説明

位置算出方法及び位置算出装置

【課題】位置算出の正確性を向上させること。
【解決手段】位置算出システム1において、携帯型電話機4は、GPS衛星SVから発信されている第1の有効期間(例えば4時間)を有するGPS衛星SVのエフェメリス、及び、サーバシステム3により生成される第1の有効期間よりも長い第2の有効期間(例えば1週間)を有し、GPS衛星SVの衛星軌道を予測した長期予測エフェメリスを保持しているか否かを判定する。そして、両方とも保持していると判定した場合に、エフェメリスを用いて携帯型電話機4の位置を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置算出方法及び位置算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した位置算出システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された位置算出装置に利用されている。GPSでは、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から自機までの擬似距離等の情報に基づいて自機の位置を示す3次元の座標値と時計誤差とを求める位置算出演算を行う。
【0003】
GPSによる位置算出では、先ず、GPS衛星から発信されるGPS衛星信号に重畳されているアルマナックやエフェメリスといった航法データに基づいて、GPS衛星の位置、速度、移動方向等の衛星情報を算出する。アルマナックは衛星を捕捉する際の有力な手掛かりとはなるが、衛星軌道の正確性が低いため位置算出に使用しないのが一般的である。一方、エフェメリスは、衛星軌道の正確性が高いため、衛星を捕捉する際の有力な手掛かりとなるだけでなく、位置算出にも使用することができる。従って、例えばエフェメリスを保持していない状態で位置算出を開始した場合には、エフェメリスをGPS衛星信号から取得しなければならず、初回位置算出時間(TTFF:Time To First Fix)が増大する。
【0004】
GPS衛星信号に重畳されているエフェメリスには、衛星軌道の信頼性を示す指標値としてURA Indexと呼ばれるパラメータの値が含まれている。URA Indexが小さいほどエフェメリスとしての衛星情報の信頼性が高く、位置算出に適している。例えば、特許文献1には、エフェメリスに含まれるURA Indexに基づいて位置算出に使用する衛星を決定する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−279637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、GPS衛星から送出されるエフェメリスを用いて位置算出を行うのではなく、サーバ等の情報提供装置が1週間といった長期間有効なエフェメリス(以下、「長期予測エフェメリス(長期予測軌道データ)」と称す。)を生成し、これを用いて位置算出を行う技術が考案されている。
【0006】
長期予測エフェメリスの定義方法の1つとしては、通常のエフェメリスと同様のデータフォーマットで定義する方法が考えられる。すなわち、衛星軌道の近似モデルの1つであるケプラーの楕円軌道モデルを用いて衛星軌道を近似し、その時のモデル式のパラメータ(以下、「衛星軌道パラメータ」と称す。)の値によって、長期予測エフェメリスを定義する方法である。測位用衛星の将来の位置を所定時間おきに時系列に予測した予測位置でなる衛星予測暦(予測位置データ)は、所定の商用システムから提供されている。ケプラーの楕円軌道モデルによる近似計算は、この衛星予測暦を用いて行うことが可能である。
【0007】
しかし、衛星予測暦に含まれる測位用衛星の予測位置は、将来になるほど、測位用衛星の実際位置からずれる傾向があることが分かった。そのため、ケプラーの楕円軌道モデルによる近似計算を行って長期予測エフェメリスを生成する場合に、近似計算により求めた衛星軌道は、生成日時から将来のものであるほど、実際の衛星軌道からずれたものとなる可能性がある。そのため、位置算出装置は、実際の衛星軌道からずれた信頼性の低い長期予測エフェメリスを用いて位置算出を行うことになる場合があり、位置算出の正確性が低下する要因となっていた。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、位置算出の正確性を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の発明は、第1の有効期間を有する測位用衛星の衛星軌道データ、及び、前記第1の有効期間よりも長い第2の有効期間を有し、前記測位用衛星の衛星軌道を予測した長期予測軌道データを保持しているか否かを判定することと、前記衛星軌道データ及び前記長期予測軌道データを保持していると判定された場合に、前記衛星軌道データを用いて位置を算出することと、を含む位置算出方法である。
【0010】
また、他の発明として、第1の有効期間を有する測位用衛星の衛星軌道データ、及び、前記第1の有効期間よりも長い第2の有効期間を有し、前記測位用衛星の衛星軌道を予測した長期予測軌道データを保持しているか否かを判定する判定部と、前記衛星軌道データ及び前記長期予測軌道データを保持していると判定された場合に、前記衛星軌道データを用いて位置を算出する位置算出部と、を備えた位置算出装置を構成してもよい。
【0011】
この第1の発明等によれば、第1の有効期間を有する測位用衛星の衛星軌道データ、及び、第1の有効期間よりも長い第2の有効期間を有する測位用衛星の長期予測軌道データを保持しているか否かを判定する。そして、両方とも保持していると判定した場合に、衛星軌道データを用いて位置を算出する。
【0012】
長期予測軌道データは、衛星軌道データよりも長い期間における測位用衛星の衛星軌道を予測したデータであり、予測された衛星軌道の信頼性は、衛星軌道データにおける衛星軌道よりも低い。そのため、衛星軌道データと長期予測軌道データの何れも保持している場合は、長期予測軌道データを用いずに、衛星軌道データを優先的に用いて位置算出を行う。これにより、位置算出の正確性を向上させることができる。
【0013】
また、第2の発明として、第1の発明の位置算出方法であって、時刻が前記第1の有効期間に含まれるか否かを判定することを更に含み、前記位置を算出することは、前記時刻が前記第1の有効期間に含まれると判定された場合は、前記衛星軌道データを用いて位置を算出し、前記時刻が前記第1の有効期間に含まれないと判定された場合は、前記長期予測軌道データを用いて位置を算出することを含む位置算出方法を構成してもよい。
【0014】
この第2の発明によれば、時刻が衛星軌道データの有効期間である第1の有効期間に含まれると判定された場合は、衛星軌道データを用いて位置を算出し、含まれないと判定された場合は、長期予測軌道データを用いて位置を算出する。時刻が第1の有効期間に含まれない場合は、衛星軌道データを用いて位置を算出することができないため、長期予測軌道データを用いて位置を算出することが好適である。
【0015】
また、第3の発明として、第1又は第2の発明の位置算出方法であって、前記測位用衛星は当該測位用衛星の衛星軌道データで測位用信号を変調して発信しており、前記測位用信号を受信することによって前記衛星軌道データを取得することを更に含み、前記位置を算出することは、前記衛星軌道データを保持していないと判定され、且つ、前記衛星軌道データの取得が完了していない場合に、前記長期予測軌道データを用いて位置を算出することを含む位置算出方法を構成してもよい。
【0016】
この第3の発明によれば、測位用信号を受信することによって衛星軌道データを取得する。そして、衛星軌道データを保持していないと判定され、且つ、衛星軌道データの取得が完了していない場合に、長期予測軌道データを用いて位置を算出する。通常、測位用信号から衛星軌道データを取得する場合は、数十秒程度の時間を要する。そのため、衛星軌道データの取得を完了していない場合は、長期予測軌道データを用いて位置を算出することが好適である。
【0017】
また、第4の発明として、第1〜第3の何れかの発明の位置算出方法であって、前記位置を算出することは、前記衛星軌道データを保持していないと判定され、且つ、前記長期予測軌道データを保持していると判定された場合に、前記長期予測軌道データを用いて位置を算出することを含む位置算出方法を構成してもよい。
【0018】
この第4の発明によれば、衛星軌道データを保持していないと判定され、且つ、長期予測軌道データを保持していると判定された場合に、長期予測軌道データを用いて位置を算出する。衛星軌道データを保持していない場合は、長期予測軌道データを用いて位置を算出することが好適である。
【0019】
また、第5の発明として、第1〜第4の何れかの発明の位置算出方法であって、前記衛星軌道データを保持していないと判定された場合に、情報提供装置から前記衛星軌道データを取得することを含む位置算出方法を構成してもよい。
【0020】
この第5の発明によれば、衛星軌道データを保持していないと判定された場合に、情報提供装置から衛星軌道データを取得する。情報提供装置は、例えば、衛星軌道データを生成又は取得して提供するサーバである。衛星軌道データを保持していない場合に、情報提供装置から衛星軌道データを取得して位置算出に利用することで、正確性の高い位置算出を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に好適な実施形態の一例を説明する。但し、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるわけではない。
【0022】
1.システム構成
図1は、本実施形態における位置算出システム1の概略構成を示す図である。位置算出システム1は、外部システム2と、情報提供装置の一種であるサーバシステム3と、位置算出装置を備えた電子機器の一種である携帯型電話機4と、測位用衛星である複数のGPS衛星SV(SV1,SV2,SV3,SV4,・・・)とを備えて構成される。尚、携帯型電話機4が必要なデータをサーバシステム3から取得した後は、携帯型電話機4とGPS衛星SVとで位置算出が可能であるため、携帯型電話機4とGPS衛星SVとで1つの位置算出システムが構成されるということもできる。また、地上側のシステムとして、サーバシステム3と携帯型電話機4とで位置算出システムと呼ぶこともできる。
【0023】
外部システム2は、GPS衛星SVから定期的に衛星信号を受信し、当該衛星信号に含まれる航法データ等に基づいて衛星予測暦を生成してサーバシステム3に提供する公知のシステムである。外部システム2が提供する衛星予測暦は、各GPS衛星SVそれぞれについて、将来の位置を予測した予測位置及びGPS衛星SVに搭載された原子時計の誤差を予測した時計予測誤差を所定時間おき(例えば15分おき)に時系列に並べた位置のデータである。
【0024】
また、外部システム2は、将来のデータとしての衛星予測暦を提供する他に、過去の事実のデータも提供する。すなわち、外部システム2は、GPS衛星SVの実際の位置である実績位置及びGPS衛星SVに搭載された原子時計の実際の誤差である時計実績誤差を含む衛星精密暦を過去の事実のデータとして生成して、サーバシステム3に提供する。実績位置及び時計実績誤差の算出方法については公知であるため、詳細な説明を省略する。外部システム2は、例えば衛星予測暦や衛星精密暦の提供を業務とする民間や公営の団体のコンピュータシステムに相当する。
【0025】
サーバシステム3は、衛星予測暦及び衛星精密暦を外部システム2から取得し、当該衛星予測暦及び衛星精密暦を用いて、全てのGPS衛星SVの予測されるエフェメリスであって、少なくとも1日以上の例えば1週間といった長期間有効なエフェメリス(以下、本実施形態において「長期予測エフェメリス」と称す。長期間有効な軌道でもあるため、長期予測軌道データとも言える。)を生成・提供するサーバを備えたシステムである。GPS衛星SVがGPS衛星信号に含めて発信しているエフェメリスは有効期間(第1の有効期間)が4時間であるため、長期予測エフェメリスの有効期間(第2の有効期間)はこれよりも長い。
【0026】
携帯型電話機4は、ユーザが通話やメールの送受信等を行うための電子機器であり、通話やメールの送受信といった携帯型電話機としての本来の機能の他、位置を算出する機能をなす位置算出装置を具備している。携帯型電話機4は、ユーザ操作に従って、サーバシステム3に対して長期予測エフェメリスの要求信号を送信し、サーバシステム3から長期予測エフェメリスを取得する。また、携帯型電話機4は、GPS衛星SVから発信されているGPS衛星信号を復調することで、エフェメリスを取得する。そして、エフェメリス又は長期予測エフェメリスを用いてGPS衛星SVを捕捉し、GPS衛星信号に基づく位置算出を実行する。
【0027】
2.原理
サーバシステム3は、外部システム2から取得した衛星予測暦を用いて、長期予測エフェメリスを生成する処理を行う。具体的には、長期予測エフェメリスの生成日時を基準として1週間後までの期間を生成対象期間とし、当該生成対象期間を衛星軌道の近似・モデル化を行う複数の期間(以下、「予測対象期間」と称す。)に区切る。本実施形態では、予測対象期間の長さを一律に6時間とする。すなわち、1週間の生成対象期間を6時間毎に28個の予測対象期間(第1予測対象期間〜第28予測対象期間)に区切る。
【0028】
そして、サーバシステム3は、外部システム2から取得した衛星予測暦に含まれる予測位置のうち、各予測対象期間内の予測位置を抽出する。そして、抽出した全ての予測位置からの距離の二乗和が最小となるようなケプラーの衛星軌道モデル式(以下、「近似モデル」ともいう。)を、各予測対象期間それぞれについて求める。このとき求めた衛星軌道の近似モデル式のパラメータを「衛星軌道パラメータ」と称し、近似モデルを算出する計算を「近似計算」ともいう。また、近似計算により求めた予測された衛星軌道のことを「予測軌道」と称する。長期予測エフェメリスは、全てのGPS衛星の全ての予測対象期間の衛星軌道パラメータの値が格納されたデータである(図9及び図10参照)。
【0029】
衛星予測暦に含まれるGPS衛星SVの予測位置は、将来になるほど、GPS衛星SVの実際の位置からずれる傾向がある。そのため、近似計算を行って長期予測エフェメリスを生成した場合に、近似計算により求めた予測軌道は、生成日時から将来のものであるほど、実際の衛星軌道からずれたものとなる可能性がある。
【0030】
本実施形態では、サーバシステム3は、各GPS衛星の各予測対象期間について、当該予測対象期間における予測軌道の信頼性を示す指標値である「予測軌道信頼度」を決定し、決定した予測軌道信頼度を信頼性パラメータとして長期予測エフェメリスに含めて携帯型電話機4に提供する。本実施形態では、予測軌道信頼度は「0」〜「12」の13段階で表され、「0」が予測軌道の信頼性が最も高く、「12」が予測軌道の信頼性が最も低いことを示している。尚、予測軌道信頼度の数値範囲は適宜設定変更可能であり、例えば「0」〜「15」の16段階で表すこととしてもよい。予測軌道信頼度は、エフェメリスに含まれている「URA index」に相当する値である。
【0031】
具体的に説明する。サーバシステム3は、予測誤差を分析する機能部である予測誤差分析部31と、長期予測エフェメリスを生成する機能部である長期予測エフェメリス生成部33とを備えて構成されている。予測誤差分析部31は、外部システム2から受信した衛星予測暦に含まれるデータに対応付けられた各日時(例えば15分おき)について、GPS衛星SV毎に、衛星予測暦に含まれる予測位置と、衛星精密暦に含まれる実績位置との間の距離を予測誤差として算出・分析する。
【0032】
図2は、予測誤差をプロットしたグラフの一例であり、代表衛星として4つのGPS衛星SV1〜SV4の1週間分の予測誤差を時系列にプロットしたグラフを示している。図2において、横軸は日数、縦軸は予測誤差をそれぞれ示している。この図を見ると、全てのGPS衛星SVについて、時間経過に伴って、予測誤差が振動しながらも漸増していることがわかる。特に、GPS衛星SV1では、予測誤差が大きく振動しながらも急増している。従って、長期予測エフェメリスの生成日時から将来の予測対象期間ほど予測軌道の信頼性が低くなるように予測軌道信頼度を設定する。
【0033】
長期予測エフェメリス生成部33は、予測誤差分析部31により算出された予測誤差に基づいて予測軌道信頼度を設定する。具体的には、長期予測エフェメリス生成部33は、図3に示すような予測軌道信頼度設定テーブルに基づいて予測誤差を設定する。予測軌道信頼度設定テーブルには、予測誤差が含まれる範囲である予測誤差範囲と、予測誤差が当該予測誤差範囲に含まれる場合に設定する予測軌道信頼度とが対応付けて記憶されている。予測誤差が大きいほど予測軌道信頼度として大きな値が設定されるように、予測誤差範囲と予測軌道信頼度とが定められている。
【0034】
長期予測エフェメリス生成部33は、各予測対象期間について、当該予測対象期間における予測誤差が何れの予測誤差範囲に含まれるかを判定する。そして、判定した予測誤差範囲に対応する予測軌道信頼度を読み出して、当該予測対象期間における予測軌道信頼度として設定する。尚、予測誤差は、衛星予測暦に含まれる各日時について算出することが可能であるが、各予測対象期間における予測誤差は、例えば当該予測対象期間の全ての日時における予測誤差の平均値(平均予測誤差)とすることができる。
【0035】
携帯型電話機4は、サーバシステム3から、全てのGPS衛星(SV1〜SV32)について、全ての予測対象期間(第1予測対象期間〜第28予測対象期間)の衛星軌道パラメータの値と、クロック補正パラメータの値と、信頼性パラメータの値である予測軌道信頼度とが記憶された長期予測エフェメリスを受信して記憶する。上述したように、長期予測エフェメリスに記憶されている予測軌道信頼度は、将来の予測対象期間であるほど、値が大きくなる(予測軌道の信頼性が低くなる)傾向がある。
【0036】
その一方、各GPS衛星SVは、自身の衛星軌道データであるエフェメリスでGPS衛星信号を変調して発信している。携帯型電話機4は、各GPS衛星SVから発信されているGPS衛星信号を捕捉し、捕捉したGPS衛星信号を復調することでエフェメリスを取得する。エフェメリスは有効期間が4時間であり、長期予測エフェメリスの各予測対象期間の長さである6時間よりも短い。また、エフェメリスには、当該有効期間における当該GPS衛星の衛星軌道パラメータの値と、クロック補正パラメータの値と、信頼性パラメータの値である予測軌道信頼度とが記憶されている。すなわち、長期予測エフェメリスの各予測対象期間のデータ構成と、エフェメリスのデータ構成とは同一である。
【0037】
GPS衛星SVから取得されるエフェメリスに含まれる予測軌道信頼度は、ほとんどの場合「0」や「1」といった値であり、予測軌道の信頼性は極めて高い。一方、長期予測エフェメリスに含まれる予測軌道信頼度は、最も古い予測対象期間でも「2」や「3」といった値であることがあり、更には将来の予測対象期間ほど値が大きくなる。
【0038】
そこで、本実施形態では、携帯型電話機4は、エフェメリス及び長期予測エフェメリスを保持しているか否かを判定する。そして、両方とも保持していると判定した場合は、長期予測エフェメリスを用いるのではなく、エフェメリスを優先的に用いて衛星捕捉及び位置算出を行うことで、より正確な位置算出を実現する。
【0039】
但し、GPS衛星信号からエフェメリスを取得するためには、通常、20秒〜30秒の時間を要する。GPS衛星信号がエフェメリスのデータによって位相変調されているためである。GPS衛星信号の受信を開始してからエフェメリスを取得するまでの間は、エフェメリスを用いて衛星捕捉及び位置算出を行うことができない。そのため、エフェメリスを保持しておらず、且つ、エフェメリスの取得も完了していない場合は、携帯型電話機4は、長期予測エフェメリスを用いて衛星捕捉及び位置算出を行う。そして、エフェメリスの取得完了後は、当該エフェメリスを用いて衛星捕捉及び位置算出を行う。
【0040】
また、エフェメリスも長期予測エフェメリスも保持していないと判定した場合は、携帯型電話機4は、サーバシステム3から長期予測エフェメリスを取得する処理を行う。そして、取得した長期予測エフェメリスを用いて衛星捕捉及び位置算出を行う。
【0041】
3.機能構成
図4は、携帯型電話機4の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機4は、GPSアンテナ405と、GPS受信部410と、ホストCPU420と、操作部430と、表示部440と、携帯電話用アンテナ450と、携帯電話用無線通信回路部460と、ROM470と、フラッシュROM480と、RAM490とを備えて構成される。
【0042】
GPSアンテナ405は、GPS衛星SVから発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信した信号をGPS受信部410に出力する。尚、GPS衛星信号は、衛星毎に異なる拡散符号の一種であるPRN(Pseudo Random Noise)コードで直接スペクトラム拡散方式により変調された1.57542[GHz]の通信信号である。PRNコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号である。
【0043】
GPS受信部410は、GPSアンテナ405から出力された信号に基づいて位置算出を行う位置算出回路であり、いわゆるGPS受信機に相当する機能ブロックである。GPS受信部410は、RF(Radio Frequency)受信回路部411と、ベースバンド処理回路部413とを備えて構成される。尚、RF受信回路部411と、ベースバンド処理回路部413とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0044】
RF受信回路部411は、RF信号の処理回路ブロックであり、所定の局部発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ405から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートする。そして、IF信号を増幅等した後、A/D(Analog Digital)変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部413に出力する。
【0045】
ベースバンド処理回路部413は、RF受信回路部411から出力されたIF信号に対して相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出する回路部である。ベースバンド処理回路部413は、プロセッサとしてのCPU415と、メモリとしてのROM417及びRAM419とを備えて構成される。
【0046】
CPU415は、GPS衛星信号を復調(デコード)することで衛星別エフェメリスデータ483を取得する。また、CPU415は、ホストCPU420の制御に従って、GPS衛星SVから取得した衛星別エフェメリスデータ483又はサーバシステム3から取得した長期予測エフェメリスデータ485を用いて、GPS衛星信号を捕捉・抽出する。
【0047】
ホストCPU420は、ROM470に記憶されている位置算出プログラムやシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機4の各部を統括的に制御するプロセッサである。ホストCPU420は、ベースバンド処理回路部413により取得された衛星別エフェメリスデータ483又はサーバシステム3から取得した長期予測エフェメリスデータ485を用いて位置算出を行う。そして、求めた算出位置をプロットしたナビゲーション画面を、表示部440に表示させる。
【0048】
操作部430は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたアイコンやボタンの信号をホストCPU420に出力する。この操作部430の操作により、通話要求やメールの送受信要求、GPSの起動要求等の各種指示入力がなされる。
【0049】
表示部440は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU420から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部440には、ナビゲーション画面や時刻情報等が表示される。
【0050】
携帯電話用アンテナ450は、携帯型電話機4の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0051】
携帯電話用無線通信回路部460は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0052】
ROM470は、読み取り専用の不揮発性の記憶装置であり、ホストCPU420が携帯型電話機4を制御するためのシステムプログラムや、位置算出を実現するための位置算出プログラム、ナビゲーション機能を実現するためのナビゲーションプログラム等の各種プログラムやデータ等を記憶している。
【0053】
フラッシュROM480は、読み書き可能な不揮発性の記憶装置であり、ROM470と同様に、ホストCPU420が携帯型電話機4を制御するための各種プログラムやデータ等を記憶している。フラッシュROM480に記憶されているデータは、携帯型電話機4の電源を切断しても失われない。
【0054】
RAM490は、読み書き可能な揮発性の記憶装置であり、ホストCPU420により実行されるシステムプログラム、位置算出プログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0055】
4.データ構成
図5は、ROM470に格納されたデータの一例を示す図である。ROM470には、ホストCPU420により読み出され、メイン処理(図11参照)として実行されるメインプログラム471が記憶されている。また、メインプログラム471には、位置算出処理(図12及び図13参照)として実行される位置算出プログラム4711がサブルーチンとして含まれている。
【0056】
メイン処理とは、ホストCPU420が、携帯型電話機4の本来の機能である通話やメールの送受信のための処理を行う他、長期予測エフェメリスデータ485をサーバシステム3から取得する処理、携帯型電話機4の位置を算出する処理等を行う処理である。メイン処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0057】
位置算出処理とは、ホストCPU420が、GPS衛星SVから取得した衛星別エフェメリスデータ483又はサーバシステム3から取得した長期予測エフェメリスデータ485を用いて、ベースバンド処理回路部413にGPS衛星信号を捕捉させる処理を行うとともに、捕捉されたGPS衛星信号に基づいて、携帯型電話機4の位置を算出して出力する処理である。位置算出処理についても、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0058】
図6は、フラッシュROM480に格納されたデータの一例を示す図である。フラッシュROM480には、アルマナックデータ481と、衛星別エフェメリスデータ483と、長期予測エフェメリスデータ485と、最新の位置算出により得られた位置である最新算出位置487とが記憶される。
【0059】
アルマナックデータ481は、全てのGPS衛星SVの所定期間(例えば1週間)の衛星軌道を示すパラメータ値が記憶されたデータである。アルマナックデータ481における衛星軌道の正確性は、衛星別エフェメリスデータ483における衛星軌道の正確性や長期予測エフェメリスデータ485における予測軌道の正確性よりも低い。そのため、アルマナックデータ481は、捕捉対象衛星の判定に使用することはできるが、位置算出に使用することはできない。
【0060】
図8は、衛星別エフェメリスデータ483のデータ構成の一例を示す図である。衛星別エフェメリスデータ483(483−1,483−2,483−3,・・・)は、エフェメリスが衛星別に記憶されたデータであり、衛星の番号4831と、エフェメリスの有効期間4833と、エフェメリス4835とが対応付けて記憶されている。
【0061】
また、エフェメリス4835には、当該有効期間4833における軌道長半径や離心率、軌道傾斜角といったケプラーの衛星軌道パラメータの値と、衛星時計の基準時刻、衛星時計のオフセット、衛星時計のドリフト及び衛星時計周波数のドリフトでなるクロック補正パラメータの値と、信頼性パラメータである予測軌道信頼度とが記憶されている。
【0062】
例えば、衛星別エフェメリスデータ483−1は、衛星「SV1」についてのデータであり、エフェメリスの有効期間は「2008年8月8日0時00分〜2008年8月8日4時00分」である。また、エフェメリスに含まれる衛星軌道パラメータのうちの離心率は「e」であり、クロック補正パラメータのうちの衛星時計のオフセットは「a0」である。また、信頼性パラメータである予測軌道信頼度は「0」である。
【0063】
メイン処理において、ホストCPU420は、衛星捕捉処理を行い、ベースバンド処理回路部413のCPU415に捕捉対象衛星のGPS衛星信号を捕捉させ、GPS衛星信号を復調させることで、エフェメリスデータを取得する。そして、取得したエフェメリスデータを衛星別エフェメリスデータ483として、フラッシュROM480に記憶させる。
【0064】
図9は、長期予測エフェメリスデータ485のデータ構成の一例を示す図である。長期予測エフェメリスデータ485には、長期予測エフェメリスデータの生成日時4851と、GPS衛星SV1〜SV32の予測エフェメリス4853(4853−1〜4853−32)とが対応付けて記憶されている。
【0065】
図10は、予測エフェメリス4853のデータ構成の一例を示す図である。予測エフェメリス4853(4853−1,4853−2,・・・,4853−32)には、各予測対象期間それぞれについて、軌道長半径や離心率、軌道傾斜角といったケプラーの衛星軌道パラメータの値と、衛星時計の基準時刻、衛星時計のオフセット、衛星時計のドリフト及び衛星時計周波数のドリフトでなるクロック補正パラメータの値と、信頼性パラメータである予測軌道信頼度とが記憶されている。
【0066】
例えば、予測エフェメリス4853−1は、GPS衛星「SV1」についての予測エフェメリスであり、その生成対象期間は「2008年8月8日0時00分〜2008年8月14日24時00分」の1週間である。そして、第1予測対象期間である「2008年8月8日0時00分〜2008年8月8日6時00分」における衛星軌道パラメータのうちの離心率は「e1」であり、クロック補正パラメータのうちの衛星時計のオフセットは「a01」である。また、信頼性パラメータである予測軌道信頼度は「2」である。
【0067】
サーバシステム3の長期予測エフェメリス生成部33は、各GPS衛星SVについて、予測対象期間毎に衛星軌道パラメータ、クロック補正パラメータ及び信頼性パラメータの値を算出して予測エフェメリス4853を生成する。そして、全てのGPS衛星SVについて生成した予測エフェメリス4853を纏めて生成日時4851と対応付けて長期予測エフェメリスデータ485を生成し、携帯型電話機4からの要求を受けて、携帯型電話機4に長期予測エフェメリス485を送信・提供する。
【0068】
携帯型電話機4のホストCPU420は、メイン処理において、長期予測エフェメリス取得処理を行い、長期予測エフェメリスデータ485の要求信号をサーバシステム3に送信する。そして、サーバシステム3から長期予測エフェメリスデータ485を受信して、フラッシュROM480に記憶させる。
【0069】
図7は、RAM490に格納されるデータの一例を示す図である。RAM490には、捕捉されたGPS衛星の識別情報である捕捉衛星491と、位置算出を行って算出した位置の位置座標である算出位置493とが記憶される。これらのデータは、位置算出処理においてホストCPU420により更新される。
【0070】
5.処理の流れ
図11は、ROM470に記憶されているメインプログラム471がホストCPU420により読み出されて実行されることで、携帯型電話機4において実行されるメイン処理の流れを示すフローチャートである。
【0071】
メイン処理は、ホストCPU420が、操作部430を介してユーザにより電源投入操作がなされたことを検出した場合に実行を開始する処理である。また、特に説明しないが、以下のメイン処理の実行中は、GPSアンテナ405によるRF信号の受信や、RF受信回路部411によるRF信号のIF信号へのダウンコンバージョンが行われ、IF信号がベースバンド処理回路部413に随時出力される状態にあるものとする。
【0072】
先ず、ホストCPU420は、操作部430を介してなされた指示操作を判定し(ステップA1)、指示操作が通話指示操作であると判定した場合は(ステップA1;通話指示操作)、通話処理を行う(ステップA3)。具体的には、携帯電話用無線通信回路部460に無線基地局との間の基地局通信を行わせ、携帯型電話機4と他機との間の通話を実現する。
【0073】
また、ステップA1において指示操作がメール送受信指示操作であると判定した場合は(ステップA1;メール送受信指示操作)、ホストCPU420は、メール送受信処理を行う(ステップA5)。具体的には、携帯電話用無線通信回路部460に基地局通信を行わせ、携帯型電話機4と他機との間のメールの送受信を実現する。
【0074】
また、ステップA1において指示操作が長期予測エフェメリス取得指示操作であると判定した場合は(ステップA1;長期予測エフェメリス取得指示操作)、ホストCPU420は、長期予測エフェメリス取得処理を行う(ステップA7)。具体的には、サーバシステム3に対して長期予測エフェメリスデータ485の要求信号を送信する。そして、サーバシステム3から長期予測エフェメリスデータ485を受信して、フラッシュROM480に記憶させる。
【0075】
また、ステップA1において指示操作が位置算出指示操作であると判定した場合は(ステップA1;位置算出指示操作)、ホストCPU420は、ROM470に記憶されている位置算出プログラム4711を読み出して実行することで、位置算出処理を行う(ステップA9)。
【0076】
図12及び図13は、位置算出処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、ホストCPU420は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップB1)。具体的には、現在日時において、フラッシュROM480に記憶されている最新算出位置487の天空に位置するGPS衛星SVを、アルマナックデータ481を用いて判定して、捕捉対象衛星とする。尚、アルマナックデータ481の代わりに、衛星別エフェメリスデータ483や長期予測エフェメリスデータ485を用いて捕捉対象衛星を判定してもよい。
【0077】
次いで、ホストCPU420は、ステップB1で判定した各捕捉対象衛星について、ループAの処理を行う(ステップB3〜B35)。ループAの処理では、ホストCPU420は、当該捕捉対象衛星のエフェメリスデータ(衛星別エフェメリスデータ483)がフラッシュROM480に記憶されているか否かを判定する(ステップB5)。
【0078】
そして、記憶されていると判定した場合は(ステップB5;Yes)、ホストCPU420は、当該捕捉対象衛星の衛星別エフェメリスデータ483に記憶されている有効期間4833に現在日時が含まれるか否かを判定する(ステップB7)。そして、含まれると判定した場合は(ステップB7;Yes)、当該捕捉対象衛星の衛星別エフェメリスデータ483に記憶されている衛星軌道パラメータの値を用いて、当該捕捉対象衛星の衛星位置及び衛星速度を算出する(ステップB9)。
【0079】
また、ホストCPU420は、当該捕捉対象衛星の衛星別エフェメリスデータ483に記憶されているクロック補正パラメータの値を用いて、現在日時における衛星クロック補正量を算出する(ステップB11)。
【0080】
時刻「t」における衛星クロック補正量「Δt」は、クロック補正パラメータである衛星時計の基準時刻「tc」、衛星時計のオフセット「a0」、衛星時計のドリフト「a1」及び衛星時計周波数のドリフト「a2」を用いて、次式(1)によって近似することができる。
Δt=a0+a1(t−tc)+a2(t−tc2 ・・・(1)
【0081】
その後、ホストCPU420は、衛星捕捉処理を行う(ステップB13)。具体的には、ステップB9で算出した当該捕捉対象衛星の衛星位置及び衛星速度を用いて、最新算出位置487で当該捕捉対象衛星のGPS衛星信号を受信した場合のドップラー周波数を算出する。そして、算出したドップラー周波数を用いて、当該捕捉対象衛星からGPS衛星信号を受信する場合のサーチ周波数及びサーチ範囲を設定し、設定したサーチ周波数及びサーチ範囲で、ベースバンド処理回路部413のCPU415にGPS衛星信号を捕捉させる。
【0082】
その後、ホストCPU420は、当該捕捉対象衛星からGPS衛星信号を継続して受信中であるか否かを判定し(ステップB15)、受信中であると判定した場合は(ステップB15;Yes)、当該捕捉対象衛星のエフェメリスデータの取得が完了したか否かを判定する(ステップB17)。通常、エフェメリスデータの取得を完了するまでには、GPS衛星信号の受信開始から20秒〜30秒程度の時間を要する。
【0083】
そして、エフェメリスデータの取得が完了したと判定した場合は(ステップB17;Yes)、ホストCPU420は、取得したエフェメリスデータでフラッシュROM480に記憶されている衛星別エフェメリスデータ483を更新する(ステップB19)。
【0084】
その後、ホストCPU420は、捕捉された当該捕捉対象衛星のGPS衛星信号のコード位相(コードフェーズ)を用いて、携帯型電話機4と当該捕捉対象衛星間の擬似距離を算出する(ステップB21)。そして、ホストCPU420は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
【0085】
また、ステップB15において当該捕捉対象衛星からGPS衛星信号を継続して受信中ではないと判定した場合(ステップB15;No)、又は、ステップB17においてエフェメリスデータの取得が完了していないと判定した場合は(ステップB17;No)、ホストCPU420は、ステップB21へと処理を移行する。
【0086】
一方、ステップB5において当該捕捉対象衛星の衛星別エフェメリスデータ483が記憶されていないと判定した場合(ステップB5;No)、又は、ステップB7において当該捕捉対象衛星の衛星別エフェメリスデータ483に記憶されている有効期間4833に現在日時が含まれないと判定した場合は(ステップB7;No)、ホストCPU420は、フラッシュROM480に長期予測エフェメリスデータ485が記憶されているか否かを判定する(ステップB23)。
【0087】
そして、長期予測エフェメリスデータ485が記憶されていると判定した場合は(ステップB23;Yes)、長期予測エフェメリスデータ485の予測対象期間の何れかに現在日時が含まれるか否かを判定する(ステップB25)。そして、含まれると判定した場合は(ステップB25;Yes)、現在日時が含まれる予測対象期間(以下、「現在予測対象期間」と称す。)を判定する(ステップB27)。
【0088】
その後、ホストCPU420は、長期予測エフェメリスデータ485に記憶されている現在予測対象期間の衛星軌道パラメータの値を用いて、当該捕捉対象衛星の衛星位置及び衛星速度を算出する(ステップB29)。また、ホストCPU420は、長期予測エフェメリスデータ485に記憶されている現在予測対象期間のクロック補正パラメータの値を用いて、式(1)に従って当該捕捉対象衛星の衛星クロック補正量を算出する(ステップB31)。そして、ホストCPU420は、ステップB13へと処理を移行する。
【0089】
また、ステップB23において長期予測エフェメリスデータ485が記憶されていないと判定した場合(ステップB23;No)、又は、ステップB25において長期予測エフェメリスデータ485の予測対象期間の何れにも現在日時が含まれないと判定した場合は(ステップB25;No)、ホストCPU420は、長期予測エフェメリス取得処理を行って、サーバシステム3から長期予測エフェメリスデータ485を取得・記憶する(ステップB26)。そして、ホストCPU420は、ステップB27へと処理を移行する。
【0090】
全ての捕捉対象衛星についてループA(ステップB3〜B35)の処理を行った後、ホストCPU420は、ループAの処理を終了する。その後、ホストCPU420は、全ての捕捉対象衛星についてステップB9又はB29で算出した衛星位置と、ステップB11又はB31で算出した衛星クロック補正量と、ステップB21で算出した擬似距離とを用いて、例えば最小二乗法を利用した位置収束演算を実行する(ステップB37)。そして、ホストCPU420は、求めた算出位置493をRAM490に記憶させるとともに、フラッシュROM480の最新算出位置487を更新する。
【0091】
次いで、ホストCPU420は、RAM490に記憶されている算出位置493を表示部440に出力して、ナビゲーション画面を表示部440に表示させる(ステップB39)。そして、ホストCPU420は、操作部430を介してユーザにより位置算出終了指示操作がなされたか否かを判定し(ステップB41)、なされなかったと判定した場合は(ステップB41;No)、ステップB1に戻る。また、位置算出終了指示がなされたと判定した場合は(ステップB41;Yes)、位置算出処理を終了する。
【0092】
図11のメイン処理に戻って、ステップA3〜A9の何れかの処理を行った後、ホストCPU420は、操作部430を介してユーザにより電源切断指示操作がなされたか否かを判定し(ステップA11)、なされなかったと判定した場合は(ステップA11;No)、ステップA1に戻る。また、電源切断指示操作がなされたと判定した場合は(ステップA11;Yes)、メイン処理を終了する。
【0093】
6.作用効果
位置算出システム1において、携帯型電話機4は、GPS衛星SVから発信されている第1の有効期間(例えば4時間)を有するGPS衛星SVのエフェメリス、及び、サーバシステム3により生成される第1の有効期間よりも長い第2の有効期間(例えば1週間)を有し、GPS衛星SVの衛星軌道を予測した長期予測エフェメリスを保持しているか否かを判定する。そして、両方とも保持していると判定した場合に、エフェメリスを用いて携帯型電話機4の位置を算出する。
【0094】
長期予測エフェメリスは、エフェメリスよりも長い期間におけるGPS衛星SVの衛星軌道を予測したデータであり、予測された衛星軌道の信頼性は、エフェメリスにおける衛星軌道の信頼性よりも低い。そのため、エフェメリスと長期予測エフェメリスの何れも保持している場合は、長期予測エフェメリスを用いずに、エフェメリスを優先的に用いて位置算出を行う。これにより、位置算出の正確性を向上させることができる。
【0095】
また、携帯型電話機4は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を受信することによってエフェメリスを取得する。そして、エフェメリスを保持していないと判定し、且つ、エフェメリスの取得が完了していない場合に、長期予測エフェメリスを用いて位置を算出する。通常、GPS衛星信号の受信を開始してからエフェメリスの取得を完了するまでには、20秒〜30秒の時間を要する。そのため、エフェメリスの取得を完了するまでの間は、長期予測エフェメリスを用いて位置算出を行うことが好適である。
【0096】
7.変形例
7−1.位置算出システム
上述した実施形態では、サーバシステム3と携帯型電話機4を備えた位置算出システム1を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な位置算出システムはこれに限られるわけではない。例えば、携帯型電話機4の代わりに、位置算出装置を備えたノート型パソコンやPDA(Personal Digital Assistant)、カーナビゲーション装置等の電子機器に適用することも可能である。
【0097】
7−2.衛星位置算出システム
また、上述した実施形態では、衛星位置算出システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星位置算出システムであってもよい。
【0098】
7−3.基地局からエフェメリスを取得
GPS衛星信号を復調することでエフェメリスを取得する他に、携帯型電話機4が基地局と通信を行い、基地局からエフェメリスを取得する構成としてもよい。基地局のサーバは、基地局から観測可能なGPS衛星SVからエフェメリスを定期的に取得・記憶している。そして、携帯型電話機4からエフェメリスの要求信号を受信した場合に、記憶しているエフェメリスを携帯型電話機4に送信する。すなわち、基地局のサーバは、エフェメリスの取得・提供を行う情報提供装置として機能する。
【0099】
この場合は、携帯型電話機4のROM470に第2のメインプログラムを格納しておき、そのサブルーチンとして第2の位置算出プログラムを格納しておく。そして、ホストCPU420は、これらのプログラムを読み出して実行することで、第2のメイン処理及び第2の位置算出処理を行う。
【0100】
図14は、第2のメイン処理の流れを示すフローチャートである。尚、図11のメイン処理と同一のステップについては同一の符号を付して説明を省略し、メイン処理とは異なる部分について説明する。
【0101】
ホストCPU420は、ステップA1において指示操作がエフェメリス取得指示操作であると判定した場合は(ステップA1;エフェメリス取得指示操作)、エフェメリス取得処理を行う(ステップC6)。具体的には、ホストCPU420は、現在通信可能な基地局に対してエフェメリスの要求信号を送信する。そして、通信基地局からエフェメリスを受信し、衛星別エフェメリスデータ483としてフラッシュROM480に記憶させる。
【0102】
また、ステップA1において指示操作が位置算出指示操作であると判定した場合は(ステップA1;位置算出位置操作)、ホストCPU420は、ROM470に記憶されている第2の位置算出プログラムを読み出して実行することで、第2の位置算出処理を行う(ステップC9)。
【0103】
図15は、第2の位置算出処理のうち、図12の位置算出処理に対応する部分を示すフローチャートである。尚、位置算出処理と同一のステップについては同一の符号を付して説明を省略し、位置算出処理とは異なる部分について説明する。
【0104】
ホストCPU420は、ステップB23において長期予測エフェメリスデータ485が記憶されていないと判定した場合(ステップB23;No)、又は、ステップB25において長期予測エフェメリスデータ485の予測対象期間の何れにも現在日時が含まれないと判定した場合は(ステップB25;No)、エフェメリス取得処理を行って、通信基地局から衛星別エフェメリスデータ483を取得・記憶する(ステップD26)。
【0105】
そして、ホストCPU420は、ステップB9へと処理を移行し、通信基地局から取得した衛星別エフェメリスデータ483を用いて、衛星位置及び衛星速度の算出や衛星クロック補正量の算出を行う(ステップB9、B11)。
【0106】
このように、エフェメリスも長期予測エフェメリスも保持していない場合に、基地局からエフェメリスを取得して位置算出に利用することで、正確性の高い位置算出を実現することが可能となる。
【0107】
7−4.生成対象期間
上述した実施形態では、長期予測エフェメリスの生成日時を基準として1週間後までの期間を生成対象期間として長期予測エフェメリスを生成するものとして説明したが、生成対象期間は1週間よりも長い期間(例えば2週間)としてもよいし、1週間よりも短い期間(例えば3日)としてもよい。GPS衛星SVから送信されるエフェメリスは有効期間が一般に4時間程度であるが、長期予測エフェメリスは少なくともエフェメリスよりも有効期間が長ければよい。1日以上であれば好適である。
【0108】
7−5.予測対象期間
また、上述した実施形態では、予測対象期間の長さを6時間とするものとして説明したが、これに限定されるわけではなく、4時間や8時間等としてもよく、適宜設定可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】位置算出システムの概略構成を示す図。
【図2】予測誤差の時間変化の一例を示すグラフ。
【図3】予測軌道信頼度決定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【図4】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図5】携帯型電話機のROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図6】携帯型電話機のフラッシュROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図7】携帯型電話機のRAMに格納されるデータの一例を示す図。
【図8】衛星別エフェメリスデータのデータ構成の一例を示す図。
【図9】長期予測エフェメリスデータのデータ構成の一例を示す図。
【図10】予測エフェメリスのデータ構成の一例を示す図。
【図11】メイン処理の流れを示すフローチャート。
【図12】位置算出処理の流れを示すフローチャート。
【図13】位置算出処理の流れを示すフローチャート。
【図14】第2のメイン処理の流れを示すフローチャート。
【図15】第2の位置算出処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0110】
1 位置算出システム 、 2 外部システム、 3 サーバシステム、
4 携帯型電話機、 405 GPSアンテナ、 410 GPS受信部、
411 RF受信回路部、 413 ベースバンド処理回路部、 415 CPU、
417 ROM、 419 RAM、 420 ホストCPU、 430 操作部、
440 表示部、 450 携帯電話用アンテナ、
460 携帯電話用無線通信回路部、 470 ROM、 480 フラッシュROM、
490 RAM、 SV GPS衛星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の有効期間を有する測位用衛星の衛星軌道データ、及び、前記第1の有効期間よりも長い第2の有効期間を有し、前記測位用衛星の衛星軌道を予測した長期予測軌道データを保持しているか否かを判定することと、
前記衛星軌道データ及び前記長期予測軌道データを保持していると判定された場合に、前記衛星軌道データを用いて位置を算出することと、
を含む位置算出方法。
【請求項2】
時刻が前記第1の有効期間に含まれるか否かを判定することを更に含み、
前記位置を算出することは、前記時刻が前記第1の有効期間に含まれると判定された場合は、前記衛星軌道データを用いて位置を算出し、前記時刻が前記第1の有効期間に含まれないと判定された場合は、前記長期予測軌道データを用いて位置を算出することを含む、
請求項1に記載の位置算出方法。
【請求項3】
前記測位用衛星は当該測位用衛星の衛星軌道データで測位用信号を変調して発信しており、
前記測位用信号を受信することによって前記衛星軌道データを取得することを更に含み、
前記位置を算出することは、前記衛星軌道データを保持していないと判定され、且つ、前記衛星軌道データの取得が完了していない場合に、前記長期予測軌道データを用いて位置を算出することを含む、
請求項1又は2に記載の位置算出方法。
【請求項4】
前記位置を算出することは、前記衛星軌道データを保持していないと判定され、且つ、前記長期予測軌道データを保持していると判定された場合に、前記長期予測軌道データを用いて位置を算出することを含む、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項5】
前記衛星軌道データを保持していないと判定された場合に、情報提供装置から前記衛星軌道データを取得することを含む、
請求項1〜4の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項6】
第1の有効期間を有する測位用衛星の衛星軌道データ、及び、前記第1の有効期間よりも長い第2の有効期間を有し、前記測位用衛星の衛星軌道を予測した長期予測軌道データを保持しているか否かを判定する判定部と、
前記衛星軌道データ及び前記長期予測軌道データを保持していると判定された場合に、前記衛星軌道データを用いて位置を算出する位置算出部と、
を備えた位置算出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2010−127672(P2010−127672A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300536(P2008−300536)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】