説明

位相差フィルム並びにこれを用いた偏光板及び表示装置

【課題】優れた位相差機能を有し、かつ外観にも優れ、偏光子保護膜として用いうる位相差フィルムを提供する。さらに、本発明の位相差フィルムを用いることで、薄型・低コストの偏光板及び表示装置を提供する。
【解決手段】メプロピレン共重合体を含むポリプロピレン樹脂とリン酸エステル金属塩とを含むポリプロピレン樹脂組成物からなる位相差フィルム、ならびにこれを用いた偏光板及び表示装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置で使用される光学部材、より詳しくは位相差フィルムに関する。また、本発明は該位相差フィルムを用いた偏光板及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置などの表示装置が、テレビジョン、コンピューター、あるいは携帯電話などに幅広く採用されており、市場の広がりとともに、表示装置の更なる薄型化・低コスト化に対する要請も強くなっている。
【0003】
表示装置の一例として、液晶表示装置の構成例を図3に示す。図3に示される液晶表示装置は、液晶セル6を有し、この液晶セル6の片面側に従来の位相差板5と偏光板4とが配置されている。そして偏光板4は、中央に偏光子3を有し、この偏光子3の両面側に接着剤層2を介して偏光子保護膜1bが形成されている。
【0004】
上記表示装置に用いられる偏光板は、直交する偏光成分のうち一方を透過させ、他方を遮蔽する機能を有する光学部材である。この偏光板としては、偏光子の片面側又は両面側に偏光子保護膜が形成されたものが、一般に使用されている。この偏光子は、特定の振動方向をもつ光のみを透過させる機能を有するものであり、ヨウ素や二色性染料などで染色した一軸延伸型のポリビニルアルコール(PVA)系フィルムが広く用いられている。
【0005】
また、偏光子保護膜は、偏光子を支持して偏光板全体に実用的な強度を付与し、かつ偏光子の表面を物理的に保護するなどの機能を担うものである。そのため、偏光子保護膜には、実用的な強度を有すること、透明性が良好であること、モアレ模様などの光学的な不均一性が低いことなどの性能が求められる。そのため、偏光子保護膜としては、セルロース系フィルムであるトリアセチルセルロース(以下、TACと称することがある。)フィルムが一般的に用いられている。
【0006】
ところで、位相差フィルムは、直交する偏光成分の間に位相差を生じさせる複屈折性を有する光学部材であり、位相差を補償するいわゆる光学補償に用いられている。
ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する位相差フィルムは、どの方向から光が入射しても屈折率が変わらない光を常光とし、光の入射方向によって屈折率が変化する光を異常光としたときに、面内に光軸をもち異常光屈折率が常光屈折率よりも大きい位相差フィルムである。ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する位相差フィルムは、例えば、垂直配向(VA)モード型の液晶表示装置において、二枚の偏光板を直交(クロスニコル)配置した際の直交性を斜め視覚において保持する目的で、偏光子と液晶セルとの間に配置され、いわゆる視野角拡大フィルムとして用いられている。また、有機EL表示装置では、適当なポジティブAプレート特性を有する位相差フィルムを偏光子と透明電極との間に配置することで、透明電極の鏡面を外部から視認させない遮蔽効果を得ることができる。なお、有機EL表示装置ではネガティブCプレート特性は使用しない。
【0007】
しかし、上記の偏光子保護膜として一般的に用いられるTACフィルムは、ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する位相差フィルムとして使用することは困難である。それは、TACフィルムの防湿性が不十分であり、吸水によってフィルムの寸法が変化したり、透過した水分によって偏光子の性能が低下する問題があるからである。また、TACフィルム自体は一般に厚さ方向位相差Rthが45nm前後の低いネガティブCプレート特性を有するものである。よって、TACフィルムにポジティブAプレート特性と更に高いネガティブCプレート特性を付与することは、液晶表示装置の位相差を補償するために、ポジティブAプレート特性と追加のネガティブCプレート特性を有する位相差フィルムを別途採用しなければならない、あるいはTACフィルムの表面にポジティブAプレート特性と追加のネガティブCプレート特性を有する位相差層を特別に形成することが必要となってしまうため、困難であるといった問題もある。
【0008】
そこで、TACフィルムの防湿性不足を解消するため、耐湿性に優れたポリプロピレンを偏光子保護膜として用いることが提案されている(特許文献1、特許文献2)。特許文献1には、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンを用いた光学フィルムが、ヘーズが小さく透明性に優れる等の特長を有することにより、偏光子保護用に適していることが開示されている。しかし、高温環境下や高湿環境下において、寸法変化が大きくなりやすい場合があったり、あるいは白化などの外観不良が生じるといった問題があった。
【0009】
また、特許文献2には、製膜して得られたポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを延伸して位相差を発現させ、その位相差フィルムを偏光子に接着することで、偏光板の保護膜に位相差フィルムとしての機能を兼ねさせる構成の複合偏光板が開示されている。
しかしながら、延伸処理により位相差を発現させる場合、得られる位相差の値はフィルムの厚みに依存することになる。そのため、当然ながら、フィルムの厚みは所望の位相差の値を得るのに必要な厚みよりも薄くすることはできず、偏光板や表示装置の薄型化の障害となる場合があった。また、延伸工程の制御のぶれによって位相差のばらつきが発生しやすく、さらに、延伸によってフィルムに内部熱収縮応力が蓄積するため、高温環境下や高湿環境下において寸法変化が大きくなりやすいという問題が生じる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−146023号公報
【特許文献2】特開2007−316603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる事情によりなされたものであり、本発明の課題は、プロピレン共重合体に優れた位相差機能を付与する技術を見出し、優れた位相差機能を有し、かつ外観にも優れ、偏光子保護膜として用いうる位相差フィルムを提供することにある。また、その位相差フィルムを用いることで、偏光板や表示装置の更なる薄型化・低コスト化を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、プロピレン共重合体に対して、リン酸エステル金属塩を用いることにより、その課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0013】
1.プロピレン共重合体を含むポリプロピレン樹脂とリン酸エステル金属塩とを含むポリプロピレン樹脂組成物からなる位相差フィルム。
2.前記リン酸エステル金属塩が、下記一般式(1)及び下記一般式(2)で示されるものから選ばれる少なくとも一種である上記1に記載の位相差フィルム。
【0014】
【化1】

【0015】
(式(1)中、R1は単結合、硫黄原子又は炭素数1〜9の二価の有機基を示し、R2〜R5は各々独立に水素原子又は炭素数1〜12の一価の有機基を示し、M1はアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を示し、M1がアルカリ金属原子のときp1は1を、q1は0を示し、M1がアルカリ土類金属のときp1は2を、q1は0を示し、M1が亜鉛原子のときp1は2を、q1は0を示し、M1がアルミニウム原子のときp1は1〜3を、q1は3−p1を示す。また、複数のR1〜R5は同じでも異なっていてもよい。式(2)中、R6〜R8は各々独立に水素原子又は炭素数1〜12の一価の有機基を示し、M2、p2及びq2は各々上記のM1、p1及びq1と同じである。また、複数のR6〜R8は同じでも異なっていてもよい。)
3.前記プロピレン共重合体が、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体である上記1又は2に記載の位相差フィルム。
4.前記リン酸エステル金属塩の配合量が、前記ポリプロピレン樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部である上記1〜3のいずれかに記載の位相差フィルム。
5.前記位相差フィルムが、ポジティブAプレート特性及びネガティブCプレート特性を有することを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の位相差フィルム。
6.下記(1)〜(3)の工程を有する位相差フィルムの製造方法。
工程(1)プロピレン共重合体を含むポリプロピレン樹脂を得る工程
工程(2)該ポリプロピレン樹脂とリン酸エステル金属塩とを混合し加熱溶融してポリプロピレン樹脂組成物を得る工程
工程(3)該ポリプロピレン樹脂組成物を成形加工する工程
7.前記プロピレン共重合体が、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体である上記6に記載の位相差フィルムの製造方法。
8.延伸処理を行っていないことを特徴とする上記6又は7に記載の位相差フィルムの製造方法。
9.偏光子の少なくとも片面に、請求項1〜5のいずれかに記載の位相差フィルムが設けられていることを特徴とする偏光板。
10.上記9に記載された偏光板が使用されていることを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明者らは、プロピレン共重合体にリン酸エステル金属塩を混合することで、該ポリプロピレンに、優れた位相差機能、好ましくはポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性となる位相差機能を発現しうることを見出した。本発明によれば、優れた位相差機能を有し、かつ外観にも優れ、偏光子保護膜として用いうる位相差フィルムを得ることができる。また、発現する面内位相差の値はリン酸エステル金属塩の混合割合に依存するため、リン酸エステル金属塩の混合割合を増減することで、所望の面内位相差の値に調節することができる。
さらに、本発明の位相差フィルムを用いることで、薄型・低コストの偏光板及び表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の偏光板の構成例を示す図である。
【図2】本発明の液晶表示装置の構成例(ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する本発明の位相差フィルムが偏光子保護膜を兼ねている例)を示す図である。
【図3】従来の液晶表示装置の構成例(偏光板に各モード用の位相差フィルムを有する例)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンとリン酸エステル金属塩を含むポリプロピレン樹脂組成物からなるものである。
以下に、位相差フィルムについて、詳細に説明する。
【0019】
《プロピレン共重合体》
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂は、プロピレン共重合体を含むことを要するものである。また、ポリプロピレン樹脂には、プロピレンと一種以上のコモノマーとの共重合体であるプロピレン共重合体のほか、プロピレンの単独重合体を含んでいてもよい。本発明においては、プロピレン共重合体を含んでいればよく、例えばプロピレン単独重合体と一種以上のプロピレン共重合体とを混合したものでもよいし、二種以上のプロピレン単独重合体と一種のプロピレン共重合体とを混合したものでもよいし、二種以上のプロピレン共重合体を混合したものであってもよい。すなわち、プロピレン由来の構造単位の割合、分子量あるいはタクティシティーなどが異なるプロピレン共重合体やプロピレン単独重合体を混合して用いてもよい。
本発明においては、透明性、その他光学特性や、リン酸エステル金属塩などの添加物のブリードアウトのしにくさを考慮すると、プロピレン共重合体として、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体であることが好ましい。
【0020】
α−オレフィンとしては、エチレン、炭素数4〜18の1−オレフィンが好ましく用いられ、具体的にはエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1などが好ましく挙げられる。共重合体中のプロピレン単位の割合は、透明性と耐熱性のバランスの観点から、好ましくは80モル%以上100モル%未満であり、コモノマーは0超〜20モル%以下である。コモノマーとして、前記のα−オレフィンは1種類に限られず、2種類以上を用いることができ、共重合体をターポリマーのような多元系共重合体とすることもできる。なお、共重合体におけるコモノマー由来の構成単位の含量は、赤外線(IR)吸収スペクトルの測定により求めることができる。
【0021】
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂は、リン酸エステル金属塩のブリードアウトのしにくさを考慮すると、チーグラー・ナッタ触媒、あるいはメタロセン触媒などの公知の重合触媒を用いて重合されたプロピレン共重合体からなるものであることが好ましく、より透明性に優れる観点からメタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン共重合体からなるものであることが好ましい。メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン共重合体は、一般に分子量と結晶性が均一で、低分子量・低結晶性成分が少ないという特長を有する。そのため、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンが用いられた位相差フィルムは、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合されたポリプロピレンが用いられた位相差フィルムよりも、透明性が高いものになるので、位相差フィルムにより適したものとなる。
【0022】
本発明においては、ポリプロピレン樹脂は、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレンとα−オレフィンとの共重合体を含んでいればよく、またメタロセン触媒を用いて重合されたプロピレンの単独重合体を含んでいてもよい。
【0023】
(メタロセン触媒)
メタロセン触媒としては、公知のものを適宜用いることができる。一般的には、Zr、Ti、Hfなどの4〜6族遷移金属化合物、特に4族遷移金属化合物と、シクロペンタジエニル基あるいはシクロペンタジエニル誘導体の基を有する有機遷移金属化合物を使用することができる。
【0024】
シクロペンタジエニル誘導体の基としては、ペンタメチルシクロペンタジエニルなどのアルキル置換体基、あるいは2以上の置換基が結合して飽和もしくは不飽和の環状置換基を構成した基を使用することができ、代表的にはインデニル基、フルオレニル基、アズレニル基、あるいはこれらの部分水素添加物を挙げることができる。また、複数のシクロペンタジエニル基がアルキレン基、シリレン基、ゲルミレン基などで結合されたものも好適に挙げることができる。
【0025】
(助触媒)
ポリプロピレンの製造において、メタロセン触媒とともに、助触媒を使用することができる。助触媒としては、アルミニウムオキシ化合物、メタロセン化合物と反応してメタロセン化合物成分をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物もしくはルイス酸、固体酸、あるいは、層状ケイ酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることができる。また、必要に応じてこれらの化合物と共に有機アルミニウム化合物を添加することができる。
【0026】
(メタロセン触媒を用いたプロピレン重合体の重合方法)
前記メタロセン触媒を用いてプロピレン重合体を合成する方法(重合方法)としては、これらの触媒の存在下、不活性溶媒を用いたスラリー法、実質的に溶媒を用いない気相法、溶液法、あるいは重合モノマーを溶媒とするバルク重合法などが挙げられる。
【0027】
(ポリプロピレン樹脂の物性)
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂は、融点(Tm)が120〜170℃であることが好ましい。融点(Tm)が上記範囲内であれば、位相差フィルムの耐熱性が向上し、偏光板のような耐熱を要する用途への使用が可能となるので好ましい。ここで融点は、示差走査型熱量計(DSC)によって測定された融解曲線において最高強度のピークが現われている温度で評価され、ポリプロピレン樹脂のプレスフィルム10mgを、窒素雰囲気下、230℃で5分間熱処理後、降温速度10℃/分で30℃まで冷却して30℃において5分間保温し、さらに30℃から230℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の融解ピーク温度として求めた値である。
【0028】
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂は、光学的に等方性が高い光学フィルムを得るために、下記の樹脂選定試験により測定された面内位相差が20nm以下のものが好ましい。特にプロピレン共重合体、とりわけプロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体は、屈折率が小さいため、本発明における位相差フィルムの材料として好適である。
(樹脂選定試験)
ペレット状のポリプロピレン樹脂のサンプルを熱プレス成形して、フィルム(10cm角,厚さ:100μm)を作製する。次いで、ポリプロピレン樹脂を220℃で5分間予熱し、3分間かけて100kgf/cm2まで昇圧し、100kgf/cm2で2分間保圧し、その後、30℃で30kgf/cm2の圧力で5分間冷却する。このようにして作製したフィルムの面内位相差を、位相差測定機を用いて、波長589.3nm、入射角0度の条件で測定した。
【0029】
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂の分子量分布は、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比率(分散度)で評価することができ、Mw/Mnが1〜20であることが好ましい。なお、Mn及びMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、溶媒に140℃のo−ジクロロベンゼンを用い、標準サンプルにポリスチレンを用いた条件で測定したものである。
【0030】
《リン酸エステル金属塩》
リン酸エステル金属塩としては、リン酸が有する3個の水素の一部又は全部が金属又は有機基で置き換わった構造を有し、少なくとも金属を含むものであれば特に制限はないが、例えば、下記一般式(1)あるいは(2)で示されるリン酸エステル金属塩が好ましく挙げられる。
【0031】
【化2】

【0032】
ここで、式(1)中、R1は単結合、硫黄原子又は炭素数1〜9の二価の有機基を示す。二価の有機基としては、二価の脂肪族基や、二価の芳香族基などが挙げられ、二価の脂肪族基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、アルキリデン基、アルケニレン基などが挙げられる。また、二価の芳香族基としては、フェニレン基や、ビフェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。これらの中でも、R1としては、アルキレン基及びアルキリデン基が好ましく、アルキレン基としては、メチレン基、エチレンオキサイド基、プロピレン基、ブチレン基が好ましく挙げられ、アルキリデン基としては、エチリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、ヘキシリデン基、オクチリデン基、シクロヘキシリデン基などが好ましく挙げられる。また、これらの基は、ハロゲン原子、置換基を有していてもよく、複数のR1は同じでも異なっていてもよい。
【0033】
2〜R5は各々独立に水素原子又は炭素数1〜12の一価の有機基を示す。一価の有機基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基あるいはアラルキル基などが好ましく挙げられる。なかでも、R2〜R5としては、アルキル基が好ましく、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基のほか、n−ヘキシル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、1−ペンチルへキシル基、シクロヘキシル基、1−ヒドロキシヘキシル基、1−クロロヘキシル基、1,3−ジクロロヘキシル基、1−アミノヘキシル基、1−シアノヘキシル基、1−ニトロヘキシル基などの各種ヘキシル基、その他各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基などが好ましく挙げられる。これらの基は、上記したようにハロゲン原子、置換基を有していてもよい。また、R2〜R5は互いに結合して環状構造を形成したものでもよく、複数のR2〜R5は、同じでも異なっていてもよい。
【0034】
1はアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を示す。アルカリ金属原子としては、Li、Na、Kなどが好ましく挙げられ、アルカリ土類金属原子としては、Ma、Ca、Sr、Baなどが好ましく挙げられる。
1がアルカリ金属原子のときp1は1を、q1は0を示し、M1がアルカリ土類金属のときp1は2を、q1は0であり、M1が亜鉛原子のときp1は2を、q1は0を示し、M1がアルミニウム原子のときp1は1〜3を、q1は3−pを示す。
【0035】
式(2)中、R6〜R8は各々独立に水素原子又は炭素数1〜12の一価の有機基を示す。炭素数1〜12の一価の有機基は、上記したものと同じである。また、複数のR6〜R8は同じでも異なっていてもよい。M2、p2及びq2は各々上記したM1、p1及びq1と同じである。
上記した式(1)及び(2)で示されるリン酸エステル金属塩は、それぞれ単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0036】
上記したような一般式(1)で示される、その分子内に環状構造を有する環状リン酸エステル金属塩としては、具体的には例えば以下のものが好ましく例示される。
金属としてアルカリ金属原子を含む環状リン酸エステルアルカリ金属塩としては、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4,6−ジエチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−エチリデンビス(4−s−ブチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−ブチリデンビス(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−ブチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−t−オクチルメチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−t−オクチルメチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム(4,4‘−ジメチル−5,6−ジ−t−ブチル−2,2’−ビフェニル)フォスフェートなどの環状リン酸エステルナトリウム塩;該環状リン酸エステルナトリウム塩のナトリウムをカリウムに置き換えた環状リン酸エステルカリウム塩;該環状リン酸エステルナトリウム塩のナトリウムをリチウムに置き換えた環状リン酸エステルリチウム塩などが好ましく挙げられる。
【0037】
金属としてアルカリ土類金属原子を含む環状リン酸エステルアルカリ土類金属塩としては、カルシウムビス(2,2’−メチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(2,2’−メチレンビス(4,6−ジエチルブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(2,2’−チオビス(4−t−オクチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(2,2’−チオビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(2,2’−チオビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(4,4’−ジメチル−6,6’−ジ−t−ブチル−2,2’−ビフェニルフォスフェート)などの環状リン酸エステルカルシウム塩;該環状リン酸エステルカルシウム塩のカルシウムをマグネシウムに置き換えた環状リン酸エステルマグネシウム塩;該環状リン酸エステルカルシウム塩のカルシウムをバリウムに置き換えた環状リン酸エステルバリウム塩;該環状リン酸エステルカルシウム塩のカルシウムを亜鉛に置き換えた環状リン酸エステル亜鉛塩などが好ましく挙げられる。
【0038】
また、金属としてアルミニウムを含む環状リン酸エステルアルミニウム塩としては、例えばヒドロキシアルミニウムビス(2,2’−メチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート)のような上記した環状リン酸エステルカルシウム塩のカルシウムをヒドロキシアルミニウムに置き換えた塩のほか、アルミニウムトリス(2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、アルミニウムトリス(2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)などが好ましく挙げられる。
【0039】
また、上記したような一般式(2)で示されるリン酸エステル金属塩としては、具体的には例えば以下のものが好ましく例示される。
金属としてアルカリ金属原子を含むリン酸エステルアルカリ金属塩としては、ナトリウム(ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)フォスフェート)、ナトリウム(ビス(2,4,6−トリエチルフェニル)フォスフェート)、ナトリウム(ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、ナトリウム(ビス(2,4−ジメチルフェニル)フォスフェート)、ナトリウム(ビス(2,4−ジエチルフェニル)フォスフェート)、ナトリウム(ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、ナトリウム(ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、ナトリウム(ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、ナトリウム(ビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート)などのリン酸エステルナトリウム塩;該リン酸エステルナトリウム塩のナトリウムをカリウムに置き換えたリン酸エステルカリウム塩;該リン酸エステルナトリウム塩のナトリウムをリチウムに置き換えたリン酸エステルリチウム塩などが好ましく挙げられる。
【0040】
金属としてアルカリ土類金属原子を含むリン酸エステルアルカリ土類金属塩としては、カルシウムビス(ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(2,4,6−トリエチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(2,4−ジメチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(2,4−ジエチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(4−t−オクチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、カルシウムビス(ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)などのリン酸エステルカルシウム塩;該リン酸エステルカルシウム塩のカルシウムをマグネシウムに置き換えたリン酸エステルマグネシウム塩;該リン酸エステルカルシウム塩のカルシウムをバリウムに置き換えたリン酸エステルバリウム塩;該リン酸エステルカルシウム塩のカルシウムを亜鉛に置き換えたリン酸エステル亜鉛塩などが好ましく挙げられる。
【0041】
また、金属としてアルミニウムを含むリン酸エステルアルミニウム塩としては、例えばヒドロキシアルミニウムビス(ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)フォスフェート)のような上記したリン酸エステルカルシウム塩のカルシウムをヒドロキシアルミニウムに置き換えた塩のほか、アルミニウムトリス(ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、アルミニウムトリス(ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)などが好ましく挙げられる。
【0042】
これらの中でも、透明性の観点から環状リン酸エステル金属塩が好ましく、金属がアルカリ金属、とりわけリチウム及びナトリウムであることが好ましく、ベンゼン環に少なくとも一つのブチル基を有する金属塩、すなわち、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−エチリデンビス(4−s−ブチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−ブチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2’−t−オクチルメチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム(4,4’−ジメチル−5,6−ジ−t−ブチル−2,2’−ビフェニル)フォスフェートなどの環状リン酸エステルナトリウム塩、及びこれらのナトリウムをリチウムに置き換えた環状リン酸エステルリチウム塩が好ましい。これらの中でも、特にナトリウム2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートが好ましい。
【0043】
これらのリン酸エステル金属塩は、従来公知の方法に従って生成されたものであり、本発明においてはポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性となる面内位相差とネガティブCプレート特性となる厚さ方向位相差Rthを付与するために用いられるものである。また、これらのリン酸エステル金属塩は少量の添加で位相差機能を発現し、ブレンド後にブリード不良(染み出し)を生じることがないものであり、さらに耐熱性やポリプロピレン樹脂に対する分散性も優れるものである。
【0044】
本発明に用いられるリン酸エステル金属塩の粒径は、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、溶融ポリプロピレン樹脂に対する溶解時間の観点から、できる限り粒径が小さいものが好ましい。具体的には、その最大粒径は通常20μm以下であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。また、下限値としては、通常0.1μm以上であり、0.5μm以上が好ましく、より好ましくは1μm以上である。この粒径は、レーザー回折光散乱法で測定することで得られる数値である。
【0045】
本発明に用いられるリン酸エステル金属塩の最大粒径を上記範囲内に製造する方法としては、この分野で公知の慣用装置を用いて微粉砕し、これを分級する方法などが挙げられる。具体的には、流動層式カウンタージェットミル(「100AFG(型番)」,ホソカワミクロン社製)、超音速ジェットミル(「PJM−200(型番)」,日本ニューマチック社製)などを用いて微粉砕並びに分級する方法が好ましく例示される。
【0046】
リン酸エステル金属塩のポリプロピレンに対する配合量は、所望の面内位相差の値に応じて、適宜選択することができる。本発明におけるリン酸エステル金属塩は、ポリプロピレン100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜3質量部であり、さらに好ましくは0.5〜2.5質量部であり、特に好ましくは0.5〜1.5質量部である。リン酸エステル金属塩の配合量が上記範囲内であれば、面内位相差の値が適当な範囲となり、反面ブリードなどによる白化や、外観不良を生じることがないので好ましい。また、ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する位相差フィルムに対して一般的に要求される位相差の範囲に調節することができる。
【0047】
《任意成分》
本発明において、所望に応じて各種の添加剤や添加樹脂を、位相差フィルムを構成するポリプロピレン樹脂組成物の任意成分として添加することができる。
例えば、フィルムの所望物性に応じて、位相差フィルムとして必要な複屈折や透明性を損なわない範囲で、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン以外の各種オレフィン樹脂を添加樹脂として配合することができ、また、耐候性改善剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤などを添加することができる。
【0048】
耐候性改善剤としては、紫外線吸収剤や光安定剤を用いることができる。
紫外線吸収剤は、無機系、有機系のいずれでもよく、無機系紫外線吸収剤としては、平均粒径が5〜120nm程度の二酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを好ましく用いることができる。また、有機系紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系などが挙げられる。
【0049】
また、光安定剤としては、例えばヒンダードアミン系、具体的には2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2’−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートなどが挙げられる。
また、紫外線吸収剤や光安定剤として、分子内に(メタ)アクリロイル基などの重合性基を有する反応性の紫外線吸収剤や光安定剤を用いることもできる。
【0050】
重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、p−ベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、t−ブチルカテコールなどが、架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、金属キレート化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物などが用いられる。
また、充填剤としては、例えば硫酸バリウム、タルク、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどが用いられる。
【0051】
《位相差フィルム》
本発明の位相差フィルムは、一軸性を有するものであり、優れた位相差機能、好ましくはポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有するものである。
Aプレートとは、厚さ方向の位相差がないか、または極めて小さく、面内のみに位相差を有する位相差層のことをいい、光軸が面内方向に存在する。該Aプレートが、その光学特性としてnx>ny≒nzを満たす場合、ポジティブAプレートと称される。ここで、nx、ny及びnzは、位相差板などにおけるX軸、Y軸及びZ軸方向の屈折率を示し、該X軸方向は前記位相差層の面内での屈折率が最大となる方向(面内遅相軸方向)であり、該Y軸方向は前記位相差層の面内で該X軸と垂直な方向(面内進相軸方向)であり、該Z軸方向は該X軸及びY軸方向に対して垂直な層の厚さ方向である。
また、Cプレートとは、面内の位相差がないか、または極めて小さく、厚さ方向にのみ位相差を有する位相差層のことをいい、光軸がその面内方向に垂直な厚さ方向に存在する。該Cプレートが、その光学特性としてnx≒ny>nzを満たす場合、ネガティブCプレートと称される。
本発明においては、複屈折性を示す層の面内のレターデーションReや、当該面と垂直方向のレターデーションである厚さ方向位相差Rthは、使用する液晶モードに応じて適宜調整すればよい。
【0052】
例えば、VAモード型の液晶表示装置などに用いられ、上偏光板と下偏光板の液晶セル側にそれぞれ一枚ずつ使用する場合、ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する位相差フィルムに対して一般的に要求される面内位相差の範囲は、波長R589.5nm及び入射角0度の条件で、通常10〜400nmであり、好ましくは20〜300nmである。波長R589.5nmにおいて上記の位相差の範囲とすることにより、各表示装置での光学素子の持つ機能が相乗効果的に発揮される。特に液晶表示装置のVAモード型では斜め方向のコントラスト比を高め、斜め方向のカラーシフト量を小さくすることができる。
面内位相差は、リン酸エステル金属塩の混合割合を増減することで、所望の値とすることができる。また、リン酸エステル金属塩の混合に加えて、必要に応じて延伸処理をおこなうことで、面内位相差の値を調節することもできる。
【0053】
ネガティブCプレート特性は、VAモードで使用する液晶の光学補償として機能し、視野角を拡大するものである。通常VAモード液晶の固有の厚さ方向位相差Rthは、160〜650nmであり、好ましくは200〜500nmである。位相差フィルムは、使用するVAモード液晶に固有の正の厚さ方向位相差Rthを打ち消して、Rthを液晶セル全体としてゼロに近づけるようなものとすればよい。そのため、ネガティブCプレート特性は、二枚使用として上偏光板と下偏光板に分けて配設してもよいし、一枚使用として上下いずれかの偏光板に配設してもよい。
上偏光板か下偏光板のいずれか片側のみに位相差フィルムを配設するときは、上偏光板と下偏光板との二枚に分けて配設した場合の当該二枚分の合計値で設計する。二枚に分けて配設した場合の厚さ方向位相差Rthは、80〜300nmであり、好ましくは100〜250nmである。
また、ポジティブAプレートは、有機EL表示装置の(楕)円偏光板として使用される場合は、λ/2板あるいはλ/4板などに用いられ、そのレターデーションReは、好ましくは100〜400nmであり、より好ましくは120〜300nmである。
【0054】
位相差フィルムの厚さは、10〜200μmの範囲が好ましく、30〜150μmがより好ましい。厚さが10μm以上であると、位相差フィルムの強度を確保することができる。厚さが200μm以下であると、十分な可とう性が得られ、軽量であることからハンドリングが容易であり、かつコスト的にも有利である。
位相差フィルムの曲げ弾性率は、700MPa以上であることが好ましい。曲げ弾性率が上記範囲内であると、フィルム状態で取り扱う際の十分な剛性が得られ、後加工を容易に行うことができるからである。さらには、位相差フィルムの曲げ弾性率は、900MPa以上であることがより好ましい。さらには、位相差フィルムの曲げ弾性率は、900MPa以上であることがより好ましい。900MPa以上とすれば、Tダイ押出し成形で製造した場合に、面内位相差を安定させることができるからである。ここで、曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定されるものとする。
【0055】
位相差フィルムの曲げ弾性率の調整方法としては、特に制限はなく、以下のような方法により調整することができる。例えば、ポリプロピレン本来の特性(結晶化度、平均分子量など)で選択する方法、樹脂に無機質あるいは有機質の充填剤から選ばれた充填剤を添加する方法、架橋剤などを添加する方法、弾性率の異なる2種類以上の樹脂を混合する方法、硬化性樹脂の可塑剤組成分を選択する方法などを用いて、あるいはこれらの方法を適宜複数組み合わせて用いる方法などが挙げられる。
【0056】
位相差フィルムの引張強度は、20MPa以上であることが好ましい。20MPa以上であると、位相差フィルムを接着剤層を介して偏光子にロール・ツウ・ロールの方法で貼り合わせる時に、配向がかからず、位相差のばらつきが発生しにくいので、ポジティブAプレート特性が付与された偏光板の性能を良好なものにできる。ここで、本発明において、引張強度は、ASTM D638(Type4条件)に準拠して測定されるものとする。
【0057】
位相差フィルムは、メルトフローレート(以下、MFRと記すことがある。)が0.5〜50g/10分であることが好ましく、より好ましくは7g/10分以上である。ここで、MFRはJIS K7210に準拠して測定される値であり、その測定条件は、230℃、荷重21.18Nである。位相差フィルムのMFRが上記範囲内にあれば、未延伸フィルムの成膜時にひずみの発生を抑えることができ、低複屈折性を有する位相差フィルムを得ることができるので好ましい。また、位相差フィルムとして十分な強度が得られ、後加工を容易に行うことができる。さらに、製造ロット内でのMFRの安定が容易となるので安定成形ができ、MFR調整剤などの添加剤の添加量をおさえることができるので、物性に悪影響を与えることがない。なお、ポリプロピレンのMFRの調整は、例えば有機過酸化物などの、一般的なMFR調整剤などによって行うことができる。
【0058】
位相差フィルムは、偏光子と接する面に接着性向上のために易接着処理を施すことができる。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、低圧UV処理、ケン化処理などの表面処理やアンカー層を形成する方法が挙げられ、これらを併用することもできる。これらの中でも、コロナ処理、アンカー層を形成する方法、およびこれらを併用する方法が好ましい。
【0059】
位相差フィルムと偏光子との密着性を上げるために接着剤層を形成する場合は、位相差フィルムか偏光子のいずれかの側又は両側に接着剤を塗布することによりおこなうことができる。接着剤層の厚みは、乾燥後の厚みで厚くなりすぎると位相差フィルムの接着性の点で好ましくないことから、好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.03〜5μmである。
【0060】
易接着処理を行った面もしくは接着剤層を形成した面を介して、位相差フィルムと偏光子とを貼り合せた後に、乾燥工程を施し、塗布乾燥層からなる接着剤層を形成する。接着剤層を形成した後にこれを貼り合わせることもできる。偏光子と位相差フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーターなどにより行うことができる。加熱乾燥温度、乾燥時間は接着剤の種類に応じて適宜決定される。
【0061】
また、位相差フィルムの表面には、機能層を積層して、各種の機能、例えば、高硬度で耐擦傷性を有する、いわゆるハードコート機能、防曇コート機能、防汚コート機能、防眩コート機能、反射防止コート機能、紫外線遮蔽コート機能、赤外線遮蔽コート機能などを付与することもできる。
【0062】
《位相差フィルムの製造方法》
位相差フィルムは、好ましくは、工程(1)プロピレン共重合体を含むポリプロピレン樹脂を得る工程、工程(2)ポリプロピレン樹脂と、リン酸エステル金属塩と、所望に応じて各種の添加剤や添加樹脂とを混合し、加熱溶融させてポリプロピレン樹脂組成物を得る工程、及び工程(3)該ポリプロピレン樹脂組成物を、押出しコーティング成形法、キャスト法、Tダイ押出し成形法、インフレーション法、射出成形法などの各種成形法で、フィルム形状に成形加工する工程を経て製造することができる。
加工時の加熱温度は、通常160〜250℃の範囲であり、好ましくは190〜250℃である。加熱温度が上記範囲内であれば、より性能安定性に優れる位相差フィルムを得ることができる。
【0063】
本発明の位相差フィルムは、延伸処理を行っても行わなくてもよい。延伸に伴う面内位相差のばらつきや内部熱収縮応力が発生せず、高品質の位相差フィルムを安定して製造することが容易となることや、工数削減によるコスト低減が可能となり、位相差フィルムのコストを下げることができることなどの観点からは、延伸処理を行わないことが好ましい。
【0064】
[偏光板]
本発明の偏光板は、本発明の位相差フィルムが偏光子保護膜として、偏光子の少なくとも片面に設けられ、好ましくは液晶セル側に設けられるものである。偏光板の形成の方法としては、位相差フィルムを先に作製しておき、その後、接着剤層を介して偏光子に貼り合わせてもよいし、偏光子の上に位相差フィルムを直接成形してもよい。本発明の偏光板は、優れた位相差機能、好ましくはポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性が付与された高付加価値の偏光板である。また、本発明の位相差フィルムは、延伸処理のみで所望の位相差の値を得るのに比べて、延伸工程が不要な分、製造工程が少ないため低コストの偏光板とすることが可能となる。
図1に、本発明の偏光板の構成例を示す。図1において、3は偏光子であり、その片面
側に接着剤層2を介して、本発明の位相差フィルムが偏光子保護膜1aとして形成され、
全体として偏光板4を構成している。
【0065】
《偏光子》
偏光板で用いる偏光子としては、特定の振動方向をもつ光のみを透過する機能を有する偏光子であれば如何なるものでもよいが、通常PVA系フィルムなどを延伸し、ヨウ素や二色性染料などで染色したPVA系偏光子が好ましく用いられる。
PVA系偏光子としては、例えばPVA系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムなどの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸したものが挙げられる。これらのなかでもPVA系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適に用いられる。これら偏光子の厚さは特に制限されず、一般的に、1〜100μm程度である。
【0066】
偏光子を構成する樹脂として好適に用いられるPVA系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニル及びこれと共重合可能な他の単量体の共重合などが例示される。酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。
PVA系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%、好ましくは98〜100モル%の範囲である。このPVA系樹脂は、さらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用し得る。PVA系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000、好ましくは1,500〜10,000の範囲である。
【0067】
《偏光板の製造方法》
偏光板は、例えば、上述のようなPVA系フィルムを一軸延伸する工程(I)、PVA系樹脂フィルムを二色性色素で染色して、その二色性色素を吸着させる工程(II)、二色性色素が吸着されたPVA系フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程(III)、ホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程(IV)、及びこれらの工程が施されて二色性色素が吸着配向された一軸延伸PVA系フィルムに位相差フィルムを貼り付ける工程(V)を経て、製造される。
【0068】
(工程(I))
一軸延伸は、二色性色素による染色の前、同時あるいは後に行うことができる。一軸延伸を二色性色素による染色後に行う場合には、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前、あるいはホウ酸処理中に行うことができる。また、これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。一軸延伸するには、周速の異なるロール間で、あるいは熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、延伸は、大気中で延伸を行う乾式延伸や、溶剤により膨潤した状態で延伸を行う湿式延伸で行うことができる。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。
【0069】
(工程(II))
PVA系フィルムを二色性色素で染色するには、例えば、PVA系フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬すればよい。二色性色素として、具体的にはヨウ素又は二色性染料が用いられる。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、PVA系フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100質量部あたり0.01〜0.5質量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は通常、水100質量部あたり0.5〜10質量部程度である。この水溶液の温度は、通常20〜40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間は、通常30〜300秒程度である。
【0070】
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は通常、水溶性二色性染料を含む水溶液に、PVA系フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は通常、水100質量部あたり0.001〜0.01質量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を含有していてもよい。この水溶液の温度は、通常20〜80℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間は、通常30〜300秒程度である。
【0071】
(工程(III))
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたPVA系フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することにより行われる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は通常、水100質量部あたり2〜15質量部程度、好ましくは5〜12質量部程度である。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有するのが好ましい。ホウ酸水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は通常、水100質量部あたり2〜20質量部程度、好ましくは5〜15質量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常100〜1,200秒程度、好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。ホウ酸水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃である。
【0072】
(工程(IV))
ホウ酸処理後のPVA系フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたPVA系フィルムを水に浸漬することにより行われる。水洗後は乾燥処理が施されて、偏光子が得られる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常2〜120秒程度である。その後に行われる乾燥処理は通常、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行われる。乾燥温度は、通常40〜100℃である。乾燥処理における処理時間は、通常120〜600秒程度である。
こうして、ヨウ素又は二色性染料が吸着配向されたPVA系フィルムからなる偏光子が得られる。
【0073】
(工程(V))
偏光子と位相差フィルムとの貼り合せの方法としては、接着剤層を介して行うことができる。接着剤層を形成する接着剤としては、PVA系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフトさせたポリオレフィンもしくは前記グラフトさせたポリオレフィンをブレンドしたポリオレフィン系接着剤などが挙げられる。その他、透明性を有する接着剤、例えば、ポリビニルエーテル系、ゴム系などの接着剤を使用することができる。なかでも、PVA系接着剤が好ましい。
【0074】
PVA系接着剤は、PVA系樹脂と架橋剤を含有するものであり、PVA系樹脂としては、例えばポリ酢酸ビニルをケン化して得られたPVA及びその誘導体、酢酸ビニルと共重合性を有する不飽和カルボン酸及びそのエステル類やα−オレフィンなどの単量体との共重合体のケン化物、PVAをアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化又はリン酸エステル化などした変性PVAなどが挙げられる。これらPVA系樹脂は一種を単独でまたは二種以上を併用することができる。
PVA系樹脂の重合度などは特に限定されないが、接着性などが良好になることから、平均重合度100〜3000程度、好ましくは500〜3000、平均ケン化度85〜100モル%程度、好ましくは90〜100モル%程度のものを用いることが好ましい。
【0075】
本発明において、上記偏光子や上記接着剤層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などの紫外線吸収剤で処理する方式などにより紫外線吸収能を付与してもよい。
【0076】
上記接着剤層は、位相差フィルム又は偏光子のいずれかの側または両側に、接着剤を塗布することにより形成する。接着剤層の厚みは、好ましくは0.01〜10μm、さらに好ましくは0.03〜5μmである。
【0077】
また、位相差フィルムを偏光子と接着させるに際し、位相差フィルムの偏光子と接する面に接着性向上のためにコロナ処理、プラズマ処理、低圧UV処理、ケン化処理などの表面処理やアンカー層を形成する方法などの易接着処理を施すことができる。なかでもコロナ処理、アンカー層を形成する方法、およびこれらを併用する方法が好ましい。
【0078】
次いで、上記のようにして易接着処理を行った面に接着剤層を形成し、前記接着剤層を介して、偏光子と位相差フィルムとを貼り合せる。
偏光子と位相差フィルムとの貼り合わせは、ロールラミネーターなどにより行うことができる。なお、加熱乾燥温度、乾燥時間は接着剤の種類に応じて適宜決定される。
【0079】
(その他)
偏光板は、表面性、耐傷付き性を向上させるために、少なくとも一層以上のハードコート層を有する積層体とすることが好ましい。前記ハードコート層としては、例えば紫外線硬化型アクリルウレタン、紫外線硬化型エポキシアクリレート、紫外線硬化型(ポリ)エステルアクリレート、紫外線硬化型オキセタンなどの紫外線硬化型樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系ハードコート剤などよりなるハードコート層が挙げられ、透明性、耐傷付き性、耐薬品性の点から、紫外線硬化型樹脂よりなるハードコート層が好ましい。これらのハードコート層は、一種類以上で用いることができる。
ハードコート層の厚みは、0.1〜100μmが好ましく、特に好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは2〜20μmである。また、ハードコート層の間にプライマー処理をすることもできる。
【0080】
また、偏光板は、必要に応じて、反射防止や低反射処理などの公知の防眩処理を行うことができる。
【0081】
[表示装置]
本発明の位相差フィルム及び偏光板は、表示用の各種装置に好ましく使用することができる。本発明の位相差フィルムは、優れた位相差機能、好ましくはポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有しかつ偏光子保護膜として用いることができるので、光学補償機能を有した偏光板の偏光子保護膜として形成することができ、その偏光板を用いた表示装置の構成単純化や生産性の向上に寄与しうるものである。
また、本発明の位相差フィルムは、偏光子保護膜として用いずに、ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性が付与されていない偏光板と組み合わせて表示装置に用いることもできる。
【0082】
表示装置としては、偏光板を使用しかつポジティブAプレート特性を必要とするものであれば、種類の限定はなく、例えば液晶セルを含む液晶ディスプレイ、有機EL表示装置、タッチパネルなどが挙げられる。また、液晶ディスプレイの場合、画像表示装置は、一般に、液晶セル、光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては、上記した偏光板を使用し、かつポジティブAプレート特性に加えてネガティブCプレート特性を必要とする点を除いて、画像表示装置の構成には特に限定はない。例えば、液晶セルの片側又は両側に偏光板を配置した画像表示装置や、照明システムとしてバックライト又は反射板を用いたものなどの適宜な画像表示装置が例示される。なお、画像表示装置を構成するに際しては、例えば、拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
下記に、液晶セルを含む液晶表示装置の例と有機EL表示装置の例を説明する。
【0083】
《液晶セルを含む液晶表示装置》
本発明の偏光板は、例えば液晶セルなどに積層して好適に使用される。
本発明の表示装置の例として、図2及び図3に、液晶セルを含む液晶表示装置の構成例を示す。図2は、本発明のポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する位相差フィルムが偏光板の偏光子保護膜を兼ねて用いられている例である。また、図3は、本発明のポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する位相差フィルムが偏光子保護膜として用いられておらず、液晶表示装置の構成部材として位相差フィルムと偏光子保護フィルムとの両方が用いられている、従来の液晶表示装置の構成例(偏光板に各モード用の位相差フィルムを有する例)である。
【0084】
図2において、6は液晶セルを示す。この液晶セル6は、例えば、薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型などや、ツイストネマチック型、スーパーツイストネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型などのものが例示される。この液晶セル6の上に、粘着剤層(図示せず)を介して、偏光板4が積層されたものである。偏光板4は、中心に偏光子2を有し、偏光子2の液晶セルと偏光板とが配置された面側に、接着剤層3を介して、本発明の位相差フィルムからなるポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する偏光子保護膜1aが積層され、また、偏光子2の他方の面側にポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有しない偏光子保護膜1bが積層されている。偏光板4と液晶セル6の積層に際しては、予め偏光板4及び/又は液晶セル6に粘着剤層を設けておくこともできる。なお、ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性以外の光学補償機能を必要とする場合は、必要な光学補償機能を有する光学フィルムを表示装置の構成部材として適宜採用することができる。
【0085】
ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有しない偏光子保護膜1bとしては、TACフィルムや、リン酸エステル金属塩が混合されていないメタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンフィルムなどを用いることができる。また、ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性以外の光学補償機能を必要とする場合は、必要な光学補償機能を有する光学フィルムを表示装置の構成部材として適宜採用することができる。
【0086】
偏光板と液晶セルとを積層する粘着剤としては特に限定されず、例えばアクリル系粘着剤が、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れているので好ましく挙げられる。
前記粘着剤には、光学的透明性、適度な濡れ性、凝集性、接着性などの粘着特性、耐候性、耐熱性などに優れることが求められる。さらに吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差などによる光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる画像表示装置の形成性などの点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着剤層が求められる。
【0087】
偏光板への上記粘着剤の塗工は、例えば、トルエンや酢酸エチルなどの適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒に、ベースポリマー又はその組成物を溶解又は分散させた10〜40質量%程度の粘着剤溶液を調製し、それをグラビアコート、バーコート、ロールコートなどの塗工方式や流延方式などの適宜な展開方式で偏光板上に直接塗工する方法、あるいはこの方法に準じ離型性ベースフィルム上に粘着剤層を形成してそれを偏光板に移着する方法などが挙げられる。
【0088】
粘着剤層は、異なる組成又は種類などのものの重畳層として偏光板の片面側又は両面側に設けることもできる。また、両面側に設ける場合、偏光板の表裏において、粘着剤が同一組成である必要はなく、また同一の厚さである必要もない。異なる組成、異なる厚さの粘着剤層とすることもできる。
また、粘着剤層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1μm〜500μmであり、5μm〜200μmが好ましく、特に10μm〜100μmが好ましい。
【0089】
粘着剤層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止などを目的に、プラスチックフィルムなどの適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系などの適宜な剥離剤でコート処理した離型性フィルムが仮着されてカバーされることが好ましい。これにより、通例の取扱状態で粘着剤層に接触することを防止できる。
【0090】
(有機EL表示装置)
本発明の偏光板は、有機EL表示装置にも好適に使用し得る。
一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。
【0091】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0092】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設け且つ前記透明電極と偏光板との間に複屈折層(位相差板)を設けることができる。
【0093】
偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、本発明の位相差板をポジティブAプレートとしての機能のみを利用する場合は、λ/4板として構成し、かつ偏光板と前記複屈折層との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は、一般には位相差板によって楕円偏光となるが、位相差板がλ/4板でしかも偏光板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差板で再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0094】
本発明の位相差フィルムは、上記の金属電極の鏡面を遮蔽する目的で、上記の位相差板として用いることができる。
【実施例】
【0095】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)面内位相差の測定
実施例1〜7及び比較例1で得られた位相差フィルムについて、位相差測定機(王子計測機器(株)製「KOBRA(登録商標)−WR」)を用いて、波長R589.5nm、入射角0度の条件で、面内位相差Re、及び厚さ方向位相差Rthを測定した。
(2)引張強度の測定
実施例1〜7及び比較例1で得られた位相差フィルムについて、ASTM D638(Type4条件)に準拠して、位相差フィルムの引張強度を測定した。
(3)耐湿熱試験−1
実施例8で得られた偏光板を温度90℃・湿度無制御のオーブンに1000時間放置した後、該偏光板の変形や着色の有無を目視で下記の基準で評価した。
○ :変形及び着色は確認されなかった
× :著しい変形あるいは着色が確認された
(4)耐湿熱試験−2
実施例8で得られた偏光板を温度90℃・湿度95%HRのオーブンに1,000時間放置した後、そのサンプルの変形や着色の有無を目視で下記の基準で評価した。
○ :変形あるいは黄変は確認されなかった
× :著しい変形あるいは黄変が確認された
(5)外観の評価(ブリードの評価)
実施例8で得られた偏光板について、上記の(4)耐候性試験の後、リン酸エステル金属塩のブリード(染み出し)による外観への影響について、下記の基準で評価した。
○ :ブリードによる白化などの外観不良は確認されなかった
△ :ブリードによる白化などの外観不良が若干確認されたものの実用上問題なかった
× :著しいブリードによる白化などの外観不良が確認された
【0096】
(実施例1−1)
メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン共重合体(日本ポリプロ(株)製,ウィンテック(登録商標),融点:142℃,曲げ弾性率:900MPa,以下「PP−A」と表記する。)100質量部に、リン酸エステル金属塩として環状リン酸エステルリチウム塩(アデカ(株)製,「アデカスタブ(登録商標)NAシリーズ」)を1質量部配合し、加熱溶融させた。加工温度210℃、引取りロール温度50℃の条件で、フィルム厚み100μmでTダイ単層押し出し成形することにより、位相差フィルムを得た。なお、成形加工後の延伸処理は行わなかった。
【0097】
(実施例1−2)
実施例1において、リン酸エステル金属塩を4−t−ブチルフェニル構造を有する環状リン酸エステルナトリウム塩(アデカ(株)製,「アデカスタブ(登録商標)NAシリーズ」)とした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0098】
(実施例2)
実施例1−1において、PP−Aを、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン共重合体(日本ポリプロ(株)製,ウィンテック(登録商標),融点:135℃,曲げ弾性率:1200MPa,以下「PP−B」と表記する。)とした以外は、実施例1−1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0099】
(実施例3)
実施例1−1において、PP−Aを、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン共重合体(日本ポリプロ(株)製,ウィンテック(登録商標),融点:125℃,曲げ弾性率:700MPa,以下「PP−C」と表記する。)とした以外は、実施例1−1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0100】
(実施例4)
実施例1−1において、リン酸エステル金属塩の配合量を0.1質量部とした以外は、実施例1−1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0101】
(実施例5)
実施例1−1において、リン酸エステル金属塩の配合量を0.5質量部とした以外は、実施例1−1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0102】
(実施例6)
実施例1−1において、リン酸エステル金属塩の配合量を5.1質量部とした以外は、実施例1−1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0103】
(実施例7)
実施例1−1において、加工温度を210℃から170℃とした以外は、実施例1−1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0104】
(実施例8)
実施例1−1において、PP−Aを、チーグラー・ナッタ触媒で重合されたプロピレン共重合体(「J−3021GR(商品名)」,プライムポリマー株式会社製,融点:150℃,曲げ弾性率:1000MPa,以下「PP−D」と表記する。)とした以外は、実施例1−1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0105】
(比較例1)
実施例1−1において、リン酸エステル金属塩を用いなかった以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0106】
第1表に、実施例1〜8及び比較例1で得られた位相差フィルムの評価結果を示した。
実施例1〜8の位相差フィルムは、プロピレン共重合体にリン酸エステル金属塩を混合することによって、リン酸エステル金属塩を混合しなかった比較例1と比べて、フィルムの位相差が向上し、ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性が得られ、ネガティブCプレート特性が向上した。また、実施例1〜3、6及び7と実施例4及び5との対比により、樹脂組成物中のリン酸エステル金属塩の配合割合を多くすると、各位相差の値が大きくなることが確認された。
実施例3で曲げ弾性率700MPaのプロピレン共重合体を用いて得られた位相差フィルムは、特にフィルム端部で面内位相差の値のばらつきがあるが、実用上は問題とはならない程度のものであり、十分な面内位相差を有することが確認された。また、実施例6のリン酸エステル金属塩の配合割合を5.1質量部として得られた位相差フィルムは、リン酸エステル金属塩の分散が十分ではないことに起因して、面内位相差のばらつきがみられたものの、面内位相差が大きいことから、安定性をそれほど要しないものの大きい面内位相差が要求される場合に好ましく用いることができる。
実施例7で得られた位相差フィルムは、加工温度を170℃と低くしたものであるが、リン酸エステル金属塩の分散が十分ではないために面内位相差が多少ばらついたものの、実用上は問題とならない程度のものであり、十分な面内位相差を有することが確認された。
また、プロピレン共重合体としてチーグラー・ナッタ触媒を用いて重合した得られたプロピレン共重合体を用いた実施例8で得られた位相差フィルムは、メタロセン触媒を用いて得られたものを用いた実施例1−1と比べると、若干透明性に劣るものの、実用上は全く問題ない程度のものであることが確認された。そして、リン酸エステル金属塩を用いることにより、フィルムの位相差が向上し、ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性が得られ、ネガティブCプレート特性が向上することが確認された。
【0107】
【表1】

*1,Aは環状リン酸エステルリチウム塩であり、Bは環状リン酸エステルナトリウム塩である。
*2,プロピレン共重合体(ポリプロピレン樹脂)100質量部に対する配合量(質量部)である。
【0108】
(実施例9)
実施例1で得られた位相差フィルム(幅150mm×長150mm)を、ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光子の両面側に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られたPVAを用いて接着することにより、偏光板を得た。
得られた偏光板について、上記の耐湿熱試験−1、2及び外観の評価(ブリードの評価)を行ったころ、評価結果はいずれも○であり良好であった。これらの結果から、本発明の位相差フィルムを用いた偏光板は、耐熱性及び耐湿性に優れ、外観不良も生じない偏光板であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の位相差フィルムは、優れた位相差機能を有し、かつ外観にも優れるので、偏光子保護膜として好適である。また、本発明の位相差フィルムと偏光子とを組み合わせて得られる偏光板は、液晶セルを含む液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、タッチパネルといった表示装置に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0110】
1a:ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有する偏光子保護膜
1b:ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性を有しない偏光子保護膜
2:接着剤層
3:偏光子
4:偏光板
5:従来の位相差板
6:液晶セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン共重合体を含むポリプロピレン樹脂とリン酸エステル金属塩とを含むポリプロピレン樹脂組成物からなる位相差フィルム。
【請求項2】
前記リン酸エステル金属塩が、下記一般式(1)及び下記一般式(2)で示されるものから選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の位相差フィルム。
【化1】

(式(1)中、R1は単結合、硫黄原子又は炭素数1〜9の二価の有機基を示し、R2〜R5は各々独立に水素原子又は炭素数1〜12の一価の有機基を示し、M1はアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を示し、M1がアルカリ金属原子のときp1は1を、q1は0を示し、M1がアルカリ土類金属のときp1は2を、q1は0を示し、M1が亜鉛原子のときp1は2を、q1は0を示し、M1がアルミニウム原子のときp1は1〜3を、q1は3−p1を示す。また、複数のR1〜R5は同じでも異なっていてもよい。式(2)中、R6〜R8は各々独立に水素原子又は炭素数1〜12の一価の有機基を示し、M2、p2及びq2は各々上記のM1、p1及びq1と同じである。また、複数のR6〜R8は同じでも異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記プロピレン共重合体が、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体である請求項1又は2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記リン酸エステル金属塩の配合量が、前記ポリプロピレン樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部である請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記位相差フィルムが、ポジティブAプレート特性及びネガティブCプレート特性を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
下記(1)〜(3)の工程を有する位相差フィルムの製造方法。
工程(1)プロピレン共重合体を含むポリプロピレン樹脂を得る工程
工程(2)該ポリプロピレン樹脂とリン酸エステル金属塩とを混合し加熱溶融してポリプロピレン樹脂組成物を得る工程
工程(3)該ポリプロピレン樹脂組成物を成形加工する工程
【請求項7】
前記プロピレン共重合体が、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体である請求項6に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
延伸処理を行っていないことを特徴とする請求項6又は7に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項9】
偏光子の少なくとも片面に、請求項1〜5のいずれかに記載の位相差フィルムが設けられていることを特徴とする偏光板。
【請求項10】
請求項9に記載された偏光板が使用されていることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−103443(P2012−103443A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251297(P2010−251297)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】