説明

位相差フィルム

【課題】光弾性係数の絶対値が小さく、負の固有複屈折を有し、かつ、生産性に優れた位相差フィルムを提供すること。
【解決手段】光弾性係数が正でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(a)5質量%以上85質量%以下、光弾性係数が負でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(b)5質量%以上85質量%以下、5〜6員環単量体(c)5質量%以上50質量%以下、を含む単量体混合物からなる共重合体(A)を含む位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスプレイ用途に用いられる、光学特性及び生産性に優れた位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ市場の拡大に伴い、より画像を鮮明にみたいという要求が高まっている。そこで、単なる透明材料ではなく、より高度な光学特性が付与された光学材料が求められている。このような高度な光学特性の一つに複屈折性がある。一般に、高分子は分子主鎖方向とそれに垂直な方向とでは屈折率が異なるため、複屈折を生じる。用途によっては、この複屈折を厳密にコントロールすることが求められている。例えば、液晶の偏光板に用いられる従来の保護フィルムの場合、全光線透過率が同じであっても、複屈折がより小さい高分子材料成形体が必要とされる。代表的なものとしては、トリアセチルセルロースからなるフィルムがある。一方、この複屈折を利用することにより、直線偏光を円偏光に変えたり(1/4波長板等)、液晶が持つ複屈折を補償する(位相差フィルムなどの光学補償フィルム等)ことが可能となる。このような複屈折性光学材料としてはポリカーボネートがよく知られている。
【0003】
最近では液晶ディスプレイが大型化し、それに伴い位相差フィルム等の光学素子の大型化も必要となってきている。しかし、光学素子を大型化すると、外力の偏りが生じるため、光学素子が外力による複屈折変化の生じやすい材料からなる場合、複屈折の分布が生じコントラストが不均一となるという問題点がある。外力による複屈折変化の生じやすさは光弾性係数によって表されるが、前述のポリカーボネートは、光弾性係数が大きいため、これに代わる光弾性係数の小さい複屈折性光学材料が切望されている。
【0004】
また、最近では液晶ディスプレイのさらなる高画質化を達成するために、位相差フィルムの面内レタデーションだけでなく、厚み方向レタデーションも制御したいという要求がある。近年注目されている水平電界(IPS)モード液晶ディスプレイに関しても、特定の斜め方向から見た場合に、階調反転、着色、コントラストの低下が生じ、その方向では視野角が小さくなることがあるため、他の液晶表示方式と同様に、位相差フィルムを用いて光学補償を行い視野角を拡大することが必要となる。水平電界(IPS)モード液晶ディスプレイ用の位相差フィルムとしては、厚み方向レタデーションが負の値であることが好ましいが、一般的な光学フィルムであるトリアセチルセルロースやポリカーボネートからなるフィルムは厚み方向レタデーションは正の値を有する。そのため、光弾性係数の絶対値が小さいことに加え、厚み方向レタデーションが負である位相差フィルムが求められている。
【0005】
さらに、IPSモ−ドでは、液晶分子が基板面に対して略平行なホモジニアス配向を有するために、その光学補償には基板面に対して垂直な方向に屈折率の高いフィルムを用いることが有効である(例えば、特許文献1の図3、及び「ディスプレイ用光学フィルム」(シーエムシー出版、2004)104ページ参照)。
【0006】
従来、IPSモードをはじめとする各種方式の液晶表示装置に用いる位相差フィルムにおいては、負の固有複屈折を有する材料を用いたり、正の固有複屈折を有する材料に特殊な処理を施すことにより、基板面に対して垂直な方向に屈折率を高める工夫がなされている。
【0007】
例えば、特許文献2には、負の固有複屈折を有するフィルムの中でも特異的な光学特性を示すいわゆるネガティブA位相差フィルムが開示されている。しかしながら、従来のポリスチレンやポリメチルメタクリレートといった負の固有複屈折を有する材料は、耐熱性が十分ではなく、光弾性係数が大きいという問題があった。
【0008】
また、特許文献3には、ポリカーボネートフィルムやノルボルネンなどのシクロオレフィン系フィルム等の正の固有複屈折を有するフィルムを用い、これに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下に延伸処理及び/又は収縮処理して傾斜配向させる方法が開示されている。しかしながら、この方法では単一のフィルムの処理工程だけでなく、熱収縮フィルムの接着工程や剥離工程が入るので生産性に問題がある。
【0009】
さらに、特許文献4には、位相差フィルム中に負の光学異方性を有する炭酸ストロンチウム等の微粒子を含有する方法が開示されており、特許文献5には負の固有複屈折を有するスチレン系樹脂を含有する方法が開示されている。しかしながら、前者は、負の固有複屈折(特に厚み方向の屈折率を高くするとき)を得るために、多量の微粒子を配合する工程が必要であり、位相差フィルムの機械的物性や生産性が低下するという問題がある。また、後者はスチレン系樹脂の光弾性係数の絶対値が大きく、さらに、表示装置に用いた場合に、温度や湿度の変化により画質が悪くなったり、安定しないという問題点がある。
【0010】
同様に、特許文献5には、負の固有複屈折を有するスチレン系樹脂及びポリカーボネート系樹脂を含有するフィルムを延伸して位相差フィルムを製造する方法が考案されている。しかしながら、この方法では基本的に2つの樹脂が完全相溶系でないため、ディスプレイの使用環境下で相分離を起こし、透明性、光学的安定性で問題がある。また、光弾性係数も実用上、十分なレベルではない。
【0011】
【特許文献1】特開平10−54982号公報
【特許文献2】米国特許第5612801号公報
【特許文献3】特開2006−106180号公報
【特許文献4】特開2005−156863号公報
【特許文献5】特開2005−31621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、光弾性係数の絶対値が小さく、負の固有複屈折を有し、かつ、生産性に優れた位相差フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究を行った結果、光弾性係数が正でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(a)、光弾性係数が負でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(b)、5〜6員環単量体(c)を含む単量体混合物からなり、かつ、それぞれの単量体の量が特定範囲に設定された共重合体を含む位相差フィルムが、上記課題を解決できることを見出し本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)光弾性係数が正でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(a)5質量%以上85質量%以下、光弾性係数が負でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(b)5質量%以上85質量%以下、5〜6員環単量体(c)5質量%以上50質量%以下、を含む単量体混合物からなる共重合体(A)を含む位相差フィルム。
(2)面内レタデーション(Re)が40〜1100nmであり、Nz係数が−0.5以上0以下である、上記(1)記載の位相差フィルム。
(3)面内レタデーション(Re)が40〜1100nmであり、かつ、ny<nx=nzを満たす、上記(1)又は(2)記載の位相差フィルム:(式中、nx:フィルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フィルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フィルム厚み方向の主屈折率を示す)。
(4)面内レタデーション(Re)が40nm未満であり、厚み方向レタデーション(Rth)が−20nm以下である、上記(1)記載の位相差フィルム。
(5)面内レタデーション(Re)が40nm未満であり、かつ、nx=ny<nzを満たす、上記(1)又は(4)記載の位相差フィルム:(式中、nx:フィルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フィルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フィルム厚み方向の主屈折率を示す)。
(6)前記単量体(a)が芳香族ビニル系単量体であり、前記単量体(b)が(メタ)アクリル系単量体である、上記(1)〜(5)のいずれか記載の位相差フィルム。
(7)芳香族ビニル単位5質量%以上20質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル単位40質量%90質量%以下、下記一般式[1]で表される化合物単位5質量%以上20質量%以下を含む共重合体を含む位相差フィルムであって、下記一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合に対する芳香族ビニル単位の共重合割合の比(芳香族ビニル単位の共重合割合/一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合)が1倍以上3倍以下である、位相差フィルム:
一般式[1]
【化1】

(ここで、XはO又はN−R、Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルキル基を示す)。
(8)偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも一方が、上記(1)〜(7)のいずれか記載の位相差フィルムである偏光板。
(9)偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの一方が、上記(1)〜(7)のいずれか記載の位相差フィルムであり、他方が光学的に等方性を有するフィルムである偏光版。
(10)偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの両方が、上記(1)〜(7)のいずれか記載の位相差フィルムである偏光板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光弾性係数の絶対値が小さく、負の固有複屈折を有し、かつ、生産性に優れた位相差フィルムを提供することができる。本発明の位相差フィルムは、優れた光学特性を有しているため、液晶テレビ等の薄型ディスプレイ、特に、水平電解(IPS)モード液晶ディスプレイ、反射型液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ用の位相差フィルムとして好適に用いることができる。
【0016】
また、本発明の位相差フィルムは、別フィルムの接着・剥離といった特殊な処理や、特別な微粒子の添加を行うことなくフィルムを単純に延伸するだけで製造することが可能であるため、優れた生産性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を、望ましい実施の形態とともに詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0018】
本発明の位相差フィルムは、光弾性係数が正でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(a)5質量%以上85質量%以下、光弾性係数が負でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(b)5質量%以上85質量%以下、5〜6員環単量体(c)5質量%以上50質量%以下を含む単量体混合物からなる共重合体(A)を含む。
【0019】
光学特性の説明
本発明における「光弾性係数」とは、外力による複屈折の変化の生じやすさを表す係数で、下式により定義される。
R[Pa-1]=Δn/σR
ここで、σRは伸張応力[Pa]、Δnは応力付加時の複屈折であり、Δnは下式により定義される。
Δn=n1−n2
ここで、n1は伸張方向と平行な方向の屈折率、n2は伸張方向と垂直な方向の屈折率である。
光弾性係数の値がゼロに近いほど、外力による複屈折の変化が小さいことを示しており、各用途に応じて設計された複屈折が外力によって変化しにくいことを意味する。
【0020】
本発明の位相差フィルムは、光弾性係数の絶対値が、好ましくは0〜5×10-12Pa-1、より好ましくは0〜4×10-12Pa-1、さらに好ましくは0〜3.5×10-12Pa-1、特に好ましくは0〜3.0×10-12Pa-1以下である。光弾性係数がこの範囲内であれば、外力による複屈折の変化が小さいため、これを大型の液晶表示装置等に用いた場合にコントラストや画面の均一性に優れる傾向にある。
【0021】
また、本発明における「固有複屈折」とは、配向に依存した複屈折の大きさを表す値で、下式により定義される。
固有複屈折=npr−nvt
ここで、nprは、一軸性の秩序をもって配向した高分子の配向方向と平行な方向の屈折率、nvtはその配向方向と垂直な方向の屈折率である。
【0022】
本発明において、固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体とは、該単量体の単独重合体が一軸性の秩序をもって配向して形成された層に光が入射したとき、前記配向方向の光の屈折率が前記配向方向に直交する方向の光の屈折率より小さくなる単量体をいう。
【0023】
また、本発明の位相差フィルムにおいては、単量体の種類や共重合割合、フィルムの厚み及び延伸倍率等を好ましい範囲内に設計することにより、面内レタデーション(Re)、厚み方向レタデーション(Rth)及びNz係数を制御することができる。
ここで、面内レタデーション(Re)、厚み方向レタデーション(Rth)及びNzは下式により定義される。
Re =(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2)−nz)×d
Nz =(nx−nz)/|(nx−ny)|
(式中、nx:フィルム面内において屈折率が最大となる方向をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フィルム面内においてx方向に垂直な方向をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フィルム厚み方向の主屈折率、d:フィルムの厚み(nm)を示す)
【0024】
本発明の位相差フィルムを1/4波長板として用いる場合、そのReの絶対値は、好ましくは100nm以上180nm以下、より好ましくは120nm以上160nm以下、さらに好ましくは130nm以上150nm以下である。
【0025】
また、本発明の位相差フィルムを1/2波長板として用いる場合、そのReの絶対値は、好ましくは240以上320nm以下、より好ましくは260以上300nm以下、さらに好ましくは270以上290nm以下である。
【0026】
なお、液晶表示装置の位相差フィルムは、その用途に応じて好適なレタデーション値が異なるため、広い範囲でレタデーションを制御可能であるのが好ましい。
【0027】
本発明の位相差フィルムは、屈折率分布がny<nx=nzを満たす固有複屈折が負の一軸性光学素子であるのが好ましい。理想的には、上記の屈折率分布がny<nx=nzを満たす固有複屈折が負の一軸性光学素子は、面内の一方向に光軸を有する。なお、本発明において、nx=nzとは、nxとnzが完全に同一である場合だけでなく、nyとnzとが実質的に同一である場合も包含する。ここで「nxとnzとが実質的に同一である」とは、nx−nz(=Nz×Re/d)の絶対値が1.0×10-3以下であることをいう。なお、Nz、Re、dの定義は前述のとおりである。このような関係を満たす位相差フィルムはネガティブAプレートと呼ばれ、主に、偏光板や、偏光板と液晶セルの間に配置される構成部材の位相差値に起因して生じる、液晶パネル(液晶表示装置)の黒表示における斜め方向の光漏れを小さくするために用いられる。
【0028】
本発明の位相差フィルムをネガティブAプレートとして用いる場合、面内レタデ−ション(Re)は、40nm〜1100nm、好ましくは40nm〜500nm、より好ましくは50nm〜300nmである。Reを上記範囲内にすることにより、液晶表示装置の斜め方向のコントラスト比を高め、斜め方向のカラーシフト量を小さくすることができる。
【0029】
本発明の位相差フィルムをネガティブAプレートとして用いる場合、Nz係数は、好ましくは−0.5以上0以下、より好ましくは−0.4以上0以下、さらに好ましくは−0.3以上0以下である。Nz係数が0に近いほど、液晶表示装置の斜め方向のコントラスト比をより高め、斜め方向のカラーシフト量を小さくすることができる。理想的には、ネガティブAプレートのNz係数は0である。
【0030】
また、本発明の位相差フィルムは、屈折率分布がnx=ny<nzを満たす固有複屈折が負の一軸性光学素子であるのも好ましい。理想的には、上記の屈折率分布がnx=ny<nzを満たす負の一軸性光学素子は、面内の一方向に光軸を有する。本発明において、nx=nyとは、nxとnyが完全に同一である場合だけでなく、nxとnyとが実質的に同一である場合も包含する。ここで「nxとnyとが実質的に同一である」とは、nx−ny=(Re/d)の絶対値が1.0×10-3以下であることをいう。なお、Re、dの定義は前述のとおりである。このような関係を満たす位相差フィルムは、ポジティブCプレートと呼ばれ、主に、偏光板や、偏光板と液晶セルの間に配置される構成部材の位相差値に起因して生じる、液晶パネル(液晶表示装置)の黒表示における斜め方向の光漏れを小さくするために用いられる。
【0031】
本発明の位相差フィルムをポジティブCプレートとして用いる場合、面内レタデ−ション(Re)は、40nm未満であり、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下である。Reの値を上記範囲内とすることにより、表示装置の斜め方向のコントラスト比をより高め、斜め方向のカラーシフト量を小さくすることができる。なお、ポジティブCプレートの面内レタデーション(Re)の理論上の限界値は0nmである。
【0032】
本発明の位相差フィルムをポジティブCプレートとして用いる場合、厚み方向レタデ−ション(Rth)は、好ましくは−20nm以下、より好ましくは−60nm以下、さらに好ましくは−90nm以下である。Rthの値を上記範囲内にすることにより、液晶表示装置の斜め方向のコントラスト比を高め、斜め方向のカラーシフト量を小さくすることができる。
【0033】
単量体(a)の説明
本発明の単量体(a)としては、その単独重合体の光弾性係数が正で、かつ、固有複屈折が負であるという条件を満たす単量体であれば、いかなる単量体でもよい。単量体(a)としては、例えば、芳香族ビニル単量体が挙げられる。ここで、芳香族ビニル単量体とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体をいう。
【0034】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレンのほか、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、о−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン類;1,1−ジフェニルエチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。これらの芳香族ビニル単量体は、1種又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0035】
単量体(b)の説明
本発明の単量体(b)としては、その単独重合体の光弾性係数が負で、かつ、固有複屈折が負であるという条件を満たす単量体であれば、いかなる単量体でもよい。単量体(b)としては、例えば、(メタ)アクリル系単量体が挙げられる。
【0036】
ここで、(メタ)アクリル系単量体とは、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる1種以上を示し、好ましくはメタクリル酸エステル、アクリル酸エステルである。
【0037】
メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルなどが挙げられ、好ましくはメタクリル酸メチルである。
【0038】
アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニルなどが挙げられ、好ましくはアクリル酸メチルである。
【0039】
アクリル酸アルキルエステルを単量体成分として含む共重合体は、耐熱分解性及び成形加工時の流動性に優れる傾向にあるため好ましい。共重合させるアクリル酸エステルの使用量は、単量体混合物全体に対して、耐熱分解性の観点から0.1重量%以上であるのが好ましく、耐熱性の観点から15重量%以下であるのが好ましい。0.2重量%以上14重量%以下であるのがより好ましく、1重量%以上12重量%以下であるのがさらに好ましい。このアクリル酸エステルの中でも、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルは、それらを少量共重合させるだけでも成形加工時の流動性に関して、著しい改善効果が得られるため好ましい。
【0040】
上記(メタ)アクリル系単量体は1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0041】
5〜6員環単量体(c)の説明
本発明の5〜6員環単量体(c)としては、無水マレイン酸、グルタル酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体;ラクトン環構造などの不飽和カルボン酸単量体;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体等が挙げられ、好ましくは、耐熱性、生産性の観点から、無水マレイン酸、グルタル酸であり、より好ましくは無水マレイン酸である。
【0042】
共重合体(A)の説明
本発明における共重合体(A)の好ましい具体例としては、次の共重合体(A−1)〜(A−4)が挙げられる。
【0043】
本発明の共重合体(A)の好ましい具体例として、単量体(a)にスチレン、単量体(b)にメタクリル酸メチル及び/又はアクリル酸エステル、単量体(c)に無水マレイン酸を用いた共重合体(A−1)が挙げられる。
【0044】
共重合体(A−1)を構成する単量体単位の共重合割合は、耐熱性、光弾性係数の点から、スチレン単位5質量%以上40質量%以下、メタクリル酸メチル及び/又はアクリル酸エステル単位40質量%以上90質量%以下、無水マレイン酸単位5質量%以上40質量%以下であるのが好ましい。より好ましくは、スチレン単位8質量%以上40質量%以下、メタクリル酸メチル及び/又はアクリル酸エステル単位42質量%以上83質量%以下、無水マレイン酸単位9質量%以上35質量%以下であり、さらに好ましくはスチレン単位10質量%以上38質量%以下、メタクリル酸メチル及び/又はアクリル酸エステル単位45質量%以上80質量%以下、無水マレイン酸単位10質量%以上30質量%以下である。
【0045】
本発明の共重合体(A)の他の好ましい具体例として、単量体(a)に芳香族ビニル、単量体(b)にメタクリル酸メチル及び/又はアクリル酸エステル、単量体(c)に一般式[2]で表される化合物を用いた共重合体(A−2)が挙げられる。
【0046】
【化2】

【0047】
(ただし、一般式[2]において、XはO又はN−Rを示し、Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルキル基を示す)
【0048】
共重合体(A−2)の一般式[2]で表される単量体としては、XがOであるものとして、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物単量体が挙げられ、XがN−Rであるものとしては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体が挙げられる。
【0049】
共重合体(A−2)を構成する単量体単位の共重合割合は、耐熱性、光弾性係数の点から、芳香族ビニル単位5質量%以上40質量%以下、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位40質量%以上90質量%以下、上記一般式[2]で表される化合物単位5質量%以上40質量%以下であるのが好ましい。より好ましくは、芳香族ビニル単位8質量%以上40質量%以下、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位42質量%以上83質量%以下、上記一般式[2]で表される化合物単位9質量%以上35質量%以下であり、さらに好ましくは、芳香族ビニル単位10質量%以上38質量%以下、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単45質量%以上80質量%以下、上記一般式[2]で表される化合物単位10質量%以上30質量%以下である。
【0050】
共重合体(A−2)には、上記の必須構成単量体成分に加え、必要に応じて共重合可能な他の単量体を共重合して得られる共重合体も包含される。ここで用いられる共重合可能な他の単量体としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン単量体等が挙げられ、これらの2種以上を共重合することも可能である。
【0051】
共重合体(A−2)を製造する方法としては、ラジカル開始剤を使用した塊状重合が適した方法であるが、溶液重合、乳化重合を用いることも可能である。
【0052】
共重合体(A−2)の重合に用いるラジカル開始剤としては、ラウロイルパーオキサイドのようなジアシルパーオキサイドが好ましい。
【0053】
共重合体(A−2)の好ましい重合方法としては、特公昭63−1964号公報に記載の方法が挙げられる。
【0054】
共重合体(A−2)のメルトインデックス(ASTM D1238;I条件)は、フィルムの強度の観点から10g/10分以下であることが好ましい。より好ましくは6g/10分以下、さらに好ましくは3g/10分以下である。
【0055】
また、本発明の、共重合体(A)の他の好ましい具体例として、単量体(a)に芳香族ビニル、単量体(b)にメタクリル酸メチル及び/又はアクリル酸エステル、単量体(c)に6員環構造の酸無水物単量体を用いた共重合体(A−3)が挙げられる。この6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(A−3)は、耐熱性に優れると共に、これから得られるフィルムのレタデーション設計が容易であることから光学材料に適している。
【0056】
6員環構造の酸無水物単位は、不飽和カルボン酸単量体、及び、必要に応じて不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他の単量体成分と重合させ共重合体とした後、かかる共重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコール及び/又は脱水による分子内環化反応を行うことにより生成することができる。この場合、典型的には共重合体を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の6員環構造の酸無水物単位が生成される。
【0057】
6員環構造の酸無水物単位を生成するための不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。
【0058】
6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(A−3)は、例えば、特公平02−26641号、特開2006−266543号、特開2006−274069号、特開2006−274071号、特開2006−283013公報、特開2005−162835公報に記載の方法を参照して、組成比を決定し、製造、評価することができる。共重合体(A−3)を構成する単量体単位の共重合割合は、上記の共重合体(A−2)を構成する、対応する単量体単位の共重合割合と同一である。
【0059】
さらに、本発明の共重合体(A)の他の好ましい具体例として、単量体(a)に芳香族ビニル、単量体(b)にメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル、単量体(c)に6員環構造のラクトン単量体を用いた共重合体(A−4)が挙げられる。
【0060】
この6員環構造のラクトン単位を含む共重合体(A−4)は、耐熱性に優れると共に、これから得られるフィルムのレタデーション設計が容易であることから光学材料に適している。
【0061】
6員環構造のラクトン単位は、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体及び不飽和アルコキシ単量体と、その他の単量体成分と重合させ共重合体とした後、かかる共重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱エーテル、脱アルコール及び/又は脱水による分子内環化反応を行わせることにより生成することができる。この場合、典型的には共重合体を加熱することにより不飽和アルコキシ単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からエーテルの脱離により1単位の6員環構造のラクトン単位が生成される。
【0062】
6員環構造のラクトン単位を生成するための不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル等が挙げられ、不飽和アルコキシ単量体としては、例えば、2−ヒドロキシメチル−アクリル酸メチル等が挙げられる。
【0063】
6員環構造のラクトン単位を含む共重合体(A−4)は、例えば、特開2005−162835公報に記載の方法を参照して、組成比を決定し、製造、評価することができる。
【0064】
共重合体(A−4)を構成する単量体単位の共重合割合は、上記の共重合体(A−2)を構成する、対応する単量体単位の共重合割合と同一である。
【0065】
本発明においては、組成、分子量など異なる複数種類の共重合体(A)を併用することができる。
【0066】
また、本発明においては、共重合体(A)に、本発明の目的を損なわない範囲で他の重合体を混合することができる。混合することができる重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられ、これらの1種以上を混合することができる。混合する他の重合体の割合は、樹脂組成物100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。
【0067】
また、本発明においては、位相差フィルムに、本発明の目的を損なわない範囲で紫外線吸収剤を添加することができる。混合することができる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
【0068】
上記各種紫外線吸収剤の中でも、特に、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、ラクトン系化合物等の紫外線吸収剤は、これを添加した位相差フィルムの光弾性係数の絶対値を小さくする効果を有しているため好ましい。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物がより好ましい。これらは、単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0069】
紫外線吸収剤は、その20℃における蒸気圧(P)が1.0×10-4Pa以下である場合に、得られる樹脂組成物の成形加工性に優れるため好ましい。蒸気圧(P)のより好ましい範囲は1.0×10-6Pa以下であり、さらに好ましい範囲は1.0×10-8Pa以下である。ここで、成形加工性に優れるとは、例えばフィルム成形時に、添加剤のロールへの付着が少ないことなどを示す。添加剤がロールへ付着すると、例えばフィルム表面へ付着し外観、光学特性を悪化させるため、光学用材料として好ましくないものとなるおそれがある。
【0070】
また、紫外線吸収剤は、融点(Tm)が80℃以上である場合に、得られる樹脂組成物の成形加工性に優れるため好ましい。融点(Tm)のより好ましい範囲は130℃以上であり、さらに好ましい範囲は160℃以上である。
【0071】
さらに、紫外線吸収剤は、23℃から260℃まで20℃/分の速度で昇温した場合の重量減少率が50%以下である場合に、得られる樹脂組成物の成形加工性に優れるため好ましい。重量減少率のより好ましい範囲は15%以下であり、さらに好ましい範囲は2%以下である。
【0072】
本発明の位相差フィルムは、380nmにおける分光透過率が5%以下かつ400nmにおける分光透過率が65%以上であることが好ましい。紫外領域である380nmの分光透過率が低いほど偏光子や液晶素子の劣化を防ぎ、可視領域である400nm分光透過率が高いほど色再現性に優れるため、光学フィルムとして好ましく用いることができる。この範囲内に設計するには、紫外線吸収剤の量が、樹脂組成物に対して0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。0.1質量部以上であると、得られる位相差フィルムの380nmにおける分光透過率が小さくなり、10質量%以下であると、得られる位相差フィルムの光弾性係数の増加が小さく、成形加工性、機械強度も向上するため好ましい。紫外線吸収剤の量のより好ましい範囲は、0.3質量部以上8質量部以下、さらに好ましい範囲は0.5質量部以上5質量部以下である。
【0073】
紫外線吸収剤の量は、核磁気共鳴装置(NMR)によりプロトンNMRを測定し、ピークシグナルの積分値の比から求める方法、または良溶媒を用い樹脂から抽出後、ガスクロマトグラフ(GC)で測定する方法等により定量できる。
【0074】
また、本発明においては、位相差フィルムに、本発明の目的を損なわない範囲で各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。配合することができる添加剤としては、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
【0075】
例えば、二酸化珪素等の無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸,ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;りん系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤等が挙げられる。
【0076】
紫外線吸収剤と、上記添加剤の総添加量は、位相差フィルムを構成する共重合体の合計100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下である。
【0077】
位相差フィルムの製造
本発明の位相差フィルムの製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて、共重合体(A)、その他の重合体及び紫外線吸収剤等の添加剤を溶融混練して製造することができる。
【0078】
本発明における共重合体(A)から構成される位相差フィルムは、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、押し出し成形、発泡成形等、公知の方法で成形することが可能であり、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを押し出し成形することができる。
【0079】
押し出し成形により位相差フィルムを製造する場合は、前記共重合体(A)、その他の重合体、紫外線吸収剤等の添加剤を含む樹脂組成物を事前に製造する代わりに、押し出し成形時に溶融混錬して成形することもできる。
【0080】
また、各重合体に共通な溶媒、例えば、クロロホルム、二塩化メチレン等の溶媒を用いて、重合体を溶解後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形もすることができる。
【0081】
好ましいフィルム製膜方法は、金型にTダイを用いる溶融押出法である。Tダイから吐出されたフィルムは金属ロール、ゴムロール、金属ベルト等により片面又は両面を冷却しつつ引取りながら製膜する。
【0082】
さらに必要に応じて、未延伸フィルムを機械的流れ方向(MD)に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向(TD)に横一軸延伸することができる。例えば、工業的には、ロール延伸またはテンター延伸による一軸延伸法、ロール延伸とテンター延伸の組み合わせによる逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等によって延伸フィルムを製造することができる。最終的な延伸倍率は得られたフィルムの熱収縮率より判断することができる。延伸倍率は少なくともどちらか一方向に0.1%以上300%以下であるのが好ましく、1%以上200%以下であるのがより好ましく、2%以上100%以下であるのがさらに好ましい。この範囲に設計することにより、複屈折、強度の観点で好ましい延伸フィルムが得られる。延伸倍率は、得られた延伸フィルムをガラス転移温度よりも20℃以上高い温度で収縮させ以下の関係式から延伸倍率を決定できる。また、ガラス転移温度はDSC法や粘弾性法により求めることができる。
延伸倍率(%)=[(収縮前の長さ/収縮後の長さ)−1]×100
【0083】
本発明の位相差フィルムの厚みは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。
【0084】
本発明の位相差フィルムには、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理を適宜施してもよい。
【0085】
偏光板保護フィルム
本発明の位相差フィルムは、高い機械的強度を有するため、各種光学素子用の保護フィルムとして用いることもできる。特に、本発明の位相差フィルムは、光学的に異方性を有しているため、偏光板保護フィルムとして好適に用いることができる。以下に、本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合について説明する。
【0086】
本発明の位相差フィルムを偏光板保護フィルムとして用いた偏光板は、位相差フィルムを偏光フィルムの少なくとも一方の面に積層することにより製造することができる。
【0087】
通常、保護フィルムは、偏光フィルムの保護を目的としているので、トリアセチルセルロース系フィルムのような光学的に等方性を有するフィルムが用いられている。これに対し、本発明においては、少なくとも一方の面に本発明の光学的に異方性を有する位相差フィルムを保護フィルムとして積層する。これにより、保護フィルムが位相差フィルムを兼ねるので、通常は偏光板の保護フィルムの上に貼り付けられるポリカーボネート樹脂やシクロオレフィン系の樹脂などからなる位相差フィルムを積層する必要がなく、偏光板の薄肉化と生産性の向上を図ることができる。また、保護フィルムの上に別の位相差フィルムを接着する工程が省かれるため、偏光板の生産性を向上させることができる。
【0088】
また、本発明においては、偏光フィルムの一方の面にReが10nm以上の本発明の位相差フィルムを積層し、他方の面にReが10nm以下の光学的に等方性を有するフィルムを積層することによって、偏光板を製造することもできる。
【0089】
偏光フィルムの他方の面に光学的に等方性を有する保護フィルムを積層する場合、そのフィルムの面内レタデーションは、好ましくは10nm以下、より好ましくは8nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。
【0090】
本発明においては、他方の面に積層する光学的に等方性を有する保護フィルムとしては特に限定されないが、偏光板の反りが低減され、偏光度保持率が改善される傾向にあるため、アクリル系樹脂及び/又は脂肪族ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物を成形して得られるフィルムを用いることが好ましい。
【0091】
アクリル系樹脂の具体例としては、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルより選ばれる1種以上の単量体を重合したものが挙げられる。
【0092】
これらの中でも、メタクリル酸メチルの単独重合体またはメタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体が特に好ましい。
【0093】
メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、他のメタリル酸アルキルエステル類、アクリル酸アルキルエステル類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0094】
これらメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体の中でも、特に、アクリル酸アルキルエステル類は、耐熱分解性に優れ、これを共重合させて得られるアクリル系樹脂の成形加工時の流動性に優れる傾向にあるため好ましい。
【0095】
メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15質量%以下であることが好ましい。0.2〜14質量%であることがさらに好ましく、1〜12質量%であることがとりわけ好ましい。
【0096】
アクリル酸アルキルエステル類としては、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが、少量のメタクリル酸メチルと共重合させるだけでも前述の成形加工時の流動性の改良効果が著しく得られるため好ましい。
【0097】
アクリル系樹脂の質量平均分子量は、5万〜20万であることが好ましい。質量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上であることが好ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下であることが好ましい。さらに好ましい範囲は7万〜15万である。また、本発明においてはアイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
【0098】
アクリル系樹脂を製造する方法として、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、光学用途としては微小な異物の混入はできるだけ避けることが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が好ましい。具体的には、特公昭63−1964号公報等に記載されている方法等を用いることができる。
【0099】
溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調整した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0100】
重合反応に用いられる開始剤としては、ラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えばアゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物を用いることができる。
【0101】
特に、90℃以上の高温下で重合を行わせる場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上でかつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤などが好ましい。具体的には1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。これらの開始剤は、例えば、0.005〜5質量%の範囲で用いることができる。
【0102】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤としては、ラジカル重合において用いられる任意のものが使用でき、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコ−ル酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、アクリル系樹脂の重合度が好ましい範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
【0103】
本発明における位相差フィルムと反対の面に積層する保護フィルムには、上記アクリル系樹脂の他に、脂肪族ポリエステル系樹脂を用いることができる。
【0104】
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体などが挙げられる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体の具体例としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸及びポリカプロラクトンなどが挙げられ、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体の具体例としては、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート及びポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエステル系樹脂は、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0105】
これらの脂肪族ポリエステル系樹脂の中でも、ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体が好ましく、特に、ポリ乳酸系樹脂がより好ましい。これらの成分は1種以上を用いることができる。
【0106】
ポリ乳酸系樹脂としては、L−乳酸及び/又はD−乳酸を主たる構成成分とする重合体が挙げられる。
【0107】
ポリ乳酸系樹脂において、L−乳酸単位と、D−乳酸単位の構成モル比は、L−体とD−体あわせて100%に対し、L体ないしD体いずれかが85%以上が好ましく、より好ましくは一方が90%以上であり、さらに好ましくは一方が94%以上である。本発明においてはL−乳酸を主体とするポリL乳酸とD−乳酸を主体とするポリD乳酸を同時に用いることもできる。
【0108】
ポリ乳酸系樹脂は、L体ないしD体以外の乳酸誘導体モノマー、または、ラクチドと共重合可能な他成分を共重合していてもよく、このような成分としてはジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂は、直接脱水縮合、ラクチドの開環重合等公知の重合法で重合することができる。また必要に応じてポリイソシアネート等の結合剤を用いて、高分子量化することもできる。
【0109】
ポリ乳酸系樹脂の質量平均分子量の範囲は、機械的性質の観点から30,000以上であるのが好ましく、加工性の観点から1000,000以下であるのが好ましい。より好ましくは50,000〜500,000、さらに好ましくは100,000〜280,000である。
【0110】
また、ポリ乳酸系樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、乳酸以外の他の共重合成分を0.1〜30質量%含んでいてもよい。そのような他の共重合成分としては、例えば、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類;グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類;グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などを使用することができる。これらの共重合成分は、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0111】
脂肪族ポリエステル系樹脂の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができ、特にポリ乳酸系樹脂については、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを採用することができる。
【0112】
本発明において、保護フィルムがアクリル系樹脂と脂肪族ポリエステル系樹脂を含む場合、アクリル系樹脂の割合(質量部)は、アクリル系樹脂と脂肪族ポリエステル系樹脂の合計量100質量部に対して、光弾性係数、強度、耐熱性、ヘイズ値の点から、好ましくは0.1〜99.9質量部、より好ましくは50〜99.9質量部、さらに好ましくは60〜95質量部である。50質量部以上であると、湿熱雰囲気下でのヘイズ値が小さくなり好ましい。ヘイズ値が小さい、または変化が小さいと、ディスプレイ用途等に好適に用いることが可能となる。
【0113】
脂肪族ポリエステル系樹脂の割合(質量部)は、アクリル系樹脂と脂肪族ポリエステル系樹脂の合計量100質量部に対して、光弾性係数、強度、耐熱性、ヘイズ値の点から、好ましくは0.1〜99.9質量部であり、より好ましくは0.1〜50質量部であり、さらに好ましくは5〜40質量部である。50質量部以下であると、湿熱雰囲気下でのヘイズ値が小さくなり好ましい。ヘイズ値が小さい、または変化が小さいと、ディスプレイ用途に好適に用いることが可能となる。
【0114】
本発明における偏光フィルムの、位相差フィルムが積層された面と反対の面に積層する保護フィルムには、上記のアクリル系樹脂及び脂肪族ポリエステル系樹脂の他に、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂を添加することができる。このときの、他の樹脂成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステル樹脂;脂肪族ポリエステル系樹脂;ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂;およびフェノール樹脂;メラミン樹脂;シリコーン樹脂;エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種以上を用いることができる。
【0115】
本発明において、保護フィルムの厚さは、ハンドリング性の観点から、好ましくは0.1μm以上であり、薄肉化の観点から、好ましくは300μm以下である。より好ましくは0.2〜250μmであり、さらに好ましくは0.3〜200μmである。
【0116】
偏光フィルムと位相差フィルム及び/又は保護フィルムとの貼合には、光学的に等方性を有する接着剤を用いるのが好ましく、かかる接着剤としては、ポリビニルアルコール系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤などが挙げられる。偏光フィルムと位相差フィルム及び/又は保護フィルムとの接着性が悪い場合には、位相差フィルム及び/又は保護フィルムに、コロナ処理、プライマ処理、コーティング処理などの易接着処理を適宜施してから、偏光フィルムと貼合するのが好ましい。
【0117】
偏光フィルムの一方の面に本発明の位相差フィルムを積層し、他方の面に上記のアクリル系樹脂を含む樹脂組成物を成形して得られる保護フィルムを積層すると、樹脂間の特性差による反りやカールといった不具合や、吸湿性の差に起因する応力による異常を生じ難くなる。
【0118】
本発明における偏光フィルムとしては、特に限定されず、例えば、一軸延伸された樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させた偏光フィルム等が挙げられる。このような偏光フィルムは公知の方法を用いて製造することができ、例えば特開2002−174729号公報等に記載された方法により製造することができる。具体的には以下の通りである。
【0119】
偏光フィルムを構成する樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましく、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られるポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。ここで、ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニル及びこれと共重合可能な他の単量体の共重合体などが挙げられる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。また、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、85〜100モル%であるのが好ましく、より好ましくは98〜100モル%である。このポリビニルアルコール系樹脂はさらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用し得る。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、1000〜10000であることが好ましく、より好ましくは1500〜10000である。
【0120】
偏光フィルムは、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂からフィルムを作製して一軸延伸する工程、延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色してヨウ素や二色性染料を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、ホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造できる。
【0121】
一軸延伸は、二色性色素による染色の前に行ってもよいし、二色性色素による染色と同時に行ってもよいし、二色性色素による染色の後に行ってもよい。一軸延伸を二色性色素による染色後に行う場合、一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。また、複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。
【0122】
一軸延伸するには、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤で膨潤した状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。
【0123】
樹脂フィルムを二色性色素で染色するには、例えば、樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬すればよい。ここで、二色性色素としては、例えば、ヨウ素や二色性染料が挙げられる。
【0124】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用できる。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100質量部あたり0.01〜0.5質量部程度であるのが好ましく、ヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり0.5〜10質量部程度であるのが好ましい。この水溶液の温度は、20〜40℃程度であるのが好ましく、また、この水溶液への浸漬時間は、30〜300秒程度であるのが好ましい。
【0125】
二色性色素として二色性染料を用いる場合は、二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用できる。この水溶液における二色性染料の含有量は、水100質量部あたり1×10-3〜1×10-2質量部程度であるのが好ましい。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を含有していてもよい。この水溶液の温度は、20〜80℃程度であるのが好ましく、また、この水溶液への浸漬時間は、30〜300秒程度であるのが好ましい。
【0126】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色された樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することにより行われる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100質量部あたり2〜15質量部程度であるのが好ましく、さらに好ましくは5〜12質量部程度である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有するのが好ましい。ホウ酸水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり2〜20質量部程度であるのが好ましく、さらに好ましくは5〜15質量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、100〜1200秒程度あるのが好ましく、より好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。またホウ酸水溶液の温度は、50℃以上であるのが好ましく、より好ましくは50〜85℃である。
【0127】
ホウ酸処理後の樹脂フィルムは、水洗処理されることが好ましい。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行われる。水洗後は適宜乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。水洗処理における水の温度は、5〜40℃程度であるのが好ましく、浸漬時間は、2〜120秒程度であるのが好ましい。その後に行われる乾燥処理は、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行われるのが好ましく、その際の乾燥温度は40〜100℃であり、乾燥処理における処理時間は120秒〜600秒程度であるのが好ましい。
【0128】
偏光フィルムのフィルム厚は、フィルムの取り扱い易さ、ディスプレイの薄肉化要求の観点から、好ましくは5〜200μmであり、より好ましくは10〜150μmであり、さらに好ましくは15〜100μmである。
【0129】
本発明の位相差フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルムや、1/4波長板、1/2波長板等の位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルムを製造するために用いることができ、とりわけ本発明の位相差フィルムは、厚み方向レタデーション(Rth)が小さいことが望まれるIPSモードの液晶表示装置用の偏光板保護フィルムや位相差フィルムを製造するために好適に用いることができる。
【0130】
また、本発明の位相差フィルムを偏光フィルムの少なくとも一方に積層した偏光板は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0131】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
【0132】
(1)測定方法
本明細書中の各物性等の測定方法は次の通りである。
(I)光弾性係数の測定、固有複屈折の正負の判断
(光弾性係数の測定)
Macromolecules 2004,37,1062−1066で詳細に記載された複屈折測定装置を用いた。レーザー光の経路にフィルムの引っ張り装置を配置し、幅7mmの位相差フィルムの試験片に23℃で伸張応力をかけながら、その複屈折を測定した。伸張時の歪速度は0.3%/分(チャック間:30mm、チャック移動速度:0.1mm/分)とした。
このようにして測定した値について、複屈折(Δn)をy軸、伸張応力(σR)をx軸としてプロットし、その関係から、最小二乗近似により初期線形領域の直線の傾きを求め、光弾性係数(CR)を算出した。傾きの絶対値が小さいほど光弾性係数が0に近く、光学特性に優れていることを示す。
(固有複屈折の正負の判断)
ガラス転移温度以上、ガラス転移温度+50℃以下の範囲内で伸張応力をかけながら延伸を行った後、急冷固化し、23℃におけるnpr−nvtを測定した。npr−nvtが負の場合には固有複屈折が負、npr−nvtが正の場合には固有複屈折が正と判断した。
(II)分子量の測定
GPC(東ソー(株)製GPC−8020、検出RI、カラム昭和電工製Shodex K−805、801連結)を用い、溶媒はクロロホルム、測定温度40℃で、市販標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
(III)面内レタデーション(Re)、厚み方向レタデーション(Rth)及びNz係数
(面内レタデーション(Re)の測定)
シックネスゲージを用いてフィルムの厚さd(nm)を測定した。この値を大塚電子(株)社製複屈折測定装置RETS−100に入力し、測定面が測定光と垂直になるように試料を配置し、23℃で回転検光子法により面内レタデーション(Re)を測定・算出した。
(厚み方向レタデーション(Rth)及びNz係数の測定)
Metricon社製レーザー屈折計Model2010を用いて、23℃で光学フィルムの平均屈折率nを測定した。そして、平均屈折率nとフィルム厚さd(nm)を大塚電子(株)社製複屈折測定装置RETS−100に入力し、23℃で厚み方向レタデーション(Rth)、Nz係数を測定・算出した。
(IV)偏光板の反りの測定
偏光板を200mm×200mmの正方形に裁断し、水平で平坦な台の上にフィルムの中央が台に接するように置き、23℃、50%RHの雰囲気下で72時間静置し、裁断したフィルムの四隅が台から反り上がった高さを平均して算出した。
(V)偏光板の高温多湿時の耐久性の測定
60℃、90%RH条件で1000時間保持した前後の偏光度を下式に従って求め、この値を用いて偏光度保持率を算出して耐久性を評価した。
偏光度(%)={〔(H2−H1)/(H2+H1)〕×1/2}×100
ここで、H2は2枚の偏光板の配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で分光光度計を用いて測定した値(平行透過率)であり、H1は2枚の偏光板の配向方向が互いに直交方向になるように重ね合わせた状態で測定した値(直交透過率)である。偏光度の測定は、島津製作所UV−3150分光光度計を使用した。
偏光度保持率とは、60℃、90%RH条件、1000時間保持試験後の偏光度を試験前の偏光度で除した値に100を掛けた数値である。数値が大きいほど耐久性がよい。
また偏光度の測定は、第1の面と第2の面の面内レタデ−ション(Re)が共に10nm以上である場合には、円偏光の影響が強くなり本発明の評価としては適切ではないので実施しなかった。また、同様の理由から、第1の面又は第2の面のいずれかの面内レタデ−ション(Re)が10nm以下の場合には、2枚の偏光板を重ね合わせる際に、Reが10nm以下の層が内側になるように重ね合わせて評価を行った。
(2)原料の準備
(I)メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1)
特公昭63−1964号公報に記載の方法で、単量体(a)としてスチレン、単量体(b)としてメタクリル酸メチル、単量体(c)として無水マレイン酸を用いて、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A―1)を得た。
得られたメタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A―1)の組成は、表1に示す質量比であり、各共重合体のメルトフローレート値(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は、メタクリル酸メチル72質量%、無水マレイン酸16質量%、スチレン12質量%の共重合体では1.8g/10分であり、メタクリル酸メチル74質量%、無水マレイン酸10質量%、スチレン16質量%の共重合体では1.7g/10分であり、メタクリル酸メチル77質量%、無水マレイン酸15質量%、スチレン8質量%の共重合体では1.6g/10分であった。
【0133】
(II)シクロオレフィン系樹脂
比較のため、シクロオレフィン系樹脂としてエチレンとノルボルネンとを付加重合することにより製造した、エチレン−ノルボルネンランダム共重合体(エチレンの共重合割合:65mol%、MFR:31g/10分、数平均分子量:68000)を用いた。
(III)ポリカーボネート(PC)
比較のため、ポリカーボネート(旭化成(株)製 WONDERLITE PC−110)を用いた
(IV)ポリスチレン(PS)
比較のため、ポリスチレン(PSジャパン(株)製GPPS)を用いた。
【0134】
[実施例1〜10、比較例1〜3]
(一軸延伸フィルムの製造)
i)共重合体(A−1)のフィルム
表1に記載の樹脂組成の共重合体を用い、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)を用いて、スクリュー回転数、押し出し機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を表1に示す条件に調整し押し出し成形をすることにより未延伸フィルムを得た。フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に垂直な方向をTD方向とした。
そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、一軸延伸フィルムを得た。
【0135】
ii)シクロオレフィン系樹脂フィルム(COP)
上記で得られたシクロオレフィン系樹脂100質量部をシクロヘキサン80質量部、トルエン80質量部、キシレン80質量部の混合溶剤に溶解し、流延法によりフィルムを作製した。
そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、一軸延伸フィルムを得た。
iii)ポリカーボネート樹脂フィルム(PC)
ポリカーボネート樹脂を、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)を用いて、スクリュー回転数、押し出し機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を表1に示す条件に調整し押し出し成形をすることにより未延伸フィルムを得た。フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に垂直な方向をTD方向とした。
そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、一軸延伸フィルムを得た。
iv)ポリスチレン樹脂フィルム(PS)
ポリカーボネート樹脂フィルムと同様な方法により、一軸延伸フィルムを得た。
【0136】
樹脂の組成、押し出し成形条件、延伸条件、フィルムの厚み、面内レタデーション(Re)、厚み方向レタデーション(Rth)、光弾性係数、Nz係数、固有複屈折の正負を表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の実施例1〜10の位相差フィルムは、光弾性係数の絶対値が1.7〜2.5×10-12/Paと小さな値であり、固有複屈折が負であったことから、液晶ディスプレイ用の位相差フィルムとして好適なものであった。さらに、面内レタデーション(Re)が40〜1100nm、厚み方向レタデーション(Rth)が負、Nz係数が−0.5〜0.0の範囲内にあり、特に、ネガティブAプレートとして好適なものであった。
【0139】
[実施例11〜22、比較例4〜6]
(二軸延伸フィルムの製造)
v)共重合体(A−1)のフィルム
表2に記載の樹脂組成の共重合体を用い、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)を用いて、スクリュー回転数、押し出し機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を表2に示す条件に調整し押し出し成形をすることにより未延伸フィルムを得た。フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に垂直な方向をTD方向とした。
そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表2に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、一軸延伸フィルムを得た。
さらに、一軸延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表2に示す条件で二軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、二軸延伸フィルムを得た。
vi)シクロオレフィン系樹脂フィルム(COP)
上記で得られたシクロオレフィン系樹脂一軸延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表2に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、二軸延伸フィルムを得た。
vii)ポリカーボネート樹脂フィルム(PC)
上記で得られたポリカーボネート樹脂一軸延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表2に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、二軸延伸フィルムを得た。
viii)ポリスチレン樹脂フィルム(PS)
上記で得られたポリスチレン樹脂一軸延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表2に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、二軸延伸フィルムを得た。
【0140】
樹脂の組成、押し出し成形条件、延伸条件、フィルムの厚み、面内レタデーション(Re)、厚み方向レタデーション(Rth)、光弾性係数、Nz係数、固有複屈折の正負を表2に示す。
【0141】
【表2】

【0142】
表2に示した結果から明らかなように、本発明の実施例11〜22の位相差フィルムは、光弾性係数の絶対値が1.4〜2.9×10-12/Paと小さな値であり、固有複屈折が負であったことから、液晶ディスプレイ用の位相差フィルムとして好適なものであった。さらに、面内レタデーション(Re)が40nm未満、厚み方向レタデーション(Rth)が−20nm以下であり、特に、ポジティブCプレートとして好適なものであった。
【0143】
[実施例23〜38、比較例7]
(試作例のフィルムの製造)
i)メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体のフィルム製造(試作例1)
メタクリル酸メチル93.2質量部、アクリル酸メチル2.3質量部、及びキシレン3.3質量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.12質量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10Lの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去した。さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体のペレットを得た。
得られたメタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体のアクリル酸メチル含量は2.0%、質量平均分子量は102,000、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフロー値は2.0g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、−4.4×10-12Pa-1であり、固有複屈折は負であった。
この共重合体ペレットを、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)を用いて、スクリュー回転数、押し出し機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を表3に示す条件に調整し押し出し成形をすることにより未延伸フィルムを得た。フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に垂直な方向をTD方向とした。
そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表3に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、一軸延伸フィルムを得た。
さらに、一軸延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表3に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、二軸延伸フィルムを得た。
ii)トリアセチルセルロース系保護フィルム(試作例2)
トリアセチルセルロース21質量部、トリフェニルホスフェート(可塑剤)2質量部およびビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤)1質量部を、メチレンクロライド62質量部、メタノール12質量部及びn−ブタノール2質量部に溶解してドープを調製した。ドープをエンドレスの金属支持体上に流延し、フィルムを支持体上に形成した。フィルム中の有機溶剤の量が60質量%になるまでフィルムを支持体上で乾燥し、フィルムを支持体から剥ぎ取った。
テンターを用いてフィルムの横方向の寸法を固定し、その状態で、フィルム中の有機溶剤の量が15質量%になるまで、3分間、フィルムを両面から乾燥した(一次乾燥)。フィルムを支持体から剥ぎ取ってから、フィルムの一次乾燥が終了するまでの間のフィルムの縦方向の寸法の伸び率は、4.5%であった。さらに、ローラーを用いてフィルム中の有機溶剤の量が0.5質量%になるまでフィルムを乾燥した(二次乾燥)。得られたフィルムを巻き取り、最後に、表面にケン化処理を施して厚さが80μmのトリアセチルセルロースフィルムを作製した。このフィルムの面内レタデーションは5nmであった。
iii)シクロオレフィン系保護フィルム(試作例3)
従来技術の偏光板保護フィルムの代表例として非晶性ポリオレフィン系樹脂であるシクロオレフィン系樹脂フィルムを以下の様にして製造した。
環状ポリオレフィンとしてエチレンとノルボルネンとの付加重合を行い、エチレン−ノルボルネンランダム共重合体(エチレン含量:65mol%、MFR:30g/10分、数平均分子量:68000)を製造した。ここで得た樹脂100質量部をシクロヘキサン80質量部、トルエン80質量部、キシレン80質量部の混合溶剤に溶解し、流延法により厚さ80μmのフィルムを作製した。このフィルムの面内レタデーションは5nmであった。
【0144】
(偏光フィルムの製造)
ポリ酢酸ビニルをケン化後(ケン化度98モル%)、成形し、得られたポリビニルアルコールフィルム(厚さ75μm)を水1000質量部、ヨウ素7質量部、ヨウ化カリウム105質量部からなる水溶液に5分間浸漬し、フィルムにヨウ素を吸着させた。次いでこのフィルムを40℃の4質量%ホウ酸水溶液中で、5倍に縦方向一軸延伸をした後、緊張状態のまま乾燥して偏光フィルムを得た。
(偏光板の製造)
接着剤としてポリビニルアルコール系樹脂の10%水溶液を用いて、偏光フィルムの両面に実施例1、6、10、15、19のフィルム、試作例1〜3を保護フィルムとして表4、表5に示す組み合わせで貼り合わせ、実施例23〜38、比較例7の偏光板を得た。
【0145】
【表3】

【0146】
【表4】

【0147】
【表5】

【0148】
実施例23〜38、比較例7の偏光板の反り、偏光度保持率を表4、5に示す。
表4、5より、保護フィルムとして、本発明の位相差フィルムを用いた実施例23〜38の偏光板は、反りが少なく、高温多湿時の耐久性にも優れることが確認できた。特に、第1面の保護フィルムとして試作例2のフィルムを用いている点で比較例7と共通している実施例23〜27の偏光板の反りは、比較例7の偏光板の反りよりも小さかった。その理由の1つとしては、比較例7の第2面に使用しているシクロオレフィン系樹脂(試作例3)は、実施例23〜27の第2面に使用している本発明の位相差フィルムに比べて透湿度が極めて低い。このため比較例7の偏光板では、片面(シクロオレフィン系樹脂)のみ偏光板中の水分が飛び難く、水分バランスに偏りが生じているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の位相差フィルムは、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、タッチパネル、太陽電池に用いられる透明基盤等や、その他、光通信システム、光交換システム、光計測システム等の分野における、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなど様々な光学素子を製造するたに使用できる。
【0150】
特に、本発明の位相差フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルムや、1/4波長板、1/2波長板等の位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルムを製造するために好適に用いることができる。
【0151】
さらに、本発明の位相差フィルムは、厚み方向レタデーション(Rth)が小さいことが望まれるIPSモードの液晶表示装置用の偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光弾性係数が正でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(a)5質量%以上85質量%以下、
光弾性係数が負でかつ固有複屈折が負となる単独重合体を構成する単量体(b)5質量%以上85質量%以下、
5〜6員環単量体(c)5質量%以上50質量%以下、
を含む単量体混合物からなる共重合体(A)を含む位相差フィルム。
【請求項2】
面内レタデーション(Re)が40〜1100nmであり、Nz係数が−0.5以上0以下である、請求項1記載の位相差フィルム。
【請求項3】
面内レタデーション(Re)が40〜1100nmであり、かつ、ny<nx=nzを満たす、請求項1又は2記載の位相差フィルム:
(式中、nx:フィルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フィルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フィルム厚み方向の主屈折率を示す)。
【請求項4】
面内レタデーション(Re)が40nm未満であり、厚み方向レタデーション(Rth)が−20nm以下である、請求項1記載の位相差フィルム。
【請求項5】
面内レタデーション(Re)が40nm未満であり、かつ、nx=ny<nzを満たす、請求項1又は4記載の位相差フィルム:
(式中、nx:フィルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フィルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フィルム厚み方向の主屈折率を示す)。
【請求項6】
前記単量体(a)が芳香族ビニル系単量体であり、前記単量体(b)が(メタ)アクリル系単量体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
芳香族ビニル単位5質量%以上20質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル単位40質量%90質量%以下、下記一般式[1]で表される化合物単位5質量%以上20質量%以下を含む共重合体を含む位相差フィルムであって、
下記一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合に対する芳香族ビニル単位の共重合割合の比(芳香族ビニル単位の共重合割合/一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合)が1倍以上3倍以下である、位相差フィルム:
一般式[1]
【化1】

(ここで、XはO又はN−R、Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルキル基を示す)。
【請求項8】
偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも一方が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の位相差フィルムである偏光板。
【請求項9】
偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの一方が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の位相差フィルムであり、他方が光学的に等方性を有するフィルムである偏光版。
【請求項10】
偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの両方が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の位相差フィルムである偏光板。

【公開番号】特開2008−268720(P2008−268720A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114221(P2007−114221)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】