説明

位相差フィルム

【課題】 本発明は、リターデーション発現性に優れた逆波長分散性の位相差フィムルを提供することを目的とする。
【解決手段】 ジアリルフタレートを原料モノマーとするポリマー(A−1)と、
Re(450)/Re(550)≦1.27を満足するポリマー(B)
(但し、Re(450)、Re(550)は、それぞれ波長450nm、550nmにおけるリターデーション値を表す。)
を含有して形成されることを特徴とする、位相差フィルムを提供した。
本位相差フィルムは、逆波長分散性を発現させることが可能で、またリターデーション発現性にも優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリターデーション発現性に優れた、逆波長分散性を示す位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置、特に液晶表示装置用光学フィルムは、用途の広がりに伴い、より高度な機能が要求されてきている。それら要求のうち特に重要なものとして、可視光領域において、長波長ほど高いリターデーションを有するものが要求されている。こういった光学フィルムは、ポリカーボネート等の通常の樹脂を用いた一枚からなる光学フィルムの波長分散と逆の傾向を示すことから、通称として逆波長分散フィルムと呼ばれる。
【0003】
逆波長分散フィルムは、反射型液晶表示装置等において、直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換するための位相差フィルムとして使用することができる。また最近では、偏光板の視野角による色シフトを低減する目的、すなわち偏光板補償フィルムとして期待されており、さらには位相差付きの偏光子保護フィルムとしても期待されている。
【0004】
単一の逆波長分散フィルムとして、セルロースアセテートを含有するフィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、セルロースアセテートは溶媒への溶解性が低いためソルベントキャスト法を用いる場合は選択できる溶媒が限られる。また、セルロースアセテートはソルベントキャスト法において一般に用いられる塩化メチレンには溶解しづらい傾向があり、また通常セルロースアセテートフィルムは、加工性やハンドリング性に劣るため過剰の可塑剤を用いる場合が多いが、過剰の可塑剤を用いると、逆波長分散性が小さくなるという問題がある。
【0005】
上記セルロースアセテートの問題を解決する方法として、セルロースアセテートプロピオネートの逆波長分散フィルムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2が開示する位相差フィルムは、リターデーション発現性が乏しく、更にリターデーション発現性の高い位相差フィルムが望まれていた。
【特許文献1】特開2000−137116号公報
【特許文献2】特開2003−315538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の技術が有する上記課題に鑑みてなされたもので、リターデーション発現性に優れた逆波長分散性の位相差フィムルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究の結果、下記発明を提供した。
【0008】
即ち、ジアリルフタレートを原料モノマーとするポリマー(A−1)と、
Re(450)/Re(550)≦1.27を満足するポリマー(B)
(但し、Re(450)、Re(550)は、それぞれ波長450nm、550nmにおけるリターデーション値を表す。)
を含有して形成されることを特徴とする、位相差フィルムを提供した。
【0009】
また、上記ポリマー(A−1)に代えて、化学式(1)または(2)で表される繰り返し単位を含有するポリマー(A−2)を含有して形成される位相差フィルムを提供した。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
これらの位相差フィルムによれば、逆波長分散性を好適に発現させることが可能となる。
【0013】
また、ポリマー(B)が、
nx−ny≧0.0015
(但し、nx、nyは、それぞれ遅相軸方向、進相軸方向の屈折率を表す。)
を満足することを特徴とする、前記位相差フィルムを提供した。これによれば、更にリターデーション発現性の優れた位相差フィルムを提供できることとなる。
【0014】
また、前記ポリマー(B)としては、セルロース誘導体、特にセルロースエーテルを好適に使用することができる。
【0015】
また、下記(1)式と(2)式を満足することを特徴とする、前記位相差フィルムを提供した。
Re(450)/Re(550)=0.30〜0.95 (1)
Re(650)/Re(550)=1.02〜2.00 (2)
(Re(450)、Re(550)、Re(650)は、それぞれ波長450nm、550nm、650nmにおけるリターデーション値を示す。)
【0016】
また、波長550nmにおけるフィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、進相軸方向の屈折率をnyとした時、nx−nyが0.0015以上であることを特徴とする、前記位相差フィルムを提供した。
【0017】
また、ジアリルフタレートを原料モノマーとする逆波長分散性位相差フィルム形成用ポリマーを提供した。
【0018】
また、化学式(1)または(2)で表される繰り返し単位を含有して形成される逆波長分散性位相差フィルム形成用ポリマーを提供した。
【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
これら逆波長分散性位相差フィルム形成用ポリマーは、一般的な正の光学異方性(高分子の配向方向の屈折率が大きくなる特性)を有するポリマーと混合することで、逆波長分散性を示すポリマー組成物を形成することが可能となり、逆波長分散性の位相差フィルムを容易に提供できることとなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、逆波長分散性の位相差フィルムが得られる。特に、逆波長分散性とリターデーション発現性とを両立した位相差フィムルが得られ、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、ジアリルフタレートを原料モノマーとするポリマー(A−1)と、
Re(450)/Re(550)≦1.27を満足するポリマー(B)
(但し、Re(450)、Re(550)は、それぞれ波長450nm、550nmにおけるリターデーション値を表す。)
を含有して形成される位相差フィルム、または、上記ポリマー(A−1)に代えて、化学式(1)または(2)で表される繰り返し単位を含有するポリマー(A−2)を含有して形成される位相差フィルムに関するものである。尚、ポリマー(A−2)は、ジアリルフタレートをモノマーとして使用して重合することにより、好適に得ることができる。
【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
これらの位相差フィルムは、逆波長分散性を発現することが可能である。
【0027】
尚、ジアリルフタレートは従来より公知の方法で、例えば500℃でプロピレンと塩素を反応させてアクリルクロライドを合成し、これに無水フタル酸、またはイソフタル酸を反応させて得ることができる。このようにして得られうるモノマーを過酸化物を用いてラジカル重合を行い、ポリマーを得る事ができる。
【0028】
ジアリルフタレートを原料モノマーとしてポリマーを作製した場合、モノマーの2個の二重結合の一方で主鎖を形成し、もう一方が未反応で残った構造(例えば、化学式(2))と、2個の二重結合が共に反応に関与した構造(2個の二重結合が共に反応に関与した場合、分子内環化反応により、主に一般式(1)の構造が得られると言われている。)などが得られる。本発明においては、少なくともどちらか一方のみでも特に問題は無いが、光学特性や、ポリマーの生産性を考慮すると、両方が存在していることが好ましい。前者と後者の割合は、ヨウ素価にて見積もることができる。本発明における好ましい割合のヨウ素価は50〜90である。最も好ましいヨウ素価の範囲は50〜65である。この様なヨウ素価は、モノマーとしてオルト型のものを用いることで好適に得ることが可能であり、すなわち、本発明における最も好ましい前記ポリマーの原料モノマーは、前記アクリルクロライドに無水フタル酸を反応させて得られうるジアリルフタレートである。
【0029】
前記ポリマーの分子量や重合度には特に限定は無いが、位相差の発現性を高めやすい点で、粘度を指標とした場合に、50%MEK溶液粘度(30℃)が65〜120mPa・sであることが好ましい。これより大きな分子量のものを得る場合は、ジアリルフタレートに対して、過酸化物の量を減らす、または乳化重合を用いる等、従来から公知の高分子量のポリマーを得るための方法を用いることができる。また、50%MEK溶液粘度(30℃)が65〜120mPa・sであるポリマーに過酸化物を作用させる等の方法を用いても、高分子量のポリマーを得る事ができ、本発明の位相差フィルムに含有させることができる。
【0030】
また、前記ポリマーは、通常他の樹脂と混合して用いることとなるが、特に相溶性を高める必要がある場合には、50%MEK溶液粘度(30℃)を30〜64mPa・sとすることが好ましい。
【0031】
上記ポリマー(A−1)、(A−2)は、Re(450)/Re(550)≦1.27を満足するポリマー(B)と混合することにより、逆波長分散性を有する位相差フィルムを好適に形成することが可能であるが、これは、あくまで推測であるが、ポリマー(A−1)、(A−2)が、負の光学異方性(高分子の配向方向とは垂直方向の屈折率が大きくなる特性)を有し、更に光の波長の上昇に対してリターデーションが低下する特性を有し(例えば、Re(450)/Re(550)≧1)、尚かつ、その傾きが比較的大きいことが原因であると考えている。この様なポリマーは、例えば正の光学異方性である一般的なポリマー等とブレンドして位相差フィルムとした場合に、逆波長分散性を示すこととなると考えられる。その意味で、ポリマー(A−1)、(A−2)は、逆波長分散性位相差フィルムを形成する為に有効なポリマーと考えることができる。
【0032】
一方、これらと混合して使用するポリマー(B)は、Re(450)/Re(550)≦1.27を満足すれば、各種ポリマーを使用することができる。ポリマー(B)のRe(450)/Re(550)が小さいほど、逆波長分散性を示し易いため、より好ましくはRe(450)/Re(550)≦1.10、最も好ましくはRe(450)/Re(550)≦1.03である。ポリマー(B)のRe(450)/Re(550)値が1.27より大きくなると、得られる位相差フィルムが逆波長分散性を示さなくなるので好ましくない。また、ポリマー(B)は、nx−ny≧0.0015(但し、nx、nyは、それぞれ遅相軸方向、進相軸方向の屈折率を表す。)、0.0050以上、更には0.0100以上であることが、リターデーション発現性が向上し、より高いリターデーションを有する位相差フィルムを得ることが可能となるため好ましい。一方、nx−nyが大きすぎる材料は、一般的に光弾性係数が大きくなる傾向があるため、ポリマー(B)のnx−ny値は0.0200を超えないことが好ましい。尚、ここでnx−ny値は、ポリマー(B)単独で厚み40μmのフィルムを形成し、ポリマー(B)のガラス転移温度をTgで表した時にTg+10℃で一軸方向に1.2倍に延伸したフィルムを用いて測定した値を用いるものとする。
【0033】
ポリマー(B)として使用可能な樹脂の例としては、例えばセルロース誘導体が挙げられる。位相差フィルム中のセルロース誘導体の好ましい含有量は50〜99重量%である。50重量%未満の場合は、フィルムが脆くなる場合がある。99重量%を超えると、ジアリルフタレートを原料モノマーとするポリマーの効果が得られ難いため好ましくない。
【0034】
また、リターデーション発現性に優れるという理由から、セルロース誘導体が、セルロースエーテルであることが好ましい。特にセルロースエーテルがセルロースの水酸基をエトキシル基で置換したエチルセルロースである事がより好ましい。セルロースエーテルの製造方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、エチルセルロースの場合、セルロースに水酸化ナトリウムを加えてアルカリセルロースを調整し、塩化エチルを用いてエーテル化することにより得る事ができる。尚、セルロース誘導体の置換度は、ポリマー(A−1)、(A−2)と混合した場合に逆波長分散性を発現し易いことから、2.00〜2.90であることが特に好ましい。セルロースエーテルの場合、アルコキシル基の置換度はASTM−D4794−94に記載の方法にて定量することができるが、この限りではなく、NMRを用いた方法等、従来公知の方法により求めることができる。
【0035】
一方、光学フィルムの代表的な成形方法として、樹脂を溶融してTダイなどから押し出してフィルム化する溶融押出法と、有機溶剤に樹脂を溶解して支持体上にキャストし加熱により溶剤を乾燥しフィルム化するソルベントキャスト法が挙げられるが、厚み精度の良い光学フィルムが比較的容易に製造できるとの理由からソルベントキャスト法を用いることが好ましい。厚み精度が悪いと、厚み変動に由来する凹凸がレンズのように働き、液晶表示装置に組み込んだ際の画像の歪み(所謂レンズ効果)の発生が懸念され、また、リターデーション(位相差)は複屈折と厚みの積で表されるため、リターデーション値の面内バラツキが発生する場合がある。
【0036】
ソルベントキャスト法を採用する場合の溶剤には特に制限はないが、乾燥効率の観点からは沸点が低い溶剤ほど好ましく、具体的には100℃以下の低沸点溶剤が好ましい。例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチルやプロピオン酸エチルなどのエステル系溶剤が使用可能である。また、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶剤は、樹脂材料を溶解しやすく、沸点も低いため、好適な溶剤の一つである。また、塩化メチレンは乾燥中の火災等に対する安全性も高いので、本発明の位相差フィルムを製造する際に用いる主な溶剤として特に好ましい。さらに、塩化メチレン70〜99重量%と、炭素数3以下のアルコールを1〜30重量%を含む混合溶剤を用いることは、火災に対する安全性と、溶解性、生産性のバランスが良く、より好ましい。前記炭素数3以下のアルコールとしてはエチルアルコールが安全で、沸点も低く好ましい。さらに、コストを抑制するため、炭素数3以下のアルコール100重量部のうち、エチルアルコール以外の炭素数3以下のアルコールを1〜10重量部含むことが好ましい。前記エチルアルコール以外の炭素数3以下のアルコールとしては、安全性や沸点の観点から、イソプロピルアルコールを用いることが特に好ましい。
【0037】
また、フィルム化の際に、必要に応じて少量の可塑剤や熱安定剤、紫外線安定剤等の添加剤を加えてもよい。得られたフィルムが脆い場合、延伸などの加工特性を改善する目的で可塑剤を加えることは有効である。特に特開2001−75098に記載の熱収縮性フィルムを熱可塑性フィルムの片面又は両面に接着し、加熱によるその熱収縮性フィルムの収縮力の作用下に熱可塑性フィルムを延伸し、位相差フィルムを得る方法においては、ガラス転移点の制御が重要となるため、ガラス転移点を調整する等の目的で、可塑剤を添加することも好ましい。可塑剤は、通常、乾燥工程、延伸工程においてフィルムにかかる最大温度より沸点が高いもので、用いるポリマーに相溶すれば特に限定はない。例えば、ヒマシ油およびその誘導体、樟脳等、従来より周知のセルロース系樹脂用可塑剤を好適に用いることができる。ただし、可塑剤を多く含有すると、延伸による位相差の発現が小さくなり、またブリードの原因となるため、添加量は全固形分の5重量%以内であることが好ましい。また芳香環が多い可塑剤はリターデーション上昇剤として作用してしまい、所望の光学特性が得難くなる場合がある。このような観点から、本発明における可塑剤は、フタル酸エステル、特にジエチルフタレートが好ましい。ソルベントキャスト法によりフィルム化する際、本発明の原料を前記溶剤に溶解したのち、支持体にキャストし、乾燥してフィルムとする。溶液の好ましい粘度は1.0Pa・s以上、5.0Pa・s以下、さらに好ましくは1.5Pa・s以上、4.0Pa・s以下である。好ましい支持体としてはステンレス鋼のエンドレスベルトや、ポリイミドフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム等のようなフィルムを用いることができる。
【0038】
キャスト後の乾燥は、支持体に担持されたまま行うことも可能であるが、必要に応じて、自己支持性を有するまで予備乾燥したフィルムを支持体から剥離し、さらに乾燥することもできる。フィルムの乾燥は、一般にはフロート法や、テンターあるいはロール搬送法が利用できる。フロート法の場合、フィルム自体が複雑な応力を受け、光学的特性の不均一が生じやすい。また、テンター法の場合、フィルム両端を支えているピンあるいはクリップの距離により、溶剤乾燥に伴うフィルムの幅収縮と自重を支えるための張力を均衡させる必要があり、複雑な幅の拡縮制御を行う必要がある。一方、ロール搬送法の場合、安定なフィルム搬送のためのテンションは原則的にフィルムの流れ方向(MD方向)にかかるため、応力の方向を一定にしやすい特徴を有する。従って、フィルムの乾燥は、ロール搬送法によることが最も好ましい。また、溶剤の乾燥時にフィルムが水分を吸収しないよう、湿度を低く保った雰囲気中で乾燥することは、機械的強度と透明度の高い本発明フィルムを得るには有効な方法である。
【0039】
本発明の位相差フィルムの厚みは、10μmから500μmが好ましく、より好ましくは30μmから300μmである。フィルムの光線透過率は85%以上が好ましく、より好ましくは、90%以上である。また、フィルムのヘーズは5%以下が好ましく、より好ましくは3%以下である。
【0040】
位相差フィルムを得るために、上記で得られたフィルムを公知の延伸方法により配向処理を行い、均一な位相差を付与することができる。位相差フィルムのリターデーションは、通常5nmを超え1000nmまでの間のものが使用されるが、目的に応じて選択することができる。特に本発明の位相差フィルムを、反射型液晶表示装置用位相差フィルムまたは液晶表示装置の視野角による色シフトを低減する目的、すなわち光学補償偏光板の一部材として使用する場合、波長550nmにおけるリターデーションは好ましくは70〜155nm、さらに好ましくは80〜150nm、さらに好ましくは85〜145nmである。位相差がこの範囲にあれば、光学補償偏光板の一部材として好適に用いることができる。反射型液晶表示装置用位相差フィルムや光学補償偏光板の一部材として用いる場合は、波長分散性が重要となり、長波長ほど高いリターデーションを有する逆波長分散であることが求められる。言い換えると、波長λnmにおける正面リターデーションRe(λ)はRe(450)<Re(550)<Re(650)であることが好ましい。リターデーションの波長分散がこの範囲から外れた場合は、可視光領域の直線偏光をこのフィルムに入射した際、得られる楕円偏光の状態が波長により大きく異なるため、充分な光学補償能を得られない場合がある。特に、下記(1)と(2)式を満足する場合は、高品位な液晶表示装置が得られるため好ましい。位相差の波長分散性がこの範囲から外れた場合は、視野角による色シフトが大きくなる場合がある。
Re(450)/Re(550)=0.30〜0.95 (1)
Re(650)/Re(550)=1.02〜2.00 (2)
(Re(450)、Re(550)、Re(650)は、それぞれ波長450nm、550nm、650nmにおけるリターデーション値を示す)
(1)式右辺のより好ましい範囲は0.60〜0.95、さらに好ましくは0.75〜0.90、最も好ましくは0.79〜0.85である。(2)式右辺のより好ましい範囲は1.05〜1.50、さらに好ましくは1.10〜1.35、最も好ましくは1.15〜1.25である。
【0041】
また、本発明の位相差フィルムは、リターデーションの発現性の観点においては、波長550nmにおけるフィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、進相軸方向の屈折率をnyとした時に、nx−nyが0.0015以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.0020以上である。nx−nyがこの範囲を下回ると、所望のリターデーションを得るためのフィルムの厚みが増大し、モバイル等の用途に適さないだけでなく、フィルムの生産性やハンドリング性に劣る傾向がある。本発明の位相差フィルムでは、これら用件を満たすことができるため、可視光領域において、逆波長分散を示し、且つ十分な位相差発現性を有する位相差フィルムをとして使用できる。
【0042】
さらに、位相差フィルムの特性として、三次元方向の屈折率も制御することが好ましい。三次元屈折率の制御に関しては、フィルム面内の屈折率をnx、進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした際、NZ=(nx−nz)/(nx−ny)で表すことができる。位相差フィルムに一軸性が求められる場合にはNZの範囲は好ましくは1.00以上、1.20以下、さらに好ましくは1.00以上、1.10以下である。リターデーションや三次元屈折率は、延伸方法や延伸温度、延伸倍率等により所望の値に調整することができる。
【0043】
延伸方法としては一軸や二軸の熱延伸法を採用することができる。さらに、特開2001−75098号公報に示されるような特殊な二軸延伸を施し、フィルム厚み方向の屈折率を大きくすることも可能である。
【0044】
一般には延伸倍率は1.01倍から4倍であり、延伸温度はガラス転移温度Tgに対して、(Tg−30)℃以上、(Tg+30)℃以下が好ましい範囲である。特に好ましい延伸温度は(Tg−20)℃以上、(Tg+20)℃以下までの範囲であり、さらに好ましくはTg−10)℃以上、(Tg+15℃)以下である。ただし、ここでいう延伸温度とは、延伸を実施する炉内の温度がすべてこの温度で均一なければならないということを意味するのではなく、延伸を実施する炉内の最高温度を表しており、炉内の他の点が前記温度範囲から外れていてもよい。また、ガラス転移温度は示差熱分析法(DSC)を用い、JIS K−7121に記載の方法にて測定することができる。
【0045】
延伸温度が前記範囲より小さいと、延伸時にフィルムが破断したり、ヘイズが上昇する傾向がある。また、前記範囲より大きいと、十分な位相差を得ることができない傾向にある。この温度範囲よりとすることにより、延伸時のフィルム白化を防止でき、また、得られた位相差フィルムの位相差のバラツキを小さくすることができる。
【0046】
特に、位相差フィルムに一軸性が求められる場合には、(Tg+5)℃以上、(Tg+30)℃以下の温度で自由端一軸延伸する方法を好適に用いることができる。特開2000−137116号公報の実施例に開示されているように、一般にセルロース誘導体からなるフィルムを自由端一軸延伸してた場合、得られるNZの値は1.20を超えている。NZをさらに小さくするためには、特開2001−75098号公報に示されるような特殊な二軸延伸が必要となるが、熱収縮フィルムの貼合等が必要であり、工程が増加するため、歩留りが悪化したり、コストが増大する傾向にある。本発明では延伸温度を制御することで自由端一軸延伸により、NZの範囲を1.00以上、1.20以下、さらには1.00以上、1.10以下に制御することができるため、工程数減少による歩留り向上やコスト削減の点で好ましい方法である。
【0047】
また、光弾性係数すなわち、応力負荷を受けたときの複屈折の変化率は、好ましくは20×10-122/N以下である。光弾性係数が大きいと、液晶層や偏光板とともに貼り合わせた時の貼りムラ、バックライトや外部環境からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、偏光フィルムの収縮等によって生じる応力の影響に起因する位相差変化が大きくなり、表示装置の色ムラを悪化させたり、コントラストを低下させる傾向にある。公知のポリカーボネートの光弾性係数は70×10-122/Nであるのに対し、本発明の位相差フィルムの光弾性係数は前期範囲を満たしており、位相差変化が小さいため、特に大画面液晶表示装置用にも好適に用いることができる。
【0048】
本発明の位相差フィルムを偏光子と貼り合わせて光学補償偏光板とする際、偏光子と本位相差フィルムの間に偏光子保護フィルムや、その他の光学部材を有していても良いが、偏光子と本位相差フィルムとを直接貼り合わせても良い。セルロースアシレートまたはセルロースエーテルを含有する場合は、偏光子との接着性が良いため、位相差付きの偏光子保護フィルムとして、偏光子と直接貼り合せることが好ましい。光学補償偏光板の製造方法における、貼り合せ方法や、貼り合わせに用いる粘着剤は、従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0049】
(1)リターデーション
フィルムの幅方向中央より50mm角のサンプルを切り出し、王子計測機器製自動複屈折計KOBRA−WRにより、各波長におけるリターデーションを測定し、その測定値を元に装置付属のプログラムにより、Re(450)、Re(550)、Re(650)、nx−nyを算出した。
【0050】
(2)厚み
アンリツ製電子マイクロメーターにより測定した。
【0051】
(3)置換度
セルロースエーテルにおいては、ASTM−D4794−94に記載の方法にて各アルコキシル基含量を測定し、アルコキシル基の置換度をそれぞれ算出した。セルロースアシレートにおいては、ASTM−D817−96記載の方法にて各アシル基含量を測定し、アシル基の置換度をそれぞれ算出した。
【0052】
(4)樹脂
ジアリルフタレートを原料モノマーとするポリマーとして、ダイソー製ダイソーダップ(ヨウ素価が60、50%MEK溶液粘度(30℃)が90mPa・s、DAP−1と略す)と、東都化成製DT−150(ヨウ素価が57、50%MEK溶液粘度(30℃)が50mPa・s、DAP−2と略す)を用いた。セルロースエーテルとして、ダウケミカル製MED70(エトキシル置換度2.3)を用いた。比較として、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製CAP482−20、アセチル置換度0.18、プロピオニル置換度2.60)を用いた。尚、各実施例、比較例の配合比を表1に記した。
【0053】
(5)フィルム作製
溶剤として85重量部の塩化メチレンと1重量部のエチルアルコールに、14重量部の樹脂混合物を溶解し、塗工用の溶液を調整した。この溶液を室温23℃、湿度15%の環境下で、長辺方向に1.0×106N/m2の応力を付与した状態の、厚さ125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ポリエステル系易接着層付き)上に、PETフィルムの長辺方向が流延方向となるように、コンマコーターを用いて流延した。なお、実施例1〜7、比較例1においては、2次乾燥後のフィルムの厚さが40μm、比較例2においては60μmとなるように、コンマコーターのクリアランスを調整した。流延後、35℃で4分間、60℃で4分間、80℃で4分間乾燥を行った。得られたフィルムをPETフィルムから剥離した後、さらに2次乾燥として流延方向に2.0×105N/m2の応力を付与した状態で110℃にて30分乾燥し、透明フィルムを得た。得られたフィルムを延伸温度150℃で自由端一軸延伸にて延伸し、位相差フィルムを得た。尚、比較例1の延伸前のフィルムのTgは、140℃であった。
【0054】
(6)結果
各実施例、比較例の評価結果を表1にまとめた。本発明の位相差フィルムは、何れも逆波長分散性を示し、尚かつ高いリターデーション発現性を示した。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリルフタレートを原料モノマーとするポリマー(A−1)と、
Re(450)/Re(550)≦1.27を満足するポリマー(B)
(但し、Re(450)、Re(550)は、それぞれ波長450nm、550nmにおけるリターデーション値を表す。)
を含有して形成されることを特徴とする、位相差フィルム。
【請求項2】
化学式(1)または(2)で表される繰り返し単位を含有するポリマー(A−2)と、
【化1】

【化2】

Re(450)/Re(550)≦1.27を満足するポリマー(B)
を含有して形成されることを特徴とする、位相差フィルム。
【請求項3】
ポリマー(B)が、
nx−ny≧0.0015
(但し、nx、nyは、それぞれ遅相軸方向、進相軸方向の屈折率を表す。)
を満足することを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
ポリマー(A−1)または(A−2)のヨウ素価が、50〜90であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
ポリマー(A−1)または(A−2)のヨウ素価が、50〜65であることを特徴とする、請求項4に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
ポリマー(A−1)または(A−2)の50%MEK溶液粘度(30℃)が、30〜120mPa・sであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
ポリマー(B)が、セルロース誘導体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項8】
ポリマー(B)の含有量が50重量%以上、99重量%以下であることを特徴とする、請求項7に記載の位相差フィルム。
【請求項9】
セルロース誘導体が、セルロースエーテルであることを特徴とする、請求項7または8に記載の位相差フィルム。
【請求項10】
セルロース誘導体の置換度が2.00〜2.90であることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項11】
下記(1)式と(2)式を満足することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
Re(450)/Re(550)=0.30〜0.95 (1)
Re(650)/Re(550)=1.02〜2.00 (2)
(Re(450)、Re(550)、Re(650)は、それぞれ波長450nm、550nm、650nmにおけるリターデーション値を示す。)
【請求項12】
波長550nmにおけるフィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、進相軸方向の屈折率をnyとした時、nx−nyが0.0015以上であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項13】
ジアリルフタレートを原料モノマーとする逆波長分散性位相差フィルム形成用ポリマー。
【請求項14】
化学式(1)または(2)で表される繰り返し単位を含有して形成される逆波長分散性位相差フィルム形成用ポリマー。
【化3】

【化4】


【公開番号】特開2007−316559(P2007−316559A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149045(P2006−149045)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】