説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】製造後の位相差変動のないポリプロピレン系樹脂を延伸してなる位相差フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ポリプロピレン系樹脂からなる長尺状の未延伸フィルムを、温度110〜140℃および滞留時間10〜120秒の範囲内で予熱する工程と、(B)予熱された未延伸フィルムを3〜10倍の延伸倍率で横一軸延伸する工程と、(C)得られた延伸フィルムを温度60〜135℃および滞留時間10〜120秒の範囲内で熱固定する工程と、(D)下記式(1)、(2)をともに満たす条件で4分間以上熱処理する工程と、(E)熱処理が施された延伸フィルムを温度20〜25℃、相対湿度50〜60%の環境下に7日間以上養生する工程とを含む、位相差フィルムの製造方法。
y≧−15x+80 (1)
y≦−7.5x+130 (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量でかつ薄型の液晶表示装置が、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、およびテレビ等の情報用表示デバイスとして急速に普及している。このような液晶表示技術の発展に伴い、さまざまなモードの液晶表示装置やそれに用いる光学部材が提案され、応答速度、コントラスト、視野角、および色再現性等の諸特性が改良されている。
【0003】
たとえば、携帯電話等に代表される反射型、または半透過反射型液晶表示装置を構成する光学部材では、1/4波長板として機能する位相差フィルムや、1/4波長板と1/2波長板とを組み合わせて広帯域で1/4波長板として機能する位相差フィルムを直線偏光板に所定の角度で貼り合わせた楕円偏光板が使用されている。このような位相差フィルムとしては、たとえば、特開平5−100114号公報(特許文献1)に開示されたようなポリカーボネート系樹脂の延伸フィルム、また、特開平11−149015号公報(特許文献2)に開示されたような環状ポリオレフィン樹脂の延伸フィルムが用いられている。
【0004】
最近では液晶表示装置の薄型化への要求が高まるに伴い、偏光板に代表される光学部材にも、これを構成する光学フィルムの薄膜化が強く求められている。その要求に適する薄膜の位相差フィルムを得る方法としては、横一軸延伸を採用することができる。しかし、ポリカーボネート系樹脂や環状ポリオレフィン系樹脂では、薄膜で、かつ光学的に完全一軸性を実現するのに必要な高倍率の延伸を行うと、フィルムがその高倍率延伸に耐えられずに破断するため、前記の薄膜完全一軸品が得られないという問題があった。
【0005】
そこで、薄膜で、かつ光学的に完全一軸性の位相差フィルムを得る方法として、縦一軸延伸を採用すると、高倍率延伸を避けるために、原料である未延伸フィルムも薄膜品を用いる必要があり、さらに、縦一軸延伸では避けられないネックインにより、得られる位相差フィルムの幅が減少する等、いずれもコストアップ要因となり現実には用いられていない。
【0006】
一方、ポリプロピレン系樹脂を用いると、高倍率で横一軸延伸することが可能であり、薄膜で、かつ光学的に完全一軸性の位相差フィルムを得ることができる。しかし、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムは、製造後の位相差値が変動し実用に適用しがたい場合があった。
【特許文献1】特開平5−100114号公報
【特許文献2】特開平11−149015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、製造後の位相差変動のないポリプロピレン系樹脂を延伸してなる位相差フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、(A)ポリプロピレン系樹脂からなる長尺状の未延伸フィルムを、温度110〜140℃および滞留時間10〜120秒の範囲内で予熱する工程と、(B)予熱された未延伸フィルムを3〜10倍の延伸倍率で横一軸延伸する工程と、(C)得られた延伸フィルムを温度60〜135℃および滞留時間10〜120秒の範囲内で熱固定する工程と、(D)下記式(1)、(2)をともに満たす条件で4分間以上熱処理する工程と、(E)熱処理が施された延伸フィルムを温度20〜25℃、相対湿度50〜60%の環境下に7日間以上養生する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
y≧−15x+80 (1)
y≦−7.5x+130 (2)
(上記式(1)、(2)中、xは0〜4の実数であり、熱処理の時間(単位:分)を示し、yは熱処理の温度(℃)を示す。)
本発明の位相差フィルムの製造方法において、熱処理を行う条件が、上記式(1)および下記式(3)をともに満たすことが、好ましい。
【0010】
y≦−15x+120 (3)
(上記式(3)中、xは0〜4の実数であり、熱処理の時間(単位:分)を示し、yは熱処理の温度(℃)を示す。)
本発明の位相差フィルムの製造方法におけるポリプロピレン系樹脂は、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンとの共重合体であることが、好ましい。
【0011】
本発明の位相差フィルムの製造方法におけるポリプロピレン系樹脂からなる長尺未延伸フィルムの幅方向に連続的に測定した膜厚プロファイルにおける凸部膜厚の平均値と凹部膜厚の平均値との差は1μm以下であることが、好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造後における面内位相差値の経時変化が十分に抑制されたポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムを製造することができる。このような面内位相差値変動が小さい位相差フィルムを用いることにより、液晶表示装置の表示性能の安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
<工程(A)>
本発明の位相差フィルムの製造方法では、まず、ポリプロピレン系樹脂からなる長尺状の未延伸フィルムを、温度110〜140℃および滞留時間10〜120秒の範囲内で予熱する(工程(A))。
【0014】
(ポリプロピレン系樹脂)
本発明の位相差フィルムの製造方法に用いるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体で構成することができるほか、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーを少量、たとえば20重量%以下、好ましくは10重量%以下の割合で共重合させたものであってもよい。共重合体とする場合、コモノマーの量は、好ましくは1重量%以上である。
【0015】
プロピレンに共重合されるコモノマーは、たとえば、エチレンや、炭素原子数4〜20のα−オレフィンであることができる。この場合のα−オレフィンとして具体的には、次のようなものを挙げることができる。1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C4);1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C5);1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C6);1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C7);1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C8);1−ノネン(C9);1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)等。
【0016】
α−オレフィンの中で好ましいものは、炭素原子数4〜12のα−オレフィンであり、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセン等を挙げることができる。共重合性の観点からは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、および1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテン、および1−ヘキセンがより好ましい。
【0017】
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。未延伸フィルムを構成する好ましい共重合体として、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体を挙げることができる。プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体において、エチレンユニットの含量や1−ブテンユニットの含量は、たとえば、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法により赤外線(IR)スペクトル測定を行い、求めることができる。
【0018】
位相差フィルムとしての透明度や加工性を上げる観点からは、プロピレンを主体とし、任意の不飽和炭化水素とのランダム共重合体にするのが好ましい。中でもエチレンとの共重合体が好ましい。共重合体とする場合、プロピレン以外の不飽和炭化水素類は、その共重合割合を1〜10重量%の範囲内にするのが有利であり、より好ましい共重合割合は3〜7重量%の範囲内である。プロピレン以外の不飽和炭化水素類のユニットを1重量%以上とすることで、加工性や透明性を上げる効果が出てくる傾向にある。一方、その割合が10重量%を超えると、樹脂の融点が下がり、耐熱性が悪くなる傾向にあるので好ましくない。本発明の位相差フィルムの製造方法においては、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンとの共重合体からなるポリプロピレン系樹脂が好適に用いられる。なお、2種類以上のコモノマーとポリプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来するユニットの合計含量が、前記範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明の位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、公知の重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合性コモノマーとを共重合する方法によって製造することができる。公知の重合用触媒としては、たとえば、次のようなものを挙げることができる。
【0020】
(1)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒等。
【0021】
これら触媒系の中でも、本発明の位相差フィルムに用いるポリプロピレン系樹脂の製造においては、マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子供与性化合物とを組み合わせたものが、最も一般的に使用できる。より具体的には、有機アルミニウム化合物として好ましくは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物、テトラエチルジアルモキサン等が挙げられ、電子供与性化合物として好ましくは、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0022】
一方、マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、たとえば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報等に記載の触媒系が挙げられ、またメタロセン系触媒としては、たとえば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、特許第2668732号公報等に記載の触媒系が挙げられる。
【0023】
ポリプロピレン系樹脂は、たとえばヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンのような炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法等によって、製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。
【0024】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、またはアタクチックのいずれであってもよい。本発明においては、耐熱性の点から、シンジオタクチックまたはアイソタクチックのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
本発明の位相差フィルムの製造方法に用いるポリプロピレン系樹脂は、JIS K 7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜200g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲にあることが好ましい。MFRがこの範囲にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく均一なフィルム状物を得ることができる。
【0026】
このポリプロピレン系樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加物が配合されていてもよい。添加物としては、たとえば酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤等を挙げることができる。酸化防止剤には、たとえばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられ、また、1分子中にたとえば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。紫外線吸収剤としては、たとえば2−ヒドロキシベンゾフェノン系やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系のような紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線遮断剤等が挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミドのような高級脂肪酸アミド、ステアリン酸のような高級脂肪酸、およびその塩等が挙げられる。造核剤としては、たとえばソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカンのような高分子系造核剤等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状、またはそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。これらの添加物は、複数種が併用されてもよい。
【0027】
本発明の位相差フィルムの製造方法に用いるポリプロピレン系樹脂の長尺状の未延伸フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を、任意の方法で製膜して長尺状の未延伸フィルムとしたものである。たとえば溶融樹脂からの押出成形法、有機溶剤に溶解させた樹脂を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法等によって、面内位相差が実質的にないポリプロピレン系樹脂の長尺状の原反フィルムを得ることができる。この中では、溶融樹脂からの押出成形法によるものが、生産性の観点から好ましく用いられる。
【0028】
続いて未延伸フィルムを製造する方法の例として、押出成形による製膜法について説明する。ポリプロピレン系樹脂は、押出機中でスクリューの回転によって溶融混練され、Tダイからシート状に押出される。押出される溶融状シートの温度は180〜300℃の範囲内とすることが好ましく、230〜270℃の範囲内とすることがより好ましい。このときの溶融状シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られる未延伸フィルムの厚みが不均一になり、これを用いると位相差ムラのある位相差フィルムが製造される場合がある。また、その温度が300℃を超えると、樹脂の劣化や分解が起こりやすく、シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりする場合がある。
【0029】
押出機は、単軸押出機であっても二軸押出機であってもよい。たとえば単軸押出機の場合は、スクリューの長さLと直径Dの比であるL/Dが24〜36程度、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積との比(前者/後者)である圧縮比が1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ、バリアタイプ、さらにマドック型の混練部分を有するタイプ等のスクリューを用いることができる。ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点からは、L/Dが28〜36で、圧縮比が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を可及的に抑制するため、押出機内は、窒素雰囲気、または真空にすることが好ましい。さらに、ポリプロピレン系樹脂が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1〜5mmφのオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。オリフィスの押出機先端部分の樹脂圧力を高めるとは、先端での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径は、より好ましくは2〜4mmφである。
【0030】
押出に使用されるTダイは、樹脂の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましく、また、そのリップ部分は、溶融したポリプロピレン系樹脂との摩擦係数の小さい材料でめっき、またはコーティングされ、さらにリップ先端が0.3mmφ以下に研磨されたシャープなエッジ形状のものが好ましい。摩擦係数の小さい材料としては、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっき等が挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインを抑制できるので、外観の均一性に優れる樹脂フィルムが得られる。このTダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(1)または(2)を満たすことが好ましく、さらには条件(3)または(4)を満たすことがより好ましい。
【0031】
(1)Tダイのリップ幅が1500mm未満:Tダイの厚み方向長さ>180mm
(2)Tダイのリップ幅が1500mm以上:Tダイの厚み方向長さ>220mm
(3)Tダイのリップ幅が1500mm未満:Tダイの高さ方向長さ>250mm
(4)Tダイのリップ幅が1500mm以上:Tダイの高さ方向長さ>280mm
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融状ポリプロピレン系樹脂の流れを整えることができ、かつ、リップ部分でも厚みムラを抑えながら押出すことができるため、より厚み精度に優れ、位相差のより均一な原反フィルムを得ることができる。
【0032】
さらには、ポリプロピレン系樹脂の吐出量を一定に制御することで、未延伸フィルムの膜厚のバラツキ範囲を低減する観点から、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプやリーフディスクフィルターを取り付けることが好ましい。これにより、長尺方向の未延伸フィルムの膜厚のバラツキ範囲を低減させることができる。
【0033】
Tダイから押出された溶融状シートは、金属製冷却ロール(チルロール、またはキャスティングロールともいう)と、その金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を含むタッチロールとの間に、挟圧させて冷却固化することで、所望のフィルムを得ることができる。この際、タッチロールは、ゴム等の弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブからなる外筒で被覆したものでもよい。弾性体ロールの表面が金属スリーブからなる外筒で被覆されたタッチロールを用いる場合は、通常、金属製冷却ロールとタッチロールの間に、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを直接挟んで冷却する。一方、表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとタッチロールの間に熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを、前記のような冷却ロールとタッチロールとで挟んで冷却固化させるにあたり、冷却ロールとタッチロールは、いずれもその表面温度を低くしておき、溶融状シートを急冷させる必要がある。たとえば、両ロールの表面温度は0〜30℃の範囲に調整されることが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融状シートの冷却固化に時間がかかるため、ポリプロピレン系樹脂中の結晶成分が成長してしまい、得られるフィルムは透明性に劣るものとなることがある。ロールの表面温度は、好ましくは30℃未満、さらに好ましくは25℃未満である。一方、ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面に結露して水滴が付着し、フィルムの外観を悪化させる傾向が出てくることがある。
【0035】
使用する金属製冷却ロールは、その表面状態がポリプロピレン系樹脂フィルム(未延伸フィルム)の表面に転写されるため、その表面に凹凸があると、得られるポリプロピレン系樹脂フィルムの厚み精度を低下させる場合がある。そこで、金属製冷却ロールの表面は可能な限り鏡面状態であることが好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して0.3S以下であることが好ましく、さらには0.1〜0.2Sであることがより好ましい。
【0036】
また、金属冷却ロールの回転ムラに由来する未延伸フィルムの膜厚のバラツキ範囲を低減するため、精密減速機を備えたモーターを設置するのが好ましい。精密減速機を設置することで、冷却ロール回転ムラを回転速度の±0.5%以内に調整することが可能となり、長尺方向の膜厚のバラツキ範囲を低減することができる。
【0037】
金属製冷却ロールとニップ部分を形成するタッチロールは、その弾性体における表面硬度が、JIS K 6301に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)で測定される値として、65〜80であることが好ましく、さらには70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のゴムロールを用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融状シートのバンク(樹脂溜り)を作ることなくフィルムに成形することが容易となる。
【0038】
溶融状シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50〜300N/cmとするのが好ましく、さらには100〜250N/cmとするのがより好ましい。線圧を前記範囲とすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながらポリプロピレン系樹脂フィルムを製造することが容易となる。
【0039】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、湿度や熱等による寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。この場合の二軸延伸フィルムの厚みは、通常、5〜50μmであり、好ましくは10〜30μmである。
【0040】
この方法において、Tダイのリップから金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)を200mm以下とすることが好ましく、さらには160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押出された溶融状シートは、リップからロールまでの間引き伸ばされて、配向が生じやすくなる。エアギャップを前記のように短くすることで、配向のより小さいフィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径、および使用するリップの先端形状により決定され、通常、50mm以上である。
【0041】
この方法でポリプロピレン系樹脂フィルムを製造するときの加工速度は、溶融状シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融状シートがその冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は、最大で5〜20m/分程度となる。
【0042】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧された溶融状シートは、ロールとの接触により冷却固化する。そして、必要に応じて端部をスリットした後、巻き取り機に巻き取られてロール状の未延伸フィルムとなる。この際、未延伸フィルムを使用するまでの間、その表面を保護するために、その片面、または両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼り合わせた状態で巻き取ってもよい。ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧した場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
【0043】
本工程で用いるポリプロピレン系樹脂からなる長尺状の未延伸フィルムは、その幅方向に連続的に測定した膜厚プロファイルにおける凸部膜厚の平均値と凹部膜厚の平均値との差(膜厚分布)が、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。ここで、「幅方向」とは、フィルム面内において長尺方向に対して垂直な方向を意味する。「長尺方向」とは、未延伸フィルムが押出成形法によって製膜される場合はそのフィルムが押し出される方向、またキャスト法によって製膜される場合はそのフィルムが流延される方向、すなわち機械方向(Machine Direction)を意味する。また、「凸部膜厚」とは、膜厚プロファイルに現れる膜厚の凸と凹の繰り返しのうち、各凸部における最大膜厚(各凸部の頂点における膜厚)を指し、「凹部膜厚」とは、膜厚プロファイルに現れる膜厚の凸と凹の繰り返しのうち、各凹部における最小膜厚(各凹部の最底点における膜厚)を指す。本明細書でいう膜厚プロファイルは、未延伸フィルムの任意の一点より幅方向に沿って1300mmの範囲の距離で連続的に測定されたものである。
【0044】
膜厚プロファイルの測定方法としては、フィルムの膜厚を連続的に測定できる手段であれば特に限定されるものではないが、通常、接触式連続厚み計を用いて行なわれ、接触式連続厚み計としては、たとえば、後述する実施例で用いた厚み計KG601B(アンリツ社製)を用いることができる。
【0045】
上記膜厚プロファイルにおける凸部膜厚の平均値と凹部膜厚の平均値との差が1μmを超える未延伸フィルムを用いると、延伸フィルムの膜厚プロファイルにおける凸部膜厚の平均値と凹部膜厚の平均値との差が大きくなり、得られる位相差フィルムの最大位相差値と最小位相差値の平均値との差も大きくなる。
【0046】
本発明の位相差フィルムの製造方法に用いるポリプロピレン系樹脂の未延伸フィルムの膜厚は、特に制限されるものではないが、10〜130μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。膜厚が130μmを超えると、延伸後に所望の位相差を得ることができない。また、膜厚が10μmを下回ると、延伸後に位相差フィルムのシワ等が発生しやすくなり、巻き取りや貼合時の取り扱い性に劣る場合がある。
【0047】
本工程においては、上述したポリプロピレン系樹脂からなる長尺状未延伸フィルムを、温度110〜140℃および滞留時間10〜120秒の範囲内で予熱する(工程(A))。なお、当該工程(A)ならびに後述する工程(B)および(C)からなる一連の処理を、本明細書においては「横一軸延伸」と呼ぶ。横一軸延伸とは、ロールから巻き出される長尺状の未延伸フィルムを幅方向(横方向)に延伸することをいう。代表的な横一軸延伸の方法としては、テンター法が挙げられる。テンター法は、チャックでフィルム幅方向の両端を固定した原反フィルムを、オーブン中でチャック間隔を広げて延伸する方法である。テンター法に用いる延伸機(テンター延伸機)は、通常、予熱工程(工程(A))を行なうゾーン、延伸工程(工程(B))を行なうゾーン、および熱固定工程(工程(C))を行なうゾーンにおいて、それぞれの温度を独立に調節できる機構を備えている。このようなテンター延伸機を用いて横一軸延伸を行なうことにより、軸精度に優れ、かつ均一な位相差を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0048】
本工程(予熱工程)は、ポリプロピレン系樹脂からなる長尺状未延伸フィルムを幅方向に一軸延伸する工程(後述する工程(B))の前に設置される工程であり、未延伸フィルムを延伸するのに十分な温度までフィルムを加熱する工程である。予熱工程での予熱温度は、未延伸フィルムの融点付近の温度、具体的には110〜140℃であり、好ましくは120〜135℃である。この予熱温度が110℃に満たないと、フィルムに熱が十分に与えられず、続く延伸工程(工程(B))でフィルムが横延伸されるときに応力が不均一にかかり、位相差フィルムとしての軸精度や位相差の均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、予熱温度が140℃を超えると、必要以上に熱がフィルムに与えられるために部分的に溶融し、ドローダウンする(下に垂れる)場合がある。
【0049】
この予熱工程での滞留時間は10〜120秒であり、好ましくは30〜90秒、さらに好ましくは30〜60秒である。滞留時間とは、未延伸フィルムがテンター延伸機の予熱工程を行うゾーン内に存在する時間を意味する。この予熱工程での滞留時間が10秒に満たないと、フィルムに熱が十分に与えられず、続く延伸工程(工程(B))でフィルムが横延伸されるときに応力が不均一にかかり、位相差フィルムとしての軸精度や位相差の均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、その滞留時間が120秒を超えると、必要以上に熱がフィルムに与えられるために部分的に溶融し、ドローダウンする(下に垂れる)場合がある。
【0050】
<工程(B)>
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、次に、予熱された未延伸フィルムを3〜10倍の延伸倍率で横一軸延伸する(工程(B))。横一軸延伸は、テンター延伸機の予熱工程を行うゾーンを通過した未延伸フィルムを引き続き、延伸工程を行うゾーンを通過させることにより行うことができる、延伸工程での延伸温度は、テンター延伸機の延伸工程を行うゾーンにおける雰囲気温度を意味する。延伸温度は、上記工程(A)における予熱温度より低いことが好ましい。予熱されたフィルムを予熱工程よりも低い温度で延伸することにより、フィルムを均一に延伸できるようになり、その結果、光軸、および位相差の均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。延伸温度は、予熱工程(工程(A))における予熱温度より5〜20℃低いことが好ましく、7〜15℃低いことがより好ましい。また、延伸倍率は、光軸を発現させる方向(遅相軸となる方向)で3〜10倍程度の範囲から、必要とする位相差値に合わせて適宜選択すればよく、好ましくは3〜7倍の範囲である。このときの延伸倍率を3倍以上とすることにより、後述するNz係数を0.9〜1.1の範囲とすることができる。一方、延伸倍率が10倍を越えると、位相差値の均一性が損なわれる場合がある。
【0051】
<工程(C)>
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、次に、得られた延伸フィルムを温度60〜135℃および滞留時間10〜120秒の範囲内で熱固定する(工程(C))。延伸フィルムの熱固定は、テンター延伸機の延伸工程を行うゾーンを通過した延伸フィルムを引き続き、熱固定工程を行うゾーンを通過させることにより行うことができる。熱固定工程での熱固定温度は、テンター延伸機の熱固定工程を行うゾーンにおける雰囲気温度を意味する。また、滞留時間とは、延伸フィルムがテンター延伸機の熱固定工程を行うゾーン内に存在する時間を意味する。
【0052】
熱固定工程は、延伸フィルムの位相差値や光軸等光学的特性の安定性を効果的に確保するために実施する。この工程では、延伸工程におけるフィルムの幅をそのまま保持した状態で、所定の熱固定温度のゾーンに通過させる。
【0053】
熱固定温度は、60℃〜135℃であり、80℃〜100℃が好ましい。熱固定温度が60℃に満たないと、熱安定性に劣り、たとえば、高温環境下で位相値の変動が生じる場合がある。また、135℃を超えると、必要以上の熱がフィルムに加わり、本発明の製造方法による位相差変動の抑制効果が現れず、逆に常温下や高温環境下ともに位相差変動が過大になる場合がある。
【0054】
<工程(D)>
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、次に、上述したようにして熱固定された延伸フィルムに、下記式(1)、(2)をともに満たす条件で4分間以上熱処理する。
を含む、位相差フィルムの製造方法。
【0055】
y≧−15x+80 (1)
y≦−7.5x+130 (2)
上記式(1)、(2)中、xは0〜4の実数であり、熱処理の時間(単位:分)を示し、yは熱処理の温度(℃)を示す。
【0056】
本発明者らは、位相差フィルム製造後における面内位相差値の経時変化量と、熱処理工程における熱処理温度および熱処理時間との関係について検討を行ったところ、それぞれ一定範囲内の熱処理温度および熱処理時間で、熱固定工程(工程(C))を経た延伸フィルムに熱処理を施すことで、製造後における面内位相差値の経時変化が十分に抑制された位相差フィルムを得ることができることが分かった。ここで、図1は、本発明の位相差フィルムの製造方法における熱処理の条件について具体的に示すグラフであり、縦軸は温度(℃)(上記式(1)、(2)におけるy)、横軸は時間(分)(上記式(1)、(2)におけるx)である。具体的には、図1中、上記式(1)、(2)を満たす領域1内を充足する温度および時間で熱処理を行うことで、製造後における面内位相差値の経時変化が十分に抑制された位相差フィルムを得ることができる。
【0057】
熱処理工程(工程(D))における熱処理時間(滞留時間)に対する熱処理温度の変化は、上記式(1)、(2)を満たす範囲内であれば特に制限されるものではない。たとえば、上記式(1)、(2)を満たす特定温度の一定値であってもよいし、傾斜した温度勾配であってもよい。また、熱処理装置の温度設定区域に対応した段階的な温度変化であってもよい。
【0058】
熱処理の温度が前記式で制限される範囲未満であると、製造された位相差フィルムの位相差値変動が十分抑制されず、位相差値が安定しない場合がある。また、熱処理の温度が前記式で制限される上限を越えると、本発明の製造方法による位相差変動の抑制効果が現れず、逆に常温下や高温環境下ともに位相差変動が過大になる場合がある。さらにフィルムの滞留時間(すなわち熱処理時間)が4分に満たないと、製造された位相差フィルムの位相差値変動が十分抑制されず、位相差値が安定しない場合がある。また、8分を超えると、本発明の製造方法による位相差変動の抑制効果が現れず、逆に常温下や高温環境下ともに位相差変動が過大になる場合がある。
【0059】
当該熱処理工程(工程(D))は、前工程の熱固定工程(工程(C))後、引き続き熱処理装置へ通じて行うことができる。また、熱固定工程後一旦ロール状に巻き取った後、再度横延伸機へ通じて行うこともできる。この場合、熱処理工程のための装置が省略できるため、本発明の製造方法に必要な設備費の観点から好ましい。
【0060】
なお、本発明でいう「製造後における面内位相差値変動」とは、位相差フィルム製造直後(後述する工程(E)終了直後)における位相差フィルムの面内位相差値(nm)と、製造後50日経過した位相差フィルムの面内位相差値(nm)との差の絶対値と定義される。位相差フィルムの面内位相差値は、位相差測定装置を用いて、測定波長590nmにて測定される値である。本発明でいう「製造後における面内位相差値の経時変化が十分に抑制された」とは、上述のように定義される製造後における面内位相差値変動が2.0nm以下であることをいい、好ましくは1.0nm以下、さらに好ましくは0.5nm以下である。製造後における面内位相差値変動が2.0nm以下であれば、その位相差フィルムを用いた液晶表示装置の表示性能が安定する。逆に、製造後における面内位相差値変動が2.0nmを超えると、その位相差フィルムを用いた液晶表示装置の表示性能がばらつき、その商品価値を低下させる場合がある。
【0061】
本発明における熱処理工程(C)における熱処理条件は、上記式(1)および下記式(3)をともに満たすものであることが好ましい。
【0062】
y≦−15x+120 (3)
上記式(3)中、xは0〜4の実数であり、熱処理の時間(単位:分)を示し、yは熱処理の温度(℃)を示す。
【0063】
上記式(1)、(3)を同時に満たす条件で熱処理を行うことによって、さらに、面内位相差値の経時変化が抑制されるという効果が奏される。
【0064】
<工程(E)>
上述した熱処理が施された後の延伸フィルムは、通常、ロール状に巻き取られる。本発明においては、このような熱処理が施された後の延伸フィルムを温度20〜25℃、相対湿度50〜60%の環境下に7日間以上養生する(工程(E))。この時間以上、ロール状延伸フィルムを前記環境下で養生させることにより位相差値をさらに安定化させることができる。こうして養生された後、位相差値変動の安定化された位相差フィルムが得られる。
【0065】
本発明の位相差フィルムの製造方法によって得られる位相差フィルムの膜厚は、特に制限されるものではないが、5〜25μmが好ましく、8〜20μmがより好ましい。膜厚が25μmを超えると、薄膜化の効果が十分に現れない場合がある。また、膜厚が5μmを下回ると、位相差フィルムにシワ等が発生しやすくなり、巻き取りや貼合時の取り扱い性に劣る場合がある。
【0066】
この位相差フィルムにおいて、面内の位相差値Roは、70〜400nmが好ましく、80〜330nmがより好ましい。厚み方向の位相差値Rthは、28〜240nmが好ましい。またNz係数は、0.9〜1.1の範囲であり、0.95〜1.05がより好ましい。これらの範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて、適宜選択すればよい。ここで、Nz係数がほぼ1であれば、次式(III)において、nyとnzがほぼ等しいことを意味し、そのような位相差フィルムは、光学的にほぼ完全な一軸性のものとなる。
【0067】
なお、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、そして厚みをdとしたときに、面内の位相差値R0、厚み方向の位相差値Rth、およびNz係数は、それぞれ下式(I)、(II)、および(III)で定義される。
【0068】
0=(nx−ny)×d (I)
th=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (II)
z=(nx−nz)/(nx−ny) (III)
また、これらの式(I)、(II)および(III)から、Nz係数と面内の位相差値R0および厚み方向の位相差値Rthとの関係は、次の式(IV)で表すことができる。
【0069】
z=Rth/R0+0.5 (IV)
このような本発明の方法で製造された位相差フィルムを1/4波長板として用いる場合、その面内位相差値R0は、70〜160nmの範囲にあることが好ましく、さらには80〜150nmの範囲にあることがより好ましい。1/4波長板は、直線偏光で入射する光を、円偏光をはじめとする楕円偏光に、また円偏光をはじめとする楕円偏光で入射する光を直線偏光に、それぞれ変換して出射する機能を有する。一方、本発明の位相差フィルムを1/2波長板として用いる場合、その面内位相差値R0は、240〜400nmの範囲にあることが好ましく、さらには260〜330nmの範囲にあることがより好ましい。1/2波長板は、直線偏光の向きを回転させる機能を有する。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量を表す%は、特記ないかぎり重量基準である。
また、フィルム厚みの測定、および位相差値の測定は、次に示す方法で行った。
【0071】
<フィルムの幅方向における膜厚分布の測定>
この未延伸フィルムを幅方向にカッティングし、厚み計KG601B(アンリツ社製)を用いて、連続的に膜厚を測定し、膜厚プロファイルを得た。
【0072】
<未延伸フィルムの厚みの測定>
前記の膜厚分布の測定で得られた膜厚プロファイルより、その平均値を算出し、フィルム厚みとした。
【0073】
<位相差フィルムの厚みの測定>
デジタルマイクロメーターMH−15M((株)ニコン製)を用いて測定した。
【0074】
<位相差値の測定>
位相差測定装置KOBRA−WR(王子計測機器(株)製)を用いて、測定波長590nmで測定した。
【0075】
<面内位相差値変動の測定>
前記位相差値の測定と同様にして、製造直後および製造後50日後の位相差値を測定し、その差を面内位相差値変動とした。
【0076】
<実施例1>
メルトフローレートが8g/10分であり、アイソタクチックの立体規則性を有するプロピレンランダム共重合体(エチレン含有量:4.6%)を樹脂温度250℃となるように65mmφ押出機にて溶融混練し、800mm巾のTダイリップより該プロピレン系樹脂を押出し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを幅方向にカッティングし、連続厚み計(アンリツ社製)を用いて、連続的に膜厚を測定し、膜厚プロファイルを得た。厚みの平均値は110μmであり、こうして得られた膜厚プロファイルにおける最大膜厚の平均値と最小膜厚の平均値との差がは0.4μmであった。
【0077】
次いで、この未延伸フィルムを、横延伸機で横方向に一軸延伸した。ライン速度を4m/分とし、まず温度が136℃に調節された4mの予熱ゾーンに通し、続いて、温度が126℃に調節された延伸ゾーンで延伸倍率が4倍となるように延伸し、温度が100℃に調節された4mの熱固定ゾーンを通し、得られた延伸フィルムをロール状に巻き取った。なお、予熱ゾーンおよび熱固定ゾーンの滞留時間は双方ともに60秒となった。
【0078】
なお、各ゾーンを通過するフィルム温度を、各ゾーンの中央および出口にて放射温度計で測定したところ、いずれのゾーンとも設定温度と等しい値を示した。よって、今後温度制御は各温度制御ゾーンの設定温度で表す。得られた延伸フィルムの面内位相差値R0は273nmであり、厚み方向位相差値Rthは139nmであり、Nz係数は1.0であった。また、その厚みは27μmであった。
【0079】
こうして得られた延伸フィルムを、延伸倍率を1倍に固定した横延伸機で熱処理した。ここで、図2は、実施例1における熱処理条件を示すグラフであり、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(分)である。ライン速度を4m/分とし、まず温度が100℃に調節された4mの第1ゾーンに通し、続いて温度が85℃に調節された4mの第2ゾーン、温度が60℃に調節された4mの第3ゾーン、および温度が40℃に調節された4mの第4ゾーンの順に通した。なお、各ゾーンの滞留時間はすべて60秒となった。すなわち、図2に示されるように、上記式(1)、(2)を満たす領域1内において、線2で表わされるような条件での熱処理を施した。このようにして熱処理が施された延伸フィルムをロール状に巻き取り、温度23℃、湿度55%の環境下に7日間養生した。
【0080】
こうして得られた位相差フィルムから、厚み、面内位相差値R0、厚み方向位相差値Rth、およびNz係数を測定した。また、位相差値の安定性評価として、製造後50日後の位相差変動を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0081】
<実施例2>
ここで、図3は、実施例2、3における熱処理条件を示すグラフであり、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(分)である。実施例1で得られた延伸フィルムを用い、熱処理条件を、第1ゾーン温度から第4ゾーンまで等しく85℃に設定した。すなわち、図3に示されるように上記式(1)、(2)を満たす領域1内において、直線3で表わされるような条件で熱処理を施した。このような条件で熱処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様にして、位相差値、Nz係数および位相差値変動の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0082】
<実施例3>
実施例1で得られた延伸フィルムを用い、熱処理条件を、第1ゾーン温度から第4ゾーンまで等しく100℃に設定した。すなわち、図3に示されるように上記式(1)、(2)を満たす領域1内において、直線4で表わされるような条件で熱処理を施した。このような条件で熱処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様にして、位相差値、Nz係数および位相差値変動の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0083】
<比較例1>
実施例1で得られた延伸フィルムを、熱処理を行わずにそのまま製造された位相差フィルムとした。実施例1と同様にして、位相差値、Nz係数、および位相差値変動の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0084】
<比較例2>
ここで、図4は、比較例2、3における熱処理条件を示すグラフであり、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(分)である。実施例1で得られた延伸フィルムを用い、熱処理条件を、第1ゾーン温度から第4ゾーンまで等しく135℃に設定した。すなわち、図4に示されるように上記式(1)、(2)を満たす領域1から外れた、直線5で表わされるような条件で熱処理を施した。このような条件で熱処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様にして、位相差値、Nz係数および位相差値変動の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0085】
<比較例3>
実施例1で得られた延伸フィルムを用い、熱処理条件を、第1ゾーンの温度を60℃、第2ゾーンの温度を85℃、第3ゾーンの温度を100℃、第4ゾーンの温度を130℃に設定した。すなわち、図4に示されるように上記式(1)、(2)を満たす領域1から一部外れた、線6で表わされるような条件で熱処理を施した。このような条件で熱処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様にして、位相差値、Nz係数および位相差値変動の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の位相差フィルムの製造方法における熱処理の条件について具体的に示すグラフであり、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(分)である。
【図2】実施例1における熱処理条件を示すグラフであり、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(分)である。
【図3】実施例2、3における熱処理条件を示すグラフであり、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(分)である。
【図4】比較例2、3における熱処理条件を示すグラフであり、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(分)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン系樹脂からなる長尺状の未延伸フィルムを、温度110〜140℃および滞留時間10〜120秒の範囲内で予熱する工程と、
(B)予熱された未延伸フィルムを3〜10倍の延伸倍率で横一軸延伸する工程と、
(C)得られた延伸フィルムを温度60〜135℃および滞留時間10〜120秒の範囲内で熱固定する工程と、
(D)下記式(1)、(2)をともに満たす条件で4分間以上熱処理する工程と、
(E)熱処理が施された延伸フィルムを温度20〜25℃、相対湿度50〜60%の環境下に7日間以上養生する工程とを含む、位相差フィルムの製造方法。
y≧−15x+80 (1)
y≦−7.5x+130 (2)
(上記式(1)、(2)中、xは0〜4の実数であり、熱処理の時間(単位:分)を示し、yは熱処理の温度(℃)を示す。)
【請求項2】
熱処理を行う条件が、上記式(1)および下記式(3)をともに満たす、請求項1に記載の方法。
y≦−15x+120 (3)
(上記式(3)中、xは0〜4の実数であり、熱処理の時間(単位:分)を示し、yは熱処理の温度(℃)を示す。)
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂が、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンとの共重合体である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂からなる長尺未延伸フィルムの幅方向に連続的に測定した膜厚プロファイルにおける凸部膜厚の平均値と凹部膜厚の平均値との差が1μm以下である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−139756(P2010−139756A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315943(P2008−315943)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】