説明

位相差フィルム

【課題】位相差発現効率に優れ、光弾性係数が小さく、さらにRe(480)/Re(550)で表される波長分散が小さい位相差フィルムを提供すること。
【解決手段】位相差フィルムは、ある特定の繰り返し単位と、芳香環を有するマレイミド骨格を含む他の特定の繰り返し単位とを有し、該芳香環を有するマレイミド骨格の含有割合が共重合体の全繰り返し単位の合計に対して2〜30mol%である、共重合体を含む高分子フィルムを延伸して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置においては、液晶セルの複屈折性を補償するために位相差フィルムが用いられている。代表的な位相差フィルムとしては、位相差の大きいポリカーボネート樹脂の延伸フィルムが知られている(特許文献1、2)。しかし、ポリカーボネート樹脂の延伸フィルムは、光弾性係数が大きく位相差ムラが生じやすいという欠点を有する。一方、光弾性係数の小さい材料としては、ポリメタクリル酸メチルが知られている(非特許文献3)。しかし、ポリメタクリル酸メチルは、延伸しても所望の位相差を得ることができない。
【特許文献1】特開昭63−189804号公報
【特許文献2】特開平1−201608号公報
【非特許文献1】化学総説、No.39、1998、学会出版センター発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、位相差発現効率に優れ、光弾性係数が小さく、さらにRe(480)/Re(550)で表される波長分散が小さい位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の位相差フィルムは、下記一般式(I)で表される繰り返し単位と芳香環を有するマレイミド骨格を含む下記一般式(II)で表される繰り返し単位とを有し、該芳香環を有するマレイミド骨格の含有割合が共重合体の全繰り返し単位の合計に対して2〜30mol%である、共重合体を含む高分子フィルムを延伸して得られる。
【化1】

ここで、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基を表す。
【化2】

ここで、Rは上記一般式(I)のRと同様であり、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基を表し、Rは、水素原子を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基を表し、R、RおよびRから選ばれる隣り合う2つの基がベンゼン環を形成することによって、ナフチル環を形成してもよく、該ナフチル環は置換基として、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基を有してもよい。
【0005】
好ましい実施形態においては、上記共重合体は、下記一般式(III)で表される繰り返し単位をさらに有し、該下記一般式(III)で表される繰り返し単位の含有割合が、前記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(III)で表される繰り返し単位の合計に対して、0mol%を超えて30mol%以下である。
【化3】

ここで、R、RおよびRは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基を表す。
【0006】
好ましい実施形態においては、上記位相差フィルムは、nx>ny≧nzの屈折率分布を有する。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記位相差フィルムは、光弾性係数が40×10−12/N以下である。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記位相差フィルムは、波長550nmにおける面内位相差(Re(550))が60nm以上である。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記位相差フィルムは、波長480nmにおける面内位相差(Re(480))と波長550nmにおける面内位相差(Re(550))とがRe(480)/Re(550)<1.01の関係を満足する。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記位相差フィルムは、厚さが、20μm〜110μmである。
【0011】
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。本発明の偏光板は、上記位相差フィルムを偏光子保護フィルムとして含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無水マレイン酸−アルキルビニルエーテル繰り返し単位と芳香環を有する無水マレイン酸−アルキルビニルエーテル繰り返し単位のイミド化物の繰り返し単位とを有する共重合体を用いてフィルム成形することにより、位相差発現性に優れ、光弾性係数および波長分散が小さい位相差フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである:
(1)「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸に垂直な方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。また、例えば「ny=nz」は、nyとnzが厳密に等しい場合のみならず、nyとnzが実質的に等しい場合も包含する。本明細書において「実質的に等しい」とは、フィルムの光学特性に実用上の影響を与えない範囲でnyとnzが異なる場合も包含する趣旨である。
(2)面内位相差Re(λ)
面内位相差Re(λ)は、23℃で波長λnmにおけるフィルム面内の位相差値をいう。Reは、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、Re=(nx−ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差Rth(λ)
厚み方向の位相差Rth(λ)は、23℃で波長λnmにおけるフィルムの厚み方向の位相差値をいう。Rthは、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、Rth=(nx−nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
【0014】
A.位相差フィルムの材料
本発明の位相差フィルムは、下記一般式(I)で表される繰り返し単位および芳香環を有するマレイミド骨格を含む下記一般式(II)で表される繰り返し単位を有する共重合体を含む高分子フィルムを延伸して得られる。
【化4】

ここで、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基であり、好ましくはメチル基である。
【化5】

ここで、Rは上記一般式(I)のRと同様である。RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基であり、好ましくはメチル基またはエチル基である。RおよびRが上記置換基を有することで、立体障害による反発力により、上記一般式(II)で表される繰り返し単位を後述の好適な立体配置とすることができる。Rは、水素原子を表す。Rは、水素原子または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基であり、好ましくはメチル基、エチル基または水素原子である。さらに好ましくはR、RおよびRから選ばれる隣り合う2つの基がベンゼン環を形成することによって、ナフチル環を形成する。該ナフチル環は置換基として、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基を有してもよい。なお、芳香環が3以上になると、可視光領域にまで吸収端波長が伸び、共重合体の着色が生じるため、好ましくない。
【0015】
上記芳香環は、好ましくは上記共重合体の主鎖に対して、直交配置される。本明細書において直交配置とは、該芳香環の平面が上記共重合体の主鎖方向に対して略直交となる配置をいう。上記直交配置とすれば、位相差発現性および波長分散の両方に優れた特性を有する位相差フィルムを得ることができる。より具体的には、共重合体に芳香環を導入すれば、得られる位相差フィルムの波長分散を小さくできるという効果が得られる一方、位相差は小さくなるという課題のあったところ、上記直交配置とすることで、より大きな位相差発現性を得ることができるので、十分な位相差発現性を確保しつつ、波長分散の小さい位相差フィルムを得ることができる。
【0016】
上記芳香環を有するマレイミド骨格の含有割合は、共重合体の全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは2〜30mol%、さらに好ましくは3〜20mol%である。このような範囲の共重合体を用いれば、位相差発現性に優れ、かつ波長分散の小さい位相差フィルムを得ることができる。
【0017】
上記一般式(II)で表される繰り返し単位を有する共重合体は、好ましくは下記一般式(IV)で表される繰り返し単位を有する。このような繰り返し単位を有する共重合体を用いれば、波長分散を小さくする効果を最大限に発揮できるので、芳香環を有するマレイミド骨格が少量であっても波長分散が小さく、かつ芳香環を有するマレイミド骨格が少量であるため位相差発現性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【化6】

ここで、RおよびRは、上記一般式(II)のRおよびRと同様である。Rは、水素原子または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基であり、好ましくはメチル基またはエチル基である。RおよびRをこのような置換基とすることで、芳香環が共重合体の主鎖に対して上記直交配置をとることができる。
【0018】
上記一般式(IV)で表される繰り返し単位の含有割合は、上記一般式(II)で表される繰り返し単位中、好ましくは80〜100mol%、さらに好ましくは90〜100mol%、より好ましくは95〜100mol%、最も好ましくは100mol%である。
【0019】
上記共重合体は、上記一般式(I)で表される繰り返し単位の無水マレイン酸部位が開環していてもよい。すなわち、上記共重合体は、上記一般式(I)で表される繰り返し単位、上記一般式(II)で表される繰り返し単位および下記一般式(III)で表される繰り返し単位を有し得る。このような共重合体を含む高分子フィルムを用いることにより、位相差発現性に優れ、光弾性係数が小さく、波長分散が小さいという特性に加えて、さらに耐湿性にも優れる位相差フィルムを得ることができる。
【化7】

ここで、Rは上記化学式(I)のRと同様である。RおよびRは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基であり、好ましくはメチル基またはエチル基である。好ましくは、上記一般式(II)のRおよびRは同一であり、好ましくは共にメチル基またはエチル基である。
【0020】
上記一般式(III)で表される繰り返し単位の含有割合は、上記一般式(I)で表される繰り返し単位と上記一般式(III)で表される繰り返し単位の合計量に対して、0mol%を超えて30mol%以下であり、好ましくは0mol%を超えて25mol%以下、より好ましくは0mol%を超えて20mol%以下である。上記一般式(III)で表される繰り返し単位が30mol%を超えて含まれる共重合体である場合、得られる位相差フィルムのガラス転移温度が100℃以下となり、耐熱性に劣るおそれがある。
【0021】
上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する共重合体は、任意の適切な方法により、製造され得る。製造方法としては、例えば、無水マレイン酸とアルキルビニルエーテルとの溶液重合が挙げられる。上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する共重合体は市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体であるInternational Specialty Products社製 商品名「GANTRETZ AN−149」が挙げられる。
【0022】
上記一般式(I)で表される繰り返し単位および上記一般式(II)で表される繰り返し単位を有する共重合体は、任意の適切な方法により、製造され得る。製造法としては、例えば、上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する共重合体とアミノ基を有する芳香族化合物とを酸触媒下で反応させる方法が挙げられる。該アミノ基を有する芳香族化合物は、好ましくは少なくともオルト位に炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基を有し、さらに好ましくは少なくともオルト位にメチル基またはエチル基を有する。該アルキル基が炭素数5以上の置換基の場合、上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する共重合体に上記アミノ基を有する芳香族化合物を導入する際の反応性に劣り、好ましくない。なお、上記共重合体が上記一般式(IV)で表される繰り返し単位を有する場合も、該製造方法により製造され得る。
【0023】
上記一般式(III)で表される繰り返し単位をさらに有する共重合体は、上記一般式(I)で表される繰り返し単位のマレイン酸部位を開環(エステル化)させることにより、製造され得る。具体的には、上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する共重合体を、有機溶媒に溶解した後、アルキルアルコールを添加し、60〜65℃で還流させる。上記アルキルアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが挙げられる。上記アルキルアルコールの添加量を調整することにより、上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する共重合体のマレイン酸部位の開環度合い、すなわち上記一般式(I)で表される繰り返し単位と上記一般式(III)で表される繰り返し単位の含有比率を制御することができる。上記アルキルアルコールの添加量としては、上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する共重合体の無水マレイン酸部位に対して、好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは25mol%以下、最も好ましくは20mol%以下である。このような範囲の添加量とすれば、位相差が出やすく、耐熱性に優れ熱による位相差変化が小さく、さらに耐湿性にも優れる位相差フィルムを得ることができる。
【0024】
上記高分子フィルムは、任意の適切な成形加工法によって製造され得る。具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、粉末成形法、FRP成形法、キャスト法等が挙げられる。キャスト法により、上記共重合体をシート状に成形することが好ましい。得られるフィルムの平滑性を高め、良好な光学的均一性を得ることができるからである。
【0025】
上記高分子フィルムの厚みは、好ましくは40μm〜170μm、さらに好ましくは60μm〜130μm、より好ましくは70μm〜120μmである。
【0026】
B.位相差フィルムの製造方法
本発明の位相差フィルムは、上記高分子フィルムを延伸することによって製造され得る。具体例としては、横一軸延伸、自由端一軸延伸、固定端二軸延伸、固定端一軸延伸、逐次二軸延伸が挙げられる。好ましくは、自由端一軸延伸である。なお、本発明において一軸延伸を行った場合、得られる位相差フィルムの遅相軸方向は、延伸方向と同一である。
【0027】
上記高分子フィルムを延伸する温度(延伸温度)は、好ましくは100℃〜230℃であり、より好ましくは110℃〜210℃、さらに好ましくは115℃〜190℃である。上記延伸温度が100℃より低いと、高分子フィルムが破断してしまうおそれがある。上記延伸温度が230℃を超えると、高分子フィルムが溶融し始めるおそれがある。
【0028】
上記高分子フィルムを延伸する倍率(延伸倍率)は、好ましくは1.5倍以上5倍以下であり、さらに好ましくは1.5倍以上3倍以下である。1.5倍未満であると位相差発現性が悪くなるおそれがあり、5倍を超えて延伸すると高分子フィルムが破断するおそれがある。
【0029】
上記高分子フィルムを延伸する速度(延伸速度)は、好ましくは3〜9mm/secであり、さらに好ましくは5〜7mm/secである。
【0030】
C.位相差フィルムの特性
本発明の位相差フィルムは、nx>ny≧nzの屈折率分布を有する。すなわち、当該位相差フィルムは、1つの実施形態においてはnx>ny=nzの屈折率分布を有し、別の実施形態においてはnx>ny>nzの屈折率分布を有する。
【0031】
本発明の位相差フィルムの屈折率分布がnx>ny=nzを満足する場合、当該位相差フィルムのNz係数は、0.9を超えて1.1未満である。屈折率分布がnx>ny>nzを満足する場合、当該位相差フィルムのNz係数は、好ましくは1.1〜3.0であり、さらに好ましくは1.1〜2.0であり、特に好ましくは1.1〜1.7であり、最も好ましくは1.1〜1.5である。
【0032】
本発明の位相差フィルムの屈折率分布がnx>ny=nzを満足する場合、当該位相差フィルムのRe(550)は、好ましくは60nm以上、より好ましくは60〜200nmであり、さらに好ましくは70〜160nmであり、特に好ましくは90〜140nmである。なお、上記位相差フィルムのRth(550)は、Re(550)と実質的に等しい。
【0033】
本発明の位相差フィルムの屈折率分布がnx>ny>nzを満足する場合、当該位相差フィルムのRe(550)は、好ましくは60nm以上、より好ましくは60〜200nmであり、さらに好ましくは70〜160nmであり、特に好ましくは90〜140nmである。
【0034】
本発明の位相差フィルムの屈折率分布がnx>ny>nzを満足する場合、当該位相差フィルムのRth(550)は、好ましくは60nm以上、より好ましくは75〜250nmであり、さらに好ましくは90〜200nmであり、特に好ましくは110〜175nmである。
【0035】
本発明の位相差フィルムの厚みは、本発明の効果を奏する限りにおいて、任意の適切な厚みが採用され得る。代表的には、厚みは、所望の位相差に応じて変化し得る。具体的には、厚みは、好ましくは20μm〜110μm、さらに好ましくは30μm〜90μm、特に好ましくは50μm〜70μmである。本発明の位相差フィルムは、位相差発現性に優れるので、このように厚みの薄い位相差フィルムを用いても所望の位相差を得ることができ、薄型が望まれる液晶表示装置に好適な位相差フィルムとなり得る。
【0036】
本発明の位相差フィルムの波長分散Re(480)/Re(550)は、Re(480)/Re(550)<1.01であり、好ましくは0.8≦Re(480)/Re(550)<1.01である。また、波長分散Re(550)/Re(650)は、Re(550)/Re(650)<1.011であり、好ましくは0.8≦Re(550)/Re(650)<1.011である。このような範囲の位相差フィルムを用いることにより、色味表示に優れた液晶表示装置を提供することができる。
【0037】
本発明の位相差フィルムの光弾性係数の絶対値C(550)(m/N)は、好ましくは40×10−12/N以下であり、さらに好ましくは30×10−12/N以下であり、最も好ましくは2×10−12〜20×10−12/Nである。このような範囲の位相差フィルムを用いることにより、バックライトの熱による表示ムラのない画像表示装置を得ることができる。
【0038】
本発明の位相差フィルムのガラス転移温度は、好ましくは120℃〜200℃であり、さらに好ましくは130℃〜180℃であり、より好ましくは135℃〜160℃である。本発明の位相差フィルムは、このようにガラス転移温度が高く、耐熱性に優れており、高温環境下における使用にも耐え得る。
【0039】
D.偏光板
本発明の偏光板は、本発明の位相差フィルムを偏光子保護フィルムとして含む。好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子と本発明の位相差フィルムとを含む偏光板であって、該偏光子は接着層を介して該位相差フィルムに接着される。
【0040】
上記偏光子としては、自然光又は偏光を直線偏光に変換するものであれば、適切なものが採用され得る。上記偏光子は、好ましくは、ヨウ素又は二色性染料を含有するポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする延伸フィルムである。上記偏光子の厚みは、通常、5μm〜50μmである。
【0041】
上記接着層は、隣り合う部材の面と面とを接合し、実用上十分な接着力と接着時間で、一体化させるものであれば、任意の適切なものが選択され得る。上記接着層を形成する材料としては、例えば、接着剤、粘着剤、アンカーコート剤が挙げられる。上記接着層は、被着体の表面にアンカーコート剤層が形成され、その上に接着剤層または粘着剤層が形成されたような多層構造であってもよいし、肉眼的に認知できないような薄い層(ヘアーラインともいう)であってもよい。偏光子の一方の側に配置された接着層と他方の側に配置された接着層は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
上記偏光板の、偏光子と位相差フィルムと貼着する角度は、目的に応じて、適宜、設定され得る。上記偏光板は、例えば、円偏光板として用いられる場合は、上記偏光子の吸収軸方向と上記位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、好ましくは25°〜65°であり、さらに好ましくは35°〜55°である。なお、円偏光板として用いられる場合の位相差フィルムの面内位相差は、好ましくは、可視光の波長の約1/4である。視野角拡大フィルムとして用いられる場合は、上記偏光板は、上記偏光子の吸収軸方向と上記位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、実質的に平行又は実質的に直交である。本明細書において「実質的に平行」とは、偏光子の吸収軸方向と位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、0°±10°の範囲を包含し、好ましくは0°±5°である。「実質的に直交」とは、偏光子の吸収軸方向と位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、90°±10°の範囲を包含し、好ましくは90°±5°である。
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例には限定されない。評価は以下のようにして行った。
【0044】
(1)位相差値(Re、Rth):
位相差フィルムの屈折率nx、nyおよびnzを、自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、自動複屈折計KOBRA−WPR)により計測し、面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rthを算出した。測定温度は23℃、測定波長は550nmであった。波長分散特性に関しては、480、550および650nmで測定した。
(2)光弾性係数の絶対値(C(550))の測定方法:
分光エリプソメーター[日本分光(株)製 製品名「M−220」]を用いて、サンプル(サイズ2cm×10cm)の両端を挟持して応力(5〜15N)をかけながら、サンプル中央の位相差値(23℃/波長590nm)を測定し、応力と位相差値の関数の傾きから算出した。
(3)ガラス転移温度:
示差走査熱量計[Seiko Instrument社製 製品名「DSC−6200」]を用いて、JIS K 7121(1987)(プラスチックの転移温度の測定方法)に準じた方法により求めた。具体的には、3mgの粉末サンプルを、窒素雰囲気下(ガスの流量;80ml/分)で昇温(加熱速度;10℃/分)させて2回測定し、2回目のデータを採用した。熱量計は、標準物質(インジウム)を用いて温度補正を行なった。
【0045】
〔参考例1〕:無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体の作製
原料として無水マレイン酸37.6g、メチルビニルエーテル24g、ラウリルパーオキサイド0.96gおよびベンゼン560gを準備した。攪拌装置、還流式冷却器および内部温度調製装置を有する1Lの反応缶に無水マレイン酸37.6gとベンゼン496gを入れ、無水マレイン酸のベンゼン溶液を調製した。その後、内部温度を80℃にまで昇温し、80℃を維持しながら、攪拌下に反応器底部よりメチルビニルエーテル0.8gを10分間かけて連続的に供給して無水マレイン酸およびメチルビニルエーテルの均一なベンゼン溶液を調製した。続いて、上記メチルビニルエーテルを同様の方法・速度で供給しながら、反応缶の他の供給口より、ラウリルパーオキサイド0.96gをベンゼン64gに溶解した重合開始剤溶液を5時間かけて連続的に供給した。メチルビニルエーテルおよび重合開始剤溶液の供給が終了した後、状態を維持したままさらに1時間放置し、その後冷却して反応を終えた。遠心分離器および乾燥器を用いて反応液の脱溶媒を行い、白色粉体30.8gを得た。
【0046】
〔参考例2〕:無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体イミド化物の作製
参考例1で得られた無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体60gの15重量%シクロペンタノン溶液を調製し、そこに1−アミノ−2−メチル−ナフタレン2gを加えて、70℃で1.5時間攪拌した。続いて、p−トルエンスルホン酸−水和物1.2gおよびN−メチルピロリドン7gを添加して、145℃で加熱攪拌しながら蒸発するシクロペンタノンと共に生成する水を留去した。145℃で4時間加熱攪拌後、反応を終了させ、室温まで冷却させた後、メタノールにて再沈殿精製した。沈殿物をろ取し、乾燥後、極薄く茶色がかった樹脂固体(a)55gを得た。
【0047】
〔参考例3〕
参考例1で得られた無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体60gの15重量%シクロペンタノン溶液を調製し、そこに1−アミノ−2−メチル−ナフタレン3.5gを加えて、70℃で1.5時間攪拌した。続いて、p−トルエンスルホン酸−水和物2.1gおよびN−メチルピロリドン12.3gを添加して、145℃で加熱攪拌しながら蒸発するシクロペンタノンと共に生成する水を留去した。145℃で4時間加熱攪拌後、反応を終了させ、室温まで冷却させた後、メタノールにて再沈殿精製した。沈殿物をろ取し、乾燥後、極薄く茶色がかった樹脂固体(b)54gを得た。
【0048】
〔参考例4〕
参考例1で得られた無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体60gの15重量%シクロペンタノン溶液を調製し、そこに1−アミノ−2−メチル−ナフタレン0.5gを加えて、70℃で1.5時間攪拌した。続いて、p−トルエンスルホン酸−水和物0.6gおよびN−メチルピロリドン3.5gを添加して、145℃で加熱攪拌しながら蒸発するシクロペンタノンと共に生成する水を留去した。145℃で4時間加熱攪拌後、反応を終了させ、室温まで冷却させた後、メタノールにて再沈殿精製した。沈殿物をろ取し、乾燥後、極薄く茶色がかった樹脂固体(c)51gを得た。
【実施例1】
【0049】
参考例2で得られた樹脂個体(a)を10重量%で含有するアセトン溶液を調製し、ガラス板上にキャスト法によりフィルム状に供給した後、自然乾燥を0.5時間行った。その後、得られたフィルムをガラス板から剥離し、70℃の熱オーブンによりアセトン濃度が3%以下になるまで乾燥し、高分子フィルムを得た。得られた高分子フィルムの厚さは85μmであった。得られた高分子フィルムを幅80mm×長さ120mmの短冊状に切断し、延伸装置にて長さ方向に延伸温度140℃、引張速度6mm/secで2倍に自由端1軸延伸を行い、位相差フィルムAを得た。上記位相差フィルムAの特性を表1に示す。
【実施例2】
【0050】
樹脂固体を参考例3で得られた樹脂個体(b)とした以外は、実施例1と同様の条件及び方法で、位相差フィルムBを作製した。上記位相差フィルムBの特性を表1に示す。
【0051】
〔比較例1〕
樹脂固体を参考例4で得られた樹脂個体(c)とした以外は、実施例1と同様の条件及び方法で、位相差フィルムCを作製した。上記位相差フィルムCの特性を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示した結果から明らかなように、本願発明の位相差フィルムは、優れた位相差発現性を有し、Re(480)/Re(550)で表される波長分散が小さいことが確認された。また、上記高分子フィルムの光弾性係数の絶対値(C(550))が小さいことから、得られた位相差フィルムは位相差ムラが小さい。さらに、本発明の位相差フィルムは、nx>ny=nzで表される関係を満たすいわゆるポジティブAプレートとして機能することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の位相差フィルムは、各種画像表示装置(液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等)に好適に用いることができる。より具体的には、液晶表示装置のλ/4板、λ/2板、視野角拡大フィルム、フラットパネルディスプレイ用反射防止フィルム、偏光子保護フィルムとして用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位と芳香環を有するマレイミド骨格を含む下記一般式(II)で表される繰り返し単位とを有し、該芳香環を有するマレイミド骨格の含有割合が共重合体の全繰り返し単位の合計に対して2〜30mol%である、共重合体を含む高分子フィルムを延伸して得られる、位相差フィルム
【化1】

ここで、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基を表し、
【化2】

ここで、Rは上記一般式(I)のRと同様であり、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基を表し、Rは、水素原子を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基を表し、R、RおよびRから選ばれる隣り合う2つの基がベンゼン環を形成することによって、ナフチル環を形成してもよく、該ナフチル環は置換基として、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基を有してもよい。
【請求項2】
前記共重合体が、下記一般式(III)で表される繰り返し単位をさらに有し、該下記一般式(III)で表される繰り返し単位の含有割合が、前記一般式(I)で表される繰り返し単位と下記一般式(III)で表される繰り返し単位の合計に対して、0mol%を超えて30mol%以下である、請求項1に記載の位相差フィルム。
【化3】

ここで、R、RおよびRは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基を表す。
【請求項3】
屈折率分布がnx>ny≧nzである、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
光弾性係数が40×10−12/N以下である、請求項1から3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
波長550nmにおける面内位相差(Re(550))が60nm以上である、請求項1から4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
波長480nmにおける面内位相差(Re(480))と波長550nmにおける面内位相差(Re(550))とがRe(480)/Re(550)<1.01の関係を満足する、請求項1から5のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項7】
厚さが、20μm〜110μmである、請求項1から6のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれかに記載の位相差フィルムを偏光子保護フィルムとして含む、偏光板。


【公開番号】特開2009−162996(P2009−162996A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−436(P2008−436)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】