説明

位相差部材及びその製造方法

【課題】 任意のリタデーション値を容易にクリアーに設定でき、リタデーションムラ及び外観のムラが実質的に生じない位相差部材を提供することを目的とする。
【解決手段】 透明高分子基材に屈折率異方性材料が含有されてなる位相差部材であって、屈折率異方性材料を溶解した塗工液に使用される溶剤に対する透明高分子基材の1H核の磁気緩和時間(T2)を調節することで、屈折率異方性材料と透明高分子基材の混在状態が適正化され、屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域と透明高分子基材の層領域とからなる位相差部材及びその製造方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に用いられる位相差部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は各種の表示に広く利用されているが、一般に、正面から観察される画像に比べて、液晶セルの法線から傾斜した方向から観察される画像の表示品位、主にコントラストが低下するという問題がある。
【0003】
この視角依存性の問題を改善するため、様々な技術が開発されてきており、その一つとして、コレステリック規則性の分子構造を有する位相差層(複屈折性を示す位相差層)を用い、このような位相差層を液晶セルと偏光板との間に配置することにより光学補償を行うようにした液晶表示装置が知られている(特許文献1及び2)。
また、円盤状化合物からなる位相差層(複屈折性を示す位相差層)を液晶セルと偏光板との間に配置することにより光学補償を行うようにした液晶表示装置も知られている(特許文献3)。
【0004】
上述したような位相差層を用いれば、正のCプレートとして作用するVA方式の液晶セルで生じる位相差と、負のCプレートとして作用する位相差層で生じる位相差とを相殺するように設計することにより、液晶表示装置の視角依存性の問題を改善することが可能である。しかしながら、位相差層には、位相差層と基材(例えば偏光層の保護フイルムであるTAC(セルローストリアセテート)フイルム)との間の密着性に問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、液晶と配向膜を熱処理して密着性を向上させることが提案されている(特許文献4)。しかし、この方法は、基材が耐湿熱性の低い基材(例えばTAC)の場合は、水分の影響で基材が伸び縮みし、その影響で液晶層が剥離することがあった。
【0006】
上述したような密着性の問題が生じない方法として、セルロースアセテートフイルムを製造する際に、セルロースアセテート溶液の中にリタデーション上昇剤を混合した上でセルロースアセテートフイルムを成膜する方法を適用することも知られている(特許文献5及び6)。しかし、この方法は、セルロースアセテートフイルム成膜時にリタデーション上昇剤を混入させる必要があるため、必然的に一つのロットの数量が大きくなってしまい、少ない数量に対して任意のリタデーションを得ることはできなかった。又、リタデーション上昇剤は通常疎水性であるため、当該位相差層をポリビニルアルコール等の親水性樹脂から成る偏光板と積層する際に接着性が低下するという問題もあった。
【0007】
以上の問題点を解決するものとして、本発明者らは、先に、高分子フイルム内に屈折率異方性材料が含有されてなる位相差フイルムであって、上記屈折率異方性材料が、上記高分子フイルムの厚み方向に濃度勾配を有していることを特徴とする位相差フイルムを提供した(特許文献7)。
【0008】
この位相差フイルムは、塗工液の量や濃度を変更することにより、位相差フイルムとしてのリタデーション値を変更することが可能であるため、任意のリタデーション値を有する位相差フイルムを小ロットでも容易に得ることができるといった利点を有する。また、基材上に、これとは別層である位相差層を接着して積層形成されるものではないので、基材フイルムからの位相差層の剥離といった問題が生じないため耐熱性や耐水性等の信頼性や耐アルカリ性(耐鹸化処理性)やリワーク性(繰り返し作業適性が高くなるという利点を有する。
【0009】
しかしながら、高分子フイルム内の屈折率異方性材料が厚み方向に濃度勾配を有するために、位相差フイルムとしてのリタデーション値の設定には試行錯誤が必要である上、目的とする数値にクリアーに設定することが困難だった。また、高分子フイルム内の屈折率異方性材料の濃度が高く緩やかな濃度勾配を持つ層領域と高分子基材のみの層領域との間に、屈折率異方性材料をより低濃度で含む中間層領域が存在し、位相差フイルムのリタデーションムラや位相差フイルムの外観のムラの原因となっていた。
【特許文献1】特開平3−67219号公報
【特許文献2】特開平4−322223号公報
【特許文献3】特開平10−312166号公報
【特許文献4】特開2003−207644公報
【特許文献5】特開2000−111914公報
【特許文献6】特開2001−249223公報
【特許文献7】国際公開WO2006−016641号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、国際公開WO2006−016641号パンフレットに記載された高分子フイルム内に屈折率異方性材料が含有されてなる位相差フイルムでは、高分子フイルム内の屈折率異方性材料が厚み方向に濃度勾配を有することが避けられないために、位相差フイルムとしてのリタデーション値の変更、目的とする数値にクリアーに設定することが困難であり、また、位相差フイルムにリタデーションムラや外観にムラが生じるという問題があった。
【0011】
本発明はこのような問題点を考慮してなされたものであり、位相差層を形成した場合に生じる基材からの位相差層の剥離等の問題が生じないことに加え、任意のリタデーション値を容易にクリアーに設定でき、しかもリタデーションムラ及びこれによる外観のムラが実質的に生じない位相差部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討したところ、位相差部材を製造する際に、屈折率異方性材料を溶解して透明高分子基材表面に塗布するために使用される溶剤に対して、一定の性質を示す透明高分子基材材料を選択した場合、屈折率異方性材料が透明高分子基材にほぼ均一に混在して実質的に濃度勾配を有さず、透明高分子基材と屈折率異方性材料とが均一に存在する層領域と透明高分子基材のみの層領域とが明瞭に区別できる構造のものが得られ、このような構造を有する位相差部材により上記の問題点が解決されることを見出して、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、透明高分子基材に屈折率異方性材料が含有されてなる位相差部材であって、屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域と透明高分子基材の層領域とからなることを特徴とする位相差部材及びその製造方法に関するものであって、屈折率異方性材料を溶解した塗工液に使用される溶剤に対する透明高分子基材の1H核の磁気緩和時間(T2)を調節することで、屈折率異方性材料と透明高分子基材の混在状態が適正化され、位相差部材の重要な特性であるリタデーションムラ及び外観のムラを大幅に改善することに成功して、優れた特性を有する位相差部材を提供するものである。
【0014】
本発明で使用される透明高分子基材の特性をより具体的に説明すると、塗工液に使用される溶剤に対する1H核の磁気緩和時間(T2)の40℃における値が28μSec未満であり、かつ80℃における値が40μSec以上である透明高分子基材を選択すると、上記したとおり、屈折率異方性材料が透明高分子基材にほぼ均一に混在して実質的に濃度勾配を有さず、TEMによる断面観察では、透明高分子基材と屈折率異方性材料とが均一に存在する層領域と透明高分子基材のみの層領域とが明瞭に区別できる構造のものが得られることがわかった。
【0015】
一方、同一の種類のポリマーからなる透明高分子基材を使用した場合であっても、塗工液に使用される溶剤に対する1H核の磁気緩和時間(T2)が上記の範囲でないものの場合には、透明高分子基材内での屈折率異方性材料が厚み方向に濃度勾配が生じてしまうため、TEMによる断面観察では、屈折率異方性材料をより低濃度で含む中間層領域が存在して、透明高分子基材と屈折率異方性材料が均一に存在する層領域と透明高分子基材のみの層領域とを明瞭に区別することができないものであった。
【0016】
このような現象が生じる理由は、未だ明確ではないが、上記特性の透明高分子基材を使用した場合には、屈折率異方性材料を溶解した塗工液が透明高分子基材に浸透するのではなく、透明高分子基材側から屈折率異方性材料を溶解した塗工液に溶出しているのではないかと推測される。
【0017】
上記した構造を持つ本発明の位相差部材を得るためには、屈折率異方性材料が溶媒に溶解した塗工液を透明高分子基材表面に塗布することにより、透明高分子基材の表面近傍で屈折率異方性材料と透明高分子基材が混在した状態となり、これにより屈折率異方性材料が透明高分子基材にほぼ均一に混在して実質的に濃度勾配を有さず、透明高分子基材と屈折率異方性材料とが均一に存在する層領域と透明高分子基材のみの層領域とが明瞭に区別できる構造の位相差部材を得ることができる。そして、上記塗工液の量や濃度を適宜設定することにより、位相差フイルムとしてのリタデーション値を容易にクリアーに設定することが可能である。
【0018】
本発明においては、上記屈折率異方性材料として、好ましくは液晶性を有する材料(液晶材料)が使用される。液晶材料は、透明高分子基材内に充填された際、液晶構造をとるため、効果的に透明高分子基材に対して効果を発揮することができる。液晶材料は、分子構造が棒状のものが良く、透明高分子基材の有する屈折率の規則性をより強化することができる。上記液晶材料は、重合性官能基を含むものであることが好ましく、液晶材料を透明高分子基材内に充填させた後、この重合性官能基により液晶材料を重合して高分子化することにより位相差部材とした後に、液晶材料が染み出すことを防止することが可能となり、安定した位相差部材とすることができる。
【0019】
本発明においては、屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域が透明高分子基材の表面側にあり、次いで実質的に屈折率異方性材料が存在せず透明高分子基材のみの層領域が存在する。
すなわち、本発明の位相差部材の断面をTEMで観察すると、透明高分子基材と屈折率異方性材料が均一に混在している層領域(屈折率異方性材料の透明高分子基材中での厚み方向の濃度勾配が実質的にない層領域)と、透明高分子基材のみが存在する層領域とで明確な境界を確認することができ、中間領域(遷移領域)は観察されない。
【0020】
本発明の位相差部材としては、前記厚み方向リタデーションが70〜300nmであるものが好ましい。なお、位相差部材の厚み方向のリタデーションRthは、以下の式で表される。
Rth[nm]={(nx+ny)/2−nz}×d
nx:基材面内方向における遅相軸方向の屈折率
ny:基材面内方向における進相軸方向の屈折率
nz:基材の厚み方向の屈折率
d :基材の厚み
【0021】
上記定義によるRthが正の値をとると云うことは、nx≧ny>nz、即ち基材の厚み方向の屈折率nzが基材面内における屈折率より小であることを意味する。これは、所謂負のCプレートと呼称される種類のものである。なお、屈折率異方性材料の電気双極モーメントベクトル(分極ベクトル)が基材面内に配向すれば、Rth>0の負のCプレートが得られる。一方、該電気双極モーメントを基材面と直交(厚み方向)に配向すれば、Rth<0(nz>nx≧ny)となる、所謂正のCプレートが得られる。本発明においては、使用材料と製造条件の選択により、正負いずれのCプレートも製造可能である。
【0022】
本発明の位相差部材の透明高分子基材中に厚み方向の濃度勾配が実質的にない状態で屈折率異方性材料が混在している層領域と透明高分子基材のみの層領域で構成され、明確な境界がある構造は、上記した適切な特性の透明高分子基材を選択すれば、塗工液の量や濃度に依存せずに形成され、その塗工液の量や濃度に対応した厚み及び濃度で屈折率異方性材料が混在している層領域が形成されるため、位相差部材としてのリタデーション値を変更することが容易であるだけでなく、要求する値にクリアーに設定することが可能となる。したがって、実質的に得られるリタデーション値の範囲が拡大され、かつクリアーであるため、視野角改善効果を大きく向上することができる。
【0023】
本発明の位相差部材は、JIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が1%以下であることが好ましく、位相差部材の波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフイルム面方向におけるバラツキがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の位相差部材の形状は特に限定されるものでは無く、使用する透明高分子基材の形状に応じて、フイルム、シート、板状等のものになる。フイルムの場合、膜厚としては、通常10〜200μm程度、特に20〜100μm程度のものが好適に用いられる。
【0025】
本発明の位相差部材は、2枚以上を互いに貼り合わせることもでき、また、位相差部材以外の光学機能層(例えば反射防止層)などと貼り合わせて他の機能を併せ持ったフイルムにすることも、偏光層と直接貼り合わせて保護フイルムの役割を兼ねたものとすることもできる。本発明の位相差部材や、それを使用した光学機能フイルム又は偏光フイルム等を使用した表示装置は、適切なリタデーションを有するよう設定できるため、信頼性が高く、表示品位に優れた表示装置とすることができる。
【0026】
さらに、本発明は、透明高分子基材の少なくとも一方の表面に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる塗工液を塗布する塗布工程と、上記塗布工程により塗布された塗工液中の屈折率異方性材料を透明高分子基材に混在させる混在工程と、上記塗布工程により塗布された塗工液の溶媒を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする位相差部材の製造方法を提供する。
【0027】
本発明においては、上記混在工程は乾燥工程中で行われるものであってもよい。乾燥温度等を調整することにより、乾燥中にも屈折率異方性材料と透明高分子基材の混在を進めさせることが可能な場合もあるからである。又、乾燥条件の制御により、屈折率異方性材料の混在の程度、更には屈折率異方性(リタデーション値)を制御可能な場合もある。
【0028】
さらに、本発明においては、上記乾燥工程の後に、透明高分子基材内に混在した屈折率異方性材料を固定化する固定化工程を有することが好ましい。例えば、屈折率異方性材料として使用した液晶材料が重合性官能基を有するものである場合等においては、液晶材料を透明高分子基材内に混在後、重合させて高分子化させることにより、製造後に液晶材料が表面から染み出すことを防止することが可能となり、位相差部材の安定性を向上させることができるからである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の位相差部材は、透明高分子基材に屈折率異方性材料が含有されてなる位相差部材であって、屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在して実質的に濃度勾配を有さず、透明高分子基材と屈折率異方性材料とが均一に存在する層と透明高分子基材のみの層とが明瞭に区別できる構造のものであり、位相差層を形成した場合に生じる基材からの位相差層の剥離等の問題が生じないことに加え、任意のリタデーション値を容易にクリアーに設定でき、しかもリタデーションムラ及び外観上のムラが実質的に生じない位相差部材である。さらに、屈折率異方性材料が透明高分子基材とほぼ均一に混在し、透明高分子基材と屈折率異方性材料の相互の濃度が一定で平衡状態にあるためか、経時的変化や温度変化などに対しても位相保障特性の変動がなく、安定した製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の位相差部材及びその製造方法について、以下にさらに詳しく説明する。
A.位相差部材
以下、本発明の位相差部材について、構成毎に詳細に説明する。
1.透明高分子基材
本発明で使用される透明高分子基材は、塗工液に使用される溶剤に対する1H核の磁気緩和時間(T2)の40℃における値が28μSec未満であり、かつ80℃における値が40μSec以上であることが必要である。このような透明高分子基材を使用したときには、屈折率異方性材料が透明高分子基材にほぼ均一に混在して実質的に濃度勾配を有さず、TEMによる断面観察では、透明高分子基材と屈折率異方性材料とが均一に存在する層領域と透明高分子基材のみの層領域とが明瞭に区別できる構造のものが得られる。
【0031】
本発明においては、透明高分子基材は、塗工液に使用される溶剤に対する性質が上述した特性を示すものであれば使用でき、一方、同一の種類のポリマーからなる透明高分子基材を使用した場合であっても、塗工液に使用される溶剤に対する1H核の磁気緩和時間(T2)が上記の範囲でないものの場合には、透明高分子基材内での屈折率異方性材料が厚み方向に濃度勾配を生じてしまい、本発明の位相差部材を得ることができない。
【0032】
本発明に用いられる透明高分子基材としては、上記した特性に加えて、屈折率に規則性を有するものであることが好ましい。本発明における屈折率の規則性とは、例えば(1)透明高分子基材が負のCプレートとして作用すること、(2)延伸した透明高分子基材が負のCプレート、正のCプレート、Aプレート、又は二軸性プレートの特性を有すること等を挙げることができる。特に、厚み方向のリタデーション(Rth)が20〜100nm、面内リタデーション(Re)が0〜300nmの透明高分子基材を用いるのが好ましい。
【0033】
本発明に用いられる透明高分子基材は、可撓性のないリジッド材でも良いが、可撓性を有するフレキシブル材を用いることが好ましい。フレキシブル材を構成する材料としては、セルロース系樹脂、ノルボルネン系ポリマー、シクロオレフィン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アモルファスポリオレフィン、変性アクリル系ポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル類などを例示することができるが、本発明においてはセルロース系樹脂およびノルボルネン系ポリマーを好適に用いることができる。
【0034】
上記ノルボルネン系ポリマーとしては、シクロオレフィンポリマー(COP)又はシクロオレフィンコポリマー(COC)を挙げることができるが、本発明においては、シクロオレフィンポリマーを用いることが好ましい。本発明に用いられる上記シクロオレフィンポリマーの具体例としては、例えば、JSR株式会社製、商品名:ARTONを挙げることができる。
【0035】
上記セルロース系樹脂としては、セルロースエステルを用いることが好ましく、さらに、セルロースエステル類の中では、セルロースアシレート類を用いることが好ましい。セルロースアシレート類としては、炭素数2〜4の低級脂肪酸エステルが好ましい。
【0036】
本発明においては、上記低級脂肪酸エステルの中でもセルロースアセテートを特に好適に用いることができる。セルロースアセテートとしては、平均酢化度が57.5〜62.5%(置換度:2.6〜3.0)のトリアセチルセルロース(TAC)を用いることが最も好ましい。ここで、酢化度とは、セルロース単位質量当りの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算により求めることができる。本発明に用いられる上記トリアセチルセルロースの具体例としては、例えば、コニカミノルタ社製のトリアセチルセルロースフイルム(商品名:KC4UYW)を挙げることができる。
【0037】
本発明に用いられる透明高分子基材は、一軸又は二軸の延伸処理が施されていても良い。延伸処理が施されていることにより、上記液晶が透明高分子基材中に混在し易くなる場合がある。また、単一の層だけではなく、同一、または異なった組成の複数の層が積層されたものでもよい。
【0038】
透明高分子基材の形状としては、フイルム、シート、板状等、特に限定されるものではなく、適宜選定できる。フイルムの場合、膜厚としては、通常10〜200μmの範囲内、特に20〜100μmの範囲内のものが好適に用いられる。
【0039】
また、厚み方向のリタデーションにおけるバラツキを小さくするには、用いられる透明高分子基材の波長550nmで測定した厚み方向のリタデーション(Rth)のフイルム面方向におけるバラツキがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることが好ましい。
【0040】
2.屈折率異方性材料
次に、本発明に用いられる屈折率異方性材料について説明する。本発明に用いられる屈折率異方性材料としては、透明高分子基材内に充填されることが可能であり、かつ複屈折性を有する材料であれば特に限定されるものではない。
【0041】
本発明においては、透明高分子基材内への充填のし易さから、分子量が比較的小さい液晶材料が好適に用いられる。具体的には、分子量が200〜1200の範囲内、特に400〜800の範囲内の液晶材料が好適に用いられる。なお、ここでいう分子量とは、後述する重合性官能基を有し、透明高分子基材内で重合される液晶材料については、重合前の分子量を示すものである。
【0042】
本発明においては、液晶材料として、ネマチック液晶性分子材料であることが好ましい。ネマチック液晶性分子材料であれば、透明高分子基材内の隙間に入り込んだ数〜数百のネマチック液晶性分子が、透明高分子基材中で配向するので、屈折率異方性をより確実に発現できるからである。特に、上記ネマチック液晶性分子がメソゲン両端にスペーサを有する分子であることが好ましい。メソゲン両端にスペーサを有するネマチック性液晶分子には柔軟性があるので、透明高分子基材内の隙間に入り込んだ際に白濁することを防止することができるからである。
【0043】
本発明に用いられる液晶材料は、分子内に重合性官能基を有するものが好適に用いられ、中でも三次元架橋可能な重合性官能基を有するものが好ましい。重合性官能基を有するものであれば、透明高分子基材内に充填された後、高分子化(架橋)することが可能となるので、位相差部材とした後に液晶材料が染み出す等の不具合を防止することが可能となり、安定して使用することができる位相差部材とすることができるからである。
【0044】
このような重合性官能基としては、特に限定されるものではなく、紫外線、電子線等の電離放射線、或いは熱の作用によって重合する各種重合性官能基が用いられる。これら重合性官能基の代表例としては、ラジカル重合性官能基、或いはカチオン重合性官能基等が挙げられる。さらにラジカル重合性官能基の代表例としては、少なくとも一つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例としては、置換基を有するもしくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。又、カチオン重合性官能基の具体例としては、エポキシ基等が挙げられる。その他、重合性官能基としては、例えば、イソシアネート基、不飽和三重結合等が挙げられる。これらの中でもプロセス上の点から、エチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が好適に用いられる。
【0045】
本発明においては、中でも分子構造が棒状である液晶性分子であって、末端に上記重合性官能基を有するものが特に好適に用いられる。例えば両末端に重合性官能基を有するネマチック液晶性分子を用いれば、互いに三次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることができ、より強固な透明高分子基材とすることができるからである。具体的には末端にアクリレート基を有する液晶性分子が好適に用いられる。末端にアクリレート基を有するネマチック液晶性分子の具体例を下記化学式(1)〜(6)に示す。
【0046】
【化1】

【0047】
ここで、化学式(1)、(2)、(5)および(6)で示される液晶性分子は、D. J. Broerら、Makromol Chem. 190, 3201-3215(1989) またはMakromol Chem. 190, 2250(1989) に開示された方法に従い、あるいはそれに類似して調製することができる。また、化学式(3)および(4)で示される液晶性分子の調製は、DE195,04,224に開示されている。
【0048】
また、末端にアクリレート基を有するネマチック液晶性分子の具体例としては、下記化学式(7)〜(17)に示すもの(式中a,bは、3〜6の整数)も挙げられる。
【0049】
【化2】

【0050】
なお、本発明において屈折率異方性材料、例えば液晶材料は、2種以上用いられても良い。例えば、液晶材料が、分子構造が棒状である液晶性分子であって両末端に重合性官能基を1つ以上有するもの、及び分子構造が棒状である液晶性分子であって片末端に重合性官能基を1つ以上有するものを含む場合は、両者の配合比の調整により重合密度(架橋密度)及び位相差機能を好適に調整できる点から好ましい。
【0051】
片末端に重合性官能基を1つ以上有する棒状の液晶性分子の方が、透明高分子基材に混在し易く、また透明高分子基材内で配向し易いため、位相差機能をより強化し易い傾向があるからである。一方で、両末端に重合性官能基を1つ以上有する棒状の液晶性分子の方が、重合密度を高くすることができるため、分子の染み出し防止性や耐溶剤性や耐熱性等の耐久性を付与することができるからである。
【0052】
また、本発明に用いられる液晶材料としては、位相差機能をより強化し、且つフイルムの信頼性を向上する点から、分子構造が棒状である液晶性分子であって上記重合性官能基を有するものと、分子構造が棒状である液晶性分子であって上記重合性官能基を有しないものとを用いることが好ましい。特に、分子構造が棒状である液晶性分子であって両末端に上記重合性官能基を有するものと、分子構造が棒状である液晶性分子であって片末端に上記重合性官能基を有するものと、分子構造が棒状である液晶性分子であって両末端に上記重合性官能基を有しないものとを用いることが好ましい。重合性官能基を有しない棒状の液晶性分子の方が、透明高分子基材に混在し易く、また透明高分子基材内で配向し易いため、位相差機能をより強化し易いからである。一方で、重合性官能基を有する棒状の液晶性分子を混合して分子間重合を可能とすることにより、分子の染み出し防止性や耐溶剤性や耐熱性等の耐久性を付与することができるからである。
【0053】
3.位相差部材
本発明の位相差部材においては、屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在して実質的に濃度勾配を有していない層領域と透明高分子基材のみの層領域が明確に区別できる特徴を有する。ここで、濃度勾配を有していないとは、厚み方向の任意の2点において実質的に濃度が異ならないものであり、その濃度の大小に限定されるものではない。
【0054】
本発明の位相差部材において、下に述べる飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)による屈折率異方性材料由来の二次イオンの観察では、屈折率異方性材料が透明高分子基材中に混在する領域での屈折率異方性材料の厚み方向の濃度勾配が実質的になく、このため本発明の位相差部材の断面をTEMで観察すると、透明高分子基材と屈折率異方性材料がほぼ均一に混在している層領域(屈折率異方性材料の透明高分子基材中での厚み方向の濃度勾配が実質的にない層領域)と、透明高分子基材のみが存在する層領域とで明確な境界を確認することができ、中間領域(遷移領域)は観察されないと考えられる。
【0055】
以下では、本発明の透明高分子基材と屈折率異方性材料がほぼ均一に混在している層領域(屈折率異方性材料の透明高分子基材中での厚み方向の濃度勾配が実質的にない層領域)のことを位相差強化領域、透明高分子基材のみの層領域を基材領域ということがある。
【0056】
組成分析の方法としては、GSP(精密斜め切削法)により位相差部材を切断して厚み方向の断面が出るようにし、当該断面の飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)を行うことによって厚み方向の材料の濃度分布を測定する方法等を挙げることができる。
【0057】
飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)としては、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析計としてPhysical Electronics社製TFS−2000を用い、例えば一次イオン種をGa、一次イオンエネルギーを25kV、後段加速を5kVとして、位相差部材の厚み方向の断面の正及び/又は負の二次イオンを測定することにより行うことができる。この場合において、屈折率異方性材料の厚み方向の濃度分布は、液晶由来の二次イオン強度を、厚み方向に対してプロットすることにより得ることができる。基材由来の二次イオン強度についても同様に厚み方向に対してプロットすると、屈折率異方性材料と基材の相対的な濃度変化を見ることができる。屈折率異方性材料由来の二次イオンは、例えば断面TEM観察等別の分析手法で液晶が充填されていると推定できる表面や箇所において相対的に強く観測される二次イオンの総和などを用いることができる。基材由来の二次イオンは、例えば断面TEM観察等別の分析手法で液晶が充填されていないと推定できる表面や箇所において相対的に強く観測される二次イオンの総和などを用いることができる。
【0058】
本発明の位相差部材の形状は特に限定されるものではなく、使用する透明高分子基材の形状に応じて、フイルム、シート、板状等になる。膜厚としては、使用する透明高分子基材の厚さに塗工液の塗布厚さを足したものとほぼ同等の厚さのものとして得られ、フイルム形状の場合、基材フイルムとしては、通常10〜200μmの範囲内、特に20〜100μmの範囲内のものが好適に用いられる。
【0059】
本発明においては、このように位相差部材内に液晶が存在する位相差強化領域が形成されていることから、複屈折性に基づく種々の光学的な機能を奏することが可能となる。例えば、後述するように、透明高分子基材として負のCプレートとして作用するTAC(セルローストリアセテート)を用い、分子構造が棒状の屈折率異方性材料を液晶として用いた場合は、負のCプレートとしての機能をより強化したものになる。また、本発明の位相差部材は、剥離強度が強く、耐熱性や耐水性(使用環境下での寒熱繰り返し、或いは水との接触の際の界面剥離への耐久性)などの信頼性も高い。
【0060】
本発明の位相差部材としては、透明高分子基材の一方の表面側に位相差強化領域が形成されたものや、透明高分子基材の両方の表面側に位相差強化領域が形成されたものがある。
図1に示すものは、透明高分子基材1の一方の表面側3に液晶を含有する位相差強化領域2が形成されており、反対側の表面側4には位相差強化領域2が形成されておらず、基材領域5になっている。一方、図2に示すものは、透明高分子基材の両方の表面側に位相差強化領域2が形成されたものである。
【0061】
本発明における位相差強化領域の厚みは、通常0.5〜20μmの範囲内、好ましくは1〜15μm、さらに好ましくは2〜10μmの範囲内である。上記範囲より小さい場合は、十分なリタデーション値を得ることができず、また上記範囲より厚みを増大させることは困難だからである。屈折率異方性材料含有層領域に濃度勾配がないことは、位相差強化領域および基材領域の組成分析(例えば、前記のTOF−SIMS法等)により判断することができる。
【0062】
本発明において、位相差強化領域における屈折率異方性材料の濃度は、20〜80質量%の範囲が好ましい。20質量%未満であると、要求されるリタデーション値の如何によっては、十分なリタデーション値を得ることが難しくなる。一方、80質量%を超えると、透明高分子基材との密着性が不足する場合がある。また、屈折率異方性材料を架橋重合しない場合、屈折率異方性材料が表面に滲出し易くなる。
【0063】
本発明の位相差部材は、上記位相差部材の波長550nmで測定した厚み方向リタデーション(Rth)のフイルム面方向におけるバラツキがRthの平均値を基準として±5nmの範囲内であることが好ましい。本発明の位相差部材は、位相差強化領域が屈折率異方性材料の濃度がほぼ均一であり、位相差部材内における屈折率異方性材料の濃度(分布)が実質上熱力学的に平衡状態に達しており、安定性の高い状態にあると考えられる。そのため、リタデーション値の面内方向(及び厚み方向)のバラツキも最小限に抑えられると考えられる。本発明の位相差部材は、リタデーションのバラツキが小さいことにより、例えば、この位相差部材を光学補償フイルムとして表示装置に適用する場合に、表示画面内が均一に光学補償され、視野角等の表示品位に優れる表示装置を得ることができる。
【0064】
本発明の位相差部材は、上記厚み方向リタデーションが70〜300nmであることが好ましい。このような場合には、例えば、視野角改善効果を向上することができるからである。なお、上記厚み方向及び面内方向リタデーションの値は、例えば自動複屈折測定装置(例えば、王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−21ADH)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が589nmにおいて三次元屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求めることにより得ることができる。また、本発明の位相差部材では、JIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値は、1%以下、更には0.8%以下が達成可能である。
【0065】
本発明の位相差部材は、透明高分子基材内に少なくとも上記屈折率異方性材料が含有されてなるものであるが、本発明の効果が損なわれない限り、他の成分が含まれていても良い。例えば、残存溶剤、光重合開始剤、重合禁止剤、レベリング剤、カイラル剤、シランカップリング剤等が含まれていても良い。また、本発明の位相差部材は、さらに他の層が直接積層されたものであってもよい。例えば、位相差部材としてリタデーション値が不足する場合は、さらに他の位相差層を直接積層してもよい。また、他の光学的機能層、例えば偏光層、光反射防止層、紫外線吸収層等を直接積層することも可能である。
【0066】
4.用途
本発明の位相差部材の用途としては、光学的機能フイルムとして種々の用途に用いることができる。具体的には、光学補償板(例えば、視角補償板)、楕円偏光板、輝度向上板等を挙げることができる。特に光学補償板としての用途が好適である。代表的には透明高分子基材としてセルロース系樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)又はシクロオレフィンコポリマー(COC)を用い、液晶材料として分子構造が棒状の液晶性化合物を用いることにより、負のCプレートとしての用途に用いることができる。
本発明の位相差部材が負のCプレートである光学補償板として用いられる場合は、VAモードもしくはOCBモードなどの液晶層を有する液晶表示装置に好適に用いられる。
【0067】
B.位相差部材の製造方法
本発明の位相差部材の製造方法は、透明高分子基材の少なくとも一方の表面に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる塗工液を塗布する塗布工程と、上記塗布工程により塗布された塗工液中の上記屈折率異方性材料、例えば液晶材料を上記透明高分子基材に混在させる混在工程と、上記塗布工程により塗布された塗工液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とするものである。
【0068】
このような本発明の位相差部材の製造方法について、図面を用いて具体的に説明する。
図3は、本発明の位相差部材の製造方法の一例を示す工程図である。図3(a)に示すように、まず透明高分子基材1上に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる塗工液6を塗布する塗布工程が行われる。次いで、図3(b)に示すように、塗工液中の上記屈折率異方性材料を上記透明高分子基材に混在させる混在工程、および上記塗布工程により塗布された上記塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程が行われる。これにより、透明高分子基材表面から、上記塗工液中の屈折率異方性材料が混在し、透明高分子基材の表面側に屈折率異方性材料が含有された位相差強化領域2が形成される。これにより透明高分子基材内には、屈折率異方性材料が含有された位相差強化領域2と、屈折率異方性材料が含有されていない基材領域5が形成される。そして、最後に図3(c)に示すように、上記位相差強化領域2側から紫外線7を照射することにより、透明高分子基材内に包含された屈折率異方性材料を重合させる固定化工程が行われることにより、位相差部材8が形成される。
【0069】
このような本発明の位相差部材の製造方法によれば、上記塗工液を塗布することにより、容易に位相差部材を形成することが可能であり、かつ上記塗工液の塗布量等を変更することのみで、得られる位相差フイルムのリタデーション値を変更することが可能となる。なお、各工程はそれぞれ2回以上行っても良い。
【0070】
以下、本発明の位相差部材の製造方法について、工程毎に説明する。
1.塗布工程
本発明における塗布工程は、透明高分子基材の少なくとも一方の表面に、屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる塗工液を塗布する工程である。本発明においては、塗布工程における塗工液の塗布量により、得られる位相差部材のリタデーション値を変化させることができる。
【0071】
本発明に用いられる塗工液は、少なくとも溶媒と、上記溶媒に溶解もしくは分散している屈折率異方性材料とが含有されてなるものであり、必要に応じて他の添加剤が添加される。このような添加剤としては、具体的には、用いられている屈折率異方性材料が、光硬化型のものである場合は、光重合開始剤等を挙げることができる。その他、重合禁止剤、レベリング剤、カイラル剤、シランカップリング剤等を挙げることができる。
【0072】
上記塗工液に用いられる屈折率異方性材料としては、上記「A.位相差部材」の欄に記載されたものと同様であるので、ここでの説明は省略する。なお、屈折率異方性材料、例えば液晶材料が重合性官能基を有するものであり、位相差部材の製造工程において、後述する固定化工程(液晶を重合させて高分子化させる工程)が行われたものである場合は、位相差部材に含有される屈折率異方性材料は所定の重合度で重合されたものであることから、厳密には塗工液に用いられたものと異なるものである。
【0073】
また、上記塗工液に用いられる溶媒としては、透明高分子基材を十分に膨潤させることが可能であり、かつ上記液晶を溶解もしくは分散させることができる溶媒であって、使用する透明高分子基材の当該溶剤に対する1H核の磁気緩和時間(T2)を40℃における値が28μSec未満であり、かつ80℃における値が40μSec以上に設定できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0074】
溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、およびジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0075】
また、本発明に用いられる溶媒は、1種類単独溶媒でも、或いは2種類以上の混合溶媒でも良い。具体的には、透明高分子基材がTACであり、液晶が末端にアクリレートを有するネマチック液晶である場合は、環状ケトン類、中でもシクロヘキサノンが好適に用いられる。
【0076】
本発明の塗工液における溶媒中の屈折率異方性材料の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常5〜40質量%の範囲内、特に15〜30質量%の範囲内であることが好ましい。また、透明高分子基材上への塗工量としては、得られる位相差部材が要求されるリタデーション値により異なるものであるが、液晶の乾燥後の塗工量が0.8〜8g/m2の範囲内、特に1.6〜5g/m2の範囲内であることが好ましい。
【0077】
本工程における塗布方法は、透明高分子基材表面に塗工液を均一に塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、バーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、ダイコーティング、スリットリバース、ロールコーティング、ディップコーティング、インクジェット法、マイクログラビア法等の方法を用いることができる。本発明においては、中でも、ブレードコーティング、ダイコーティング、スリットリバース、およびロールコーティングを用いることが好ましい。
【0078】
2.混在工程および乾燥工程
本発明においては、上記塗布工程の後、その塗布工程により塗布された塗工液中の屈折率異方性材料と上記透明高分子基材を混在させる混在工程、および上記塗布工程により塗布された塗工液中の上記溶媒を乾燥させる乾燥工程が行われる。
【0079】
上記混在工程は、塗工された屈折率異方性材料層中に透明高分子基材が十分に混在し取り込まれるように塗布後の透明高分子基材を放置する工程であるが、用いる溶媒の種類等によっては、乾燥工程と同時に行ってもよい。
【0080】
上記混在工程において、上記塗工液中の上記屈折率異方性材料の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%全てが透明高分子基材内に混在し取り込まれることが好ましい。上記屈折率異方性材料、例えば液晶材料が透明高分子基材内に混在されずに透明高分子基材表面に多く残留する場合には、表面が曇ってしまいフイルムの光透過率が低下する場合があるからである。なお、混在及び乾燥工程の後の透明高分子基材は、混在させた側の表面をJIS−K7105に準拠して測定した際のヘイズ値が、10%以下であることが好ましく、中でも2%以下、特に1%以下であることが好ましい。
【0081】
また、上記乾燥工程は、塗工液中の溶媒を乾燥させる工程であり、用いる溶媒の種類、混在工程と同時に行うか否かにより温度および時間が大幅に異なる。例えば、溶媒としてシクロヘキサノンを用い、混在工程と同時に行う場合は、通常室温〜120℃、好ましくは70〜100℃の範囲内の温度で、30秒〜10分、好ましくは1〜5分程度の時間で乾燥工程が行われる。
【0082】
3.固定化工程
さらに、用いた屈折率異方性材料、例えば液晶材料が重合性官能基を有する場合は、屈折率異方性材料を重合させて高分子化するために、固定化工程が行われる。このような固定化工程を行うことにより、一旦透明高分子基材内に取り込まれた屈折率異方性材料が染み出すことを防止することが可能となり、得られる位相差部材の安定性を向上させるものである。
【0083】
本発明における固定化工程は、用いる屈折率異方性材料により種々の方法が用いられる。例えば、液晶が架橋性化合物である場合は、光重合開始剤が含有されて紫外線が照射され、または電子線が照射され、熱硬化性化合物であれば加熱される。
【0084】
本発明の位相差部材は各種の表示装置、例えば液晶表示装置、有機EL表示装置などに使用することができる。
【0085】
図4には、本発明の位相差部材を使用した液晶表示装置の一例を示す。図4の液晶表示装置20は、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有するものである。液晶セル104としては、例えば、負の誘電異方性を有するネマチック液晶が封止されたVA(Vertical Alignment)方式を採用することができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
〔実施例1〕
屈折率異方性材料として光重合性液晶化合物をシクロヘキサノンに15質量%溶解させ、透明高分子基材としてTACフイルム(コニカミノルタ社製、商品名:KC4UYW、厚さ42μm)にバーコーティングにより乾燥後の塗工量が4.3g/m2 (膜厚換算で4μmに相当)になるように塗工した。次いで、40℃で1分、80℃で1分間加熱して溶剤を乾燥除去するとともに、該液晶化合物を基材表面の高分子と混合させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化し、位相差フイルムを作製した。得られた位相差フイルムの位相差強化領域内における屈折率異方性材料の濃度は39.8質量%であった。該濃度は、位相差強化領域の層(厚さ9μm)は屈折率異方性材料及び透明高分子基材の材料のみからなり、また塗工前と位相差フイルム完成後との該基材の厚み減少分(5μm)は位相差強化層に混入されたとして、透明高分子基材及び屈折率異方性材料の密度から計算により求めた。得られた位相差フイルムをサンプルとして、以下の項目で評価した。
この実施例で使用した液晶化合物は、上記した式(17)において、a、bが4である下記の化合物を含有する液晶混合物である。
【化3】

【0087】
1.光学特性
サンプルの位相差を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−WR)により測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射して、その光学位相差と測定光の入射角度のチャートから基材フイルムの位相差を増加させる異方性を確認した。また、同測定装置により、三次元屈折率を測定した。その結果が下記表1である。
【表1】

【0088】
2.ヘイズ
サンプルの透明性を調べるため、濁度計(日本電色工業株式会社製、商品名:NDH2000)によりヘイズ値を測定した。その結果、塗工量4.3g/m2で0.3%以下と良好であった。
【0089】
3.密着性試験
密着性を調べるために、剥離試験を行った。剥離試験としては、得られたサンプルに1mm角の切れ目を碁盤目状に入れ、接着テープ(ニチバン株式会社製、セロテープ(登録商標))を液晶面に貼り付け、その後テープを引き剥がし、目視により観察した。その結果、密着度は100%であった。
密着度(%)=(剥がれなかった部分/テープを貼り付けた領域)×100
【0090】
4.耐湿熱試験
サンプルを60℃、90%Rhの環境に1000時間放置し、上述した方法により密着性を測定した。その結果、試験前後で密着性の変動は見られなかった。
【0091】
5.耐水試験
サンプルを室温(23.5℃)下で純水に1日浸し、上述した方法により密着性を測定した。その結果、試験前後で密着性の変動は見られなかった。
【0092】
6.TEMによる断面観察
位相差フイルムサンプルを切り出し、樹脂により包埋した。次にミクロトーム支持体に接着した。ダイヤモンドナイフ装着のウルトラミクロトームで面出し、超薄切片作成後、金属酸化物(四酸化オスミウム)による蒸気染色を施し、TEM観察を行った。結果を図5に示す。図5から明らかなように、屈折率異方性材料層(深さ方向9μm厚)と基材TAC(深さ方向37μm厚)の2層にわかれていることがわかった。
【0093】
7.厚み方向の材料分布測定
GSP(精密斜め切削法)により位相差フイルムを切断して厚み方向の断面が出るようにし、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)(装置:アルバック・ファイ社製TRIFT−II)を用いて、切削面における厚み方向の材料の濃度分布を測定した。測定条件は、2次イオン極性を正及び負、質量範囲(M/Z)を3〜1850、エネルギーフイルターなし、コントラストダイアフラム0♯、後段加速を5kV、試料電位を+3.2kV、パルス周波数を8.5kHz、パルス幅を9ns、バンチングあり、帯電中和ありとした。
【0094】
測定結果として、正二次イオンスペクトルにおいて、屈折率異方性材料において強く確認される121amuを屈折率異方性材料由来のピークとし、TAC基材で強く確認された43amuをTAC基材由来のピークとして、これらのピーク強度を縦軸に、深さ方向を横軸にとったプロファイルを図6に示す。
【0095】
いずれのピークにおいても最表面から観察され、かつTEMで観察される屈折率異方性材料と基材の界面までほぼ同レベルのピークが観察され、TAC基材に入ったところで、屈折率異方性材料由来のピークがまったく観察されず、TAC由来のピーク強度が高くなった。
【0096】
8.ラマンスペクトルの測定
8−1.顕微ラマン分光による断面観察
位相差フイルムを切り出し、樹脂にて包埋後に断面を切り出した。その試料断面のラマンスペクトル測定を行った結果を図7及び8に示す(セキテクノトロン製マイクロレーザーラマン分光装置(Raman One)、ベース補正 なし、励起波長等は、8−2に同じ)。
基材と屈折率異方性材料層は、明らかに異なるピークであるが、屈折率異方性材料層の深さ方向に4ポイントのピークに相違は見られなかった。
【0097】
8−2.ラマン散乱分光法による液晶配向状態の観察
上記8−1と同じサンプルのラマン散乱分光法によるスペクトルをレーザーラマン分光光度計(日本分光NRS-3000)にて測定した。露光時間は15秒、積算回数8回、励起波長532.11nmとした。
(1)まず基材であるTAC(コニカミノルタ製)の断面を切り出し、直線偏光の電場振動面がフイルム面に平行或いは垂直になるように断面に入射し、ラマンスペクトルを得た(図11−1、図11−2)。
(2)次に実施例1において作製したものの断面を出し、同様に直線偏光の電場振動面がフイルム面に平行或いは垂直になるように液晶とTACの混合層である断面部分に入射し、ラマンスペクトルを得た(図12−1、図12−2)。
(3)次に実施例1において作製したもののフイルム面から直線偏光の電場振動面がフイルム幅方向に平行或いは垂直になるように塗布面側から入射し、ラマンスペクトルを得た(図13−1、図13−2)。
【0098】
得られたラマンスペクトルから得られた各ピーク強度および算出ピーク強度比を表2に示す。
【表2】

【0099】
通常、ラマン分光では、レーザー光などの単色光(ν0)が物質にあたると、入射光と同じ波長の強い光(レイリー散乱光ν0)と入射光とは異なる波長の弱い光(ラマン散乱光ν0±ν)が散乱し、ラマン散乱光は、その物質を構成する分子の振動や回転に基づき、ある決まった波数だけ入射光よりずれて現れ、この波数値はラマンシフトと呼ばれる。本測定は液晶の配向状態を確認するためのものである。すなわち、各サンプルの位相差値から、本サンプル中での液晶がランダムホモジニアス配向し、さらに延伸することで延伸方向に分子がある程度配向していると考えられる。本測定では、電場振動面を変化させた直線偏光をサンプルに入射し、主に液晶のベンゼン環由来ピークとCH由来のピークと考えられるピーク強度比を比較することにより液晶の配向状態を観察した。
【0100】
(1)塗布面から直線偏光を入射し、その電場振動面を変化させてもピーク強度比の差が小さい(図13−1、図13−2)。この結果は、液晶分子がランダムな方向を向いていることを示している。
(振動面平行:0.775、垂直:0.756)
(2)断面から直線偏光を入射し、電場振動面をフイルム面に垂直(ピーク強度比0.467)、平行(ピーク強度比1.033)と変化させると、平行の場合にピーク強度比が大きくなった(図12−1、図12−2)。
この結果及び(1)の結果から液晶分子は面内ではランダムな配向であるが、液晶分子はフイルム面に対しては水平に配向していること、すなわちランダムホモジニアス配向をしていることを示している。
【0101】
すなわち、本発明の位相差部材では、屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域において、屈折率異方性材料がランダムホモジニアス配向したものを得ることができる。
【0102】
本発明の位相差部材の透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域におけるホモジニアス配向およびランダム配向の程度は、ラマン散乱分光法により測定することができる。
ラマン散乱分光法において、液晶などの屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域の.断面に入射した直線偏光の電場振動面が表面に平行な場合に得られる液晶のベンゼン環由来ピークとCH由来のピークとのラマンピーク強度比が、延伸方向と垂直に切った断面に入射した直線偏光の電場振動面が表面に平行な場合のピーク強度比の1.1倍以上であるときには、実質的にホモジニアス配向しているといえる。
一方、ラマン散乱分光法において、液晶などの屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域の表面から直線偏光を入射した場合に、その電場振動面が幅方向と平行な場合の液晶のベンゼン環由来ピークとCH由来のピークとのラマンピーク強度比が、それと垂直方向に直線偏光の電場振動面を合わせた場合に得られたピーク強度の1.1倍以内であるときは、実質的にランダム配向しているといえる。
【0103】
9.FT−IRによる断面観察
位相差フイルムを切り出し、樹脂にて包埋後に断面を切り出した。その試料断面のFT−IRイメージング測定を実施した。FT−IRスペクトルにおいて、屈折率異方性材料由来の1160cm-1と1604cm-1について出力した。その結果、屈折率異方性材料由来ピークは表面から深さ方向9μm程度で偏在して観察された。
【0104】
以上から屈折率異方性材料含有層は膜表面から深さ方向に9μに存在し、深さ方向にほぼ均一の濃度で存在していると考えられる。
【0105】
10. 1H核の磁気緩和時間(T2)測定結果
基材フイルムのシクロヘキサノンに対する溶解性を評価するため、Pulse NMR法(1H核の磁気緩和時間測定法)により測定評価を行った。
【0106】
<前処理>
試料を、幅約2mm、長さ30mmに切削し、外径7mm、長さ30mmのダーラム管にいれ、シクロヘキサノンを加えた後、ダーラム管ごとPulse NMR用試料管にい
れ、測定試料とした。
【0107】
<測定条件>
測定は、試料を装置に挿入後、1分以内に昇温を開始し、設定温度に達した後、約5分間放置し、測定を行った。測定は下記の条件下で行い、各温度においても同様に5分間の放置時間を確保した。
測定温度 :40℃、60℃、80℃、100℃
パルスシーケンス :Solid Echo 法(T2測定)
信号計測時間(X軸) :2msec(100 points 計測)
【0108】
<評価方法>
得られた結果を解析し、2乃至3のT2の値とその比率を求め、このうちT2が1msecを超えるものは、液体相成分として除外し、残りの1乃至2の成分で百分率を計算しなおして結果とした。
また、得られたT2の値が、複数である場合には、試料間の比較を目的とした評価方法として以下の計算を行い、合算値を求めた。
【0109】
<計算方法>
得られたT2が、Ta、Tb(単位 μsec)の2成分とし、その百分率が、Ta A%、Tb B%である場合、合算値 T−Totalは、以下のとおりとした。
T-Total = 1/[{(1/Ta)×A}+{(1/Tb)×B}]
また、3成分の場合にも同様に、
T-Total = 1/[{(1/Ta)×A}+{(1/Tb)×B}+{(1/Tc)×C}]
とした。
【0110】
その結果を表3に示す。本測定におけるT2の値は、試料中の1H核近傍の分子運動性を表わしており、T2の値が小さいほど、分子運動性が低く剛直であり、逆にT2の値が大きいほど、分子運動性が高く柔軟であることを表わしている。
【0111】
比較例1(基材:TF80UL)と比較して、作製乾燥時の初期温度40℃では、実施例1(基材:KC4UYW)に使用した基材の値が低く、逆に80℃では逆転して実施例1の基材の方が高くなった。前述したように、本値は溶剤に対する基材の柔軟度に相当する。本結果では40℃においては比較例1が、80℃においては実施例1の柔軟性が高い。これは初期乾燥温度では、比較例1の方が基材と溶剤の混合が早いため、液晶が深さ方向に入り込んでいくに当り溶剤に追いつかず、濃度勾配が発生すると推定される。
【0112】
【表3】

【0113】
11.外観観察結果
本位相差フイルムを偏光板クロスニコル下に挟んで透過光で確認した。本位相差フイルムは光源に対して垂直方向(位相差フイルム面に垂直方向)については面内で屈折率差が見られないことからムラ等は観察されないが、垂直方向から斜め40°方向から観察すると位相差により光が漏れて白く観察されるが、ムラは特に観察されなかった。
【0114】
〔実施例2〕
屈折率異方性材料として実施例1と同じ光重合性液晶化合物をシクロヘキサノンに18質量%溶解させ、TACフイルム(コニカミノルタ社製、商品名:KC4UYW)にバーコーティングにより乾燥後の塗工量が5.0g/m2になるように塗工した。次いで、40℃で1分間、80℃で1分間加熱して溶剤を乾燥除去するとともに、該液晶化合物を基材表面の高分子と混合させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化し、位相差フイルムを作製した。
実施例1と同様にTEMにより断面を観察したところ、屈折率異方性材料含有層の厚みは10μで、基材TACは36μであった。
【0115】
〔実施例3〕
屈折率異方性材料として実施例1と同じ光重合性液晶化合物をシクロヘキサノンに18質量%溶解させ、TACフイルム(コニカミノルタ社製、商品名:KC4UYW)にバーコーティングにより乾燥後の塗工量が3.2g/m2になるように塗工した。次いで、40℃で1分間、80℃で1分間加熱して溶剤を乾燥除去するとともに、該液晶化合物を基材表面の高分子と混合させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化し、位相差フイルムを作製した。
実施例1と同様にTEMにより断面を観察したところ、屈折率異方性材料含有層の厚みは7μで、基材TACは39μであった。
【0116】
〔実施例4〕
屈折率異方性材料として実施例1と同じ光重合性液晶化合物をシクロヘキサノンに18質量%溶解させ、TACフイルム(コニカミノルタ社製、商品名:KC4UYW)にバーコーティングにより乾燥後の塗工量が2.6g/m2になるように塗工した。次いで、40℃で1分間、80℃で1分間加熱して溶剤を乾燥除去するとともに、該液晶化合物を基材表面の高分子と混合させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化し、位相差フイルムを作製した。
実施例1と同様にTEMにより断面を観察したところ、屈折率異方性材料含有層の厚みは5μで、基材TACは40μであった。
【0117】
〔比較例1〕
屈折率異方性材料として実施例1と同じ光重合性液晶化合物をシクロヘキサノンに20質量%溶解させ、TACフイルム(富士写真フイルム株式会社製、商品名:TF80UL)から成る基材フイルム表面にバーコーティングにより、乾燥後の塗工量が2.5g/m2となるように塗工した。次いで、40℃で1分間、80℃で1分間加熱して溶剤を乾燥除去するとともに、該光重合性液晶化合物を該TACフイルム内に混在させた。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化し、位相差フイルムを作製した。
実施例1と同様にTEMによる断面観察をしたところ、サンプルの屈折率異方性材料混在側は三層(位相差強化領域のうち高濃度領域、位相差強化領域のうち中間領域、および基材領域))に分かれていることが分かった。(図9)
厚み方向の材料濃度分布測定を実施した。
【0118】
GSP(精密斜め切削法)により位相差フイルムを切断して厚み方向の断面が出るようにし、実施例1の場合に準じて、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)を用いて、切断面における厚み方向の材料の濃度分布を測定した。
【0119】
測定結果として、正2次イオンスペクトルにおいて、屈折率異方性材料の塗工面で強く測定された27、55、104、121、275amuを屈折率異方性材料由来ピークとし、塗工しなかった裏面で強く測定された15、43、327amuをTACフイルム由来ピークとして、これらのピーク強度のそれぞれの和を総二次イオン強度で規格化した値を縦軸に、屈折率異方性材料の塗工面をゼロとして厚み方向を横軸にとったプロファイルを図10に示す。但し、27、55amuはTACフイルムからも観測されたため、屈折率異方性材料由来ピークとした正二次イオンにはTACフイルムの寄与も一部含まれる。
【0120】
正2次イオンスペクトルの厚み方向のプロファイルの結果において、塗工面から1.5μmあたりまでは、屈折率異方性材料の濃度が比較的高く且つ濃度勾配が緩やかな領域であり、1.5μmあたり〜3μmあたりに屈折率異方性材料の濃度が減衰して濃度勾配が急な領域が存在し、さらに3μmあたりから屈折率異方性材料が殆ど含まれない基材領域が存在することが明らかになった。これは、屈折率異方性材料混在側が三層(位相差強化領域のうち高濃度領域、位相差強化領域のうち中間領域、および基材領域)に分かれていることが観測されたTEMによる断面観察の結果と一致する。
【0121】
さらに実施例1にて測定した固体NMRでの1H核の磁気緩和時間(T2)測定について本基材(TF80UL)についても同様に測定を実施した。その結果、乾燥温度と同じ80℃における1H核の磁気緩和時間(T2)は表2に示した値であった。明確に基材による差が確認された。
【0122】
さらに実施例1と同様に外観観察を行ったその結果同様に斜め40°方向から観察したところ、位相差フイルムのリタデーションムラによると考えられるムラが観察された。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】位相差部材の一例を示す模式的断面図である。
【図2】位相差部材の他の例を示す模式的断面図である。
【図3】位相差部材の製造方法の一例を示す工程図である。
【図4】位相差部材を備えた液晶表示装置の一例を示す概略分解斜視図である。
【図5】実施例1の位相差部材の断面を示すTEM写真である。
【図6】実施例1の位相差部材のTOF−SIMS測定の正の2次イオンスペクトル測定による濃度分布を示す図である。
【図7】実施例1の位相差部材のポイント1〜3のラマンスペクトルを示すグラフである。
【図8】実施例1の位相差部材のポイント4〜6のラマンスペクトルを示すグラフである。
【図9】比較例1の位相差フイルムの断面を示すTEM写真である。
【図10】比較例1の位相差フイルムのTOF−SIMS測定の正の2次イオンスペクトル測定による濃度分布を示す図である。
【図11−1】実施例1の位相差部材のTACの断面から入射したラマン散乱分光スペクトルで(直線偏光の電場振動面をフイルム面に水平)ある。
【図11−2】実施例1の位相差部材のTACの断面から入射したラマン散乱分光スペクトル(直線偏光の電場振動面をフイルム面に垂直)である。
【図12−1】実施例1の位相差部材のTAC−液晶混合層断面から入射したラマン散乱分光スペクトル(直線偏光の電場振動面をフイルム面に水平)である。
【図12−2】実施例1の位相差部材のTAC−液晶混合層断面から入射したラマン散乱分光スペクトル(直線偏光の電場振動面をフイルム面に垂直)である。
【図13−1】実施例1の位相差部材のフイルム表面から入射したラマン散乱分光スペクトル(直線偏光の電場振動面をフイルム面に水平)である。
【図13−2】実施例1の位相差部材のフイルム表面から入射したラマン散乱分光スペクトル(直線偏光の電場振動面をフイルム面に垂直)である。
【符号の説明】
【0124】
1…透明高分子基材
2…位相差強化領域
3…表面側
4…反対側の表面側
5…基材領域
6…塗工液
7…紫外線
8…位相差部材
10…位相差部材
20…液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明高分子基材に屈折率異方性材料が含有されてなる位相差部材であって、屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域と透明高分子基材の層領域とからなることを特徴とする位相差部材。
【請求項2】
屈折率異方性材料が、透明高分子基材表面近傍深さ15μm以内においてほぼ均一に混在する請求項1記載の位相差部材。
【請求項3】
屈折率異方性材料が溶剤に溶解された溶液を透明高分子基材に塗布することで透明高分子基材表面近傍において透明高分子基材と前記屈折率異方性材料が事実上均一に混在したものである請求項1又は2記載の位相差部材。
【請求項4】
透明高分子基材の溶剤に対する1H核の磁気緩和時間(T2)の40℃における値が28μSec未満であり、かつ80℃における値が40μSec以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の位相差部材。
【請求項5】
透明高分子基材が、セルロース系樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)又はシクロオレフィンコポリマー(COC)である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の位相差部材。
【請求項6】
透明高分子基材が、セルロースエステルである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の位相差部材。
【請求項7】
透明高分子基材が、ノルボルネンを原料モノマーとするシクロオレフィンポリマー(COP)またはシクロオレフィンコポリマー(COC)である請求項5記載の位相差部材。
【請求項8】
透明高分子基材が、セルロースアセテートである請求項6記載の位相差部材。
【請求項9】
透明高分子基材が、トリアセチルセルロースである請求項8記載の位相差部材。
【請求項10】
屈折率異方性材料が、液晶材料である請求項1乃至9のいずれか1項に記載の位相差部材。
【請求項11】
屈折率異方性材料が、ネマチック液晶性分子材料である請求項10記載の位相差部材。
【請求項12】
屈折率異方性材料が、少なくとも片末端に重合性官能基を有する分子構造の液晶性化合物を含有するものである請求項10又は11記載の位相差部材。
【請求項13】
屈折率異方性材料が、少なくとも片末端に重合性官能基を有する分子構造の液晶化合物と、末端に重合性官能基の無い分子構造の液晶化合物との混合物を含有するものである請求項10乃至12のいずれか1項に記載の位相差部材。
【請求項14】
屈折率異方性材料が、下記化学式(式中a、bは、3〜6の整数)の液晶化合物を含有するものである請求項10乃至13のいずれか1項に記載の位相差部材。
【化1】

【請求項15】
溶剤が環状ケトンである請求項3乃至14のいずれか1項に記載の位相差部材。
【請求項16】
溶剤がシクロヘキサノンである請求項15記載の位相差部材。
【請求項17】
厚み方向リタデーションが70〜300nmである請求項1乃至16のいずれか1項に記載の位相差部材。
【請求項18】
位相差部材が位相差フイルムである請求項1乃至17のいずれか1項に記載の位相差部材。
【請求項19】
屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域において、屈折率異方性材料がランダムホモジニアス配向したものである請求項1乃至18のいずれか1項に記載の位相差部材。
【請求項20】
ラマン散乱分光法において、液晶である屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域の断面に入射した直線偏光の電場振動面が表面に平行な場合に得られる液晶のベンゼン環由来ピークとCH由来のピークとのラマンピーク強度比が、延伸方向と垂直に切った断面に入射した直線偏光の電場振動面が表面に平行な場合のピーク強度比の1.1倍以上である請求項19に記載の位相差部材。
【請求項21】
ラマン散乱分光法において、液晶である屈折率異方性材料と透明高分子基材がほぼ均一に混在する層領域の表面から直線偏光を入射した場合に、その電場振動面が幅方向と平行な場合の液晶のベンゼン環由来ピークとCH由来のピークとのラマンピーク強度比が、それと垂直方向に直線偏光の電場振動面を合わせた場合に得られたピーク強度の1.1倍以内である請求項19または20に記載の位相差部材。
【請求項22】
透明高分子基材の少なくとも一方の表面に、液晶である屈折率異方性材料が溶媒に溶解もしくは分散されてなる塗工液を塗布する塗布工程と、塗布された塗工液中の前記屈折率異方性材料と前記透明高分子基材を混在させる混在工程と、塗工液中の溶媒を乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする請求項1乃至21のいずれか1項に記載の位相差部材の製造方法。
【請求項23】
前記混在工程が、前記乾燥工程中に行われることを特徴とする請求項22記載の位相差部材の製造方法。
【請求項24】
請求項22又は23に記載された方法により製造された請求項1乃至21のいずれか1項に記載の位相差部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11−1】
image rotate

【図11−2】
image rotate

【図12−1】
image rotate

【図12−2】
image rotate

【図13−1】
image rotate

【図13−2】
image rotate


【公開番号】特開2008−33242(P2008−33242A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80401(P2007−80401)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】