説明

位相差フィルム

【課題】主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムであって、従来にない組成により、大きな位相差を実現できるとともに、製造時および使用時における外観上あるいは光学的な欠点の発生が抑制された位相差フィルムを提供する。
【解決手段】主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムであって、前記樹脂組成物は、前記位相差フィルムが示す位相差を増大させる位相差増加剤として、2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジン骨格を有する化合物を含み、波長589nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthが30nm以上である位相差フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなるフィルム(原フィルム)を延伸して得た延伸フィルムは、延伸により生じた高分子鎖の配向に基づく様々な光学特性を示す。このような延伸フィルムの一種に、高分子鎖の配向により生じる複屈折を利用した位相差フィルムがある。位相差フィルムは液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置に広く使用されるが、近年、画像表示装置の薄型化が進むにつれてその薄膜化が強く求められており、その要求に応えるためには、薄いながらも大きな位相差を示す位相差フィルムが望まれる。
【0003】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表されるアクリル樹脂は、高い光線透過率を有する一方で光弾性率が低いなど、その光学特性に優れるとともに、機械的強度、成形加工性および表面硬度のバランスに優れており、位相差フィルムに用いる熱可塑性樹脂として好適である。しかしアクリル樹脂は、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂など、位相差フィルムとして一般的な他の熱可塑性樹脂に比べて、延伸による位相差が現れにくく、大きな位相差を示す位相差フィルムとすることが難しい。
【0004】
特開2008-9378号公報(特許文献1)には、ラクトン環構造を主鎖に有するアクリル樹脂を主成分とする位相差フィルムが開示されている。環構造の種類にもよるが、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含むことによって、位相差フィルムが示す位相差が向上する。また、環構造によってアクリル樹脂のガラス転移温度が向上するため、耐熱性に優れる位相差フィルムとなる。特許文献1に従えば、アクリル樹脂における環構造の含有率を増加させることによって、より大きな位相差を示す位相差フィルムが得られる。しかし、環構造が主鎖に入ることでアクリル樹脂が「硬く」なり、原フィルムの十分な延伸が難しくなるため、環構造の導入のみによる位相差の向上には限界がある。また、硬くなった位相差フィルムは、折り曲げ時に破損したり、取扱時に裂けたりしやすく、いたずらに環構造の含有率を増加させることはできない。
【0005】
ところで特許文献1には、位相差フィルムが示す位相差のさらなる向上を目的として、アクリル樹脂が示す複屈折性の符号と同じ符号を示す低分子物質を位相差フィルムに加えてもよいことが記載されており、低分子物質として、スチルベン、ビフェニル、ジフェニルアセチレン、液晶物質が例示されている([0115]、[0116])。このように、位相差増加剤の添加によっても、位相差フィルムが示す位相差の向上が期待される。
【0006】
特開2006-241197号公報(特許文献2)には、このような位相差増加剤として、2以上の芳香環を含有する低分子化合物が記載されており、低分子化合物として、ビフェニル、ジヒドロキシビフェニル、ジフェニルスルフィド、ビスフェノール、スチルベン、ジフェニルアセチレン、アゾベンゼンなどが例示されている([0050])。
【0007】
しかし、これらの低分子化合物は、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題があり、特に、溶融成形によって原フィルムを形成する場合など、高温での成形時に発泡、ブリードアウトなどの問題が生じやすい。また、製造後、位相差フィルムとして使用する際にも、例えば画像表示装置における光源近傍に配置された場合など、熱が加えられる場合に、低分子化合物がブリードアウトすることで外観上あるいは光学的な欠点が生じやすい。
【特許文献1】特開2008−9378号公報
【特許文献2】特開2006−241197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムであって、従来にない組成により、大きな位相差を実現できるとともに、製造時および使用時における外観上あるいは光学的な欠点の発生が抑制された位相差フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の位相差フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂(A)を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムであって、前記樹脂組成物は、前記位相差フィルムが示す位相差を増大させる位相差増加剤として、2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジン骨格を有する化合物(B)を含み、波長589nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthが30nm以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の位相差フィルムは、位相差フィルムが示す位相差を増大させる位相差増加剤として、2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジン骨格を有する化合物(B)を含むことにより、大きな位相差を示すとともに、製造時および使用時における外観上あるいは光学的な欠点の発生が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[アクリル樹脂(A)]
樹脂(A)は、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂である限り、特に限定されない。
【0012】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を構成単位として有する樹脂である。アクリル樹脂が有する全構成単位に占める(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位の割合の合計は、通常50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。なお、ラクトン環構造など、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を主鎖に有する場合、全構成単位に占める(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位の割合と、環構造の含有率との合計が50重量%以上であればよい。
【0013】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの各(メタ)アクリル酸エステルの重合により形成される構成単位である。樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、これらの構成単位を2種以上有してもよい。樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸メチル単位を有することが好ましく、この場合、位相差フィルムの光学特性および表面の硬度が向上する。
【0014】
環構造は、例えばラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造およびN−置換マレイミド構造から選ばれる少なくとも1種である。これらの環構造は、樹脂(A)のガラス転移温度を上昇させ、位相差フィルムの耐熱性を向上させる。また、置換基の種類など、その具体的な構造によっては、位相差フィルムが示す位相差を増大させる。特に、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造は、樹脂(A)の固有複屈折を正に増大させ、位相差フィルムが示す位相差を正に増大させやすい。
【0015】
環構造は、環構造としての安定性に優れること、また、光学特性に優れる位相差フィルムとなることから、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。
【0016】
樹脂(A)が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば4〜8員環であってもよいが、環構造としての安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば特開2004-168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体(前駆体を環化縮合反応させることで、ラクトン環構造を主鎖に有する樹脂が得られる)の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応によって高いラクトン環含有率を有する樹脂が得られること、メタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から、以下の式(2)に示す構造が好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
式(2)において、R6、R7およびR8は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。有機残基は酸素原子を含んでもよい。
【0019】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0020】
ラクトン環構造は、分子鎖内に水酸基およびエステル基を有する前駆体を脱アルコール環化縮合させて形成できる。式(2)に示すラクトン環は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)との共重合体を形成した後、当該共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させることで形成できる。このとき、R6はH、R7およびR8はCH3である。
【0021】
樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率は特に限定されないが、通常10〜70重量%であり、20〜60重量%が好ましい。また、当該含有率は、25〜55重量%、30〜55重量%になるほど、さらに好ましい。
【0022】
樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率は、ダイナミックTG法により、以下のようにして求めることができる。最初に、ラクトン環構造を有する樹脂(A)に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃の間の重量減少率を測定して、得られた値を実測重量減少率(X)とする。150℃は、樹脂(A)に残存する水酸基およびエステル基が環化縮合反応を開始する温度であり、300℃は、樹脂(A)の熱分解が始まる温度である。これとは別に、前駆体である重合体に含まれる全ての水酸基が脱アルコール反応を起こしてラクトン環が形成されたと仮定して、その反応による重量減少率(即ち、前駆体の脱アルコール環化縮合反応率が100%であったと仮定した重量減少率)を算出し、理論重量減少率(Y)とする。理論重量減少率(Y)は、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率から求めることができる。なお、前駆体の組成は、樹脂(A)の組成から導くことが可能である。次に、式[1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))]×100(%)により、樹脂(A)の脱アルコール反応率を求める。樹脂(A)では、求めた脱アルコール反応率の分だけラクトン環構造が形成されていると考えられる。そこで、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率に、求めた脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の重量に換算することで、樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率を求めることができる。
【0023】
一例として、後述の製造例1で作製した樹脂(A)の脱アルコール反応率を求める。脱アルコール反応により生成するメタノールの分子量が32であり、前駆体(MHMAとMMAとの共重合体)における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位であるMHMA単位の含有率は20重量%であり、MHMA単位の単量体換算の分子量が116であることから、上記樹脂(A)の理論重量減少率(Y)は、(32/116)×30.2=5.52重量%となる。一方、上記樹脂(A)の実測重量減少率(X)は、0.18重量%であったので、脱アルコール反応率は96.7%(=(1−0.18/5.52)×100(%))となる。
【0024】
次に、上記樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率を求める。前駆体におけるMHMA単位の含有率が20重量%、MHMA単位の単量体換算の分子量が116、脱アルコール反応率が96.7%、ラクトン環構造の式量が170であることから、上記樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率は、28.3重量%(=20×0.967×170/116)となる。
【0025】
樹脂(A)は、以下の式(3)に示す環構造を主鎖に有してもよい。
【0026】
【化3】

【0027】
式(3)におけるR9およびR10は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR11は存在せず、X1が窒素原子のとき、R11は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0028】
1が窒素原子のとき、式(3)に示す環構造は、グルタルイミド構造である。グルタルイミド構造を主鎖に有する樹脂(A)は、例えば(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0029】
1が酸素原子のとき、式(3)に示す環構造は、無水グルタル酸構造である。無水グルタル酸構造を主鎖に有する樹脂(A)は、例えば(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を、分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0030】
樹脂(A)は、以下の式(4)に示す環構造を主鎖に有してもよい。
【0031】
【化4】

【0032】
式(4)におけるR12およびR13は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR14は存在せず、X2が窒素原子のとき、R14は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0033】
2が窒素原子のとき、式(4)に示す環構造は、N−置換マレイミド構造である。N−置換マレイミド構造を主鎖に有する樹脂(A)は、例えばN−置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合して形成できる。
【0034】
2が酸素原子のとき、式(4)に示す環構造は、無水マレイン酸構造である。無水マレイン酸構造を主鎖に有する樹脂(A)は、例えば無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸エステルとを共重合して形成できる。
【0035】
樹脂(A)における式(3)、(4)に示す環構造の含有率は特に限定されないが、通常5〜90重量であり、10〜70重量%が好ましく、10〜60重量%がより好ましく、10〜50重量%がさらに好ましい。
【0036】
樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、その主鎖に環構造を有することから、通常110℃以上である。環構造の種類およびその含有率によっては、樹脂(A)のTgは、115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。
【0037】
110℃以上、場合によっては130℃以上、という樹脂(A)の高いTgは、樹脂(A)が主鎖に環構造を有することにより達成される。例えば、主鎖に環構造を有さない代表的なアクリル樹脂であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)のTgは約100℃である。即ち、樹脂(A)が主鎖に環構造を有することにより、耐熱性が向上した位相差フィルムとなる。このように耐熱性が向上した位相差フィルムは、光源などの発熱部近傍への配置が容易となるなど、画像表示装置に好適に使用できる。
【0038】
ところで、主鎖に環構造を有する樹脂(A)を含むことにより樹脂組成物のTgが高くなると、当該組成物を溶融押出によりフィルムとする場合に、その成形温度を高くする必要がある。成形温度が高くなると、組成物に含まれる樹脂以外の物質、例えば位相差増加剤、のブリードアウトが生じやすい。しかし、位相差増加剤として化合物(B)を含む本発明の位相差フィルムでは、その溶融成形時にも位相差増加剤のブリードアウトが抑制されるため、外観上あるいは光学的な欠点が少なくなる。
【0039】
樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位以外の構成単位を有していてもよく、このような構成単位は、例えばスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、メタリルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレンなどの各単量体の重合により形成される構成単位である。樹脂(A)は、これらの構成単位を2種以上有してもよい。
【0040】
樹脂(A)は、紫外線吸収能を有する構成単位(UVA単位)を有していてもよい。この場合、位相差フィルムの紫外線吸収能が向上する。また、UVA単位の構造によっては、樹脂(A)と化合物(B)との相溶性が向上する。
【0041】
UVA単位の起源となる単量体(C)は特に限定されず、例えば、重合性基を導入したベンゾトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体またはベンゾフェノン誘導体である。導入する重合性基は、樹脂(A)が有する構成単位に応じて適宜選択できる。
【0042】
単量体(C)の具体例は、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ)エチルフェニル−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学製、商品名RUVA−93)、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ)フェニル−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メタクリロイルオキシ)フェニル−2H−ベンゾトリアゾールである。
【0043】
単量体(C)の上記とは別の具体例は、以下の式(5)、(6)、(7)により示されるトリアジン誘導体あるいは以下の式(8)により示されるベンゾトリアゾール誘導体である。
【0044】
【化5】

【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
【化8】

【0048】
樹脂(A)がUVA単位を含む場合、樹脂(A)における当該単位の含有率は20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。樹脂(A)におけるUVA単位の含有率が過度に大きくなると、位相差フィルムの耐熱性が低下する。
【0049】
樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば1000〜300000の範囲であり、5000〜250000の範囲が好ましく、10000〜200000の範囲がより好ましく、50000〜200000の範囲がさらに好ましい。
【0050】
樹脂(A)は公知の方法により製造できる。ラクトン環構造を主鎖に有する樹脂(A)は、例えば特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報、特開2007-63541号公報に記載の方法により製造できる。N−置換マレイミド構造を主鎖に有する樹脂(A)、無水グルタル酸構造を主鎖に有する樹脂(A)およびグルタルイミド構造を主鎖に有する樹脂(A)は、例えば特開2007-31537号公報、国際公開第2007/26659号、国際公開第2005/108438号に記載の方法により製造できる。無水マレイン酸構造を主鎖に有する樹脂(A)は、例えば特開昭57-153008号公報に記載の方法により製造できる。
【0051】
[化合物(B)]
化合物(B)の構造は、以下の式(9)に示す2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジン骨格を有する限り、特に限定されない。化合物(B)は、2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジンそのものであってもよいし、当該骨格を構成するフェニル基の水素原子が置換基によって置換された化合物でもよい。置換基が入る位置および置換基の構造によっては、樹脂(A)との相溶性がより高くなり、製造時および使用時における外観上あるいは光学的な欠点の発生がより抑制された位相差フィルムとなる。
【0052】
【化9】

【0053】
化合物(B)は、2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジン骨格を構成するフェニル基における少なくとも1つの水素原子が水酸基によって置換されている、換言すれば、2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジン骨格を構成するフェニル基の少なくとも1つがヒドロキシフェニル基である、ことが好ましい。このような化合物(B)は、樹脂(A)との相溶性が特に高い。
【0054】
2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジン骨格を構成するフェニル基の少なくとも1つがヒドロキシフェニル基である化合物(B)の具体的な一例を、以下の式(10)、(1)に示す。なお、式(1)に示す化合物の方が、式(10)に示す化合物よりも、樹脂(A)との相溶性が高い。
【0055】
【化10】

【0056】
【化11】

【0057】
式(10)におけるR15は、水素原子または炭素数1〜18のアルキル基もしくはアルキルエステル基である。
【0058】
式(1)におけるR1は、水素原子または式「−OR5」により示される基であり、R5は、水素原子または炭素数1〜18のアルキル基もしくはアルキルエステル基である。R2〜R4は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜18のアルキル基もしくはアルキルエステル基である。なお、アルキルエステル基は、式「−CH(−R16)C(=O)OR17」により示される基であることが好ましく、当該式において、R16は水素原子またはメチル基であり、R17はアルキル基である。本明細書におけるアルキル基は、直鎖であっても、分岐を有していてもよい。
【0059】
化合物(B)の分子量は特に限定されないが、600以上が好ましく、750以上がより好ましく、900以上がさらに好ましい。アクリル樹脂を含む樹脂組成物は、通常、溶融押出によってフィルムに成形されるが、化合物(B)の分子量が600以上、より好ましくは750以上、特に好ましくは900以上であることによって、高温での成形時ならびに位相差フィルムとしての使用時における化合物(B)のブリードアウトがさらに抑制され、ブリードアウトによる外観上あるいは光学的な欠点のより少ない位相差フィルムとなる。換言すれば、本発明の位相差フィルムが、樹脂組成物を溶融押出して得た原フィルムを延伸してなる位相差フィルムである場合、化合物(B)の分子量が600以上であることが好ましく、750以上がより好ましく、900以上が特に好ましい。
【0060】
本発明の位相差フィルムが2以上の化合物(B)を含む場合、位相差フィルムにおける含有率が最も大きな化合物(B)の分子量が上記範囲であることが好ましい。
【0061】
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは、樹脂(A)と化合物(B)とを含む樹脂組成物からなる。樹脂(A)と化合物(B)とを含む樹脂組成物から位相差フィルムを得る方法は特に限定されず、樹脂組成物を成形して得た原フィルムを延伸すればよい。
【0062】
原フィルムは、樹脂(A)と化合物(B)とを含む樹脂組成物に対して、溶融押出あるいはキャストなどの公知のフィルム成形手法を適用することで製造できる。原フィルムの延伸は、一軸延伸(自由端一軸延伸、固定端一軸延伸など)または二軸延伸(逐次二軸延伸、同時二軸延伸など)などの公知の延伸法に基づいて実施すればよい。
【0063】
本発明の位相差フィルムを構成する樹脂組成物について説明する。
【0064】
樹脂組成物における化合物(B)の含有率は特に限定されないが、通常、当該組成物が含む熱可塑性樹脂全体の重量を100重量部としたときに0.1〜10重量部であり、0.5〜5重量部が好ましく、0.7〜3重量部がより好ましい。
【0065】
樹脂組成物は、樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を含んでもよい。この場合、位相差フィルムが含む熱可塑性樹脂全体に占める樹脂(A)の割合は、通常60重量%以上であり、70重量%以上が好ましく、85重量%以上がより好ましい。
【0066】
樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィンポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン含有ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレンポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムあるいはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂、ASA樹脂などのゴム質重合体;などである。ゴム質重合体は、その表面に、樹脂(A)と相溶し得る組成のグラフト部を有することが好ましく、また、ゴム質重合体が粒子状である場合、その平均粒子径は、位相差フィルムとしたときの透明性向上の観点から、300nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。
【0067】
例示した熱可塑性樹脂のなかでも、樹脂(A)との相容性に優れることから、シアン化ビニル単量体に由来する構成単位と芳香族ビニル単量体に由来する構成単位とを有する共重合体が好ましい。当該共重合体は、例えばスチレン−アクリロニトリル共重合体または塩化ビニル樹脂である。
【0068】
樹脂組成物は、本発明の効果が得られる限り、樹脂(A)および化合物(B)以外の材料、例えば添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;難燃剤などである。樹脂組成物における添加剤の含有率は、例えば0〜5重量%であり、0〜2重量%が好ましく、0〜0.5重量%がより好ましい。
【0069】
本発明の位相差フィルムは、化合物(B)に基づき、大きな位相差を示す。具体的には、本発明の位相差フィルムにおける、波長589nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthは30nm以上であり、化合物(B)の種類およびその含有率によっては、50nm以上、100nm以上、さらには150nm以上となる。なお、厚さ方向の位相差Rthが正であることから、本発明の位相差フィルムは正の位相差フィルムである。
【0070】
本発明の位相差フィルムにおける、波長589nmの光に対する厚さ方向の位相差Rth(フィルムの厚さ100μmあたり)は、例えば50nm以上であり、化合物(B)の種類およびその含有率によっては、100nm以上、さらには150nm以上となる。
【0071】
本発明の位相差フィルムにおける、波長589nmの光に対する面内位相差Reは、例えば30nm以上であり、化合物(B)の種類およびその含有率によっては、50nm以上、100nm以上、さらには150nm以上となる。
【0072】
本発明の位相差フィルムは、主鎖に環構造を有する樹脂(A)に基づき、110℃以上の高いガラス転移温度(Tg)を通常有する。樹脂(A)における環構造の種類およびその含有率ならびに位相差フィルムにおける樹脂(A)の含有率によっては、位相差フィルムのTgは115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。
【0073】
本発明の位相差フィルムは、用途に応じて、他の光学部材と組み合わせて用いてもよい。
【0074】
本発明の位相差フィルムの用途は特に限定されず、従来の位相差フィルムと同様の用途(例えば、LCD、OLEDなどの画像表示装置)に使用が可能である。
【0075】
具体的には、本発明の位相差フィルムは、LCDの光学補償部材として好適である。例えば、STN型LCD、TFT−TN型LCD、OCB型LCD、VA型LCD、IPS型LCDなどの各種LCDの位相差フィルム、光学補償フィルム、偏光板との積層フィルム、偏光板光学補償フィルムに好適に使用できる。本発明の位相差フィルムの好ましい光学特性は、使用する液晶の表示モードによって異なる。
【0076】
また、本発明の位相差フィルムは、LCDの偏光板に用いる偏光子保護フィルムとして好適である。
【0077】
本発明の位相差フィルムは、例えば、VA型LCDなどにおいて、厚さ方向の位相差Rthが大きい正の位相差フィルムが必要な場合に、特に有効である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0079】
最初に、本実施例において作製した樹脂(A)、原フィルムおよび位相差フィルムの評価方法を示す。
【0080】
[重合時の重合反応率および中間体の組成分析]
重合により樹脂(A)を作製する際の重合反応率、および環化縮合反応前の中間体における2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)単位の含有率は、重合溶液に含まれる未反応の単量体の量をガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC17A)により測定することで評価した。
【0081】
[樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率]
樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率は、上述した計算方法により求めた。当該方法に用いるパラメータである実測重量減少率(X)は、ダイナミックTG測定により、以下のようにして求めた。
【0082】
作製した樹脂(A)のペレットまたはペレットとする前の重合溶液を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させた後(あるいはTHFで希釈した後)、過剰のヘキサンまたはメタノールを用いて樹脂(A)を沈殿させた。次に、沈殿物を真空乾燥(圧力1.33hPa、80℃、3時間以上)して揮発成分を除去し、得られた白色固体状の樹脂に対して以下の測定条件でダイナミックTG測定を行い、その実測重量減少率(X)を求めた。
測定装置:リガク製、Thermo Plus 2 TG-8120 Dynamic TG
試料重量:5〜10mg
昇温速度:10℃/分
雰囲気:窒素フロー(200ml/分)下
測定方法:階段状等温制御法(60〜500℃の間で、重量減少速度値を0.005%
/秒以下として制御)
【0083】
[樹脂(A)の重量平均分子量]
樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、以下の測定条件に従って求めた。
測定システム:東ソー製GPCシステムHLC-8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー製、TSK guardcolumn SuperHZ-L)、分離カラム(東ソー製、TSK Gel Super HZM-M)、2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー製、TSK gel SuperH-RC)
【0084】
[原フィルムのガラス転移温度]
原フィルムのガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0085】
[位相差フィルムの位相差]
波長589nmの光に対する位相差フィルムの面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthは、位相差測定装置(王子計測機器製、KOBRA-WR)を用いて求めた。具体的には、測定項目として入射角依存性(単独N計算)を選択し、傾斜中心軸を遅相軸に、入射角を40°として、アッベ屈折率計で測定したフィルムの平均屈折率、膜厚dを入力して測定した。位相差フィルムの膜厚dは、デジマチックマイクロメータ(ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0086】
位相差フィルムにおける面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthは、それぞれ、式Re=(nx−ny)×dおよび式Rth=[(nx+ny)/2−nz]×dにより示される。ここで、nxは位相差フィルムの面内における遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率、nyは位相差フィルムの面内における進相軸方向(フィルム面内におけるnxと垂直な方向)の屈折率、nzは位相差フィルムの厚さ方向の屈折率、dは位相差フィルムの厚さ(nm)である。
【0087】
[位相差フィルムの濁度変化量]
位相差フィルムの濁度の変化量を、以下のように評価した。最初に、得られた位相差フィルムの一部(5cm×5cm)を切り出し、切り出したフィルムの濁度を濁度計(日本電色工業製、NDH-1001DP)を用いて測定し、測定した値を初期値とした。次に、切り出したフィルムを100℃に保持した熱風乾燥機(タバイ製)内に200時間放置した後、放置後のフィルムの濁度を再度測定して、初期値からの変化量を求めた。位相差フィルムの濁度が変化する要因として、熱による位相差増加剤のブリードアウトが考えられる。
【0088】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた、内容積30Lの反応容器に、40重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、重合溶媒として50重量部のトルエン、ならびに酸化防止剤として0.025重量部のアデカスタブ2112(ADEKA製)および0.025重量部のn−ドデシルメルカプタンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)を添加するとともに、0.10重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0089】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として0.05重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-8)を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。これに続き、オートクレーブにより重合溶液を240℃で30分間加熱して、環化縮合反応をさらに進行させた。
【0090】
次に、このようにして得た重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。脱揮時には、第1ベントの後から、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を0.02kg/時の注入速度で注入し、第3ベントの後から、イオン交換水を0.01kg/時の注入速度で注入した。
【0091】
酸化防止剤・失活剤混合溶液には、2.3重量部のチバスペシャリティケミカルズ製Irganox1010、2.3重量部のADEKA製アデカスタブAO−412Sおよび10重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学工業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)をトルエン86重量部に溶解させた溶液を用いた。
【0092】
この一連の操作により、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂(A)のペレット(A−1)が得られた。得られたペレットは透明であり、その重量平均分子量は148000であった。
【0093】
(製造例2)
製造例1で作製したペレット(A−1)97重量部と、化合物(B)として2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジン(アルドリッチ製、分子量309)3重量部とをドライブレンドし、20mmφのスクリューを有する二軸押出機を用いてバレル温度250℃で溶融混練して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂(A)と化合物(B)との樹脂組成物からなる透明なペレット(A−2)を得た。
【0094】
(製造例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた、内容積1000Lの反応釜容器に、30重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、15重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、5重量部のメタクリル酸n−ブチル(BMA)、重合溶媒として50重量部のトルエンおよび酸化防止剤として0.025重量部のアデカスタブ2112(ADEKA製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)を添加するとともに、0.7重量部のトルエンに0.06重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを溶解させた溶液を6時間かけて滴下しながら、約105〜111℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。熟成後の重合反応率は96.2%であり、この時点で得られた中間体におけるMHMA単位の含有率は30.2重量%であった。
【0095】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として0.1重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-8)を加え、約85〜105℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。これに続き、オートクレーブにより重合溶液を240℃で30分間加熱して、環化縮合反応をさらに進行させた。
【0096】
次に、このようにして得た重合溶液を、多管式熱交換機により220℃にまで昇温した後、バレル温度250℃、回転速度170rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で15kg/時の処理速度で導入し、環化縮合反応のさらなる進行と脱揮とを行った。このとき、第1ベントの後から、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を0.46kg/時の注入速度で注入した。
【0097】
酸化防止剤・失活剤混合溶液には、0.8重量部のチバスペシャリティケミカルズ製Irganox1010、0.8重量部のADEKA製アデカスタブAO−412Sおよび9.8重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学工業製、ニッカオクチクス亜鉛18%)をトルエン88.6重量部に溶解させた溶液を用いた。
【0098】
この一連の操作により、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂(A)のペレット(A−3)が得られた。得られたペレットは透明であり、その重量平均分子量は128000であった。
【0099】
(製造例4)
製造例3における、二軸押出機を用いた環化縮合反応のさらなる進行および脱揮の際に、当該押出機の第2ベントの後から、化合物(B)としてTINUVIN477(チバスペシャリティケミカルズ製、有効成分80重量%)75重量部と、トルエン25重量部とからなる溶液を0.52kg/時の注入速度で注入した以外は、製造例3と同様にして、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂(A)と化合物(B)との樹脂組成物からなる透明なペレット(A−4)を得た。ペレット(A−4)における化合物(B)の含有率は、その注入速度から計算して2重量%である。
【0100】
以下の式(11)〜(13)にTINUVIN477の成分を示す。TINUVIN477では、式(11)に示す化合物が主成分であり、その分子量は958である。なお、本明細書における主成分とは、含有率が最も大きな成分のことであり、当該成分の含有率は通常50重量%以上である。
【0101】
【化12】

【0102】
【化13】

【0103】
【化14】

【0104】
(製造例5)
製造例3で作製したペレット(A−3)98重量部と、化合物(B)としてTINUVIN479(チバスペシャリティケミカルズ製)2重量部とをドライブレンドし、20mmφのスクリューを有する二軸押出機を用いてバレル温度250℃で溶融混練して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂(A)と化合物(B)との樹脂組成物からなる透明なペレット(A−5)を得た。
【0105】
以下の式(14)にTINUVIN479の成分を示す。当該成分の分子量は677である。
【0106】
【化15】

【0107】
(製造例6)
製造例3で作製したペレット(A−3)98重量部と、特開2006-241197号公報(特許文献2)に記載されている「2以上の芳香環を含有する低分子化合物」としてアデカスタブLA−32(ADEKA製、芳香性を有する縮合環としてベンゾトリアゾール環を含む、分子量225)2重量部とをドライブレンドし、20mmφのスクリューを有する二軸押出機を用いてバレル温度250℃で溶融混練して、透明なペレット(A−6)を得た。
【0108】
(実施例1)
製造例2で作製したペレット(A−2)を熱プレスすることにより、厚さ160μmの未延伸フィルム(原フィルム)を作製した。得られた未延伸フィルムのTgは124℃であった。
【0109】
次に、得られた未延伸フィルムを97mm×97mmの正方形に切り出した後、切り出したフィルムをコーナーストレッチ式二軸延伸試験装置(東洋精機製作所製、X6−S)を用いて延伸した。具体的には、フィルムを試験装置にセットする際のチャック間距離を80mmとし、チャックにセットしたフィルムを、当該フィルムのTg+15℃である139℃で3分間予熱した後、100%/分の延伸速度で、縦方向、横方向の順に、それぞれの延伸倍率が2倍となるように逐次二軸延伸した。
【0110】
延伸完了後、チャックを止めてから20秒経過した後に、試験装置から速やかにフィルムを取りだして冷却し、厚さ40μmの位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムが示す位相差を、以下の表1に示す。
【0111】
(比較例1)
ペレット(A−2)の代わりに製造例1で作製したペレット(A−1)を用いた以外は、実施例1と同様にして、厚さ160μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムのTgは130℃であった。
【0112】
次に、得られた未延伸フィルムを実施例1と同様に逐次二軸延伸して、厚さ41μmの位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムが示す位相差を、以下の表1に示す。なお、逐次二軸延伸時の延伸温度は145℃(実施例1と同様に、未延伸フィルムのTg+15℃)とした。
【0113】
(実施例2)
製造例4で作製したペレット(A−4)を、単軸押出機(シリンダー径20mm)を用いて以下の条件で溶融押出成形し、厚さ250μmの未延伸フィルムを作製した。得られた未延伸フィルムのTgは127℃であった。なお、得られた未延伸フィルムはロール状であり、当該フィルムにおけるロールの幅方向をTD方向、ロールの伸長方向(フィルム面内においてTD方向と直交する方向)をMD方向とする。
シリンダー温度:260℃
ダイ:コートハンガータイプ、幅150mm、温度270℃
キャスティング:つや付き2本ロール、第1ロールおよび第2ロールともに105℃に保持
【0114】
未延伸フィルムを作製した後、キャスティングロール表面の状態を目視にて確認したが、付着物は確認されなかった。
【0115】
次に、得られた未延伸フィルムを、延伸速度を200%/分、延伸倍率をMD方向、TD方向ともに1.8倍とした以外は、実施例1と同様に逐次二軸延伸して、厚さ67μmの位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムが示す位相差および濁度変化量を、以下の表1に示す。なお、逐次二軸延伸時の延伸温度は142℃(実施例1と同様に、未延伸フィルムのTg+15℃)とした。
【0116】
(実施例3)
ペレット(A−4)の代わりに製造例5で作製したペレット(A−5)を用いた以外は実施例2と同様にして、厚さ250μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムのTgは130℃であった。
【0117】
未延伸フィルムを作製した後、キャスティングロール表面の状態を目視にて確認したが、付着物が僅かに確認された。
【0118】
次に、得られた未延伸フィルムを実施例2と同様に逐次二軸延伸して、厚さ68μmの位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムが示す位相差および濁度変化量を、以下の表1に示す。なお、逐次二軸延伸時の延伸温度は145℃(実施例1と同様に、未延伸フィルムのTg+15℃)とした。
【0119】
(比較例2)
ペレット(A−4)の代わりに製造例3で作製したペレット(A−3)を用いた以外は実施例2と同様にして、厚さ250μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムのTgは132℃であった。
【0120】
未延伸フィルムを作製した後、キャスティングロール表面の状態を目視にて確認したが、付着物は確認されなかった。
【0121】
次に、得られた未延伸フィルムを実施例2と同様に逐次二軸延伸して、厚さ71μmの位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムが示す位相差および濁度変化量を、以下の表1に示す。なお、逐次二軸延伸時の延伸温度は147℃(実施例1と同様に、未延伸フィルムのTg+15℃)とした。
【0122】
(比較例3)
ペレット(A−4)の代わりに製造例6で作製したペレット(A−6)を用いた以外は実施例2と同様にして、厚さ250μmの未延伸フィルムを得たが、当該フィルムを巻き取る前に、その表面の状態を目視にて確認したところ、低分子化合物のブリードアウトが原因と考えられる縞模様が無数に発生していた。また、キャスティングロールの表面の状態を目視にて確認したところ、ブリードアウトした低分子化合物と考えられる多数の付着物がロールの表面に確認された。
【0123】
【表1】

【0124】
表1に示すように、化合物(B)を含むことにより、作製した位相差フィルムの位相差が、面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthともに向上した。なお、ともに化合物(B)を含まない比較例2の位相差が比較例1よりも大きいのは、比較例2におけるラクトン環構造の含有率が比較例1よりも大きいためである。
【0125】
また、実施例2、3の濁度変化量に示すように、成膜後に加えられた熱によっても化合物(B)はほとんどブリードアウトしなかった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の位相差フィルムは、従来の位相差フィルムと同様に、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)をはじめとする画像表示装置に広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂(A)を含む樹脂組成物からなる位相差フィルムであって、
前記樹脂組成物は、前記位相差フィルムが示す位相差を増大させる位相差増加剤として、2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジン骨格を有する化合物(B)を含み、
波長589nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthが30nm以上である位相差フィルム。
【請求項2】
波長589nmの光に対する厚さ方向の位相差Rth(厚さ100μmあたり)が50nm以上である請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
波長589nmの光に対する面内位相差Reが30nm以上である請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記骨格を構成するフェニル基の少なくとも1つが、ヒドロキシフェニル基である請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記化合物(B)が、以下の式(1)に示す構造を有する請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【化1】

式(1)におけるR1は、水素原子または式「−OR5」により示される基であり、R5は、炭素数1〜18のアルキル基もしくはアルキルエステル基である。式(1)におけるR2〜R4は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜18のアルキル基もしくはアルキルエステル基である。
【請求項6】
前記化合物(B)の分子量が600以上である請求項1〜5のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項7】
前記化合物(B)の分子量が900以上である請求項1〜5のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項8】
前記樹脂組成物を溶融押出して得た原フィルムを延伸してなる請求項1〜7のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項9】
ガラス転移温度が110℃以上である請求項1〜8のいずれかに記載の位相差フィルム。

【公開番号】特開2010−139871(P2010−139871A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317246(P2008−317246)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】