有し、
前記予熱工程、前記延伸工程及び前記熱固定工程からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程における前記フィルムの加熱を、互いに対向する一対のノズルの吹き出し口からの熱風を前記フィルムの両面に吹き付けることにより行い、
前記吹き出し口における吹き出し風速が2〜12m/秒であり、前記ノズル一本当たりの前記吹き出し口からの吹き出し風量が、前記フィルムの幅方向に沿った前記ノズルの長さ1m当たり0.1〜1m/秒である位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ノズルは、前記フィルムの幅方向に伸びるスリット状の吹き出し口を有するジェットノズル、又は開口を前記フィルムの長手方向及び前記フィルムの幅方向にそれぞれ複数配置した吹き出し口を有するパンチングノズルである請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ノズルは前記フィルムの幅方向に伸びるスリット状の吹き出し口を有するジェットノズルであり、該ジェットノズルのスリット幅が5mm以上である請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記予熱工程、前記延伸工程及び前記熱固定工程からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程で、前記フィルムに熱風を吹き付けるそれぞれの前記ノズルの吹き出し口における熱風の前記フィルムの幅方向における最高温度と最低温度との差が、2℃以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記予熱工程、前記延伸工程及び前記熱固定工程からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程で、前記フィルムに熱風を吹き付けるそれぞれの前記ノズルの吹き出し口における熱風の前記フィルムの幅方向における最大吹き出し風速と最小吹き出し風速との差が、4m/s以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記予熱工程、前記延伸工程及び前記熱固定工程の全ての工程が、清浄度クラス1000以下のクリーン度のオーブン中で行われる請求項1〜5のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が結晶性ポリオレフィン系樹脂である請求項1〜6のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記結晶性ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である請求項7記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−93168(P2009−93168A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239785(P2008−239785)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】