位置推定方法および位置推定装置
【課題】無線を使用した位置推定において、無線に対する遮蔽物の影響を排除し、高精度に位置を推定する位置推定方法を得ること。
【解決手段】本発明は、固定設置された複数の基準局と位置推定装置により構成された位置推定システムにおいて、位置推定装置がシステム内の移動端末の位置を推定する場合の位置推定方法であって、遮蔽物の物理的性質および移動端末が送信する電波の物理的性質に基づいて、位置に関する補正情報を予め算出しておく補正情報算出ステップと、各基準局と移動端末との間の伝搬時間に基づいて移動端末の位置を推定する位置推定ステップと、位置推定ステップにおける推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいるか否かを判断する判断ステップと、判断ステップにより推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいると判断された場合に、予め算出しておいた補正情報を用いて推定結果を補正する補正ステップと、を含んでいる。
【解決手段】本発明は、固定設置された複数の基準局と位置推定装置により構成された位置推定システムにおいて、位置推定装置がシステム内の移動端末の位置を推定する場合の位置推定方法であって、遮蔽物の物理的性質および移動端末が送信する電波の物理的性質に基づいて、位置に関する補正情報を予め算出しておく補正情報算出ステップと、各基準局と移動端末との間の伝搬時間に基づいて移動端末の位置を推定する位置推定ステップと、位置推定ステップにおける推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいるか否かを判断する判断ステップと、判断ステップにより推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいると判断された場合に、予め算出しておいた補正情報を用いて推定結果を補正する補正ステップと、を含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線を使用して行う位置推定に関するものであり、特に、障害物などの影響により発生する推定誤差を送信機から受信機への無線信号の伝達時間に基づいて補正する位置推定方法およびこれを実現する位置推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線を使用して位置を推定する場合、たとえば図11に示したように、推定したい位置の端末から送信された電波を、その周辺に固定設置された複数の無線装置(基準局a〜基準局c)が受信し、各基準局における端末からの電波の遅延量(電波伝搬時間)を用いて演算部で位置推定を行うのが一般的である。しかし、この場合、A/D変換器やD/A変換器におけるサンプルクロックに起因するクロック誤差によって、推定精度が劣化する。また、反射波があるような環境では、反射波によって、推定値に誤差を生じる。そのため、推定誤差を排除して推定精度を上げるために、三角測量法などの演算によって位置を推定し、さらに予め実測して求めておいた参照情報を用いて推定した位置を補正する方式が提案されている(たとえば下記特許文献1)。
【0003】
また、過去に計測された受信機の位置から予測した現在の位置と、演算により求めた現在の位置の誤差を用いて現在の推定位置の補正を行う方式(たとえば下記特許文献2)や、粗粒度の測位手段による測位結果と細粒度の測位手段による測位結果の組み合わせにより精度向上を行う方式(たとえば下記特許文献3)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−215258号公報
【特許文献2】特開2005−24535号公報
【特許文献3】特開2006−3187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載された従来の位置推定技術は、つぎのような問題点をそれぞれ有している。すなわち、上記特許文献1に記載の方式では、広大なサービスエリアの全ての領域に対して参照情報を用いた精度向上技術を適用することが困難なため、局所的な位置でしか補正できない、という問題があった。
【0006】
また、上記特許文献2および3に記載の方式は、見通し通信を前提として、演算により推定精度を向上させている。そのため、たとえば遮蔽によって受信レベルが本来のレベルよりも低くなった信号や、伝搬時間が本来よりも大きくなった信号など、信頼度の低い信号を用いて演算を行ったために推定精度が大きく劣化するような場合に、その劣化要因の信号を排除して推定精度を向上させることができない、という問題があった。
【0007】
また、補正処理における演算量が大きくなる、という問題もあった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、見通し通信が不可能なエリアが存在する領域を対象とした位置推定において、見通し通信を妨げる障害物などの影響により生じる推定誤差を少ない演算量で補正し、高精度な位置推定を実現する位置推定方法および位置推定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、固定設置された複数の基準局と位置推定装置により構成された位置推定システムにおいて、前記位置推定装置が前記システム内の移動端末の位置を推定する場合の位置推定方法であって、遮蔽物の物理的性質および前記移動端末が送信する電波の物理的性質に基づいて、位置に関する補正情報を予め算出しておく補正情報算出ステップと、前記各基準局と前記移動端末との間の伝搬時間に基づいて当該移動端末の位置を推定する位置推定ステップと、前記位置推定ステップにおける推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいるか否かを判断する判断ステップと、前記判断ステップにより前記推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいると判断された場合に、前記予め算出しておいた補正情報を用いて前記推定結果を補正する補正ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、たとえばUWBのような遮蔽物を通過する無線を用いて位置推定を行う場合において、推定結果を補正する必要があると判断した場合には、予め求めておいた情報(遅延量)を用いて推定結果を補正することとしたので、あらためて遅延量を算出する必要がなくなり、従来と比較してより少ない演算量で位置推定精度を向上させることができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる位置推定方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明にかかる位置推定方法を適用したシステムにおいて、仕切り板などの遮蔽物の影響を受けて推定精度が劣化する領域を説明するための図である。このシステムは、複数の基準局(基準局1〜3)と、位置推定装置5とを含んでいる。基準局1〜3は、固定設置され、位置推定に使用する情報である電波の遅延量(位置推定対象からの電波の伝搬時間)の測定などを行う装置であり、たとえば基地局などの機能を有する通信装置である。位置推定装置5は、各基準局に接続されており、各基準局から取得した情報(上記電波の遅延量)を使用して位置を推定する機能を有する装置である。また、図1は、一例として、基準局3に対する補正領域7すなわち基準局3が測定を行う場合に遮蔽物である仕切板6の影響を受けるエリア(斜線部分)を示している。
【0013】
図2は、本発明にかかる位置推定方法を説明するための図であり、一例として、3つの基準局(基準局1〜3)を用いて端末4の位置を推定する場合を示している。位置推定動作においては、端末4が送信した電波の伝搬時間を各基準局が位置推定装置5へ通知し、通知を受けた伝搬時間に基づいて位置推定装置5が端末4の位置を推定する。
【0014】
図3は、端末4の移動経路の一例を示す図であり、図4は、図3に示したような経路を端末4が辿った場合に推定される軌跡を示す図である。
【0015】
ここで、本発明にかかる位置推定方法の概要について説明する。本発明は、予め遮蔽物の位置がわかっている場合には、推定された位置に対して予め求めておいた補正値を用いて補正を行うことで、誤差を抑えるものである。これにより、実測等による参照情報を求める必要がなくなり演算量を削減できる。また、遮蔽の影響により推定結果に大きな誤差を生じさせる信号が存在した場合でも予め求めておいた補正値を用いて補正を行う事が可能なため、本信号(遮蔽の影響を受けた信号)による誤差を抑圧することが可能となる。
【0016】
測位を行うにあたっては、波長が短い(周波数が高い)または、信号帯域幅が広い方が、より推定精度が高くなる。このため、UWB(Ultra Wide Band)のような広帯域の信号を使用することにより推定精度を高くすることが出来る。またUWBは電波の性質として遮蔽物があっても透過する性質がある。したがって、従来の位置推定方式では遮蔽物によって電波が届かないようなケースであっても、UWBを使用した場合には遮蔽物を通過した信号が受信できることになる。一方、遮蔽物を通過した場合には、遮蔽物の物質的性質によっては、伝達時間の遅延(送信機から受信機までの伝搬時間の増大)や信号レベルの減衰を生じるため、位置推定における誤差要因となり易い。
【0017】
しかしながら、上記課題の説明でも記載したように、従来の位置推定方式では、誤差要因となる信号を見分ける(排除する)ことが不可能であった。これに対して本発明では、遮蔽物によって生じる誤差を予め求めておき、これを利用して位置の推定誤差を抑圧する。
【0018】
従来の位置推定方式においてマイクロ波帯やミリ波帯における狭帯域信号など、遮蔽物を通過できない性質の信号を使用した場合、遮蔽物があった場合には電波が遮断されていた。そのため、遮蔽物の影響を受け、推定誤差の要因となる信号を使用して位置を推定することはない。これに対して、UWBのような超広帯域の信号の場合には遮蔽物や障害物を通過するため、このような信号と従来の方式とを組み合わせて使用する場合には、推定誤差が大きくなる可能性がある。従って、本発明にかかる方式は遮蔽物や障害物を通過できるような信号を用いた場合に特に有効である。
【0019】
つづいて、図面を用いて本発明にかかる位置推定動作を説明する。なお、以下の説明においては、使用する無線をUWBとし、遮蔽物を通過した場合に伝達時間の遅延と信号レベルの減衰が生じるものとする。また、一例として、人物監視システムのように屋内において端末を持った人の位置を特定したいシステムの場合の動作を説明する。また、図2に示したように、部屋内に3つの基準局(基準局1〜3)が設置されているものとし、この部屋内に存在する端末4の位置を推定するものとする。
【0020】
端末4は、各基準局に対して、当該各基準局または位置推定装置5が自端末(端末4)の位置を推定するための信号を送信する。基準局1〜3は、端末4が送信した信号を受信する。基準局1は、受信信号を用いて、当該信号の端末4から自身までの伝搬時間Δt1を算出する。同様に、基準局2および3は、それぞれ受信信号の伝搬時間(Δt2,Δt3)を算出する。位置推定装置5は、基準局1〜3が算出した伝搬時間を取得する。そして、取得したそれぞれの伝搬時間を距離に換算し、図6に示したように、各々の基準局からの距離の交点を求める。この交点が端末4の位置を表すことになる。ただし、実際には各基準局のサンプリング誤差や雑音等の影響により、各々の基準局からの距離は一点では交わらず、たとえば図7に示したエリア(a)のような領域を持つ。従って、領域内のどの点にいるのかを演算によって推定する。この演算方法は、例えば、上記特許文献1に示された三角測量法などを用いる。なお、各基準局が、上記算出した伝搬時間を用いて端末4までの距離を算出し、位置推定装置5は、各基準局により算出された距離を取得するようにしてもよい。
【0021】
以上のような動作を基準局1〜3および位置推定装置5が継続して実行し、端末4の位置を継続して推測している状態において、端末4が、図3に示したA地点からD地点までの一点鎖線矢印上を移動する場合の推定結果について説明する。ここで、B地点とC地点の間は、仕切板6が障害となり基準局3が端末4からの直接波を受信できない領域(図1に示した基準局3に対する補正領域7に相当)である。UWBを用いた場合、電波が壁を通過するため、この壁を通過した電波を用いた従来の方式での位置推定が可能である。しなしながら、壁を通過する場合には空間を通過する場合に比べて伝搬時間が増加するため、基準局3での受信信号は、本来の伝搬時間よりも大きくなる。その結果、この区間では位置の推定に誤りを生じる。すなわち、伝搬時間が増加した場合、基準局3から端末4までの推定距離が本来の推定距離よりも大きくなる。図4は、このときの位置推定結果の一例を示した図であり、位置推定装置5により推定された軌跡は、仕切板6の影響を受けると本来の軌跡から大きく外れてしまう。図4では、推定された位置を辿ったもの(推定された軌跡)を実線で示し、本来の位置を辿ったものを点線で示している。
【0022】
このように、遮蔽物を通過可能な電波を用いて位置を推定する場合、従来の方式では推定精度が大きく劣化する可能性がある。そのため、本発明にかかる位置推定方法ではこれらの欠点を解決するため、予め遮蔽物の位置がわかっている場合には、推定された位置に対して予め求めておいた補正値を用いて補正を行うことで、誤差を抑える。
【0023】
図3に示した網掛け部分は、仕切板6によって端末4から基準局3への信号に遅延を生じさせる領域である。そのため、位置推定装置5は、端末4の推定位置(位置推定結果が示す位置)がこの補正領域(図3の網掛け部分)内にあると判断した場合には、仕切板の影響により生じる伝搬時間の増加量に相当する補正量(補正情報)を用いて補正を行い、正しい位置推定結果を得る。なお、補正情報は、仕切り板の材質から予め求めておく。同様に、基準局1および2に対しても補正領域(推定結果を補正する必要がある領域)および補正情報を予め求めておき、位置推定装置5は、端末4の推定位置が補正領域内であった場合には、各々に対する誤差の補正を行う。
【0024】
なお、位置推定装置5は、位置推定結果(大きな推定誤差を含んだ位置推定結果)に対して補正を行うことにより正しい位置推定結果を得るようにしてもよいし、端末4から基準局までの電波の伝達時間(または距離)を補正し、補正を実行して得られた情報を用いて端末4の正しい位置を推定するようにしてもよい。また、上記補正処理において使用する補正量は、位置推定装置5が保持しておいてもよいし、位置推定装置5とは異なる記憶装置(図示せず)などが保持しておき、必要に応じて位置推定装置5へ補正量を提供するようにしてもよい。
【0025】
図5は、上述した本実施の形態の位置推定動作の一例を示すフローチャートである。本実施の形態では、位置推定装置は、まず基準局1〜3より取得した情報(推定対象の端末4から各基準局までの電波の伝搬時間または距離)を用いて位置推定演算を実行し、端末4の位置を推定する(ステップS11)。つぎに推定位置が補正領域内に含まれているか否かを確認し(ステップS12)、補正領域内に含まれていると判断した場合(ステップS12,Yes)、予め求めておいた補正量を用いて推定結果の補正を行う(ステップS13)。一方、上記ステップS12において推定位置が補正領域内に含まれていないと判断した場合には(ステップS12,No)、補正を行わずに位置推定動作を終了する。
【0026】
なお、本実施の形態においては、一例として端末4からの送信信号を基準局で受信し、位置推定装置5で位置推定を行う場合について説明したが、送信側と受信側を入れ替えて、基準局からの送信信号を端末4で受信するようにしてもよい。この場合には、端末4が位置補正を含めた演算処理を行い、自分の位置を求めることになる。ただし、端末4の演算負荷を下げたい場合には、端末4が算出した各基準局からの伝搬時間をいずれかの基準局経由で位置推定装置5へ通知し、位置推定装置5が位置の推定を行い、推定結果をいずれかの基準局経由で端末4へ通知するようにしてもよい。
【0027】
このように、本実施の形態においては、たとえばUWBのような遮蔽物を通過する無線を用いて位置推定を行う場合において、推定結果が示す位置が補正領域であった場合には、予め求めておいた遅延量を用いて推定結果を補正することとした。これにより、補正が必要な場合にあらためて遅延量を算出する必要がなくなり、従来方式と比較して、より少ない演算量で位置推定精度を向上させることができる。加えて、たとえば、上記「背景技術」において示した特許文献1や特許文献2においては、演算を実行して誤差補正量を求めているが、本発明では既知の補正情報(予め求めておいた補正量)を用いて補正を行うため、より高精度な推定結果を得ることができる。
【0028】
実施の形態2.
つづいて、実施の形態2の位置推定方法について説明する。上述した実施の形態1では、推定結果が示す位置が補正領域7に含まれている場合に推定位置の補正を行っていた。この場合、推定位置に誤差を生じた場合、補正領域外であるにもかかわらず(補正が不要であるにもかかわらず)、補正処理を実行してしまい誤差が大きくなるという欠点がある。そのため、本実施の形態では、推定結果を過去(前回)の推定結果と比較し、比較結果を用いて、推定された位置を補正する必要があるか否かの判断を行うことで、誤って補正処理を実行してしまうことを防止する方法について説明を行う。なお、実施の形態1と同様に、位置推定装置5は、固定設置された基準局1〜3から取得した情報(伝搬時間)を用いて端末4の位置推定を行うものとする。
【0029】
図8は、端末4が移動中に3つの基準局のうちの一つの基準局と端末4の間に遮蔽物が入ったため、前回の推定エリアよりも今回の推定エリアの面積が大きくなる場合の動作を説明するための図である。また、図9は、本実施の形態の動作の一例を示すフローチャートである。なお、図9では、図5に示した実施の形態1の推定動作に含まれる処理と同じ処理に対して同一のステップ番号を付している。
【0030】
以下、図8および図9を用いて実施の形態2の位置推定動作を説明する。実施の形態1の場合と同様に、位置推定装置5が端末4についての位置推定動作を実行し、基準局1〜3と端末の距離が各々L1〜L3となったとする。この場合、各基準局から距離を半径とする円を描くと、その交点が推定結果となり、そこに端末4が存在する(図6参照)。しかし、実際には雑音等の影響により一点で交わらない場合がある。この場合、端末4の位置は図7の推定エリア(a)のような領域で表現される。そして、位置推定装置5は、上述した実施の形態と同様に、端末4が推定エリア(a)内のどの点にいるのかを演算によって推定する。さらに、本実施の形態では、位置推定装置5は、上記推定エリア(a)の面積を算出し、保持しておく。
【0031】
その後、位置推定装置5が端末4についての次の位置推定動作を実行するまでの間に端末4が、基準局3との間に遮蔽物が存在する位置へ移動したとする。そして、この状態において位置推定動作を実行した場合、基準局3が算出する伝搬時間には、遮蔽物による余分な伝搬時間(誤差)が含まれる。そのため、この情報(伝搬時間)を使用して位置推定装置5が算出した基準局3から端末4までの距離は、本来の距離よりも大きくなり、L3’+ΔLとなる(L3’:本来の距離、ΔL:誤差)。この場合、推定される領域はエリア(a’+b’)となり、本来推定されるはずのエリア(a’)と比較して、その面積が大きくなる。
【0032】
ここで、位置推定装置5が前回の位置推定動作において算出した推定エリア(a)の面積と、今回の位置推定動作において本来推定されるべきエリア(a’)の面積とは近似関係(その差分が0に近い関係)にあるといえる。特に、前回の位置推定動作時の端末4と今回の位置推定動作時の端末4の位置が大きく変わらなければ、前回と今回の推定エリアの差分は、より0に近くなる。したがって、前回推定したエリアの面積と今回推定したエリアの面積が大きく異なる場合には、端末4が、「基準局との間に遮蔽物が存在しない領域(補正が不要な領域)から遮蔽物が存在する領域(補正が必要な領域)へ移動した」または「基準局との間に遮蔽物が存在する領域から遮蔽物が存在しない領域へ移動した」といえる。
【0033】
したがって、本実施の形態では、推定動作により推定したエリアを前回の推定動作により推定したエリアと比較し、比較結果に基づいて、補正を行うかどうかを判断する。たとえば、前回の推定エリアと今回の推定エリアの面積比がある一定値以上の場合には、今回の推定結果が示す端末4の位置が補正領域内であると判断する。
【0034】
つづいて、図9を参照しながら位置推定処理を説明する。位置推定装置5は、実施の形態1と同様の手順により、基準局1〜3が算出した端末4が送信した信号の伝搬時間を取得する。そして、取得したそれぞれの伝搬時間を距離に換算し、さらに、端末4が存在すると推定されるエリアの面積(今回の推定エリアの面積)を算出し、算出した面積を記憶する。なお、位置推定装置5は、それまで保持していた推定エリアの面積(前回の位置推定処理において算出し、保持しておいた推定エリアの面積)を前回の推定エリアの面積として併せて保持しておく。またさらに、端末4が推定エリア内のどの位置に存在するかを推定し、位置推定結果を得る(ステップS11a)。
【0035】
つぎに、位置推定装置5は、今回の推定エリアの面積と前回の推定エリアの面積の比K(=(今回の推定エリアの面積)/(前回の推定エリアの面積))を算出する(ステップS22)。つぎに、位置推定装置5は、推定位置が補正領域内に含まれているか否かを確認し(ステップS12)、補正領域内に含まれていると判断した場合(ステップS12,Yes)、さらに、上記面積比Kとしきい値(αとする)を比較する(ステップS22)。
【0036】
位置推定装置5は、上記面積比Kがしきい値αを超えていると判断した場合(ステップS22,Yes)、予め求めておいた補正量を用いて推定結果の補正を行う(ステップS13)。一方、上記ステップS12において推定位置が補正領域内に含まれていないと判断した場合(ステップS12,No)および上記ステップS22において面積比Kがしきい値α以下であると判断した場合(ステップS22,No)には、補正を行わずに位置推定動作を終了する。なお、上記ステップS21とS12は順番が逆であってもよい。すなわち、推定結果が補正領域内である場合に面積比を算出し、算出した面積比に基づいて、補正処理を実行するか否かを判断するようにしてもよい。
【0037】
また、本実施の形態においては、一例として端末4が補正領域外から補正領域内へ移動した場合について説明した。一方、端末4が補正領域内から補正領域外で出る場合についての補正の可否判断を行うのであれば、前回推定されたエリアの面積と今回推定されたエリアの面積比(上記K)が所定のしきい値(βとする)未満である場合に補正が不要であると判断すればよい。さらに、端末4が補正領域内(または補正領域外)を移動し続けている場合においては、前回推定されたエリアの面積と今回推定されたエリアの面積比がある一定範囲内(β以上α以下の範囲内)にある場合に補正を行う(補正を行わない)ようにすればよい。この場合、位置推定装置5は、端末4が補正領域内を移動し続けているのか、それとも補正エリア外を移動し続けているのかを認識するために、たとえば前回の推定動作において補正処理を実行したかどうかの情報を保持しておく。
【0038】
また、上記説明では前回の推定エリアの面積と今回の推定エリアの面積の比を用いて補正する必要があるか否かを判断することとしているが、これに限らず、これらの面積の差分などを用いて補正の必要性を判断するようにしてもよい。
【0039】
また、本実施の形態においては、一例として端末4からの送信信号を基準局で受信し、位置推定装置5で位置推定を行う場合について説明したが、実施の形態1の場合と同様に、送受信を逆にし、基準局からの送信信号を端末4で受信するようにしてもよい。この場合には、端末4が位置補正を含めた演算処理を行い、自分の位置を求めることになる。ただし、端末4の演算負荷を下げたい場合には、端末4が算出した各基準局からの伝搬時間をいずれかの基準局経由で位置推定装置5へ通知し、位置推定装置5が位置の推定を行い、推定結果をいずれかの基準局経由で端末4へ通知するようにしてもよい。
【0040】
このように、本実施の形態においては、前回推定されたエリアの面積と今回推定されたエリアの面積の比較結果を用いて補正の必要性を判断することとした。これにより、推定された位置が補正領域であるか否かの判断を正確に行うことが可能となり、不必要に補正処理を実行してしまうのを防止することができる。
【0041】
実施の形態3.
つづいて、実施の形態3の位置推定方法について説明する。上述した実施の形態2では、前回の推定動作において推定したエリアの面積と今回推定したエリアの面積を比較した結果に基づいて補正の必要性を判断することにより、誤って補正処理を実行するのを防止していた。しかしこの方法では、推定されたエリアの面積を求める処理が必要となり、演算量が増加するという問題があった。そのため、本実施の形態では、過去の推定結果から求めた予測位置と推定処理により求めた推定位置との差分と、予め求めておいた補正量とを比較することで、推定位置が補正領域内にあるか否かの判断を行い、誤って補正処理を実行するのを回避する方法について説明を行う。
【0042】
なお、実施の形態1と同様に、位置推定装置5は、固定設置された基準局1〜3から取得した情報(伝搬時間)を用いて端末4の位置推定を行うものとする。また、位置推定を行う範囲内に存在する遮蔽物の位置が予めわかっており、補正が必要な推定結果および補正を行う際の補正量を位置推定装置5が予め認識しているものとする。
【0043】
図10は、本実施の形態の位置推定動作を説明するための図である。図10の上段は、端末4が実際に通った軌跡に対する本来の補正量を示している。中段は、位置推定装置5が上述した実施の形態1の位置推定動作の途中で得られる補正を行う前の推定位置(上記位置推定演算を実行して得られた、誤差を含んだ状態の推定位置)と後述する予測位置との差分を示している。下段は、補正後の推定位置と実際の位置との差分を表している。なお、全て縦軸は距離、横軸は時刻を表している。
【0044】
図10を用いて実施の形態3の位置推定動作を説明する。実施の形態1の場合と同様に、位置推定装置5が基準局1〜3から取得した伝搬時間を使用して位置推定演算を行い端末4の現在位置を推定する(この時点の推定位置は補正実施前のため誤差を含んでいる)。また、これと同時に、過去に推定した端末4の位置から現在の位置を予測する。予測方法は、たとえば上記特許文献2に記載されたものなど、従来から使用されていた方法を使用する。さらに位置推定装置5は、現在の推定位置(補正実施前の推定位置)と予測位置(必要に応じて補正が実施され、誤差が除去された状態の予測位置)の差分を求める。たとえば、図10に示したP1〜P2の間においては、図中の上段のような補正量が必要であるため、上記位置推定装置5が求めた差分は、上段と同じ差分量となるはずである。しかし、雑音等の影響による推定誤差により、実際に位置推定装置5で求めた差分が中段に示した例のように、上段に示した本来の差分と完全には一致しない場合がある。なお、中段に示したX1は、補正領域外(本来補正が必要でない領域)において推定誤差を生じた場合であり、Y1およびY2は補正領域内において推定誤差を生じた場合を表している。本実施の形態では、補正処理によりこのような推定誤差を取り除く。
【0045】
一例として、端末4が移動し、X1地点に到達した時点で実行する位置推定結果の補正動作について説明する。X1地点の位置推定を行う場合、位置推定装置5は、上述したように、端末4の現在位置の推定処理、現在位置の予測処理、および推定位置と予測位置の差分算出処理を実行する。さらに、求めた差分量(D1)と、予め算出し保持しておいた推定位置における本来の差分量(補正量)とを比較し、求めた差分量と保持しておいた差分量が異なる場合には、補正を行う。この例ではD1が本来の差分量(=0)と異なるため、位置推定装置5は、位置推定を誤ったと判断し、推定位置をD1だけ補正する。
【0046】
また別の例として、端末4がX1地点からさらに移動し、補正領域(P1〜P2)内を移動中に実行する位置推定結果の補正動作について説明する。補正領域内を移動している場合、遮蔽物の影響により、推定位置と予測位置の差分は、本来常にD2となるのが正しい。そのため、位置推定装置5は、P1〜Y1までの間では、推定された位置をD2だけ補正する。また、Y1では差分がD4となり、本来の補正量D2と異なるため、推定位置を誤ったと判断し、D4だけ補正を行う。
【0047】
なお、以上の説明では、任意の点において、位置推定装置5が求めた差分量と保持しておいた差分量が一致するかどうかを判断基準としていた。しかしながら、実際には現在の端末の位置が過去の軌跡から予測された予測値と離れていく場合がある。従って、実際には、位置推定装置5が求めた差分量と保持しておいた差分量の誤差に一定の範囲を持たせ、これらの差分量の誤差が一定(許容誤差範囲)以上になった場合に補正を行うものとする。図10の例においては、地点Y2で位置推定装置5が求めた差分(D4)と保持しておいた差分量(D2)が一致していないが、差分の誤差が許容誤差範囲内であったためD2の値で補正を行う。従って、下段に示した補正後の推定位置と実際の位置との差分がゼロにならず、位置推定装置5が推定した端末4の軌跡と実際の軌跡には若干の誤差が含まれる(誤差が生じている)。許容誤差範囲を小さくすることで補正できずに残ってしまう誤差を小さくすることが出来るが、この場合、端末4が予測位置から大きく離れて移動するとその軌跡を追従できなくなる。そのため、許容誤差範囲に関しては、考えられる対象とする端末4の挙動に合わせてシステム毎に設定するのが良い。
【0048】
なお、本実施の形態においては、一例として端末4からの送信信号を基準局で受信し、位置推定装置5で位置推定を行う場合について説明したが、実施の形態1の場合と同様に、送受信を逆にし、基準局からの送信信号を端末4で受信するようにしてもよい。この場合には、端末4が位置補正を含めた演算処理を行い、自分の位置を求めることになる。ただし、端末4の演算負荷を下げたい場合には、端末4が算出した各基準局からの伝搬時間をいずれかの基準局経由で位置推定装置5へ通知し、位置推定装置5が位置の推定を行い、推定結果をいずれかの基準局経由で端末4へ通知するようにしてもよい。
【0049】
このように、本実施の形態においては、過去の推定結果から求めた目標物の予測位置と、無線を使用して推測した目標物の推定位置との差分量、および予め求めておいた補正量(推定位置に対して与える補正量)に基づいて、当該推定位置を補正することとした。これにより、上述した実施の形態2と比較してより少ない演算量で、不必要に補正処理を実行してしまうのを防止することができる。また、端末4が補正領域外に存在する場合であっても推定位置と予測位置が異なる場合には、これらの差分を用いて推定位置を補正することとした。これにより、補正領域外での推定精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明にかかる位置推定方法は、無線を使用した位置推定に有用であり、特に、推定結果に影響を与える遮蔽物が存在している領域内において行う位置推定に適している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明にかかる位置推定方法を適用したシステムにおいて、遮蔽物に起因する補正領域を説明するための図である。
【図2】実施の形態1の位置推定動作を説明するための図である。
【図3】端末の移動経路の一例を示す図である。
【図4】図3に示した経路を辿った場合の端末の推定軌跡を示す図である。
【図5】実施の形態1の位置推定動作の一例を示すフローチャートである。
【図6】推定位置の求め方を説明するための図である。
【図7】位置推定結果が示す領域の一例を示す図である。
【図8】実施の形態2の位置推定動作を説明するための図である。
【図9】実施の形態2の位置推定動作の一例を示すフローチャートである。
【図10】実施の形態3の位置推定動作を説明するための図である。
【図11】無線を使用した位置推定を説明するための図である。
【符号の説明】
【0052】
1,2,3 基準局
4 端末(移動端末)
5 位置推定装置
6 仕切板(遮蔽物)
7 補正領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線を使用して行う位置推定に関するものであり、特に、障害物などの影響により発生する推定誤差を送信機から受信機への無線信号の伝達時間に基づいて補正する位置推定方法およびこれを実現する位置推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線を使用して位置を推定する場合、たとえば図11に示したように、推定したい位置の端末から送信された電波を、その周辺に固定設置された複数の無線装置(基準局a〜基準局c)が受信し、各基準局における端末からの電波の遅延量(電波伝搬時間)を用いて演算部で位置推定を行うのが一般的である。しかし、この場合、A/D変換器やD/A変換器におけるサンプルクロックに起因するクロック誤差によって、推定精度が劣化する。また、反射波があるような環境では、反射波によって、推定値に誤差を生じる。そのため、推定誤差を排除して推定精度を上げるために、三角測量法などの演算によって位置を推定し、さらに予め実測して求めておいた参照情報を用いて推定した位置を補正する方式が提案されている(たとえば下記特許文献1)。
【0003】
また、過去に計測された受信機の位置から予測した現在の位置と、演算により求めた現在の位置の誤差を用いて現在の推定位置の補正を行う方式(たとえば下記特許文献2)や、粗粒度の測位手段による測位結果と細粒度の測位手段による測位結果の組み合わせにより精度向上を行う方式(たとえば下記特許文献3)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−215258号公報
【特許文献2】特開2005−24535号公報
【特許文献3】特開2006−3187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載された従来の位置推定技術は、つぎのような問題点をそれぞれ有している。すなわち、上記特許文献1に記載の方式では、広大なサービスエリアの全ての領域に対して参照情報を用いた精度向上技術を適用することが困難なため、局所的な位置でしか補正できない、という問題があった。
【0006】
また、上記特許文献2および3に記載の方式は、見通し通信を前提として、演算により推定精度を向上させている。そのため、たとえば遮蔽によって受信レベルが本来のレベルよりも低くなった信号や、伝搬時間が本来よりも大きくなった信号など、信頼度の低い信号を用いて演算を行ったために推定精度が大きく劣化するような場合に、その劣化要因の信号を排除して推定精度を向上させることができない、という問題があった。
【0007】
また、補正処理における演算量が大きくなる、という問題もあった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、見通し通信が不可能なエリアが存在する領域を対象とした位置推定において、見通し通信を妨げる障害物などの影響により生じる推定誤差を少ない演算量で補正し、高精度な位置推定を実現する位置推定方法および位置推定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、固定設置された複数の基準局と位置推定装置により構成された位置推定システムにおいて、前記位置推定装置が前記システム内の移動端末の位置を推定する場合の位置推定方法であって、遮蔽物の物理的性質および前記移動端末が送信する電波の物理的性質に基づいて、位置に関する補正情報を予め算出しておく補正情報算出ステップと、前記各基準局と前記移動端末との間の伝搬時間に基づいて当該移動端末の位置を推定する位置推定ステップと、前記位置推定ステップにおける推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいるか否かを判断する判断ステップと、前記判断ステップにより前記推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいると判断された場合に、前記予め算出しておいた補正情報を用いて前記推定結果を補正する補正ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、たとえばUWBのような遮蔽物を通過する無線を用いて位置推定を行う場合において、推定結果を補正する必要があると判断した場合には、予め求めておいた情報(遅延量)を用いて推定結果を補正することとしたので、あらためて遅延量を算出する必要がなくなり、従来と比較してより少ない演算量で位置推定精度を向上させることができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる位置推定方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明にかかる位置推定方法を適用したシステムにおいて、仕切り板などの遮蔽物の影響を受けて推定精度が劣化する領域を説明するための図である。このシステムは、複数の基準局(基準局1〜3)と、位置推定装置5とを含んでいる。基準局1〜3は、固定設置され、位置推定に使用する情報である電波の遅延量(位置推定対象からの電波の伝搬時間)の測定などを行う装置であり、たとえば基地局などの機能を有する通信装置である。位置推定装置5は、各基準局に接続されており、各基準局から取得した情報(上記電波の遅延量)を使用して位置を推定する機能を有する装置である。また、図1は、一例として、基準局3に対する補正領域7すなわち基準局3が測定を行う場合に遮蔽物である仕切板6の影響を受けるエリア(斜線部分)を示している。
【0013】
図2は、本発明にかかる位置推定方法を説明するための図であり、一例として、3つの基準局(基準局1〜3)を用いて端末4の位置を推定する場合を示している。位置推定動作においては、端末4が送信した電波の伝搬時間を各基準局が位置推定装置5へ通知し、通知を受けた伝搬時間に基づいて位置推定装置5が端末4の位置を推定する。
【0014】
図3は、端末4の移動経路の一例を示す図であり、図4は、図3に示したような経路を端末4が辿った場合に推定される軌跡を示す図である。
【0015】
ここで、本発明にかかる位置推定方法の概要について説明する。本発明は、予め遮蔽物の位置がわかっている場合には、推定された位置に対して予め求めておいた補正値を用いて補正を行うことで、誤差を抑えるものである。これにより、実測等による参照情報を求める必要がなくなり演算量を削減できる。また、遮蔽の影響により推定結果に大きな誤差を生じさせる信号が存在した場合でも予め求めておいた補正値を用いて補正を行う事が可能なため、本信号(遮蔽の影響を受けた信号)による誤差を抑圧することが可能となる。
【0016】
測位を行うにあたっては、波長が短い(周波数が高い)または、信号帯域幅が広い方が、より推定精度が高くなる。このため、UWB(Ultra Wide Band)のような広帯域の信号を使用することにより推定精度を高くすることが出来る。またUWBは電波の性質として遮蔽物があっても透過する性質がある。したがって、従来の位置推定方式では遮蔽物によって電波が届かないようなケースであっても、UWBを使用した場合には遮蔽物を通過した信号が受信できることになる。一方、遮蔽物を通過した場合には、遮蔽物の物質的性質によっては、伝達時間の遅延(送信機から受信機までの伝搬時間の増大)や信号レベルの減衰を生じるため、位置推定における誤差要因となり易い。
【0017】
しかしながら、上記課題の説明でも記載したように、従来の位置推定方式では、誤差要因となる信号を見分ける(排除する)ことが不可能であった。これに対して本発明では、遮蔽物によって生じる誤差を予め求めておき、これを利用して位置の推定誤差を抑圧する。
【0018】
従来の位置推定方式においてマイクロ波帯やミリ波帯における狭帯域信号など、遮蔽物を通過できない性質の信号を使用した場合、遮蔽物があった場合には電波が遮断されていた。そのため、遮蔽物の影響を受け、推定誤差の要因となる信号を使用して位置を推定することはない。これに対して、UWBのような超広帯域の信号の場合には遮蔽物や障害物を通過するため、このような信号と従来の方式とを組み合わせて使用する場合には、推定誤差が大きくなる可能性がある。従って、本発明にかかる方式は遮蔽物や障害物を通過できるような信号を用いた場合に特に有効である。
【0019】
つづいて、図面を用いて本発明にかかる位置推定動作を説明する。なお、以下の説明においては、使用する無線をUWBとし、遮蔽物を通過した場合に伝達時間の遅延と信号レベルの減衰が生じるものとする。また、一例として、人物監視システムのように屋内において端末を持った人の位置を特定したいシステムの場合の動作を説明する。また、図2に示したように、部屋内に3つの基準局(基準局1〜3)が設置されているものとし、この部屋内に存在する端末4の位置を推定するものとする。
【0020】
端末4は、各基準局に対して、当該各基準局または位置推定装置5が自端末(端末4)の位置を推定するための信号を送信する。基準局1〜3は、端末4が送信した信号を受信する。基準局1は、受信信号を用いて、当該信号の端末4から自身までの伝搬時間Δt1を算出する。同様に、基準局2および3は、それぞれ受信信号の伝搬時間(Δt2,Δt3)を算出する。位置推定装置5は、基準局1〜3が算出した伝搬時間を取得する。そして、取得したそれぞれの伝搬時間を距離に換算し、図6に示したように、各々の基準局からの距離の交点を求める。この交点が端末4の位置を表すことになる。ただし、実際には各基準局のサンプリング誤差や雑音等の影響により、各々の基準局からの距離は一点では交わらず、たとえば図7に示したエリア(a)のような領域を持つ。従って、領域内のどの点にいるのかを演算によって推定する。この演算方法は、例えば、上記特許文献1に示された三角測量法などを用いる。なお、各基準局が、上記算出した伝搬時間を用いて端末4までの距離を算出し、位置推定装置5は、各基準局により算出された距離を取得するようにしてもよい。
【0021】
以上のような動作を基準局1〜3および位置推定装置5が継続して実行し、端末4の位置を継続して推測している状態において、端末4が、図3に示したA地点からD地点までの一点鎖線矢印上を移動する場合の推定結果について説明する。ここで、B地点とC地点の間は、仕切板6が障害となり基準局3が端末4からの直接波を受信できない領域(図1に示した基準局3に対する補正領域7に相当)である。UWBを用いた場合、電波が壁を通過するため、この壁を通過した電波を用いた従来の方式での位置推定が可能である。しなしながら、壁を通過する場合には空間を通過する場合に比べて伝搬時間が増加するため、基準局3での受信信号は、本来の伝搬時間よりも大きくなる。その結果、この区間では位置の推定に誤りを生じる。すなわち、伝搬時間が増加した場合、基準局3から端末4までの推定距離が本来の推定距離よりも大きくなる。図4は、このときの位置推定結果の一例を示した図であり、位置推定装置5により推定された軌跡は、仕切板6の影響を受けると本来の軌跡から大きく外れてしまう。図4では、推定された位置を辿ったもの(推定された軌跡)を実線で示し、本来の位置を辿ったものを点線で示している。
【0022】
このように、遮蔽物を通過可能な電波を用いて位置を推定する場合、従来の方式では推定精度が大きく劣化する可能性がある。そのため、本発明にかかる位置推定方法ではこれらの欠点を解決するため、予め遮蔽物の位置がわかっている場合には、推定された位置に対して予め求めておいた補正値を用いて補正を行うことで、誤差を抑える。
【0023】
図3に示した網掛け部分は、仕切板6によって端末4から基準局3への信号に遅延を生じさせる領域である。そのため、位置推定装置5は、端末4の推定位置(位置推定結果が示す位置)がこの補正領域(図3の網掛け部分)内にあると判断した場合には、仕切板の影響により生じる伝搬時間の増加量に相当する補正量(補正情報)を用いて補正を行い、正しい位置推定結果を得る。なお、補正情報は、仕切り板の材質から予め求めておく。同様に、基準局1および2に対しても補正領域(推定結果を補正する必要がある領域)および補正情報を予め求めておき、位置推定装置5は、端末4の推定位置が補正領域内であった場合には、各々に対する誤差の補正を行う。
【0024】
なお、位置推定装置5は、位置推定結果(大きな推定誤差を含んだ位置推定結果)に対して補正を行うことにより正しい位置推定結果を得るようにしてもよいし、端末4から基準局までの電波の伝達時間(または距離)を補正し、補正を実行して得られた情報を用いて端末4の正しい位置を推定するようにしてもよい。また、上記補正処理において使用する補正量は、位置推定装置5が保持しておいてもよいし、位置推定装置5とは異なる記憶装置(図示せず)などが保持しておき、必要に応じて位置推定装置5へ補正量を提供するようにしてもよい。
【0025】
図5は、上述した本実施の形態の位置推定動作の一例を示すフローチャートである。本実施の形態では、位置推定装置は、まず基準局1〜3より取得した情報(推定対象の端末4から各基準局までの電波の伝搬時間または距離)を用いて位置推定演算を実行し、端末4の位置を推定する(ステップS11)。つぎに推定位置が補正領域内に含まれているか否かを確認し(ステップS12)、補正領域内に含まれていると判断した場合(ステップS12,Yes)、予め求めておいた補正量を用いて推定結果の補正を行う(ステップS13)。一方、上記ステップS12において推定位置が補正領域内に含まれていないと判断した場合には(ステップS12,No)、補正を行わずに位置推定動作を終了する。
【0026】
なお、本実施の形態においては、一例として端末4からの送信信号を基準局で受信し、位置推定装置5で位置推定を行う場合について説明したが、送信側と受信側を入れ替えて、基準局からの送信信号を端末4で受信するようにしてもよい。この場合には、端末4が位置補正を含めた演算処理を行い、自分の位置を求めることになる。ただし、端末4の演算負荷を下げたい場合には、端末4が算出した各基準局からの伝搬時間をいずれかの基準局経由で位置推定装置5へ通知し、位置推定装置5が位置の推定を行い、推定結果をいずれかの基準局経由で端末4へ通知するようにしてもよい。
【0027】
このように、本実施の形態においては、たとえばUWBのような遮蔽物を通過する無線を用いて位置推定を行う場合において、推定結果が示す位置が補正領域であった場合には、予め求めておいた遅延量を用いて推定結果を補正することとした。これにより、補正が必要な場合にあらためて遅延量を算出する必要がなくなり、従来方式と比較して、より少ない演算量で位置推定精度を向上させることができる。加えて、たとえば、上記「背景技術」において示した特許文献1や特許文献2においては、演算を実行して誤差補正量を求めているが、本発明では既知の補正情報(予め求めておいた補正量)を用いて補正を行うため、より高精度な推定結果を得ることができる。
【0028】
実施の形態2.
つづいて、実施の形態2の位置推定方法について説明する。上述した実施の形態1では、推定結果が示す位置が補正領域7に含まれている場合に推定位置の補正を行っていた。この場合、推定位置に誤差を生じた場合、補正領域外であるにもかかわらず(補正が不要であるにもかかわらず)、補正処理を実行してしまい誤差が大きくなるという欠点がある。そのため、本実施の形態では、推定結果を過去(前回)の推定結果と比較し、比較結果を用いて、推定された位置を補正する必要があるか否かの判断を行うことで、誤って補正処理を実行してしまうことを防止する方法について説明を行う。なお、実施の形態1と同様に、位置推定装置5は、固定設置された基準局1〜3から取得した情報(伝搬時間)を用いて端末4の位置推定を行うものとする。
【0029】
図8は、端末4が移動中に3つの基準局のうちの一つの基準局と端末4の間に遮蔽物が入ったため、前回の推定エリアよりも今回の推定エリアの面積が大きくなる場合の動作を説明するための図である。また、図9は、本実施の形態の動作の一例を示すフローチャートである。なお、図9では、図5に示した実施の形態1の推定動作に含まれる処理と同じ処理に対して同一のステップ番号を付している。
【0030】
以下、図8および図9を用いて実施の形態2の位置推定動作を説明する。実施の形態1の場合と同様に、位置推定装置5が端末4についての位置推定動作を実行し、基準局1〜3と端末の距離が各々L1〜L3となったとする。この場合、各基準局から距離を半径とする円を描くと、その交点が推定結果となり、そこに端末4が存在する(図6参照)。しかし、実際には雑音等の影響により一点で交わらない場合がある。この場合、端末4の位置は図7の推定エリア(a)のような領域で表現される。そして、位置推定装置5は、上述した実施の形態と同様に、端末4が推定エリア(a)内のどの点にいるのかを演算によって推定する。さらに、本実施の形態では、位置推定装置5は、上記推定エリア(a)の面積を算出し、保持しておく。
【0031】
その後、位置推定装置5が端末4についての次の位置推定動作を実行するまでの間に端末4が、基準局3との間に遮蔽物が存在する位置へ移動したとする。そして、この状態において位置推定動作を実行した場合、基準局3が算出する伝搬時間には、遮蔽物による余分な伝搬時間(誤差)が含まれる。そのため、この情報(伝搬時間)を使用して位置推定装置5が算出した基準局3から端末4までの距離は、本来の距離よりも大きくなり、L3’+ΔLとなる(L3’:本来の距離、ΔL:誤差)。この場合、推定される領域はエリア(a’+b’)となり、本来推定されるはずのエリア(a’)と比較して、その面積が大きくなる。
【0032】
ここで、位置推定装置5が前回の位置推定動作において算出した推定エリア(a)の面積と、今回の位置推定動作において本来推定されるべきエリア(a’)の面積とは近似関係(その差分が0に近い関係)にあるといえる。特に、前回の位置推定動作時の端末4と今回の位置推定動作時の端末4の位置が大きく変わらなければ、前回と今回の推定エリアの差分は、より0に近くなる。したがって、前回推定したエリアの面積と今回推定したエリアの面積が大きく異なる場合には、端末4が、「基準局との間に遮蔽物が存在しない領域(補正が不要な領域)から遮蔽物が存在する領域(補正が必要な領域)へ移動した」または「基準局との間に遮蔽物が存在する領域から遮蔽物が存在しない領域へ移動した」といえる。
【0033】
したがって、本実施の形態では、推定動作により推定したエリアを前回の推定動作により推定したエリアと比較し、比較結果に基づいて、補正を行うかどうかを判断する。たとえば、前回の推定エリアと今回の推定エリアの面積比がある一定値以上の場合には、今回の推定結果が示す端末4の位置が補正領域内であると判断する。
【0034】
つづいて、図9を参照しながら位置推定処理を説明する。位置推定装置5は、実施の形態1と同様の手順により、基準局1〜3が算出した端末4が送信した信号の伝搬時間を取得する。そして、取得したそれぞれの伝搬時間を距離に換算し、さらに、端末4が存在すると推定されるエリアの面積(今回の推定エリアの面積)を算出し、算出した面積を記憶する。なお、位置推定装置5は、それまで保持していた推定エリアの面積(前回の位置推定処理において算出し、保持しておいた推定エリアの面積)を前回の推定エリアの面積として併せて保持しておく。またさらに、端末4が推定エリア内のどの位置に存在するかを推定し、位置推定結果を得る(ステップS11a)。
【0035】
つぎに、位置推定装置5は、今回の推定エリアの面積と前回の推定エリアの面積の比K(=(今回の推定エリアの面積)/(前回の推定エリアの面積))を算出する(ステップS22)。つぎに、位置推定装置5は、推定位置が補正領域内に含まれているか否かを確認し(ステップS12)、補正領域内に含まれていると判断した場合(ステップS12,Yes)、さらに、上記面積比Kとしきい値(αとする)を比較する(ステップS22)。
【0036】
位置推定装置5は、上記面積比Kがしきい値αを超えていると判断した場合(ステップS22,Yes)、予め求めておいた補正量を用いて推定結果の補正を行う(ステップS13)。一方、上記ステップS12において推定位置が補正領域内に含まれていないと判断した場合(ステップS12,No)および上記ステップS22において面積比Kがしきい値α以下であると判断した場合(ステップS22,No)には、補正を行わずに位置推定動作を終了する。なお、上記ステップS21とS12は順番が逆であってもよい。すなわち、推定結果が補正領域内である場合に面積比を算出し、算出した面積比に基づいて、補正処理を実行するか否かを判断するようにしてもよい。
【0037】
また、本実施の形態においては、一例として端末4が補正領域外から補正領域内へ移動した場合について説明した。一方、端末4が補正領域内から補正領域外で出る場合についての補正の可否判断を行うのであれば、前回推定されたエリアの面積と今回推定されたエリアの面積比(上記K)が所定のしきい値(βとする)未満である場合に補正が不要であると判断すればよい。さらに、端末4が補正領域内(または補正領域外)を移動し続けている場合においては、前回推定されたエリアの面積と今回推定されたエリアの面積比がある一定範囲内(β以上α以下の範囲内)にある場合に補正を行う(補正を行わない)ようにすればよい。この場合、位置推定装置5は、端末4が補正領域内を移動し続けているのか、それとも補正エリア外を移動し続けているのかを認識するために、たとえば前回の推定動作において補正処理を実行したかどうかの情報を保持しておく。
【0038】
また、上記説明では前回の推定エリアの面積と今回の推定エリアの面積の比を用いて補正する必要があるか否かを判断することとしているが、これに限らず、これらの面積の差分などを用いて補正の必要性を判断するようにしてもよい。
【0039】
また、本実施の形態においては、一例として端末4からの送信信号を基準局で受信し、位置推定装置5で位置推定を行う場合について説明したが、実施の形態1の場合と同様に、送受信を逆にし、基準局からの送信信号を端末4で受信するようにしてもよい。この場合には、端末4が位置補正を含めた演算処理を行い、自分の位置を求めることになる。ただし、端末4の演算負荷を下げたい場合には、端末4が算出した各基準局からの伝搬時間をいずれかの基準局経由で位置推定装置5へ通知し、位置推定装置5が位置の推定を行い、推定結果をいずれかの基準局経由で端末4へ通知するようにしてもよい。
【0040】
このように、本実施の形態においては、前回推定されたエリアの面積と今回推定されたエリアの面積の比較結果を用いて補正の必要性を判断することとした。これにより、推定された位置が補正領域であるか否かの判断を正確に行うことが可能となり、不必要に補正処理を実行してしまうのを防止することができる。
【0041】
実施の形態3.
つづいて、実施の形態3の位置推定方法について説明する。上述した実施の形態2では、前回の推定動作において推定したエリアの面積と今回推定したエリアの面積を比較した結果に基づいて補正の必要性を判断することにより、誤って補正処理を実行するのを防止していた。しかしこの方法では、推定されたエリアの面積を求める処理が必要となり、演算量が増加するという問題があった。そのため、本実施の形態では、過去の推定結果から求めた予測位置と推定処理により求めた推定位置との差分と、予め求めておいた補正量とを比較することで、推定位置が補正領域内にあるか否かの判断を行い、誤って補正処理を実行するのを回避する方法について説明を行う。
【0042】
なお、実施の形態1と同様に、位置推定装置5は、固定設置された基準局1〜3から取得した情報(伝搬時間)を用いて端末4の位置推定を行うものとする。また、位置推定を行う範囲内に存在する遮蔽物の位置が予めわかっており、補正が必要な推定結果および補正を行う際の補正量を位置推定装置5が予め認識しているものとする。
【0043】
図10は、本実施の形態の位置推定動作を説明するための図である。図10の上段は、端末4が実際に通った軌跡に対する本来の補正量を示している。中段は、位置推定装置5が上述した実施の形態1の位置推定動作の途中で得られる補正を行う前の推定位置(上記位置推定演算を実行して得られた、誤差を含んだ状態の推定位置)と後述する予測位置との差分を示している。下段は、補正後の推定位置と実際の位置との差分を表している。なお、全て縦軸は距離、横軸は時刻を表している。
【0044】
図10を用いて実施の形態3の位置推定動作を説明する。実施の形態1の場合と同様に、位置推定装置5が基準局1〜3から取得した伝搬時間を使用して位置推定演算を行い端末4の現在位置を推定する(この時点の推定位置は補正実施前のため誤差を含んでいる)。また、これと同時に、過去に推定した端末4の位置から現在の位置を予測する。予測方法は、たとえば上記特許文献2に記載されたものなど、従来から使用されていた方法を使用する。さらに位置推定装置5は、現在の推定位置(補正実施前の推定位置)と予測位置(必要に応じて補正が実施され、誤差が除去された状態の予測位置)の差分を求める。たとえば、図10に示したP1〜P2の間においては、図中の上段のような補正量が必要であるため、上記位置推定装置5が求めた差分は、上段と同じ差分量となるはずである。しかし、雑音等の影響による推定誤差により、実際に位置推定装置5で求めた差分が中段に示した例のように、上段に示した本来の差分と完全には一致しない場合がある。なお、中段に示したX1は、補正領域外(本来補正が必要でない領域)において推定誤差を生じた場合であり、Y1およびY2は補正領域内において推定誤差を生じた場合を表している。本実施の形態では、補正処理によりこのような推定誤差を取り除く。
【0045】
一例として、端末4が移動し、X1地点に到達した時点で実行する位置推定結果の補正動作について説明する。X1地点の位置推定を行う場合、位置推定装置5は、上述したように、端末4の現在位置の推定処理、現在位置の予測処理、および推定位置と予測位置の差分算出処理を実行する。さらに、求めた差分量(D1)と、予め算出し保持しておいた推定位置における本来の差分量(補正量)とを比較し、求めた差分量と保持しておいた差分量が異なる場合には、補正を行う。この例ではD1が本来の差分量(=0)と異なるため、位置推定装置5は、位置推定を誤ったと判断し、推定位置をD1だけ補正する。
【0046】
また別の例として、端末4がX1地点からさらに移動し、補正領域(P1〜P2)内を移動中に実行する位置推定結果の補正動作について説明する。補正領域内を移動している場合、遮蔽物の影響により、推定位置と予測位置の差分は、本来常にD2となるのが正しい。そのため、位置推定装置5は、P1〜Y1までの間では、推定された位置をD2だけ補正する。また、Y1では差分がD4となり、本来の補正量D2と異なるため、推定位置を誤ったと判断し、D4だけ補正を行う。
【0047】
なお、以上の説明では、任意の点において、位置推定装置5が求めた差分量と保持しておいた差分量が一致するかどうかを判断基準としていた。しかしながら、実際には現在の端末の位置が過去の軌跡から予測された予測値と離れていく場合がある。従って、実際には、位置推定装置5が求めた差分量と保持しておいた差分量の誤差に一定の範囲を持たせ、これらの差分量の誤差が一定(許容誤差範囲)以上になった場合に補正を行うものとする。図10の例においては、地点Y2で位置推定装置5が求めた差分(D4)と保持しておいた差分量(D2)が一致していないが、差分の誤差が許容誤差範囲内であったためD2の値で補正を行う。従って、下段に示した補正後の推定位置と実際の位置との差分がゼロにならず、位置推定装置5が推定した端末4の軌跡と実際の軌跡には若干の誤差が含まれる(誤差が生じている)。許容誤差範囲を小さくすることで補正できずに残ってしまう誤差を小さくすることが出来るが、この場合、端末4が予測位置から大きく離れて移動するとその軌跡を追従できなくなる。そのため、許容誤差範囲に関しては、考えられる対象とする端末4の挙動に合わせてシステム毎に設定するのが良い。
【0048】
なお、本実施の形態においては、一例として端末4からの送信信号を基準局で受信し、位置推定装置5で位置推定を行う場合について説明したが、実施の形態1の場合と同様に、送受信を逆にし、基準局からの送信信号を端末4で受信するようにしてもよい。この場合には、端末4が位置補正を含めた演算処理を行い、自分の位置を求めることになる。ただし、端末4の演算負荷を下げたい場合には、端末4が算出した各基準局からの伝搬時間をいずれかの基準局経由で位置推定装置5へ通知し、位置推定装置5が位置の推定を行い、推定結果をいずれかの基準局経由で端末4へ通知するようにしてもよい。
【0049】
このように、本実施の形態においては、過去の推定結果から求めた目標物の予測位置と、無線を使用して推測した目標物の推定位置との差分量、および予め求めておいた補正量(推定位置に対して与える補正量)に基づいて、当該推定位置を補正することとした。これにより、上述した実施の形態2と比較してより少ない演算量で、不必要に補正処理を実行してしまうのを防止することができる。また、端末4が補正領域外に存在する場合であっても推定位置と予測位置が異なる場合には、これらの差分を用いて推定位置を補正することとした。これにより、補正領域外での推定精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明にかかる位置推定方法は、無線を使用した位置推定に有用であり、特に、推定結果に影響を与える遮蔽物が存在している領域内において行う位置推定に適している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明にかかる位置推定方法を適用したシステムにおいて、遮蔽物に起因する補正領域を説明するための図である。
【図2】実施の形態1の位置推定動作を説明するための図である。
【図3】端末の移動経路の一例を示す図である。
【図4】図3に示した経路を辿った場合の端末の推定軌跡を示す図である。
【図5】実施の形態1の位置推定動作の一例を示すフローチャートである。
【図6】推定位置の求め方を説明するための図である。
【図7】位置推定結果が示す領域の一例を示す図である。
【図8】実施の形態2の位置推定動作を説明するための図である。
【図9】実施の形態2の位置推定動作の一例を示すフローチャートである。
【図10】実施の形態3の位置推定動作を説明するための図である。
【図11】無線を使用した位置推定を説明するための図である。
【符号の説明】
【0052】
1,2,3 基準局
4 端末(移動端末)
5 位置推定装置
6 仕切板(遮蔽物)
7 補正領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定設置された複数の基準局と位置推定装置により構成された位置推定システムにおいて、前記位置推定装置が前記システム内の移動端末の位置を推定する場合の位置推定方法であって、
遮蔽物の物理的性質および前記移動端末が送信する電波の物理的性質に基づいて、位置に関する補正情報を予め算出しておく補正情報算出ステップと、
前記各基準局と前記移動端末との間の伝搬時間に基づいて当該移動端末の位置を推定する位置推定ステップと、
前記位置推定ステップにおける推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいるか否かを判断する判断ステップと、
前記判断ステップにより前記推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいると判断された場合に、前記予め算出しておいた補正情報を用いて前記推定結果を補正する補正ステップと、
を含むことを特徴とする位置推定方法。
【請求項2】
前記遮蔽物および前記複数の基準局の位置関係に基づいて、前記推定誤差を含んでいるか否かを判断するための推定誤差含有領域を特定しておき、
前記判断ステップでは、前記移動端末の推定位置が前記推定誤差含有領域に含まれているか否かを確認し、当該推定誤差含有領域に含まれる場合に、推定誤差を含んでいると判断することを特徴とする請求項1に記載の位置推定方法。
【請求項3】
前記位置推定ステップでは、
前記伝搬時間に基づいて前記移動端末が存在するエリアを推定する第1工程と、
前記推定エリア内を対象として、既存の位置推定技術を使用して前記移動端末の位置を推定する第2工程と、
を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の位置推定方法。
【請求項4】
前記位置推定ステップでは、
さらに、前記特定した推定エリアの面積を算出し、当該算出した面積を第1の面積として更新保持しつつ更新する前に第1の面積として保持していた面積を第2の面積として更新保持する第3工程、
を実行し、
前記判断ステップでは、推定誤差を含んでいると判断した場合に、さらに前記第1の面積と前記第2の面積の比較結果に基づいて前記推定結果を補正する必要があるか否かを判断し、
前記補正ステップでは、前記判断ステップにおいて「推定結果を補正する必要がある」と判断された場合に、推定結果を補正することを特徴とする請求項3に記載の位置推定方法。
【請求項5】
前記位置推定ステップでは、
さらに、前記移動端末についての過去の推定結果に基づいて当該移動端末の位置を予測する第3の工程、
を実行し、
前記判断ステップでは、推定誤差を含んでいると判断した場合に、さらに前記推定結果と前記予測結果の比較結果に基づいて前記推定結果を補正する必要があるか否かを判断し、
前記補正ステップでは、前記判断ステップにおいて「推定結果を補正する必要がある」と判断された場合に、推定結果を補正することを特徴とする請求項3に記載の位置推定方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の位置推定方法を実現することを特徴とする位置推定装置。
【請求項1】
固定設置された複数の基準局と位置推定装置により構成された位置推定システムにおいて、前記位置推定装置が前記システム内の移動端末の位置を推定する場合の位置推定方法であって、
遮蔽物の物理的性質および前記移動端末が送信する電波の物理的性質に基づいて、位置に関する補正情報を予め算出しておく補正情報算出ステップと、
前記各基準局と前記移動端末との間の伝搬時間に基づいて当該移動端末の位置を推定する位置推定ステップと、
前記位置推定ステップにおける推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいるか否かを判断する判断ステップと、
前記判断ステップにより前記推定結果が遮蔽物の影響による推定誤差を含んでいると判断された場合に、前記予め算出しておいた補正情報を用いて前記推定結果を補正する補正ステップと、
を含むことを特徴とする位置推定方法。
【請求項2】
前記遮蔽物および前記複数の基準局の位置関係に基づいて、前記推定誤差を含んでいるか否かを判断するための推定誤差含有領域を特定しておき、
前記判断ステップでは、前記移動端末の推定位置が前記推定誤差含有領域に含まれているか否かを確認し、当該推定誤差含有領域に含まれる場合に、推定誤差を含んでいると判断することを特徴とする請求項1に記載の位置推定方法。
【請求項3】
前記位置推定ステップでは、
前記伝搬時間に基づいて前記移動端末が存在するエリアを推定する第1工程と、
前記推定エリア内を対象として、既存の位置推定技術を使用して前記移動端末の位置を推定する第2工程と、
を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の位置推定方法。
【請求項4】
前記位置推定ステップでは、
さらに、前記特定した推定エリアの面積を算出し、当該算出した面積を第1の面積として更新保持しつつ更新する前に第1の面積として保持していた面積を第2の面積として更新保持する第3工程、
を実行し、
前記判断ステップでは、推定誤差を含んでいると判断した場合に、さらに前記第1の面積と前記第2の面積の比較結果に基づいて前記推定結果を補正する必要があるか否かを判断し、
前記補正ステップでは、前記判断ステップにおいて「推定結果を補正する必要がある」と判断された場合に、推定結果を補正することを特徴とする請求項3に記載の位置推定方法。
【請求項5】
前記位置推定ステップでは、
さらに、前記移動端末についての過去の推定結果に基づいて当該移動端末の位置を予測する第3の工程、
を実行し、
前記判断ステップでは、推定誤差を含んでいると判断した場合に、さらに前記推定結果と前記予測結果の比較結果に基づいて前記推定結果を補正する必要があるか否かを判断し、
前記補正ステップでは、前記判断ステップにおいて「推定結果を補正する必要がある」と判断された場合に、推定結果を補正することを特徴とする請求項3に記載の位置推定方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の位置推定方法を実現することを特徴とする位置推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−256475(P2008−256475A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97798(P2007−97798)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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